
2024年 日本
監督: 安田淳一
出演:
山口馬木也:高坂新左衛門
冨家ノリマサ:風見恭一郎
沙倉ゆうの:山本優子
峰蘭太郎:殺陣師・関本
庄野ア謙:山形彦九郎
紅萬子:住職の妻・節子
福田善晴:西経寺住職
井上肇:撮影所所長・井上
安藤彰則:斬られ役俳優・安藤
田村ツトム:錦京太郎
<映画.com>
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現代の時代劇撮影所にタイムスリップした幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた時代劇コメディ。
幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は家老から長州藩士を討つよう密命を受けるが、標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していく。やがて彼は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意する。
テレビドラマ「剣客商売」シリーズなど数々の時代劇に出演してきた山口馬木也が主演を務め、冨家ノリマサ、沙倉ゆうのが共演。「ごはん」「拳銃と目玉焼」の安田淳一が監督・脚本を手がけ、自主制作作品でありながら東映京都撮影所の特別協力によって完成させた。
2024年8月17日に池袋シネマ・ロサの一館のみで封切られ(8月30日からは川崎チネチッタでシーンを追加した「デラックス版」が上映スタート)、口コミで話題が広まったことから同年9月13日からはギャガが共同配給につき、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷ほか全国100館以上で順次拡大公開。インディペンデント映画として異例の大ヒットを記録したうえ、第48回日本アカデミー賞では最優秀作品賞を受賞する快挙となった。
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口コミで話題が広まり、インディペンデント映画として異例の大ヒットを記録したうえ、第48回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞したこともあって興味をもっていた作品。『カメラを止めるな!』(My Cinema File 2022)と同じようなパターンかと個人的にも期待していたところもある。
物語のはじまりは幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門は村田左之助とともに長州藩士・山形彦九郎を暗殺すべくこれを待ち受ける。そしてとある寺の門を出てきた山形を待ち伏せし、いざ勝負と対峙する。暗殺と言っても奇襲ではなく、正々堂々とした果たし合いの感がある。しかし、そこでにわかに天候が崩れ、落雷が二人を直撃する。衝撃で気を失った高坂が目覚めると、あたりの様子が一変している。どこかの町の様であるが、行き交う人の様子が異なる。じつはそこは現代の京都にある時代劇撮影所。そして撮影の真っ最中であった。
不良浪人に町娘が絡まれている。助けようとした高坂の前に心配無用之助と名乗る武士があらわれ、町娘を救う。ホッとした高坂だが、なぜかまた同じ状況が繰り返される。今度は助太刀を申し入れたところで、ストップが入る。戸惑う高坂に撮影助監督である山本優子は、撮影グループが違うのではと親切に伝える。戸惑いながらあたりをうろつく高坂は、セットに頭を痛打して気を失う。病院に運ばれた高坂は、成り行きから再び山本の世話になる。戸惑いは消えず、病院を出た高坂は現代の京都の町を歩き回り途方に暮れる。
見た事もない街、見た事もない乗り物。実際、江戸時代の人間が突然現代に現れたら相当戸惑うだろう。そして見かけた展示会のチラシから高坂は自分が140年後の日本にタイムスリップしてしまったことを知る。愕然とした高坂があてどなく街を彷徨い歩くうちに見覚えのある寺の前に辿り着く。そこは高坂が長州藩士・山形彦九郎と対峙したところ。一晩をその門前で過ごした高坂は、親切な住職夫妻に助けられ、しばらく寺に居候することになる。
とりあえず住むところを確保した高坂は少しずつ現代に慣れていく。初めてのテレビに驚くも、放映されていた時代劇を見て高坂は感銘を受ける。そんな中、寺で時代劇の撮影が行われることになるが、斬られ役の出演者が急病になり、高坂に声がかかる。なにせ「本物の」髷を結っており、立ち居振る舞いも本物の武士である。無事、演技も済ませて斬られ役を体験した高坂は、それこそ現代で自分ができる唯一の仕事だと気づき、殺陣のプロ集団「剣心会」への入門を決意する。
撮影助監督の優子の紹介もあり、剣心会代表・関本の了解を得て入門が認められた高坂は、斬られ役として新生活をスタートさせる。元は本物の武士であり、しかも真剣な姿勢と本物の風格で、高坂は次第に仕事の幅を広げていく。そしてそれが実を成し、スター俳優・風見恭一郎が主演する新作映画『最後の武士』の制作が発表された際、高坂は風見本人から指名を受け、準主役という大役に抜擢される。斬られ役の高坂にとっては青天の霹靂のような話。高坂は辞退を申し出るが、風見は高坂に衝撃の事実を打ち明ける・・・
侍が現代にタイムスリップするという物語。突然見も知らぬ世界に置かれて戸惑う主人公が、次第に現代社会に馴染んでいく。テレビを見て驚き、ドラマのストーリーに感激して涙を流す。自分もいつの間にか140年も未来に吹っ飛んだら、と想像してしまう。ドラマでは描かれていないが、主人公の高坂にも家族がいたのだろうが、その家族は、と想像は限りない。幕末に会津藩が味わった悲劇を知ってショックを受ける高坂。そしてどこへ行くかと思われたストーリーは意外な展開を見せていく。
ラストは未来に飛ばされた高坂の自分の時代への思いが蘇る。手に汗握る真剣勝負。この映画がなぜ口コミで広まったのかよくわかる。ラストシーンはその後を楽しく想像させてくれる。こういう映画が自主製作で創られたというところに、日本映画も捨てたものではないと思わされる。製作者たちの熱い思いが、主人公の姿に表れているように思う。こういう映画がこれからも創られる事を願わずにはいられない一作である・・・
評価:★★★☆☆