2025年02月28日

【BLUE GIANT】My Cinema File 2975

BLUE GIANT.jpg
 
2023年 日本
監督: 立川譲
原作: 石塚真一
出演: 
山田裕貴:宮本大
間宮祥太朗:沢辺雪祈
岡山天音:玉田俊二
近藤雄介:宮本雅之
須田美玲:宮本彩花
木下紗華:アキコ

<映画.com>
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2013年から小学館「ビッグコミック」にて連載開始した石塚真一の人気ジャズ漫画「BLUE GIANT」をアニメ映画化。
仙台に暮らす高校生・宮本大はジャズに魅了され、毎日ひとり河原でテナーサックスを吹き続けてきた。卒業と同時に上京した彼は、高校の同級生・玉田俊二のアパートに転がり込む。ある日、ライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈と出会った大は彼をバンドに誘い、大に感化されてドラムを始めた玉田も加わり3人組バンド「JASS」を結成。楽譜も読めずただひたすらに全力で吹いてきた大と、幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈、そして初心者の玉田は、日本最高のジャズクラブに出演して日本のジャズシーンを変えることを目標に、必死に活動を続けていく。
主人公・宮本大の声を人気俳優の山田裕貴が担当し、沢辺雪祈を間宮祥太朗、玉田俊二を岡山天音が演じる。「名探偵コナン ゼロの執行人」の立川譲が監督、原作の担当編集者でストーリーディレクターも務めるNUMBER 8が脚本を手がけ、「幼女戦記」シリーズのNUTがアニメーション制作を担当。世界的ピアニストの上原ひろみが音楽を手がけ、劇中曲の演奏も担当した。
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漫画を原作としたアニメ映画である。物語は仙台で始まる。冬の広瀬川のほとりで雪が深々と降る中、ひとりの高校生、宮本大はテナーサックスを吹いている。世界一のジャズプレイヤーになるという目標を立て、高校を卒業した大は上京する。と言っても行く当てはなく、高校の同級生・玉田俊二の所に転がり込む。そして最初にやったのは練習場所の確保。広瀬川の河川敷と似た場所を探し周り、とある川の高架下をそこと定める。何が大事なのか、それをきちんとわかっている姿に好感を覚える。

そして次にバイト。稼いだお金の一部を居候先の玉田に渡し、東京のジャズバーを巡って演奏させてくれる場所を探す。たまたま通りかかったジャズバー“TAKE TWO”では、ライブはやっていないものの、店主のアキコが店を紹介してくれる。その店は亡き夫がやっていた店。雨の日にあわせたレコードを聞いた大が、雨の日の雰囲気の曲だと呟き、アキコは大の才能を感じる。もうライブをやる事はないが、設備は整っている。以後、“TAKE TWO”は大たちの練習場所になる。

紹介された店を訪れた大は、凄腕のピアニスト沢辺雪祈と出会う。4歳の時からピアノを弾いてきた雪祈は、高校からサックスを始めた大に共感するものはなかったが、大の演奏を聴いて先入観が吹き飛ぶ。それは3年間の練習が並外れたものである事を示しており、雪祈は大と組むことを承諾する。これでピアノとサックスのデュオが誕生する。しかし、ドラムが足りない。その頃、大の同級生・玉田は、毎日好きなことに全力で取り組む大の姿を羨ましく思っている。そんなある時、大がいつも練習している場所へ玉田が顔を出すと、空き缶と枝でリズムを取ってくれと頼む。

一定のリズムで叩き続ける難しさに戸惑う玉田だったが、いつの間にか気付くと夢中で空き缶を叩いている。ジャズの楽しさに気づいた玉田はドラムの練習を始める。素人の玉田とのレベル差に難色を示す雪祈。そこから玉田の猛特訓がスタートする。雪祈もなんだかんだと言いながら見守る。いつしか3人はバンドとして形になっていき、そして雪祈が作曲した「First Note」を引っ提げ、初めてのライブの日を迎える。客は店員をあわせても4、5人程度。それでもこのステージを一生覚えておこうと言って演奏を始める・・・

音楽を題材にした映画は珍しくない。ジャズをテーマにしたのも、ジャズドラムを学ぶ主人公を描いた『セッション』(My Cinema File 1762)や日本映画でも『坂道のアポロン』(My Cinema File 2594)というのもあった。音楽の中でもジャズは比較的マイナーだと思うが、日本の若者的にもウケるのだろうかと思ってみる。

実際に流れるジャズミュージックがどうかという事はよくわからない。バンド名を“JASS”と名付けた3人は老舗の店舗“So Blue”に出演する事を目標にする。大きな目標を立てて邁進していく若者の姿はまぶしい。特に主人公の大はぶれない。仲間を大事にし、目先の利益よりもその先を見据えて行動する。次第に彼らを応援する人が増えていく。音楽の物語であるが、音楽は主役ではない。3人の“JASS”の成長の物語である。そしてとうとう念願の“So Blue”に出演する事になるが、それは大にとって世界一への1つの過程にしかならない。

タイトルの由来は、「若く熱いプレイヤーのことをブルージャイアントと呼ぶことがある」と語られる。なかなか熱いアニメ映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2025年02月24日

【STAND BY ME ドラえもん】My Cinema File 2974

STAND BY ME ドラえもん.jpg
 
2014年 日本
監督: 八木竜一/山崎貴
原作:藤子・F・不二雄
出演: 
水田わさび:ドラえもん
大原めぐみ:のび太
かかずゆみ:しずか
木村昴:ジャイアン
関智一:スネ夫
萩野志保子:出来杉
三石琴乃:のび太のママ
松本保典:のび太のパパ
田原アルノ:しずかのパパ
妻夫木聡:青年のび太

<映画.com>
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藤子・F・不二雄生誕80周年を記念して製作された「ドラえもん」シリーズ初の3DCGアニメーション。原作から厳選されたエピソードを再構成し、ドラえもんとのび太の出会いから別れまでを描いた。「フレンズ もののけ島のナキ」を手がけた八木竜一と『永遠の0』 『ALWAYS 三丁目の夕日』の山崎貴が共同監督。何をやらせても冴えない少年のび太のもとに、22世紀の未来から、ネコ型ロボットのドラえもんがやってくる。のび太の孫の孫にあたるセワシが、ご先祖様であるのび太の悲惨な未来を変えるために送り込まれたドラえもんだったが、当のドラえもんはあまり乗り気ではない。セワシはそんなドラえもんにやる気を出させるため、のび太を幸せにしない限り22世紀に帰ることができないプログラムを仕込む。かくして仕方なくのび太の面倒をみることになったドラえもんは、のび太がクラスメイトのしずかちゃんに好意を抱いていることを知り、のび太としずかちゃんが結婚できる明るい未来を実現するため、数々の未来の道具を駆使してのび太を助けるが……。トヨタ自動車のCMで大人になったのび太を演じている俳優の妻夫木聡が、青年のび太の声優として参加している。
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「ドラえもん」は息の長いアニメである。初めて漫画を読んだのは小学生の頃だったように記憶している。テレビのアニメも観ていた記憶がある。そんな長寿アニメの映画化作品。何となく子供向けでもう卒業した気分でいたが、どうにも評判が高いので観てみる気になった映画。監督に山崎貴の名前があればそれだけで一見の価値があるだろうと判断。

ある日、勉強もスポーツも何をやらせても冴えない少年のび太の元に、22世紀の未来からのび太の孫の孫にあたるセワシと、ネコ型ロボットのドラえもんが現れる。ご先祖様であるのび太のあまりにも不甲斐ない未来に、その子孫たちにも大きな悪影響があり、その未来を変えようとドラえもんを連れてきたことを伝える。セワシはドラえもんに成果を上げさせるため、「のび太を幸せにしない限り22世紀に帰ることができない」というプログラムをセットして帰って行く。こうして、ドラえもんは、のび太の面倒をみることになる。

毎朝、のび太は寝坊をして先生に怒られて立たされる。スネ夫に嫌味を言われてからかわれるのもいつもの事。しかし、その朝はドラえもんが「どこでもドア」を出してのび太の遅刻を防ぐ。そう言えばこのどこでもドアは心底欲しいなと思ったものである。夜の町をタケコプターで飛ぶ。しずかちゃんやジャイアン、スネ夫などのお馴染みのメンバーとドラえもんのひみつ道具で遊ぶ。しかし、そこには子供の教育にいい事もこっそり含まれている。

のび太はしずかちゃんに憧れているが、成績優秀でスポーツ万能な出来杉を見てしまうと自分との差を見せつけられて落ち込む。そこでドラえもんは、ポケットから「刷り込みたまご」を取り出す。それは動物の「刷り込み」を利用し、たまごから出て最初に目にした相手が好きでたまらなくなる道具。その目論見は失敗するが、人に好かれたいと思ったら道具に頼ってやるものではないという当たり前の事に気付かされる。

「道具に頼り過ぎている」と指摘されたのび太は反省して次のテストに向けての勉強をする。それは結局、その日のテスト内容は「漢字」なのに「算数」の勉強をして失敗するのであるが、自分で何とかしようという意欲は立派である。どんな子でものび太ほど悪くはないだろう。そんなのび太でさえ頑張る姿を見せれば、子供も頑張ろうと思うかもしれない。単なるアニメに終わらず、教育的内容がともなっているのがいい。

物語はいくつかのエピソードを交えて進んでいく。のび太とドラえもんは次に未来に行き、相変わらずふがいない自分の姿を目にする。秘密道具で大人の姿になったのび太は、雪山で遭難しかかっているしずかを助けに行くが、ここでもやっぱりふがいなさが出てしまう。機転を利かせてピンチを脱したのび太。いろいろとあって未来は変わるが、その結果、ドラえもんが帰ることになる。そのエピソードは良く知られているが、やっぱりちょっと感動的である。

単なるアニメではあるが、単なるアニメに終わらない。1つ1つのエピソードに大人でも当てはまる教訓が込められている。単なる子供向けアニメには終わらせられないものがある。なるほど、評判に嘘はない。他の『ドラえもん』の映画版はわからないが、この映画は大人でも観る価値はある。長い年月を「現役」で通用しているだけのことはある。大人も心温まる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年02月23日

【余命10年】My Cinema File 2973

余命10年.jpg

2022年 日本
監督: 藤井道人
原作小坂流加
出演: 
小松菜奈:高林茉莉
坂口健太郎:真部和人
山田裕貴:富田タケル
奈緒:藤崎沙苗
井口理:三浦アキラ
黒木華:桔梗
田中哲司:平田先生
原日出子:百合子
リリー・フランキー:梶原
松重豊:明久

<映画.com>
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小坂流加の小説を原作にしたラブロマンス。難病で余命10年の女性と、彼女の同窓生である男性が恋に落ちる。メガホンを取るのは『宇宙でいちばんあかるい屋根』などの藤井道人。主演は『恋する寄生虫』などの小松菜奈、『仮面病棟』などの坂口健太郎。『おとなの事情 スマホをのぞいたら』などの岡田惠和、ドラマ「恋はつづくよどこまでも」などの渡邉真子が脚本を務め、『天気の子』などのRADWIMPSが音楽を手掛けている。
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物語は2011年から始まる。入院していた主人公の茉莉は、同室の患者からビデオをもらう。その患者は幼い子を残して亡くなる。茉莉はまだ二十歳だが、10年以上生きる人はほとんどいないといわれる難病の肺動脈性肺高血圧症を患っている。2年間という長い入院生活を終えて退院の日を迎えた茉莉は、もらったビデオを回しながら家族と共に帰宅する。学生時代の友人たちとも再会し、楽しく過ごした帰り道、沙苗から出版社で一緒に働かないかと誘われるが、茉莉は笑顔で断る。

2014年。病気は小康状態。茉莉は、久しぶりに同窓会に出席する。茉莉は病気のことは隠し、東京でOLをしているとみんなに嘘をつく。地元に残っているのが大半な中、茉莉と同じように東京に出ている和人と再会する。一次会が終わると、飲み過ぎて気分が悪くなった和人を介抱しながら、茉莉は学生時代の思い出話をする。何かを思いつめたような表情の和人は、その後、自室のベランダから飛び降りる。幸いにも命をとりとめた和人。親とは絶縁しているようで、行きがかり上、茉莉は同じく同窓生のタケルと一緒に見舞う。

和人なりに生きる事に意味を感じられずの行動だが、余命宣告を受けている茉莉には受け入れられるものではない。そんな気持ちを隠して席を立つ茉莉。後日、病院で茉莉が母親といるのをみかけた和人は、茉莉の母親が病気だと勘違いし、茉莉が自殺しようとした自分に腹を立てたのは母を思ってのことだと和人は誤解する。茉莉とタケルが「焼き鳥屋げん」で開いてくれた退院祝いの席で、和人は茉莉に謝る。帰り道の桜並木でカメラ撮影をしながら茉莉は、和人と話をする。今後の展開を予感させる雰囲気である。

やがて茉莉は在宅で沙苗の出版社のウェブライターの仕事を始め、和人も「焼き鳥屋げん」で働き始める。それぞれ前を向いて歩いていく。2016年、茉莉の姉の桔梗が結婚する。茉莉は陰で親戚が自分の病気の事を話しているのを聞いてしまう。和人との関係は良好だが、余命を考えて恋を避ける茉莉は、和人から告白される。しかし、ひどい息切れを起こしてその場に倒れて救急搬送され、茉莉の病は和人の知るところとなる・・・

タイトルからして死別系悲恋モノという感じがしていたが、どうやら実話をベースとした小説が原作のようである。ふだん、当たり前のように生きている我々は、命が無限だとは思わないが、その期限を意識することはない。しかし、病気などで余命を知らされると、途端に生きる日々が大事になる。茉莉は「あと10年しか生きられないとしたらあなたは何をしますか?」とした小説の執筆に取り掛かる。それを読んだ友人の沙苗は、涙を流しながら世に出そうと話す。

余命宣告を受けてしまうと、相手の事を考えると恋愛には消極的になる。それは相手の時間を奪う事にもなり、どうしても遠慮が出てしまう。茉莉もそうして身を引くが、帰宅して母親にすがり、もっと生きたいと言って泣くシーンは心に迫るものがある。もしも、自分の娘だったらと親としては切なく思う。単なる「お涙頂戴悲恋ストーリー」を予想していたらちょっと違った。主演の2人の共演も好印象の映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年02月22日

【52ヘルツのクジラたち】My Cinema File 2972

52ヘルツのクジラたち.jpg
 
2024年 日本
監督: 成島出
原作: 町田そのこ
出演: 
杉咲花:三島貴瑚
志尊淳:岡田安吾
宮沢氷魚:新名主税
小野花梨:牧岡美晴
桑名桃李:少年
金子大地:村中真帆
西野七瀬:品城琴美
真飛聖:三島由紀
池谷のぶえ:藤江
余貴美子:岡田典子
倍賞美津子:村中サチエ

<映画.com>
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2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの同名ベストセラー小説を、杉咲花主演で映画化したヒューマンドラマ。
自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。
杉咲が演じる貴瑚を救おうとするアンさんこと岡田安吾を志尊淳、貴瑚の初めての恋人となる上司・新名主税を宮沢氷魚、貴瑚の親友・牧岡美晴を小野花梨、「ムシ」と呼ばれる少年を映画初出演の桑名桃李が演じる。「八日目の蝉」「銀河鉄道の父」の成島出監督がメガホンをとり、「四月は君の嘘」「ロストケア」の龍居由佳里が脚本を担当。タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。
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大分の海沿いの町に1人の女性が越してくる。そんな田舎に女性が1人となると、何か「訳アリ」かと思ってしまう。事実、長く使われていなかったらしいその家の修繕に来た地元の業者の若者は、「都会で風俗嬢をしていたという噂は本当ですか?」と訪ねて先輩に叩かれる。問われた女性貴瑚(キコ)も笑うしかない。貴瑚にとって、その家は祖母がかつて住んでいた家。祖母もまた芸者をしていて、地元の夫人たちに悪く言われていた過去がある。

1人でいる貴瑚は時折「アンさん」と心の中で語りかける。やはり過去に何かあったようである。そして港で1人の少年と出会う。髪が長く、まるで少女のような少年。そして貴瑚には腹に傷跡があり、ちょっとした拍子に激痛が走る。そして物語は、貴瑚の過去へと遡る。幼少期から母親からの虐待を受ける。さらに高校を卒業して以来、母親の再婚相手の介護に明け暮れる。再婚相手も介護という年齢だったのかよくわからないが、付きっきりの介護は若い貴瑚にとっては虐待の延長に等しい。

そして介護に明け暮れる日々を送るが、ある日義父は誤嚥を起こし、肺炎も加わり救急搬送される。この事態に母は貴瑚を罵倒する。身も心も疲弊した貴瑚は、ふらりと病院を出て街を彷徨い車に轢かれそうになる。そこに偶然通りかかったのが、高校時代の親友・牧岡美晴と彼女の同僚だった岡田安吾(アンさん)であった。事情を聞いたアンさんは、貴瑚を救うために奔走する。義父の介護施設の資料を集め、貴瑚の母の元に向かう。余計な口出しをなじる母に構わずアンは貴瑚を家から連れ出す。

貴瑚は、しばらくの間、美晴の友人である美音子とルームシェアする。美音子は貴瑚に「52ヘルツのクジラの声」を聴かせる。その声に心を落ち着かせた貴瑚は、それ以降52ヘルツのクジラの声を聴くようになる。そうした経緯から、いつしかアンに思いを寄せる貴瑚であるが、アンはそんな貴瑚の気持ちに気づきながらも貴瑚の気持ちに応えようとはしない。やがて貴瑚はある会社に就職するが、そこでその会社の跡取り息子であり、専務の新名主税(にいなちから)に見初められる。

物語はそんな貴瑚の過去と現在の物語とを描いていく。港で出会った少年もまた実の母親から虐待を受けている。自らの体験もあり少年に寄り添う貴瑚。それにしても、子供を持つ親として、どうして虐待なんかできるのだろうかと思ってしまう。フィクションであるのはわかっていても虐待を受ける2人の子供の様子に心が痛む。タイトルにある“52ヘルツのクジラ”とは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴くクジラのこと。世界に1頭だけしかいない52ヘルツのクジラの声は誰にも届かないとされる。虐待を受ける子供たちを52ヘルツのクジラにたとえたストーリーは胸を打つものがある。

貴瑚と少年がその後、どんな人生を歩んでいくのか。その幸せを心から願いたくなる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年02月20日

【あなたの顔の前に】My Cinema File 2971

あなたの顔の前に.jpg

原題: 당신 얼굴 앞에서/In Front of Your Face
2021年 韓国
監督: ホン・サンス
出演: 
イ・ヘヨン:サンオク
チョ・ユニ:ジョンオク
クォン・ヘヒョ:ソン・ジェウォン
キム・セビョク:店の主人

<映画.com>
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韓国の名匠ホン・サンスがベテラン女優イ・ヘヨンを主演に迎え、ひとりの中年女性の心の旅を描いたヒューマンドラマ。長い間アメリカで暮らしていた元女優のサンオクは、突然韓国に帰国し、妹ジョンオクのもとを訪れる。母を亡くして以来ずっと疎遠になっていた家族と再会するサンオクだったが、帰国の理由を明かそうとせず、その内面には深い葛藤が渦巻いていた。思い出の地を巡り、捨て去った過去と向き合いながら、心の拠りどころを見いだしていくサンオクの1日の出来事を描き出す。共演は『技術者たち』のチョ・ユニ、「夜の浜辺でひとり」のクォン・ヘヒョ、『はちどり』のキム・セビョク。ホン監督の公私にわたるパートナーである女優キム・ミニがプロダクションマネージャーを務めた。
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高層マンションの一室。サンオクは、ベッドで眠る妹のジョンオクを静かに見つめているところからドラマは始まる。起き上がったジョンオクは、サンオクに「久しぶりね」と声をかける。どういう事だろうかと訝しく思う。何気ない姉妹の会話。ジョンオクはそれまで見ていた夢の話をするが、具体的な内容については正午過ぎまで話せないと姉に告げる。姉妹は朝食をとりに川沿いのカフェに向かう。2人の平凡な会話が続いていく。

2人の会話からサンオクがどうやらアメリカから帰ってきたらしいとわかる。2人は公園内を歩きながら話に興じる。途中でサンオクとジョンオクは、通りすがりの女性に写真を撮ってほしいとお願いする。写真を撮ってくれと頼まれた女性は、サンオクに向かって昔テレビドラマに出ていなかったかと問う。それほど顔が売れているわけではないのに通りすがりの人がわかったという事に驚く2人。

2人の散歩は続く。話の内容はとりとめもない事。そして2人はジョンオクの息子の婚約者が働く店に行きお茶を飲む。息子もやってきて伯母に挨拶をする。礼儀正しく良い息子である。やがて姉妹は別れ、サンオクは旧知の映画監督と会う。居酒屋のような店で、店主も鍵を預けてどこかに行ってしまう。監督はサンオクに映画を撮ることを提案する。しかも、短いロードムービーのような内容で、2人で旅をしながら撮ろうという。

どういう映画だと観ながら思うも、サンオクも「私と寝たいのか」とはっきり聞く。ほぼ会話だけで成り立っているこの映画、何となく同じように会話だけで成り立っていた『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(My Cinema File 2812)のような感じであるが、この映画は言ってみればもっと退屈である。その退屈感は最後まで消えない。一体この映画で何を訴えたいのだろう。

映画通の人だとこの映画の意味を見出し、素人にはわからない価値がわかるのだろう。ただ、映画を単純に面白いか否かで観る私にとっては心に訴えかけてくるものがなかったと言える。監督のホン・サンスは名匠だとの事、それであればつまらない映画を作るはずもなく、根底に込められた意図があったり、撮り方なども玄人にしかわからない素晴らしさがあるのだろう。ただ、素人の私にはわからない。ただ退屈なだけの映画であった。

タイトルであるが、映画の中でサンオクが語る。「もし顔の前にあるものだけを見ることができたら何も怖くない」と。実はサンオクは医者に余命宣告を受けている。人は普通だれでも余命などわからない。それが突然、目の前に突きつけられる。そういうところを鑑みると、深い意図がありそうにも思うし、おそらくそういうところを含んだタイトルなのだろう。しかしながら、全体としてはどうにも眠気を抑えにくいものである。

この映画を「素晴らしい」と評価できる眼を自分も持ちたいと思うが、現状それはかなわない。それが残念な映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年02月19日

【天使のくれた時間】My Cinema File 2970

天使のくれた時間.jpg

原題:The Family Man
2000年 アメリカ
監督: ブレット・ラトナー
出演
ニコラス・ケイジ:ジャック・キャンベル
ティア・レオーニ:ケイト・レイノルズ
ドン・チードル:キャッシュ・マネー
ジェレミー・ピヴェン:アーニー
ソウル・ルビネック:アラン・ミンツ
ジョセフ・ソマー:ピーター・ラシッター
マッケンジー・ヴェガ:アニー・キャンベル

<映画.com>
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多忙なビジネスマンが別の人生を生きることで愛の大切さを知るラヴ・メルヘン。監督は「ラッシュアワー」のブレット・ラトナー。脚本はデイヴィッド・ダイアモンドとデイヴィッド・ワイスマン。撮影は「ワンダー・ボーイズ」のダンテ・スピノッティ。音楽は『プルーフ・オブ・ライフ』のダニー・エルフマン。衣裳は『あの頃ペニー・レインと』のベッツィ・ハイマン。出演は「60セカンズ」のニコラス・ケイジ、「ディープ・インパクト」のティア・レオーニ、「ミッション・トゥ・マーズ」のドン・チードル、「ベリー・バッド・ウェディング」のジェレミー・ピヴェンほか。
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折に触れ、かつて観た映画を観直している。この映画はニコラス・ケイジの多作な出演作の中でも印象深い方に入る映画として記憶に残っている。

時に1987年、ジャックはロンドンにある銀行での研修へ向かうため恋人のケイトと空港に来ている。ジャックは金融の世界へ、ケイトは法律の世界へとそれぞれのキャリアを築くため、一時的に離れ離れになる別れを惜しんでいる。話し合って決めた結論なのに、直前になってケイトは「考え直して欲しい」とジャックを引き留める。されど一度決めた事だからとジャックは旅立っていく。

それから13年後、ニューヨークのウォール街で成功し大手投資会社の社長になったジャックは、優雅な独身生活を満喫している。自宅は豪華な高層マンションで、女性とも浮名を流している。どうやら、ケイトとは別れてしまったようである。成功の裏にあるのはハードワーク。クリスマス・イヴの夜にも幹部を招集し、2日後に控えた重要なM&Aについての会議をしていると、その間にケイトから連絡が入ったと秘書が報告する。あえて何もせずジャックは帰路に着く。

途中で立ち寄ったコンビニで黒人の青年キャッシュと店員とのトラブルに遭遇する。店員の理不尽な対応に激怒したキャッシュは銃を突きつけるが、ジャックが穏やかに交渉し事なきを得る。ジャックはキャッシュと話をするが、その会話の中で「僕はなんでも持ってる」と答えると、キャッシュは「これから何が起きてもあんたの責任だ」という不思議な言葉を残して去っていく。

翌朝、ジャックが目を覚ますと部屋の雰囲気が一転している事に気付く。隣にはかつて別れたはずのケイトが寝ており、2人の子供が「パパ!」と起こしにくる。わけがわからず、マンハッタンの高層マンションにある自分の部屋に戻るも、なぜか顔見知りだった警備員も理事仲間の知人もよそよそしい態度を取る。極めつけは、勤務先の投資会社に行くと社長の名前に自分の名前はなく、何もかもが変わっている。状況を理解できないジャックの前に現れたキャッシュは、「答えは自分で探せ」とだけ告げると姿を消してしまう。

ジャックは仕方なくケイトのいた家に戻るが、そこには自分の知らない自分の生活がある。時にクリスマスであり、2人で友人宅のパーティーに参加する。そこでも顔見知りの知人たちとの交流があるが、誰もが「投資会社に勤めているジャック」ではないジャックを前提に話をする。唯一娘のアニーだけが様子のおかしいジャックを「パパじゃない」と言う。どうやら父に変装した宇宙人だと思ったようである。

不可解なままジャックは新たな世界での生活を始める。弁護士のケイトはボランティアでの仕事が多く、タイヤの小売り店に務めるジャックはそれほど稼ぎがあるわけでもない。2人の子供を保育園に送り届け、仕事に向かう。そしてだんだんとその世界は、1987年にジャックが海外研修を中止し、戻ってケイトと結婚した世界であることが分かってくる。羽振りの良いかつての独身生活と庶民的でも家族に囲まれた生活。どちらがいいかは難しいところだが、ジャックは元の世界の栄光が忘れられない。

「今生きている人生とは別の人生があったかもしれない」という思いは誰もが抱くかもしれない。しかしそれはたいてい「今よりもいい人生」という事が多いと思う。しかし、ここでは主人公のジャックは今の生活に満足していて、ケイトや子供たちとの生活を望んでいないというところが一味違う。それは務めるタイヤ店に投資会社の会長が偶然やって来た時、ここぞとばかりに自分の能力を売り込むところに現れている。会長の興味を引く事はたやすい事であり、ジャックは難なくそれに成功する。

しかし、嫌々ながら続けていた「家族との生活」が次第にジャックの心に浸透していく。それまで気がつかなかったものに気付いていくジャック。やはり大切なものは金や社会的な地位ではないという事に気付くジャックの姿に、観る者は安堵する。ラストでジャックとケイトは空港のカフェで話をする。2人でどんな話をしたのだろうか。2人の幸せなその後を想像してみたくなる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年02月15日

【レインマン】My Cinema File 2969

レインマン.jpg

原題: Rain Man
1988年 アメリカ
監督: バリー・レビンソン
出演: 
ダスティン・ホフマン:レイモンド
トム・クルーズ:チャーリー
バレリア・ゴリノ:スザンナ
ジェラルド・R・モーレン:ブルーナー医師
ジャック・マードック:ジョン・ムーニー
マイケル・D・ロバーツ:バーン

<映画.com>
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高級外車ディーラーのチャーリーは、絶縁状態にあった父の訃報を聞き、遺産目当てに帰省する。ところが、遺産の300万ドルは全て匿名の人物に相続されることとなっていた。その人物が、今まで存在すら知らなかった自閉症の兄レイモンドであると知った彼は、兄を病院から連れ出してロスへと向かうが……。アカデミー賞主要4部門(作品・監督・脚本・主演男優賞)他、多数の映画賞に輝いた、バリー・レビンソン監督による感動作。
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この映画を観たのはもう37年も前なのかと感慨ひとしお。いつかもう一度観たいと思ううちに今日まで来てしまった。改めて先送りはやめようと鑑賞に至る。

チャーリー・バビットは、高級スポーツカーを扱うディーラーを営んでいる。港に到着する4台のランボルギーニを満足気に見つめる。しかし、環境保護局から連絡が入り、入管手続きにさらに時間がかかるとの事。されど顧客に対する納車期限は迫っている。審査を急ぐようにと交渉する一方、顧客には納車を待てないかと訴え、しかも納入のために借り入れた借入金の返済期限も同時に迫り、まさに混乱を極めている。

チャーリーは口八丁で社員のレニーに対応させ、一旦、混乱を収拾させると社員兼恋人のスザンナと週末を過ごすため、パーム・スプリングスへ出発する。よくまぁ遊びに行けるものだという気もするが、そのあたりの気持ちの切り替えがうまいのかもしれない。ところが道中、レニーから電話が入り、父が死去したという報告を受ける。実はチャーリーは父とケンカ別れをして、絶縁状態のまま疎遠になっていたが、さすがに無視はできないのか、葬儀に向かう。

といっても、長い年月絶縁状態だった父の死に悲しみの感情が湧くわけでもなく、チャーリーは喪服すら着ることもせず、葬儀を見守る。葬儀が終わるとチャーリーは父の弁護士から父の遺言状を見せられる。チャーリーに残された遺産は、1949年製のビュイック・ロードマスターと、数々の品評会で優勝したバラの木というもの。およそ300万ドル相当のそれ以外の遺産は、なんと遺言状に書かれた受取人のために、信託銀行に預けられるとの事。しかも受取人のことは開示されず、チャーリーは憤懣やるかたない思いを抱く。

チャーリーに残された1949年製ビュイック・ロードマスターは、チャーリー親子の関係を終わらせるきっかけとなった因縁の代物。それはチャーリーが16歳の時、成績で“オールA”をとり、その褒美として父の愛車のビュイックを運転させてほしいとせがむが、父はそれを拒む。ならばとチャーリーは、黙ってキーを持ち出し、友人らとビュイックでドライブに出かける。しかし、父はあえて警察に車の盗難届を出したため、チャーリーは警察に拘留されてしまう。しかも友人たちはすぐに家族が迎えに来たが、チャーリーの父は2日間放置する。ブチ切れたチャーリーは家を飛び出し、それ以降は音信を断っていた。

そんな関係なのに、金に困っているせいか、チャーリーは300万ドルの遺産が気になる。すぐに信託銀行へ行き受取人が誰なのか調べるが教えてくれるはずもない。しかし、財産を管理する管財人が、ブルーナーという医師だということがわかり、チャーリーはブルーナに会うため病院に行く。されどやはりブルーナーが教えるわけもない。やむなく帰ろうとしたチャーリーだが、いつの間にか乗ってきたビュイックの運転席に妙な男が座っている。知恵遅れのようなその男は、なぜかそのビュイックに詳しく、父親の名前はサンフォード・バビットだと答える。その事態にブルーナーはやむなく男はチャーリーの兄だと教える。

チャーリーは兄の存在を知らされておらず驚愕する。兄の名前はレイモンドで、自閉症を患っていると知らされる。そんなレイモンドに300万ドルの遺産が残されたとわかったチャーリーは、どうにも我慢の虫が収まらない。そこで一計を案じたチャーリーは、レイモンドを散歩に連れ出し、ロサンゼルスでドジャースの試合を一緒に観ようと誘い、半ば強引にレイモンドを病院に黙って連れ出す・・・

こうしてチャーリーは、レイモンドとスザンナとビュイックで旅に出る。しかし、金のために自分やレイモンドを利用していると憤慨したスザンナは行動を別にする。こうして兄弟2人となるが、特徴的なのは自閉症のレイモンドの行動。いわゆる普通の生活はしにくいが、特殊能力もある。ホテルで一心不乱に読んでいた電話帳はすべて覚えてしまい、レストランのウエイトレスの名札を見て、電話番号をいい当てる。さらに床にばらまいてしまったマッチの本数を瞬時に言い当てる。このシーンは特に印象に残っている。

普通に生活ができないレイモンドを連れた道中は混乱の道中となる。チャーリーはレイモンドに振り回されてばかりとなる。突然現れた兄。しかも自閉症で普通ではない。長く断絶していた父親からの遺産など欲しがらなければと思うも、金に困っていて、しかも自閉症で金の価値もわからない兄がそれを受け取るという事に我慢がならなかったのだろう。チャーリーの行動は自分勝手でスザンナが怒るのも無理はない。しかし、寝食を共にしているうちに、実は幼い頃、チャーリーはレイモンドと暮らしていた事がわかってくる。そして離れ離れになった経緯も知る事になる。

そして変わりゆくチャーリーの心境。ラスベガスでレイモンドの能力を利用してカジノで一儲けしたチャーリーだが、レイモンドに対する心境の変化は心を温かくしてくれる。6日間かけてようやくロサンゼルスに帰りついたチャーリー。そのチャーリーは、レイモンドに会う前のチャーリーとは違う。そんなチャーリーの姿が心を打つ。アカデミー賞主要4部門を制覇したのも納得。若きトム・クルーズと名優ダスティン・ホフマンのコンビが何より素晴らしく思える。間違いなく名作と思える映画である・・・


評価:★★★★☆









posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする