2008年11月30日

【キューポラのある街】My Cinema File 312

キューポラのある街.jpg


1962年 日本
監督: 浦山桐郎
出演: 
吉永小百合:ジュン
東野英治郎:石黒辰五郎
杉山徳子:トミ(妻)
市川好郎:タカユキ
鈴木光子:金山ヨシエ
森坂秀樹:サンキチ
浜村純:父
菅井きん:母美代
浜田光夫:塚本克巳

<allcinema ONLINE>
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鋳物の町として有名な埼玉県川口市。この街にはキューポラという煙突が立ち並ぶ。昔カタギの職人の町にも時代の波が押し寄せる。旧来型の鋳物職人であるジュンの父は、働いていた工場が大工場に買収されたことからクビになってしまう。困窮に苦しむ一家だったが、ジュンはそんな境遇の中でも、自分の進路について一生懸命考え、パチンコ屋でバイトしながらも高校進学の学費を稼ごうとがんばる……。吉永小百合主演で、高度経済成長期の庶民の暮らしを温かなまなざしで描いた青春ドラマ。
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鋳物の町として有名な埼玉県川口市。銑鉄溶解炉キューポラやこしきが林立するこの町は、昔から鉄と火と汗に汚れた鋳物職人の町である。石黒辰五郎も、昔怪我をした足をひきずりながらも、職人気質一途にこしきを守って来た炭たきである。この辰五郎のつとめている松永工場には五、六人の職工しかおらず、それも今年二十歳の塚本克巳を除いては中老の職工ばかり。それだけにこの工場が丸三という大工場に買収され、そのためクビになった辰五郎ほかの職工は翌日から路頭に迷うより仕方なかった・・・

温故知新で過去の名作を観ている。
ちょっと年代が上の人であれば川口と言えばキューポラ、キューポラと言えば川口とまずは反射的に思っていたはず。
そんな川口=キューポラのイメージを決定付けたといえる一作。

1962年と言えばまだ新幹線も開通していない時代。
今でも京浜東北線、東北本線の鉄橋が荒川を越えてすぐのところにある川口。
汽車から電車へと変わっているとはいえ古いタイプの電車が行き交う町でのロケは当時の町並みが覗けて興味深い。

職人気質の辰五郎を父に持つ中学3年のジュンを主人公とした物語。
鋳物工場にも近代化の波が訪れ、辰五郎の勤め先である小さな鋳物工場は大手の工場に買収され、辰五郎も職を失う。
高校へ進学したいジュンであるが、家計の事情が大きな壁となる。

ジュンがアルバイトをするパチンコ店。
台の裏で玉を補給する仕事。
家の前の水道でお釜を洗うジュン。
家はガラスの引き戸で戸を開けるとすぐに茶の間兼寝室。
電報もそのまま隣の人に預けてしまうので読まれてしまう。
個人情報も何もあったものではない。
こんなシーンに当時の世相がわかる。

友人の家族が北朝鮮へ帰る事になる。
かつて大々的に行われていた帰還事業だ。
「ほくせん(北鮮)」「なんせん(南鮮)」という言い方も新鮮だ。
辰五郎はやがて労働組合の力で職を得て働き始める。
なんだか偏りが感じられると思っていたら、原作者は共産党員だとか。

そこには目を瞑るとしても世相を反映したこうした映画は個人的には興味津々。
これからもたくさん観たいと思う。
ジュンは働きながら定時制高校へ進学する道を選ぶ。
時代の息吹だろうか溢れる希望がこぼれ落ちてきそうな映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2008年11月29日

【ザ・シューター極大射程】My Cinema File 311

shooter.jpg


原題: SHOOTER
2006年 アメリカ
監督: アントワーン・フークア
出演: 
マーク・ウォールバーグ:ボブ・リー・スワガー
ダニー・グローバー:アイザック・ジョンソン大佐
マイケル・ペーニャ:ニック・メンフィス
ケイト・マーラ:サラ・フェン
イライアス・コティーズ:ジャック・ペイン

<シネマトゥデイ>
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“このミステリーがすごい!”の2000年海外部門で第1位に輝いたスティーヴン・ハンターのベストセラー小説を映画化。大統領暗殺計画を阻止すべく、元海兵隊の敏腕スナイパーが活躍する。監督は『キング・アーサー』のアントワーン・フークワ。主人公のスナイパーを『ディパーテッド』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたマーク・ウォールバーグが演じる。骨太なヒーローを演じるマークの体当たり演技に注目。
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どうやら原作がヒットした本のようであるが、内容は知らずに観た。
「極大射程」という何だかよくわからないタイトルであるが、どうやら長距離狙撃を得意とする主人公に絡めてつけられたのであろう。

冒頭、観測手とともに草むらに隠れて標的を待つスワガー。
観測手とともに行動する、というのが何だか新鮮だった。
というのもこの手の狙撃物は「山猫は眠らない」などのように単独で獲物を狙うからだ。
ゴルゴ13もそうだ。
だが、観測手とペアで行動する、というのも合理的だ。

冒頭の作戦でパートナーを失ったスワガー。
退役して山奥で暮らすが、そこに訊ねてきたのはジョンソン大佐。
大統領暗殺を防ぐために狙撃手の立場から防御ポイントを教えて欲しいというものだった。
山奥を出て調査を始めるスワガー。
しかし、実はそれは陰謀でまんまと狙撃犯に仕立て上げられ、かつ2発も撃たれて重傷を負う。

そこからの逃走劇が実はみどころの一つだ。
軍隊で得たサバイバル技術を駆使し、重傷を負いながらFBIの包囲網を抜け、尚且つ自ら手当てして逃げ切るのだ。
雑貨屋で買った塩、砂糖などで点滴を作ってしまうところはリアルで凄みがある。

また彼を追う新米FBIニックの観察眼も見ものだ。
ドジを踏んだ新米の言う事など誰も聞かない。
だが、一人状況を調べてこの事件は何かがおかしいと気付く。
一つ一つの資料から矛盾点を挙げていくところは、こういう事が好きなためか一際興味をそそられる。

もっとも後半はスーパーマン振りをいかんなく発揮するスワガー。
思わず突っ込みをいれたくなるところもあるが、まあご愛嬌だ。
巨大な悪にはあまりにも脆弱な法。
その壁を突破するスワガーにすきっとさせられるエンディング。
なんとなくジェイソン・ボーンを髣髴とさせるスワガー。スリリングな一作である・・・


評価:★★☆☆☆







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2008年11月26日

【潮騒】My Cinema File 310

潮騒.jpg


1964年 日本
監督: 森永健次郎
原作: 三島由紀夫
出演: 
吉永小百合:宮田初江
浜田光夫:久保新治
清川虹子:久保とみ
石山健二郎:宮田照吉
菅井一郎:大山十吉
前野霜一郎:林竜二
平田大三郎:川本安夫
衣笠真寿男:川本隆一
高橋とよ:お産婆さん

<映画.com>
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三島由紀夫の同名小説を「浅草の灯 踊子物語」の棚田吾郎と「真白き富士の嶺(1963)」の須藤勝人が共同で脚色「こんにちわ20才」の森永健次郎が監督した文芸もの撮影もコンビの松橋梅夫。
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歌島は伊勢海に面する周囲一里にもみたない小島である。そこでは、男達は漁に出、女達は海女となって貝をとった。漁師の息子新治は、今日も太平丸に乗って浜に帰ってきた。そこで新治は舟を引きあげようとする船主照吉の娘初江に会い、手をかして舟を引きあげてやった。新治は浜にあがると、山の手にある灯台長のところに魚を届けにいった。しかしそこで新治は、もらったばかりの給料を浜で落したことに気づき、あわてて引きかえした。浜には、そんな新治を、笑いながらも、給料袋をひろって家に届けてくれた初江がまっていた・・・

温故知新ではないが、古い映画は好きでここのところよく観ている。
どちらかというと世相がよくわかる1950年代モノに強く興味を惹かれるが、これは60年代の物。
10年違うとモノクロからカラーへと変わる。
それだけでも感じが違ってくる。

原作は三島由紀夫の有名な同名小説
もう何度か映画化されているらしい。
この映画は1964年の吉永小百合版である。
(その後山口百恵版も作られた→どうやら若手美人女優を売り出すための手っ取り早いPR映画という気がしないでもない)

舞台は歌島という島であり、田舎の漁村ゆえに当時の世相を知るにはあまり役立たない。ストーリーは単純で田舎の漁村に暮らす漁師の若者新治と村の有力者の娘初江の純愛物語である。狭い村ゆえに若い男女は目に付きやすい。すぐに互いを意識しあうようになる二人。やがて村の灯台でこっそり会うようになる・・・

現代でいけばすぐにできちゃった結婚となりそうなのであるが、「嫁入り前の娘がそんな事したらいかんのや」とお堅い態度の初江。
「どうしてもいかんのか」とのんきな質問をする新治。
「あんたの嫁さんになる事を決めたからその時まではいかん」と答える初江。
なんとも微笑ましい、背中がかゆくなりそうなやり取りである。
こういうのが当たり前の世の中だったのだろうが、はたして現代は良いのか悪いのか、判断は難しいところである。

やがて二人の関係は村で噂となっていく。
周りの後押しがあったり、事件があったりして最後は美しいハッピーエンドになるのだが、現代の若者とはまた違った感覚に触れるのも興味深い。
三島由紀夫の原作にほぼ忠実に映画化されているようであり、やっぱり温故知新で観ておいて損はない映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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2008年11月25日

【パーフェクト・ストレンジャー】My Cinema File 309

perfectstranger.jpg


原題: Perfect Stranger
2007年 アメリカ
監督:  ジェームズ・フォーリー
出演: 
ハル・ベリー:ロウィーナ・プライス
ブルース・ウィリス:ハリソン・ヒル
ジョヴァンニ・リビシ:マイルズ・ハーレイ
ゲーリー・ドゥーダン:キャメロン
リチャード・ポートナウ:ナーロン

<シネマトゥデイ>
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ニューヨーク郊外で女性の変死体が発見された事件を機に、被害者の幼なじみでもある女性ジャーナリストが事件の謎にはまっていくサスペンススリラー。監督は『コンフィデンス』のジェームズ・フォーリー。ヒロインの女性ジャーナリストを『チョコレート』のハル・ベリーが、事件に関わる大富豪を『ダイ・ハード4.0』のブルース・ウィリスが演じる。ラスト7分11秒を迎えるまで決して見破れない事件の謎や、豪華出演陣の熱演は必見。
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議員のスクープを握りつぶされて会社を辞めた元新聞記者のロウィーナ。彼女はある夜、幼馴染のグレースから広告業界の大物ハリソン・ヒルの不倫スキャンダルの話を聞いた。その数日後、グレースは変死体となって発見されてしまう。死の真相がハリソンの口封じではないかと疑ったロウィーナは、大スクープを得るべく独自の調査を開始。元同僚のマイルズの力を借り、偽名でハリソンの会社にもぐりこむことに成功するが・・・というお話。

観終わってみると、最後になってどんでん返しが続く面白いストーリーだった。
腕のいい記者のロウィーナ。
巧みに議員のスクープを掴み記事にしようとする。
しかし最後に政治力でボツにされ、頭に来て記者を辞めてしまう。

そうしたところに現れた幼馴染のグレース。
どうやら広告業界の大物ハリソン・ヒルと不倫関係にあるらしい。
その彼女がヒルを懲らしめると息巻いていたまま変死体となって発見される。
事件の匂いを嗅ぎつけたロウィーナはさっそく彼に接近する。

ヒルとロウィーナの息詰まるやり取り。
最後の最後にヒルの悪事をあばきめでたし、めでたし・・・
となるかと思っていたのだが・・・
途中でなんども挿入されるロウィーナの過去の一シーン。
何のことやらよくわからなかったが、最後に意外なストーリーが隠されていた。
驚いたままエンディング。
しかし、さらに付け加えて「その後」を暗示されるラスト。

けっこう練りに練ったストーリーであり面白い。
面白いのであるが、大絶賛というレベルではない。
まあ「ヒネリが入っていてよかったかなぁ」という感じなのだ。

ブルース・ウィリスも「ダイハード」などとは違った静かな役柄なのであるが、この映画では大物脇役なのだ。ハル・ベリーももともと美人だがパーテイードレスをまとうと一層それが引き立つ。「X−MEN」ともまた違うイメージでいいのだが、どうもここではそれだけのような感じがする。

面白いのだが何かが星一つ足りない気がする映画である・・・


評価:★★☆☆☆





posted by HH at 21:47| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | サスペンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月24日

【アポカリプト】My Cinema File 308

Apocalypto.jpg


原題: Apocalypto
2006年 アメリカ
監督: メル・ギブソン
出演: 
ルディ・ヤングブラッド:ジャガー
ダリア・ヘルナンデス:セブン
ジョナサン・ブリューワー:ブランテッド
モリス・バードイエローヘッド:フリント・スカイ
ヘラルド・タラセーナ:ミドル・アイ
ラオウル・トルヒーヨ:ゼロ・ウルフ

<シネマトゥデイ>
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マヤ文明後期の中央アメリカのジャングルを舞台に、妻子や仲間とともに平和に暮らしていた青年の過酷な運命を描くアドベンチャー・スリラー。監督は『パッション』で世界中に衝撃を与えたメル・ギブソン。映画経験のない若者たちをキャスティングし、全編マヤ語で前人未踏の映像世界を作り上げる。ジャングルの生活をワイルドに描いた前半から一転、敵から逃れようと、ひたすら走り続ける主人公の青年の、手に汗握る奮闘に注目。
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マヤ文明後期の中央アメリカ。ジャガー・バウは部族長の父や妻、幼い息子、仲間たちとともに平和な日々を送っていた。しかしその平和は突然崩れ去ってしまう。村がマヤ帝国の傭兵に焼き討ちされたのだ。目の前で父を殺されたジャガーは、捕まって都会へと送られる。各地で捕縛された人間が奴隷として売り買いされる都会。そこで彼を待っていた運命は、あまりにも過酷なものだった・・・

メル・ギブソンといえば「マッド・マックス」でアクションスターとして強烈な印象を残し、「リーサル・ウエポンシリーズ」のハチャメチャな主人公も大当たりで、好きな俳優の一人でもあるが、この作品では監督。
前作「パッション」も監督だったが、これから監督路線になるのだろうか・・・

観始めて驚くがこの映画は英語ではない(マヤ語だそうである)。
アメリカ人は映画の中では世界中の誰もが英語を喋っていると思っているのかと思いきや、ここらあたりがギブソン監督の持ち味なのかもしれない。

「文明が征服される根本原因は内部からの崩壊である」
冒頭で出る意味ありげな言葉。そしてジャングルの中での狩りのシーン。仲間たちと獲物を仕留める。その場で解体する。残酷なようであるが自然の中で人間も動物も公平に生きている証のようにも思える。のろまな仲間をからかい、笑いの溢れる村。
しかし「村が襲われた」と言って逃げていく別の村の者達の姿がジャガー・バウの脳裏に強く残る。見知らぬ恐怖が付きまとう。それが現実となる朝・・・

なんとか家族を古い井戸の中に隠すが、自身捕まってしまうジャガー・バウ。
目の前で父親を殺され、井戸に垂らしたロープも切られてしまう。
仲間と共にいずこかへと連行される。
そこで待ち受けていたのは生贄となる運命。

たやすく「処理」される仲間達・・・
残酷なシーンであるが、冒頭の狩りのシーンと対比させると実はそうではないのかもしれない。彼らの文明では「残酷」という言葉は存在しない。「残酷」という言葉は現代文明そのものなのかもしれない、などと思いを巡らす。

古井戸で脱出できないであろう家族が気になるバウ。
しかし自分の運命も風前の灯・・・
そこからの脱出劇。
ジャングルの中で追う者だった男が追われる者となる。
生き延びて家族を助けなければいけない。

迫力ある逃走劇は後半の見所だ。
自分の森。
父が狩りをし、子供達がやがて狩りをする森。
恐怖に打ち勝ち力強く生き残ろうとするバウ。

「アポカリプト」とは新たな始まりという意味だそうである。
メル・ギブソン監督のメッセージがひしひしと伝わってくる映画である・・・


評価:★★★☆☆








posted by HH at 11:32| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする