2009年03月31日

★【ブレイブワン】My Cinema File 370

ブレイブワン.jpg

原題: The Brave One
2007年 アメリカ=オーストラリア
監督:  ニール・ジョーダン
出演: 
ジョディ・フォスター:エリカ・ベイン
テレンス・ハワード:ショーン・マーサー刑事
ナビーン・アンドリュース:デイビッド・キルマーニ
ニッキー・カット:ビタール刑事
メアリー・スティーン・バージェン:キャロル

<シネマトゥデイ>
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婚約者との幸せな未来を夢見ていたヒロインが、暴漢に襲われて婚約者を亡くしたのを機に、悪に制裁を加える“処刑人”と化すサスペンス・スリラー。監督は『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダン。2度のアカデミー主演女優賞に輝く名女優ジョディ・フォスターが主演と製作総指揮を務めている。共演は『ハッスル&フロウ』のテレンス・ハワード。銃を片手に悪をけ散らすヒロインの変ぼうと、ラスト15分に用意された衝撃の結末に注目だ。
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世の中は理不尽である。
正しく生きていれば常に幸せが訪れるというわけではない。
「なぜ」という疑問と共に突然の災難に襲われる事は珍しい事ではない。
そんな悲劇がエリカ・ベインに襲い掛かる。

結婚式を間近に控え慌しい中にも幸せな日々。
ラジオのパーソナリティとしての仕事も充実している。
婚約者と何気なく出かけた犬の散歩。
そして突然暴漢たちに襲われる。

意識を失って病院に運び込まれる。
救急医療スタッフらが血まみれの衣服を剥ぎ取る最中、無意識の中で婚約者にベッドで服を脱がされる夢を見るエリカ。
夢と現実の対比が物悲しい。

退院してもショックで外出もままならない日々。
ようやく外出できるようになって一丁の銃を買い求める。
偶然居合わせたコンビニで店員を射殺した強盗をその銃で射殺してしまう。
それからエリカの銃が社会の悪者に向けられる。
この映画は復讐の映画である。

この映画は復讐の映画ではあるが、よくあるような勧善懲悪ものではない。
主人公が天に代わって悪を成敗するというものでもない。
目線は常にエリカという暴力には抵抗力のない弱者のものだ。
そして弱者には頼りであるはずの警察もあまりにも事件が多すぎるのか、個々の事件にはどこかよそよそしく機械的で無機質な対応しかしてくれない。
結局は他人事なのかという絶望感に打ちのめされる。

違法な復讐には常に賛否両論が対立する。
エリカの番組にもそうした視聴者の声が届く。
だがそれらはすべて無責任な第三者の声でしかない。
いずれの声もどこか上っ面を撫でるだけで妙案などないのだ。

正義はどんな手段であっても正義として正しいのか。
悪法もまた法なりなのか。
エリカに親身になるマーサー刑事。
同情を寄せつつも連続して起こる正義の殺人犯が彼女なのか。
法を守る立場としてどう対応すべきか。
善悪の対決と葛藤。
ラストは決して後味の悪いものではない・・・


評価:★★☆☆☆







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2009年03月30日

【夜の女たち】My Cinema File 369

夜の女たち.jpg

1948年 日本
監督: 溝口健二
出演: 
田中絹代:大和田和子
高杉早苗:君島夏子
角田富江:大和田久美子
宮本民平:大和田康二
藤井貢:栗山謙造
永田光男:平田修一
槙芙佐子:婦人記者
林喜美枝:闇の女

<映画.com>
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「情炎(1947)」「女優(1947)」の原作者久板栄二郎の『女性祭』(日本小説所載)を依田義賢が脚色し「女優須磨子の恋」につぐ溝口健二の監督で、カメラは杉山公平。主演は「女優須磨子の恋」「不死鳥」の田中絹代、銀幕を引退していた高杉早苗が数年振りで特別出演する外、東童の角田富江の映画初出演、それに宮本民平、槙芙佐子らが助演する。
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敗戦後の大阪の街は、未帰還の夫を待つ大和田和子に冷たかった。今日も、幼児結核のわが子に牛乳を飲ませるため着物を売りに行くと、店のおかみは「金が欲しいおまんのやったら」とめかけをすすめるのだ。看護のかいもなく子供は死んだ。折も折、夫の戦死が戦友平田によって伝えられた。和子は平田の社長栗山の秘書となり、大和田家を出てアパートに住んだ。和子の実妹君島夏子は北鮮から引揚げてダンサーをしながら姉を探していたが、偶然心斎橋で出会い姉妹は手を取り合って喜んだ・・・

この映画が創られた1948年といえば戦後わずか3年。
当時の様子は画面を通して伝わってくる。
そういう「歴史の記録」としても古い映画というのは貴重だと思う。

冒頭で看板が写される。
「警告 日没後此の附近で徘徊する女性は闇の女と認め検挙する場合がありますから善良な婦女は御注意願ひます 西成警察署」
実際、当時はこんな看板が建っていたのだろう。
なんとも風情がある、といえば言いすぎであろうか。

映画は戦後の混乱期、必死に生きる女たちのストーリーである。
出征した夫を待つ和子。
幼児結核の我が子を抱えて義母、義兄家族と暮らす様は苦労が伺える。
やがて夫の戦死がわかり子供も亡くなると家にも居辛くなる。
余計な食い扶持だからである。
社長秘書の働き口を見つけるが結局は妾なのである。

大陸から引き上げてきた妹はダンサーとして暮らしている。
ダンサーといっても客と一緒に踊るもので、ステージで踊るわけではなくちょっとギャップがある。
結局は男に媚を売って生きる商売。

社会全体が戦後の貧しさの中で飢えを抱えている。
その中にあっては善意は目立たず、生き馬の目を抜く有り様だけが際立つ。
男も女も人の事より自分の事。
生き抜くためには他人に手を貸すゆとりなどない。

そんな世間の厳しい風とその中にあっても助けの手を差し出す動き。
最後は売春婦から足を洗おうと必死になる主人公の姿を通して、当時の社会へ訴えかけた強いメッセージが感じられる。
フィクションではあるが、立派な歴史映画と言える一作である・・・


評価:★★☆☆☆





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2009年03月29日

【4分間のピアニスト】My Cinema File 368

4分間のピアニスト.jpg

原題: Vier Minuten
2006年 ドイツ
監督・脚本 : クリス・クラウス
出演: 
ハンナー・ヘルツシュプルング:ジェニー・フォン・レーベン
モニカ・ブライブトロイ:トラウデ・クリューガー
スヴェン・ピッピッヒ:ミュッツェ
リッキー・ミューラー:コワルスキー
ヤスミン・タバタバイ:アイゼ

<シネマトゥデイ>
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無実の罪でとらわれた天才ピアニストが自分の才能を信じてくれる女性教師との出会いを通して、再び人生の輝きを見出すまでを描く感動作。世代の違う2人の女性の、まったく異なるピアノへのアプローチを丁寧に映し出す。ドイツの名女優モニカ・ブライブトロイは入念なメイクで老年のピアノ教師役に挑戦。オーディションでこの役を獲得した新人のハンナー・ヘルツシュプルングと息の合った迫真の演技をみせる。4分間だけ演奏することを許された、ヒロインの驚きの演奏に言葉を失う。
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女子刑務所でピアノを教える事となったクリューガー。
レッスンを受けに来るのはピアノとは無縁であったであろう受刑者とかちょっと危なそうな看守であったり。
そんな中で一際反抗的だがきらりと光るものを感じさせる少女ジェニーと出会う。

たぶん父親との関係がうまくいかず、それゆえにまともな生活環境(であったであろう)からドロップアウトしてしまったジェニー。
そんな中でもかつて弾き鳴らしていたピアノに対する未練と疼く才能が、頑固で厳しいクリューガーのレッスンを受け入れさせる。

ストーリーはクリューガーとジェニーの交流だ。
刑務所という限られた空間。
コンサート出場という目標。
同房の囚人たちとの軋轢。
様々な事件がおこる中でコンサートの日時は迫る。

一方で年老いたクリューガーもまた秘めた過去を持つ。
強烈な青年時代は第2次大戦の最中。
ピアノを弾きつつ看護婦として従軍する日々。
衝撃の事件。
過去と現在を対比しつつ、クリューガーとジェニーとを対比する。

紆余曲折して向えたコンサート。
タイトルにある4分間の演奏は圧巻だ。
ドイツらしい映画である。


評価:★★☆☆☆







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2009年03月28日

【サッドヴァケイション】My Cinema File 367

サッドヴァケイション.jpg

2007年 日本
監督・原作・脚本 : 青山真治
出演: 
浅野忠信:白石健次
石田えり:間宮千代子
宮崎あおい:田村梢
板谷由夏:椎名冴子
中村嘉葎雄:間宮繁輝
オダギリジョー:後藤

<映画.com>
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中国からの密航者を手引きする健次は、父親を亡くした少年アチュンを引き取ることに。職業を変え、アチュンや幼馴染の男の妹ユリと家族のような共同生活を送っていたある日、健次はかつて自分を捨てた母親・千代子に再会する。捨てられた恨みを果たすため、母と共に暮らし始める健次だったが……。青山真治が自身の代表作「Helpless」「EUREKA ユリイカ」に続く“北九州サーガ”の集大成として作り上げた1作。前2作と共通する人物も多数登場。
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北九州市、若戸大橋のたもとにある小さな運送会社。社長の間宮は、かつてバスジャック事件の被害にあった梢のほか、様々な理由から行き場のない人たちを住み込みで雇っていた。ある日、妻、千代子がかつて捨てた男との間に出来た息子の健次が会社に現れた。千代子は健次と、妹分で知的障害者のゆりを家に住まわせ、間宮はそれを快く受け入れた。一見、楽しげに働くフリをしながら、健次は母への復讐を狙っていた・・・

気のせいかもしれないが、最近は日本の映画の数が増えている気がする。
それも観てみたい、と思わせられるようなものだ。
この映画もそんな一本だ。

物語はいきなり怪しげに始る。
どうやら密入国の手引きをしているらしい二人の若者。
その中にいた行き場のない中国人の少年を引き取って暮らし始める健次。

不思議な雰囲気をもった映画だ。
最初は何の映画だかさっぱりわからなかった。
次々に現れる登場人物たち。
脈絡なく展開されるストーリー。
しかし、やがてそれが健次を主人公とした物語へと収束されていく。

めちゃくちゃ濃い九州弁(博多弁なのだろうか)で全編展開される。
都会の洗練された雰囲気などかけらもない。
九州男児そのままの健次。
博多の人間は男も女もこってりとした血液が流れているのではないだろうかと思わせられる。

そして健次よりも時として強烈な光を放つ母千代子。
突然姿を見せた健次をためらいなく受け入れる。
徹底的に受け入れる。
現実を徹底的に受け入れるその姿勢は凄みがある。
九州男児健次の存在自体すら飲み込んでしまうオーラを輝き放つ。
いったいこの映画、主人公はどっちなんだろう。

健次を演じるのは浅野忠信。
映画で観るのは「母べえ」についで二作目だ。
どちらも朴訥とした青年役だが、これがこの人の性格なのかたまたまの役柄なのか。
石田えりの存在感も見逃せない一作である。


評価:★★☆☆☆





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2009年03月23日

【サイドカーに犬】My Cinema File 366

サイドカーに犬.jpg

2007年 日本
監督: 根岸吉太郎
出演: 
竹内結子:ヨーコ
古田新太:近藤誠
松本花奈:近藤薫
ミムラ:近藤薫(20年後)
鈴木砂羽:近藤良子
トミーズ雅:浜口
温水洋一:増田治五郎
樹木希林:増田トメノ
椎名桔平:吉村

<シネマトゥデイ>
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芥川賞作家、長嶋有のデビュー作を映画化した、心温まるヒューマンドラマ。『雪に願うこと』の根岸吉太郎監督が1980年代の夏を舞台に、内気な少女と破天荒な女性の心の交流を優しくつづる。2年ぶりの映画出演となる竹内結子がヒロインを好演し、さばさばした勝ち気な女性という役でこれまでにない魅力を発揮。子役の『ハリヨの夏』の松本花奈と息の合った芝居をみせる。等身大の登場人物たちの悩みや苦しみが共感を呼ぶ。
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不動産会社に勤める薫は、ある朝ふいに1週間の有給休暇をとった。馴染みの釣堀で釣り糸をたらしながら、ふと、父が会社を辞め、母が家を出て行った数日後のことを思い出した。ヨーコさんという女性が家に来るようになった。たばこをスパスパ吸い、自転車を乗り回し、夕食には、「エサ」と言って麦チョコを食べさせる、破天荒な人だった。しかし、子供と対等に向き合って話をしてくれるヨーコさんを薫は好きになっていく…

原作は芥川賞の候補にもなったという長嶋有という作家の小説。
タイトルは主人公の少女が回想シーンで犬がすましてサイドカーに乗っているのを見て、その凛々しさに私もああなりたいと思ったところから来ている。

映画は20年前の少女時代に父の愛人であった女性との交流を思い出すという内容である。
父の愛人を演じるのが竹内結子。
どちらかというと清楚な感じの役柄が多いが、ここではタバコをスパスパと吸い、男にも物怖じしない破天荒な女性として登場する。

30歳の薫が回想する20年前。
20年と言う歳月は長いようでいてそんなに昔ではない。
街の様子も「ALWAYS 三丁目の夕日」ほどの時代考証は必要ない。
しかし、車だったりコカ・コーラの缶だったりという細かいディーテールに「考えているな」と思わせられるところがある。

ドラマとは直接の関係はないが、舞台とされているのが東京都国立市。
今は取り壊されてしまった国立駅やそこから延びる大学通りもさりげなく移っている。
国立といえば「山口百恵が住んでいる街」なのであるが、竹内結子が「百恵ちゃんの家を見に行こう」というシーンがある。国立に行けば一度は見学に行くものであるが、どうも作者はそこらへんが詳しいようである。そして「三浦友和にギターを教えた男」忌野清志郎の歌が挿入歌というのも国立つながりと言えそうだ。

ドラマの見所は、それまで母親によって決められていた世界を10歳の少女が破っていくところだ。たぶん普段はあまり食べられなかった麦チョコをヨーコさんはなんのためらいもなく何袋も買い物籠に放り込む(しかも国立の紀伊国屋スーパーでだ)。
それをカレーのお皿に入れて出されたりする。
お母さんなら目を向いてしまう事を10歳の薫は理解している。
コーラなんかも飲んではいけないと言われていたのだろうし、他人の家の庭に黙って入り込んだりする事も、だ。
自転車の乗り方も教えてくれて、次第に自分の世界が広がっていく薫。

そんな薫だが愛人がどういう存在なのかわかるはずもなく、いつもあっけらかんとしていたヨーコさんが突然涙ぐんだ理由もわかるはずもない。
家出していた母親が突然帰って来てヨーコさんと取っ組み合いの喧嘩をする理由も然りだ。
突然誘われてついて行った伊豆。
何でヨーコさんはそこに行こうと言ったのかも子供にはわからない。

30歳になった薫が社会の現実と向き合う中で、ふと思い出すヨーコさん。
大人になった薫が20年たってもヨーコさんを思い出すのは、きっと今度は同じ大人の女としてヨーコさんと話をしたてみたいと思ったからなのかもしれない。
芥川賞候補となったのもなんだか頷ける気がする。

竹内結子は破天荒な役柄でもやっぱり竹内結子であり、ファンとしても楽しめる一作である・・・


評価:★★☆☆☆







posted by HH at 23:10| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする