
2008年 日本
監督: 神山征二郎
出演:
渡辺大:戸田順治
脇崎智史 :近藤宏
柄本明:飛田穂洲
石坂浩二:小泉信三
藤田まこと:田中穂積
富司純子:戸田しず江
柄本佑:黒川哲巳
原田佳奈:若杉トモ子
<STORY>********************************************************************************************************
昭和18年。戦争が激化する中、練習に励む早稲田大学野球部の若者たち。六大学野球はすでに解散が決定しており、来るべき学徒出陣に備えるように圧力がかけられていた。そんな中、顧問の飛田のもと選手たちは、出陣のその日まで野球を続けると誓っていた。部員の戸田は父親から厳しく詰られながらも、兵隊に志願した兄の言葉を胸に、合宿生活を続けていた。そんなある日、慶應の小泉が飛田のもとに早慶戦を申し込みにやってくる…
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戦時下の東京。
戦争が激化する中で野球を続けていく事が難しくなっていく学生たち。
すでに六大学野球は解散が決定し、試合の機会もないまま練習をする学生たち。
そして学徒出陣が決まる中で、「試合をしたい」という学生たちの希望から実現した1943年10月16日の早慶戦を描いた映画である。
映画は早稲田側から描かれる。
主人公の戸田は野球部員。
兄が志願して陸軍に入隊。
なのにいまだ野球をやっているため、父親からは厳しい言葉を浴びせられる。
一つには戦時下において野球などという「玉遊び」をやっている事に対して、そしてもう一つは野球という「敵性(アメリカの国技)スポーツ」である事に対してである。
スポーツをやっていて試合ができないという事ほど辛いものはない。
精神論的には試合などやらなくても練習によって鍛えられるという事が言えるのだろうが、やはり練習は試合のためであり、試合なくしては練習に対するモチベーションも維持する事が難しいのである。映画は戦時下という逆風下で何とか試合を実現しようとする関係者と部員の動きを追う。
早大側では野球部の飛田顧問は推進派であるが、総長は軍部・文部省の顔色を気にして開催に反対する。どこにでもいつの時代でもこういう「顔色」を気にする人たちはいる。
慶応は小泉塾長が推進派であり問題ない。
徴兵検査の日程が刻一刻と迫る中、ギリギリまで交渉は続く。
また学生たちも不安の日々を過ごす。
試合ができないのであれば、故郷に帰って親兄弟とのひと時を長く持てる。
そして実際、慶応側は決まればすぐに呼び戻すと学生たちを故郷に返す。
腹を括った飛田顧問が野球部単独で試合をする事を決めてしまう。
その熱意と早大総長の対応には胸が熱くなるものがある。
この手の映画はどうしてもお涙頂戴狙いで、ことさら悲劇性を訴えるものが多い。
「出口のない海」も戦争で野球をあきらめ学徒出陣で海軍に入隊した若者を描いていた。
この映画のその後の学生たちの姿と言えるのかもしれない。
しかしながら、ここでは野球をやりたい、そしてやらせたいという思いが観る者の胸を打つ。
普通に試合ができるという事がどんなに幸せな事か、を実感させてくれる。
2年後の1945年秋、終戦を受けて早慶戦が再開されたが、関係者がボールを防空壕に持ち込んで保存するなどの苦労があったようである。
ただ、戸田をはじめとした何人かの選手にとっては、これが最後の早慶戦になったとの事である。普通に試合ができる幸せを味わうべき映画である・・・
評価:★★★☆☆