2009年11月29日

【ラストゲーム最後の早慶戦】My Cinema File 486

最後の早慶戦.jpg
 
2008年 日本
監督:  神山征二郎
出演: 
渡辺大:戸田順治
脇崎智史 :近藤宏
柄本明:飛田穂洲
石坂浩二:小泉信三
藤田まこと:田中穂積
富司純子:戸田しず江
柄本佑:黒川哲巳
原田佳奈:若杉トモ子

<STORY>********************************************************************************************************
昭和18年。戦争が激化する中、練習に励む早稲田大学野球部の若者たち。六大学野球はすでに解散が決定しており、来るべき学徒出陣に備えるように圧力がかけられていた。そんな中、顧問の飛田のもと選手たちは、出陣のその日まで野球を続けると誓っていた。部員の戸田は父親から厳しく詰られながらも、兵隊に志願した兄の言葉を胸に、合宿生活を続けていた。そんなある日、慶應の小泉が飛田のもとに早慶戦を申し込みにやってくる…
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戦時下の東京。
戦争が激化する中で野球を続けていく事が難しくなっていく学生たち。
すでに六大学野球は解散が決定し、試合の機会もないまま練習をする学生たち。
そして学徒出陣が決まる中で、「試合をしたい」という学生たちの希望から実現した1943年10月16日の早慶戦を描いた映画である。

映画は早稲田側から描かれる。
主人公の戸田は野球部員。
兄が志願して陸軍に入隊。
なのにいまだ野球をやっているため、父親からは厳しい言葉を浴びせられる。
一つには戦時下において野球などという「玉遊び」をやっている事に対して、そしてもう一つは野球という「敵性(アメリカの国技)スポーツ」である事に対してである。

スポーツをやっていて試合ができないという事ほど辛いものはない。
精神論的には試合などやらなくても練習によって鍛えられるという事が言えるのだろうが、やはり練習は試合のためであり、試合なくしては練習に対するモチベーションも維持する事が難しいのである。映画は戦時下という逆風下で何とか試合を実現しようとする関係者と部員の動きを追う。

早大側では野球部の飛田顧問は推進派であるが、総長は軍部・文部省の顔色を気にして開催に反対する。どこにでもいつの時代でもこういう「顔色」を気にする人たちはいる。
慶応は小泉塾長が推進派であり問題ない。
徴兵検査の日程が刻一刻と迫る中、ギリギリまで交渉は続く。

また学生たちも不安の日々を過ごす。
試合ができないのであれば、故郷に帰って親兄弟とのひと時を長く持てる。
そして実際、慶応側は決まればすぐに呼び戻すと学生たちを故郷に返す。
腹を括った飛田顧問が野球部単独で試合をする事を決めてしまう。
その熱意と早大総長の対応には胸が熱くなるものがある。

この手の映画はどうしてもお涙頂戴狙いで、ことさら悲劇性を訴えるものが多い。
「出口のない海」も戦争で野球をあきらめ学徒出陣で海軍に入隊した若者を描いていた。
この映画のその後の学生たちの姿と言えるのかもしれない。
しかしながら、ここでは野球をやりたい、そしてやらせたいという思いが観る者の胸を打つ。
普通に試合ができるという事がどんなに幸せな事か、を実感させてくれる。

2年後の1945年秋、終戦を受けて早慶戦が再開されたが、関係者がボールを防空壕に持ち込んで保存するなどの苦労があったようである。
ただ、戸田をはじめとした何人かの選手にとっては、これが最後の早慶戦になったとの事である。普通に試合ができる幸せを味わうべき映画である・・・


評価:★★★☆☆






posted by HH at 13:48| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月28日

【スピードレーサー】My Cinema File 485

スピードレーサー.jpg

原題: Speed Racer
2008年 アメリカ
監督 : ラリー&アンディ・ウォシャウスキー
出演 :
エミール・ハーシュ:スピード・レーサー
スーザン・サランドン:ママ・レーサー
ジョン・グッドマン:パパ・レーサー
クリスティーナ・リッチ:トリクシー
マシュー・フォックス:レーサーX
ロジャー・アラム:ローヤルトン
真田広之:ミスター・武者
RAIN:テジョ・トゴカーン

<STORY>********************************************************************************************************
レーシング一家に育ったスピードは、レース事故で死んだ兄の遺志を継いでレーサーとなり、地元のレースでぶっちぎりの優勝を果たした。その才能に目をつけたローヤルトンからスポンサーの申し出を受けるが、家族と共にレースに出ることを望みこれを断る。するとローヤルトンの態度が一変、すべてのレースは八百長で、スピードは勝てないと言い放つ。その言葉を証明するようにレースでの妨害が始まり…
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子供の頃大好きだったアニメ「マッハGoGoGo」。
それが実写映画化されたのがこの作品。
今でも「♪風も震えるヘアピンカーブ〜♪」という主題歌は自然と口から出てくる。
どんな映画だろうかとワクワクして観た。

いきなり原色溢れる映像で面食らう。
CGをフル活用していかにも漫画チックな展開。
主人公の名前こそ三船剛ではなく、「スピード・レーサー」となっているが、家族構成は原作そのまま。観ていくうちにだんだんと思い出していく。

純粋に亡き兄の面影を追って走るスピード・レーサーに対し、豊富な資金力を有するロイヤルトングループからスポンサーの申し出がある。
金に糸目をつけぬ設備に目を見張るレーサー一家であるが、断った途端に妨害が始まる。
そしてスピードはあるミッションを背負って兄が命を落とした危険なラリーに出場する。

見所はなんと言ってもマッハ号でのレースだろう。
マッハ号もほとんど原作通りで、白い車体にトレードマークであるMマーク。
ハンドルについたアルファベットのボタン。
押すと様々な機能が使える。
Aボタンを押すと車体の下部からジャッキが出る。
走行中に押せばジャンプする。
嬉しい事にジャンプした時の効果音が当時のアニメと一緒だ。
これは泣かせる。

様々な妨害と烈しく車体をぶつけ合うレース展開。
主人公も名前こそ違えど服装も原作通りだし、謎の覆面レーサーもそのまま登場し、違和感どころか当時の記憶が次々と蘇る。
「マッハGoGoGo」をリアルタイムで見ていた世代には嬉しいだろう。
日本語のアナウンサーやアニメなどもちらほら登場し、原作日本へのオマージュも見て取れる。エンドクレジットでは懐かしい主題歌も冒頭部分が流され、気持ち的にウルウルする。単純なハッピーエンドムービーであり楽しく観られる映画である・・・


評価:★★★☆☆





posted by HH at 11:34| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | アクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月23日

【東京暮色】My Cinema File 484

東京暮色.gif


1957年 日本
監督: 小津安二郎
出演: 
笠智衆:杉山周吉
有馬稲子:杉山明子
信欣三:沼田康雄
原節子:沼田孝子
森教子:堀田道子
山田五十鈴:相島喜久子

<STORY>********************************************************************************************************
定年もすぎて今は監査役の地位にある銀行家杉山周吉は、都内雑司ケ谷の一隅に、次女の明子とふたり静かな生活を送っていた。長女の孝子は評論家の沼田康雄に嫁いで子供もあり、あとは明子の将来さえ決まれば一安心という心境の周吉だが最近では心に影が芽生えていた。それは明子の帰宅が近頃ともすれば遅くなりがちで、しかもその矢先姉娘の孝子までが沼田のところから突然子供を連れて帰ってきたからだ・・・
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父と二人の娘の物語である。
父親はもうお馴染みの笠智衆、娘は原節子とくると、「晩春」の続きと言えなくもない。
やっぱりおせっかいで口達者なおばさんとして杉村春子が出てきて、お見合いの世話を焼くし、「晩春」で嫁に行った父娘のその後と想像してみるのも悪くはない。

もっとも今回は、そこに妹が加わる。
この妹が男と付き合い、そして妊娠してしまう。
男は学生だし、「どうするの?」と聞いても「困っちゃうなぁ」というだけで誠に頼りない。
時間が経てばお腹は大きくなる。
解決につながるとは思えないものの、会うのを避けるようになった男を追いかけて、帰宅も遅くなる。

そんな妹を父親は案じるが、問いただしても何も答えない。
姉は夫とうまくいかず、子供を連れて戻ってきてしまう。
「無理に(夫を)押し付けて悪かった」と娘に謝る父。
たぶん、「晩春」のように年頃の娘を案じて、これぞと思う男と見合いをさせ嫁がせたのだろう。親の心配と思いやりが必ずしも実を結ぶとは限らない。

そして恋人の子供を身ごもってしった妹。
当時今のような避妊用具はまだなかったのではないかと思うが、「傷モノ」という言葉が生きていた時代だろうし、堕胎した妹がそうとは知らない姉に向って「結婚などできない」と呟くところが世相を現していると言える。
そして姉は姉で、それを結婚に失敗しつつある自分を見ての事だと勘違いするのである。

姉妹の母親は、その昔父の部下と逃げてしまったという過去がある。
父はその事については語らないが、家族間でその話はタブーとなっているようである。
自分にもそんな汚らわしい血が流れているのではないかと悩む妹。
そして事件が起こる・・・

各人の思いが交差し、これまでのようなほのぼのとした余韻を残す事なく映画は終わる。
暗い場面に不釣合いなひょうきんなBGMは意図的なものであろうか。
生きるだけで精一杯だった時代から、悩みを抱えて生きる時代への移行を表しているような映画と言えるのかもしれない映画である・・・


評価:★★☆☆☆





posted by HH at 17:52| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 小津安二郎監督作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月22日

【早春】My Cinema File 483

早春.jpg

1956年 日本
監督: 小津安二郎
出演: 
池部良:杉山正二
淡島千景:杉山昌子
浦辺粂子:北川しげ
田浦正巳:北川康一
宮口精二:たま子の夫・精一郎
高橋貞二:青木大造
岸惠子:金子千代
笠智衆:小野寺喜一

<STORY>********************************************************************************************************
杉山正二は蒲田から丸ビルの会杜に通勤しているサラリーマンである。結婚後八年、細君昌子との仲は倦怠期である。毎朝同じ電車に乗り合わせることから、いつとはなく親しくなった通勤仲間の青木、辻、田村、野村、それに女ではキンギョという綽名の金子千代など。退社後は麻雀やパチンコにふけるのがこのごろでは日課のようになっていた・・・
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昭和31年の小津映画である。
主人公はサラリーマン。
夫婦関係と浮気とサラリーマン生活を描いた内容となっている。
昭和31年となると世の中も「もはや戦後ではない」と言われた時代。
暗い世相は影を潜め、あちらこちらに現代に通じる平和の証が見て取れる。

主人公の杉山は丸の内に通うサラリーマン。通勤仲間たちと仕事帰りに麻雀をしたり、休日にハイキングに行ったりしている。そんな彼が仲間の一人千代に誘われるがまま、一夜の関係を持ってしまう。勘の鋭い女房に発覚し、女房は家を出る。一方会社からは転勤を打診され、千代からはさらなる関係を要求され、あれこれと考えた末に転勤を受け入れる。そして夫婦関係も修復する。そんなストーリーを諸々交えて庶民感覚で語るいつもの小津映画となっている。

味わい深い展開とあわせて、やはり当時のサラリーマンの生活がどうしても興味深い。
冷房器具がないせいか家は玄関や窓を開け放し、開放的である。
ゴミの回収がなかなかこないとぼやく主婦。
今のように曜日が決まっていなかったようだ。
蒲田の駅に溢れるサラリーマン・OLたちの姿は、今の通勤風景の原型だ。
会社では各人のデスクに電話はなく、1台の電話をみんなで使っている。
組合が強く、転勤はあらかじめ本人に打診し了解を得ているようで、そんなところは今とは様子が違う。就業後にサラリーマン生活を「格子のない牢獄」とぼやくあたりは、すでにこの頃からあったようだ。

世の中はこれから高度成長期へと向う過渡期。
そんな中でのサラリーマンの生活振りが興味深い。
キスシーンも横からではなく、後から撮っているため本当にしているかどうかはわからない。
これも時代であろうか。

出演者もみなお馴染みだ。
笠智衆もちゃんと出ている。
淡島千景が気の強い女房として、今回は主役級で登場する。
ベテラン俳優の若かりし頃の映像として観ても面白い。
世相を現す映画としても楽しめる映画である。


評価:★★☆☆☆






posted by HH at 12:04| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 小津安二郎監督作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月21日

【レッドクリフ PartU】My Cinema File 482

レッドクリフ2.jpg

原題: 赤壁下:決戰天下、Red Cliff II
2009年 アメリカ=中国=日本=台湾=韓国
監督: ジョン・ウー
出演: 
トニー・レオン:周瑜
金城武:諸葛亮
チャン・フォンイー:曹操
チャン・チェン:孫権
ヴィッキー・チャオ:孫尚香
フー・ジュン:趙雲
中村獅童:甘興
リン・チーリン:小喬

<STORY>********************************************************************************************************
大軍を率いて赤壁へ進行してきた曹操軍。曹操は疫病で死んだ自軍兵を対岸の孫権・劉備連合軍の元へ船で流し、連合軍に疫病を蔓延させる。
これが原因で劉備軍は撤退、だが諸葛孔明だけは赤壁に残った。そんな中、孫権軍司令官・周瑜と孔明はお互いの首をかけての謀略を展開、周瑜は曹操軍2武将の謀殺、孔明は3日で10万本の矢の収集に成功する。やがて曹操軍に潜伏していた孫尚香が帰還、決戦へ向けて本格的な準備が始まり……。
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三国志の有名な戦いである「赤壁の戦い」を映画化した「レッドクリフ」の後編である。前後編で5時間という大作であるが、それぞれ独立して公開する以上それぞれに見所がないといけない。前編であるPART1はそれに十分応えた。そしていよいよクライマックスの後編である。

赤壁に面して陣を構えた丞相曹操の軍、その数80万人。対する孫権・劉備連合軍は5万。数の上では圧倒的に曹操軍が有利である。しかしながら、これは西暦208年と今から1,800年前のお話。記録がどのような形で残っているのか定かではないが、現実的にはこんなに差はついていなかったのではないかと思えてならない。80万人と言えば大人数だし、食料の確保だけでも大変だろう。兵站も原始的だっただろうし、これほどの大軍は維持できなかったのではないかと思う。歴史は常に勝者が残し、しばし戦果は過大表示されるものである。

それはさておき、映画は映画。
圧倒的な数の不利を仁義と勇気で押しのけようとする孫権・劉備連合軍。曹操軍が疫病の死者を送りつけるという疫病爆弾攻撃で劉備が戦線離脱するというハンディを孫権・劉備連合は負うが、諸葛孔明だけは一人仁義を重んじて残る。そして不足する矢10万本を調達する作戦に出る。
これがなかなかのナイスアイディア。漫画チックなところはあるが、思わず膝を叩いてしまった。現実的か否かはともかく、こういう発想が素晴らしい。

相手の実力者を謀略で亡き者にする作戦も楽しく観る事ができる。
数の不利を跳ね除ける作戦が展開される。
そしていよいよ両軍の衝突。
相変わらずの個々の将軍のスーパーマン的な活躍は愛嬌としても、かなり迫力のある戦闘シーンが展開される。

観ていて思うのは「一将成って万骨枯る」という事実だ。
最前線では多くの無名戦士たちが、次々と倒れていく。
そこには勝者も敗者もない。
ドラマチックな戦いは、各武将の超人的な活躍もあって連合軍の勝利に終わる。
「歴史上の史実」というよりは、それを基にした娯楽大作として単純に楽しめば面白い。

これから中国は映画大国としても台頭してくるのかもしれないと思わせられる映画である・・・


評価:★★★☆☆

   






posted by HH at 11:02| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする