2010年08月30日

【東京タワー〜オカンとボクと時々オトン】My Cinema File 600

東京タワー.jpg

2007年 日本
監督: 松岡錠司
原作: リリー・フランキー
脚本: 松尾スズキ
出演:
オダギリジョー: ボク
樹木希林: オカン
内田也哉子: 若い頃のオカン
松たか子: ミズエ
小林薫: オトン

<STORY>********************************************************************************************************
1960年代。3歳のボクは、遊び人のオトンを捨てたオカンに連れられ、小倉から筑豊のオカンの実家に戻ってきた。オカンは女手ひとつでボクを育てた。オカンの作る美味しいご飯を食べて、ボクは成長した。15歳になって、ボクはこの町を出て行きたくなった。大分の美術高校に入学し、東京の美大をなんとか卒業するが、仕事もせずに、仕送りしてもらい、更に借金を重ねていた。そんな中、オカンが癌に侵されていることが分かった・・・
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この原作本が話題となるまで、リリー・フランキーなる人物の事はまったく知らなかった。しかし、ほぼ同世代でしかも実は結構あちこちで活躍していた方のようである。作詞作曲からDJ、イラストレーター、絵本・小説作家等々ととても多才なようである。そんな著書が自らの母親を中心に語った自伝がこの映画である。

全編を通して流れるのは母親に対する深い愛情である。3歳の頃の両親の思い出から始り、母親の死までのストーリー。1960年代の小倉や筑豊の町並みは、うまく再現されている。「AALWAYS三丁目の夕日」以来、そういった映像には驚かないが、それでもやっぱり映画ならではの映像表現を満喫する。

遊び呆ける学生時代。酒にたばこに女にマージャンの日々。卒業だってできるわけなく、当然のように留年。オカンは一人で働きながら仕送りをする。親不孝この上ない学生時代。おまけに祖母の葬式も、送ってもらった交通費を使い込んで帰らずじまい。

そんな彼もとうとう目が覚める。今までの分を取り返すべく働く。切なくなるのは母親の想いだ。息子の大学の卒業証書を後生大事にしている。後々に入院した時は病室まで持ってきてもらう有り様だ。

夫と別居し、出戻りで居心地が悪かったであろう中、一人働いて息子を学校にやる。高校・大学と8年間だ。息子が卒業した時、自分がやり遂げた証と映ったに違いない。「貯金なんてないよ、みんなこれ(卒業証書)につぎ込んだもの」と語るオカンはあっけらかんとしつつもとても誇らしげ。そんな母の心が胸に染みわたる。

彼女にもオカンの話をするボクは、一歩間違うとマザコンだ。だが、互いに思い思われる母子の姿にしみじみとするものがある。男はどちらかと言うと親とはあまりベタベタしないものである。だが、そんなのはどこ吹く風とばかり、母親と暮らすボクは実はとても自分に正直に生きているのかもしれない。

自分と親との関係をちょっと見直してみたくなった。オダギリ・ジョーも樹希希林も良い味出している。観て損はない心揺さぶられる映画である・・・


評価:★★★☆☆


     
    



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2010年08月28日

【ミラーズ】My Cinema File 599

ミラーズ.jpg

原題: MIRЯORS
2008年 アメリカ
監督: アレクサンドル・アジャ
出演:
キーファー・サザーランド: ベン・カーソン
ポーラ・パットン: エイミー・カーソン
キャメロン・ボイス: マイケル・カーソン
エリカ・グラック: デイジー・カーソン
エイミー・スマート: アンジェラ・カーソン
メアリー・ベス・ペイル: アンナ・エシカー
ジョン・シュラプネル: ロレンツォ・サペッリ

<STORY>********************************************************************************************************
同僚を射殺して以来酒に溺れ、家族とも別居していた元刑事のベン。彼は人生たて直しの第一歩として夜警の仕事に就いた。巡回するのは火災で廃墟となったデパートだ。異様な雰囲気を持つその内部には、傷ひとつない巨大な鏡があった。引き寄せられるようにベンがそれに近づいた時、突然全身を激痛に襲われる。痛みの中で鏡を見ると、そこには焼けただれた女性の姿があった。この夜以降、ベンの周囲で奇怪な出来事が続発し……。
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ホラーは何か一つの小道具をキーとする事がある。最近では時代の流れか、「着信アリ」のように携帯を利用するものが目につくが、ここではタイトルにある通り鏡である。この鏡を使うというアイディアはなかなか面白い。しかも特定の鏡ではなく、いたるところにある鏡に連動しているというところもである。

舞台となるのが火災で閉店したデパート。ベンは元刑事だが、同僚を誤って射殺してしまい、それが元で休職し酒にも溺れる。妻子とは別居となり妹のところに転がり込んでいる。薬を飲みながらも社会復帰を目指し、そのデパート跡地の警備の仕事に就く。

深夜の巡回で、鏡に映る異様な人々を見る事になる。焼けただれて泣き叫ぶ姿を見て、異様な現象に戸惑う。鏡に映っているものが振り返るとそこには何もない、というのは鏡を使った恐怖だ。鏡に映った人物が実物と違う動きをすることも。そうした鏡の特性を生かした脅かしが前半はかなり使われていて、これは効果的だ。じわりじわりと恐怖を煽る。

ホラー映画は、一つにはその恐怖の原因追究というのもストーリーの王道だ。ここでもなぜ鏡が異常現象を引き起こすのか、主人公のベンが追及していく。しかしここから失速。恐怖の元が曖昧模糊となってしまう。なんとなくわかったようなわからないような・・・

そしてラスト。なんとなくこれが言いたかったんだろうと言う事はわかった。小道具もよく作ったと思う。しかし、結末というにはちょっと物足りない。「それで?」と一言付け加えたくなる。

「鏡に襲われる」なんて言ったら「頭がおかしくなったんじゃないの?」と普通は言われる。キーファー・サザーランドも必死に鏡の危険性を訴え、それでいて狂人扱いされる主人公を熱演している。途中までは良かったと思うのだが、台本がいまいちだったのだろう。

なかなか怖いホラーには巡り合えないと実感せざるを得ない映画である・・・


評価:★★☆☆☆
 

   



posted by HH at 22:47| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ホラー・オカルト・悪魔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月26日

【パニッシャー:ウォーゾーン】My Cinema File 598

パニッシャー.jpg

原題: Punisher: War Zone
2008年 アメリカ
監督: レクシー・アレクサンダー
出演:
レイ・スティーヴンソン: フランク・キャッスル(=パニッシャー)
ドミニク・ウェスト: ビリー・ルソッティ(=ジグソウ)
ジュリー・ベンツ: アンジェラ・ドナテッリ
コリン・サーモン: ポール・ブディアンスキー FBI捜査官

<STORY>********************************************************************************************************
法で裁けぬ凶悪犯を、たった一人で制裁を加える孤高のヒーロー“パニッシャー”ことフランク・キャッスル。彼の新たなターゲットは、ある巨悪な犯罪組織の中で最も邪悪なビリー・ルソッティ。居場所を突き止めたフランクは、その犯罪組織のパーティ会場とアジトに奇襲をかけビリーに死刑を執行する。しかし、その時誤ってFBI囮捜査官を殺してしまう・・・
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洋の東西を問わず法の網の目をくぐり抜け、悪の限りを尽くす輩というものはいる。そうした悪人に対して、人はいつか「天罰」が下ると思い、やり切れぬ思いを慰める。しかし得てしてなかなか天罰は下らぬもの。したがって、天に代わって悪を成敗するものが喝采を浴びる。我が国でも中村主水率いる必殺仕事人がいるが、ここで登場するのはアメリカンコミック発の「パニッシャー」。その名の通り「罰する人」である。

ここでのパニッシャーは謎の人物ではない。元特殊部隊出身のフランク・キャッスル。マフィアに家族を殺され、以来マフィアをターゲットにしている。そこに現れたのが悪の化身ビリー・ルソッティ。雑魚ばかりではヒーローの活躍も目立たない。それなりに難敵でないといけない。

悪も徹底的に悪でないといけない。初めはいい男だったビリーも一度パニッシャーに殺されかけて醜い顔にされる。その姿は「バットマン」のジョーカーを彷彿させる。弟が狂気を宿していて、二人合わせてジョーカーの輪郭にぴったりと重なる。

「ダークナイト」では、ジョーカーによって検事のデントとヒロインを同時に人質にとられ、バットマンはどちらか一方しか助けられないという状況に追い込まれる。どちらを救うかという苦渋の決断をさせられるバットマン。ここでもパニッシャーは同じような選択を強いられる。意識してかせずかはわからないが、似たような展開になるものなのだろうか。

それはともかく、パニッシャーは豪快だ。次から次へと悪人をなぎ倒す。銃で剣で、そして拳で。自動小銃の連射。悪人達がバタバタと倒されていく様はストレス解消にはもってこいかもしれない。

やはり最後に悪は滅びるのだという爽快感が残る。あまり深く考えずに楽しめるところがいい一作である・・・


評価:★★★☆☆


     




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2010年08月24日

【禅 ZEN】My Cinema File 597

禅.jpg

2009年 日本
監督・脚本 : 高橋伴明
原作: 大谷哲夫
出演:
中村勘太郎: 道元
内田有紀: おりん
藤原竜也: 北条時頼
村上淳: 懐奘
哀川翔: 松蔵
勝村政信: 波多野義重
笹野高史: 老僧
西村雅彦: 浙翁
高橋惠子: 伊子

<STORY>********************************************************************************************************
鎌倉時代。仏道の正師を求め、24歳で宋へ渡った道元。修行を積んで悟りを得た道元は、帰国して如浄禅師の教えを打ち立てることを決意する。周囲には次第に道元の教えに賛同するものが増えてくるが、それを妬んだ比叡山の僧兵の圧迫により、道元たちは越前へ移る。永平寺を建立して門徒たちの指導に励む道元のもとへ、ある日六波羅探題の義重が訪れた。時の執権・北条時頼を怨霊から救って欲しいというのだ。道元は求めに応じて、鎌倉へと向かう・・・
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曹洞宗の開祖である道元禅師の生涯を描いた映画。道元といえば「正法眼蔵」を書き、只管打坐を説いたというぐらいしか知識はない。なにせ800年前の鎌倉時代の事、その生涯といってもあまり残っているわけではない。しかも、残されているものといえば、道元を心酔する門下生が残したものだろうから、いきおい良いものしか残されないという事になる。したがって、その生涯を描いた映画といってもほとんどフィクションと考えるべきだろう。

そのフィクションにしても、あまりに道元を聖人化し過ぎている。一片の欠陥もない人間像というのもいかがなものかと思えてくる。しかも歌舞伎役者が大見え切った歌舞伎演技をしているとなると、平らな道を行くが如くである。波乱万丈がなく、映画としても面白味に欠ける。

では、その人となりより道元の説いた教えが、ぐっと胸に残るようならまだいいのだが、「只管打坐」と主張するだけで、もう少し丁寧に説明しないと、たぶん多くの人はわからない。怨霊の陰におびえる北条時頼を救いにわざわざ鎌倉まで行くものの、その教えを聞いていてもちっとも心が静まらない。説得力がないのである。

飢えから逃れたい一心で、寺に入って修行している若い僧がいる。内田有紀扮する娼婦おりんに「なぜ僧になったのか」と問われて、正直に「食べ物にありつくため」と答える。この方がよっぽど人間味がある。

僧は当然、妻帯禁止だ。この若い僧はおりんとキノコ採りに行き、思わず欲情して抱きついてしまう。おりんは驚くものの、あまり抵抗しない。僧は途中で正気に戻って自制するのであるが、その事で自分を責め、寺を出ていく。「色欲に負けました」と道元に告白するも、道元にだってそうした苦悩はあったはずだ。そうした人間らしさを描かなかった事が、どこか現実離れした感じを受けたところだ。

おりんが実にどろどろした浮世を体現していただけに、清く美しい教祖様の姿に興ざめしてしまったのである。娯楽としても、何か教えが得られる教材としてもどちらも中途半端だ。もう少し人間味溢れる教祖様だったら、面白かったのだと思う。残念な一作である・・・


評価:★★☆☆☆
    

   





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2010年08月23日

【ジェイコブス・ラダー】My Cinema File 596

ジェイコブスラダー.jpg


原題: Jacob's Ladder
1990年 アメリカ
監督: エイドリアン・ライン
出演: 
ティム・ロビンス: ジェイコブ・シンガー
エリザベス・ペーニャ: ジェジー
ダニー・アイエロ: ルイス
マット・クレイヴン: マイケル
プルット・テイラー・ヴィンス: ポール

<STORY>********************************************************************************************************
ある日のこと、突然地下鉄の車内でかつてのベトナムでの体験が蘇り、何者かに刺される夢を見た時から、ジェイコブ・シンガーの日常には奇妙な幻覚が交錯するようになった。見なれた風景にも違和感を覚え、現実感覚が失われたと訴えるジェイコブに同棲相手のジェジーは「それはニューヨークだからあたりまえ」とそっけない。が、化物の乗った車に轢き殺されそうになり、パーティーでは黒人女性に手相ではすでに死んでいるはずだと言われたジェイコブはついに高熱を出して、意識を失ってしまう。目覚めるとそこには別れたはずの妻や子供の姿が…。
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過去に観て強烈な印象が残っている映画というものがある。そんな映画は機会を見つけてもう一度観てみたいと思うものだ。この映画はそんな映画の一つ。20年前に観た時にやっぱり潜在意識に深く刻み込まれた印象深い映画である。

冒頭、ベトナムのジャングル。ほんの一時の和やかな時間を過ごす部隊の中にジェイコブはいた。大学出のインテリである彼は、仲間からプロフェッサー(教授)と呼ばれている。と、突然の敵の奇襲攻撃。味方は大混乱に陥り、ジャングルに一人逃れたジェイコブだったが、不意打ちの銃剣が彼の腹に深々と刺さる・・・

そして現代のニューヨーク。郵便配達をしてガールフレンドと同棲生活を送るジェイコブ。ところが何とも言えない不思議な現象が身の回りに起こり始める。話しかけても返事もしない人、化け物が乗っているかに見えた地下鉄に車。占い師には生命線からすればあなたはもう死んでいると告げられる。

ジェイコブ自身にもベトナムで負った心と体の怪我。妻には去られ、最愛の末っ子は事故死。そうした境遇が拍車をかける。当時はまだベトナム戦争だったが、今は差し詰めイラクなのだろう。腹部を刺されて以降の行動がフラッシュバックで挿入される。瀕死の重傷で発見され、担架で運ばれる・・・

戦場で負った心の傷が、今の生活にも深刻な影響を与えていると観る方は思う。亡くなった末っ子との思い出や、まだ家族団らんでいられた頃の夢を見るジェイコブの姿にちょっと悲しげな同情心が湧いてくる。あの頃の幸せは、どこでおかしくなってしまったのだろうかと観る方も思う。

タイトルにあるラダーとは麻薬のニックネーム。軍が開発し、階段(ラダー)から飛び降りるくらい効くという事からネーミングされたという。そんな麻薬が絡んでラストではちょっとスリリングな展開になっていく。

そして衝撃的なラストが、この映画を強烈に印象付ける事となる。2回目となると、さすがに衝撃ではなくなるわけであるが、ラストを知っていれば途中の経過も示唆に富んだものとなっていく。こういう映画はやっぱり2回観た方がいいな、とあらためて思わされたのである・・・

ちなみに、「ジェイコブス・ラダー」とは旧約聖書に出てくる天から地に至る梯子のようである。その梯子を天使が上り下りするらしい。映画の内容もたぶんそれにかけてあるのだと思うが、英語圏の人たちにとっては意味深なタイトルなのであろう。やはり印象深い一作である・・・


評価:★★★☆☆


   
    

ネタバレ覚悟で続きを読む
posted by HH at 22:34| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | スリラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする