2010年11月30日

【100歳の少年と12通の手紙】My Cinema File 632

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原題: OSCAR AND THE LADY IN PINK
2008年 フランス
監督・脚本 : エリック=エマニュエル・シュミット
音楽 : ミシェル・ルグラン
出演 :
ミシェル・ラロック : ローズ
アミール : オスカー
アミラ・カサール : ゴメット婦長
ミレーヌ・ドモンジョ : ローズの母リリー
マックス・フォン・シドー : デュッセルドルフ医師

<STORY>********************************************************************************************************
白血病で入院中の少年オスカーは10歳にして余命わずか。真実を明かそうとしない医師や両親の態度に傷つき、誰とも口をきかなくなる。ただ1人、偶然病院内で出会った宅配ピザの女主人で口の悪いローズにだけは心を開く。ピザの注文と引き替えにオスカーの話し相手になることを引き受けたローズは、余命12日のオスカーに1日を10年と考えれば120歳まで生きられると助言し、毎日神様に手紙を書くことを提案する・・・
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白血病で余命わずかな少年が主人公の映画、というと何だかよくありがちな「お涙ちょうだい」ドラマを連想してしまう。確かに観ているうちに涙腺はうるうる緩んでくるし、周りからは鼻をすする音が聞こえてくる。しかし、それはけっして安易な「お涙ちょうだい」ドラマに嵌められたわけではない。ちょっと涙のポイントが異なるのである。

主人公は10歳の少年オスカー。ある時オスカーは、いつも来るはずのない日に両親が病院に来ているのを見つける。そして主治医のデュッセルドルフ先生と両親の会話を聞き、自分の命が長くない事を知ってしまう。自分が死ぬという事実よりも、その事実に打ちひしがれた両親がそのまま帰ってしまった事に、むしろショックを受ける。

両親に心を閉ざしたオスカーが心を許したのが宅配ピザの女主人ローズ。とにかくいつも口汚くののしっていて、あっけらかんとしている。デュッセルドルフ先生と契約をして、ピザの宅配条件でオスカーの話相手を引き受ける事になる。期間は12日間。それが自分の寿命だと悟るオスカーに、「1日で10年生きる」と考えるようにローズは提案する・・・

こうしてオスカーとローズの12日間が始る。毎日人並みにその年齢相応の一日を送るオスカーとローズの交流が見所となる。お涙ポイントは、普通であれば懸命の治療空しく、主人公がみんなに見守られて命を引き取るシーンだと思うが、先にも述べた通りこの映画はちょっと違う。そんなシーンはまったくない。

1日で10歳年をとりながら成長するオスカー。両親を拒絶しながらもやがて許す事になる。愛なんて馬鹿らしいと軽蔑し、恋人にも「愛している」と言わなかったローズが、やがていつのまにか息子にそっと「愛している」と言えるようになる。世の中すべてが敵であるかのように口汚くののしっていたローズが、次第に変わっていく。ピザを配達するのが交換条件で引き受けたはずなのに、いつのまにかピザの方はどうでもよくなっていく。そうした登場人物の変化が、観る者の涙腺を心地良く刺激する。

女性の目からするとオスカー少年に目が行くのかもしれないが、次第次第に変わっていくローズの姿が、個人的には良かったと思う。それにしても貫禄あるデュッセルドルフ先生は、なんとマックス・フォン・シドー。名優だが、フランス語をしゃべっているのにびっくりした。穏やかな医師として存在感を示していた。

涙腺の緩い人は、ハンカチ必需品の映画である・・・


評価:★★★☆☆


    



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2010年11月27日

【セントアンナの奇跡】My Cinema File 631

セントアンナの奇跡.jpg

原題: Miracle at St. Anna
2008年 アメリカ=イタリア
監督: スパイク・リー
原作・脚本 : ジェームズ・マクブライド
出演: 
デレク・ルーク: オーブリー・スタンプス二等軍曹
マイケル・イーリー: ビショップ・カミングス三等軍曹
ラズ・アロンソ: ヘクター・ネグロン伍長
オマー・ベンソン・ミラー: サム・トレイン上等兵
ジョン・タトゥーロ: アントニオ・“トニー”・リッチ刑事

<STORY>********************************************************************************************************
ニューヨークの郵便局で働く定年間近の局員が、ある日窓口で切手を買いに来た男性客をいきなり銃殺した。男の名はヘクター。前科や借金などもなく、精神状態も良好の実直な男だった。家宅捜査の結果、彼の部屋から長きに渡って行方不明となっていたイタリアの貴重な彫像が発見された。一向に犯行動機を口にしないヘクターだが、やがて重い口を開く。謎を解く鍵は第2次世界大戦真っ只中の1944年、イタリアのトスカーナにあった・・・
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タイトルからは何となく感動的なストーリーを想像してしまい、期待に胸を膨らませて観た映画である。冒頭、ニューヨークの郵便局。窓口で働く職員ヘクターが切手を買いに来た男性客を凝視する。そしておもむろに取り出したルガーで男性客を射殺する。

ヘクターの部屋からはイタリアの彫像が発見され、それが高価なものであると判明する。謎だらけの冒頭のシーンであるが、黒人のヘクターと第二次大戦中のドイツ軍用拳銃とイタリアの彫像。それがストーリーのキーファクターとなる。

そしてストーリーは第二次大戦下のイタリアへと飛ぶ。すでに米軍がイタリアに侵攻し、ドイツ軍と戦火を交える。現地のパルチザンがこれに加わる。米軍の部隊は黒人部隊。同じ軍内と言えども白人は黒人を見下す。

この対立も一つのキーとなる。米軍内の黒人と白人の対立。パルチザンもドイツ軍に内通する裏切り者を抱える。ドイツ軍も冷酷な大佐とそれに反発する大尉の対立がある。敵と戦う一方で内部にも矛盾を抱える勢力が、戦争という大きな流れの中で相対峙する。

そんな最前線にありながら、味方の部隊と離れた米黒人兵のビショップ、トレイン、ヘクター、スタンプが、イタリアの田舎町の人々と交流する。ドイツ軍が現住民を虐殺したセントアンナの虐殺は歴史上の事実らしいが、この事件が起こる中で、やがて登場人物たちの運命が交叉する。

奇跡といえば確かにそうなのかもしれないが、正直に言って何となく理解しにくい内容だった。無理に結論付けている気もしなくもない。163分という時間もちょっと長さを感じてしまう映画である・・・


評価:★★★☆☆


    




posted by HH at 00:22| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦争/戦場ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月23日

【出来ごころ】My Cinema File 630

出来ごころ.jpg

1933年 日本
監督: 小津安二郎
出演: 
坂本武: 喜八
伏見信子: 春江
大日方傳: 次郎
飯田蝶子: おとめ
突貫小僧(青木富夫): 富坊
谷麗光: 床屋の親方

<STORY>********************************************************************************************************
隣同士の喜八と次郎は同じ工場で働き、いっしょにおとめの店でめしを食う。喜八はやもめで息子の富夫と二人暮らし、次郎もひとり身だ。ある日二人は、富夫を連れて浪花節を見に行った帰りに、訳ありげな女に出会う。お調子ものの喜八は宿がないという女をおとめの店に連れていく。その女は春江と言い、結局おとめの店で働くことになった・・・
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小津安二郎監督の戦前のサイレント映画である。サイレント映画では、当然の事ながら音はない。ただ、不思議な事に「音がない」という事実をあまり感じない。ストーリーの中に引き込まれ、いつのまにか音があるような錯覚に陥ってしまっているのである。この映画に限った事ではないが、サイレント映画は音がないというハンディをうまく克服しているような感じがする。

映画の製作は昭和8年。特に断りはないが、映画の舞台もたぶん同時代だと思われる。長屋風の住居と飲食店、そして登場人物たちの勤務先である工場が出てくる。ふすまも障子もボロボロの部屋に喜八と息子の富夫とが住む。隣は喜八の同僚の独身男次郎である。

冒頭で喜八と次郎が行くのが浪花節。富夫は飽きたのか寝てしまう。人々は畳の会場に座って浪花節を聞く。今ならコンサートなのだろうか。

帰り道に出会った見知らぬ女。若い女性とあって鼻の下を伸ばした喜八がお節介を焼く。宿がないと聞くと、食堂を経営する馴染みのおとめの店に連れていく。出てくる女性はみな着物姿である。

色気を出した喜八は、少ないはずの収入にも関わらず、この女にプレゼントを送る。プレゼントはかんざしである。喜八も次郎も工場へ行く時は洋装であるが、家に帰れば着物姿。今とは違う時代背景が興味深い。

ストーリーは、なぞの女と出会って世話したり、子供が病気になってひと騒動起こったりする義理人情のドラマである。「宵越しの銭は持たない」という江戸の風情も残る時代。いつの時代も人間ドラマはあるのだと感じさせる。どこかのん気で、どこか楽天的な人々の明るさが印象的な映画である・・・


評価:★★☆☆☆





posted by HH at 11:00| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 小津安二郎監督作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月14日

【カティンの森】My Cinema File 629

カティンの森.jpg

原題: Katyń
2007年 ポーランド
監督・脚本: アンジェイ・ワイダ
出演: 
マヤ・オスタシェフスカ: アンナ
アルトゥル・ジミイェフスキ: アンジェイ大尉
マヤ・コモロフスカ: アンジェイの母

<STORY>********************************************************************************************************
1939年9月、ポーランドは西からドイツ、東からソ連に侵攻され、両国によって分割されてしまう。ソ連によって占領された東部へ、夫のアンジェイ大尉を捜しに妻のアンナと娘がやって来た。アンナは捕虜になっていた夫に再会するも、目の前で収容所へと移送されていく。やがて独ソ戦が始まり、1943年、ドイツは占領したカティンの森で虐殺されたポーランド将校たちの遺体を発見する。しかし、アンナは夫の死を信じられない・・・
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ちょっと珍しいポーランド映画である。第二次大戦中にソ連によって行われたポーランド兵捕虜虐殺事件、いわゆる「カティンの森事件」を扱った映画である。監督のアンジェイ・ワイダは、自らの父親がこの事件の犠牲者であるという。

舞台は1939年9月のポーランド。1日に西からナチス・ドイツが侵攻し、17日には東からソ連が侵攻を始める。両軍事大国の侵攻に、ポーランドは為す術もなく分割されて地図上から姿を消す。ポーランド軍将校の妻アンナは、夫の行方を追って東へ向かう。つかの間の再会を果たしたものの、夫は捕虜として連れ去られ、自らもソ連占領下でかろうじてクラクフに戻る。

一方捕虜となったアンジェイ大尉は貨車で西へと運ばれる。極寒の収容所で、親友のイェジ中尉からネーム入りのセーターをもらう。のちにこのセーターから死亡者リストにイェジ中尉の名前が載る。事件はナチス・ドイツによってソ連の蛮行と発表される。死亡者リストに名前がなかった事から、アンナは夫の生存を信じ続ける。

映画の冒頭、ナチス・ドイツが迫りくる中、東へと逃れる人々のシーン。橋を渡ろうとした人々は、橋の向こう側から戻ってくる人たちと遭遇する。ソ連軍の侵攻で逃げてきた人々である。第二次大戦の初期に、ドイツとソ連がポーランドを割譲するという事件が起こる。小国ポーランドの悲劇をよく表したシーンだ。大きな荷物を持ち、小さな子供たちを連れて右往左往する人々。弱小国の悲劇である。

悲劇はそれに留まらない。事件はその後ソ連深く侵攻したドイツ軍によって白日の下に晒される。正義の立場から告発したつもりだろうが、ドイツはドイツでユダヤ人に対してもっと大掛かりな事をやっているので、何をか言わんである。さらに今度は領土を奪い返したソ連によって事件はドイツの仕業と発表される。戦後も共産体制に組み込まれたポーランドに、ソ連を批判する事はできず、耐えるしかなかった。

映画は一将校の妻の姿を通じて悲劇を訴える。カティンの森での虐殺シーンには言葉もない。自身の父親が犠牲者の一人であるというワイダ監督は、どんな気持ちでこのシーンを撮ったのだろう。歴史的事実はそれだけでもインパクトが強い。だが、それ以上のインパクトを持つ映画である・・・


評価:★★★☆☆
  

  




posted by HH at 22:24| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月13日

【イングロリアス・バスターズ】My Cinema File 628

イングロリアス・バスターズ.jpg

原題: Inglourious Basterds
2009年 アメリカ
監督: クエンティン・タランティーノ
出演: 
ブラッド・ピット: アルド・レイン中尉
メラニー・ロラン: ショシャナ・ドレフュス(エマニュエル・ミミュー)
クリストフ・ヴァルツ: ハンス・ランダ親衛隊大佐
ダニエル・ブリュール: フレデリック・ツォラー国防軍一等兵
イーライ・ロス: ドニー・ドノウィッツ
ダイアン・クルーガー: ブリジット・フォン・ハマーシュマルク
ジュリー・ドレフュス: フランチェスカ・モンディーノ通訳

<STORY>********************************************************************************************************
1944年6月、ドイツ占領下のフランス。映画館主のミミューはドイツ軍の英雄フレデリックに言い寄られ、挙げ句にナチスのプロパガンダ映画をプレミア上映させられることになった。その事実をつかんだイギリス軍はナチス諸共映画館を爆破すべくアルド中尉率いる“イングロリアス・バスターズ”を動員し、スパイのブリジッドと接触を図らせる。一方ナチスでは“ユダヤ・ハンター”の異名をとるランダ大佐が動き出し…。
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クエンティン・タランティーノ監督作品という事で、とても期待して観た映画。舞台は第2次世界大戦のナチス・ドイツ占領下のフランス。タイトルとなっているイングロリアス・バスターズとは、そのフランスに潜入した連合軍のゲリラ部隊のこと。ドイツ兵を殺して頭皮を剥ぐ、バットで殴り殺すということにより、ドイツ兵に恐怖の存在というイメージを与えている。

一方、ナチス親衛隊の「ユダヤ・ハンター」の異名を持つランダ大佐が、ある一軒の農家で匿われていたユダヤ人家族を皆殺しにする。唯一難を逃れたのがショシャナ。名前をミミューと変えて叔母の映画館を譲受け、本名を隠して生きる。その彼女に自らの英雄的行為で映画の主人公にもなっているドイツ兵フレデリックが目を付ける。

2つのストーリーが並行して進み、最後に合流する。ヒトラー総統やゲッペルスら大物が集まるミミューの映画館。イングロリアス・バスターズも潜入し、ランダ大佐がある企みを胸に彼らを待ち受ける。そして歴史上あり得ない出来事が展開される。

タランティーノらしいといえば、十分らしい映画。しかしながら、ストーリーについては違和感がある。いくら映画とはいえ、歴史上あり得ない出来事があたかも事実かの如く描かれると、どうしても違和感を感じてしまう。だが、この映画が大ヒットした事からすると、欧米人はこうした違和感は気にならないのかもしれない。

この映画には大きな特徴がある。冒頭のフランスの農家のシーン。ユダヤ人家族を匿う農夫の元にランダ大佐がやってくる。フランス人の農夫相手にランダ大佐が話すのはフランス語。そのあとも、ドイツ人はドイツ語を話し、フランス人はフランス語を、そしてもちろんイギリス人やアメリカ人は英語を話す。「何でもかんでも英語」のハリウッド映画にしては珍しい。

それにしても冒頭の農家で、笑顔を湛えながら農夫を追いこんで行くランダ大佐には凄味がある。この映画で一番印象的なシーンだった。強制力は何も使わず、それでいて農夫に恐怖心を与え、結果的にユダヤ人家族を引き渡させる。自分が農夫であっても引き渡していただろうと思わせられる。このランダ大佐の存在が、この映画に大きなインパクトを与えている。

ランダ大佐に家族を皆殺しにされながら一人生き残ったショシャナ。彼女の復讐とそしてラストの運命が、ハリウッド映画でありながらハリウッド的でない結末となって描かれる。これもインパクトが大きい。ストーリーに対する違和感が、こうした登場人物たちによって相殺されて、なかなか面白い映画になっている。そこはさすがタランティーノ監督という感じがする一作である・・・


評価:★★★☆☆
 

   




posted by HH at 10:41| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | コメディ/ラブコメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする