
原題: OSCAR AND THE LADY IN PINK
2008年 フランス
監督・脚本 : エリック=エマニュエル・シュミット
音楽 : ミシェル・ルグラン
出演 :
ミシェル・ラロック : ローズ
アミール : オスカー
アミラ・カサール : ゴメット婦長
ミレーヌ・ドモンジョ : ローズの母リリー
マックス・フォン・シドー : デュッセルドルフ医師
<STORY>********************************************************************************************************
白血病で入院中の少年オスカーは10歳にして余命わずか。真実を明かそうとしない医師や両親の態度に傷つき、誰とも口をきかなくなる。ただ1人、偶然病院内で出会った宅配ピザの女主人で口の悪いローズにだけは心を開く。ピザの注文と引き替えにオスカーの話し相手になることを引き受けたローズは、余命12日のオスカーに1日を10年と考えれば120歳まで生きられると助言し、毎日神様に手紙を書くことを提案する・・・
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白血病で余命わずかな少年が主人公の映画、というと何だかよくありがちな「お涙ちょうだい」ドラマを連想してしまう。確かに観ているうちに涙腺はうるうる緩んでくるし、周りからは鼻をすする音が聞こえてくる。しかし、それはけっして安易な「お涙ちょうだい」ドラマに嵌められたわけではない。ちょっと涙のポイントが異なるのである。
主人公は10歳の少年オスカー。ある時オスカーは、いつも来るはずのない日に両親が病院に来ているのを見つける。そして主治医のデュッセルドルフ先生と両親の会話を聞き、自分の命が長くない事を知ってしまう。自分が死ぬという事実よりも、その事実に打ちひしがれた両親がそのまま帰ってしまった事に、むしろショックを受ける。
両親に心を閉ざしたオスカーが心を許したのが宅配ピザの女主人ローズ。とにかくいつも口汚くののしっていて、あっけらかんとしている。デュッセルドルフ先生と契約をして、ピザの宅配条件でオスカーの話相手を引き受ける事になる。期間は12日間。それが自分の寿命だと悟るオスカーに、「1日で10年生きる」と考えるようにローズは提案する・・・
こうしてオスカーとローズの12日間が始る。毎日人並みにその年齢相応の一日を送るオスカーとローズの交流が見所となる。お涙ポイントは、普通であれば懸命の治療空しく、主人公がみんなに見守られて命を引き取るシーンだと思うが、先にも述べた通りこの映画はちょっと違う。そんなシーンはまったくない。
1日で10歳年をとりながら成長するオスカー。両親を拒絶しながらもやがて許す事になる。愛なんて馬鹿らしいと軽蔑し、恋人にも「愛している」と言わなかったローズが、やがていつのまにか息子にそっと「愛している」と言えるようになる。世の中すべてが敵であるかのように口汚くののしっていたローズが、次第に変わっていく。ピザを配達するのが交換条件で引き受けたはずなのに、いつのまにかピザの方はどうでもよくなっていく。そうした登場人物の変化が、観る者の涙腺を心地良く刺激する。
女性の目からするとオスカー少年に目が行くのかもしれないが、次第次第に変わっていくローズの姿が、個人的には良かったと思う。それにしても貫禄あるデュッセルドルフ先生は、なんとマックス・フォン・シドー。名優だが、フランス語をしゃべっているのにびっくりした。穏やかな医師として存在感を示していた。
涙腺の緩い人は、ハンカチ必需品の映画である・・・
評価:★★★☆☆