2012年07月31日

【天と地】My Cinema File 897

天と地.jpg

原題: Heaven & Earth
1993年 アメリカ
監督: オリヴァー・ストーン
出演: 
ヘップ・ティー・リー:Le Ly
トミー・リー・ジョーンズ:Major Steve Butler
ジョアン・チェン:Mama
ハイン・S・ニョール:Lely's father
デビー・レイノルズ:Abigail

<STORY>********************************************************************************************************
1949年、フランス支配下のインドシナの農村で、小作農民のプング夫婦に女の子が生まれた。未熟児のゆえ間引きを勧められたが、母親のママ・プングはこの子にも生きる権利があると断り、レ・リーと名付けて慈しんで育てた。レ・リーが10代になったころ、ヴェトナム戦争が勃発。2人の兄はヴェトコンに身を投じて北へ行き、村に残ったレ・リーもヴェトコンのスパイとして働く。だが、南ヴェトナム軍に捕らえられたレ・リーは過酷な拷問を受ける。なんとか兵士を買収して村に戻った彼女に、村人は仲間を売った二重スパイの烙印を押す。身も心も引き裂かれた彼女は、ママと一緒にサイゴンへ出る・・・
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オリバー・ストーン監督と言えば、ベトナム戦争を題材とした代表作「プラトーン」が真っ先に思い浮かぶ。これはそんなオリバー・ストーン監督のベトナムものという事で嫌が上にも興味が湧きたつ映画である。映画自体は1993年制作という事で、もう"ビンテージ"モノであるが、個人的には何とこれまで観る機会に恵まれなかった“まだ見ぬ強豪”とでも言える作品だ。

物語は、実在の女性レ・リーの自伝。
レ・リーの家族は、フランス軍に家を焼かれ、続くアメリカとの戦争では村にも戦火がおよび、さらにやって来た北ベトナム軍に二人の兄は身を投じと、歴史の運命に翻弄される。

レ・リー自身もゲリラと疑われて南ベトナム側から拷問を受ける。
なけなしの金で役人を買収して家族に助け出されるも、逆に釈放された事でベトコンからは裏切り者と烙印を押され、レイプまでされる。
母親と二人サイゴンへ働きにでるも、住み込んだ家の主人によりレ・リーは妊娠する。
すると夫人の迫害で屋敷を追い出され、身重の体で世間に放り出され、必死に食いつなぐ事になる。やがてあるアメリカ兵スティーブと知り合い、結婚。
米軍の撤退とともに、アメリカにわたる。

まさに波間に漂う小舟の如く、運命に翻弄される一人の女性。
女たちは、生き抜くためには体も売る。
身重のレ・リーを養うために娼婦をする姉。
訪ねてきた父親のいるところで男の相手をする。
父にとっても姉にとっても、レ・リーにとっても地獄のような環境だ。

そんなベトナムでの生活と対照的なアメリカでの生活。
画面も自然と明るさを増す。
アメリカの豊かさがこれでもかというくらいに強調される。
余った食べ物も平気で捨てられる。
ベトナムでは、レ・リーはゴミあさりすらしていたのに、である。

人間は贅沢になれていくもの。
必死で生きる必要がなくなれば、不平不満も顔を出す。
地獄から救い出されたレ・リーも、次第にスティーブとの仲は悪くなっていく・・・
それもやはり人間なのであろう。

米兵スティーブを演じるのは、トミー・リー・ジョーンズ。
最近はボスのCMや「メン・イン・ブラック」シリーズなどでも渋いおじさんというイメージで通っているが、さすがに20年前のこの映画では若くておまけに痩せている。
レ・リー役のヘップ・ティー・リーと比べると顔が異様に大きく感じられる。

もはやベトナム戦争もすっかり過去の傷跡。
今ではイラクであるが、戦争をし続ける国アメリカにとっては、連続する歴史の一ページなのかもしれない。

それにしても過酷な運命を生き抜いたレ・リー。
実話の重みがヒシヒシと伝わってくる。
戦争のない国に生まれて育った幸せを改めて実感させられる。

20年経ってもまったく色褪せていない、オリバー・ストーン監督のこれも代表作の一つとして記憶に留めたい映画である・・・
 

評価:★★★☆☆
    

     
    
posted by HH at 23:42| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月29日

【クレアモントホテル】My Cinema File 896

クレアモントホテル.jpg

原題: Mrs. Palfrey at the Claremont
2005年 アメリカ・イギリス
監督: ダン・アイアランド
出演: 
ジョーン・プロウライト:Mrs. Palfrey
ルパート・フレンド:Ludovic Meyer
アンナ・マッシー:Mrs. Arbuthnot
ロバート・ラング:Mr. Osborne
ゾーイ・タッパー:Gwendolyn

<STORY>********************************************************************************************************
最愛の夫に先立たれた老婦人サラ・パルフリーがロンドンのクレアモントホテルにやってくる。滞在客らの好奇の目に居心地の悪さを感じつつも、妻として母として生きてきた人生に区切りを付け、心機一転自立して生きようという決意は揺るがなかった。ある日、出先で転んでしまったパルフリー夫人は作家志望の青年ルードに助けられ、お礼に夕食に招待する。ところが、ホテルの客たちはルードを夫人の孫だと誤解してしまう・・・
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主人公の老婦人サラ・パルフリーがロンドンにあるクレアモントホテルにやってくる。
事前に調べたようであるが、実際に到着してみると、想像していたものとだいぶ違って戸惑うサラ。部屋は狭く眺めも悪い。
夕食も正装ではなく、普段着だ。
滞在客はみんな一癖も二癖もありそう。

ホテルに長期滞在するという事にあまり馴染みがないせいか、ストーリーがしっくりこないところがあるのは事実。
登場人物たちはみなクレアモントホテルの長期滞在客。
サラも次第に他の客たちと打ち解けて行く。

ある日外出した際に、サラは転倒してしまう。
手助けしてくれたのが、イケメンの若者ルード。
サラとルードの間で、へんな名前同士だという会話がなされるが、日本人にはピンとこない。

これを機に、孤独な二人は親しくなっていく。
サラには娘と孫がいるが、どうもサラとは考え方がだいぶ違う。
ルードも母親とはうまく行っていない。
そんな二人が意気投合してしまう。
こうしたありがちな家族関係も、映画の一部として背景で語られている。

人生も残り時間が限られてきた人たち同士の交流。
そして未来のある若者と、かつて謳歌していた喜びを思い出すサラ。
華やかな内容とは程遠いものの、しみじみとした味わいが伝わってくる。
人生をどう過ごすかという事は、本当に大切な事だ。
相手の事を一方的に思っているだけではうまくいかない。
他人に囲まれていながら、ぼろいホテルでも幸せに毎日を過ごすサラ。
いろいろと考えさせてくれ、ちょっと心が温かくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆




     


posted by HH at 22:41| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月24日

【エネミーオブUSA】My Cinema File 895

エネミーオブUSA.jpg

原題: Echelon Conspiracy
2008年 アメリカ
監督: グレッグ・マルクス
出演: 
シェーン・ウェスト
エドワード・バーンズ
ビング・レイムス
マーティン・シーン
タマラ・フェルドマン

<STORY>********************************************************************************************************
アメリカの国家機密といわれる軍事情報システム「エシュロン」をテーマにしたサスペンス・アクション。ある日突然、マックスのもとに携帯電話が送られてきた。その携帯電話の指示に従って行動すると、次々に大金を手にすることができる。だが、ある日マックスは、カジノで大儲けをしている最中に、カジノの警備員・ジョンとFBI捜査官のグラントに捕まってしまう。2人はマックスを利用し、携帯電話に届く情報の発信源を突き止めようとするが……。
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映画を観て行くうちに、なんとなく似たようなストーリーを思い浮かべた。
その映画は「イーグル・アイ」
コンピュータによる合衆国防衛システムが、事もあろうか合衆国政府首脳を「アメリカの危機」と見なして排除しようとする物語だった。
この映画も、やはり合衆国防衛のための軍事システム「エシュロン」が登場する。

主人公のマックスの元にある日携帯電話が送られてくる。
送り主は不明。タイでの仕事を終え、帰国しようとした彼の携帯電話に一泊延長ディスカウントのメールが届く。
お勧めにしたがって延泊した彼は、自分の乗る予定だった旅客機墜落のニュースをテレビで見る。

次のお勧めは某社の株。
その株は翌日暴騰する。
立て続く予言メール。
次はカジノへ行き、メールの支持で大金を手にする。
そんな彼を、カジノの警備員ジョンとFBI捜査官のグラントが捕まえる。
やがて彼らは謎のメールの主を求めていく・・・

随所で町中の監視カメラが作動している。
「イーグル・アイ」では衛星だったが、監視カメラというところが二つの映画の差を象徴しているような気がする。

ほとんど無名の役者陣に交じって、一人マーティン・シーンだけがFBIのボスとして貫禄の登場。だが、それだけで映画としては「小粒スケール」感はぬぐえない。
しかしながら、ラストのくだりは肩すかしを喰らったような、小粒感なりの味わいを持たせたような、ある意味笑って「やられた」と思えるようなストーリーだった。

映画で出てくる「エシュロン」とは、実際にアメリカで運用されていると言われる軍事用通信傍受システムの事らしい。実際にはどうなのだろうかとそこだけ興味を持たされた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 22:21| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | アクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月22日

【アウトレイジ】My Cinema File 894

アウトレイジ.jpg

2010年 日本
監督: 北野武
出演: 
北野武:大友
三浦友和:加藤
椎名桔平:水野
國村隼:池元
杉本哲太:小沢
小日向文世:片岡刑事

<STORY>********************************************************************************************************
関東一円に勢力を張る巨大暴力団組織・山王会組長の関内のもとに、一門の幹部が集結していた。その席上、関内は若頭の加藤に、直参である池元組の組長・池元と直系ではない村瀬組との蜜月関係について苦言を呈す。そして、加藤から村瀬組を締め付けるよう命令された池元は、その配下の大友組組長・大友に“厄介な”仕事を任せる。こうして壮絶な権力闘争が幕を開けた…。
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久しぶりのタケシ映画である。
それもインパクトあるバイオレンスモノなだけに、楽しみにして観た。
物語は暴力団の一大組織山王会を舞台とした壮絶な抗争劇。

まずは直系組長の池元が、非直系組長の村瀬との交流を咎められるところから始る。
ヤクザの世界は理不尽な世界。
その咎めも表面的なもので、結局のところそれは縄張り争い。
そして汚れ仕事は上から下への原則。
組長の池元は、それをさらに“子”の大友組組長大友に任せる。

ポン引きから声をかけられた中年サラリーマン。
良い気分で飲み終わったところに出された請求書は60万円。
実は村瀬組傘下のぼったくりバーだった。
脅されまくってやむなく金を渡す事に。
店の若者飯塚が付き添って金を受け取りに行くと、実はそこは大友組の事務所・・・
「金を取りに来たんだろう」と凄まれ、飯塚は金を受け取って退散する。

形勢逆転でチャラにしてしまうのかと思ったが、金を払ってしまうところが凄いし、この場合金を受け取ってしまうとあとあと余計に事が大きくなるのがこの世界。
こうして村瀬組と大友組の抗争、というよりも大友組による村瀬組「潰し」が始る。
口実などなんとでもなる。

役者というのはやっぱり大したもので、登場人物たちはそれぞれヤクザらしくなっている。
山王会トップの関内を演じるのは北村総一郎。
「踊る大捜査線」シリーズでは、オトボケ3人組の一人だったが、そのままヤクザを演じていて、なかなか見事。

三浦友和も國村準、杉本哲太といったところもなかなかの貫禄。
椎名桔平は、「レインフォール/雨の牙」でもクールな殺し屋を演じていたから、様になっている度合いからすると一番かもしれない。
北野武のハチャメチャぶりも一連のバイオレンスシリーズには欠かせないものだ。

バイオレンスと言ってもカッコ良い部分ばかりではない。
ヤクザの世界の理不尽さもまたこの映画の特徴の一つ。
誰が一番賢くて、どう立ち居振る舞いをすれば生き残れるのかと考えると、答えが難しい。
どの立場でも“一歩間違えれば”のところがある。

ラストに流れるのは諸行無常の風の音。
子供がヤクザに憧れる事のないようにという配慮があるのかもしれないが、背筋を冷たくさせるものが流れていたりする。
久々に観たが、十分に堪能させてくれた北野バイオレンス映画である・・・


評価:★★★☆☆
   
     





     
posted by HH at 12:01| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | バイオレンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月21日

【ジャーロ】My Cinema File 893

ジャーロ.jpg

原題: Giallo
2009年 アメリカ・イタリア
監督: ダリオ・アルジェント
出演: 
エイドリアン・ブロディ:Inspector Enzo Avolfi
エマニュエル・セニエ:Linda
エルサ・パタキ:Celine
ロバート・ミアノ:Inspector Mori

<STORY>********************************************************************************************************
イタリアのミラノでは美しい外国人女性を誘拐して拷問し、切り刻む連続殺人事件が起こっていた。あるとき、スチュワーデスのリンダとその妹のファッションモデルのセリーヌが休暇の為に訪れたところ、セリーヌが消えてしまう。心配したリンダが地元警察に駆け込むと、猟奇殺人事件捜査を専門としているエンツォ警部が現れ、一連の事件とつながりがあると考え、捜査を始める。
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エイドリアン・ブロディ主演というだけで、観てみようと思ったが、それしか取柄のない映画と言うのが残念な感想の映画。

監督はイタリアでは有名なのだろうか、批評では名前が強調されているが、まったく知らない名前だ。タイトルのジャーロとはイタリア語で黄色という意味らしい。
犯人の肌の色であり、この映画のキーワードである。

友人と遊びにきていた日本人女性。
ホテルへ帰るべくタクシーに乗り込んだが、気がつくと道が違う。
おかしいと思ったが後の祭り。
そのまま謎の男に拉致されてしまう。

華やかなファッションショーで活躍するモデルのセリーヌ。
訪ねてきた姉リンダと会う約束をしてタクシーに乗り込むが、これまた続けて拉致されてしまう。心配したリンダは警察へ行くが取り合ってもらえず、挙句に地下に捜査本部を構える変人と影で言われる警部エンツォを紹介される。

エンツォはリンダの話を聞き、今手がけている連続殺人犯の仕業と見て捜査を開始する。
なぜか一人でいられないリンダが同行する。
やがて初めに拉致された日本人女性が、拷問された瀕死の姿で発見される。
死ぬ間際に「黄色」という言葉を残す。

あまり映画の細部に拘りたくはないが、ストーリー展開が実に安易。
捜査する側としては、犯人はどこの誰かも皆目わからない。
その中でわずかな手掛かりをきっかけに犯人に迫っていく。
その手掛かりが絶妙であればあるほど、ストーリーは面白くなる。
しかし、この映画ではどうもそこが軽視されている。

「黄色」というキーワード。
日本人女性が残したダイイングメッセージだが、そこから黄疸を連想し病院へ行くというのもかなり大胆な飛躍的推理だ。
日本人ゆえに黄色い肌とは思わないのだろうかとついつい考えてしまう。

そして行く先々で都合よく手に入る手掛かり。
まるで映画の時間が90分である事を意識しているかのようである。
簡単な拘束なのにほとんど暴れず叫んでいるだけの被害者。
人ごみでもないのに簡単に追跡を諦めてしまったり、随所にわざとらしさが溢れている。

そんなところを一々指摘するのは野暮というものだが、指摘したくなるくらい気になってしまう出来である事は間違いない。クライマックスの盛り上がりも今一つ。
もしもエイドリアン・ブロディ主演でなければ、「観て人生を無駄にした映画」の称号を与えたいところだ。

まあたくさん観ていればこういうハズレも仕方ない。
そう自らを慰めたい映画である・・・


評価:★☆☆☆☆




     


posted by HH at 23:55| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | サスペンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする