
1959年 日本
監督: 五所平之助
出演:
高千穂ひづる:つる
水原真知子:かるた
泉京子:竹千代
紫千代:竹実
南風洋子:静花
田代百合子:天満里
村田知栄子:せつ
浦辺粂子:一力の女将
田村高広:本山
東野英治郎:ロンパリ
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信州の貧農の家に生れた一人の女性の一生を描いたもの。増田小夜の原作を「才女気質」の新藤兼人が脚色、「蟻の街のマリア」の五所平之助が監督した。撮影は「人間の条件 第1・2部」の宮島義勇。
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たまに古い映画を観たくなる。
子供の頃に観て半分以上忘れてしまっている映画だったり、あるいは名前だけ聞いた事はあるものの、観た事のない映画だったり。
この映画は、そんな後者の例である。
昭和34年の白黒映画。
物語は信州から始まる。
ある地主の屋敷で働く少女つる。
子守が主な仕事であるが、食事は欠けた茶碗にごはんとみそ汁をかけたもの。
寝る所は納屋の隅。
冬でも素足で、足袋など履かせてもらえない。
凍える寒さの中、少しでも暖を取ろうと片足を上げ、もう片方の足につけて温めながら立っている。その姿から、“つる”と呼ばれるようになったと言う。
そしてある日、叔父という人がつるを引き取りに来る。
初めて自分に母がいると教えられ、その家に連れて行かれる。
しかし、そこは見るからに貧しい農家。
感動の対面なのに言葉はなく、子沢山の家で乳飲み子を抱えた母は途方に暮れた表情。
何の説明もないが、「引き取れない」という事情は観る者に痛々しく伝わってくる。
この母を演じるのが、若き日の菅井きん。
表情による演技が何とも言えない。
つるは芸者に売られる。
始めは下働き。
次々に雑用を言いつけられるが、嫌な顔をせず働くため、芸者の姐さん達には可愛がられている。1人の芸者は病に伏せっているが、女将は医者代をけちって医者に見せようとしない。
そして本人も死んで楽になりたいと思っている。
置き屋の悲しい実情である。
やがてつるも成長し、芸者となる。
最終的には水揚げされるのが芸者の運命。
やがてつるもロンパリという興行主に水揚げされ、3号の妾として囲われる事になる。
金は持っているが、品のないロンパリを演じるのは、我々の世代では「黄門様」でお馴染みの東野英治郎。見事にハマっている。
妾生活に暇を持て余したつるは、ロンパリに頼み働きに出る。
しかし、周りの女工達は「元芸者の妾」を軽蔑する。
そんな女工たちに目にものを見せたくて、女工たちに人気のあった将校下村をつるは誘惑する。元芸者の手練手管に、女性に免疫のない下村はあっけなく陥落。しかし、つるも下村に恋してしまう。時代は戦時。下村にも出征の時がやってくる・・・
物語はつるの苦難を描いていく。
せっかくの恋も成就する事はなく、逆にロンパリの逆鱗に触れ追い出されてしまう。
戦時統制下に芸者の仕事も閑古鳥。
食うや食わずの生活が続く。
次から次へと続く不幸のオンパレード。
最後に出口の光らしきものが見えて物語は終わる。
それなりに幸せになったと思いたくなるようなラストである。
バックに流れる島倉千代子の同名歌は、大ヒットしたそうであるが、ようやく戦後から抜け出した「三丁目の夕陽」の時代の人々の心に響く映画と歌だったのかもしれない。
映画はフィクションであるが、似たような経験をした人は多かったのではないかと想像してみる。現代人から見ると、耐え難い苦労を先人たちはしてきたのだろうと想像できる。
古い映画には、単純に観て面白いかどうかだけでなく、考えるヒントがあったりする。
そんな事を実感させられる映画である・・・
評価:★★☆☆☆