2016年09月27日

ザ・ウォーク

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原題: The Walk
2015年 アメリカ
監督: ロバート・ゼメキス
出演: 
ジョセフ・ゴードン=レヴィット:フィリップ・プティ
ベン・キングズリー:パパ・ルディ
シャルロット・ルボン:アニー
クレマン・シボニー:ジャン=ルイ
ジェームズ・バッジ・デール:ジャン=ピエール(J.P.)
セザール・ドンボワ:ジェフ

<映画.com>
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「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ 一期一会」など数々の名作を送り出してきたロバート・ゼメキス監督が、米ニューヨークのワールドトレードセンターで命がけの綱渡りを敢行した男の物語を3Dで映画化。1974年8月7日、当時世界一の高さを誇ったワールドトレードセンター。フランス人の大道芸人フィリップ・プティは、地上から高さ411メートル、110階の最上階で、そびえたつツインタワー間をワイヤーロープ1本でつなぎ、命綱なしの空中かっ歩に挑む。主人公プティ役は「(500)日のサマー」『インセプション』のジョセフ・ゴードン=レビット。プティの綱渡りの実話は、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」でも描かれた。
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 主人公は、今はなきニューヨークのワールド・トレード・センター間で綱渡りをした人物である。その事実のみは聞き知っていたが、詳細は知るところではなく、それだけでも興味深かったところである。その人物フィリップ・プティは、8歳の時、あるサーカス団の妙技に魅せられる。教えてくれる者などいない中、独学でトレーニングを積み、やがてサーカス団の一員となる。ところが、座長のパパ・ルディと意見が合わず決裂してしまう。

 その後、成長したプティは、パリで大道芸人として綱渡りを披露する日々を送る。より高い目標をと考えるプティの目に、世界最高層のワールド・トレード・センタービル建設の記事がとまる。そして大道芸で知り合ったアニーにその夢を語る。さらにカメラマン志望のジャン=ルイが夢の同士に加わる。

 夢の実現に向けて努力する中で、プティは己の技術の未熟さに気が付く。そこでサーカス団のパパ・ルディに頭を下げ、改めて修行を積む。ある村祭りでの綱渡りデビューは見事に失敗するが、ノートルダム寺院の二つの塔の間にワイヤーを架けたウォークは成功する。そしていよいよ最終目標のワールド・トレード・センター攻略へ向け、仲間たちとともにニューヨークへ乗り込んでいく。それは地上411m、110階に及ぶ巨大なツインタワーであった・・・

 結末のわかっているドラマというのは、結末の意外性で驚かすことはできないので難しいところがあると思う。この映画でいえばそれはワールド・トレード・センターでのワイヤー・ウォークなのであるが、わかっていても驚かされたところがこの映画の魅力かもしれない。そこに至る過程、そしてワイヤー・ウォークそのもので見事に魅せられたと言える。

 詳しい顛末など知らなかったが、ワイヤー・ウォークは無許可で行われたため、まずは実現までの道のりが描かれる。内部協力者を確保し、山のような機材をあの手この手でビル内に人知れず持ち込む。まだ建設中のビルであり、工事関係者が大勢出入りしているのが良かったのかもしれないが、完成してセキュリティが確保されたらまず無理であろう。ハラハラドキドキの準備過程、そしてプティの狂わんばかりの緊張感が伝わってくる。

 そしてワイヤー・ウォークの実行。これが現代の映像技術のなせる業で、実際に地上411mにいる気分にさせてくれる。映画を見ながら、高所感がビシビシ伝わってくるし、いつのまにか手のひらは汗でびっしょりになっている。そして一度ワイヤー・ウォークを成功させたプティが、引き返すシーンでは度肝を抜かれる。そしてそのあとの展開も。これは想定外で、映像の迫力と想定外の展開で、これには唸らされてしまった。

 逮捕されたプティに、ビルにいた工事関係者が一斉に拍手でその快挙をたたえる。逮捕した警官も、そっとエールを耳元で囁く。なかなか感動的なシーンである。それにしても命綱なしでの綱渡りは、よほどの自信があったのであると思うが、できるものではないと思う。今はもうビルもなくなり、やろうと思ってもできないが、存続していたとしても果たして続く者がいるのだろうかと思うほどである。

 映像とストーリーと、そして実話の持つ力とが合わせられたなかなかの映画である・・・


評価:★★★☆☆




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2016年09月26日

HUNGER/ハンガー静かなる抵抗

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原題: Hunger
2008年 イギリス
監督: スティーヴ・マックイーン
出演: 
マイケル・ファスベンダー:ボビー・サンズ
スチュアート・グラハム:レイ・ローハン看守長
ブライアン・ミリガン:ギレン
リアム・カニンガム:モーラン神父
ヘレナ・ベリーン:ローハンの母
レイン・ミーゴー:ローハンの妻

<シネマトゥデイ>
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『SHAME -シェイム-』『それでも夜は明ける』の監督スティーヴ・マックィーンと、マイケル・ファスベンダーがタッグを組んだ人間ドラマ。1981年、収監されたアイルランド共和軍(IRA)のメンバーが信念を貫くためにハンガーストライキを実行した、北アイルランド紛争の実話に基づいて映画化。共演は、『麦の穂をゆらす風』などのリーアム・カニンガム、『ダブリンの時計職人』などのスチュアート・グレアム。体を張ったマイケルの役づくり、初の長編映画監督作となったマックィーン監督による映像美も見どころ。
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 アイルランド紛争に関する映画は、これまでにもいくつか観てきたが、これもその一本。舞台は逮捕されたIRAのメンバーが収監されている刑務所。ある日、ギレンという名の若者が刑務所に送られてくる。係官に対し、「囚人服の着用を拒否する」と伝える。観ているうちにわかってくるのであるが、この「囚人服を着ない」ということが、自分たちは犯罪者ではなく政治犯であるというアピールだということで、刑務所内での対立を表してもいる。

 服を脱いだギレンは裸のまま独房へと入れられる。中にいたのはボビー・サンズという男。懲役12年だと自己紹介する。それよりも室内は人糞が壁に塗り付けられ、毛布にも人糞がこびりついている。これもメンバーの抵抗運動の一つで、そのあと合図で一斉に尿を廊下に垂れ流す。とてもではないが、1分たりとも中にいたくないと思わされる。

 メンバーは、面会を通じて外部協力者と連絡を取り合う。普段は裸に毛布でくるまっているだけであるが、この時はきちんと服を着る。そして面会者も巧みに隠し持ってきたものをメンバーに渡す。ボビーは、面会者がスカートの中に隠し持ってきたラジオを受け取り、密かに房内で聞く。気がつけば、ほとんど会話というものがない映画である。

 メンバーと看守間の憎悪は、観ているだけで伝わってくる。房から出したボビーをむりやり湯船(というよりたぶん水風呂だろう)に漬け、デッキブラシでゴシゴシこする。その前に暴れまわるボビーを看守が殴る。かわされて壁を殴り、傷つく右手。それを眺めながら雪のチラつく庭で煙草を吸う看守。何かを象徴しているようでもある。

 看守とて安泰ではなく、車に乗る前には爆弾が仕掛けられていないかを確認し、挙げ句の果てに、老人ホームに母親を見舞ったところ、母の目の前で射殺される。対立の根深さ、憎しみの連鎖を改めて感じさせられる。そしてボビーは、セリフの少ないこの映画で珍しい看守長との長い会話のあと、ハンストに突入する。画面を通じても主演のマイケル・ファスベンダーがやせ衰えているのがわかる。役作りなのであろうが、なかなか大変だろうと思う。

 背景にあるアイルランド紛争については、知識としては知っているものの、日本人的には理解しにくいところがある。されどその憎しみの激しさは、いろいろな映画で伝わってくる。それにしても、人糞を壁に塗りたくったり、尿を溜めて溜め流したり、相手への抵抗・講義だとしても、我が身への影響も大き過ぎると個人的には思う。そんな糞まみれの独房で過ごすのは、他ならぬ自分自身である。道に落ちている糞だって避けて通るのである。自分だったら他の方法をとるだろうと思う。

 ハンストにしても、相手はまったく苦しまないわけであり、相手が憎いのであれば、余計取らないと思う。こう言う個人的な感覚のズレは深く感じるところである。しかしながら憎しみ合う双方の対立を、ある種のドキュメンタリー風に描いていて、感覚に響かせてくる映画である。スティーブ・マックイーン監督の長編デビュー作とのことで、その後の活躍をうかがわせるところもある。

 欲を言えば、もう少し「その後」を描いて欲しかったと思う映画である・・・

評価:★★☆☆☆




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2016年09月22日

ワンチャンス

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原題: One Chance
2013年 イギリス
監督: デヴィッド・フランケル
出演: 
ジェームズ・コーデン:ポール・ポッツ
アレクサンドラ・ローチ:ジュルズ
ジュリー・ウォルターズ:イヴォンヌ・ポッツ
コルム・ミーニイ:ローランド・ポッツ
マッケンジー・クルック:ブラドン-携帯電話ショップの店長
ジェミマ・ルーパー:ハイドレインジャ-ブラドンの恋人。
ヴァレリア・ビレロ:アレッサンドラ

<シネマトゥデイ>
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イギリスの人気オーディション番組での優勝をきっかけに、一夜にして携帯電話の販売員から世界的オペラ歌手となったポール・ポッツの半生を映画化。恥ずかしがりやでパッとしない容姿、不運続きの彼がオペラ歌手になるという長年の夢をかなえるまでを描く。監督は、『プラダを着た悪魔』などのデヴィッド・フランケル、主演は『人生は、時々晴れ』などのジェームズ・コーデン。ポール本人の吹き替えによる「誰も寝てはならぬ」などの名曲の数々が、奇跡のようなサクセスストーリーを彩る。
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 主人公は、携帯電話のセールスマンから世界的なオペラ歌手に奇跡の転身を果たした実在の人物。イギリスのスター誕生ともいうべき、“Britain’s Got Talent”という番組に出演し、大方の予想を裏切って観衆の度肝を抜いたシーンをYoutubeで観ていて、映画も是非観てみたいと思っていた作品。

 ポール・ボッツは子供の頃から小太りで冴えない男。学校ではいじめられる日々だが、歌うことが好きで、聖歌隊に参加して歌うことで憂さを晴らしている。成長してもそれは変わらず、特にオペラが好きで、密かにオペラ歌手になりたいと思っている。しかし、行動に移すこともなく、携帯電話の販売店に勤めている。店長のブランドンの計らいで、初めてジュルスという女性とデートする。ジュルズに背中を押されたポールは、町の素人芸大会で歌を披露して優勝すると、その賞金でヴェネチアに留学する。

 しかし、憧れのオペラ歌手パヴァロッティの前で歌う機会を得たものの、緊張してそれを活かせず、失意のまま帰国する。やがてジュルズと結ばれ結婚するが、不運は続く。ボランティアで出演を頼まれた「アイーダ」では、前日に盲腸になり、無理をして舞台で倒れる。さらに喉に腫瘍が発見され、摘出してようやく治ったと思ったら交通事故で入院を余儀なくされる。日々の支払いにも困窮したポールは、偶然テレビ番組のオーディションが目に止まる・・・

 “Britain’s Got Talent”に出演したポールは、冴えない見てくれで自信なさげ。審査員も、「仕方ないから聞くか」という態度なのであるが、彼が歌い始めると皆言葉を失い会場は大歓声に包まれる。実に感動的なシーンである。以前は、そのシーンだけで感動的であったが、映画で彼の前半生がわかるとその感動もひとしおという感じがする。

 映画は映画で、ある程度創作されている部分もあるとは思うが、夢を持ってそれを捨てずに挑戦するという姿は人の心を打つものがある。それが、容姿といい自信のない様子といい、ちょっと人より劣ると思われていた人物であれば、なおさら人々の心に火をつけるものであろう。判官贔屓は万国共通な気がする。

 しかしながら結末のわかっている映画というものは、やはりどこか気の抜けたコーラの感があるのは否めない。それでポール・ボッツご本人を否定するわけではないのであるが、あくまでも映画として判断すれば、そんな感じがする。いずれにせよ、クライマックスのステージは何度見ても感動的である(その部分だけはやはり映画よりも実際の方がいいとは思うが・・・)。

世間に埋もれ、目立たずとも頑張っている人を応援したくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆



実際の出場時の様子




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2016年09月20日

歩いても歩いても

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2008年 日本
監督: 是枝裕和
出演: 
阿部寛 - 横山良多
夏川結衣 - 横山ゆかり(良多の妻)
YOU - 片岡ちなみ(良多の姉)
高橋和也 - 片岡信夫(義兄 ちなみの夫)
田中祥平 - 横山あつし(ゆかりの連れ子である良多の息子)
樹木希林 - 横山とし子(良多の母)
原田芳雄 - 横山恭平(良多の父)
野本ほたる - 片岡さつき(ちなみと信夫の娘)
林凌雅 - 片岡睦(ちなみと信夫の息子)
寺島進 - 小松健太郎(松寿司店長)
加藤治子 - 西沢ふさ(横山家の隣人)

<シネマトゥデイ>
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『誰も知らない』『花よりもなほ』の是枝裕和が、家族の情景を鋭くとらえ、しんみりと描いたホームドラマ。15年前に死んだ兄と比較されて育ち、実家に居心地の悪さを抱いている男を阿部寛がユーモアと悲哀を込めて演じる。そのほか、夏川結衣、樹木希林、原田芳雄などが家族にふんし、家族の何でもない会話や日常を絶妙な間合いで表現する。
ストーリー:夏のある日、横山良多(阿部寛)は妻のゆかり(夏川結衣)と息子のあつし(田中祥平)とともに実家に帰省した。この日は、15年前に他界した兄の命日。しかし、失業していることを口に出せない良多にとって、両親(原田芳雄、樹木希林)との再会は苦痛でしかなかった。
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 ある夏の日、横山良多は、再婚したばかりの妻ゆかりとゆかりの連れ子のあつしとともに電車で実家に向かう。実家では既に姉夫婦が二人の子供を連れて来ている。母は息子の良多の結婚相手が子連れの再婚であることが気に入らない。開業医を引退した父は、日課である散歩に出かけていく。医者に誇りを持っている父は、息子の良多が医者にならなかったことで、二人の関係はギクシャクしている。さらに良多は失業中であり、それについては家族にかん口令を敷いている。

 良多が実家へ帰ったこの日は、横山家の長男、純平の命日。純平は父の跡を継いで医者になったが、海で溺れた少年を助けようとして命を落としたのであった。特にナレーションがあるわけでもなく、一族の会話から、その状況が浮かび上がってくる。連れ子のあつしは、良多を嫌っているわけではなさそうであるが、良多を父とは呼ばず「りょうちゃん」と呼ぶ。
母のゆかりは、せめて実家ではそう呼ばないようにと諭す。

 姉のちなみ夫妻は、実家で両親と同居することを計画している。しかし、母とし子は、良多が戻って来にくくなるという配慮から、これに対しては乗り気ではない。墓参りから戻ると、かつて純平が海で溺れたところを助けた青年が、線香をあげに来ている。青年が帰ると、父は悪態をつき、良多はそれに反発する。母とし子の態度にゆかりは良多に不満をもらし、さらにとし子はとげのある言葉をゆかりに投げかける。

 父は子供が生まれた時、人並みに喜び、そして自分自身が誇りを持っている医師という職業に息子たちをつかせようと思ったのであろう。されど次男の良多にはそれが負担であり、いつしか反発へと繋がったのだと想像できる。そして意思表現が不器用な父の態度がそれに輪をかける。良多が意地でも失業しているという事実を隠そうとするところにもそれが表れている。

 母とし子は、青年が焼香にくることに居心地の悪さを感じているのは承知しているが、一年に一度その居心地の悪さを感じさせるために、「来年も来てくれ」と青年に声をかける。直接恨み言を言えない陰湿な思いが伺える。さらに良多には子供を作るのかと聞きつつ、別れる前提で作らないほうがいいという。そしてそれをさり気ない形でゆかりにも言う。こういうことが嫁姑の争いにつながるものであるが、恐ろしいくらいさり気なく描かれる。

 何気ない家族の一日であるが、行間にそれぞれの思惑が入り混じる。対立する父と子、母の息子たちへの思い、娘の母への思いが、決してきれいな形ではなく、むき出しに描かれる。ほんわかファミリードラマにしなかったところが、現実感溢れている。そんな「作り物」感のないリアリティが、ある種心地よい。実際の家族は、外見上親しそうでもどこもそれぞれが様々な思惑を抱えているものである。

 特に母親のとし子は、己の感情に正直である。息子の嫁には子連れの再婚女など嫌であり、長男の事故死の原因となった青年にはただ恨みの感情しかない。暖かいファミリードラマではなく、あえてリアリティのある家族ドラマにしたところが、この映画の妙である。地味ながら、唸らせられる映画である・・・
 
評価:★★☆☆☆




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2016年09月19日

母と暮せば

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2015年 日本
監督: 山田洋次
出演: 
吉永小百合:福原伸子
二宮和也:福原浩二
黒木華:佐多町子
加藤健一:上海のおじさん
浅野忠信:黒田
広岡由里子:富江
本田望結:民子
小林稔侍:復員局の職員

<シネマトゥデイ>
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「父と暮せば」などの戯曲で有名な井上ひさしの遺志を名匠山田洋次監督が受け継ぎ、原爆で亡くなった家族が亡霊となって舞い戻る姿を描く人間ドラマ。原爆で壊滅的な被害を受けた長崎を舞台に、この世とあの世の人間が織り成す不思議な物語を映し出す。母親を名女優吉永小百合が演じ、息子を『プラチナデータ』などの二宮和也が好演。ほのぼのとした中にも戦争の爪痕を感じる展開に涙腺が緩む。
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 1945年8月9日、その日いつものように大学へと向かう浩二。しかし、授業中飛来したB-29が投下した原爆で、浩二は一瞬にして命を奪われる。
 それから3年。夫と2人の息子もなくした伸子は、1人で暮らしている。時折訪ねてくるのは、浩二の許嫁であった町子。遺品すら残っていない浩二の死をなかなか受け入れきれない伸子だったが、3年目の命日のこの日、とうとう町子に諦めたと語る。そしてその夜、伸子の元に浩二が現れる。

 どうやら伸子が浩二の死を受け入れたことで、浩二が出てこられた様子。母子は3年ぶりの再会に生きている人たちの近況を語る。町子は卒業し、小学校の先生になっていた。町子は死んだ浩二に操を立て、「一生結婚はしない」と伸子に語る。浩二と町子。2人の生前の様子が描かれる。そしてある日、浩二のレコードを借りて教職員間でレコード鑑賞をした折、ある男の教師が涙した話を町子がする。それは、出征前、もう二度と聞くことはないと覚悟して聞いたメンデルスゾーンだったという。

 死んだ息子が現れ、信子の幸せそうな様子に心が温かくなるが、その一方で戦争の影響が色濃く残る周囲の人たちの様子に心が痛む。まだ物資も乏しく生活は貧しい。傘を持っておらず、そのため雨の日は登校を嫌がる子を担任の町子は家まで迎えに行く。先生と一つ傘で通学するその子は、サイズの合わない父親の履き古した靴を履いている。港で大漁となると、近所に声がかかり、主婦たちは鍋を持って港へ向かう。闇屋を営む上海のおじさんは、警察の目をかいくぐって貴重品の生活物資を伸子に届ける。

 町子が満員列車に乗って、担任の子を連れて復員局を尋ねる。父親の消息を尋ねる子供に対し、復員局の職員は気持ちを押し殺し、丁寧に戦死の事実を告げる。その事実を記す書面を押さえる職員の左腕は失われている。さりげなく描かれる当時は当たり前だったであろう日常シーンに、心に深く染み入るものがある。父親の消息を尋ねた女の子は、病弱な祖父と二人暮らしだという。映画では描かれていないが、その後の苦労もうかがわれる。

 死んでしまった者とはもう二度と会えないし、話すこともできない。だが、出来るものならもう一度会いたいし、話したいのは人の常。そうした願望が、映画の中で叶うのを見るのは心地よい。されど、生きていれば苦難困難苦悩はついてくる。浩二も最愛の町子と結婚することはもうできず、ただ相手の幸せを願って他の男と結ばれるのを見ているしかない。死んだ人と会えるというと、明るいイメージがあるものの、そうした切なさも伝わってくる。

 単に死者が現れるというオカルトちっくな物語ではなく、周囲の人たちを含めた、戦後の人々の困難が心を打つ。浩二は綺麗な姿で現れたが、ビルマで戦死した兄は、悲惨な姿で母の元へ帰ってくる。それもまた背景にある目を背けたくなる事実である。そんな背景に対し、吉永小百合と二宮和也のほのぼのとした親子の姿が、雰囲気を和らげる。もはやアイドルというより立派な俳優と言いたい二宮和也に好感が持てる。

山田洋次らしい、そして日本ならではの雰囲気の映画である・・・


評価:★★☆☆☆





posted by HH at 22:39 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ