
2015年 日本
監督: チェリン・グラック
出演:
唐沢寿明:杉原千畝
小雪:杉原幸子
ボリス・スジック:ペシュ
アグニシュカ・グロコウスカ:イリーナ
ミハウ・ジュラフスキ:ニシェリ
ツェザリ・ウカシェヴィチ:グッジェ
二階堂智:根井三郎
濱田岳:大迫辰雄
<シネマトゥデイ>
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第2次世界大戦中、リトアニア領事代理として日本政府に背く形で多くのユダヤ難民にビザを発給し彼らの命を救った杉原千畝の波乱に満ちた半生を映画化。世界情勢が混乱を極める中、諜報外交官として日本にさまざまな情報を送ってきた杉原を唐沢寿明が演じ、彼を支える妻に小雪がふんするほか、日本、ポーランドの実力派俳優が集結。『サイドウェイズ』などのチェリン・グラック監督がメガホンを取り、国際色豊かなスタッフ、キャストをまとめ上げた。
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杉原千畝の半生を描いた映画。命のビザのことは有名だし、映画化にあたっては、やはり観ておかないといけないと思い鑑賞に至る。昭和30年(1955年)、日本の外務省を一人のユダヤ人が訪れる。自分の命を救ってくれた「センポ・スギハラ」という外交官との面会を求めるが、応対した職員から「センポ・スギハラという外交官は存在しない」と返答されてしまう。
実は、杉原千畝は命のビザの発行にあたり、本省の指示に従わなかったかどで戦後は不遇を託っている。その事実を現すエピソードであるが、観ているだけではわからない。「命のビザを発行した」事実とともに、「それを外務省は問題視した」という事実も大事なファクターだと思うのだが、映画ではそれがわかりやすくきちんと描かれていないのは残念だと思う。
そして時を遡り、昭和9年(1934年)。満洲国外交部の一員として働く杉原千畝は、白系ロシア人のイリーナとマラットと共に、ソ連との北満鉄道譲渡交渉を有利に進めるための、諜報活動を行っていた。杉原はソ連軍が新型列車を盗み出そうとした証拠を掴むが、手を組んでいた関東軍の南川欽吾の暴走によって、マラットとソ連兵が殺害されてしまう。このあたりはスパイ映画もどきで、命のビザのイメージとは大きく異なる。
満洲国を私物化する関東軍に嫌気が差した杉原は、満洲国外交部に辞表を提出し、日本に帰国する。もともとロシア語を学び、ソ連行きを熱望していたが、北満鉄道の一件を理由に、ソ連当局から「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」を発動され、入国を拒否されてしまう。落胆した杉原は、友人の菊池静男とヤケ酒を飲み菊池の家に泊まるが、そこで菊池の妹・幸子と出会い、恋に落ちる。
昭和14年(1939年)、杉原は新設されたリトアニア・カウナス領事館への赴任が決定し、ソ連の動きを探るように命じられる。杉原がカウナスに赴任した直後、ソ連はナチス・ドイツと独ソ不可侵条約と締結し、ドイツはポーランド侵攻を開始する。杉原は、接触してきたポーランド人スパイのペシュと手を組み、諜報活動を開始する。やがてソ連はリトアニアを併合し、日本領事館に対し閉鎖を求めてくる。時を同じくして、日本領事館の周りには、ビザを求めてユダヤ人たちが集まってくる・・・
当初、諜報を主眼とした外交官だった杉原千畝氏。映画もスパイ映画もどきのスタートとなる。それが、やがてナチスドイツによるユダヤ人排斥が激しくなってくると、ビザ発行という流れになっていく。確かに、目の前に大勢の人間が救いを求めてくれば、何とかしたいというのが普通の人の人情というもの。杉原氏もはじめは本省にビザ発給の承認を求めている。これが承認されれば、評価されるべきは日本国であったのだろう。ところが、許可はされなかった。
杉原氏の評価されるべきところは、にも拘らず知恵を絞ってビザを発給したことである。さらには、それが原因で戦後不遇を託つことになる。しかも冒頭の外務省の対応のごとく、冷たい対応をされ、正式に復権したのは2000年になってからという。そのあたりまでどうせならきちんと描いてほしかったと思うところである。いくら人道的に正しいからといって、組織に反してまでできるだろうかと考えると、やはりその行為は賞賛されてしかるべきところである。
なお、映画ではビザの発給を受けたユダヤ人たちが、ウラジオストクに到着している場面も描かれている。そこでも官僚主義的な対応をせず、ユダヤ人たちを日本へと送り出している人(根井総領事)がいて、そこもきちんと描かれている。それがなければ命のビザの物語も成り立たなかったかもしれない。そういう部分も広く理解が深まるようになっている。映画としても面白いが、それ以前に、同じ日本人として観ておきたい映画である・・・
評価:★★☆☆☆