
原題: Fences
2016年 アメリカ
監督: デンゼル・ワシントン
出演:
デンゼル・ワシントン: トロイ・マクソン
ヴィオラ・デイヴィス: ローズ・リー・マクソン
スティーヴン・ヘンダーソン: ジム・ボノ
ジョヴァン・アデポ: コーリー・マクソン
ラッセル・ホーンズビー: ライオンズ・マクソン
ミケルティ・ウィリアムソン: ガブリエル・マクソン
<映画.com>
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オスカー俳優デンゼル・ワシントンの3作目となる長編映画監督作。アメリカの劇作家オーガスト・ウィルソンによる、ピューリッツァー賞などを受賞した名作戯曲「フェンス」を、10年にリバイバル上演された舞台版で主演し、トニー賞主演男優賞を受賞したワシントンが、自らのメガホンで映画化。ワシントンは監督のほか製作、主演も兼ね、舞台版でもワシントンと共演したヴィオラ・デイビスが妻役を務めている。1950年代の米ピッツバーグを舞台に、元プロ野球選手でいまはゴミ収集員として働くトロイと妻ローズ、そしてその息子たちと、アメリカに生きる黒人家族の人生や関係を描く。第89回アカデミー賞で作品賞をはじめ4部門でノミネートされ、ヴィオラ・デイビスが助演女優賞を受賞した。
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舞台は1950年代のピッツバーグ。ある黒人家族の物語。一家の主人はトロイ・マクソン。毎日清掃車に乗って市内を回っている。相棒のジムと仕事帰りに一杯やるのが楽しみといった感じである。はっきり言って、生活水準は低そうである。そんなトロイの元に、ある日息子のライオンズが訪ねてくる。そして10ドル貸してくれと借金を願い出る。ライオンズは、正業に就かず、ミュージシャンになる夢を追いかけているが、そんな息子に嫌悪感を抱くトロイは憤激し、親子喧嘩となる。妻のローズが取りなさなければ、絶縁となっていたかもしれない。
さらに次男のコリーが大学のフットボールチームにスカウトされているとローズから知らされるが、トロイは息子が白人社会で成功できるわけがないと考えていて、これに反対する。どうやらトロイ自身、過去に自分が黒人差別によって野球で活躍できなかったという無念があるようである。当然、そんなことでコリーは夢を諦めたくない。しかし、トロイは無情にも、「大学のリクルーターがきても入部同意書にサインしない」と言い放つ。
そんなマクソン家の様子をドラマは追う。ローズはトロイに自宅の周りにフェンスを立てて欲しいと頼む。トロイはフェンス作りをコリーに手伝うように命じる。さらにフットボールを優先し、シーズン中にアルバイトを休むということに対し、トロイは烈火のごとく怒る。コリーはコリーで、影響が出ないようにアルバイトはシーズンオフの時にだけ出勤する許可も取ってあったが、トロイは聞く耳を持たず、親子の対立は深まって行く。
トロイには、ガブリエルという兄がいる。しかし、ガブリエルは戦争で頭部を負傷し、以来精神障害を来していて、警察の世話になることもある。トロイには、ガブリエルの戦傷手当3,000ドルで家を建てたという負い目がある。そしてトロイには、文字が読めず、運転免許証も保有していないという引け目があったが、昇進を勝ち取り、ゴミ収集トラックの運転手の地位を獲得する。
家では家長として絶対権力を振る舞うトロイ。ある日、浮気相手のアルベルタの妊娠が発覚するが、トロイはそれを堂々とローズに告げる・・・ある意味、亭主関白のトロイの姿は、立派でもある。我が家でこんな態度を取ったら大変なことになる。しかし、それで家族がうまく行くかというと、それはまた別の問題。マクソン家も決してうまく行っているわけではない。
人は誰でも自分なりに正しいと思う意見がある。問題は、それをどう他人と分かち合うかである。自分の意見を通すことばかり考えていると、他人との関係は決してうまく行かない。それが家族の間であっても然りであり、マクソン家の問題は見事にそれを表している。ライオンズとコリーは男であるがゆえに、父親と激しく対立する。それに対し、妻のローズは涙ながらに抗議するだけ。このあたりは生活の糧をトロイに頼るほかない立場ゆえかもしれない。
結局、トロイは考え方を改めることなく、家族間の対立も解消されないまま。ラストの家族の再会の寂しさ溢れる雰囲気にそれは現れている。他人だから見える欠点はある。我が身に手を当ててみれば、同様のこともあるかもしれないと思う。こうした家族のドラマは、深くドラマの世界に想いを馳せ、それによって己の問題を考えさせてくれるところがある。
主演はデンゼル・ワシントン。この作品ではなんと監督もこなしている。この人は、ヒーローにもなれば、悪人にもなり、酔いどれのダメ人間にもなりと幅広い。この映画でも頑固オヤジ振りが実にすごい。息子の夢に対する強烈な否定も、自分自身の辛い過去がベースにあるのだろうし、そこは気の毒な気もするが、せっかくだったらもう少しいいオヤジであって欲しかったところでもある(もっとも、それでは映画が成り立たない)。
さすが、デンゼル・ワシントンといった感があるが、それ以外にも全体的に深い味わいのある映画である・・・
評価:★★☆☆☆