2018年05月29日

【特捜部Q 檻の中の女】My Cinema File 1928

特捜部Q 檻の中の女.jpg

原題: Kvinden i buret
2013年 デンマーク
監督: ミケル・ノルガード
出演: 
ニコライ・リー・カース:カール・マーク
ファレス・ファレス:アサド
ソニア・リクター:ミレーデ・ルンゴー
ミケル・ボー・フォルスガード:ウフェ
ソーレン・ピルマーク:カールの上司
トロールス・リュービュー:ハーディ

<映画.com>
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世界的に人気を集めるユッシ・エーズラ・オールスン原作のミステリー小説「特捜部Q」シリーズの第1作「檻の中の女」を、本国デンマークで映画化。『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニコライ・アーセルが脚本を手がけた。コペンハーゲン警察殺人課の刑事カールは、新設されたばかりの未解決事件班「特捜部Q」に左遷させられてしまう。捜査終了と判断された事件の資料を整理するだけの仕事にやる気を見出せないカールだったが、資料の中から5年前に世間を騒がせた美人議員失踪事件の捜査ファイルを発見し、その捜査結果に違和感を抱く。助手アサドと共に調査に乗り出したカールは、やがて議員がまだ生きている可能性にたどり着く。主人公カール役を『天使と悪魔』のニコライ・リー・カース、助手アサド役を『ゼロ・ダーク・サーティ』のファレス・ファレス、失踪した議員役を「しあわせな孤独」のソニア・リクターが演じた。2015年1〜2月、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開催の「未体験ゾーンの映画たち 2015」上映作品。
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デンマーク映画というと、日本ではあまり馴染みがないものの、時折観る機会に恵まれる。日本にいてそうなのだから、たぶん現地ではかなり製作されているのではないかという気がする。そんなデンマークのミステリー映画である。

主人公は、コペンハーゲン警察署殺人課の刑事カール・マーク。仕事熱心であることは間違いないが、時に自身の思いの強さからのめり込んでいく傾向がある。冒頭ではいきなりの張り込み現場で、応援を待とうという同僚の声を無視し、カールは現場に踏み込む。しかし、待ち受けていた者に銃撃され、自らも負傷するが、同僚の1人は死亡、もう1人は半身不随の重症を負ってしまう。

3ヶ月後、傷が癒えて署に戻ったカールだが、現場を外されてしまう。異動先は新設部署である“特捜部Q”。そこでは、20年分の未解決事件の書類を整理し再検証するというミッションを与えられる。はっきり言って左遷である。“特捜部Q”は左遷場所にふさわしく、署内の地下にある物置のような部屋。そしてアラブ系の男アサドが、部下として配属される。アサドもどういう経歴かはわからないが、前職は2年間倉庫でスタンプ押しをしていたというもの。カールと違ってアサドは前向きスタンス。

やる気など起こりようのない状況だが、カールはアサドが壁に貼りまくった資料のうち、「ミレーデ失踪事件」の資料に目が留まる。それは5年前、人気の女性議員ミレーデ・ルンゴーが突然乗っていたフェリーから失踪したというもので、手掛かりがない中、「自殺」とされていたもの。しかし、自殺の現場に自閉症の弟を連れて行くのは不自然だとカールは考える。

興味を持ったカールは、刑事魂に火が付き、資料の読み込みに入る。そして一緒にいた弟のウフェが、カフェでレインコートの男と歩いていたと言う証言が無視された事に気づく。実はミレーデは、何者かによってフェリーから拉致されており、以後なにやら堅固な部屋に監禁されていたのである。さらにその部屋は加圧室になっていて、不気味な声の男が気圧を上げ、「1年後に会おう」と言ったきり放置される。食事は与えられるものの、ミレーデは誰も知らない中で、孤独に監禁生活に入る。

 こうしてカールは、アサドとともに誰も見向きもしない事件の捜査を密かに開始する。わずかな手掛かりからわずかな手掛かりへ。カールとアサドは地道に捜査を続けていく。しかし、経費の請求や問い合わせからそれが上司の知るところとなり、上司からは制止される。左遷男には大人しくさせておこうと考えた上司にとっては、煩わしいことこの上ない。しかし、もともとの暴走男がそんな制止に従うはずもない。一方で、何者かによるミレーデの監禁は続いている。その目的は不明。
 
 事前の情報を何も知らずに観始めたものの、いつの間にかストーリーに引き込まれていく。上司の妨害にもめげずに事件を追うカール。そのままではおそらく迷宮入りするだけだった事件が、次第に明らかになってくる面白さ。誰が何の目的でという謎解きもあって、いつの間にか引き込まれていく。何となくラストのカールの言動から今後も“特捜部Q”が続いていきそうだと思ったら、原作はシリーズ化されているという。この映画もシリーズ化されたなら、観るのも面白そうだと思う。

 「檻の中の女」というタイトルだけがどうも引っ掛かるが、それ以外は大満足な一作である・・・


評価:★★☆☆☆







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2018年05月26日

【エスケイプ・フロム・イラク】My Cinema File 1927

エスケイプ・フロム・イラク.jpg

原題: The Mountain II
2016年 トルコ
監督: アルパー・カグラー
出演: 
カグラー・アートグルール
ウフク・バイラクター
アフ・タルクペンス
ムラート・セレジル
ムラート・アーキン

<シネマトゥデイ>
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トルコ軍の特殊部隊の活躍を描くミリタリーアクション。彼らが、IS(イスラミックステート)にとらわれた女性ジャーナリストの救出に挑む。メガホンを取るのは『ヒットマン:デッドリミット』などのアルペール・チャーラル。カグラー・アートグルール、ウフク・バイラクター、アフ・タルクペンス、ムラート・セレズリらが出演し、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ハードコア』などを手掛けたVFXスタッフが参加している。
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冒頭、オレンジのつなぎを着せられた女性が砂漠に座らせられ、目だし帽の男に首にナイフを突き付けられている。その前にはビデオカメラを構えた男。以前、ずいぶんとニュースになった衝撃的なシーンである。そしてあわや処刑寸前というところで、静かに近寄っていたトルコ軍特殊部隊精鋭が一気にテロリストを殲滅し、救助する。しかし、助けられたはずのジャーナリストは、彼らに好意を抱いていない。

それでも母国民救出のためにイラクに潜入したトルコ軍特殊部隊は、かまわずジャーナリストを連れてヘリによる救出地点までの道のりを歩いて行く。そこは危険なISの勢力圏内であり、追撃を逃れての行動となる。その合間に、特殊部隊隊員たちの過去が描かれていく。『GIジェーン』(My Cinema File 1317)でもお馴染みの過酷な訓練。どこの国も似たようなものなのかもしれない。

そんな過酷な訓練を経たメンバーは精鋭。ISが束になってもかなうものではない。しかし、無敵の勢いの精鋭部隊も数で勝るISはやはり脅威である。隊長は、なるべく戦闘を回避しようとするが、ISのリンチに遭っている民間人を捨ておくわけにはいかずこれを助ける。そのたびに足かせが増えていく。ようやく合流地点付近の村にたどり着くが、今度は迫りくるISを前に無防備な村人たちを放置できるかという試練に立たされる。

『ローン・サバイバー』(My Cinema File 1404)では、非武装の敵住民を見逃してゲリラに通報されて特殊部隊のメンバーが窮地に陥ったが、同じような構図である。ISの大部隊が迫る中、隊長は命令を無視してジャーナリストと村の子供たちだけをヘリに乗せる。残った村人たちを隠れさせた上で、たった7人で数百名のIS軍を待ち受ける・・・

村の境界にトルコ国旗を掲げ、悲壮な決意で敵に対峙する特殊部隊の面々。いやが上にも気分は高揚する。これがハリウッド映画だったら感じなかったと思うのだが、トルコ映画ということを考えると、これはエンターテイメントというよりは「国威発揚映画」なのだろうと思えてくる。それも悪くはないとは思うものの、やはり映画は純粋にエンターテイメントとして創ってほしいと無邪気な自分は思う。

映画には亡くなったと思しき兵士に対する哀悼文言が出てくる。もしかしたら実話をベースにしているのかもしれない。同じトルコ映画でも『シーバトル戦艦クイーン・エリザベスを追え!!』(My Cinema File 1536)は、エンターテイメントとしてはあまり面白くなかったが、こちらはクライマックスの戦闘シーンはなかなかの圧巻。気分を盛り上げるシーンもあって、国威発揚だろうが無関係な国民からすると純粋に楽しめるのは確かである。

 余計なことは考えず、純粋に楽しみたい映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2018年05月23日

【アメリカン・ウォー】My Cinema File 1926

アメリカン・ウォー.jpg


原題: Memorial Day
2012年 アメリカ
監督: サム・フィッシャー
出演: 
ジェームズ・クロムウェル:バド・ヴォーゲル
ジョナサン・ベネット:カイル・ヴォーゲル
ジョン・クロムウェル:若い頃のバド・ヴォーゲル
ジャクソン・ボンド: 幼少期のカイル・ヴォーゲル

<KINENOTE解説>
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祖父と孫の世代を超えた戦場における勇気と決断を描いた戦争アクション。幼い頃、祖父の壮絶な戦争体験を聞いたカイル。時は経ち、イラク戦争で任務に当たっていたカイルは、ひとりの命を救うか、大勢を救うため見殺しにするかという決断を迫られる。
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 2005年、イラク戦争の現場から物語は始まる。道端に横たわる動物の死体。警戒するアメリカ陸軍の一部隊。すると、案の定死体に仕掛けられた爆弾が爆発し、カイル・ヴォーゲル軍曹は破片を受けて負傷する。カイルには妙な収集癖があり、自らに突き刺さった破片を始めとして様々な物を集めていて、仲間からは「コレクター」と呼ばれている。負傷して野戦病院に運び込まれたカイルは、退院前夜に軍医のトリップ中尉に話し掛けられ、祖父との思い出を語る。

 時を遡り1993年のメモリアルデー。兄弟と共に祖父バド・ヴォーゲルの家を訪れていた13歳のカイルは、古い軍用トランクを納屋で見つける。それはバドが第二次世界大戦に従軍した時のもの。好奇心旺盛なカイルは、トランクを持ち出すとバドの下へと行く。当初はそれについて語ることを拒んでいた祖父バドは、カイルの熱意に負けトランクの中から3つだけ品を選ばせ、それぞれの品にまつわる思い出を語ることにする。

 カイルが最初に選んだのは、ホルスターに入ったワルサーP38。ドイツ軍の軍用拳銃である。それは1944年9月のこと、若き日のバド・ヴォーゲル中尉率いる小隊を載せた車列は、オランダの地で移動中にドイツ軍と遭遇する。既に連合軍はノルマンディーに上陸し、バドたちは『遠すぎた橋』のマーケット・ガーデン作戦に従事している最中。銃撃戦の結果、バドは負傷したSS将校からワルサーP38を押収する。小隊には捕虜にする余裕はなく、やむなくSS将校を置き去りにする・・・

 こうして、祖父バドは第2次大戦に従軍していた時の経験をカイルに語っていく形で物語は進む。バドの息子であり、カイルの父でもある人物はほとんど登場してこなかったからわからないが、この父も軍人でベトナム戦争経験者だったら見事な戦争経験三重奏になるのに、などとくだらないことが脳裏を過る。戦争国家アメリカならではである。

 中心となるのはバドの経験談であるが、その内容はと言えば、さしてドラマチックというものではない。バドが語る最後のエピソードは、部下の軍曹についてのものであるが、バドが語るのを拒むほどのエピソードではなく、どうも感情移入しにくい。そのため、映画自体の魅力も下がってしまっている。最後に原隊復帰したカイルが、負傷した捕虜を後送するかの判断を迫られるが、バドの経験談の影響かカイルは後送を指示する。されどそれもこれと言った盛り上がりにはつながらない。

 結局、軍人家系の祖父と孫のそれぞれの苦悩が描かれる内容なのであるが、正直言ってエンターテイメントとしてはあまり面白くない。それがこの映画の最大の欠点。何となくタイトルからしても、軍人に敬意を示したいのかもしれないが、それとエンターテイメントとしては別。やっぱり見て面白くなければそれまでである。
 時間の浪費となってしまった残念な映画である・・・


評価:★☆☆☆☆








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2018年05月21日

【ザ・イースト】My Cinema File 1925

ザ・イースト.jpg

原題: The East
2013年 アメリカ
監督: ザル・バトマングリ
出演: 
ブリット・マーリング: サラ/ジェーン
アレクサンダー・スカルスガルド: ベンジー
エレン・ペイジ:イジー
ジュリア・オーモンド: ペイジ・ウィリアムズ
パトリシア・クラークソン: シャロン

<シネマトゥデイ>
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『アナザー プラネット』 『ランナウェイ/逃亡者』などで注目を浴びる女優、ブリット・マーリングが主演、製作、脚本を手掛けたサスペンス。自然破壊をもたらす企業を標的にする環境テロ集団への潜入捜査に挑む女性が、彼らの理念に共感しながらも犯行を食い止めようとする。メガホンを取るのは、新鋭ザル・バトマングリッジ。全編を貫く尋常ならざる緊張感や社会的テーマもさることながら、『JUNO/ジュノ』のエレン・ペイジやパトリシア・クラークソンら、実力派の共演も見ものだ。
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主人公は、テロ活動からクライアント企業を守る会社に採用された元FBIエージェントのジェーン。アメリカは非常にエキサイティングな国だと思うのは、こういうサービスを行う会社があるからである。そういう企業があることもさることながら、なんと潜入捜査までやってしまうというのだから驚きである(と言っても本当に実在するのか映画のためのフィクションなのかは定かではない)。そんな企業で働くジェーンは、環境テロリスト集団“イースト”への潜入捜査を命じられる。

“イースト”は、環境汚染や健康被害をもたらす大企業をターゲットに過激な報復活動を行っている。その手法は、例えば原油事故を起こした企業の幹部宅に原油をぶちまけといった内容で、まったく無関係の第三者を殺害するという目も当てられないテロ集団とはちょっと毛色が異なる。それでも被害企業にすれば迷惑な話であり、対処を望むのであろう。そして当の“イースト”は、FBIにもマークされているがその実態については全く謎の集団であった。

ジェーンは、恋人に海外出張と偽り、潜入捜査に着手する。髪の色を変え、サラと名前を変え、偶然を装いメンバーと思われる男と知り合う。怪我の治療の必要もあり、サラは目隠しをされたままとある屋敷へと連れていかれる。そこは狙い通り“イースト”のアジトであり、リーダーのベンジーとその仲間たちとの接触に成功する。気になる次のターゲットであるが、それはとある製薬会社。そこの製品には実は強い副作用があり、メンバーの中にはその後遺症に苦しむ者もいる。そしていよいよテロ決行の日となる。

テロと言っても、その製薬会社のパーティーに忍び込み、幹部のグラスにその会社の製品を混ぜるというもの。まんまと首尾よく幹部に薬を飲ませることに成功し、サラはその働きもあってメンバーに信頼されるようになる。そして薬を飲んだ幹部がやがて薬害を訴え、金のために副作用という不利な事実を隠ぺいしていたことが明らかになる・・・

無差別殺戮を行うような集団なら、まったく同情の余地もない。しかし、“イースト”がターゲットにしている企業は、金のためなら倫理を捨てるのも厭わないという大企業。その陰には大勢の声なき被害者が泣き寝入りしている現実がある。自分たちの製品を飲ませることは、よくよく考えると何の罪になるのだろうかと考えてしまう。当初は使命感に燃えていたサラもやがて自らの使命に疑問を呈していく。法律と倫理と二つの基準の中で真の正義とは、善悪とは何かを観る者も問われることになる。

潜入捜査と言うと、どうしても男というイメージがあるが、さすがアメリカは男女同権の国。この映画では女性が潜入する。そしてその主人公を演じるブリット・マーリングであるが、あまり印象がない割にこの映画では主演に留まらず、製作や脚本も手掛けているという。ビジュアル的にも美形で見とれてしまうほどであるし、今後出演映画はチェックしたいと思うほどである。

正義もどこに基準を置くかによって異なってくる。まさに『これからの「正義」の話をしよう』に採り上げられても良さそうな内容である。
ストーリーとしても面白いし、美形主演映画として眺めても良しの映画である・・・


評価:★★☆☆☆






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2018年05月20日

【ナミヤ雑貨店の奇蹟】My Cinema File 1924

ナミヤ雑貨店の奇蹟.jpg

2017年 日本
監督: 廣木隆一
出演: 
山田涼介:敦也
西田敏行:浪矢雄治
村上虹郎:小林翔太
寛一郎:幸平
成海璃子:皆月暁子
門脇麦:セリ
林遣都:松岡克郎
鈴木梨央:セリ(少女時代)
山下リオ:映子
手塚とおる:刈谷
PANTA:皆月良和
萩原聖人:浪矢貴之
小林薫:松岡健夫
吉行和子:田村秀代
尾野真千子:田村晴美

<シネマトゥデイ>
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人気作家・東野圭吾の小説を、『やわらかい生活』などの廣木隆一監督が映画化。現在と過去が手紙でつながる不思議な雑貨店を舞台に、養護施設育ちの若者と、町の人の悩み相談を聞く店主の時を超えた交流を描く。32年前から届く悩み相談の手紙に触れるうちに、人を思いやる気持ちを抱く主人公を『暗殺教室』シリーズやテレビドラマ「カインとアベル」などの山田涼介、雑貨店店主を数多くの作品で独特の存在感を見せてきたベテラン西田敏行が演じる。
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東野圭吾原作の同名小説を映画化したものであるが、原作が感動的であったので躊躇なく観ることにした映画。

映画は、1969年から始まる。とある商店街にある『ナミヤ雑貨店』には悩み相談があって、小学生からの相談に対する回答が張りだされている。「テストで100点取りたい」という悩みに対しては、「自分自身に関するテストならば、全問正解できる」なんて答えが貼りだされている。それを読む子どもたち。そんな他愛のない悩みに対し、ちょっと深刻な悩みについては個別対応となる。すなわち、相談ごとを書いた手紙を夜中にシャッターの郵便受けに投げ込んでおくと、翌日には店の脇にある牛乳箱に回答が入っているのである。

時は変わって2012年。
ある若者3人が必死に逃げている。3人はある家に押し込みに入ったあとであり、車で逃亡しようとしたもののエンジンがかからない。やむなく、下調べの時に潜伏先として目星をつけていた廃屋に3人は逃げ込む。表にはかろうじて『ナミヤ雑貨店』と読める看板がかかっている。息をひそめる3人だが、突然シャッターの郵便受けに郵便物が入ってくる。外を見に行くも人影はない。それは「魚屋ミュージシャン」と称する人物からの手紙であったが、日付はジョン・レノンが死んだ1980年12月8日の翌日のもの。

手紙の主は、1980年に22歳の若者である克郎。祖母の葬儀で東京から帰省した克郎は、ミュージシャンになりたいという夢を見て大学を中退していた。思いとは裏腹に一向に芽が出る気配はなく、焦りと不安とがないまぜになっている様子が見て取れる。誰にも打ち明けられぬ思いを手紙に綴る。既に『ナミヤ雑貨店』は空き家になっていたが、返事を期待しているわけではないその気持ちはよくわかる。しかし、翌日、『ナミヤ雑貨店』の牛乳箱に回答の手紙があるのを見つけ、克郎は驚く。

返事の手紙は、3人の若者のうちの幸平が書いたもの。不思議なことに、1980年に投函された手紙が2012年の3人の元に届く。そして2012年の3人の返事は1980年の克郎に届く。それは悩める克郎の音楽活動を支え、ある事件を経て2012年現在、巷で名曲としてヒットしている女性歌手・セリの曲へとつながる。心に優しく響くエピソードを交えて映画は進む。エピソードをつなぐのは養護施設・丸光園。3人はそこで育っており、登場人物たちはみなこの施設に関係している。

なぜこんな不思議な出来事が生じたのか。それはその夜が『ナミヤ雑貨店』の店主であった雄治の三十三回忌の命日であったことが原因のようである。未来と過去がつながる奇蹟。東野圭吾と言えばミステリーモノが中心であるが、時折こうした心に響くドラマが交じる。『手紙』(My Cinema File 191)なんかの系統に分類できるドラマである。

心を打つ各々のエピソード。手紙に綴られる悩みは様々。丸光園を中心として様々なドラマが描かれる。過去と未来がつながり、接点のなかったはずの登場人物たちがつながっていく。それは巡り巡って3人の押し込みの原因にもなり、ストーリーの妙を味わわされる。人の数だけドラマがあり、人の世は至る所で結びついている。原作も良かったが、映画も映画なりの良さがある。まさに「一粒で二度おいしい」と言える。

さすが東野圭吾と納得の映画である・・・


評価:★★★☆☆






posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | ファンタジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする