
2016年 日本
監督: 山田尚子
出演:
入野自由:石田将也
早見沙織:西宮硝子
悠木碧:西宮結弦
小野賢章:永束友宏
金子有希:植野直花
石川由依:佐原みよこ
潘めぐみ:川井みき
豊永利行:真柴智
<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
元ガキ大将の主人公と聴覚障害があるヒロインの切ない青春を描いた大今良時のコミックを基に、『けいおん』シリーズなどの山田尚子監督が手掛けたアニメーション。主人公の少年が転校生の少女とのある出来事を機に孤立していく小学生時代、そして高校生になった彼らの再会を映し出す。アニメーション制作を京都アニメーション、脚本を『ガールズ&パンツァー』シリーズなどの吉田玲子が担当。ボイスキャストには入野自由と早見沙織らが名を連ねる。
********************************************************************************************************
ここのところ増えている(気がする)アニメ映画。これはこれで日本映画の特徴として良いと思う。原作はコミックのようである。
主人公は、ガキ大将である小学校6年生の石田将也。いつも悪ガキ仲間とつるんでいる。ある日、クラスに聴覚障害を抱える転校生の少女、西宮硝子が転校してくる。硝子は、耳が聴こえないため筆談用ノートを使っているが、小学生の間ではなかなか円滑なコミュニケーションを図るがうまくいかず、やがていじめへと発展していく。
硝子の筆談ノートを学校の池に投げ込んだり、高額な補聴器を破損させたりするに至り、先生が介入。その結果、将也はいじめの主犯格とされる。さらにこれをきっかけに、将也はクラスで孤立し、一転していじめられる対象となってしまう。学校側からの連絡を受けた将也の母親は、硝子の母親へ謝罪し、高額な補聴器代を弁償する。そして硝子は、クラスになじめないまま別の学校に転校してしまい、将也は他人不信と硝子に対する罪の意識を抱えることになる・・・
それから5年後。将也は高校3年生となっている。人間不信と自己嫌悪はずっと続いたままであり、周囲からも孤立し続けている。そして、硝子に一言、小学生時代に伝えられなかった謝罪をしてから自殺しようと決意する。将也は、硝子の通うろう学校に出掛け、硝子と再会する。この日のコミュニケーションに備え覚えた手話で硝子と会話し、持っていた小学生の時の筆談ノートを返すとともに、とっさに「友だちになってくれ」と口走ってしまう・・・
なんとなく恋愛映画かと思っていたが、どうもそのようでいてそうではない。小学校時代の苦い思い出を共有する二人が、高校生になって再会し、そして定期的に会うようになる。けれどそれが恋愛関係へと進む気配はない。しかし、二人を中心とする人の輪は次第に広がっていく。まず将也は硝子の妹、結絃と仲良くなる。また、学校では、絡まれていた所を助けてやった縁からクラスの永束と仲良くなる。
また将也は、かつて硝子と仲良くしたためクラスで孤立し不登校となってしまった小学校のクラスメイトの佐原みよこを硝子に引き合わせる。さらに偶然街で鉢合わせした植野直花とも再会することになる。こうして友達の輪が広がっていくのである。観ていて感心したのは、聴覚障害者の声。聴覚障害者は話せないわけではないが、耳が聞こえないため正しく発音ができない。「好き」を「月」と勘違いされてしまったりするのだが、そのあたりのやり取りは真に迫っている。
人間不信の将也はクラスメイトの顔が隠されているように表現されるが、1人また1人とそれがはがれ、人の顔が現れてくる。これは将也の再生の物語でもある。究極的には恋愛感情が現れてくるが、恋愛映画というよりも友情や個人の再生といった趣がある。しかし下手な恋愛映画よりも恋愛映画らしいとも言える。逆にそれが新鮮に感じられる。親の関与も適度にあって、高校生らしい青春物語が心地良い。
人は誰でも人生順風満帆というわけではない。誰でも躓いてしまったりすることはある。そんな躓いてしまった将也と硝子の再生の物語。ゆるやかに心の襞を撫でてくれる物語を楽しみたい映画である・・・
評価:★★★☆☆