
原題: Der Staat gegen Fritz Bauer
2015年 ドイツ
監督: ラース・クラウメ
出演:
ブルクハルト・クラウスナー:フリッツ・バウアー
ロナルト・ツェアフェルト:カール・アンガーマン
セバスチャン・ブロムベルグ:ウルリヒ・クライトラー
イェルク・シュットアウフ:パウル・ゲプハルト
リリト・シュタンゲンベルク:ヴィクトリア
ローラ・トンケ:シュット嬢
ゲッツ・シューベルト:ゲオルク=アウグスト・ツィン
コルネリア・グレーシェル:シャルロッテ・アンガーマン
<シネマトゥデイ>
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数百万人のユダヤ人を強制収容所に送ったナチス戦犯アドルフ・アイヒマンを、1960年に潜伏先で拘束するまでの極秘作戦の裏側に迫る実録サスペンス。イスラエルの諜報機関モサドによる拘束作戦を成功に導いた検事長フリッツ・バウアーに焦点を絞り、彼がいかにしてアイヒマンの消息をつかみ、追い詰めたかを描く。主演は『ヒトラー暗殺、13分の誤算』などのブルクハルト・クラウスナー、共演には『東ベルリンから来た女』などのロナルト・ツェアフェルトらが名を連ねる。
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時は1950年代後半の西ドイツ・フランクフルト。経済復興が進む一方、戦争の記憶が風化しようとしていく中、検事長のフリッツ・バウアーはナチス戦犯の告発に執念を燃やしている。そんなある日、彼のもとに、逃亡中のナチスの大物戦犯アドルフ・アイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているという重大な情報を記した手紙が届く。
物語はタイトル(邦題)にもある通り主人公のバウアー検事がアイヒマン逮捕に向けて奮闘していく様を描いていくのであるが、それと並行して部下のアンガーマンとの関わりもサイドストーリーとして描かれる。このアンガーマンであるが、実はゲイ。当時の西ドイツではゲイは犯罪であり、バレれば職を失うだけではなく、罪に問われることになる。さらにバウアー自身もゲイであり、その危うさが物語にスリリングさを加えている。
アイヒマン逮捕に向けて一丸となって物語が進むかと言えばそうではなく、実はドイツ国内にはナチス残党が巣食っていて、バウアーとアンガーマンはその妨害と圧力にさらされ、孤立無援の苦闘を強いられる。そのあたりも複雑な事情が絡んでいて、ナチス戦犯が逮捕されると、場合によっては自らの過去も曝され逮捕されかねないわけで、脛にキズ持つ政府高官たちはバウアーの動きを戦々恐々と見つめているわけである。
そんな状況下、バウアーは奇策を考える。それは、アイヒマンの情報をモサドに提供するというもの。このあたりは、史実だとしたら意外である。しかしその行為は、国家反逆罪に問われかねない危険な行動。それでもアイヒマン逮捕に執念を燃やすバウアーは、そのリスクを厭わずモサドへの接触を図る。国内のナチス残党にバレないようにわざわざフランス経由でエルサレムに飛ぶ念の入り様。ここで、何で国家反逆罪にあたるのかよくわからず、ちょっと引っ掛かってしまう。
一方、部下のアンガーマンは、あるゲイ行為を裁く裁判で被告の男に罰金刑を求刑する。これはバウアーのアドバイスによって、判例から引っ張ってきたのであるが、ここで裁判官が激怒して結局懲役刑となる。これも無茶苦茶な展開で、当時はこんなことが許されたのだろうかと疑問に思う。当時のドイツの法体系はよくわからない。そしてこの求刑姿勢を感謝され、被告の「恋人」から店に遊びに来いと誘われる。
アンガーマンは葛藤するものの、結局その店に行く。中に入れば、そこは怪しげな官能の世界。一見、普通のナイトクラブであるが、そこで歌っているのは、裁判にかけられていた(結局懲役刑になって服役している)男の「恋人」。もちろん、男である。そしてそこは「そういう店」。のちにアンガーマンはそのことをバウアーに相談する。「もう行くな」というのがバウアーの返答。「一度だけなら『知らなかった』で済ませられる」というのももっとも。しかし、アンガーマンはその誘惑に勝てない。
このエピソードがどういう意味を持つのかは不明。アイヒマン逮捕のシーンは、昔何かの映画で見たのと同じであったが、逮捕から裁判までは実にあっさりとしたもの。バウアー検事はドイツ国内で裁判にかけることを意図していたが、結局それは実現できず、イスラエルでの裁判となったのは史実の通り。何度も見たことがある裁判の陰にこんな事実があったのかと興味深い。
アイヒマン逮捕に執念を燃やすバウワーと思わぬところで足をすくわれたアンガーマン。この絡みをどう解釈するかは観る人次第であるが、まぁ一つの嗜好としてはいいかもしれない。エンターテイメントと知られざる史実の物語として、楽しめる映画である・・・
評価:★★☆☆☆