
原題: The Thing
2011年 アメリカ
監督: マティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.
出演:
メアリー・エリザベス・ウィンステッド:ケイト・ロイド
ジョエル・エドガートン: サム・カーター
アドウェール・アキノエ=アグバエ: デレク・ジェイムソン
ウルリッヒ・トムセン: サンダー・ハルヴァーソン博士
トロンド・エスペン・サイム: エドヴァルド・ウォルナー
エリック・クリスチャン・オルセン: アダム・フィンチ
<シネマトゥデイ>
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『ハロウィン』などの鬼才ジョン・カーペンターが1982年に放った傑作SFホラー『遊星からの物体X』の前日譚。氷魂の中に閉じ込められた宇宙生命体を発見した、ノルウェー南極観測隊が体験する未曽有の恐怖をスリリングに活写していく。監督を務めるのは、CM業界出身の新鋭マシーズ・ヴァン・ヘイニンゲン・Jr。『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』のメアリー・エリザベス・ウィンステッドが、宇宙生命体の脅威に挑んでいく考古生物学者を快演する。生命体に同化されておぞましい変ぼうを遂げていく人体を作り上げたVFXも見ものだ。
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ヒットした映画の続編が創られることは珍しいことではないが、30年も経ってからとなるとどうだろう。元の映画は、ジョン・カーペンター監督の名作名高い作品であるが、この映画はその前日譚を描いたもの。『遊星からの物体X』(My Cinema File 2002)では、冒頭で逃げる犬を追ってヘリが南極のアメリカ基地に着陸するところから始まっていた。追って来たのはノルウェー隊。一体、何があったのか。冒頭での謎に答えてくれるのがこの映画というわけである。
1982年、南極大陸でノルウェー観測隊が何かの電波を追っている。そして偶然氷の下にある巨大な人造物を発見する。同時に正体不明の氷漬けの生物の遺骸も回収する。そんな事をツユとも知らない古生物学者のケイト・ロイドは、アメリカ人とノルウェー人で構成された国際探査チームに招集され、南極を訪れる。目的は明かされぬまま南極基地に到着するが、着いた早々案内されたのは、発見された巨大な宇宙船と運び込まれた地球外生命体の遺骸であった。
興奮に沸き立つノルウェー隊。氷漬けの地球外生命体は基地に搬入され、調査されることになる。しかしその夜、突然生命体(=The Thing、「物体」)は氷を破砕して基地外に逃走する。「物体」はノルウェー隊が飼っていた犬を殺害し、さらに捜索にあたっていた隊員の1人を襲う。襲われた1人は犠牲になるが、「物体」は駆け付けた隊員たちによって倉庫ごと焼却される。ケイトは、焼却された「物体」を解剖するが、その細胞がまだ生きていることや、襲った隊員を体内で取り込んでその姿に擬態するという生態を知る。この時、死んだ隊員の骨折した骨に埋められていた金属プレートが、「物体」の体内から発見され、「物体」は有機細胞ではないものについては、同化・複製できないことがわかる。
物語は当然、ここで終わらない。ケイトはシャワールームで大量の血痕と共に歯の詰物の破片を発見する。その時、具合の悪くなった隊員を搬送するヘリが飛び立ったところであったが、当の隊員が「物体」へと変化し、ヘリは墜落する。慌てた観測隊の隊員たちは基地から避難しようとするが、ケイトはすでに隊員の誰かに『物体』が擬態している可能性を指摘し、冷静に「隔離」を主張する。こうして、アメリカ隊を襲った恐怖と同じ恐怖をノルウェー隊が味わうことになる。
それにしても似たような異星人に体を乗っ取られるパニックものでも、『エイリアン』(My Cinema File 49)は顔面に異生命体が張り付くことによって襲われたことがわかったが、この映画ではそれがわからない。そこがこの映画のエイリアンの恐ろしいところだろう。前作では、(乗っ取りを)見分けるために血液検査を実施していたが、ここでは口を開けて虫歯の治療痕を確認するという実にシンプルな方法。ただし、この方法では、健常者(虫歯のないもの)も疑いの対象になってしまうという欠点がある。
内容的には、『遊星からの物体X』(My Cinema File 2002)で展開されたようなエイリアンとの死闘が描かれていく。変わっているところとしては、逃げたエイリアンを追って宇宙船の中に戦いの場を移していくところだろうか。ただ、やっぱりゲテモノ怪物にしか見えないエイリアンが、地球よりもはるかに進んだ高度なテクノロジーの持ち主には見えないという強烈な違和感だけは残ってしまう。
エイリアンの前に次々に倒れるノルウェー隊。そして基地で生き残った隊員が、犬が逃げていくのを見かける。危機感を覚えた隊員がヘリに乗って犬を追いかけ、空から狙撃する。これが『遊星からの物体X』(My Cinema File 2002)の冒頭のシーンへとつながっていく。一方で、宇宙船での死闘を制したケイトがその後どうなったのかは描かれない。これはこれでまた次への伏線になるのか、あるいは『遊星からの物体X』(My Cinema File 2002)でも最後に残った2人のような運命なのかもしれない。
その先をたっぷりと観る者に想像させて物語は終わる。終わった後に思うに、やはり前作を観てからこの映画を観た方がいいということ。見比べてみると、終わった後にいろいろと想像の翼を広げてみたくなる映画である・・・
評価:★★☆☆☆