
1998年 日本
監督: 伊藤俊也
出演:
津川雅彦:東條英機
スコット・ウィルソン:ジェセフ・B・キーナン主席検事
いしだあゆみ:東條かつ子
奥田瑛二:清瀬一郎
ロニー・コックス:ウイリアム・F・ウェップ裁判長
スレッシュ・オビロイ:ラダビノット・パール判事
大鶴義丹:立花泰男
戸田菜穂:新谷明子
寺田農:重光葵
<映画.com>
********************************************************************************************************
A級戦犯として逮捕され、東京裁判で死刑判決を受けた東條英機の名誉と真実をかけた”闘い”を、その人物像を中心に描いた人間ドラマ。監督は「ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス」で総監督を務めた伊藤俊也。脚本は、「東雲楼・女の乱」の松田寛夫と伊藤の共同。撮影を「ご存知!ふんどし頭巾」の加藤雄大が担当している。主演は「Looking For」の津川雅彦。
********************************************************************************************************
東条英機と言えば、我が国の歴史では「日本を戦争に駆り立てて、挙句の果てに敗戦で我が国に膨大な損害をもたらした極悪人」というレッテルが貼られ、東京裁判で処刑されたあと、靖国神社に合祀されたことにより「靖国問題」が発生し、今なお周辺国との軋轢の原因となっているとされる人物である。この映画はそんな人物を主に東京裁判を中心として描いた映画である。
東条英機は、1941年に対米戦戦時の内閣総理大臣兼陸軍大将。そうした立場もあって、敗戦後の9月11日、GHQに逮捕される。逮捕時に短銃自殺を図るが、発見が早く命は取りとめる。そして連合国による極東国際軍事裁判(いわゆる東京裁判)にかけられることになる。逮捕後、収容されたのは有名な巣鴨プリズン。東條はすでに極刑を覚悟し、裁判を闘うことを無意味と思ったが、弁護士・清瀬に説得され、裁判を通じた戦いを決意する。
清瀬は、東京裁判の目的は、戦争の原因の全てを敗戦国に負わせ、ナチス・ドイツと同じように日本を裁こうとするのだと語る。説得を受けた東條は、日本が最悪の国家・民族にされないよう、日本の名誉と真実をかけた”闘い”に臨むことを決意する。東京裁判の開廷は1946年5月3日。裁判の判事団は、ウェップ卿を中心とした戦勝国11ヶ国で構成されている。そしてインド人のパール判事は遅れて出席し、自分が来る前に開廷したことを非難する。
実際の裁判の様子は、映画『東京裁判』でも観たが、まずは起訴状の朗読、そして罪状認否となる。これに対し、A級戦犯として告発された東條を含む28人は、起訴状の全てに無罪を主張する。さらに弁護団は、原爆の罪や戦勝国による無差別空襲を棚に上げ、敗戦国のみを非合法とする原告側の論調を崩そうとする。ハーグ条約では軍事施設への空爆のみが合法とされていたという事実が説明され、この裁判のデタラメぶりが改めて強調される。
今考えてみても、勝者が敗者を裁くというのは、始めからもう結論が見えている。しかし、東條はこれに対し堂々と論陣を張る。映画はキーナン主席検事を何となく悪人的に描き、証人となった元満州国皇帝であった溥儀などの証言はじどろもどろになり、事実と比較してはいないが、何となく東條擁護の色調が高い。さらに南京虐殺も中国人側の非を主張するなど、「観る人」が観たら目を三角に吊り上げるに違いないと感じるものになっている。あるいはそういう意図なのかもしれない。
『東京裁判』は長くて何度も寝そうになったが、さすがにこちらはドラマであり、興味を引くように創られている。その分、エンターテイメントとしても観ていて面白い。東条英機を演じるのは津川雅彦。実際の人物像はわからないが、何となくいい雰囲気が出ている。実際の人物像もこんな人だったのだろうと思わされる。
実際に東條自身がどんな心境だったのだろうと想像してみる。この映画で描かれているように、東條達が天皇に戦犯容疑が及ばないようにしようという考えがあったのは事実だと思う。そしてそれが弁護・反論の足かせになったのかもしれない。ただし、どんなに自虐史観に凝り固まった人が否定しようと、東京裁判自体が「結果の決まった茶番」であったのは間違いなく、この時すでにアメリカの横暴振りが現れていたと言える。
人種的偏見もかなりあったようで、インド人のパール判事に対するキーナン判事の対応は事実か悪意か露骨に描かれている。自分も日本人として自虐史観に囚われることなく、かつ妙な愛国的態度に陥ることなく、冷静に真の歴史を知りたいと思う。東條以下7名のA級戦犯の絞首刑は当時の皇太子の誕生日である12月23日に執行される。この点、悪意的であることはこの上なく明らかである。
実際の『東京裁判』とあわせて観ると面白いと思う映画である・・・
評価:★★☆☆☆