
2016年 日本
監督: 永井聡
原作: 川村元気
出演:
佐藤健: 僕/悪魔
宮崎あおい: 彼女
濱田岳: ツタヤ
奥野瑛太: トムさん
石井杏奈: ミカ
奥田瑛二: 父さん
原田美枝子: 母さん
<シネマトゥデイ>
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『るろうに剣心』シリーズなどの佐藤健と『ソラニン』などの宮崎あおいが初共演を果たし、川村元気の小説を原作に描く感動のドラマ。余命宣告された主人公が、悪魔と取引して世の中から一つ何かを消すことで一日の命を得るという不思議な物語を紡いでいく。『ジャッジ!』などの永井聡監督がメガホンを取り、『サケボム』などの濱田岳が共演。佐藤の一人二役による熱演はもとより、斬新な映像で描かれる胸を打つ物語に引き付けられる。
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主人公は郵便局に勤める「僕」。真面目に働き、彼女がいるわけでもなく、ネコ一匹と暮らしている。ある日、いつものように自転車で配達に走っていると、突然意識を失って転んでしまう。医者の診断によると脳腫瘍でもはや手遅れであると告知される。こういう時、人はどんな反応を示すのだろう。取り乱すのかそれとも事実を淡々と受け入れるのか。自分は後者に違いないと思うが、「僕」も冷静に事実を受け止める。
呆然としたまま家に戻ると、なんと家の中に見知らぬというより自分そっくりな男がいる。驚く「僕」に対し、男は正体を問われるまま「悪魔」としておこうとなる。その悪魔が言うことには、「世界からひとつなにか大切なものを消すと、1日寿命が伸びる」と告げ、「僕」の周囲にある「物」を消して1日寿命を延ばすことを提案してくる。ただし、何を消すかの選択肢は「悪魔」にある。そしてまず最初に「電話」を消そうと告げて悪魔は忽然と姿を消す。
いつか尻尾が尖った悪魔が目の前に現れて「3つの願いを叶えてあげよう」と言われた時のことは考えているが、「何かを消す」というパターンは想像もしたことがない。自分だったら何にしようかと考えるも、選択権がないなら意味はない。電話を消す前に最後に1度だけ電話を使ってもいいということになり、「僕」は電話をかける。自分だったら誰にかけるだろうかとふと妄想する。「僕」がかけた相手はなんと元カノ。そして電話がこの世から消滅する。
元カノも迷わず会ってくれることになり、2人は久々に再会する。2人はもともと大学の同級生。知り合ったのは何と間違い電話。その時「僕」が観ていた映画を音声だけで言い当てた彼女は、のちに映画館に勤めるほどの映画好き。どうして別れて分かれてしまったのかはわからないが、しばし彼女と懐かしいひと時を過ごして帰宅する。しかし、電話が消えると元カノとの出会いのきっかけも消滅し、元カノと「付き合った時間」も消えてしまう。元カノはもう「僕」に会っても素知らぬ顔・・・そして例の悪魔が、次は「映画」を世界から消してしまおうと提案してくる。これは個人的には痛手だと、もしも自分だったらと妄想しながら考えてしまう。
それでも命には代えられず、「僕」は最後に観る映画を選ぶべく、数少ない友人のツタヤ(本名はタツヤ)の勤めるレンタルビデオ屋に向かう。ツタヤも超映画好きで、おせっかいにも「僕」にはかねてからおススメ映画を貸してくれているのである。しかし、最後に借りた『ライムライト』のDVDのケースにディスクは入れ忘れられていて、作品を観ることができなかった。そして映画は消滅し、ツタヤとの思い出も彼女が勤める映画館も消えてしまう。
悪魔の提案はさらに「時計」、そして「猫」と続く。ここでこの映画の不思議なタイトルの理由がわかる。普段、当たり前のように使っているものがこの世から消えたなら、と妄想してみるのも面白いが、面白くないのは消されたモノはただ消えるのではなく、最初から存在しなかったことになるというルール。そうするとそれにまつわる思い出も消えてしまう。そして「僕」にとって、世界から猫を消すことは自分の家族とその記憶を消し去ってしまうことだと気がつく・・・
人は生きていく限りにおいて日々大切な思い出を積み重ねていく。時にそれは辛いものであったとしても、積み上げられるうちにいつしか大切なものだけが残っていく。さすが「悪魔」だけあって、たった1日の寿命と引き換えに取り上げるものの代償は大きい。トイチの高利貸しよりあくどいかもしれない。癌で亡くなった母、それを機に不仲になった父。元カノとの思い出。「僕」の記憶が追体験される中でその大切さが伝わってくる。そして最後に「僕」の下した決断。
日本映画らしい、心に温かい風が吹いてくる映画である・・・
評価:★★☆☆☆