
2018年 日本
監督: 吉田大八
原作: 山上たつひこ/いがらしみきお
出演:
錦戸亮: 月末一
木村文乃: 石田文
北村一輝: 杉山勝志
優香: 太田理江子
市川実日子: 栗本清美
水澤紳吾: 福元宏喜
田中泯: 大野克美
松田龍平: 宮腰一郎
<シネマトゥデイ>
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山上たつひこといがらしみきおによる、第18回文化庁メディア芸術祭優秀賞(マンガ部門)に輝いた問題作を、アレンジを加え実写映画化。殺人歴のある元受刑者の移住を受け入れた町を舞台に、移住者の素性を知らされていない町の人々の日常がゆがんでいくさまを描く。『桐島、部活やめるってよ』などの吉田大八監督がメガホンを取る。お人よしな市役所職員を錦戸亮、彼の同級生を木村文乃が演じるほか、元受刑者役で北村一輝、優香、松田龍平らが出演する。
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舞台はどこかの地方の漁港の町、魚深市。市役所職員の月末一(つきすえはじめ)は、上司から新たに魚深市に転入してくる人を迎えに行き、その担当をするようにと命じられる。何の疑問も持たずに指示に従い、月末は6人の新規転入者をそれぞれ迎えに行く。みな駅まで「付き添い」を伴っており、何か事情がありそうだと観る者にも伝わってくる。それが明らかになるのは、初老の男、大野を迎えに行った時。突然、車を止められ、明らかにやくざ者とわかる男たちに取り囲まれる。「迎えに来た」と凄む男たちを追い払う大野。さすがにおっとりした月末も気がつき、上司を問い詰める。
6人の新規転入者は、なんと仮釈放の受刑者。刑務所の運営コスト削減と地方都市の人口増加を同時に目指すという国家プロジェクトのテストケースによるもので、魚深市は6人を受け入れ、職住をあてがうかわりに6人は10年の定住を義務付けられての措置だとわかる。元犯罪者と聞けば誰でも怯むもので、6人の素性は極秘扱い。そして6人はそれぞれの生活を始める。
刑務所で技術を学んだ福元は理髪店で働き始める。介護センターで働き始めた理江子は、匂い立つような色っぽさを隠しきれずやがて一の父親と深い仲になっていく。極度に几帳面な清美は清掃ボランティア活動に参加するが、几帳面過ぎて仕事の足を引っ張りがち。傷のある強面の大野は、クリーニング店で働き始めるが、慣れない客商売に店主から文句を言われ続ける。漁港で働く杉山はどうも態度がよろしくない。運送業に就いた宮腰だけは、人当たりがよく一も好意を持つ。しかし、実は6人全員の罪状は殺人であった。
一方、月末は市役所で偶然昔のバンド仲間の文に出会う。結婚に失敗したという噂を文は否定するが、不機嫌な表情は望んで帰ってきたわけではないことを物語っている。以前から文に好意を寄せていた一は、またバンドをやらないかと声を掛ける。そしてバンド仲間の須藤とともに3人でバンド活動を再開する。そんな魚深市は、昔から伝わる“のろろ祭り”の準備が始まる・・・
原作が山上たつひこと聞いて懐かしさがこみ上げる。『がきデカ』は面白くて大好きであった。そんな『がきデカ』の作者が実にシリアスなドラマを書いたものだと意外に思う。田舎の穏やかな街、魚深。そこへ元受刑者がやってくる。みんなどこか陰がある。そして“のろろ祭り”が始まるが、そこでさっそく騒動が起こる。元受刑者だから犯罪ものかと思えば、それだけではない。地元の人たちとの心温まる交流もあったりする。特に福元と大野については、受け入れた店主との交流は胸が熱くなる。
しかし、やっぱり事件は起こってしまうわけで、実は意外に大きな闇を心に抱えていた人物が大変な事件を起こしていく。錦戸亮は『県庁おもてなし課』でも公務員を演じていたが、実に雰囲気がマッチしている。密かに文に思いを寄せているが、それを本人に言えない。そうこうしているうちに、音楽に興味を持った宮腰が文と付き合うことになってしまう。悔しさと心配からだろうが、文に宮腰の正体をばらしてしまうが、そんな情けなさもストーリーに一興を投じている。
「羊の木」という変わったタイトルは、冒頭で『東タタール記』なるものの一節として紹介される。劇中、清美が海岸で拾い、家の玄関に飾るプレートにその絵が描かれているが、これがストーリーを象徴している。実際にこんなプロジェクトができたらどうなんだろうと思ってみたりする。殺人と言っても仮釈放になるくらいだからいろいろと減刑されるような事情があるのだろうが、1人だけ例外もいて、そのあたりは日本の司法の限界もうかがわせる。いろいろと考えてみたくなった映画である・・・
評価:★★☆☆☆
