2019年08月31日

【羊の木】My Cinema File 2123

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2018年 日本
監督: 吉田大八
原作: 山上たつひこ/いがらしみきお
出演: 
錦戸亮: 月末一
木村文乃: 石田文
北村一輝: 杉山勝志
優香: 太田理江子
市川実日子: 栗本清美
水澤紳吾: 福元宏喜
田中泯: 大野克美
松田龍平: 宮腰一郎

<シネマトゥデイ>
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山上たつひこといがらしみきおによる、第18回文化庁メディア芸術祭優秀賞(マンガ部門)に輝いた問題作を、アレンジを加え実写映画化。殺人歴のある元受刑者の移住を受け入れた町を舞台に、移住者の素性を知らされていない町の人々の日常がゆがんでいくさまを描く。『桐島、部活やめるってよ』などの吉田大八監督がメガホンを取る。お人よしな市役所職員を錦戸亮、彼の同級生を木村文乃が演じるほか、元受刑者役で北村一輝、優香、松田龍平らが出演する。
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舞台はどこかの地方の漁港の町、魚深市。市役所職員の月末一(つきすえはじめ)は、上司から新たに魚深市に転入してくる人を迎えに行き、その担当をするようにと命じられる。何の疑問も持たずに指示に従い、月末は6人の新規転入者をそれぞれ迎えに行く。みな駅まで「付き添い」を伴っており、何か事情がありそうだと観る者にも伝わってくる。それが明らかになるのは、初老の男、大野を迎えに行った時。突然、車を止められ、明らかにやくざ者とわかる男たちに取り囲まれる。「迎えに来た」と凄む男たちを追い払う大野。さすがにおっとりした月末も気がつき、上司を問い詰める。

6人の新規転入者は、なんと仮釈放の受刑者。刑務所の運営コスト削減と地方都市の人口増加を同時に目指すという国家プロジェクトのテストケースによるもので、魚深市は6人を受け入れ、職住をあてがうかわりに6人は10年の定住を義務付けられての措置だとわかる。元犯罪者と聞けば誰でも怯むもので、6人の素性は極秘扱い。そして6人はそれぞれの生活を始める。

刑務所で技術を学んだ福元は理髪店で働き始める。介護センターで働き始めた理江子は、匂い立つような色っぽさを隠しきれずやがて一の父親と深い仲になっていく。極度に几帳面な清美は清掃ボランティア活動に参加するが、几帳面過ぎて仕事の足を引っ張りがち。傷のある強面の大野は、クリーニング店で働き始めるが、慣れない客商売に店主から文句を言われ続ける。漁港で働く杉山はどうも態度がよろしくない。運送業に就いた宮腰だけは、人当たりがよく一も好意を持つ。しかし、実は6人全員の罪状は殺人であった。

一方、月末は市役所で偶然昔のバンド仲間の文に出会う。結婚に失敗したという噂を文は否定するが、不機嫌な表情は望んで帰ってきたわけではないことを物語っている。以前から文に好意を寄せていた一は、またバンドをやらないかと声を掛ける。そしてバンド仲間の須藤とともに3人でバンド活動を再開する。そんな魚深市は、昔から伝わる“のろろ祭り”の準備が始まる・・・

原作が山上たつひこと聞いて懐かしさがこみ上げる。『がきデカ』は面白くて大好きであった。そんな『がきデカ』の作者が実にシリアスなドラマを書いたものだと意外に思う。田舎の穏やかな街、魚深。そこへ元受刑者がやってくる。みんなどこか陰がある。そして“のろろ祭り”が始まるが、そこでさっそく騒動が起こる。元受刑者だから犯罪ものかと思えば、それだけではない。地元の人たちとの心温まる交流もあったりする。特に福元と大野については、受け入れた店主との交流は胸が熱くなる。

しかし、やっぱり事件は起こってしまうわけで、実は意外に大きな闇を心に抱えていた人物が大変な事件を起こしていく。錦戸亮は『県庁おもてなし課』でも公務員を演じていたが、実に雰囲気がマッチしている。密かに文に思いを寄せているが、それを本人に言えない。そうこうしているうちに、音楽に興味を持った宮腰が文と付き合うことになってしまう。悔しさと心配からだろうが、文に宮腰の正体をばらしてしまうが、そんな情けなさもストーリーに一興を投じている。

「羊の木」という変わったタイトルは、冒頭で『東タタール記』なるものの一節として紹介される。劇中、清美が海岸で拾い、家の玄関に飾るプレートにその絵が描かれているが、これがストーリーを象徴している。実際にこんなプロジェクトができたらどうなんだろうと思ってみたりする。殺人と言っても仮釈放になるくらいだからいろいろと減刑されるような事情があるのだろうが、1人だけ例外もいて、そのあたりは日本の司法の限界もうかがわせる。いろいろと考えてみたくなった映画である・・・


評価:★★☆☆☆






羊の木.jpg



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2019年08月30日

【博士と彼女のセオリー】My Cinema File 2122

博士と彼女のセオリー.jpg

原題: The Theory of Everything
2014年 アメリカ
監督: ジェームズ・マーシュ
出演: 
エディ・レッドメイン:スティーヴン・ホーキング
フェリシティ・ジョーンズ:ジェーン・ワイルド・ホーキング
マキシン・ピーク:エレイン・マッソン
チャーリー・コックス:ジョナサン・ジョーンズ
エミリー・ワトソン:ベリル・ワイルド
ガイ・オリヴァー=ワッツ:ジョージ・ワイルド
サイモン・マクバーニー:フランク・ホーキング
デヴィッド・シューリス:デニス・シャーマ
ハリー・ロイド:ブライアン

<シネマトゥデイ>
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車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキング博士の半生を描いた人間ドラマ。将来を嘱望されながらも若くして難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した彼が、妻ジェーンの献身的な支えを得て、一緒に数々の困難に立ち向かっていくさまをつづる。監督は、第81回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作『マン・オン・ワイヤー』などのジェームズ・マーシュ。ホーキング役に『レ・ミゼラブル』などのエディ・レッドメイン、妻ジェーンを『あなたとのキスまでの距離』などのフェリシティ・ジョーンズが演じる。
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1960年代のケンブリッチ。スティーヴンとブライアンは、町の中を自転車で颯爽と駆け抜けパーティ会場にやって来る。スティーヴンは優秀そうだが、女性にはいかにも奥手といった風。しかしながら、会場でふと目にした女性ジェーンにスティーヴンはためらいがちに声をかける。スティーヴンは宇宙論研究、ジェーンは言語学を専攻していると自己紹介を兼ねて語る。なんとお堅い会話なのか。時代背景だけではなく、2人の性格にもよると思う。その場限りの出会いかと思いきや、帰り際にジェーンは電話番号を残していく。これがなければ奥手のスティーヴンのこと、その後の関係はなかっただろう。

スティーヴンは、やはり優秀な学生であり、教授からロンドンへ数学者の講演を聞きに行くのに誘われるほど。しかし、女性にはやはり奥手であり、ジェーンを舞踏会へ誘い出したものの、ダンスは踊れないと言ってひたすら宇宙の話をする。普通だったら引くと思うのだが、ジェーンは熱心に聞き、そして思わずダンスをしてキスをする。誠に奥ゆかしき交際である。

人生絶好調のスティーヴンだったが、どうも時々歩いていてバランスを崩す。そしてある時、転んで頭を打ってしまう。病院で検査を受けたスティーヴンは、医師から“運動ニューロン疾患”と診断される。聞きなれない名前のその病気は、脳からの命令が筋肉に伝わらなくなり、やがては随意運動を制御する能力が失われるもので、余命2年だと告げられる。ショックを受けるスティーヴン。心配したブライアンが部屋を訪ねてきても追い帰し、ジェーンの電話にも出ない。その気持ちは痛いほどよくわかる。

事情を知ったジェーンだが、強い意志でスティーヴンのそばにいることを選択する。映画ではさらりとしか描かれていなかったが、スティーヴンの喜びは想像するに余りある。そして2人は結婚式を挙げる。スティーヴンの気力が勝ったのか医学の力か、余命2年はどこの話か2人にはロバートという子供を授かる。次第に体は衰えていくが、ジェーンに助けられながら博士号を取得する。そして第二子ルーシーまでも生まれ、子育てに追われるようになる。やがてスティーヴンは研究を重ね、その成果として“ホーキング放射”を発見し、書籍の出版にまで至る・・・

映画は、2018年に亡くなったイギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士の自伝的映画(ただし、原作者はジェーンであるらしい)。ホーキング博士と言えば、車椅子の天才物理学者と言われていて、世界的に有名である。そんな博士の若かりし日の話というのはそれだけで興味深い。体が動かなくなるというのも想像するのも難しいが過酷な病気だと思う。本人もそうだが、家族も大変だろうと思う。それでも子供はできてしまうわけで、「それは大丈夫」と劇中でも語られるが、どういう風にと何となく想像してしまう。

ホーキング博士と言えば、ブラックホールなど宇宙に関する専門家であるが、映画ではあまりそのあたりは描かれていない。元夫人のジェーンの自伝をベースにしているというのがその理由かもしれないが、まぁそれを扱われてもよくわからないというのはあるかもしれない。それにしても、結局ホーキング博士は子供を3人もうけるわけで、ジェーンはただでさえホーキング博士の介護をしなければならない上に子育てもしなければならなかったわけで、そのあたりの苦労は大変だったと思う。

その象徴に感じたのが、ジェーンがスティーヴンの着替えを手伝っている時、子供が泣き出したシーンである。スティーヴンは「言ってやれ」と言い、ジェーンは子供の様子を見に行く。着替えの途中で取り残されたスティーヴンは、セーターを1人で着ようとして動けなくなる。頭からセーターを被ってフリーズしてしまう姿は滑稽でもあり、そして大変さが滲み出ている姿である。そして当然の流れで手伝いの人を頼むことになる。

ジェーンは母親の勧めで教会の讃美歌を歌う集まりに参加し、そこでジョナサンと知り合う。そしてジョナサンはホーキング家に出入りし、スティーヴンの介護も手伝うようになる。男手が加わり、子供たちをピクニックにも連れて行けるようになる。そして第三子ティモシーを授かるが、今度はその子供はスティーヴンの子供かとジェーンは問われる。のちにジェーンは結果的にホーキング博士と離婚しジョナサンと再婚するが、なかなか微妙なシーンが映画で描かれる。

こうして学生時代に出会ったスティーヴンとジェーンの物語が展開されていく。それは偉大なるホーキング博士の自伝的映画というより、スティーヴンとジェーンの恋愛映画という感がある。表面上は世界的にも有名になり、華やかではあるが、1人ではしゃべることすらできない。いろいろなものを乗り越えたのだということがわかる。

華やかな舞台の裏側にあった物語という意味で、興味深い映画である・・・


評価:★★☆☆☆










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2019年08月24日

【去年の冬、君と別れ】My Cinema File 2121

去年の冬、君と別れ.jpg

2018年 日本
監督: 瀧本智行
出演: 
岩田剛典:耶雲恭介
山本美月:松田百合子
斎藤工:木原坂雄大
浅見れいな:木原坂朱里
土村芳:吉岡亜希子
北村一輝:小林良樹

<シネマトゥデイ>
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『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』などの岩田剛典を主演に迎え、中村文則の小説を映画化したサスペンスドラマ。とある焼死事件の真相を追うルポライターが、次第に抜き差しならない状態に陥っていくさまを描写する。『グラスホッパー』などの瀧本智行が監督を務め、主人公の婚約者を『ピーチガール』などの山本美月が好演。そのほか斎藤工、浅見れいな、北村一輝らが共演している。
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 木原坂雄大というカメラマンが撮影中に火災を起こし、モデルをしていた盲目の女性吉岡亜希子が命を落とす。木原坂雄大は一旦逮捕されるものの、姉朱里の尽力もあって執行猶予付きの判決が出て雄大は釈放される。これを疑問に思ったのはフリーのルポライターの恭介。事件は、ダンテの地獄変にヒントを得て実際に燃えている人を撮影しようともくろんだ雄大の意図的な事件であると疑い、雄大を追う記事を書きたいと週刊誌に売り込みをかける。

 これが認められ、ベテラン編集員小林が恭介の担当になる。結婚を控え自身の力を試したいと意気込む恭介は、雄大の懐に飛び込み、スタジオへの出入りを許される。恭介は過去に遡って雄大の人生を追う。雄大と朱里は幼いころ父親から虐待を受けていた可能性があり、その父親は何者かに殺害され、いまだに犯人は捕まっていない。仕事に没頭する恭介は、婚約者の百合子との結婚式を直前に控えていたが、次第に結婚式の準備に身が入らなくなり、しまいには延期を言い出す始末。2人の間には気まずい空気が流れるようになる。

 雄大の過去を取材する恭介は、雄大が他人のものに興味を抱き、自分のものにしたがる趣味があることをかつて恋人を取られた友人の話から知る。その時も、監禁のようなことをしたとその友人は語る。そして雄大の興味の対象に恭介の婚約者百合子が入ってしまう。ある時、百合子の働くレストランに姿を現した雄大は、百合子に対し写真を撮りたいと申し入れる。そして百合子は、職場にも無断欠勤し忽然と姿を消してしまう。焦った恭介は雄大のスタジオに向かうが、もはや出入りは許されず、雄大も冷たく扉を閉ざしてしまう。

 映画は、なぜか「第二章」から始まる。一瞬、見落としたかと焦るも、やがて「第一章」が表示され、時間の流れが前後しているのだとわかる。終わってみればなかなかの構成である。なぜか不思議な雰囲気をまとう雄大。いつの間にか女性を虜にしてしまう。うっかり興味を持って近づいたばかりに、自分の婚約者がその虜になってしまって焦る恭介。そして起こる事件。グイグイと物語に引き込まれていく。

 どこか普通ではない雄大と朱里の姉弟。かつてのモデル焼死事件と狂気を秘めた雄大。そしてついに再び雄大のスタジオは炎に包まれ、椅子に拘束されて燃え盛る百合子の姿を雄大は狂喜に満ち溢れた顔でカメラに収め続ける。何という展開なのかと圧倒される。雄大を演じる斉藤工も『昼顔』とはまた違った魅力を見せる。そしてなんといっても圧巻なのは、最後に明らかになる真実。

 登場人物の誰もが全く別の顔を持っている。雄大にしろ恭介にしろ、婚約者の百合子にしろ編集者の小林にしろ。想像もつかなかった展開は、中村文則の原作小説のなせるわざか。観終わってみれば、先を読ませないストーリー展開に圧倒された映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2019年08月23日

【百円の恋】My Cinema File 2120

百円の恋.jpg
 
2014年 日本
監督: 武正晴
出演: 
安藤サクラ:斎藤一子
新井浩文:狩野祐二
稲川実代子:斎藤佳子
早織:斎藤二三子
宇野祥平:岡野淳
坂田聡:野間明
沖田裕樹:佐田和弘
吉村界人:西村
松浦慎一郎:小林
伊藤洋三郎:斎藤孝夫
重松収:青木ジムの会長
根岸季衣:池内敏子

<シネマトゥデイ>
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32歳のパッとしない女性がボクサーとの出会いから、毎日をサバイブしながら恋愛とボクシングに目覚めていく姿を、安藤サクラが演じた人間ドラマ。実家を出て100円ショップで深夜労働を開始、ボクサーとの出会いと恋もうまくいかないところに、衝動的に始めたボクシングで人生をやり直そうとする姿を活写。共演は、テレビドラマ「たべるダケ」などの新井浩文。監督は『イン・ザ・ヒーロー』などの武正晴。さえない日々に葛藤し、ボクシングに傾倒するヒロインを、繊細かつ体を張った熱演で見せる安藤に引き込まれる。
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『万引き家族』での安藤サクラの演技に感動して安藤サクラのほかの映画も観てみようということで選んだ映画。この映画でも安藤サクラの演技が爆発している。

主人公の斎藤一子は、32歳になるがいまだに実家で働きもせず暮らしている。実家には妹の二三子が息子を連れて出戻りで帰ってきている。二三子は母を手伝い家業の弁当屋を切盛りしているが、そんな二三子にぐうたらな一子の姿は癪にさわって仕方がない。そしてとうとう、ある朝不満が爆発して姉妹で取っ組み合いの大喧嘩となる。そして売り言葉に買い言葉で、一子は家を出ていくことにする。

家を借り、仕事はよく行く100円ショップのアルバイトに応募する。曲がりなりにも自立したわけであり、その意味では立派だと思う。それにしても冒頭から安藤サクラは飛ばす。一子は、二三子の息子とボクシングのテレビゲームに興じているが、寝起きの身なりそのままで、だらしなくたるんだ背中をポリポリかく。近所の100円ショップに行くのも、止めてあった他人の自転車を勝手に借りる有様で、化粧っ気もなく、女らしさは欠片もない。

それでも100円ショップの仕事は真面目にこなす。給料も安いのか、同僚たちも一子に負けず劣らず変わり者ばかり。この店舗での同僚たちとのあれやこれやのエピソードが物語に彩を添える。そして一子は行き帰りの道中にあるボクシングジムで練習をする狩野にいつしか興味を持つようになる。その狩野はよく一子の働く100円ショップに買い物に来る。買うのはいつもバナナ。互いに意識し合い、狩野は一子に自分の試合のチケットを渡す・・・

結局、狩野とはうまくいかないが、なぜか今度は自ら狩野が所属していたボクシングジムに通い出す。初めはどうにもぎこちない。それも一子のたるんだお腹や何事にも面倒くさそうな表情を見ていると無理もない。そもそも運動神経があるのかどうかも疑問である。ところがある時、スイッチが入ってしまう。日々の練習に熱心に取り組み、アルバイト中も暇さえあればシャドウボクシングに精を出す有様。そして年齢制限ギリギリにもかかわらずプロテストを志願する・・・

それにしてもこの変化が凄まじい。メキメキと上達した一子。シャドウボクシングの華麗な動き、縄跳びやパンチングボールのスピードも速く、ランニングの姿も様になっている。正直、安藤サクラの動きはとても演技でできるものではないように思う。体も引き締まっていくので、たぶん撮影中に大幅に減量(あるいは増量)したのだと思う。物語そのものもであるが、このトレーニングシーンだけでも観る価値はある。タイプは違えども『ロッキー』に負けず劣らずの立派なボクシング映画だとも言える。

タイトルは「恋」となっているが、個人的には恋愛映画という見方には賛同できない。1人の人間が自立していく映画である。何も取り柄がないようでいても、人間本気になれば何事かを成し遂げられるもの。最後に見せた安藤サクラの涙が心に温かく浸みわたってくる映画である・・・


評価:★★★☆☆







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2019年08月17日

【万引き家族】My Cinema File 2119

万引き家族.jpg

2018年 日本
監督: 是枝裕和
出演: 
リリー・フランキー:柴田治
安藤サクラ:柴田信代
松岡茉優:柴田亜紀
城桧吏:柴田祥太
佐々木みゆ:ゆり(りん、北条じゅり)
樹木希林:柴田初枝
池松壮亮:4番さん
緒形直人:柴田譲
森口瑤子:柴田葉子
蒔田彩珠:柴田さやか
池脇千鶴:宮部希衣

<シネマトゥデイ>
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『誰も知らない』、『そして父になる』などの是枝裕和監督による人間ドラマ。親の年金を不正に受給していた家族が逮捕された事件に着想を得たという物語が展開する。キャストには是枝監督と何度も組んできたリリー・フランキー、樹木希林をはじめ、『百円の恋』などの安藤サクラ、『勝手にふるえてろ』などの松岡茉優、オーディションで選出された子役の城桧吏、佐々木みゆらが名を連ねる。
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2018年の第71回カンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを獲得したことで話題になった是枝裕和監督作品。賞を取ったからというわけではないが、亡くなった樹木希林が出演していたことも話題になっていたりして、映画好きとしては抑えておこうと思った映画である。

東京の下町。ある一軒の家に5人の家族が暮らしている。一家の主は柴田治。そして妻信代、息子の祥太、信代の妹の亜紀、祖母の初枝である。タイトルにある通り、冒頭からいきなりスーパーでの万引きである。父、治と息子祥太がコンビを組み、治が巧みに店員の注意を引き、その間祥太が商品をかすめ取る。なんという父親だろうか。生活レベルは最低限だというのは見て取れるが、それにしても子どもに万引きをさせるというのも神経を疑う。

収入がないわけではなく、治は日雇い、信代はパート、初枝には「年金」があり、亜紀も褒められたものではないが、風俗で働いている。それでも足りないということなのだろう。亜紀は(万引きを)頼んでいたシャンプーを忘れられて文句を言うから、みんなが(万引きの事実を)知っていることになる。そしてある冬の日、治は近所の団地の外廊下で、幼い女の子が震えているのを見つけ、見かねて連れて帰る。少女はゆりと名乗るが、どうやら親に虐待されているようで、そのままゆりを家に置くことになる。

その後、ストーリーが展開されるうちに、だんだんとこの「家族」のいろいろな事情がわかってくる。まず、祖母の初枝は独居老人ということになっている。相談員が訪問すると、家にいた祥太が巧みにゆりを連れて外へ出ていく。その祥太は、「学校は家で勉強できないやつが行くところ」とゆりに教える。どうやら祥太は学校へは行っていない様子。亜紀は「さやか」という源氏名で働いているが、その「さやか」という名前にもいわくがある。そして祖母がもらっている「年金」は、どうやら別れた夫の子供の家族から無心しているもののよう。

やがてこの家族に危機が訪れる。治は仕事で怪我をするが、労災は下りずそのまま収入減となる。信代もパートを首になり、連れ帰ってからなんと2か月経ってから「ゆり」の失踪がテレビで報じられるところとなる。一家は「ゆり」の髪を切って「りん」という呼び名を与え、祥太の妹ということにする。そして祥太は「りん」に万引きの手伝いをさせるようになる。祥太は「りん」を連れてカモにしている近所の駄菓子屋で万引きを働くが、年老いた店主からお菓子を与えられ「妹にはさせるなよ」という言葉をかけられる。なかなか重いシーンである。

そして祖母が亡くなるが、葬式を挙げる金も火葬場の費用もない中、なんとこの家族は大胆な行動に出る。さらに家族に決定的な事件が起こる。祥太が万引きに失敗し(と言ってもりんが捕まりそうになって庇うのである)、怪我をして捕まってしまうのである。慌てて家族は夜逃げをしようとするが、全員捕まってしまう上、隠していた様々な事情が噴出する。そして物語は大きなクライマックスを迎える。

樹木希林の絶妙にボケた婆さんは、もはや芸術レベルであるが、個人的には安藤サクラの演技に圧倒された感がある。特にクライマックスの警察でのシーン。担当の女性警官に詰問されて思わず涙を流すが、それが圧巻。溢れ出ようとする悔し涙を意地で止めようとするが、それでも溢れてしまう。言葉は一切ないが、気持ちがヒシヒシと伝わってくる。凄い演技だと個人的に思う。リリー・フランキーのどうしようもない父親にしろ、この映画は役者陣の演技が秀逸である。

「パルム・ドールを獲ったから」観てみたわけであるが、この映画だから「パルム・ドールを獲った」のだとわかる。日本映画らしい、人に観ることを勧めたい映画である・・・


評価:★★★☆☆







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