
原題: Suffragette
2015年 イギリス
監督: サラ・ガブロン
出演:
キャリー・マリガン: モード・ワッツ
ヘレナ・ボナム・カーター: イーディス・エリン
ブレンダン・グリーソン: アーサー・スティード警部
アンヌ=マリー・ダフ: バイオレット・ミラー
ベン・ウィショー: サニー・ワッツ
メリル・ストリープ: エメリン・パンクハースト
ナタリー・プレス: エミリー・ワイルディング・デイビソン
<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
20世紀初頭、参政権を求めて立ち上がった女性たちの生きざまを、実話を基に描くヒューマンドラマ。さまざまな困難に見舞われながらも女性の未来のために闘うヒロインを、『17歳の肖像』などのキャリー・マリガンが演じるほか、アカデミー賞の常連メリル・ストリープ、『英国王のスピーチ』などのヘレナ・ボナム=カーター、『007 スペクター』などのベン・ウィショーらが共演。脚本を『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』などのアビ・モーガンが手掛ける。
********************************************************************************************************
今では男女同権の普通選挙は当たり前だが、かつて女性には選挙権は与えられていなかった。世界初の女性参政権の実現はイギリスであるが、それは自然に成立したものではなく、男社会に対し、参政権を求める戦いがあった。この映画は、そんな女性参政権を求めた女性たちを描いた映画である。
時に1912年、ロンドン。階級社会のイギリスでは、貧しい家庭は共働きが当たり前。それどころか、年端もいかぬ子供も労働力として駆り出されている。主人公のモード・ワッツもそんな働く女性の1人。洗濯工場で長時間の重労働に低賃金という過酷な環境。それでも愛する夫サニーと幼い息子ジョージとともに何とか暮らしている。職場では横柄な上司に我慢する日々。そんなある日、モードは配達を命じられ、しぶしぶ配達に向かう。その時、女性社会政治同盟(通称WSPU)の反発デモに遭遇する。
それまで意識もしていなかったモードは、サフラジェット(原題)と呼ばれる女性参政権を求める活動は初めて知る。さらに商店の窓ガラスを割ったりする過激な活動に驚いて配達もそのままに家に逃げ帰る。そんなサフラジェットの活動に熱心に取り組んでいるのが職場の同僚バイオレット。遅刻をして上司に嫌味を言われるバイオレットを助けたことから仲良くなり、WSPUの活動に誘われる。
ある時、モードは女性参政権に対する公聴会の見学に誘われる。気軽に参加することにするが、なんと代役で証言するように頼まれる。断り切れずに証言台に座るモード。問われるままに自らの境遇を話し出す。4歳で母親を失くし、7歳から洗濯工場へパートに出る。12際で正社員になり、職場の同僚の夫と結婚して一児をもうけ、現在24歳。静かに語る内容は壮絶なもの。思わず同情を示す議長に女性参政権に賛成か否やを問われると、「自分には他の生き方もあるのではないか」と答える。
この映画は実話をベースにしているが、ストーリーはフィクションだろう。だが、たぶんモードのような女性は当たり前にいたのだろうと思う。国は違えど、『レ・ミゼラブル』のファンテーヌもフランスで洗濯婦をしていたが、この頃の時代を代表する女性の過酷な仕事だったのかもしれない。西洋版「女工哀史」と言える。
この日を堺に、モードは活動に積極的に参加するようになる。こうした動きは男社会からは歓迎されない。活動は警察からも目を付けられており、夫のサニーもいい顔をしない。ある日のデモに参加したモードはついに逮捕されてしまう。活動には上流階級の夫人も参加している。一緒に逮捕されても夫が保釈金を払って釈放されるが、モードらは保釈金を払うゆとりはない。そのまま7日間拘留されてしまう。この事態にさすがに日頃穏やかなサニーも激怒する。
それでも活動をやめないモード。ついに夫サニーはモードを家から追い出してしまう。当時のイギリスは男性社会。親権は当然男親にあり、モードは愛する息子と離れ離れになる。母親にとっては、これは厳しい。そんなモードは警察の監視対象となり、担当のスティード警部は、モードをマークしはじめる。WSPUの活動をリードするのは、実在の人物パンクハースト夫人。演じるのはメリル・ストリープであり、貫禄十分。
それにしても活動を展開する女性に対する警察の尋問や妨害は酷い有様。露骨に暴力に物を言わせる。モードを追い出したものの、育児に疲れた夫のサニーはなんと息子のジョージを養子に出してしまうが、引き取ることも認められない。女性の参政権どころか人権も危うい。紳士の国イギリスではあるが、女性はあくまでも保護対象であり、男と並ぶ権利を手にするのは認めないという考え方である。時代と言えば時代。そういう時代だったということであろう。
最後の競馬場の事件と犠牲になったエイミーのことは実話だとのこと。モードは1人1人活動に参加していた無名の女性たちを代表するキャラクターなのだろう。そして1918年、ついにイギリスは世界ではじめて女性参政権を認めた国となる。今では当たり前の女性参政権であるが、認められるまでにはこんな歴史があったのであり、そう考えると、現代の「選挙に行こうともしない女性」を当時の女性たちはどう思うのだろうと思ってしまう。
女性参政権がどのようにして認められるようになったのか。当時のイギリス社会の様子と相まって、興味深い歴史ドラマである・・・
評価:★★★☆☆