2020年05月31日

【未来を花束にして】My Cinema File 2231

未来を花束にして.jpg

原題: Suffragette
2015年 イギリス
監督: サラ・ガブロン
出演: 
キャリー・マリガン: モード・ワッツ
ヘレナ・ボナム・カーター: イーディス・エリン
ブレンダン・グリーソン: アーサー・スティード警部
アンヌ=マリー・ダフ: バイオレット・ミラー
ベン・ウィショー: サニー・ワッツ
メリル・ストリープ: エメリン・パンクハースト
ナタリー・プレス: エミリー・ワイルディング・デイビソン

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
20世紀初頭、参政権を求めて立ち上がった女性たちの生きざまを、実話を基に描くヒューマンドラマ。さまざまな困難に見舞われながらも女性の未来のために闘うヒロインを、『17歳の肖像』などのキャリー・マリガンが演じるほか、アカデミー賞の常連メリル・ストリープ、『英国王のスピーチ』などのヘレナ・ボナム=カーター、『007 スペクター』などのベン・ウィショーらが共演。脚本を『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』などのアビ・モーガンが手掛ける。
********************************************************************************************************

今では男女同権の普通選挙は当たり前だが、かつて女性には選挙権は与えられていなかった。世界初の女性参政権の実現はイギリスであるが、それは自然に成立したものではなく、男社会に対し、参政権を求める戦いがあった。この映画は、そんな女性参政権を求めた女性たちを描いた映画である。

時に1912年、ロンドン。階級社会のイギリスでは、貧しい家庭は共働きが当たり前。それどころか、年端もいかぬ子供も労働力として駆り出されている。主人公のモード・ワッツもそんな働く女性の1人。洗濯工場で長時間の重労働に低賃金という過酷な環境。それでも愛する夫サニーと幼い息子ジョージとともに何とか暮らしている。職場では横柄な上司に我慢する日々。そんなある日、モードは配達を命じられ、しぶしぶ配達に向かう。その時、女性社会政治同盟(通称WSPU)の反発デモに遭遇する。

それまで意識もしていなかったモードは、サフラジェット(原題)と呼ばれる女性参政権を求める活動は初めて知る。さらに商店の窓ガラスを割ったりする過激な活動に驚いて配達もそのままに家に逃げ帰る。そんなサフラジェットの活動に熱心に取り組んでいるのが職場の同僚バイオレット。遅刻をして上司に嫌味を言われるバイオレットを助けたことから仲良くなり、WSPUの活動に誘われる。

ある時、モードは女性参政権に対する公聴会の見学に誘われる。気軽に参加することにするが、なんと代役で証言するように頼まれる。断り切れずに証言台に座るモード。問われるままに自らの境遇を話し出す。4歳で母親を失くし、7歳から洗濯工場へパートに出る。12際で正社員になり、職場の同僚の夫と結婚して一児をもうけ、現在24歳。静かに語る内容は壮絶なもの。思わず同情を示す議長に女性参政権に賛成か否やを問われると、「自分には他の生き方もあるのではないか」と答える。

この映画は実話をベースにしているが、ストーリーはフィクションだろう。だが、たぶんモードのような女性は当たり前にいたのだろうと思う。国は違えど、『レ・ミゼラブル』のファンテーヌもフランスで洗濯婦をしていたが、この頃の時代を代表する女性の過酷な仕事だったのかもしれない。西洋版「女工哀史」と言える。

この日を堺に、モードは活動に積極的に参加するようになる。こうした動きは男社会からは歓迎されない。活動は警察からも目を付けられており、夫のサニーもいい顔をしない。ある日のデモに参加したモードはついに逮捕されてしまう。活動には上流階級の夫人も参加している。一緒に逮捕されても夫が保釈金を払って釈放されるが、モードらは保釈金を払うゆとりはない。そのまま7日間拘留されてしまう。この事態にさすがに日頃穏やかなサニーも激怒する。

それでも活動をやめないモード。ついに夫サニーはモードを家から追い出してしまう。当時のイギリスは男性社会。親権は当然男親にあり、モードは愛する息子と離れ離れになる。母親にとっては、これは厳しい。そんなモードは警察の監視対象となり、担当のスティード警部は、モードをマークしはじめる。WSPUの活動をリードするのは、実在の人物パンクハースト夫人。演じるのはメリル・ストリープであり、貫禄十分。

それにしても活動を展開する女性に対する警察の尋問や妨害は酷い有様。露骨に暴力に物を言わせる。モードを追い出したものの、育児に疲れた夫のサニーはなんと息子のジョージを養子に出してしまうが、引き取ることも認められない。女性の参政権どころか人権も危うい。紳士の国イギリスではあるが、女性はあくまでも保護対象であり、男と並ぶ権利を手にするのは認めないという考え方である。時代と言えば時代。そういう時代だったということであろう。

最後の競馬場の事件と犠牲になったエイミーのことは実話だとのこと。モードは1人1人活動に参加していた無名の女性たちを代表するキャラクターなのだろう。そして1918年、ついにイギリスは世界ではじめて女性参政権を認めた国となる。今では当たり前の女性参政権であるが、認められるまでにはこんな歴史があったのであり、そう考えると、現代の「選挙に行こうともしない女性」を当時の女性たちはどう思うのだろうと思ってしまう。

女性参政権がどのようにして認められるようになったのか。当時のイギリス社会の様子と相まって、興味深い歴史ドラマである・・・


評価:★★★☆☆






posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | 歴史ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月30日

【オンリー・ザ・ブレイブ】My Cinema File 2230

オンリー・ザ・ブレイブ.jpg

原題: Only the Brave
2017年 アメリカ
監督: ジョセフ・コジンスキー
出演: 
ジョシュ・ブローリン: エリック・マーシュ
マイルズ・テラー: ブレンダン・マクドナウ
ジェームズ・バッジ・デール: ジェシー・スティード
ジェフ・ブリッジス: デュエイン・スタインブリンク
テイラー・キッチュ: クリストファー・マッケンジー
ジェニファー・コネリー: アマンダ・マーシュ

<映画.com>
********************************************************************************************************
『オブリビオン』のジョセフ・コジンスキー監督が、巨大山火事に命懸けで立ち向かった消防士たちの実話をもとに映画化した人間ドラマ。学生寮で堕落した日々を送っていた青年ブレンダンは、恋人の妊娠をきっかけに生き方を改めることを決意し、地元の森林消防団に入隊する。地獄のような訓練に耐えながら、ブレンダンはチームを率いるマーシュや仲間たちとの絆を深め、彼らに支えられながら少しずつ成長していく。そんなある日、山を丸ごと飲み込むかのような大規模な山火事が発生する。キャストには『ノーカントリー』のジョシュ・ブローリン、『セッション』のマイルズ・テラー、「クレイジー・ハート」のジェフ・ブリッジス、「ビューティフル・マインド」のジェニファー・コネリーら実力派が集結。
********************************************************************************************************

アリゾナ州のブレスコットに所在する森林消防隊を描いた実話である。日本ではあまり馴染みがないが、アメリカでは山林火災が頻発しており、専門の消防隊もある様である。建物の火災については建物専門の消防隊があり、両者の間には明確な区別があるようである。その森林消防隊にも民間の森林消防隊と「ホットショット」と呼ばれる認可を得た消防隊との2種類があり、火災現場の最前線に臨むのはホットショットであり、民間の消防隊は後方支援という役割のようである。

民間消防隊の指揮官であるマーシュは、今日も部下を率いて火災現場に赴いている。その仕事は、木を倒し焼き払い山火事の類焼を防ぐというもの。現場で長年の経験から消火方法について意見を言うも、民間消防隊を見下すホットショットの部隊にあしらわれてしまう。そして自分たちの主張する方法が正しかったとあとでわか理、マーシュは忸怩たる思いを抱く。隊員もモチベーションが上がらず辞めてしまったりする。そんなこともあり、マーシュはなんとしても部隊のホットショットへの昇格を果たしたいと考えている。

一方、薬物にどっぷり浸かってしまい自堕落な生活を送っているマクドナウは、遊びで付き合ったナタリーが妊娠したことを知る。ナタリーに会いに行くものの、ナタリーは自堕落なマクドナウを最初からあてにはしておらず、実家で育てる考え。運悪く車上荒らしの容疑で逮捕され、保釈されたものの呆れた母親に家を追い出されたマクドナウは、心を入れ替えマーシュ率いる森林消防隊に入隊を志願する。そんなマクドナウの入隊については隊員たちから反対の声が上がる。しかし、子供ができたマクドナウの決意を買い、マーシュは入隊を許可する。

初めこそ地獄の訓練についていけないマクドナウだが、懸命に訓練をこなすうちに次第についていけるようになり、また周りの隊員たちの信頼を得ていく。さらに給料で子供のために必要なものを買い、そっとナタリーの家の玄関に届ける事を続ける。その行動が認められ、ナタリーに生まれた子供と会わせてもらえるようになる。一方でマーシュは、市の消防署長である親友のデュエインを通じ、市長を説得してホットショット認定審査を受けられるよう手配してもらう。

認定審査は実際の火災現場で活動状況をチェックされるというもの。マーシュ達は満を持して現場に駆けつけ消化活動にあたる。ところが、マーシュは審査員の示す消火方法にに逆らい、独自の考えを押し通す。消火活動には成功したが、認定は難しいだろうとされてしまう。されどやはり審査員も公平であり、その実力を認め、部隊は晴れてホットショット昇格を認められる。ここに民間初のホットショット、「グラニットマウンテン・ホットショット」が誕生する。

こうした部隊の昇格と個人の再生という明るい要素を満たした前半はおわり、実際の活動を描いた後半にうつる。樹齢何百年の老木を森林火災から守って新聞紙上を賑わし、明るいエピソードが続く。しかし、その活動は過酷で、一旦現場に出ると、何日も火災に向き合い現場で野宿生活を送ることになる。「楽な」建物火災に移りたいという隊員もいるようで、必ずしもいいことばかりではない。それでも街では「ヒーロー」として市民の尊敬を集めている。

そして最後に大きな森林火災が発生する。森林火災といっても、イメージしにくいが、火はあっという間に燃え広がるようである。隊員たちは日頃から防火シートに包まる訓練を繰り返している。秒単位でシートを広げ、中に入って身を守る。火炎放射器に襲われるが如く勢いに建物火災とはまた違った怖さがある。そして、事実この最後の火災によって部隊は壊滅的な被害を負う。エンドテロップでこれが実話だと知ってよけいに驚いてしまう。

森林火災が広がって市街地にも被害が及んだというニュース映像を目にしたことがあるが、その恐ろしさは映画を通じて良く伝わってくる。訓練を受けたベテランでさえ火勢を予測するのは完璧ではなく、危険と背中あわせである。消防士が犠牲になっても、ニュースではその人となりはわからない。だが、映画ではいろいろな人生がそこにはある。マーシュも愛する妻アマンダとの間で子供をつくるかつくらないかで揉めたりするが、そういう一つ一つの人生があるわけである。

森林火災消防隊という日本ではあまり馴染みのないシステムが目新しく、そこにある人間ドラマとそして実話の持つ力が心を揺さぶる。結末には言葉もない。アメリカでは消防士がヒーローとされているが、それも納得できる一作である・・・


評価:★★★☆☆







posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | 実話ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月29日

【マイ・ボディガード】My Cinema File 2229

マイ・ボディガード.jpg

原題: Man on Fire
2004年 アメリカ
監督: トニー・スコット
出演: 
デンゼル・ワシントン: ジョン・W・クリーシー
ダコタ・ファニング: ピタ・ラモス
クリストファー・ウォーケン: ポール・レイバーン
ジャンカルロ・ジャンニーニ: ミゲル・マンサーノ
ラダ・ミッチェル: リサ・ラモス
レイチェル・ティコティン: マリアナ・ガルシア・ゲレロ
マーク・アンソニー: サムエル・ラモス
ミッキー・ローク: ジョーダン・カルフス

<映画.com>
********************************************************************************************************
「エネミー・オブ・アメリカ」「スパイ・ゲーム」のトニー・スコット監督がA・J・クィネルのベストセラー「燃える男」を映画化。暗殺任務に明け暮れる日々に疲弊していた元CIAの特殊工作員クリーシーは、9歳の少女ビタの護衛を引き受け、彼女の純真さに癒されていく。そして彼女が誘拐犯に拉致されたとき、彼の過激な追跡が始まる。2度のアカデミー賞に輝くデンゼル・ワシントンと「アイ・アム・サム」の天才子役、ダコタ・ファニングが共演。
********************************************************************************************************

メキシコではビジネスとして誘拐が成り立っているという。対象は子供に限らず大人の男も含まれる。組織的に行うから男は大丈夫と高を括るわけにはいかないようである。冒頭では金持ちの子息が誘拐され、身代金の要求過程で耳を削ぎ落とされるという事件が背景に流れる。そうなると、裕福な家庭はボディーガードの雇用か誘拐保険に入る事が「常識」となる。

元CIAのジョン・クリーシーは米軍で長年テロと戦い、仕事を辞めてからはアルコールが手離せない生活を送っている。そんな彼に、メキシコで仕事をする元同僚のレイバーンから、ボディガードの仕事を紹介される。気乗りしないまま面接に向かうクリーシー。迎えるラモス家は、誘拐保険の更新にあたり、ボディガードの雇用が義務付けられている。アルコールのことは伏せておけと忠告されていたにも関わらず、「飲み物は?」と問われて「ジャックダニエル」と答えるクリーシー。それでも採用されることになる。

対象となるのは一家の一人娘ピタ。ピタは9歳の割には大人びていて、学校でもなかなか友達ができず、両親との距離感にも悩んでいる女の子。表情を崩さないクリーシーに対し、人懐こく話しかけるピタ。クリーシーはそんなピタを煩わしく思い冷たくあしらう。それでもそういう性格なのか、めげずに無邪気にクリーシーに接してくる。そんなピタは学校で水泳大会が近づいている。しかしスタートが悪く、良くても3位どまり。「1位を獲りたい」と言うピタに、クリーシーは特訓を開始する。そして、その甲斐あって見事に1位を獲得する。いつしかクリーシーは、明るさを取り戻していく。

そんなある日、クリーシーはピタをピアノ教室へ送迎する。しかし、怪しげなパトカーや車が現れ、危機を察したクリーシーはレッスンを終えて教室から出てきたピタを守ろうと動く。たちまち銃撃戦が始まる。相手には警官もいる。元軍人といってもクリーシーは1人。4人を射殺するも、自らも銃弾を浴び倒れてしまう。一旦は逃げたピタだが、倒れたクリーシーに駆けつけたところを一味に拉致されてしまう。クリーシーは重傷を負って病院に担ぎ込まれるが、警官殺しの犯人とされてしまう。

ピタの家では、ラモス家専任弁護士のジョーダン・カルフスが犯人との交渉を主導する。一方で、記者会見では射殺された警官が非番であったことから、ピタの誘拐事件には腐敗警官も絡んでいることがわかる。やがて背景には「エルマンダー」という巨大犯罪組織グループが浮かび上がり、身代金の受け渡しも失敗し、現場で犯人の甥が殺されるという最悪の結果に終わる。ピタの生存は絶望的だと一命をとりとめたクリーシーに伝えられる。

ストーリーはここからクリーシーによる復讐劇へと展開していく。それまでのわずかな手掛かりを辿って1人、また1人と主犯に近づいていく。それにしても制服警官が堂々と誘拐に加わるのだからたちが悪い。『ボーダーライン』でも描かれていたが、本当に貧しい国の社会はモラルもなく、金がすべての価値基準の中心。警察でさえ信頼できない社会に暮らさざるを得ないことのやりきれなさを感じる。映画の中の架空の話であればいいが、そうではなさそうなところが怖いところである。

クリーシーは、ピタが誘拐された時の銃撃戦で重傷を負っている。それにも関わらずピタを誘拐した者を追う。そして明らかになる隠されていた事件の真相。真犯人にたどり着いたクリーシーは、犯人と最後の取引をする。やり切れない事件の真相とそしてクリーシーの運命。その結末はなかなか重厚感が漂う。ピタの純真さが際立つだけに、なんとも言えない余韻を残して物語は終わる。

それにしてもピタを演じるダコタ・ファニングは本当に愛らしい。最近は大人になって普通になってしまったが、この頃の少女っぷりは比類ないだろう。主演も文句なしのデンゼル・ワシントン。役者もストリーも文句なしの一作である・・・


評価:★★★☆☆







posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | アクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月28日

【イニシエーション・ラブ】My Cinema File 2228

イニシエーション・ラブ.jpg

2015年 日本
監督: 堤幸彦
原作: 乾くるみ
出演: 
松田翔太: 鈴木
前田敦子: 成岡繭子(マユ)
木村文乃: 石丸美弥子
三浦貴大: 海藤
前野朋哉: 梵ちゃん
木梨憲武: 静岡支店部長
手塚理美: 石丸詩穂
片岡鶴太郎: 石丸広輝
森田甘路: 鈴木


<映画.com>
********************************************************************************************************
松田翔太と前田敦子の共演で、乾くるみの人気小説を映画化。原作は、最後の2行に仕掛けられたどんでん返しが評判を呼び、発表から10年以上を経て130万部を超えるベストセラーになった話題作。映画は、1980年代後半の静岡を舞台に、奥手で恋愛経験のない大学生・鈴木が、合コンで知り合った女性マユとの日々を通して変化していく姿を描く「Side-A」、就職先の会社で東京本社に転勤することになった鈴木がマユを置いて上京し、本社の同僚・美弥子との出会いで心が揺れる「Side-B」という2つの物語が並行しながら、原作とは異なるエンディングを迎える。監督は「SPEC」「TRICK」シリーズの堤幸彦。
********************************************************************************************************

はじめに「Side-A」として物語が始まる。登場するのは大学4年生の主人公鈴木夕樹。ずんぐりむっくりの体型に冴えない風体。その日、友人から合コンに誘われる。時代は1987年、部屋にある電話は昔懐かしいダイヤル式の黒電話である。合コンに誘われたのはいいが、どうみても人数合わせ。友人の大学生と比べると1人浮いている。しかし世の中はわからない。そこで出逢った成岡繭子に一目惚れする。

次に誘われたのは、合コンメンバーでの海水浴。女の子の水着姿が眩しい。ここでも夕樹は1人浮いている。しかし、なぜか繭子に電話番号を教えられる。部屋に帰り、暗唱した電話番号に電話をかけようとするがなかなか勇気が出ない。考えてみれば夕樹は自分と同学年。このころの同じような思い出が蘇る。そしてついに勇気を出して電話をすると、何と食事の約束をしてしまう。

女の子と付き合ったことなどかけらもない夕樹。初デートは見ていて滑稽で気の毒なほど。そして毎週金曜日にデートを重ねる様になる。それは信じられないような出来事。可愛い繭子であれば引く手数多であろう。それでも夕樹が選ばれたのは「女の子に誠実そうだから」。オタクの希望の星となるのは間違いない。何か裏がありそうな気もするが、「たっくん」と呼ばれ、お洒落に気を使う様にアドバイスを受け、たっくんは何とそのまま繭子と初体験を済ませてしまう。

やがてクリスマス。たっくんは繭子からナイキのエアージョーダンをプレゼントされる。幸せな中、たっくんは繭子の為に痩せる決意をする。そして物語は「Side-B」の後半部分に移る。エアージョーダンを履いてランニングするたっくんはすっかりスマートになっている。大手の内定を蹴って地元静岡で就職したが、皮肉にも東京の本社に移動の内示が出る。それを聞いた繭子は寂しそうな表情を浮かべるが、どうしようもない。かくして2人の遠距離恋愛が始まる。

東京に配属となったたっくんは、東京支社で同じ新入社員の石丸美弥子と出会う。なんだか波乱の予感。繭子という彼女がいるたっくんは、はじめは美弥子と普通に接するが、なんと美弥子の方から積極的にたっくんにアプローチしてくる。女性でも大胆である。子供っぽい繭子に比べ、美弥子は圧倒的に大人の魅力に溢れている。次第に静岡に帰る足も重くなる。そしてついに美弥子から誘われてホテルへ行ってしまう。なんとも羨ましい変身ぶりである。

2人の女の間で優柔不断に揺れ動くたっくん。実に羨ましい。しかし、そんな中、繭子が妊娠している事が発覚する。自分の胸に手を当てても、ここだけはきちんとけじめをつけていたからアホだなと思う。しかし、あれほど奥手で繭子一筋だったたっくんも変わるもので、子供を堕ろすようにと繭子に伝える。喧嘩をしても暴力こそは振るわないが、モノを蹴散らすのは感心しない。泣き崩れる繭子がかわいそうである。しかし、物語はラストにかけてとんでもない展開を見せる。

この映画は、冒頭から「ラストは人に言うな」と思わせぶりな説明が入るが、それも頷ける。「イニシエーション・ラブ」とは「通過儀礼」の意味だそう。誰でも初めての恋は成長のために経験する通過儀礼とのこと。繭子に出会わなければ、一生オタクの童貞だったかもしれないたっくん。繭子が通過儀礼というのもどうかと思うが、自分の経験を振り返ってみれば、大いに肯きたくなるところである。

ラストのどんでん返しはともかく、物語全体に流れる懐かしさは、やはり同世代だからだろう。クリスマスには高級ホテルを予約し、彼女と過ごすのがトレンドで(自分は経験できなかったが)、ホテルは半年前から予約で一杯。背景に流れる歌も懐かしのヒットパレード。ドラマ「男女7人夏物語」がブームとなっていた若き日の思い出が蘇ってくる。原作本があって、映画とはまた違うラストだとのこと。こちらもぜひ読んでみたいと思う。

最後にすべての物語を根底からひっくり返してくれる。そんなラストもいいが、懐かしの80年代に浸るのも良い。なんとも心地良い映画である・・・


評価:★★☆☆☆






ネタばれ覚悟で続きを読む
posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | 恋愛 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月24日

【ハイ・フォン: ママは元ギャング】My Cinema File 2227

ハイ・フォン.jpg

原題: HAI PHƯỢNG
2019年 ベトナム
監督: レ・ヴァン・キエ
出演: 
ヴェロニカ・ゴー(ゴー・タイン・バン): ハイ・フォン
ファン・タイン・ニエン: ルオン刑事
マイ・カット・ヴィ: マイ
タイン・ホア: ヌ・クゥアイ
ファム・アイン・コア: トゥルク

<Netflix解説>
********************************************************************************************************
村で人身売買集団に娘を誘拐されたハイ・フォンが、かつて荒んだ生活を送っていたサイゴンへと舞い戻る。娘を襲った奴らを倒すまで戦い続けると心に誓って。
********************************************************************************************************

日本では珍しいベトナム映画。もしかしたら初めて観るベトナム映画かもしれない。舞台はある田舎の村。主人公のハイ・フォンはシングルマザー。貧しい暮らしであるが、仕事はなんと借金の取り立て屋。しかも日本でも一昔前にいたような、脅して時に暴力で強引に取り立てるやり方。女だてらにではあるが、幼い頃から武術を仕込まれていたハイ・フォンは非情にこなしていく。田舎の村でもあり、そんなやり方は自ら敵を作るばかりでなく、娘も学校ではいじめられるという結果を招く。

どう見ても合法的とは言えない高い金利に強引な取り立て。闇金みたいなものだろう。娘のマイと2人で夕食を食べている時、取り立てでハイ・フォンに足を折られた男の兄が怒り狂って家に押し掛けてくる。娘と息を潜めてやり過ごすが、家を知られているような田舎では危険な商売。それでもよそ者と陰口を叩かれる環境では、食べていくために心を鬼にするのも無理からぬところなのだろう。娘からも取り立て屋をやめてくれと懇願される。

その娘が誘拐されるところから物語が動いていく。怪しげな男がハイ・フォンと喧嘩して1人でいる娘マイを強引に連れて行こうとする。それも町中で、である。気づいて阻止しようとするハイ・フォンに何人もの男が襲いかかる。ナタを振り回すアクションはベトナム的で新鮮である。船に娘を乗せて連れ去る一味。それを追いかけるハイ・フォン。しかし、最後には逃げられてしまう。娘を連れた一味も路線バスで逃走すると言うなんとものどかな展開。

娘を救出するためにハイ・フォンが向かったのは、路線バスが向かった先ホーチミン。のんびりした田舎とは大違いの大都会。実はハイ・フォンはもともと怪しげなクラブで働いていたことがあり、10年経っても顔見知りはいる。さらに警察に行くが、そこにあった資料からどうやら娘は臓器売買の組織に連れ去られたらしいということがわかってくる。のんびりした警官の隙をついて捜査資料を盗み、1人容疑者を追っていく。どうでもいいが、この映画、ストーリーの大筋はともかく、ディテールはメチャクチャいい加減である。

こうして娘を探して組織を追っていくハイ・フォン。女ながらの格闘術は、亡き父から教わった武術。襲いかかる敵をばったばったと倒していく。ディテールはいい加減だが、このアクションだけは見応えがある。ところで主人公は女だが、ハイ・フォンを取り立てに雇っていたのもおばちゃん。そしてハイ・フォンを一度はぶちのめす組織のボスもプロレスラーまがいの肉体美を誇る女ボス。この映画は女性が良いも悪いも中心である。そしてハイ・フォンも無敵ではなく、何度もギリギリのところで助けられる。圧倒的無敵のヒーローというわけではない。

かつては父の反対を押し切って駆け落ちし、シングルマザーとなった経緯もあり、娘を助けようとする母親は強い。劇中でも子持ちの母ライオンは危険だと言う会話がなされるが、子供を守ろうとする母親は我が身を省みない強さがある。「諦めるな」という武術家の父の教えがしばしば脳裏を過る。何となく雰囲気的には、フィリビン映画の『MARIA/マリア』をイメージしてしまう。

振り返ってみても印象に残ったのはやはり格闘シーンだろうか。細かいディテールは無視して、アクションだけを見るならば満足感は得られるだろう。そんな印象のベトナム映画である・・・


評価:★★☆☆☆







posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | その他の国の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする