
原題: 帰来 Coming Home
2014年 中国
監督: チャン・イーモウ
出演:
コン・リー: フォン・ワンイー
チェン・ダオミン: ルー・イエンシー
チャン・ホエウェン: タンタン
チェン・シャオイー: コン・スーチン
イエン・ニー: リ主任
リウ・ペイチー: リュウ同志
ズー・フォン: チョン指導員
<映画.com>
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「赤いコーリャン」「秋菊の物語」『活きる』(My Cinema File 274)といった名作を生み出してきた中国の巨匠チャン・イーモウと女優コン・リーが、「王妃の紋章」以来8年ぶりに再タッグを組んだヒューマンドラマ。記憶障害で夫を他人だと思い込む妻と、そんな妻に寄り添い続ける夫の愛情を描いた。1977年、文化大革命が終結し、収容所から解放されたルー・イエンチーは、妻のフォン・ワンイーと再会する。しかし、夫を待ちわびるあまり、その心労から記憶障害となっていたワンイーは、イエンチーを夫だと認識することができなかった。イエンチーは、いつか妻の記憶が戻ることを信じて、他人として向かいの家に住み始めるが……。
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時に文化大革命時代の中国。ワンイーと娘のタンタンは、右派分子として収容所に送られた父のイエンシーが逃亡したと聞かされる。母娘は共産党から絶対にイエンシーを匿わないよう忠告され、何か連絡があればすぐに通報するよう命令される。長年の父親不在からタンタンは父の顔を知らない。頭を占めるのは、間近に迫ったバレエの発表会。主役の座を狙うタンタンだが、右派分子の娘であるという理由だけでタンタンは主役から外されてしまう。
その夜。密かに舞い戻ったイエンシーは、妻子にひと目会うべく自宅のドアをノックする。ワンイーは夫が来たことを察するが、ドアを開けるのをためらう。折からちょうど帰宅したタンタンは父と出会う。イエンシーは「明日の朝8時に駅の陸橋で待つ」とワンイーへの伝言を頼み、ワンイーには手紙を差し込み、姿を消す。タンタンはすぐに見張りの党員に会いに行くと、バレエの主役に推薦するとの甘い言葉に父の伝言を喋ってしまう。
翌朝、ワンイーは夫に会いに行くも、現場に駆けつけた官憲によってイエンシーはワンイーの目の前で逮捕されてしまう。そして抵抗したワンイーも突き飛ばされて頭に怪我を負う。結局、タンタンは主役の座を逃し、母娘2人の生活は続く。そして3年の月日が流れる。吹き荒れた文化大革命の嵐は終結し、イエンシーも罪を解かれて自宅のある町へ帰ってくる。
駅に出迎えたのはタンタン。今はバレエをやめて紡績工場の寮で暮らしている。事情がよくわからないまま、イエンシーはワンイーのいる自宅へ帰る。今度は邪魔する者もなく、イエンシーは妻ワンイーと再会する。しかし、なぜか妻は感情を表に出さない。それどころか、寝室へ入ったイエンシーを見て形相を変え、別人の名を呼びイエンシーを追い出してしまう。
その後、周囲の人たちがイエンシーの罪が解かれたという通知を見せ、この人が夫のイエンシーだと説明するが、ワンイーにはどうしても伝わらない。あまり刺激するとワンイーが興奮するので、ひとまずイエンシーは自宅の向かいの建物で暮らすことにする。ワンイーがこうなってしまったのも、冒頭で頭を打ったせいかもしれないし、その後イエンシーの留守中に別の男から無理やり言い寄られたからなのかもしれない(よりにもよってイエンシーをその男と間違えているのが悲しい)。
父親を裏切った娘を許せなかったのか、絶縁こそしなくとも、働くようになるとすぐ家から追い出すかのように別居している。いつも家には鍵をかけずにしているのも、夫の帰りを待っているからなのだろう。にも関わらず、肝心の夫イエンシーが最愛の夫であることを思い出せない。それからイエンシーは、妻の家の目の前にボロ部屋を借りて一人暮らしをして妻の様子を見守るようになる。
ワンイーはなぜか字を読みにくくなっており、イエンシーが代読するようになる。自分が書いた手紙の束を大事そうに保管しているワンイーにイエンシーは代読を始める。そして一計を案じたイエンシーは、ワンイー宛に「5日に帰ります」という手紙を書く。もう一度駅から帰ってくるところから始めてみようという考えである。しかし、実際に駅で迎えるワンイーの前に立つも自分が夫であることはわかってもらえない。
健気にも最愛の夫を待ち続けるのに、その夫がわからないという悲哀。昔の記憶を呼び戻すかもしれないとアルバムを見ようとするが、アルバム内のイエンシーの顔は父を恨んでいたタンタンによって全て切り取られている。親の心子知らずとはいうが、文化大革命の意味も自分の父が捕らえられた意味もわからなかったタンタンの心境を思うとそれも物悲しい。イエンシーはこの母と娘の確執も、どうにかしようとワンイーへ手紙を書いて、タンタンを家に戻すようにと説く。
いまだ夫を待ち続ける記憶の中で生きているワンイー。記憶は戻らないが、妻と子の幸せな時間が蘇る。まだ経済躍進が始まる前の中国。文化大革命という暗い時代が明けだばかりの時代を背景とした物悲しい物語。今の米中対立を見ていると隔世の感がある。基本的にこのころの時代背景の中国の映画は悲劇と優しさが溢れている。『再会の食卓』(My Cinema File 907)しかり、『故郷の香り』(My Cinema File 293)しかり、同じ監督の『活きる』(My Cinema File 274)しかりである。
こういう中国映画はいいなと思わせてくれる映画である・・・
評価:★★☆☆☆