2020年08月30日

【パーフェクション】My Cinema File 2274

パーフェクション.jpg

原題: The Perfection
2018年 アメリカ
監督: リチャード・シェパード
出演: 
アリソン・ウィリアムズ:シャーロット・ウィルモア
ローガン・ブラウニング:リジー
スティーヴン・ウェバー:アントン
アライナ・ハフマン:パロマ
マーク・キャンドボーグ:シース
グレアム・ダフィー:ジェフリー
アイリーン・ティアン:ジャン・リー
モリー・グレース:子供時代のシャーロット
ミラ・トンプソン:子供時代のリジー

<映画.com>
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天才チェロ奏者を襲う悲劇を二転三転する展開で描いたNetflixオリジナル映画。チェロ奏者としての将来を嘱望されながらも、母の介護のため夢を諦めたシャーロット。母の死後、かつての恩師アントンを頼って上海を訪れた彼女は、アントンのもうひとりの愛弟子である人気チェロ奏者リジーを紹介される。すぐに意気投合した2人は、一緒に中国各地を巡る旅へ出かけることに。しかし出発の直後、バス車内でリジーが異常なほどの体調不良を訴え始める。言葉が通じない中、必死で周囲に助けを求めるシャーロットだったが……。シャーロット役に『ゲット・アウト』のアリソン・ウィリアムズ。『ハンティング・パーティ』のリチャード・シェパードが監督・脚本を手がけた。Netflixで2019年5月24日から配信。
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主人公のシャーロットは、長年母親の介護をしていたが、その必要がなくなり社会復帰することにする。シャーロットは、母親が病気になる前は、バッコフアカデミーでチェロ奏者のプロを目指していたこともあり、かつての師アントンに連絡を取る。そしてその招きを受け、エリザベスという売出中のチェロ演奏家の音楽会へ参加するために上海へとやってくる。

アントンと再会したシャーロットは、新進気鋭のエリザベスを紹介される。エリザベスは、もともとシャーロットに憧れてバッコフアカデミーに入学し、その入学の日に退学していくシャーロットと出会っていたこともあり、すぐにシャーロットと意気投合する。さらにアントンの口添えで、2人の共演も実現する。エリザベスのシャーロットに対する憧れは今も変わらず、2人は一夜をともにする。

エリザベスは、そのまま休暇に入る予定であったが、気ままな中国国内の旅にシャーロットを誘う。もともと予定のなかったシャーロットに異論はなく、2人で旅行に行くことになる。出発の朝、エリサベスは体調が思わしくなかったが、ようやく取れた休暇でもあり、旅行を強行する。そしてローカルバスの旅に出るが、エリザベスの体調はますます悪化する。

都心部ならともかく、バスは山の中を移動する。思わず嘔吐するエリザベス。それだけならまだしも、下痢となると車内というわけにはいかない。うまく伝わらぬ言葉の壁に難儀しながら、乗客の助けも借りてなんとかバスを止めてもらい、道端でしゃがみ込むエリザベス。こうなると、もう恥も外聞もない。しかし、エリザベスの体調悪化は止まらず、あろうことか嘔吐物の中には虫が大量に入っている。

この異常事態についにエリザベスとシャーロットは、パニックになったバスの運転手から無理やりバスを降ろされ、置き去りにされてしまう。さらにエリザベスは、自分の右腕の皮膚の下を虫が動き回っているのがわかる。腕の中を大量の虫が這いまわるのはなかなかグロテスクである。パニックに陥ったエリザベスに、なんとシャーロットは包丁を差し出す。半狂乱に陥ったエリザベスは、そのまま包丁で自分の右腕を切り落とす・・・

何の予備知識もなく観始めたNetflixの映画であるが、ストーリーがどこを目指しているのかまったくわからない。そしてどうやらこれはホラー映画ではなく、エリザベスが二日酔いの薬だとシャーロットに渡しされたのは、幻覚剤だと明らかにされる。右腕を切り落としてしまったエリザベスは、チェロ奏者としては再起不能である。チェロ奏者になれなかったシャーロットの嫉妬による行為かとこの時点では思う。

ようやく帰国したエリザベスは、バッコフアカデミーに戻ってくるが、もはや演奏ができないエリザベスにアントンは冷たく接する。エリザベスは、教師の仕事でもなんでもいいから学校に残りたいと懇願するが、アントンはこれを切って捨てる。絶望したエリザベスは、今度はシャーロットの家に忍び込み、シャーロットを殴り倒すとバッコフアカデミーへ連れ帰る。今度はエリザベスの復讐劇かと思いきや、ストーリーはまた違う方向へと向かっていく。

アントンとバッコフアカデミーに隠された秘密。それが明らかになるとともに、ストーリーは予想もしていなかった方向へと舵を切る。このストーリーの二転三転はなかなかである。先の見えない不気味な展開の映画という意味では、『ゲット・アウト』(My Cinema File 1984)と似たような映画である。そしてそれは、ラストのシャーロットとエリザベスのチェロの演奏と、それを聴くアントンの姿に凝縮される。

「なんて映画だ!」
思わずそう呟かずにはいられない映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2020年08月29日

【潜入者】My Cinema File 2273

潜入者.jpg

原題: The Infiltrator
2016年 アメリカ
監督: ブラッド・ファーマン
出演: 
ブライアン・クランストン:ロバート・メイザー
ダイアン・クルーガー:キャシー・アーツ
ジョン・レグイザモ:エミール・アブレブ
エイミー・ライアン:ボニー・ティシュラー
オリンピア・デュカキス:ビッキーおばさん
ベンジャミン・ブラット:ロベルト・アルケイノ
ユール・バスケス:ハビエル・オコナー
エレナ・アナヤ:グロリア・アルケイノ

<映画.com>
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アメリカの麻薬捜査史上、もっとも大胆で、かつ成果を上げたと言われる潜入捜査に参加したロバート・メイザーが、作戦の実態を事細かに描いた回顧録を映画化。主演はテレビシリーズ「ブレイキング・バッド」で知られ、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』でアカデミー主演男優賞にノミネートされたブライアン・クランストン。1980年代、史上最大規模とも言われる犯罪帝国を築き上げたコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルの息の根を止めるため、アメリカ政府はベテラン捜査官のロバート・メイザーらによる、ある作戦をスタートさせる。それは架空の大富豪に仕立て上げたメイザーが組織に取り入り、内側から組織を崩壊させるという大胆な潜入捜査だった。
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主人公は、フロリダの関税局捜査官ロバート。おとり捜査専門で麻薬の密輸事件を追いかけている。ある日、同僚のエミールがタレコミ屋から情報を持ってくる。タレコミ屋を通して麻薬の密売人と接触し、逮捕へと持ち込むが、ロバートはこのやり方に疑問を抱く。このやり方だと下っ端の売人をあげるのが関の山であり、もっと大元を抑えたいと考えたのである。そしてそれには、麻薬を追うのではなく、金のマネーロンダリングを追いかけるのが良いと考える。

そこでロバートは、ビジネスマンに扮する。麻薬組織も上の方になればビジネスマン然としている。チンピラ然とした売人とは異なる。ロバートは、最初に接触したゴンザロ・モラ親子の信用を得ると、組織のマネーロンダリング担当者、オスピノと会うことに成功する。ロバートをトップとした捜査班の狙うのは、ずばりコロンビア麻薬密売組織メデジン・カルテルのトップ、パブロ・エスコバルとその幹部たちである。

マネーロンダリングという観点から金の流れを追っていくと、麻薬カルテルのために資金を動かしている銀行もターゲットに入ってくる。その銀行BCCIは当時世界7位の大銀行である。相手から信頼を得たロバートは、女性による接待に招待される。それは潜入捜査という「仕事」であり、「据え膳食わぬは男の恥」でいいと思うのだが、真面目なロバートは、愛妻に義理立てし、「フィアンセがいる」とこれを断る。しかし、その結果、組織としては「フィアンセ」を用意しなければならなくなる。

フィアンセ役に選ばれたのは、やはり捜査官のキャシー・ベイツ。危険な組織相手の潜入捜査に女性が加わるのは、個人的には危なげに見える。さらにロバートは潜入期間中も普通に自宅に帰っている。もしも怪しまれて尾行されたらと考えると、恐ろしくなる。バレたら家族もろともなわけで、このあたりの考え方はどうだったのだろうと、観ながら疑問に思う。実際、ロバートは、敵対する麻薬組織からの襲撃に巻き込まれて命からがら逃げたりするのである。

そして組織の重鎮ロベルト・アルケイノに会うことに成功する。ロベルトとは、フィアンセのキャシーともども家族ぐるみの付き合いをするまでになる。それはそれでロバートの成功ではあるが、同時にフィアンセを演じるキャッシーも顔を知られるわけであり、かなりのリスクがあるが、逆に女性のキャシーの存在ゆえにロベルトも完全にロバートを信頼するに至る。こうしてロバートは、狙った通り金の流れに沿って組織に深く潜入していく・・・

メデジン・カルテルはアメリカに違法に麻薬を持ち込み莫大な利益を上げている。その密輸に携わったのが、『バリー・シール アメリカをはめた男』(My Cinema File 1931)のバリー・シール。この男も劇中のニュースで登場する。個人的に驚いたのは、世界第7位の規模の銀行が加担していたこと。最終的にこの銀行BCCIは破綻するのであるが、ロバートから凍結された口座の資金を動かすため、入金日の改ざんを依頼され、預金額の上乗せを条件に応じてしまう。一部の人間の行動だろうが、その結果は甚大である。

残念ながら組織のトップ、パブロ・エスコバルはまんまと逃げおおせる。最終的には犯罪組織のトップらしい最後を迎えるが、それはまた別の物語。それにしても、バレたら確実に命がない潜入捜査を普通に生活しながらこなしたのは凄いことだと思う。そしてその戦果もしかり。実話であることがよけいにその感を強くする。主演のブライアン・クランストンの独特の雰囲気もいい味わいを出している。

気が小さい人間としては、想像するだけで胃が痛くなってしまう。ハラハラしながら観ていた一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2020年08月28日

【30年後の同窓会 LAST FLAG FLYING】My Cinema File 2272

30年後の同窓会 LAST FLAG FLYING.jpg

原題: Last Flag Flying
2017年 アメリカ
監督: リチャード・リンクレイター
出演: 
スティーブ・カレル:ラリー・“ドク”・シェパード
ブライアン・クランストン:サル・ニーロン
ローレンス・フィッシュバーン:リチャード・ミューラー牧師
J・クイントン・ジョンソン:ワシントン
ユール・バスケス:ウィリッツ大佐
シシリー・タイソン:ミセス・ハイタワー

<シネマトゥデイ>
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『さらば冬のかもめ』などの原作で知られるダリル・ポニックサンの小説を基にしたロードムービー。戦地で命を落とした息子を故郷に連れ帰ろうとする男と、同行する友人たちの姿を映す。監督は『6才のボクが、大人になるまで。』などのリチャード・リンクレイター。『フォックスキャッチャー』などのスティーヴ・カレル、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』などのブライアン・クランストン、『マトリックス』シリーズなどのローレンス・フィッシュバーンが出演。
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2003年、アメリカ。「サルの店」と看板を掲げるバーに、一人の男がやってくるところから物語は始まる。店主のサルバドールは、一見の客にビールを出すと、常連客との会話に戻る。すると男は店主のサルバドールに話し掛ける。「自分を覚えているか」と。しばし、記憶をたどったサルバドールは、「ドクか?」と男のことを思い出す。男はラリー・シェパード。“ドク”と呼ばれていたのは、遠い昔のベトナム戦争で衛生兵だった頃。2人は30年ぶりの再会した戦友である。

インターネットで昔の戦友を探し当てて来たというドクとサルバトールは懐かしさから一晩飲み明かす。そして翌朝、ドクはサルをバージニア州ノーフォークにある教会へと連れて行く。そこで説教をしていたのは黒人の牧師。それはやはり2人の戦友だったリチャード・ミューラー。昔は荒くれ者で知られた男だったが、いまでは牧師に転身していたのである。互いに再会を喜び合った後、3人はミューラーの家でミューラー夫人とともに食事をする。そこでおもむろにドクが2人を訪ねてきた理由を語る。

ドクの愛妻は既に病死しており、軍務に服していた息子が2日前にイラクで死んだと語る。遺体はワシントンD.Cまで運ばれて来ることになっており、ついては2人について来て欲しいというもの。サルはすぐに同意し、ミューラーは足が悪いこともあって躊躇したが、夫人に尻を叩かれて同行に同意する。かくして車中の人となる3人。そんな事情ではあるが、車中は冗談好きのサルが賑わせながらのドライブ。そして行き違いはあったものの、デラウェア州のドーバー空軍基地に到着する。

出迎えたのは、ウィリッツ中佐。米軍は、死者に対する尊厳を大事にする。しょっちゅう戦争をしている国としては、戦死者に対する敬意がなければ兵士のモチベーションも落ちるだろうし、そこは大日本帝国とは明らかに違う。遺体は後ろから頭を撃たれており、顔の損傷がひどいという理由で中佐は遺体との体面を避けることを薦める。されど冷静ではあるものの、やはり動揺しているのか、ドクは遺体との対面を希望する。

その間、サルとミューラーは、ラリーの息子と同じ部隊だったワシントンという黒人の軍曹に戦死した時の状況を聞く。それはドクが説明を受けたように「戦闘で勇敢に戦って死んだ」のではなく市街地での休憩時に、現地の男に突然撃たれたのだと言う。善意の嘘ではあるが、真実を告げるべきだとこだわるサル。ミューラーはそれに対し、真実を告げないのも思いやりと考える。そして真実を知ったドクは、息子をアーリントン墓地ではなく、故郷に埋葬すると主張する。

アーリントン墓地は、米軍の戦死者が埋葬される墓地。それ自体、名誉なことであるが、ドクは軍服ではなくて高校の卒業式で着た服を着せて埋葬したいと言う。そこには自分よりも早く、しかも戦死という形で命を奪われたやるせなさがあるのだろう。特にベトナム戦争従軍経験があるだけに一層そう思うのかもしれない。半ば強引に棺を運び出そうとするドクと、アーリントンに埋葬することこそが名誉と信じる中佐のやり取りが日本人から見ると興味深い。

物語は、遺体を故郷に運ぶドクと戦友たちを追う。その過程で今もなお3人のトラウマとなっているベトナムでの事件が明らかになる。時にイラク戦争もイラクのフセイン大統領が米軍に逮捕された映像が流れ、物語背景を彩る。故郷までの旅は、単なる3人の道中記ではなく、過去へのけじめをつける旅でもある。妻子を失い、独りになってしまったドクが、戦友2人を誘った気持ちも何となく理解できていく。ゆっくりと、静かに心に温かいものが流れ込んでくる。

3人の戦友で、ベトナムで戦死した仲間の母親が、「いったい何のための戦争だったの?」と聞くシーンが印象的である。ほとんどの人はそんなことを考えないだろう。ただ愛する家族を失った者だけが問う問いなのだろうと思う。戦争のない国に生まれ育ち、本当に良かったと思う一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2020年08月23日

【ザ・シークレットマン】My Cinema File 2271

ザ・シークレットマン.jpg

原題: Mark Felt: The Man Who Brought Down the White House
2017年 アメリカ
監督: ピーター・ランデズマン
出演: 
リーアム・ニーソン:マーク・フェルト
ダイアン・レイン:オードリー・フェルト
マートン・ソーカス:L・パトリック・グレイ
アイク・バリンホルツ:アンジェロ・ラノ
トニー・ゴールドウィン:エド・ミラー
マイケル・C・ホール:ジョン・ディーン
ブライアン・ダーシー・ジェームズ:ロバート・クンケル
ジョシュ・ルーカス:チャーリー・ベイツ
トム・サイズモア:ビル・サリバン
ジュリアン・モリス:ボブ・ウッドワード

<シネマトゥデイ>
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1970年代のウォーターゲート事件の際に内部告発し、ディープ・スロートと呼ばれた人物の実話を描くサスペンス。民主党本部盗聴事件の捜査を担当したマーク・フェルトFBI副長官がマスコミに捜査内容をリークし、ニクソン大統領を辞任に追い込むまでを描き出す。FBI副長官を『96時間』シリーズなどのリーアム・ニーソンが演じ、『運命の女』などのダイアン・レインらが共演。監督は『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』などのピーター・ランデズマン。
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ウォーターゲート事件と言えば、史上初めてアメリカの現職大統領が辞任する原因となった有名な事件。事件を追ったワシントンポストの2人の記者の回顧録を基にした『大統領の陰謀』は映画としても有名である。そのウォーターゲート事件をFBIサイドから描いたのが本作。しかも、『大統領の陰謀』(My Cinema File 1892)でも重要なカギを握っていた謎の人物ディープ・スロートが明らかになるという意味でも(『大統領の陰謀』公開時はまだ匿名であった)、本作は興味のある映画である。

1972年、ベトナム反戦運動が激化する中、FBIに30年務める副長官のマーク・フェルトがホワイトハウスに呼ばれ、ニクソンの顧問ジョン・ディーンから「どうすればフーバーを解雇できるか?」と質問される。『J・エドガー』(My Cinema File 818)でも描かれたフーバー長官は50年近くその地位に君臨し、ニクソン大統領としても解雇の道を探っていたのであろう。フーバー長官に忠実なフェルトは、様々な重鎮の秘密を握るフーバー長官の解雇は難しいだろうと伝える。

しかし、ある日の深夜、フェルトの下にフーバー長官の死を知らせる電話がかかってくる。事前に準備していたのであろうフェルトは、すみやかに秘密資料を処分し、司法省から長官代行として派遣されてきたパット・グレイの目に資料を触れさせない。フーバー長官の死を幸いとし、FBIに対する司法省の関与を強化しようとする動きにフェルトは毅然と対峙する。FBIは独立組織であることを守ろうとするのである。

叩き上げのフェルトが長官に就任すればそれも容易いが、司法省もそうはさせじと、フーバーの葬儀後、グレイを正式にFBI長官に任命する。そこにはFBI改革の名の下にFBIを意のままにしようとするニクソン大統領と司法省の思惑がある。そして叩き上げのフェルトは、独立自尊の気概を見せようとする。そんな最中、民主党本部のウォーター・ゲート・ビルに何者かが侵入したとの知らせが入る。

事件の調査で逮捕された5人の経歴を聞いたフェルトは、逮捕者にFBIとCIAの元職員がいて、さらに新長官のグレイとディーンが密談しているのを目撃し不審に思う。さらにグレイからは、ウォーター・ゲート事件の捜査は48時間以内で終わらせろと指示される。明らかに政府からの圧力であり、(しかも長官を抑えられている)フェルトは危機感を抱く。そして旧知のタイム誌の記者に会う。

まさにFBIに身を捧げているフェルトだが、私生活では家出をした娘が8年間行方不明となっている。自らFBIの捜査網を利用しない潔癖さを持つフェルトは、娘を探すために全米の同姓同名者に手紙を書くということをしている。そんなフェルトに、長官の交代、政権からの圧力は大きなプレッシャーだっただろう。そんな中、フェルトはワシントン・ポストに連絡を取る。こうして事件はマスコミ(ワシントン・ポスト)が報じるところとなる。そうなると、もみ消すのも簡単にはいかなくなる。

『大統領の陰謀』では、事件を追う2人の記者の活躍が描かれていた。2人はディープ・スロートから得られた内部情報を報道し、世間の関心を煽っていく。それはそれで面白いのであるが、なぜディープ・スロートは2人に情報を提供したのかは謎であった。それがこの映画ではディープ・スロートの視点から描かれるので、そういう意味では長年の疑問が氷解したことになる。

時に世間は大統領選のムードに包まれていく。ニクソン大統領も再選に向けたPRに余念はないが、ウォーター・ゲート事件の真相究明を約束する一方、新長官グレイを通じて捜査中止の圧力をかける。そして司法省は、一旦は事件終結と発表する。その陰でフェルトはFBI職員に捜査継続を呼びかけ、自身は密かにワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者と密会する。グレイ長官はFBI内部の情報提供者の犯人探しに躍起になる・・・

フェルトを演じるのは、リーアム・ニーソン。アクションからシリアスな役柄まで幅広くこなす。しかも、シリアスな役ではストーリーに重厚感をもたらすのに貢献する。このフェルトという人物を演じるに際し、本人を意識したのか、白髪の髪を豊富にし、いつもとちょっと変わった雰囲気を醸し出す。また、夫人を演じるのはダイアン・レインであり、名優の共演がそれだけでも嬉しい。

有名な事件の裏側をこうして知ることができるというのも映画の良いところ。特に長年、謎とされていたディープ・スロートの正体と情報提供の経緯がわかったというのも興味深い。本来的には捜査情報の提供ゆえにアウトなのだろう。だからこそ長年伏せられてきたのだと思うが、こうして映画として観てみると、その「違法行為」がアメリカの正義に果たした役割は実に大きい。

アメリカ現代史の裏側を知ることができるという意味でも、興味深い一作である・・・


評価:★★☆☆☆









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2020年08月22日

【マンチェスター・バイ・ザ・シー】My Cinema File 2270

マンチェスター・バイ・ザ・シー.jpg

原題: Manchester by the Sea
2016年 アメリカ
監督: ケネス・ロナーガン
出演: 
ケイシー・アフレック:リー・チャンドラー
ミシェル・ウィリアムズ:ランディ
カイル・チャンドラー:ジョー・チャンドラー
ルーカス・ヘッジズ:パトリック
カーラ・ヘイワード:シルヴィー
C・J・ウィルソン:ジョージ
グレッチェン・モル:エリーズ

<映画.com>
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『ジェシー・ジェームズの暗殺』 『インターステラー』のケイシー・アフレックが主演し、心を閉ざして孤独に生きる男が、兄の死をきっかけに故郷に戻り、甥の面倒を見ながら過去の悲劇と向き合っていく姿を描いたヒューマンドラマ。「ギャング・オブ・ニューヨーク」の脚本で知られるケネス・ロナーガンが監督・脚本を務め、第89回アカデミー賞では作品賞ほか6部門にノミネート。アフレックが主演男優賞、ロナーガン監督が脚本賞を受賞した。プロデューサーにマット・デイモン、主人公の元妻役で「マリリン 7日間の恋」のミシェル・ウィリアムズ、兄役で『キャロル』のカイル・チャンドラーが共演。アメリカ、ボストン郊外で便利屋として生計を立てるリーは、兄ジョーの訃報を受けて故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻る。遺言でジョーの16歳の息子パトリックの後見人を任されたリーだったが、故郷の町に留まることはリーにとって忘れられない過去の悲劇と向き合うことでもあった。
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主人公は管理人兼便利屋として働くリー・チャンドラー。アパートの設備の修理などを行っているが、腕はいいものの顧客に対する態度は冷たいところがあり、評判は芳しくない。一人暮らしで、生活ぶりに荒んだところはないものの(家の前の雪かきもちゃんとやったりする)、機嫌が悪いと殴り合いの喧嘩をしたりする。そんなある日、生まれ故郷マンチェスターに住む旧友ジョージから電話がかかってくる。リーの兄・ジョーが危篤状態だと言う。

急遽、休暇を取って久しぶりに故郷に帰るリー。しかし、病院を訪れるとジョーはすでに他界した後。リーは、ジョーの1人息子パトリックを迎えにアイスホッケー場へ行く。パトリックはアイスホッケーをやっているのである。病室へ連れてゆくも、遺体に寄りそうでもなく家へ帰るパトリック。リーも兄の家にしばらく滞在することになる。父親が死んだというのに、パトリックには悲しみの顔が見られない。バンド仲間を家に呼び、普通に談笑するし、ガールフレンドを泊める始末。

翌日、リーは兄の遺言書を保管している弁護士の元へ行く。そこで意外な事実を聞かされる。ジョーは遺言書で、まだ高校生であるパトリックの後見人としてリーを指名していたのである。パトリックには実の母親エリスがいるが、ジョーを捨てて出て行った経緯があり、他に親戚があるわけでもなく、となればその判断は当然と言えば当然。しかし、リーはそれを頑なに拒む。パトリックを引き取ることは問題ないようであるが、それだと今度はパトリックが地元を離れたくないと抵抗する。

なぜかマンチェスターに戻ることに抵抗するリー。そこには過去にあった事件が関係している。かつてはリーもマンチェスターに住み、ランディという妻と3人の子宝に恵まれていたが、酔った挙句の失火で自宅が火事になり、眠っていた子供全員を焼死させていた。自ら自殺を試みたものの、この事が原因でランディと離婚。以来、すっかり厭世的になり、町を離れて世捨てのごとく暮らしてきたのである。病死したジョーがそんな遺言を残したのも、死期が近いことを悟り、最後に弟を案じての末なのかもしれない。

友人たちと夜中まで酔って騒いだ挙句、家事を起こして子供を死成せたとあれば、それは故郷に居づらくなるだろう。やがてジョーの葬式が行われ、新しい再婚相手を連れたランディとも再会する。そしてその夜、それまで涙など見せなかったパトリックが冷蔵庫の前で突然号泣する。ジョーの遺体が墓地の地面が凍結している関係で春まで冷凍室に保存されることにどうやらパトリックには堪え難いらしい。そんなパトリックに対し、リーの心境にも変化が現れる。

マンチェスターというのでイギリスの話かと思っていたら、どうやら舞台はアメリカ。「バイ・ザ・シー」というくらいなので海の近くの田舎町での人間模様。人の心はきっちりと割り切れるものではない。リーとパトリックにとって何が最適解なのか、あちらを立てればこちらが立たず、もどかしい限り。出て行ったとはいえ、母子間の感情も消えるわけではなく、パトリックは密かに母親とメールのやり取りをしていたりする。そんな静かな人間模様が描かれて行く。

最後にリーが下した決断は、パトリックの気持ちを汲んだ上で自分なりに落とし所を探し当てたところ。それもまた良しではないかと観る者に思わせる。確実に言えることは、リーとパトリックはそれまでにはあり得なかった新しい関係を築けたこと。第三者から見た最適解ではないが、当事者間で導き出したベターな解。そういう解も人の世の中では良いのではないかと思わせてくれる。

そんなエンディングが、少しホッとさせてくれる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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