2020年11月29日

【母なる証明】My Cinema File 2318

母なる証明.jpg

原題:마더/Mother
2009年 韓国
監督: ポン・ジュノ
出演: 
キム・ヘジャ:母親
ウォンビン:トジュン
チン・グ:ジンテ
ユン・ジェムン:ジェムン刑事
チョン・ミソン:ミソン
ムン・ヒラ:アジョン

<映画.com>
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『殺人の追憶』 『グエムル/漢江の怪物』のポン・ジュノ監督が手がけた3年ぶりの長編。国民的人気女優のキム・ヘジャ、5年ぶりの映画出演となるウォンビンが親子を熱演する。貧しいながらも幸せに暮らしていた親子であったが、ある日1人息子が警察に拘束されてしまう。殺人事件の容疑者にされてしまった息子の無実を信じ、孤立無援の母は悲しむ間もなく、たった1人で真相に迫ろうとするのだが……。
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漢方屋を営む母親は、一人息子のトジュンと二人暮らし。トジュンは、体は大人だが知的障害者である。トジュンには悪友のジンテがいる。バカにしているようでいて、トジュンが高級車に轢かれそうになると、追いかけて行って報復しようとする。友達思いのように見えるが、壊したミラーの請求をされると罪をトジュンになすりつけるズルさもある。修理代は貧しい暮らしの母親には負担になるが、母親は内緒で針治療の施術をして稼いで返済するのである。

ある夜、ジンテと飲む約束をしていたトジュンだが、すっぽかされてしまう。人通りのない帰り道で、トジュンは女子高生のアジョンを見つけ声を掛けるが、相手にされない。トジュンはそのまま帰宅し、いつものように母の寝床に潜り込み眠りにつく。ところが翌朝、アジョンが遺体となって発見される。運の悪いことに、それはトジュンが話しかけた直後のことであり、その目撃証言や物証によりトジュンは逮捕されてしまう。

驚いたのはトジュンの母親。当の本人は、事態の深刻さがわかっておらず、面会に来た母親にもやっていないと呑気に語る。母親は高い費用を払って弁護士を雇うが、どこまで真剣にやってくれるのかは、弁護士の態度を見ていると判断がつかない。警察はもうトジュンが犯人と決めつけており、じれったくなった母親は独自に真犯人を探し始める。まず怪しむのはトジュンをすっぽかしたジンテ。

母の愛というのは盲目的なものである。母親はなんとジンテの家に忍び込む。そして赤い染みのついたゴルフクラブを見つけ、これぞ犯行の証拠と警察に持ち込む。しかしそれは密かに付き合っている女の口紅。疑われたジンテは、激怒して母親に慰謝料を要求し、母親は有り金全部を渡す。それでも今度は死んだ女子高生アジョンの周辺を調べ出す。すると、貧しさゆえにアジョンが金のために誰とでも寝ていたという事実が判明する。さらに寝た相手をすべて写メに収めていたと知ると、現場にはなかったアジョンの携帯を探し始める。

こうして息子の無実を信じて真犯人を探す母親。母親とは、愛情こそ誰よりも深いものの、思慮が足りないというイメージがあるが、トジュンの母親はまさにそんな典型。それでもトジュンに事件の晩の記憶を振り返るように言い聞かせ、そして実は現場の廃屋に人がいたことを思い出させる。そして執念で見つけたアジョンの携帯にその男が写っていることがわかる・・・

こうして母親の執念で見つけた疑わしい人物だが、物語はここから大きく予想もしなかった方向へと進んでいく。この展開はなかなか意外である。途中、針をやっている母親が、トジュンに悪い記憶を消すツボのことを語る。トジョンにも子供の頃に嫌な記憶がある。そんな何気ない伏線がきちんと最後に意味を持って生きてくる。母親の無償ゆえに恐ろしいまでの愛情。それもきっちりと示してくれる。

そしてとうとう「真犯人」がわかる。このラストは予想もしなかったし、「やられた感」が強い。ラストで母親は、自ら嫌な記憶を消すツボに針を打ち込む。何とも言えないこのラストは、韓国映画の真骨頂と言えるかもしれない。考えてみればこの映画、『パラサイト 半地下の家族』(My Cinema File2297)でオスカーを獲得したポン・ジュノ監督の作品。なるほどなぁと思わず唸ってしまった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2020年11月28日

【リチャード・ジュエル】My Cinema File 2317

リチャード・ジュエル.jpg

原題: Richard Jewell
2019年 アメリカ
監督: クリント・イーストウッド
出演: 
ポール・ウォルター・ハウザー:リチャード・ジュエル
サム・ロックウェル:ワトソン・ブライアント
キャシー・ベイツ:ボビ・ジュエル
ジョン・ハム:トム・ショウ
オリビア・ワイルド:キャシー・スクラッグス
ニナ・アリアンダ:ナディア・ライト
イアン・ゴメス:ダン・ベネット

<映画.com>
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『アメリカン・スナイパー』の巨匠クリント・イーストウッドが、1996年のアトランタ爆破テロ事件の真実を描いたサスペンスドラマ。96年、五輪開催中のアトランタで、警備員のリチャード・ジュエルが、公園で不審なバッグを発見する。その中身は、無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾だった。多くの人々の命を救い一時は英雄視されるジュエルだったが、その裏でFBIはジュエルを第一容疑者として捜査を開始。それを現地の新聞社とテレビ局が実名報道したことで、ジュエルを取り巻く状況は一転。FBIは徹底的な捜査を行い、メディアによる連日の加熱報道で、ジュエルの人格は全国民の前で貶められていく。そんな状況に異を唱えるべく、ジュエルと旧知の弁護士ブライアントが立ち上がる。ジュエルの母ボビも息子の無実を訴え続けるが……。主人公リチャード・ジュエルを「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」のポール・ウォルター・ハウザー、母ボビを「ミザリー」のキャシー・ベイツ、弁護士ブライアントを「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェルがそれぞれ演じる。
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 1986年、リチャード・ジュエルは、中小企業局アトランタ事務所で備品係として勤めている。太った風貌は一見、うだつの上がらないイメージであるが、実は細やかな仕事ぶりでワトソン・ブライアントに気に入られる。ワトソンはスニッカーズが好物であるが、ゴミ箱に捨ててあった包装紙からそれを知り、黙って補充していたのである。ワトソンはリチャードに「レーダー」とあだ名をつける。

 そのリチャードは、生真面目で強い正義感の持ち主であり、警官等の法執行官になりたいという希望を持っている。やがて警備員になるため退職することになり、ワトソンのもとへ挨拶に来る。やがて2人が深く関わり合うようになるとはこの時点で知る由もない。そして10年後、リチャードは相変わらず母親のボビと同居しており、ピードモント大学の警備員をしている。生真面目な性格は変わらず、学生の飲酒取り締まりを厳格にやりすぎてクビを宣告されてしまう。

 この夏、アトランタではオリンピックがあるため、リチャードはオリンピック期間中、記念公園の警備員となる。そして1996年7月27日、事件が発生する。コンサートで盛り上がるオリンピック会場近くの記念公園のベンチの下に、リチャードは怪しいバックパックを発見する。警官たちはただの忘れ物だと取り合わないが、リチャードは規則通り不審物を処理するように主張する。一方、そのころ警察には爆破予告の電話が入る。

 リチャードの発見したバックパックには、爆発物処理班によってプラスチック爆弾が入っていることが確認される。リチャードたちは直ちに周囲の人々を避難させ始める。ところが、この途中で爆弾が爆発。爆弾には無数の釘が仕込まれており、爆風と釘の炸裂によって100人以上の負傷者と、2名死亡者が出てしまう。公園に居合わせていた地元の新聞記者キャシー・スクラッグスは、即座に特ダネに向けて行動を開始する。

 リチャードは、爆弾の第一発見者でもあり、惨事を最小限にとどめた英雄としてテレビの取材を受け、一躍ヒーローとしてもてはやされる。さらには、出版社から本を出そうという話をもちかけられ、リチャードはかつて中小企業局で激励を受け、今は弁護士の個人事務所を構えているワトソンに電話し、出版契約を助けてくれるように依頼する。再会を喜び合う2人だが、事件は意外な方向へ動いていく。

 捜査を進めるFBIに、かつてリチャードをクビにした大学学長が、ヒーロー扱いされるリチャードに違和感を覚えて通報する。FBIの描く犯人像に偶然リチャードが一致したことから、密かに有力容疑者とされる。そして担当のショウ捜査官は、女性記者キャシーの色仕掛けに負けてこの情報を漏らす。これをキャシーはアトランタ・ジャーナルの一面記事で実名報道する。

 このニュースにマスコミがリチャードに殺到する。FBIもリチャードに対する捜査を進めていく。危険を感じたリチャードは、改めてワトソンに弁護を正式に依頼する。連日連夜マスコミの取材攻勢に追われ、FBIの家宅捜索を受けることになる。この騒動は、見ていてひどいものである。無実であるにも関わらず犯人扱いされる理不尽。法執行官にあこがれていたリチャードは、その最高峰ともいうべきFBIに取り調べられる。それでも敬意を失わない。
 
 冤罪の恐怖は言うまでもない。わが国でもニュースになったりするが、それでも恐ろしいのは人々に「本当だろうか」と言う疑念を抱かせること。誰でも罪を逃れたくて「無実だ」と言うものだろう。それが本当かどうかは本人しかわからない。そしてこの映画は実話だと言うところにパンチ力がある。連日多くのメディアが押し寄せ、報道合戦は過熱する。我が身に起こったら、と考えると恐ろしいことである。

 権力というものは、誠に恐ろしい。正しい方向に向かっている時はそうではないが、誤った方向に向かっている時はそうである。そしてそれは「第四の権力」とも言われるマスコミにも当てはまる。リチャードに対する疑いは、すべてが「思い込み」。頼もしいのは、リチャードの性格を知り、無実を信じて唯一の味方になったワトソン。これぞ本来の弁護士のあるべき姿であろう。

 もはや名優というより名監督という呼び名の方がふさわしいと思えるクリント・イーストウッド監督。実話の映画化でもあり、訴えかけてくる力は強い。クリント・イーストウッド監督作品はそれだけで観る価値があると改めて思わせてくれる。実話の持つ力も含めて、迫力のある映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2020年11月27日

【ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY】My Cinema File 2316

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒.jpg

原題: Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn
2020年 アメリカ
監督: キャシー・ヤン
出演: 
マーゴット・ロビー:ハーレイ・クイン
メアリー・エリザベス・ウィンステッド:ヘレナ・ベルティネリ/ハントレス
ジャーニー・スモレット=ベル:ダイナ・ランス/ブラックキャナリー
ロージー・ペレス:レニー・モントーヤ
クリス・メッシーナ:ビクター・ザーズ
エラ・ジェイ・バスコ:カサンドラ・ケイン
ユアン・マクレガー:ローマン・シオニス/ブラックマスク

<映画.com>
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『スーサイド・スクワッド』に登場して世界的に人気を集めたマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインが主役のアクション。悪のカリスマ=ジョーカーと別れ、すべての束縛から解放されて覚醒したハーレイ・クイン。モラルのない天真爛漫な暴れっぷりで街中の悪党たちの恨みを買う彼女は、謎のダイヤを盗んだ少女カサンドラをめぐって、残忍でサイコな敵ブラックマスクと対立。その容赦のない戦いに向け、ハーレイはクセ者だらけの新たな最凶チームを結成する。マーゴット・ロビーが自身の当たり役となったハーレイ・クインに再び扮し、敵役となるブラックマスクをユアン・マクレガーが演じた。監督は、初長編作「Dead Pigs」がサンダンス映画祭で注目された新鋭女性監督キャシー・ヤン。
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ヒーローを集結させたマーベルのアベンジャーズに対して、悪人を集結させたDCコミックの『スーサイド・スクワッド』。なかなか面白い試みだと思っていたら、メンバーの中でも異彩を放っていたハーレイ・クインをスピンオフさせた作品。これはこれでまた面白い試みである。

そのハーレイ・クインは、ジョーカーの恋人という触れ込みであった。それゆえにまわりも下手に手が出せない。親分の女に手を出したらタダでは済まないのはいずこも一緒である。「手を出す」と言っても、この場合セクシーな意味ではなく、「ぶっ殺す」という意味である。敵が多いってことであろう。そのハーレイ・クインがとうとうジョーカーと破局する。原因はわからないが、付き合う方がもっとわからないから大して重要ではないだろう。

一応、傷心のハーレイ・クインはやけ酒を浴び、髪を短くしたりハイエナを飼いはじめたり、ローラースケートの格闘ダービーに出場するなど荒れた日々を送る。しかしある日、目覚めたハーレイはジョーカーへの想いを断ち切る決心をし、「J」の文字が入ったチョーカーを首から引きちぎると、2人が出会った思い出のエース・ケミカル工場を派手に爆破してゴッサム中に独立を宣言する。

その時、近くの酒場ではクロスボウを操るハントレスと名乗る女が現れ、3人の男たちをクロスボウで射殺するという事件が起こる。ゴッサム市警のレニー・モントーヤが捜査にあたり、ローマン・シオニスが仕向けた殺し屋の仕業だろうと見立てる。そのシオニスもハーレイを快く思わない1人であり、ジョーカーと破局したとわかると、すぐに追っ手を差し向ける。ハーレイもみすみす捕まるようなタマではないが、それでも多勢に無勢で捕らえられてしまう。

シオニスは過去に殺したゴッサムシティのマフィア、パーティネリファミリーの秘密口座の鍵となるダイヤを探している。部下のビクタと、自身が経営するクラブの歌姫兼運転手のブラックキャナリーに受け取りに行かせるが、スラムに住むスリのカサンドラがそれと知らずに盗み、誰にも奪われないよう飲み込んでしまう。シオニスに捕まったハーレイは、殺されようとするところ、自分ならダイヤを見つけることができると交換条件を持ち掛ける。このあたりはタダ者ではない。

狙われるカサンドラ。同じアパートに住み、面識のあったブラックキャナリーは、密かに彼女を救おうとし、モントーヤに連絡する。方、ハーレイはゴッサム警察を襲撃し、スリで捕まり留置されていたカサンドラを連れ出す。何とも大胆不敵な振る舞いであが、ハーレイは警官、囚人、賞金稼ぎと次々やってくる敵を華麗になぎ倒す。力強さは感じられないが、女らしい優雅な振る舞いは、それはそれでさまになっている。

そして物語は、いつの間にかカサンドラを巡って、奪おうとするシオニスとそれに抵抗するキャナリー、モントーヤ、ハントレス、そしてハーレイらとの対立になっていく。シオニスはシオニスで、ブラックマスクに変身し立ち塞がる。いつの間にか、善悪(悪vs悪?)の戦いとなっていく。女ジョーカーともいうべきハーレイ・クインの強烈なキャラクターがなせるスピンオフだろうが、それはなかなかアタリではないかと思う。これはこれで面白い。

ハーレイ・クインの独特の立ち居振る舞い。ジョーカーとは違って格闘アクションもこなす。されど正義の味方というわけではないから、今後どんな展開があるのかできるのかはわからない。続編が作られるなら面白い気もするが、どうであろろうか。ハントレス、キャナリーとゴッサムシティ警察を辞めたモントーヤの3人はゴッサムシティの悪と戦う自警団「バーズ・オフ・プレイ」を立ち上げる。これも今後の展開があるのだろうか。

どんな続きを見せてくれるのか(そもそもあるのかどうかも)わからないが、続くのであれば興味を持って観たいと思う一作である・・・


評価:★★☆☆☆










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2020年11月23日

【ラッキー】My Cinema File 2315

ラッキー.jpg

原題: Lucky
2017年 アメリカ
監督: ジョン・キャロル・リンチ
出演: 
ハリー・ディーン・スタントン:ラッキー
デビッド・リンチ:ハワード
ロン・リビングストン:ボビー・ローレンス
エド・ベグリー・Jr. :ニードラー医師
トム・スケリット: フレッド
ジェームズ・ダーレン:ポーリー
バリー・シャバカ・ヘンリー:ジョー

<映画.com>
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「パリ、テキサス」「ツイン・ピークス」で知られる個性派俳優で、2017年9月に逝去したハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作。「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」などの名脇役ジョン・キャロル・リンチが初メガホンをとり、スタントンに当て書きしたという90歳の気難しい現実主義者ラッキーを主人公に、全ての者に訪れる人生の最後の時間を描く。神など信じずに生きてきた90歳の男ラッキー。ひとりで暮らす部屋で目を覚ますとコーヒーを飲んでタバコをふかし、なじみのバーで常連客たちと酒を飲む。そんなある日、自分に人生の終わりが近づいていることに気付いた彼は、「死」について思いを巡らせる。子どもの頃に怖かった暗闇、去っていったペットの亀、戦禍の中で微笑んだ日本人少女。小さな町の住人たちとの交流の中で、彼は「それ」を悟っていく。スタントン本人の体験に基づくエピソードが描かれるほか、長年にわたるスタントンの盟友デビッド・リンチ監督が主人公の友人役で登場。
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 主人公は、90歳になる老人ラッキー。アリゾナの砂漠地帯にある田舎町のアパートで一人暮らしをしている。独身で、毎朝目覚めるとコーヒーを淹れ、タバコをふかし、軽い運動をこなす。朝食は近所のレストランへ行き、コーヒーを飲みながら店主のジョーや常連客と他愛ない話に明け暮れる。夜はエレインが経営するバーでいつものカクテルを飲みながらエレインの恋人ポーリーら常連客と語り合う。変化に富んだ日々というより、年寄りは毎日同じような日々を送るものである。

 その晩は、友人ハワードが飼っていた齢100歳のリクガメ“ルーズベルト大統領”が逃げ出したという話を聞く。そして別の日、いつものようにエレインのバーに向かうと、ハワードは弁護士と何やら真剣に話し合いをしている。聞けばラッキー同様に独り身のハワードは、何と未だに行方不明中のカメの“ルーズベルト大統領”に遺産を相続させようと本気で相談していたのである。なんとも怪しげな弁護士である。

 弁護士との会話の中で、ラッキーのセリフがなかなかいい。「孤独と一人暮らしは同じではない。人はみな生まれるときも死ぬときも一人だ。独り(alone)の語源は一人(all one)だ」。まさに90歳になったラッキーの心境なのだろうが、寂しさは漂ってこない。また、ラッキーの行きつけにはコンビニ店もあり、そこの女主人ビビからは息子の誕生日パーティーに招かれる。1人パーティーの場では浮いているラッキーは、スペイン系のビビにちなんでスペイン語の歌を歌い、その場を和ませる。

 そんなラッキーの同じような日々が淡々と描かれる。歳をとった人間は日々新たなチャレンジをするよりも、同じような日常を過ごすことが快感になるのかもしれない。朝起きてコーヒーを飲み、軽い運動をして、行きつけの店で朝食を取り、行きつけのコンビニでタバコを買う。そして行きつけのバーで軽く酒を飲み、常連たちとたわいのない会話をする。他にすることもないと言えるが、それがラッキーにとっては心地良いのであろう。

 そんな日常生活の中で、ふと意識するのは「死」。いずれ自分もそんな胸中になるのだろうか。それはわからないが、自分もラッキーと同じように同じような毎日を過ごすのだろうなと思う。その時までに、しっかり人生を生きていきたいと思わせてくれる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2020年11月22日

【1917 命をかけた伝令】My Cinema File 2314

1917 命をかけた伝令.jpg

原題: 1917
2019年 イギリス・アメリカ
監督: サム・メンデス
出演: 
ジョージ・マッケイ:スコフィールド上等兵
ディーン=チャールズ・チャップマン:ブレイク上等兵
マーク・ストロング:スミス大尉
アンドリュー・スコット:レスリー中尉
クレア・デュバーク:
リチャード・マッデン:ブレイク中尉
コリン・ファース:エリンモア将軍
ベネディクト・カンバーバッチ:マッケンジー大佐

<映画.com>
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『007 スペクター』 『レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで』などで知られる名匠サム・メンデスが、第1次世界大戦を舞台に描く戦争ドラマ。若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクの2人が、兄を含めた最前線にいる仲間1600人の命を救うべく、重要な命令を一刻も早く伝達するため、さまざまな危険が待ち受ける敵陣に身を投じて駆け抜けていく姿を、全編ワンカット撮影で描いた。1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。戦場を駆け抜ける2人の英国兵をジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマンという若手俳優が演じ、その周囲をベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングらイギリスを代表する実力派が固めた。撮影は、『007 スペクター』でもメンデス監督とタッグを組んだ名手ロジャー・ディーキンス。第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされ撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。
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 時に1917年4月、場所はフランス北部。第一次世界大戦の戦場で英国陸軍の兵士トム・ブレイクは、パートナーを1人選び陸軍司令官エリンモアに会うよう命じられる。そこでウィリアム・スコフィールドを連れて司令官の下へ出頭する。そこで命じられたのは、1600人の歩兵から成る英国第二大隊の指揮官・マッケンジーへの伝令。命令を聞いたトムは一瞬たじろぐ。命令を遂行するには、ドイツ軍陣地を突っ切らなければならなかったからである。

 しかし、既にドイツ軍は撤退しているとの話。されどその撤退は戦略的なもので、上空を偵察した空軍からもたらされた情報では、ドイツ軍は英国軍を待ち伏せて奇襲する様子だという。そうとは知らない第二大隊がそのまま攻撃すれば大損害を受けるかもしれない。さらに悪いことには、通信網が破壊されていてマッケンジーへ直接攻撃中止を伝えることができない。それゆえの伝令である。考えてみればそんな大事な任務を2人だけに託していいのかとも思うが、それはさておき、かくして命令は下る。

 実は第二大隊にはトムの兄ジョセフが居る。したがって任務は絶対に果たさないといけない。どちらかと言えば腰が引けているウィリアムに比べれば、トムにとっては重要な任務。それはウィリアムが、日が暮れるのを待って進もうと提案したのに対し、トムは無視してすぐに出発しようとするところに現れている。はっきり言って人選の成功だと言える。さっそく塹壕を進んでいくトムと渋々後をついていくウィリアム。

 第一次世界大戦と言えば塹壕戦。双方が塹壕を掘り合い、果てしない殺し合いを展開したと聞いているが、画面に広がる地上はリアル感にあふれる荒涼地。恐る恐る塹壕を抜け出した2人は、ほふく前進で進む。死んだ馬には無数の蠅がたかり、有刺鉄線が複雑に張り巡らされている様子は迫力十分。やがてドイツ軍の塹壕へ到着し、もぬけの殻だと分かった2人はようやく息を整える。しかし、ドイツ軍が仕掛けていった爆弾が爆発し、ウィリアムが生き埋めになるなど気は抜けない。

 こうして物語は、第二大隊へと向かう2人を追っていく。塹壕地を抜けるとフランス北部ののどかな田園風景が広がる。この映画はカメラワークが話題になっているが、素人目にはあまりよくわからない。ただ、殺し合いの現実と対比された田園風景は実に美しい。しかし、一方で人間の姿はない。とっくに避難したのであろうが、それゆえに美しいのかもしれない。そしてある一軒の民家に辿り着いたところで驚きの展開になる。

ちょうど上空では、英独軍の戦闘機が交戦中であり、被弾したドイツ軍戦闘機が、2人が佇む民家に向かって墜落してくる。トムとウィリアムは、操縦席で身動きが出来ないドイツ兵を救助するが、なんとトムがドイツ兵にナイフで刺されてしまう。ウィリアムは慌ててドイツ兵を銃殺するが、致命傷を負ったトムは兄への言付けを残し息絶える。かくしてウィリアムはたった一人で任務を遂行することになる。

 現代であれば通信技術が発達し、特に軍事通信はすべて衛星通信だろうからこういう事態にはならないだろう。しかし、当時はまだまだ人間の伝令が生きていた時代。しかもこの話は、サム・メンデス監督が祖父から聞いた話を元に作られたのだという。そうした時代感がたっぷりと漂う物語。はじめは尻込みしていたウィリアムも、トムの意思を受け止め改めて決死の任務に向かう。

 ドイツ軍も完全に撤退したわけではなく、所々に故意か逃げ遅れたのか残存兵がいたりする。途中英国部隊と遭遇しトラックに同乗するが、攻撃期限が迫る中、再び1人になるウィリアム。物語は攻撃期限の朝に至るまでのウィリアムを追う。戦争というものは、人類が行うもっとも愚かしい行為。のどかな田園風景との対比が何とも言えない。昼は昼で、夜は夜で、そして朝は朝で、画面に展開される背景が妙に瞼に焼き付く。

 
 戦場における戦争映画ではあるが、戦闘シーンは少なく、それがメインではない。はじめは乗り気ではなかった1人の兵士が、やがて全力をかけて任務を全うする。のどかな田園風景の中で繰り広げられる愚かしい戦争と、任務に邁進する1人の兵士のドラマ。主役はあまり知らない役者さんだが、マーク・ストロング、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチといった大物が端役で登場する。何とも味わいの深い人間ドラマである・・・


評価:★★★☆☆








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