
原題: Sameblod
2016年 スウェーデン・デンマーク・ノルウェー
監督: アマンダ・ケンネル
出演:
レーネ=セシリア・スパルロク:エレ・マリャ
ミーア=エリーカ・スパルロク:ニェンナ
マイ=ドリス・リンピ:クリスティーナ(エレ・マリャ)
ユリウス・フレイシャンデル:ニクラス
オッレ・サッリ:オッレ
ハンナ・アルストロム:教師
<映画.com>
********************************************************************************************************
北欧の少数民族サーミ人の少女が、差別や困難に立ち向かいながら生きる姿を描いたドラマ。1930年代、スウェーデン北部の山間部に居住する少数民族サーミ族は、支配勢力のスウェーデン人によって劣等民族として差別を受けていた。サーミ語を禁じられた寄宿学校に通うエレ・マリャは、成績も良く進学を望んだが、教師からは「あなたたちの脳は文明に適応できない」と告げられてしまう。ある時、スウェーデン人のふりをして忍び込んだ夏祭りで、エレは都会的な少年ニクラスと出会い恋に落ちる。スウェーデン人から奇異の目で見られ、トナカイを飼育しテントで暮らす生活から抜け出したいと思っていたエレは、ニクラスを頼って街に出る。監督のアマンダ・シェーネルはサーミ人の血を引いており、自身のルーツをテーマにした短編映画を手がけた後、同じテーマを扱った本作で長編映画デビューを果たした。主演はノルウェーでトナカイを飼い暮らしているサーミ人のレーネ=セシリア・スパルロク。2016年・第29回東京国際映画祭で審査員特別賞および最優秀女優賞を受賞した。
********************************************************************************************************
映画は、時として知らなかった世界を教えてくれる役割を果たすことがある。北欧に暮らす少数民族のことなど日本に住む我々が知る由もない。そこにもやはり差別はあって、人間というのはどこにあっても差別をするものなのだと思い知る。これはそんな世界の片隅の物語。
スウェーデンに暮す老婦人クリスティーナは、妹ニェンナの葬儀のため生まれ故郷のラップランドに向かう。と言ってもどうも本人は気乗りしないようで、息子になんども促されてしぶしぶ車に乗る有様。道中も不機嫌で、葬儀会場の教会に入っても妹の亡骸を見ようともしない。列席しているのは、何やら民族衣装を身にまとった人々。それが北欧のラップランド地方に暮らすサーミ人らしい。しかし、クリスティーナは、途中で式を抜け出してホテルに行ってしまう。
ホテルの宿泊客はみな白人。その口ぶりからはサーミ人をあまり快く思っていない様子。そんな宿泊客に話しかけられ、話を合わせていたクリスティーナだったが、トナカイの放牧にでかける身内の人々を窓から眺めながら、彼女は自分がサーミ人のエレ・マリャだった頃を思い返す。
サーミ人は、ラップランド地方で遊牧生活を送る。父を亡くしたエレは、テントで祖父母、母、妹の家族5人で暮していたが、妹ニェンナとともに故郷を離れ寄宿学校に行くことになる。学校ではサーミ語が禁じられていたが、聡明なエレはスウェーデン語も話せて成績もよく、教師のクリスティーナにも目をかけられている。
ある日、何やら外部から研究員が学校を訪れる。それはサーミ人を対象とした調査だが、エレたち数人が選ばれて検査を受ける。なんと全裸の写真を撮影されるという現代の感覚からすれば確実に人権問題になる行為を強いられる。また、近所の少年らからは差別的な言葉を投げつけられる。普段は無視するが、検査の屈辱からエレは歯向かうが、逆に押さえつけられトナカイのマーキングと同じように耳に傷をつけられてしまう。
サーミ人であることに嫌気がさしていたエレは、洗濯をして干してあったクリスティーナの服を着て、通りかかった青年らから誘われるまま学校を抜け出してパーティーに紛れ込む。そこでニクラスという青年と出会ったエレは、クリスティーナと名乗り、ダンスをしファースト・キスをし、夢のようなひと時を過ごす。しかし、職員に見つかったエレは連れ戻されて体罰を受ける。
サーミの社会から外に出て、進学したいという思いが強くなったエレはクリスティーナに推薦状を頼むが、にべもなく断られてしまう。その理由が「あなたたちの脳は文明に適応できない」とこれまた現代の感覚では大問題発言が返ってくる。思い余ったエレは、学校を飛び出し、列車に乗り込み、乗客から服を盗み街に向かう。そして唯一の知り合いであるニクラスの家を訪ね、半ば強引に泊まる。その夜エレは初体験を済ます・・・
冒頭の気難しい老女こそがサーミ人のエレであり、サーミの社会を拒絶してスウェーデン人として生きてきたのだとストーリーを追うごとにわかってくる。そしてなぜ実の妹に対しても冷たい態度をとっていたのかも。映画は家族と決別してスウェーデン社会に飛び出すまでのエレを追う。女の子でありながら大胆な行動を取るものである。よほどサーミ人であることが嫌だったのだろう。それは妹のニェンナとは対照的である。
映画の背景は1930年代のラップランド。トナカイを放牧し、テントで暮らすサーミ人。白人から軽蔑、差別され、寄宿学校ではサーミ語で話すことを禁じられている。さすがに現代ではそういう差別行為はないのであろうが映画の主人公エレの気持ちもわからなくない。果たして、本国スウェーデンではどんな感想をもってこの映画が観られたのか興味深いところである。
正直言ってあまり面白くない映画ではあるが、日本とは遠く離れた国の少数民族の差別の歴史を知る機会になったという意味では、意味のある映画である・・・
評価:★★☆☆☆