2021年02月28日

【ヘッドハンター】My Cinema File 2369

ヘッドハンター.jpg

原題: Hodejegerne
2012年 ノルウェー・ドイツ
監督: モルテン・ティルドゥム
出演: 
アクセル・ヘニー:
ニコライ・コスター=ワルドー:
ユリエ・R・オルゴー:
シヌーヴ・マコディ・ルンド:ダイアナ・ブラウン
ユーリー・ウルゴード:ロッテ
アイヴィン・サンデル:オーヴェ

<映画.com>
********************************************************************************************************
予測不能な展開やユーモラスなバイオレンス描写が話題を呼び、本国公開前にハリウッドでリメイク権も獲得されたノルウェー発のサスペンススリラー。有能なヘッドハンターとして成功を収め、最高の美女や豪邸など、すべてを手にしたロジャー・ブラウン。しかし、ロジャーには芸術品を盗んで売りさばく美術品怪盗という裏の顔があった。ある日、高価な絵画を所有する元エリート軍人のクラス・グレブに出会ったロジャーは、これが最後の裏稼業と心に決めてクラスの邸宅に忍び込むが、そこで思いもよらぬ危機に陥ってしまう。
********************************************************************************************************

主人公ロジャー・ブラウンは、身長168センチと白人にしては小さいが、その分お金でカバーしている。家はデザイン性豊かな高級住宅。高級車を乗り回し、そのせいか金髪美人の妻ダイアナがいる。ダイアナは画廊を経営しており、男を惹きつける魅力にあふれている。何もかも手に入れているダイアナだが、一番欲しいのは子供。しかし、子供ができたらダイアナの愛情が子供に移ったしまうことをロジャーは恐れている。

そのロジャーは、職業はヘッドハンターであるが、その稼ぎがすべてではない。家は相続したと周囲には公言しているが、実は裏家業として美術品の泥棒をやっている。ヘッドハンティングする顧客から財産の情報を仕入れ、セキュリティ会社で働くオーヴェの協力を得て盗み出す。そしてそれを換金するのだが、最近はロジャーの手取りが少なくなっているのが頭痛の種である。

ロジャーには、美人の妻を持ちながらもロッテという愛人もいる。金にゆとりがあれば男はそういうものだろう。ただし、深入りは好まない。ロッテからカップルとして夕食会に出席したいと言われたロジャーは、その場でロッテに別れを告げる。非情な男でもあるようである。

そんなロジャーだが、ダイアナの画廊の披露パーティでクラス・グリーヴという男を紹介される。クラスはGPSを開発した会社の役員だったが、退社して相続した祖母の家があるこの地へ越してきたという。そしてダイアナから、クラスがルーベンスの“カリュドンの猪狩り”という絵を持っているということを聞く。1941年にドイツに略奪され行方不明となっていたいわくつきの作品だが、クラスの祖母が戦時中交際していたドイツ軍将校からもらったものだという。

数千万から数億の価値があると聞き、資金繰りが苦しくなってきていたロジャーの食指が動く。ロジャーはさっそくクラスをランチに誘い、ヘッドハンティングの振りをして情報を聞き出す。クラスは18歳で軍に入り、その後エリート部隊に異動して追跡の任務に就き、超小型発信機のアイデアを提供して商品化したという。これが物語の伏線となっていく。クラスが家を空けることを聞きだしたロジャーは、オーヴェと連携してクラスの自宅に侵入し、ルーベンスの絵を首尾よく偽物の絵と入れ替える。

ふと窓の外を見ると、子供たちが無邪気に遊ぶ声。子供を欲しがっていたダイアナを思い出すと、その場でダイアナに電話をする。普通、盗みに入ったらさっさとずらかるだろう。留守だという安心感だろうか。すると家の中から携帯の呼び出し音が聞こえてくる。ロジャーが音の源をたどると、なんと寝室の乱れたベッドの下にダイアナの携帯が転がっているのを発見する。これは面白い展開である。

翌朝、いつものように車に乗りこもうとしたロジャーは、ガレージの車の中でオーヴェが倒れているのを発見する。さらに座席には特殊な針が置かれている。それは明らかにロジャーを狙ったものであ。オーヴェが死んでいると早とちりしたロジャーは、湖にオーヴェを運び投げ込んだが、直後に息を吹き返したためオーヴェの家に運び込む。苦しむオーヴェは病院へ運んでくれというが、事を表ざたにしたくないロジャーはそれを拒む。するとガンマニアのオーヴェが銃を乱射したため、ロジャーは手にした銃でオーヴェを射殺してしまう。

そこになぜかクラスがやってくる。どうやらGPSでロジャーを追跡して来たようである。自分を殺そうとしたのがクラスだとわかったロジャーは逃げ出す。必死に逃げ出したロジャーだが、クラスは超小型GPS開発のプロであり、ロジャーを追いかけてくる。ここからクラスとロジャーの追跡合戦が始まる。そしてここからが予想外の面白さ。なんとすでにハリウッドでリメイク権が所得されたらしいが、それも納得である。

背の低いロジャーは、悪知恵こそ回るものの、格闘技術はない。かたやクラスは、元軍人で追跡のプロ。時に便所の汚物の中に頭まで浸かって隠れ、あの手この手で逃げ回る。無情にも振った愛人ロッテの部屋にまで転がり込むが、実はロッテもグルで、それがバレると、鬼の形相で襲い来る。クラスの正体もわかるが、だからと言って安全になったわけではない。

「ヘッドハンター」というタイトルからは想像もできない展開。ノルウェー映画ではあるが、ハリウッドリメイクも納得の面白さは得した気分。伏線をすべて回収してのラストもなかなかである。それにしてもこのロジャーという男、この後どうしたのだろう。心を入れ替えて犯罪からは足を洗ったのだろうか。
それがちょっと気になった映画である・・・


評価:★★★☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | その他の国の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月27日

【ブレイン・ゲーム】My Cinema File 2368

ブレイン・ゲーム.jpg

原題: Solace
2015年 アメリカ
監督: アルフォンソ・ポヤート
出演: 
アンソニー・ホプキンス:ジョン・クランシー博士
コリン・ファレル:チャールズ・アンブローズ
ジェフリー・ディーン・モーガン:ジョー・メリウェザー
アビー・コーニッシュ:キャサリン・コウルズ

<映画.com>
********************************************************************************************************
「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター博士役で知られる名優アンソニー・ホプキンスと「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」「ロブスター」のコリン・ファレルが共演し、頭脳戦を展開するサイコスリラー。連続殺人事件の捜査に行き詰まったFBI捜査官とその相棒は、引退した元同僚のアナリストで医師のジョン・クランシー博士に助けを求める。卓越した予知能力の持ち主である博士は、容疑者の能力が自身以上であることに気づくが……。クランシー博士役をホプキンス、容疑者役をファレルがそれぞれ演じるほか、テレビドラマ「ウォーキング・デッド」シリーズのジェフリー・ディーン・モーガン、「ブライト・スター いちばん美しい恋の詩」のアビー・コーニッシュらが脇を固める。監督は本作がハリウッドデビュー作となるブラジル人監督のアルフォンソ・ポヤート。
********************************************************************************************************

FBIの捜査官キャサリン・コウルズとジョー・メリウェザーは連続して起こる凶悪な殺人事件に直面する。手口は同じで全く証拠も掴めず容疑者が浮かばない。そんな状況にジョーは、友人であり元同僚のジョン・クランシー博士を訪ねて行く。キャサリンは、いくら知人とは言え、部外者の捜査参加に難色を示す。しかし、ジョーにはジョーなりの思惑がある。

ジョン・クランシー博士は街を離れた森の奥で1人暮らしをしている。いかにも変人といった様子のジョン。それはキャサリンの握手を拒んだところにも表れているが、その理由はすぐにわかる。捜査資料を手渡されたジョンはキャサリンに触れ、その瞬間、脳裏に血だらけのキャサリンの姿が浮かび上がる。どうやら、その手の能力があるらしい。

ジョーとキャサリンの求めに応じ、ジョンは捜査に協力することになる。ジョンが森の中で隠遁生活を送るようになったのには理由がある。娘が病死し、妻との仲が悪くなったのであるが、これが物語の伏線になっていく。そしてまた同じ手口の殺人事件が起こる。現場に着くと、そこには4時16分と書かれたメモ書きが貼られている。それはまさにその時の時刻。ジョー達3人の訪問時間を予告したかのように玄関に貼られている。

被害者は、花びらが浮かぶ浴槽に浸かったまま殺されている女性。ジョンが被害者の体に触れると、被害者が殺された時の様子がジョンの脳裏に浮かぶ。ここに至り、ジョンの特殊能力が明らかになる。ジョンは、その手に触れた人の行動を脳裏に思い浮かべることができるのである。被害者の夫の携帯を触ったジョンは、外からはわからない夫婦の姿を見る。夫はゲイでHIVに感染しており、妻にも感染させてしまっていたのである。

触れるだけでわかってしまうという能力は、あれば便利だろう。そんな能力を使い、ジョンは被害者の共通点を突き止めていく。それはみな重病を抱えていたということ。さらに被害者の1人である少年についても重病があったのか確認のため司法解剖をする。その時、差出人不明のFAXが届き、そこには少年の小脳を調べるように記されている。小脳からは小さな腫瘍が見つかる。それは同時に、犯人がジョンと同じような能力者であることを意味するものである。

やがて明らかになる犯人の動機。それは、重病で苦しみながら死ぬ前に楽にしてやろうというもの。一見、そんな身勝手な理由と思うが、捜査員の1人が殉職するケースでは考えさせられてしまう。実はその捜査員はステージ4の癌で余命宣告を受けている。ところが殉職したことで遺族年金がおり、ジョンが幼い子供にハグをするとスタンフォード大学に入る未来が見える。病死していたら遺族年金も入らず、経済的にも無理な未来であった。この場合、身勝手と言えるのだろうか。

犯人は、重病患者に限って自ら死に導いている。それは一種の安楽死。安楽死も我が国では認められていないが、合法とされている国もある。個人的には賛成であるから、もしも犯人のような能力があった場合、どうするだろう。そしてジョン自身も、実は娘の病死には忘れることのできない記憶がある。ジョン自身も犯人を責めることは難しい。自ら手を下すことについては議論があるところだろうが、捜査員のケースでは判断が難しい。

アンソニー・ホプキンスは、独特の雰囲気で登場する。「羊たちの沈黙」でも不気味な雰囲気を漂わせていた。この映画でも同様であるが、ここでは一応正義の立場であるから、不気味さはない。それでもいつ見ても同じような年齢で年を取らないように感じてしまうのは気のせいだろうか。犯人役でコリン・ファレルが(中盤から)出てきたのはちょっとした驚きであった。

あまり期待せずに観た映画であるが、名優2人の共演であり、得した気分になれた一作である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | スリラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月26日

【タイラー・レイク 命の奪還】My Cinema File 2367

タイラー・レイク 命の奪還.jpg


原題: Extraction
2020年 アメリカ
監督: サム・ハーグレイブ
出演: 
クリス・ヘムズワース:タイラー・レイク
ルドラクシュ・ジャイスワル:オヴィ・マハジャン
ランディープ・フーダー:サジュ
ゴルシフテ・ファラハニ:ニック
パンカジ・トリパティ:オヴィ・マハジャン・Sr.
デビッド・ハーバー:ギャスパー
サム・ハーグレイブ:G

<映画.com>
********************************************************************************************************
『マイティ・ソー』 『アベンジャーズ』シリーズのクリス・ヘムズワースが主演を務め、『キャプテン・アメリカ』 『アベンジャーズ』シリーズの監督アンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が製作、『アベンジャーズ エンドゲーム』などでスタントコーディネーターを務めたサム・ハーグレイブが初メガホンをとったNetflixオリジナル映画。誘拐された少年を奪還するべく敵だらけの街に潜入する傭兵の死闘を描いたサバイバルアクション。裏社会の危険な任務を生業とする凄腕の傭兵タイラー・レイクは、ムンバイで誘拐された犯罪組織のボスの息子を救出するため、ギャングが支配するバングラデシュのダッカ市街地に向かう。敵のアジトに単身突入したタイラーは少年の奪還に成功するが、街中のギャングたちから猛追を受ける。絶体絶命の状況の中、卓越した戦闘スキルを駆使して戦うタイラーだったが……。Netflixで2020年4月24日から配信。
********************************************************************************************************

舞台はインドのムンバイ。オヴィは麻薬王の息子であり、学校の行き帰りは運転手付きの車で送り迎えという贅沢な身分。ボディガードのサジュが常に寄り添っている。そんな生活に息苦しさを感じたのか、ある晩、オヴィはサジュの目を盗んで夜遊びに出掛ける。友人にドラッグを勧められ、試したところで警官に見咎められる。慌てたところ、警官は何とその場でいきなり友人を射殺。驚くオヴィだが、そのまま警官たちに誘拐されてしまう。

誘拐犯はバングラデシュの麻薬王アミール。オヴィはダッカに連れ去られる。父はサジュにオヴィ奪回を命じる。失敗すれば命はないだろうとサジュは家族に別れを告げ、ダッカに向かう。同じ頃、オーストラリアにいたタイラー・レイクの元にニックが現れる。ニックはオヴィ救出の依頼を請けたことを説明し、タイラーはこれを引き受ける。タイラーの所属している組織がどういうものかはわからないが、オヴィ救出チームが結成され、同じようにダッカへ向かう。

タイラーはアミールとの身代金交渉に臨む。頭から頭巾を被せられ、いずこかのアジトへと連れて行かれる。アミールの手下が取り囲む中での身代金交渉。タイラーがオヴィの生存確認を求めたのはセオリーだろう。そしてそのアジトにオヴィが拘束されているのを確認すると、仲間の狙撃手の援護を受けながらタイラーは敵の銃を奪って手下らを倒していく。あざやかな格闘アクション。そしてタイラーはオヴィの拘束を解き、車に乗せて逃げる。ここからは逃走劇である。

発展途上国の恐ろしいところは、犯罪組織が軍や警察などの権力機構と一体となっているところ。貧しい国ゆえに誰も安い給料で命を張るより、高い給料をもらって買収される方を選ぶのだろう。アミールはオヴィを奪還されたこと知ると、軍や警察を動員して道路や橋を封鎖するように命じる。一国を相手の脱出作戦である。一方、組織を率いるアミールの下には仲間入りを志願する少年たちもやってくる。アミールは、自分の金を盗んだ少年たちを捕まえると、その中の頭の切れる少年をリクルートする。

タイラーはあらかじめ決めてあった合流地点に向かう。ニックはそれをGPSで誘導し、サポートする。ところが、タイラーの仲間が待機するボートをサジュが襲う。実はサジュは元特殊部隊出身の凄腕のボディガードであり、仲間たちはあっという間に殺されてしまう。オヴィの救出という目的においては同じはずなのに、なぜという疑問が湧く。実は、オヴィの父親は収監中で、金を警察に押収されていてタイラー達に報酬を払うことができなくなっていたのである。成功しても金は払えない。そこでやむなくサジュに指示してタイラーが助けたオヴィを横取りさせようとしたのである。

オヴィを連れたタイラーは、再び車で逃走を図る。サジュはパトカーを奪うとそれを追う。そしてアミール配下の警察がパトカーを連ねてこれを追う。タイラーは相手かまわず倒して逃げ、サジュは警察を排除しながらタイラーを追う。三つ巴の闘争バトルアクションはなかなかの見ものである。そしてプロ同士のタイラーとサジュのバトルのまた迫力あるもの。双方、手傷を負いながらもなんとか逃げ延びる。されど孤軍奮闘にも限界がある。

映画は、こうしてオヴィを連れたタイラーの脱出劇となるが、合間合間のバトルはこの映画の間違いなく見所であろう。タイラーのバトルアクションは、ガンファイトと殴る蹴るの格闘アクションの組み合わせであり、なんとなく『ジョン・ウィック』を彷彿させられる。ジョン・ウィックのそれはスマートなアクションとすれば、タイラー・レイクのそれはゴツゴツしたものというイメージである。

依頼主に裏切られたとわかったニックは、オヴィを捨てて脱出するようにとタイラーに指示するが、タイラーは病死した息子の面影をオヴィに見てこれを退ける。四面楚歌の中、かつての戦友に助けを求めるが、命を助けた貸しも時間が経てば現実へと変わる。追い込まれたタイラーが選んだ方法は、意外なもの。それはオヴィを助けるという目的に立てば理にかなったものであるが、窮地にあって最適解を探り出す思考は、タイラー・レイクが脳みそまで筋肉男ではないことを物語っている。

迫力ある銃撃戦に格闘アクションは最後まで休むことなく続く。ストーリーもさることながら、このアクションはそれだけで一見の価値がある。Netflixでも大ヒットしたそうであるが、それも頷ける。アクション映画を観たい時には筆頭に挙げられるだろう。様々なアクション映画で活躍するクリス・ヘムズワースも本領発揮の一作である・・・


評価:★★★☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | アクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月22日

【国選弁護人ユン・ジンウォン】My Cinema File 2366

国選弁護人ユン・ジンウォン.jpg

原題: The Unfair
2015年 韓国
監督: キム・ソンジェ
出演: 
ユン・ゲサン:ユン・ジンウォン
ユ・ヘジン:先輩弁護士
キム・オクビン:新聞記者
イ・ギョンヨン:パク・ジェホ

<映画.com>
********************************************************************************************************
韓国で実際に起こった事件をもとに、国家権力に立ち向かう弁護士の奮闘を描いたリーガルサスペンス。2009年に韓国ソウル市ヨンサン区で、再開発に伴う強制撤去現場に立てこもっていた住民5人が死亡した事件に着想を得て製作された。国選弁護人のユン・ジンウォンは、再開発地区の強制撤去現場で起こった暴動で警官を殺したとして逮捕された、パク・ジェホの弁護を担当することになる。しかしパクは、同じ現場で命を落とした息子を守ろうとしただけだと主張。ユンはパクの言葉を疑うものの、捜査記録の矛盾点に気が付く。映画「プンサンケ」やドラマ「最高の愛 恋はドゥグンドゥグン」などで活躍するユン・ゲサンが、主人公のユン・ジウォン弁護士を熱演。
********************************************************************************************************

ソウル市内。大手ゼネコンによる都市開発が予定された土地に取り残された老朽化した建物。そこに強制撤去を拒んだ住民による抵抗が始まってから1年が経つ。それまでセキュリティ会社による地上げが行われていたが、急遽、警察が強制撤去に乗り出す。その際の市民と警察の衝突により、少年1名、警察官1名の計2名の死者が出てしまう。そしてその事件で死亡した少年の父親であるパク・ジェホが警察官を殺害した容疑で逮捕される。

しかし、事件の背景はそう簡単ではない。実は立ち退きを担当していたセキュリティ会社は、実態は地上げ屋であり、開発利権を得た建築会社が地上げを依頼していたもの。ところが、住民たちは思った以上に手強く、1年以上も不法占拠を続けたため、都市開発に参加していた企業が事業からの撤退を決定し、建築会社に投資した資金を返却するように要求する。既に返却する金などない建築会社は裏から手を回して警察に出動を要請したという次第である。

本来ならば警察が介入する事態ではないが、裏には賄賂がある。あまり国民に知られないように速やかに住民を撤退させるつもりが、予想外の衝突が起きてしまい死者が出てしまう。住民側の死者は少年であり具合が悪い。そこで警察としては、少年を殺したのはセキュリティ会社の人間だと偽り、さらに不法占拠者に警官が殺された事件として済ませようとしているのである。当然、癒着は裁判所にも及び、事件は表面上何事もないかのように葬り去られようとしている。

主人公の弁護士ユン・ジンウォンは、そんな中でパク・ジェホの国選弁護人に指名される。その前にも国選弁護人がついたが、癒着構造の中ではやる気のないものであった。しかし、ユン・ジンウォンはそんな背景など知る由もなく、パク・ジェホが正当防衛を主張したことから事件の詳細を調査し始める。すると、癒着の構造が見えてくる。警察、検事、建築会社、地上げ屋、青瓦台(大統領府)のそれぞれの思惑が見え隠れするのである。

ユン・ジンウォンは無名の若手弁護士。本来は大手弁護士事務所から国選弁護人がつくはずだったが、警察・検察・裁判所の癒着構造の中ですでに判決が決まっており、検事は地上げ屋の1人を買収して少年を殺害した犯人に仕立てる。その犯人は、数年で出てこられるように準備しており、ユン・ジンウォンがどうあがいても部が悪い。被告人のパク・ジェホは、事件当時、騒乱の中、なんとか息子の身の安全を図ろうとしていたが、殺気立った警官隊に逆に暴行され、父親を助けに入った少年を警官が殴り殺していた。

そんな事件の全貌を知ったユン・ジンウォンは、弁護士としての使命感に燃えての訴訟に乗り出す。国を相手になんと賠償金100ウォンの訴訟である。しかし、ジンウォンは行く先々で「資料開示拒否」や、検事による嫌がらせに遭い、なかなか証拠を集められない。そんなジンウォンが取った手段は、マスコミを味方につけること。癒着もマスコミまでには及んでいない。そしてマスコミは面白いネタがあれば飛びついてくれる。

韓国では、大統領は辞任するたびに逮捕されたり暗殺されたりするケースが多い。儒教社会は出世した者に一族が集まるから汚職や権力の私物化が起こりやすいと聞いたことがある。この事件も警察、検察、裁判所とすべて繋がっており、とても正義の入り込む余地はない。実際の韓国社会はどうなのかわからないが、映画は社会の鏡であることを考えると、実際も似たようなものなのかもしれない。まぁ、韓国は嘘つき社会と言われているので、まんざら事実と反するということもないのだと思う。

ユン・ジンウォンは、「弁護士として傷がつく」と脅され、資格停止処分の危機に遭うなどの妨害工作を受ける。信念のない弁護士ならすぐに離れるだろう。韓国で、「国を相手取り訴訟を起こす」なんてことは、普通の先進国の感覚でいけば考えられないが、非常に危険なことだということが良くわかる。あくまでも映画の話でもないのだろうと思う。そして検察が証人を買収したことがマスコミで騒がれ、裁判では陪審員に正当防衛を認めさせることに成功するが、にも関わらず、結局、判決では有罪になってしまう。

映画はエンターテイメントにとどまらず、いろいろな社会の側面を見せてくれたりもする。この映画も実際の事件をヒントにしているというし、ある程度は実態を表しているのだろうと思う。なかなか考えさせてくれる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | 韓国映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月21日

【ヒメアノ〜ル】My Cinema File 2365

ヒメアノ〜ル.jpg

2016年 日本
監督: 吉田恵輔
出演: 
森田剛:森田正一
濱田岳:岡田進
佐津川愛美:阿部ユカ
ムロツヨシ:安藤勇次
駒木根隆介:和草浩介
山田真歩:久美子
大竹まこと:清掃会社の社長

<映画.com>
********************************************************************************************************
「行け!稲中卓球部」『ヒミズ』の古谷実による同名コミックを、「V6」の森田剛主演で実写映画化。森田が、次々と殺人を重ねていく主人公の快楽殺人犯・森田正一役を演じ、「純喫茶磯辺」「銀の匙 Silver Spoon」などを手がけた吉田恵輔監督がメガホンをとった。平凡な毎日に焦りを感じながら、ビルの清掃のパートタイマーとして働いている岡田は、同僚の安藤から思いを寄せるカフェの店員ユカとの恋のキューピッド役を頼まれる。ユカが働くカフェで、高校時代に過酷ないじめに遭っていた同級生の森田正一と再会する岡田だったが、ユカから彼女が森田にストーキングをされている事実を知らされる。岡田役を濱田岳、ユカ役を佐津川愛美、安藤役をムロツヨシがそれぞれ演じる。
********************************************************************************************************

主人公の岡田進は、ビルメンテナンスの清掃会社で働くどこか気弱な若者。人生に特に目標があるわけでもなく、当然のように恋人もいない。仕事でも失敗をして怒られている。そんな岡田には、同じ職場に安藤勇次という先輩がいて、安藤もまたどこか変わっている。オタクっぽく、感情表現に乏しく、岡田のミスの指導責任を問われても、謝りながら反省の色が見えないといった感じで、部下に持てば腹立たしく思うタイプである。

そんな2人が連れ立っておしゃれなカフェに行く。どう見ても場違いであるが、その目的はそこで働く阿部ユカ。安藤が惚れ込んでいるのであるが、毎日通う安藤は、同じ店に同じ目的で来ているストーカーがいると岡田に言う。見ればそれは岡田の中学校時代の同級生森田正一であり、偶然の再開に岡田と森田は連絡先を教え合う。

やがて、先輩安藤に頼まれ、岡田はユカに安藤の気持ちを伝える。しかし、返ってきた答えはユカの岡田に対する告白。まさか自分が女性から告白されるなど思ってもみなかった岡田は動揺するが、美人のユカからの告白に断る理由はない。しかし、先輩安藤に対する手前、安藤には内緒でユカと付き合い始める。

岡田のような男にしてみれば、ユカのような可愛い彼女ができるのは夢のような話。演じているのは濱田岳だし、何かオチがあるのかと思っていたがその気配はない。安藤には内緒でデートを重ね、そしてとうとう肉体関係にも発展する。しかし、それを面白くないと思ってみていたのが森田。森田がユカのストーカーだったのは間違いないが、今の森田は岡田が知っている中学時代の森田とは違う。なんとこの時点で森田はユカを殺すことに決める。

そう決意した森田が電話をかけたのは、森田と一緒に高校時代にイジメを受けていた和草浩介。和草は、ホテルの跡取り息子だが、しばしば森田にお金を渡している。それは婚約者で経理担当の久美子の協力を得てのものであるが、久美子はお金を渡し続けるのも限界であり父親に相談すべきと諭す。実は森田と和草は高校時代にイジメられていた相手を殺害し、それをネタに和草を脅していたのである。そして今度はユカを殺す手伝いをしろと命じる。

ここに至り、和草と婚約者の久美子は、このまま森田との関係が続くことを危惧し、森田を殺そうとアパートへ乗りこむ。ところが素人がいきなり殺人などできるわけもなく、躊躇したところをあっさり返り討ちに合い、和草も久美子も森田に殺されてしまう。2人を殺した森田は、死体に灯油を撒き、火を放ってその場を去る。この森田が実は異常性を秘めている。『初恋』と同様、後半はほのぼのとした前半とはまったく異なるバイオレンス展開を見せていく。

2人を殺した森田は、駅でブツブツ言いながら壁を蹴る。通りかかった女性が電話をしながら「危ない人がいる」と呟いて立ち去る。それを耳にした森田は女性の後をつけると、帰宅したところを襲う。これをレイプし、さらに職務質問をした警官を殺害して銃を奪う。そしてユカの住むアパートへ行く。ドアを蹴る森田に対し、隣人の男が注意すると、森田は男を銃で脅し、ユカが引越ししたと教えられると、この男を銃殺する。

なんという異常性。対する森田はどう見ても非力で頼りない。森田は執拗にユカを狙う。世の中、理屈に合わずに頭のおかしな男ほど怖いものはない。後先考えない異常な森田の行動が後半のメインとなる。果たして逃げ切れるのか。前半がほのぼのとしていただけに、後半のこの展開は意外性に富んでいる。タイトルからは内容のイメージがまったくつかなかったが、想定外の面白さであった。

それにしてもいつもはモテない役柄が多い濱田岳が、かわいい彼女ができたのは何となく心に温かいものが流れてくる。なにかオチがあるのではないかと思っていたが、こういう展開だったとは。映画では描かれていないが、こんな異常な事件にもかかわらず、2人が仲良く付き合い続けたという想像をしてみたい映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | バイオレンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする