
原題: LBJ
2016年 アメリカ
監督: ロブ・ライナー
出演:
ウッディ・ハレルソン:リンドン・B・ジョンソン
マイケル・スタール=デビッド:ロバート・F・ケネディ
リチャード・ジェンキンス:リチャード・ラッセル
ビル・プルマン:ラルフ・ヤーボロー
ジェフリー・ドノバン:ジョン・F・ケネディ
ジェニファー・ジェイソン・リー:レディ・バード・ジョンソン
<映画.com>
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「スリー・ビルボード」のウッディ・ハレルソンが、第36代米大統領リンドン・ジョンソンを演じた政治ドラマ。「スタンド・バイ・ミー」「ア・フュー・グッドメン」のロブ・ライナー監督がメガホンをとった。リンドン・B・ジョンソンは民主党の院内総務として精力的に活動していたが、1960年の大統領予備選挙で、党の大統領候補としてジョン・F・ケネディが選出され、ケネディは米大統領に当選を果たす。43歳の若きライバル、ケネディの副大統領となることに同意し、その職に就いたジョンソンだったが、副大統領の執務が国政の蚊帳の外に置かれていることに気付いてしまう。しかし1963年11月22日、ダラスで暗殺されたケネディ大統領に代わり、ジョンソンは大統領に昇格。ケネディの遺志を尊重し、公民権法を支持するジョンソンは長い間敵対していたロバート・F・ケネディ司法長官や、師弟関係にあったリチャード・ラッセル上院議員と争うことになる。
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1963年11月22日、テキサス州ダラスで暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領のことは映画で多々採り上げられている。しかしながらこれは当時副大統領であったリンドン・B・ジョンソンの物語である。
ドラマはまさにダラス空港に降り立ったケネディ大統領一行を描くところから始まる。大観衆の関心はケネディ大統領に向かい、地元テキサスにも関わらずジョンソン副大統領に対する関心は薄い。パレードには多くの黒人が参列し歓迎する。ジョンソン副大統領はその陰で存在感もない。この時、まだ事件は起こっておらず、その心中はいかばかりであろうかと思われる。
時は変わって1959年。リンドン・B・ジョンソンは、アメリカ上院の大物議員として力を振るっている。時に大統領選挙が近づき、ジョン・F・ケネディは民主党の大統領候補として予備選で勝ち進む。それに対し、ジョンソンは立候補の意思表示をせず、周りをやきもきとさせる。ケネディに対しても、プロテスタントが主流のアメリカでは大統領にはなれないだろうと考えている。ようやく立候補の意思を固めるも、時既に遅く1960年の民主党の党大会でジョン・F・ケネディが正式に大統領候補になる。
翌朝、ジョン・F・ケネディ候補は直々にジョンソンに電話をし、副大統領候補就任を要請する。ロバート・F・ケネディは反対するが、ジョン・F・ケネディはジョンソンの上院での力を期待しての指名だと説き伏せる。要請を受けたジョンソンは、指名を受けることにする。上院議員として力を振るっていても、副大統領となると「お飾り」的になることから反対の声も上がる。このあたりは興味深い。そして歴史はジョン・F・ケネディを大統領に選び、ジョンソンは副大統領に就任する。
当時アメリカで大きな問題となっていたのが人種差別。リンカーン大統領の奴隷解放宣言以降も特に南部で黒人差別は公然と行われており、ケネディ大統領は公民権法の成立を目指していたが、南部出身議員たちも根強い抵抗をしている。ジョンソンは、公民権法の成立を急ぐケネディ大統領を諫めつつ、リチャード・ラッセル議員等の南部出身議員を宥め、バランスをとっている。
そしてダラスで銃声が響き渡る。ジョンソンはボディーガードによって車の中に伏せさせられる。そして一行はケネディ大統領が運び込まれた同じ病院に避難し、安全な一室に立てこもる。このあたりはシステムとしての要人保護である。ケネディ大統領が重体だと聞き、さすがにジョンソンの表情も血の気が失せたよう。そしてケネディ大統領の死の知らせがもたらされる・・・・
明るいイメージの若きイケメン大統領だったケネディとは対照的に太って陰気なジョンソン。大統領暗殺によって必然的に大統領に就任することになる。飛行機内でジャクリーン大統領夫人を横にした就任式の様子は写真で見たことがあるが、それに至る状況も映画では描かれる。すぐに就任式をやりたいとジョンソンはロバート・F・ケネディ司法長官にコンタクトをとるが、ロバートは大統領としてワシントンに帰らせたいと待ったをかける。それを説得するジョンソン。こうした裏側から見るケネディ大統領暗殺事件は興味深い。
予想もしなかった形で大統領に就任したジョンソンの目の前に公民権法問題が立ち塞がる。ケネディ大統領の功績は多少なりとも知っているが、さすがにジョンソン大統領の功績までは知らない。亡きケネディ大統領の意思を継ぐのか、懇意にしていた南部議員らの顔を立てるのか、どういう決断を下すのだろうとドラマに引き込まれる。ワシントンに帰ったジョンソン大統領をラッセル議員らが総出で出迎えるシーンは、なんとも言えない空気が漂う。
主役のジョンソンを演じるのはなんとウッディ・ハレルソン。役作りであろうが、太って苦渋に満ちた表情のジョンソン大統領は、ふだんのウッディ・ハレルソンとはまったくイメージが異なる。どこまで実態に迫っているのかはわからないが、寝室で妻に泣き言を言うあたりは、人間味溢れている。アメリカ国内での評価はわからないが、その後の選挙で晴れて大統領に再選されているし、実力のある政治家だったことは確かであろう。
知られざるジョンソン大統領のドラマとウッディ・ハレルソンの演技が大きな見所の映画である・・・
評価:★★☆☆☆