2021年03月29日

【LBJ ケネディの意志を継いだ男】My Cinema File 2382

LBJ ケネディの意志を継いだ男.jpeg

原題: LBJ
2016年 アメリカ
監督: ロブ・ライナー
出演: 
ウッディ・ハレルソン:リンドン・B・ジョンソン
マイケル・スタール=デビッド:ロバート・F・ケネディ
リチャード・ジェンキンス:リチャード・ラッセル
ビル・プルマン:ラルフ・ヤーボロー
ジェフリー・ドノバン:ジョン・F・ケネディ
ジェニファー・ジェイソン・リー:レディ・バード・ジョンソン

<映画.com>
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「スリー・ビルボード」のウッディ・ハレルソンが、第36代米大統領リンドン・ジョンソンを演じた政治ドラマ。「スタンド・バイ・ミー」「ア・フュー・グッドメン」のロブ・ライナー監督がメガホンをとった。リンドン・B・ジョンソンは民主党の院内総務として精力的に活動していたが、1960年の大統領予備選挙で、党の大統領候補としてジョン・F・ケネディが選出され、ケネディは米大統領に当選を果たす。43歳の若きライバル、ケネディの副大統領となることに同意し、その職に就いたジョンソンだったが、副大統領の執務が国政の蚊帳の外に置かれていることに気付いてしまう。しかし1963年11月22日、ダラスで暗殺されたケネディ大統領に代わり、ジョンソンは大統領に昇格。ケネディの遺志を尊重し、公民権法を支持するジョンソンは長い間敵対していたロバート・F・ケネディ司法長官や、師弟関係にあったリチャード・ラッセル上院議員と争うことになる。
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1963年11月22日、テキサス州ダラスで暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領のことは映画で多々採り上げられている。しかしながらこれは当時副大統領であったリンドン・B・ジョンソンの物語である。

ドラマはまさにダラス空港に降り立ったケネディ大統領一行を描くところから始まる。大観衆の関心はケネディ大統領に向かい、地元テキサスにも関わらずジョンソン副大統領に対する関心は薄い。パレードには多くの黒人が参列し歓迎する。ジョンソン副大統領はその陰で存在感もない。この時、まだ事件は起こっておらず、その心中はいかばかりであろうかと思われる。

時は変わって1959年。リンドン・B・ジョンソンは、アメリカ上院の大物議員として力を振るっている。時に大統領選挙が近づき、ジョン・F・ケネディは民主党の大統領候補として予備選で勝ち進む。それに対し、ジョンソンは立候補の意思表示をせず、周りをやきもきとさせる。ケネディに対しても、プロテスタントが主流のアメリカでは大統領にはなれないだろうと考えている。ようやく立候補の意思を固めるも、時既に遅く1960年の民主党の党大会でジョン・F・ケネディが正式に大統領候補になる。

翌朝、ジョン・F・ケネディ候補は直々にジョンソンに電話をし、副大統領候補就任を要請する。ロバート・F・ケネディは反対するが、ジョン・F・ケネディはジョンソンの上院での力を期待しての指名だと説き伏せる。要請を受けたジョンソンは、指名を受けることにする。上院議員として力を振るっていても、副大統領となると「お飾り」的になることから反対の声も上がる。このあたりは興味深い。そして歴史はジョン・F・ケネディを大統領に選び、ジョンソンは副大統領に就任する。

当時アメリカで大きな問題となっていたのが人種差別。リンカーン大統領の奴隷解放宣言以降も特に南部で黒人差別は公然と行われており、ケネディ大統領は公民権法の成立を目指していたが、南部出身議員たちも根強い抵抗をしている。ジョンソンは、公民権法の成立を急ぐケネディ大統領を諫めつつ、リチャード・ラッセル議員等の南部出身議員を宥め、バランスをとっている。

そしてダラスで銃声が響き渡る。ジョンソンはボディーガードによって車の中に伏せさせられる。そして一行はケネディ大統領が運び込まれた同じ病院に避難し、安全な一室に立てこもる。このあたりはシステムとしての要人保護である。ケネディ大統領が重体だと聞き、さすがにジョンソンの表情も血の気が失せたよう。そしてケネディ大統領の死の知らせがもたらされる・・・・

明るいイメージの若きイケメン大統領だったケネディとは対照的に太って陰気なジョンソン。大統領暗殺によって必然的に大統領に就任することになる。飛行機内でジャクリーン大統領夫人を横にした就任式の様子は写真で見たことがあるが、それに至る状況も映画では描かれる。すぐに就任式をやりたいとジョンソンはロバート・F・ケネディ司法長官にコンタクトをとるが、ロバートは大統領としてワシントンに帰らせたいと待ったをかける。それを説得するジョンソン。こうした裏側から見るケネディ大統領暗殺事件は興味深い。

予想もしなかった形で大統領に就任したジョンソンの目の前に公民権法問題が立ち塞がる。ケネディ大統領の功績は多少なりとも知っているが、さすがにジョンソン大統領の功績までは知らない。亡きケネディ大統領の意思を継ぐのか、懇意にしていた南部議員らの顔を立てるのか、どういう決断を下すのだろうとドラマに引き込まれる。ワシントンに帰ったジョンソン大統領をラッセル議員らが総出で出迎えるシーンは、なんとも言えない空気が漂う。

主役のジョンソンを演じるのはなんとウッディ・ハレルソン。役作りであろうが、太って苦渋に満ちた表情のジョンソン大統領は、ふだんのウッディ・ハレルソンとはまったくイメージが異なる。どこまで実態に迫っているのかはわからないが、寝室で妻に泣き言を言うあたりは、人間味溢れている。アメリカ国内での評価はわからないが、その後の選挙で晴れて大統領に再選されているし、実力のある政治家だったことは確かであろう。

知られざるジョンソン大統領のドラマとウッディ・ハレルソンの演技が大きな見所の映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2021年03月27日

【飛べない鳥と優しいキツネ】My Cinema File 2381

飛べない鳥と優しいキツネ.jpeg

原題: Student A
2018年 韓国
監督: イ・ギョンソプ
出演: 
キム・ファンヒ:ミレ
スホ:ジェヒ
チョン・ダビン:イ・ベカップ
イ・ジョンヒョク:

<映画.com>
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孤独な女子中学生の恋と友情を描き、人気を博した韓国のウェブ漫画「女子中学生A」を実写映画化。文章を書くことが特技の女子中学生ミレは友だちもなく、寂しい中学生活を送っていた。ゲームが趣味の彼女は「ワンダーリング・ワールド」というゲームを知り、学校にも行かなくていい、暴力をふるう父親もいない、夢のようなゲームの魅了されていく。一方、現実の世界で友だちを作ろうと頑張ってみたものの、あるアクシデントにより心に深い傷を負ってしまったミレ。そんな中、「ワンダーリング・ワールド」配信中止の知らせが届く。茫然自失状態のミレは、ネットで出会った友だちのジェヒに会いに行くが……。『哭声 コクソン』の演技で新人賞を受賞したキム・ファンヒが主人公ミレ役を、K-POPグループ「EXO」のリーダー、スホが友人ジェヒ役を演じる。
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韓国映画は、アクションと社会のドロドロした暗い暗部を描く映画が強烈な個性を放っているが、もちろんそれだけではない。この映画は女子中学生を主人公としたドラマである。

主人公のチャン・ミレは、小説を書くことが好きな女子中学生。しかし、内気な性格からか学校では友達もなく、いつもひとりぼっち。それどころかともすればいじめの対象にされてしまう。家に帰っても酒乱の父に怯える日々を送っている。そんなミレの唯一の安らぎがオンラインゲームの世界。そこでは、ミレは弓使いのダークになり、ゲームの世界で一時の安らぎを得ているのである。

ある日、クラス委員で、いつもクラスの女子の中心グループにいるイ・ベカップという生徒がミレに話かけてくる。彼女も小説を書いていて、コンクールで一等賞をとったのだが、同時に奨励賞をとったミレに関心をもったのである。ベカップはミレの書いている小説を熱心に読み、素直な感想を言う。以来、何かとクラスで孤立していたミレをベカップは気にかけ、ミレも次第にベカップに心を許していく。

一方、ミレには気になる男子生徒がいる。同じ図書委員のテヤンであるが、テヤンは他の生徒のようにミレを避けたり無視したりせず、自然に接してくる。ミレのように孤立した存在にとって、こういう友だちはありがたいだろう。しかし、チャン・ノランのようにそれを快く思わない生徒もいる。ある日の集まりでは、ノランは不注意でミレに火傷をさせてしまう。

物語は小さなドラマを織り交ぜて進んでいく。テヤンは授業で観た映画『ドラムライン』の影響でドラムを習い始め、皆が憧れている「バンド」部から入部を誘われ、一躍人気者になる。ベカップは、厳格な父からソウル大学進学を厳命されており、小説を書くことを禁じられる。一方、ミレが唯一の安らぎを得ていたオンラインゲームが、突然配信終了となる。

そして事件は起きる。ミレの小説を読んでいたベカップは、ミレがコンクールには応募しないと聞いて、それを自分の名前で応募する。ところが心変わりしたミレが作品を応募したことから、盗作問題が生じてしまう。本当のことを言い出せないミレに対し、周りから信頼のあるベカップが黙っていたことから、ミレが盗作したことにされてしまう。そしてまたクラスの女子からイジメを受けるようになってしまう。

ミレは登校できなくなり、オンラインゲームのキャラクターであるヒナに会うことにする。てっきり女性だと思っていた相手は年上の男。なぜか公園で着ぐるみを着てフリーハグを行っている。家では父親に虐待され、学校ではいじめにあい、生きがいだったゲームも終了し、ミレには生きる目的がなくなってしまう。そんなミレに対し、ヒナも絶望を抱えていて、生きる目的を失っている。そして2人は死ぬ前にやりたいことをやろうと話をする。

物語はそれぞれの人物を追う。一つ一つはささいなエピソードで、物語は静かに進む。ミレは、置かれた環境にもよるのだろうが、内気な性格で思ったことを言うことができない。盗作疑惑をかけられても、自分ではないと主張できない。もっともそれをすれば、自分と仲良くしてくれたベカップを責めることになるという思いがあったのかもしれない。そして、いざ担任に潔白を訴えても、ことを荒立てたくない担任には、今更騒ぎ立てるなと言われてしまう。

登場人物たちがそれぞれ思うようにいかない環境の中でもがく。ミレだけでなく、家庭的には恵まれているベカップも、ヒナもいじめ側に回るノランも。そしてそれぞれが、再生に向かっていく。曇り空に光明が差していくが如く、明るい方向に向かう物語。それはだれもが経験する試練なのかもしれない。

登場人物たちの静かな再生物語。ラストでは明るい展開が見られてホッとする。こういう映画もまた良し、の韓国映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年03月26日

【ANNA/アナ】My Cinema File 2380

ANNA/アナ.jpeg

原題: Anna
2019年 フランス・アメリカ
監督・制作・脚本: リュック・ベッソン
出演: 
サッシャ・ルス:アナ
ルーク・エバンス:アレクセイ・チェンコフ
キリアン・マーフィ:レナード・ミラー
ヘレン・ミレン:オルガ
アレクサンドル・ペトロフ:ペーチャ

<映画.com>
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『ニキータ』 『レオン』 『LUCY ルーシー』など、戦うヒロインを主人公にした作品を数多く手がけてきたリュック・ベッソン監督がロシア出身のスーパーモデル、サッシャ・ルスを主演に迎えてメガホンを取ったアクション。1990年、ソ連の諜報機関KGBによって造り上げられた最強の殺し屋アナ。ファッションモデルやコールガールなどさまざまな顔を持つ彼女の最大の使命は、国家にとって危険な人物を消し去ることだった。アナは明晰な頭脳と身体能力を駆使し、国家間の争いをも左右する一流の暗殺者へと成長していく。そんな中、アメリカCIAの巧妙なワナにはめられ危機に陥ったアナは、さらに覚醒。KGBとCIAがともに脅威する究極の存在へと変貌していく。アナ役のルスのほか、オスカー女優のヘレン・ミレン、『ワイルド・スピード』シリーズのルーク・エバンス、『ダークナイト』のキリアン・マーフィらが脇を固める。
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時は1990年。ソビエト連邦のモスクワ。野外マーケットの土産物店で働いていた若い女性・アナは、フランスから来たスカウトにモデルとしてパリへ誘われる。寮もあるモデル事務所に所属し仕事を始める。そしてたちまち注目を集める存在となり、あるパーティーの席上で、アナはモデル事務所の共同出資者だというロシア人男性・オレグを紹介される。

同郷のよしみからアナとオレグは親しくなる。以来、アナはオルグとデートを重ねるが、「最後の一線」はなかなか超えさせない。しびれを切らしたオルグは、自室にアナを招いて関係を迫る。アナはオルグに誠意を求め、それまで話してなかったオレグの商売のことを話す。オルグの本業は貿易商だったが、裏では独裁政権などに武器を売る闇商人。それを聞いたアナはトイレに向かうとサイレンサー付きの銃を取り出し、オルグに驚くヒマも与えず射殺する。

アナの実の姿はKGB所属の殺し屋。時は3年前に遡り、チンピラのペーチャという男と付き合っいた時代のアナがKGBにスカウトされる経緯が振り返られる。その日ペーチャはいい儲け話があると言ってアナを誘い出す。それは旅行客と見られるアメリカ人男性を脅してATMから現金を引き出そうというもの。ところが警察と銃撃戦になり、ボロボロになりながらアパートへ帰ったアナを見知らぬ男が待っている。男はその場でペーチャを射殺し、アナに選択を迫る。アナが数日前に海軍に志願していたことからKGBの目に留まったものであり、以来3年間の訓練を受けたのであった。

アナをスカウトしたKGBの男・アレクセイは「5年で自由の身になれる」とアナに告げ、それを信じ訓練に励んだアナは、アレクセイの推薦で元スパイのオルガと面会する。はじめは興味の湧かなかったオルガだが、アナの知性を気に入りアナに「実地」のテストを課すことにする。それはとあるカフェにいる男の携帯を奪って5分後に裏口から出るというシンプルなもの。銃を渡してオルガはアナを送り出す。

店に入ったアナは、有無を言わさず標的の男に向かって引き金を引くが弾は出ない。アナはたちまち男の大勢のボディガードたちに取り囲まれる。どうやら男はマフィアの幹部らしく、アナはたちまち屈強な男たちに襲われる。そこからの大乱闘はこの映画の見どころの一つ。ジョン・ウィックばりの銃と格闘技を混ぜ合わせ、次々とボディガードたちをなぎ倒していく。最後はなんとか標的の携帯を奪う。

しかしその時には予定の5分を過ぎており、オルガたちは無情にも立ち去ってしまった後。アナはオルガの部屋へ携帯を届け、弾が出なかったと抗議するが、オルガは「武器はちゃんと調べないと」と答えるだけ。実はそれもテストだったわけで、失敗して死んでも知らないというのはなかなか過酷な試練である。こうしてKGBの暗殺者となったアナは、次々とミッションをこなしていく。

オレグ殺害もKGBが組織を上げて巧妙に仕組んだ作戦の結果。アナはそのあとCIAの局員・レナードから取り調べを受けるが、ボロを出すようなことはない。しかし、この時、レナードに目をつけられたことからアナの運命が大きく揺れ動いていく。実績を挙げるアナだが、KGBのワシリエフ長官に紹介され、「5年で自由になれる」という約束を強引に反故にされる。

物語は、密かに自由を目指すアナがKGBのミッションをこなしながらその機会を伺う様子を描いていく。いつのまにかアレクセイとも関係を持つようになり、アレクセイには密かにその思いを告げる。CIAのレナードもアナをマークしてこれを追う。まだ東西冷戦の真っただ中、KGBとCIAも激しくつばぜり合いをしている中、アナは巨大組織の衝突の最前線に身を置く。

時代設定が30年前の東西冷戦時代というのも、アナの行動を面白くするための工夫であろう。アナも優れた格闘技術を身につけているとは言え、組織力の前ではなす術もない。互いに騙し合い、ベッドを共にしても油断しない世界。そんな世界でアナは自由を求める気持を失わない。しかし、巨大組織の中でアナは身動きが取れない状況に追い込まれていく。

最後の最後までストーリーを読ませない展開。随所で見せるアナの格闘アクションは、さすがリュック・ベンソン印と思わされる。アクション映画を観てスカッとしたいのであればこの映画は最適であろう。格闘アクション好きにはたまらない一作である・・・


評価:★★★☆☆








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2021年03月21日

【ハングマン】My Cinema File 2379

ハングマン.jpeg

原題: Hangman
2017年 アメリカ
監督: ジョニー・マーティン
出演: 
アル・パチーノ:レイ・アーチャー
カール・アーバン:ウィル・ルイ二―
ブリタニー・スノウ:クリスティ・デイヴィス
ジョー・アンダーソン:ハングマン
サラ・シャヒ:ワトソン警部

<映画.com>
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名優アル・パチーノと『マイティ・ソー バトルロイヤル』のカール・アーバンが、連続殺人鬼を追う刑事役で共演したサイコスリラー。殺人課の敏腕刑事レイ・アーチャーと相棒ウィル・ルイニーは、子どもの遊び「ハングマン」に見立てて犯行を繰り返す連続殺人鬼を追っていた。殺人は24時間ごとに起き、犠牲者の遺体には次の殺人へのヒントとなる文字が刻まれる。そんな中、犯罪ジャーナリストのクリスティ・デイビスが、連続犯罪の取材をするためレイたちに同行することに。さらなる殺人を防ぐべく奔走する3人だったが……。クリスティ役に「ピッチ・パーフェクト」シリーズのブリタニー・スノウ。新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2018/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018」(18年7月14日〜8月24日)上映作品。
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冒頭、刑事のレイ・アーチャーの車が突然青いバンに当て逃げされる。レイは激怒し応援のパトカーを手配し、青いバンを追い追い詰め運転手を逮捕する。青いバンのミラーにはドクロのキーホルダーがぶら下がっている。これが後の伏線。
物語はその1年後から始まる。

警察署に記者のクリスティ・デイヴィスが取材のために訪れる。正式の許可を取っての密着取材であり、刑事のウィル・ルイニーが担当することになる。ウィルは気乗りしないものの、上司の命令もあって無碍にはできず、渋々これを引き受ける。そして折から殺人事件が発生する。

被害者は女性で、小学校の敷地内の木に吊るされる形で放置されていて、現場には首吊りを描写した絵があり、それは『ハングマン』というゲームで使われる絵であった。日本人には馴染みがないが、ハングマンというゲームは首つりを連想させる絵の下に一文字ずつアルファベットを描いていき単語を推理していくゲームらしい。そして被害女性の身体には『O』という文字が刻まれている。

さらに現場には3桁の番号が2つ残されており、そのうち1つは偶然なのかウィルの警官バッジの番号と一致しており、もう1つは引退したレイのものに一致している。思うところのあったウィルはレイの元を訪ね、今回の事件の捜査協力を依頼する。こうしてウィルとレイはクリスティの密着取材付きで捜査を開始する。

2人の刑事と1人の記者のトリオはまず被害者宅を訪れる。検視官から被害者は殺害された後に服を着替えさせられているという検視報告を受けてのもの。そして加害者には同性の恋人ジョーイがいることがわかり、次にジョーイの元を訪ねる。しかし、ジョーイは事件には関係ないことがわかるが、被害者の部屋に残された血痕からある出所した重犯罪者デヴィド・グリーンのものがあることが判明する。

ウィルとレイとクリスティは、手掛かりを辿ってデヴィッドを訪ねるが、そこで新たな男性の遺体を発見する。そして遺体には『N』の文字が刻まれており、ハングマンゲームの絵が残されている。2人の被害者に共通するのは他にも死亡推定時刻が夜の11時であることがあり、犯人は次の犯行を夜11時に行うのではないかと推測する。犯人は3人をあざ笑うかのように手がかりを残す。その手かがりを追っていくと次の犠牲者の遺体を発見する。

こうして犯人を追う3人と犯人との知能ゲームの様相を呈していく。ハングマンというゲームに馴染みがないのでニュアンスはよくわからないが、アンダーバーの数だけ殺人が行われる可能性があり、またそこから得られる単語に何かヒントがあるのかと思わされる。ウィルは1年前に何物かに奥さんを殺されている。現場に残されていた警官バッジの番号から犯人はレイとウィルと何らかの因縁がある。

そんな諸々が絡まってストーリーは進む。都合よく進み過ぎる部分はあるが、そこは気にしないに限る。主演は何と言ってもアル・パチーノであり、これだけでも観る価値はある。相棒のカール・アーバンはあちこちの映画で見かけるバイプレーヤーだし、クリスティを演じるブリタニー・スノウはびっくりするくらいの美人。ストーリー以外にも見所はある。

ラストでは何だかさらなる続きを意味するような展開。なんとなく蛇足感たっぷりであるが、それもまた良しの映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年03月20日

【チューリップ・フィーバー】My Cinema File 2378

チューリップ・フィーバー.jpeg

原題: Tulip Fever
2017年 アメリカ・イギリス
監督: ジャスティン・チャドウィック
出演: 
アリシア・ビカンデル:ソフィア・サンツフォールト
デイン・デハーン:ヤン・ファン・ロース
ジュディ・デンチ:修道院長
クリストフ・ワルツ:コルネリス・サンツフォールト
ジャック・オコンネル:ウィレム・ブロック
ザック・ガリフィアナキス:ヘリット
ホリデイ・グレインジャー:マリア
トム・ホランダー:ソルフ医師

<映画.com>
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球根ひとつの値段が邸宅一軒分の価値になったという、世界最古の経済バブルともいわれる17世紀の 「チューリップバブル」を背景に、豪商の若き妻と無名の青年画家の許されざる愛の行方を、『リリーのすべて』のアリシア・ビカンダーと『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』のデイン・デハーン共演で描いたラブストーリー。フェルメールの絵画の世界に着想を得た、デボラ・モガーの世界的ベストセラー小説「チューリップ熱」を、『ブーリン家の姉妹』のジャスティン・チャドウィック監督と「恋におちたシェイクスピア」のトム・ストッパード脚本で映画化した。17世紀オランダ。修道院育ちのソフィアは親子のように年の離れた豪商コルネリスと結婚し、豊かで安定した暮らしを送っていた。ある日、コルネリスが夫婦の肖像画を無名の画家ヤンに依頼する。若く情熱的なヤンとソフィアはすぐに恋に落ちるが、ヤンが2人の未来のため希少なチューリップの球根に全財産を投資したことから、彼らの運命は思わぬ方向へと転がっていく。コルネリス役にクリストフ・ワルツ、チューリップを栽培する修道院の院長役にジュディ・デンチ。
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物語は、ある女性が娘に語り聞かせるイントロから始まる。語る女性の名はマリア。

時は17世紀のオランダ・アムステルダム。マリアは大富豪の商人コルネリス・サンツフォールト家のメイドとして働いている。金銭的には何不自由ないコルネリスだが、家族には恵まれていない。結婚するものの妻子とは死別しており、財産を残す子供を欲している。そんなコルネリスが選んだのは、孤児として聖ウルスラ修道院で育った美しい少女ソフィア。ソフィアにしてみれば、選択肢は「誰かと結婚するか客をとるか修道院に残るか」しかない。嫁ぐことで妹たちが助かると言われてコルネリスに嫁ぐ。

世は男社会であり、孤児の女性には選択肢のない時代背景というのがあるのだろう。それでも富豪に嫁いだだけでもソフィアは幸運だったのかもしれない。そしてコルネリスは、子作りに意欲的に取り組むが、年齢的なものもあってなかなか子宝には恵まれない。ソフィアにしてみれば自らの存在価値にも関わることであり、人伝に聞いたソルフ医師に相談するが、ソルフ医師は自らズボンを下ろす有様で、ソフィアは慌てて逃げ帰る。

一方、マリアは女中として働きながら出入りの魚の行商人ウィレムと懇ろになっている。金を貯めて結婚する約束をしているが、そんなウィレムが一攫千金を夢見て購入したのはチューリップの球根。なけなしの18ギルダーを投じて白いチューリップの球根を買う。これがわずかの期間に900ギルダーに値上がりして売れてしまう。まさにバブルであり笑いが止まらない。

このチューリップ・バブルは、記録に残された最初の投機バブルと言われているが、夜な夜な酒場で売り買いがなされる様子は、どこまで時代考証を経ているのかはわからないが、興味深い。しかし、悪銭身に付かずであろうか、十分な結婚資金を手にしたウィレムだが、娼婦に金をスリ取られ、おまけに取り巻きに捕まって海軍に入れられてしまい、アフリカに送られてしまう。そんな事情を知らないマリアは、ウィレムが突然姿を消し、呆然とする。

その頃、コルネリスとソフィアは肖像画を描いてもらうことにする。選ばれたのは、若手で真面目な画家と推薦されたヤン・ファン・ローズ。はじめはヤンの横柄な態度に嫌悪感を持っていたソフィアだが、絵を描く真摯な態度と真剣な眼差しのヤンに、いつしか惹かれていき、そして一線を越えてしまう。やはり若さゆえか年寄りよりも若い男の方がきっとパワーもあったのだろう。コルネリスの目を盗んでヤンの下へ通うソフィア。コルネリスにはわからなくてもマリアにはばれてしまう。

そのマリアは、ウィレムが突然失踪した上に妊娠も発覚する。女中を首になる恐怖におびえ、首にされたらソフィアの不倫をばらすと脅す。子供が欲しくてもできないソフィアとマズいタイミングで妊娠してしまったマリア。そこでソフィアは一計を案じる。ヤンに対する思いは募る。「チューリップ・フィーバー」というタイトルとは裏腹に、展開されるのは17世紀のオランダに暮らす女性の人間ドラマである。

バブルは冷めてみればそのバカらしさがわかるが、熱狂の最中にはわからない。それはかつての日本の土地バブルもこの映画のチューリップ・バブルも同じ。この映画では球根が売買されるが、それは現物ではなく栽培しているところの所得証明書というのも興味深い。金にまつわる人々の動向もまた愚かしいものである。

主演は、ここのところ個人的に注目しているアリシア・ビカンデル。美形だし、雰囲気が好きな女優さんである。主演女優もストーリーもともに満足の一作。バブルの弾けた後のむなしさ漂うラストもまた良し。マリアが娘に語る冒頭の話が深みをもって染み渡る映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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