2021年07月31日

【V.I.P. 修羅の獣たち】My Cinema File 2440

V.I.P. 修羅の獣たち.jpeg

原題: V.I.P.
2017年 韓国
監督: パク・フンジョン
出演: 
チャン・ドンゴン:パク・ジェヒョク
キム・ミョンミン:チェ・イド
イ・ジョンソク:キム・グァンイル
パク・ヒスン:リ・デボム
ピーター・ストーメア:ポール・グレイ

<映画.com>
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「新しき世界」のポク・フンジョン監督が、『泣く男』以来3年ぶりの映画出演となったチャン・ドンゴンをはじめ、キム・ミョンニン、パク・ヒスン、イ・ジョンソクら実力派キャストを迎えて描いたクライムドラマ。韓国の国家情報員とCIAの企てにより、北から亡命したエリート高官の息子が連続殺人事件の容疑者にされたことをきっかけに、これを隠蔽しようとする者や捕らえようとする者、復讐しようとする者など、それぞれの目的を持った男たちの運命が交錯するさまを描く。北朝鮮から亡命した高官の息子キム・グァンイルが連続殺人事件の容疑者として浮上し、チェ・イド警視はグァンイルを追う。しかし、その行く手に国家情報員の要員パク・ジェヒョクや、保安省所属の工作員リ・デボムといった人物が介入し、事態は思いもよらない方向へと進んでいく。
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物語は北朝鮮から始まる。学校帰りの少女が歩いている。そこへ車に乗った男子学生らが通りかかる。北朝鮮で車に乗って送り迎えというからには高級官僚の子息だというのがわかる。そしてこういう子息たちは大体わがままで柄が悪いときている。案の定、車が通り過ぎた後には少女の靴が残されている。続きは想像できるが、想像できなかったのは、いたいけな少女が強姦されるだけならまだしも、男たちは少女だけではなく家族全員を皆殺しにしたこと。鬼畜以外の何物でもない。

北朝鮮保安省のデボムがこの事件の捜査を始めるが、上層部から捜査中止を命じられる。デボムは上官に抗議するが、認められるわけもない。下手をすればそれだけで処刑の運命だったかもしれない。ところがデボムは元情報部のエリート工作員だったこともあり、功績に免じて許されるが、郊外の飼育場に「転属」となる。その後、デボムは突如襲われ、部下を皆殺しにされる。さらに自身は拷問され橋から突き落とされるが、かろうじて奇跡的に一命を取り留める。

時は3年後。ソウル南部にて、裸の少女の遺体が発見される。強姦された後に拷問してから殺されたものである。付近では同様の手口が頻発しており、警察は連続殺人事件として犯人を追っている。しかし、特別捜査チームを率いていたソンオ警視が自殺してしまう。事件を引き継ぐ事になったのは、手荒い捜査をして懲戒処分されていたイド警視。手荒い捜査も犯人逮捕に向けた執念なのであろう。部下にも非常に厳しい。

さらにその頃、国家情報院の工作員・ジェヒョクは上司に呼び出される。国家情報院は今回の犯人を把握しており、それは北朝鮮から亡命してきたガンイルとその仲間達である。実は、ガンイルは北朝鮮幹部の子息として父親が関与している秘密資金のありかを知っている。その情報を目当てに、国家情報院とCIAとが協力して、韓国に亡命させていたのである。ジェヒョクはそのガンイルたちの身柄拘束を命じられる。

イド警視とジェヒョクは、それぞれの組織を代表してガンイルの身柄確保を目指す。一歩先んじたのは警察。ジェヒョクが先にガンイルの身柄を拘束するが、そこに現れた逮捕状を手にしたイドがガンイルを逮捕する。いかに国家情報院であろうと、裁判所の逮捕状が優先する。マスコミに情報が流れると手遅れであり、ジェヒョクは部下にガンイルに弁護士をつけて時間を稼ぐよう指示する。さらに行方の分からないガンイルの仲間を探させる。イドは取り調べを始めるが、ガンイルは不敵な笑みを浮かべて黙秘を続ける。

その頃、国家情報院は何者かに拷問されたガンイルの仲間の1人を拘束する。もう1人は拷問の末、殺害されており、殺したのは韓国に潜入した北朝鮮保安省のデボム。デボムもまたガンイルの身柄確保を狙っている。こうして、ガンイルを狙って3つの勢力が争うことになる。しかし、デボムは単身でしかも異国というハンディがあり、密かにイドに接触し、協力を申し入れる。ガンイルは既に北朝鮮で同様の事件を12件も犯しているという。

こうしてストーリーは進む。デボムは自らの任務と復讐を胸に秘め、イドは警察官としての使命により、そしてジェヒョクは、秘密資金の確保という別の目的で動く。話をややこしくするのは、その身柄を狙っているのは、CIAであるということ。CIAは端から殺人事件などに興味はない。あるのはアメリカの国益のみである。そしてそれをよく知っているのは、ガンイル本人。アメリカに引き渡されても秘密資金の情報と引き換えに安全は確保されると信じているのであろう。だから韓国の警察など恐れない。太々しい態度は、観ている者の怒りを誘う。

こうしてストーリーは進んでいくが、事は国家的事項となれば、現場の感情など無視される。せっかく逮捕してもガンイルの身柄は奪い奪われとなる。逮捕されながらもガンイルは常に余裕の笑みを浮かべている。やがてガンイルが自殺に見せかけてソンオ警視を殺した事も判明する。なんとも言えない鬼畜である。それでもデボムの協力で、次々と手を変えガンイルの身柄を奪い返すイド。立ちはだかる国家情報院とCIA。正義が常に勝つとは限らない。

次々と展開されるストーリーは、先を予想させず、それどころか予想外の展開を見せて目が離せない。国益に翻弄される正義。正義が常に勝つとは限らないと、あざ笑うかのように進む。そして最後に意外な人物がこの物語にケリをつける。韓国映画は侮れないが、うまく国の置かれた状況を盛り込んだこのようなストーリーは日本では成り立たない。実にうまいものだと思う。

韓国映画らしいドロドロとした迫力ある映画を観たいのであれば、これはそれを満たすと言える。そういう韓国映画を観たいのであれば、満足できる一作である・・・


評価:★★★☆☆









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2021年07月30日

【トゥモロー・ウォー】My Cinema File 2439

トゥモロー・ウォー.jpeg

原題: The Tomorrow War
2021年 アメリカ
監督: クリス・マッケイ
出演: 
クリス・プラット:ダン・フォレスター
イボンヌ・ストラホフスキー:ミューリ・フォレスター
J・K・シモンズ:ジェームズ・フォレスター
ベティ・ギルピン:エミー・フォレスター
サム・リチャードソン:チャーリー
エドウィン・ホッジ:ドリアン
ジャスミン・マシューズ:ハート
ライアン・キエラ・アームストロング:ミューリ・フォレスター(少女時代)
キース・パワーズ:グリーンウッド
メアリー・リン・ライスカブ:ノラ
マイク・ミッチェル:コーワン

<映画.com>
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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』 『ジュラシック・ワールド』シリーズのクリス・プラットが主演を務め、地球を脅かすエイリアンと人類の戦いを描いたSFアクション。ある日、2051年からのタイムトラベラーが現代に突然現れ、人類は30年後に未知の生物と戦争になり、やがて敗北するという衝撃の事実を告げる。人類が生き残るための唯一の希望は、現代から民間人と兵士を未来に送り込み、戦いに参加することだという。その1人として選ばれた、元軍人で高校教師のダン・フォレスターは、まだ幼い娘のために世界を救うことを決意。優秀な科学者や疎遠になっていた父親とともに、地球の運命を変えるべく立ち上がる。共演にテレビドラマ「CHUCK チャック」のイボンヌ・ストラホフスキー、『セッション』のJ・K・シモンズ。監督は「レゴバットマン ザ・ムービー」のクリス・マッケイ。Amazon Prime Videoで2021年7月2日から配信。
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時に2022年。主人公のダンは、妻のエミーと娘のミューリと共に暮らしている。ダンは、かつてイラク戦争に従軍経験のある元軍人だが、除隊後は高校で化学の教師をしている。転職活動をしているが、今日も色よい返事はもらえない。気を取り直してミューリとテレビでサッカーの試合を観戦していると、突然グラウンドが光に包まれ、中から兵士たちが現れる。

兵士のリーダーが観衆に向かって語りかける。自分たちは30年後の未来から来たと言い、その30年後の未来では宇宙生物「ホワイトスパイク」との戦いで絶望的な状況にあると。そして過去の人間の力を借りたいと話す。急転直下の出来事に世界各国は団結して事に当たる。未来での宇宙生物との戦いに参加するために未来の兵士たちと共に転送装置を作り、未来に向けて徴兵した兵士を送り込むことになる。

しかし、援軍も焼け石に水。一般人の生存率が2割という惨状をきたす。やがてダンも呼び出される。さすが未来人は未来の情報を持っている。実はダンは7年後の未来に死亡しており、それが理由で見事徴兵検査にパスする。パスした者は、7日間の未来での兵役を命じられ、腕に追跡装置兼未来への転送装置となる転送パッドを装着される。簡単には外せないし、外せば罰せられる。ダンは身辺整理のため一時帰宅が許される。

エミーはこれを聞き、家族で逃げようと提案する。生存率2割では無理もない。腕の装置は、ダンの父ジェームズを頼ることにする。ところが、父ジェームズは、ベトナム戦争従軍後、家族を捨てた経緯があり、ダンはむしろ父を憎んでいる。それでもエミーとミューリのために訪ねていくが、自分や母を捨てた行為を正当化するジェームズと相成れず、喧嘩別れしてしまう。覚悟を決めたダンは、エミーとミューリに一時の別れを告げると基地へと向かう。

タイムトラベルものはよくあるが、「未来の人間が助けを求めてくる」というのはなかなか面白い設定である。ここに出てくる装置は、未来と一対になった時間と結ばれており、好きな時間に出没できるというわけではない。そしてダンが知り合う科学者の口を通じ、「未来の自分」に会うという「存在の矛盾」を回避するため、30年後には既に死亡している人間たちが兵士として送られることが説明される。こういう設定がないと、観る方も様々な矛盾を考えて混乱してしまうだろう。

こうしてダンたちは30年後の未来に飛ぶ。ところが未来の研究ラボが襲われているという警報によって、訓練中に急遽未来へと送られるが、装置の不調か出現したのは未来の空中。したがってほとんどのものはビルの高さ以上の高空から落下して死んでしまう。ダンはかろうじて屋上のプールに着水して助かるが、生き残ったのは派遣3回目のドリアンたち数名。なんともめちゃくちゃなスタートである。

こうして未来に到着したダンはホワイトスパイクと対峙する。これがまた『エイリアン』のような宇宙生物で、持ち込んだ自動小銃ではなかなか殺せない。喉と腹が弱点とされるが、数少ない味方は次々と犠牲になっていく。目的としていた「研究者の救助」は果たせず、代わりに「研究データとアンプルの持ち帰り」の任務をかろうじてこなしたダンたちは、なんとか現地軍に助けられる。

こうして未来の地球を守る圧倒的に不利な戦いに参戦したダン。未来の舞台の司令官フォレスターは、実はダンとは無関係ではない。そうした関係を紹介しつつもホワイトスパイクとの戦いを進める。ホワイトスパイクは、やっぱり『エイリアン』とよく似ていて、鍵を握ると思われるのがメス。宇宙生物はみんなそんな感じになってしまうのかもしれない。

ただ単に主人公が超人的な活躍をして終わるというものではなく、うまくタイムトラベルを利用してひねりのあるストーリー展開となる。実父とのわだかまりもうまくそのストーリー展開の中で解消される。まぁ、それでもタイムパラドックスは解消されないが、それが気にならないほどストーリーは面白い。『エイリアン』『ターミネーター』をミックスさせたようなものだろうか。そこにダンと家族の物語が加わり、後味の良い映画に仕上がっている。

あちこちに貼られた伏線もきちんと回収してくれるし、見応えのある映画である・・・


評価:★★★☆☆









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2021年07月29日

【タイガーランド】My Cinema File 2438

タイガーランド.jpeg

原題: Tigerland
2000年 アメリカ
監督: ジョエル・シュマッカー
出演: 
コリン・ファレル:ローランド・ボズ二等兵
マシュー・デイビス:ジム・パクストン二等兵
クリフトン・コリンズ・Jr:マイター二等兵
トム・グイリー:カントウェル二等兵
シェー・ウィガム:ウィルソン二等兵
ラッセル・リチャードソン:ジョンソン二等兵
ニック・サーシー:サンダース大尉
マイケル・シャノン:フィルモア軍曹

<映画.com>
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「バットマン」シリーズや「評決のとき」などイベント大作のヒットメイカー監督、ジョエル・シューマカーが、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラース・フォン・トリアーらが主唱する“ドグマ95”に賛同して、わずか28日間で撮り上げた話題作。全米批評家から大絶賛された主演の新人、コリン・ファレルに注目。
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ベトナム戦争が泥沼化した1971年。ルイジアナ州のポーク基地に配属された小説家志望の志願兵パクストンは、そこでボズと出会う。ボズは何かと反抗的で、上官の命令にも平然と逆らい、幾度となく収監されている性悪軍人。しかし、一方で軍規をよく理解し、軍隊生活に馴染めない新兵に対し、合法的に除隊する手助けをしている一面もある。そのため上層部に睨まれており、兵士としての技能こそ優秀ながらも、いまだ最終訓練で不合格の判定を下されては最初から訓練をやり直しする日々を送っている。

そんなボズに対し、パクストンは次第に惹かれていく。しかし、反感を持つ者もいて、特に好戦的でサディスティックなウィルソンがその筆頭である。そしてある夜、ついにウィルソンはボズを闇討ちするが、逆に返り討ちに遭い、皆の前で大恥をかく。これにより一段とボズへの憎しみを募らせるウィルソン。とうとう射撃訓練中にボズを射殺しようとする。運良く銃の不具合で難を逃れたボズは、精神を病んでいるウィルソンを除隊させるように訴えるが、上官は対応を自分に一任せよと言明する。

「タイガーランド」とは、ベトナムの戦場を再現した最終訓練の場所のこと。実践を模した最終訓練であり、新兵らは二手に分かれて対峙する。ボズに対する射殺未遂事件で訓練を外されたと思われていたウィルソンがいつの間にか復帰し、模擬戦闘訓練でボズのグループの対戦相手となるグループのリーダーとして現れる。一方、ボズはかねてよりメキシコへの脱走計画を準備しており、その夜実行に移そうとする。それに気づいたジョンソンは、ボズがいなくなれば怪我で弱っているパクストンがボズの代わりにウィルソンに殺されるとボズに訴える。

それでもボズの考えは変わらず、脱走を図ったボズだったが、思い直して部隊に戻る。そしてウィルソン率いるグループとの模擬戦闘訓練が始まる。ウィルソンはボズを殺そうと、銃に実弾をこめてボズの部隊が来るのを待つ。そうとは知らないボズの部隊がやって来ると、ウィルソンは実弾を乱射し始める。運良く、撃たれる者はいなかったが、この混乱の中でボズはパクストンを救うため、敢えて誤射したふりをして、パクストンを負傷させる・・・

当時、アメリカは徴兵制を敷いており、これをしっかり理解していないと登場人物たちの行動が理解できなくなる。モハメド・アリが徴兵を拒否してタイトルを剥奪されたのは有名であるが、ボズも自らの意に反して徴兵されたようである。上官に反抗する一方、仲間に対しては親身になって助けるボズの行動にそれが現れている。一方、パクストンのような志願兵は自ら除隊はできない。

物語は、そんな新兵たちの訓練の様子を描いていく。訓練が終わればベトナムの戦場に向かうことになる。誰だって好き好んで戦場になど行きたくはないであろう。もちろん、勇んで志願する兵もいるが、嫌だと思うのも十分理解できる。自分がもし徴兵されたら、果たしてどう振る舞うだろう。少なくとも軍隊特有の理不尽な命令には素直に従いたくはないと思う。

主演はコリン・ファレル。ずいぶん若いと思ったら、もう20年以上前の映画だと気づく始末。仲間を助けたボズは、結局、戦場に向かう。その後、どうなったのか、この映画では語られない。分類としては戦争映画に入るのかもしれないが、ボズという味わい深い人間を描いた人間ドラマでもある。泥沼となったベトナムの戦場で、ボズはどんな行動をとったのか。ちょっと想像してみたくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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2021年07月28日

【虐殺器官】My Cinema File 2437

虐殺器官.jpeg

2017年 日本
監督: 村瀬修功
原作:伊藤計劃
出演: 
中村悠一:クラヴィス・シェパード
三上哲:ウィリアムズ
梶裕貴:アレックス
石川界人:リーランド
大塚明夫:ロックウェル大佐
小林沙苗:ルツィア・シュクロウポヴァ
櫻井孝宏:ジョン・ポール

<映画.com>
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2009年に34歳の若さで病没した作家・伊藤計劃が06年に発表し、07年に刊行された長編デビュー作をアニメーション映画化。世界の紛争地帯を飛び回るアメリカ軍特殊部隊のクラヴィス・シェパード大尉に、ジョン・ポールという謎のアメリカ人を追跡せよとのミッションが課せられる。世界各所で起こる紛争や虐殺の影には、優秀な言語学者だったというジョンの影がちらついていたが、いつも忽然と姿を消してしまうという。ジョンがチェコに潜伏しているという情報を得たクラヴィスは、追跡を開始するが……。伊藤計劃の残したオリジナルの長編3作品を映画化する「Project Itoh」の1作。監督は、「機動戦士ガンダムW」のキャラクターデザインなどで知られるアニメーターで、06年にWOWOWで放送されたオリジナルのSF作品「Ergo Proxy」では監督も務めた村瀬修功。
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冒頭、いきなり公聴会で物語は始まる。主人公のクラヴィスは、公開質問に立つ。
時を遡って2015年、サラエボ。観光客で賑わうこの街で小型核爆弾を使ったテロが起こり、甚大な被害が出る。

その5年後、2020年グルジアで物語は本格的に始まる。クラヴィスは米軍特殊部隊を率いて内戦と虐殺が続くこの国に潜入している。偽装工作を施し、まんまと内戦の首謀者のいる本部へと潜入する。そして暫定政府の大臣を捕らえ、ここで会うはずだったアメリカ人のことを訊ねるが、大臣は答えない。大臣は、そんなことよりも、なぜこの国がこんな内戦状態に陥ってしまったのか、自分でも解らないと不可解なことを言う。その時、特殊部隊の隊員アレックスが突如、その大臣を射殺してしまう。クラヴィスは、感情に異常を検知したアレックスをその場で射殺、死体痕跡を残さぬ処理をして撤退する。

アメリカに戻ったクラヴィスは、いつものようにビールとピザを片手に、ウィリアムズとテレビでアメフトを観ていると、突然ペンタゴンに呼び出される。先のグルジアでの作戦中の失態の責任はないことが言い渡され、新たな任務につくことになる。新たな任務は、あの日グルジアで現れるはずだったアメリカ人ジョン・ポールを追跡すること。政府は、ジョン・ポールが現れた国では、必ず内戦が起こり、虐殺が起こることを察知しており、重要参考人としてジョン・ポールを捕らえようというのである。

クラヴィスとウィリアムズは、ジョン・ポールの愛人とされるルツィアが住むプラハに潜入する。そこにジョン・ポールが現れることを期待して、である。ビジネスマンを装い、彼女にチェコ語を教えてもらう生徒として、彼女と契約を交わす。ルツィアから聞き出したのは、MITで言語学を学んでいるときにジョン・ポールと出会い、ジョン・ポールは言語が人間の行動にいかに影響を与えるかを研究していたことである。

クラヴィスはルツィアとの距離を縮めていく。そんなある日、クラヴィスはルツィアと一緒にいるところを何者かに襲われ、拘束されてしまう。捕らえられたクラヴィスの前に現れたのは、ジョン・ポール。そこで人間には虐殺を司る器官が存在し、器官を活性化させる「虐殺文法」が存在することを聞かされる。正体がばれ、殺されそうになるクラヴィスだったが、間一髪、ウィリアムズら仲間の特殊部隊に救出される。

不思議なタイトルであるが、『虐殺器官』とはどうやら人間には虐殺を司る器官があるとされていて、そこを言語によって刺激されると虐殺を行うというのが大雑把な内容である。世界各地に神出鬼没のジョン・ポール。現れた地で虐殺を引き起こしている。この映画の舞台となっている近未来(もっとも2020年はもう過去であるが・・・)では、クラヴィスたちは脳内にナノマシンを入れられており、そのおかげで敵とあれば少年少女であろうと殺すことに動揺しなくなっている。

映画は、何となく『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(My Cinema File 292)と似た雰囲気を漂わせている。なぜか主人公が米軍の軍人なのであるが(日本人の方が日本のアニメらしくていいと思うのだが・・・)、それ以外は、謎の人物を追いかけていく近未来装備の特殊部隊兵士という点で、雰囲気的には似通っている。だから、ダメというのではもちろんない。

どうやら原作はもっと深い内容のようなのであるが、映画では時間の制約か、そのあたりは説明不足感が否めない。映画だけしか観ていないと、原作の描く深い背景は理解できない。『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』は、映画だけで独特の深みが伝わってくるので、そのあたりが全体の面白さの差となって現れてしまっている。

ラストは、再び冒頭の公聴会に戻る。ここでクラヴィスが何を意図していたのかは、映画だけでは理解できない。そのあたりだけでももっとわかりやすくしていてくれたら、オチのある映画になっていただろう。実に残念な一作である・・・


評価:★★☆☆☆









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2021年07月27日

【ファースト・マッチ】My Cinema File 2436

First Match.jpeg

原題: First Match
2018年 アメリカ
監督: オリビア・ニューマン
出演: 
エルヴィル・エマニュエル:モニーク
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世:ダレル
コールマン・ドミンゴ:キャスティル(コーチ)

<Netflix解説>
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里親の家を転々とする中、疎遠だった父親が出所したことを知った女子高生が、自分の価値を認めてもらおうと男子ばかりのレスリング部に入部する。
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主人公は女子高生のモニーク。しかし問題児で冒頭から里親の家を追い出される。どうやら里親のナデージュの夫ハッサンと何かあったようである。窓から衣服などの持ち物を投げ捨てられる。里親もなかなかである。しかし、どうしても捨て置けぬものがあり、モニークは幼馴染のオマリに頼んで、里親の家に侵入して取り返す。それは一冊のノート。そこには、レスリングで州の学生王者だった父のことが書いてある。

モニークは父親を愛し、出所を待っている。映画全編を通し、父親に対するモニークの思いは父親としては羨ましいほど。しかし、オマリと歩いたモニークは、偶然父と出会う。いつの間にか出所していた父親は、モニークの思いとは裏腹に、一緒に住むことなど念頭になく、ゴミ捨て係として働いている。モニークにはショックではあるが、さらに父ダレルはモニークと住むつもりはないと言う。

その屈折した思いはモニークの態度に現れる。停学は3度目。その後、モニークは、無料食堂に並んでいる父の姿を見かける。何とか父親の関心を引こうとしたのだろう、モニークは父に会いレスリングの練習をしていると話す。そして練習を見に来ればと誘う。翌日、モニークはオマリもいるレスリング部に行きコーチに入部を申し入れる。こうしてモニークは、1人男子部員に混じって練習することになる。

モニークは、幼少の頃から父よりレスリングの手ほどきを受けている。その実力は衰えておらず、男子部員の1人を子供のようにあしらう。しかし、さすがにスカウトから注目されている実力者マリクには歯が立たない。レスリングを再開したことで父と話ができるようになり、モニークは伸ばした髪を切り、本気でトレーニングを開始する。早朝、コーチに指示された通りランニングをするモニーク。そんな彼女の姿を見て、マリクは練習用のシューズを買うゆとりのないモニークに対し、黙ってシューズをプレゼントする。

荒んでいた父親もレスリングを再開したモニークに感化されたのか、真面目に働きモニークの試合を見に来る。どうして父親がレスリングの栄光から転落して収監されるようになったのかは明らかでないが、その心にはまだ昔の火種が残っているのだろう。男子相手の試合だが、相手選手のからかいにも惑わされずモニークは懸命に戦う。父親も友人と資金を出し合って、洗車店を開業しようと明るい計画を語る。モニークは嬉しそうに自分も手伝うと申し出る。

このままいけば、親子は健全な絆を取り戻し、贅沢でなくても幸せに暮らせたであろう。ところが、父はいつの間にか地元のヤクザであるフアンから金を借り、そのままその仕事を手伝うようになる。さらに闇の賭博試合にも出入りし、モニークにもそれを見せる。そしてこの試合に出場すれば、父親の1週間の仕事分が1回で稼げるとモニークに話す。実は洗車店をするために、ダレルは2週間で1万ドル稼がなければならないところに追い込まれていたのである。

結局、レスリングで成功しながらも堕落してしまったのは、父ダレル自身の弱さだったのであろう。健気にも父親を求めるモニークに対し、それはふさわしいものではない。一方で問題児だったモニークは、レスリングを通じて真面目な学生生活を取り戻す。父親とは正反対である。そんな親子の哀しいドラマが続く。何であれ、人が努力する姿は美しく、怠ける姿は醜い。父と娘のそれは哀しいまでに対照的な姿である。

間違った道を進む父親に対し、モニークはあくまでも父親に寄り添う。それは観ていて心が痛むほどである。自分自身、父親であり、こういう哀しい思いは娘にはさせたくない。それゆえに、よけいにモニークに感情移入してしまう。モニークは父親とチームとの板挟みになる。ラストのモニークと父親との姿には心に来るものがある。果たしてこの親子は幸せになれるのだろうか。父を思う娘の気持ちを考えると、そうあってほしいと思う。

最後まで父親を思う娘心に心動かされる映画である・・・


評価:★★★☆☆









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