
原題: V.I.P.
2017年 韓国
監督: パク・フンジョン
出演:
チャン・ドンゴン:パク・ジェヒョク
キム・ミョンミン:チェ・イド
イ・ジョンソク:キム・グァンイル
パク・ヒスン:リ・デボム
ピーター・ストーメア:ポール・グレイ
<映画.com>
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「新しき世界」のポク・フンジョン監督が、『泣く男』以来3年ぶりの映画出演となったチャン・ドンゴンをはじめ、キム・ミョンニン、パク・ヒスン、イ・ジョンソクら実力派キャストを迎えて描いたクライムドラマ。韓国の国家情報員とCIAの企てにより、北から亡命したエリート高官の息子が連続殺人事件の容疑者にされたことをきっかけに、これを隠蔽しようとする者や捕らえようとする者、復讐しようとする者など、それぞれの目的を持った男たちの運命が交錯するさまを描く。北朝鮮から亡命した高官の息子キム・グァンイルが連続殺人事件の容疑者として浮上し、チェ・イド警視はグァンイルを追う。しかし、その行く手に国家情報員の要員パク・ジェヒョクや、保安省所属の工作員リ・デボムといった人物が介入し、事態は思いもよらない方向へと進んでいく。
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物語は北朝鮮から始まる。学校帰りの少女が歩いている。そこへ車に乗った男子学生らが通りかかる。北朝鮮で車に乗って送り迎えというからには高級官僚の子息だというのがわかる。そしてこういう子息たちは大体わがままで柄が悪いときている。案の定、車が通り過ぎた後には少女の靴が残されている。続きは想像できるが、想像できなかったのは、いたいけな少女が強姦されるだけならまだしも、男たちは少女だけではなく家族全員を皆殺しにしたこと。鬼畜以外の何物でもない。
北朝鮮保安省のデボムがこの事件の捜査を始めるが、上層部から捜査中止を命じられる。デボムは上官に抗議するが、認められるわけもない。下手をすればそれだけで処刑の運命だったかもしれない。ところがデボムは元情報部のエリート工作員だったこともあり、功績に免じて許されるが、郊外の飼育場に「転属」となる。その後、デボムは突如襲われ、部下を皆殺しにされる。さらに自身は拷問され橋から突き落とされるが、かろうじて奇跡的に一命を取り留める。
時は3年後。ソウル南部にて、裸の少女の遺体が発見される。強姦された後に拷問してから殺されたものである。付近では同様の手口が頻発しており、警察は連続殺人事件として犯人を追っている。しかし、特別捜査チームを率いていたソンオ警視が自殺してしまう。事件を引き継ぐ事になったのは、手荒い捜査をして懲戒処分されていたイド警視。手荒い捜査も犯人逮捕に向けた執念なのであろう。部下にも非常に厳しい。
さらにその頃、国家情報院の工作員・ジェヒョクは上司に呼び出される。国家情報院は今回の犯人を把握しており、それは北朝鮮から亡命してきたガンイルとその仲間達である。実は、ガンイルは北朝鮮幹部の子息として父親が関与している秘密資金のありかを知っている。その情報を目当てに、国家情報院とCIAとが協力して、韓国に亡命させていたのである。ジェヒョクはそのガンイルたちの身柄拘束を命じられる。
イド警視とジェヒョクは、それぞれの組織を代表してガンイルの身柄確保を目指す。一歩先んじたのは警察。ジェヒョクが先にガンイルの身柄を拘束するが、そこに現れた逮捕状を手にしたイドがガンイルを逮捕する。いかに国家情報院であろうと、裁判所の逮捕状が優先する。マスコミに情報が流れると手遅れであり、ジェヒョクは部下にガンイルに弁護士をつけて時間を稼ぐよう指示する。さらに行方の分からないガンイルの仲間を探させる。イドは取り調べを始めるが、ガンイルは不敵な笑みを浮かべて黙秘を続ける。
その頃、国家情報院は何者かに拷問されたガンイルの仲間の1人を拘束する。もう1人は拷問の末、殺害されており、殺したのは韓国に潜入した北朝鮮保安省のデボム。デボムもまたガンイルの身柄確保を狙っている。こうして、ガンイルを狙って3つの勢力が争うことになる。しかし、デボムは単身でしかも異国というハンディがあり、密かにイドに接触し、協力を申し入れる。ガンイルは既に北朝鮮で同様の事件を12件も犯しているという。
こうしてストーリーは進む。デボムは自らの任務と復讐を胸に秘め、イドは警察官としての使命により、そしてジェヒョクは、秘密資金の確保という別の目的で動く。話をややこしくするのは、その身柄を狙っているのは、CIAであるということ。CIAは端から殺人事件などに興味はない。あるのはアメリカの国益のみである。そしてそれをよく知っているのは、ガンイル本人。アメリカに引き渡されても秘密資金の情報と引き換えに安全は確保されると信じているのであろう。だから韓国の警察など恐れない。太々しい態度は、観ている者の怒りを誘う。
こうしてストーリーは進んでいくが、事は国家的事項となれば、現場の感情など無視される。せっかく逮捕してもガンイルの身柄は奪い奪われとなる。逮捕されながらもガンイルは常に余裕の笑みを浮かべている。やがてガンイルが自殺に見せかけてソンオ警視を殺した事も判明する。なんとも言えない鬼畜である。それでもデボムの協力で、次々と手を変えガンイルの身柄を奪い返すイド。立ちはだかる国家情報院とCIA。正義が常に勝つとは限らない。
次々と展開されるストーリーは、先を予想させず、それどころか予想外の展開を見せて目が離せない。国益に翻弄される正義。正義が常に勝つとは限らないと、あざ笑うかのように進む。そして最後に意外な人物がこの物語にケリをつける。韓国映画は侮れないが、うまく国の置かれた状況を盛り込んだこのようなストーリーは日本では成り立たない。実にうまいものだと思う。
韓国映画らしいドロドロとした迫力ある映画を観たいのであれば、これはそれを満たすと言える。そういう韓国映画を観たいのであれば、満足できる一作である・・・
評価:★★★☆☆