2021年09月26日

【弁護人】My Cinema File 2464

弁護人.jpeg

原題: 변호인、英題:The Attorney
2013年 韓国
監督: ヤン・ウソク
出演: 
ソン・ガンホ:ソン・ウンソク
イム・シワン:パク・ジヌ
キム・ヨンエ:パク・スネ
クァク・ドウォン:チャ・ドンヨン
ソン・ヨンチャン:裁判官
チョン・ウォンジュン:先輩弁護士
イ・ハンナ:ウソクの妻
シム・ヒソプ:ユン中尉
リュ・スヨン:イ・チャンジュン
イ・ソンミン:イ記者

<映画.com>
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韓国の実力派俳優ソン・ガンホが主演し、韓国で観客動員1100万人を突破する大ヒットを記録した社会派ヒューマンドラマ。青年弁護士時代のノ・ムヒョン元大統領が弁護を担当した重大冤罪事件「プリム事件」をモチーフに、ある事件をきっかけに人権派弁護士へと転身を遂げる男の奮闘を描く。1980年代初頭、軍事政権下の韓国。税務弁護士として多忙な毎日を送っていたソン・ウソクは、若い頃に世話になったクッパ店の息子ジヌが国家保安法違反容疑で逮捕されたことを知る。拘置所へ面会に行ったウソクはジヌの信じられない姿に衝撃を受け、ジヌの弁護を引き受けることにするが……。アイドルグループ「ZE:A」のイム・シワンが、不当逮捕されたジヌ役を好演。
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主人公は、弁護士事のウンソク。独立して小さな事務所を構える。事業を始めるにあたり、商売上手なのだろう不動産登記に目をつけ、専門の弁護士として売り出す。不動産登記は司法書士のマーケットだが、弁護士でもできる。周りの弁護士はそんな「下級の仕事」を引き受けるウンソクに冷ややかな視線を向ける。ところがこれが大当たり。大繁盛となり、司法書士には抗議をうけ、冷ややかな視線を送っていた周りの弁護士たちも追随する。

競争が激しくなると、今度は税務処理に目をつけ地道に稼ぎまくる。初めはネズミの出る家でスタートした妻と子供との生活も海の見える家に引っ越すまで余裕が出る。そこは土木現場で働きながら司法試験の勉強をしていたウンソクが建築に携わった現場。実は10階のその部屋の壁紙を剥がすと、かつて密かに掘った「絶対に諦めるな」と自分を鼓舞するメッセージが残されている。わざわざ相場以上のお金を出してその家を買ったのである。

次にウンソクが妻子を連れて行ったのは、貧乏生活の中で通っていた食堂。気のいい女将スネが経営し、つけのきく店であったが、いよいよ困窮したウンソクはそのつけを踏み倒していた。今や成功したウンソクは、かつてよくしてくれたスネに謝罪をする。涙の再会に観ている方もウルウルする。そしてウンソクは、以後部下のドンホとかつてのようにその店に通うようになる。しかし、そんなウンソクの成功の背後で、軍事政権下の世間ではデモが少しずつ起こり始め、不穏な空気が漂い始める。

そんなある日、釜山で大学に通うスネの息子ジヌが突然行方不明になる。実は、ジヌは公安によって逮捕拘留されていたのである。公安は北朝鮮を支援する共産主義者の取り締まりを強化しており、特に反政府デモの主導となる学生たちがそのターゲットとなっていたのである。仲間とともに読書会を開いていたジヌもその一環で逮捕されていた。スネから相談を受けたウンソクは、スネとともに何とか拘留所でジヌと接見する。ところが、久しぶりに再会したジヌはやせ細り、身体に無数の痣があり、何かに怯えたジヌが錯乱し面会は強制終了させられる。

ジヌが拷問を受けたのは明らかであり、容疑はと言えば理不尽な冤罪。世話になった人の息子というのもあるが、何かがウンソクの心の引き金を引く。それまでは商売第一であったのに、高額な報酬が約束される企業との取引を断り、一度は断ったウンソクの先輩で釜山弁護士組合会長であるキムに掛け合い、この国策裁判の弁護人となることを決意する。しかし、現実的にはこの裁判は、裁判長と検事が前もって話を済ませており、ウンソク以外の弁護士は端から無罪を諦め、刑期を短くすることに主眼を置いている。しかし、ウンソクはそんな弁護方針に反し、真っ向から立ち向かう・・・

映画は、実在の事件を基にしているという。さらに法廷ものとくれば、弱い立場の弁護士側が苦境を跳ね返していくというのが王道ストーリー。これもその王道ストーリーをなぞるが、実話という重みがある。それにしても第二次大戦後の韓国の歴史は波乱に富んでいる。朝鮮戦争後も軍事クーデターで民主主義が根付かない。対共産主義という名目であれば、何でも許される風潮があり、憲法で否定されているはずの拷問がまかり通る。恐ろしいのは、それが正義だと思い込んでいる公安の異常な体質。

せっかく手中にした大きな契約を破断にし、パートナーのドンホにも見切られ、法廷に着くと待ち構えていた群衆から生卵を投げつけられる。そんなウンソクに対し、高校時代の友人で記者をしているユンテクが、黙ってスーツを貸す。それは、一度は商売根性を非難したものの、今や正義のために孤軍奮闘するウンソクに対する支援。ユンテクもまた信念の記事を社内で握りつぶされている。ちょっと胸が熱くなるシーンである。

何事につけ、信念に基づいて行動する男の姿は心に響くものがある。何とモデルになっているのは、盧武鉉元韓国大統領だという。不利な裁判を最後まで戦ったウンソク。実際の盧武鉉は、大統領辞任後に不正献金疑惑で自殺するという最後を遂げるが、そんな事実からは想像もできない。それはともかくとして、ラストではそんなウンソクに賛同した総勢99名の弁護士による意思表明がなされる。実に胸が熱くなる映画である・・・


評価:★★★★☆







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2021年09月25日

【銀座カンカン娘】My Cinema File 2463

銀座カンカン娘.jpeg
 
1949年 日本
監督: 島耕二
出演: 
高峰秀子:お秋
笠置シヅ子:お春
灰田勝彦:武助
古今亭志ん生:新笑
浦辺粂子:おだい
岸井明:白井哲夫

<映画.com>
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製作は「流星」「グッドバイ(1949)」の青柳信雄、脚本は「春の戯れ」につぐ山本嘉次郎と元日活協同プロダクション、プロデューサー、朝鮮映画製作部長をしていた中田晴康が戦後初の協同執筆、監督は「今日われ恋愛す」「グッドバイ(1949)」の島耕二、キャメラは「グッドバイ(1949)」の三村明がそれぞれ担当する。出演は「花くらべ狸御殿」「我輩は探偵でアル」につぐ灰田勝彦「グッドバイ(1949)」の高峰秀子のほか岸井明「結婚三銃士」の笠置シヅ子らが共演している。
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『銀座カンカン娘』と言えば、軽快なメロディーが脳裏に蘇る。戦後大ヒットを飛ばした映画と歌というイメージを持っていたが、映画の方は観たことがない。そうしたところ、Netflixで観ることができるとわかり、鑑賞に至るもの。

戦後間もなくの昭和29年、物語は郊外の一軒の家で始まる。郊外と見えたのだが、ひょっとしたら東京近郊かもしれない。当時はちょっと山手線の外側へ出ればこんな光景が広がっていたのかもしれない。その家の主人は、落語家の新笑。いまは引退して妻のおだいと、甥の武助と孫とささやかな生活を営んでいる。そしてその家には、新笑が昔世話になったという恩人の娘お秋と、お秋の友人のお春が居候として暮らしている。詳しくは語られないが、まだ戦後の傷も癒えない当時だから、物悲しい事情があるのかもしれない。

2人の娘達は朝から歌をうたって気楽な様子。家計を預かるおだいは、働かない2人にイライラしている。武助は会社で合唱隊を組織して歌を楽しみ、お春は声楽家、お秋は画家と、いずれも芸術を楽しんでいる。しかし、一文なしの娘達には、絵の具もピアノも買うことは出来ず、だからと言ってブラブラと遊んでいる訳にもいかない。そこでお秋が職さがしに出かけようとすると、おだいに飼っている犬のポチを捨ててきてくれと頼まれる。犬の餌さえ大変なのだろう。

やむなく、ポチをつれたお秋が捨てる場所に困ってウロウロしていると、映画のロケに出食わす。ちょうど撮影用の犬を探しており、行きがかり上、ポチと一緒にエキストラとして出演することになる。撮影は進行していくが、主演女優が池の中に放り込まれることを拒否し、やむなくディレクターが代役を探すことになる。この機会にお秋はお春を呼びよせて代役を務めさせる。それで2人は1,000円という大金を手にする。

そのエキストラには白井哲夫という男がいて、なんでもバーで歌をうたって一晩で1,000円も稼げるという。もとより歌が好きなお秋であり、白井哲夫とお秋とお春とでバーからバーへと歌い歩くことになる。そこで歌われるのが、タイトルの「銀座カンカン娘」。軽快な音楽であり、観ていて楽しい感じである。映画は半分ミュージカルでもある。当時の銀座もこんな感じだったのかと想像するのも面白い。

一方で、ストーリーもきちんと進んで行く。新笑の家では、相変わらず生活も苦しく、しかも家賃も溜まっていたのか、10万円払う必要が出てくるが、恩返しはこの時とばかり3人で稼いだお金で新笑の家の苦境を救う。そしてそのころ、武助も失業したことから、3人に加って武助も夜の銀座で歌うことになる。明るさが求められていたのか、映画は徹底的に希望に満ちている。軽快な音楽と、ストーリーの明るさが、復興を担う人たちに希望を与えたのかもしれない。

それにしても新笑の家では、しばし朝食のシーンが出てくるが、ご飯と味噌汁とおそらく漬物だけの質素なもの。やっぱり当時は大変だったのだろうなと伺わせてくれる。古い映画ではあるが、いろいろと想像しながら観ると楽しみも増すというもの。主演の高峰秀子がこんなに若かったんだとも思う。たまには古き良き時代に親しみたくなる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年09月24日

【ザ・ルースレス とあるマフィアの転落人生】My Cinema File 2462

ザ・ルースレス とあるマフィアの転落人生.jpeg


原題: Lo spietato
2019年 イタリア・フランス
監督: レナート・デ・マリア
出演: 
リッカルド・スカマルチョ:サント・ルッソ
アレッシオ・プラティコ:サルバトーレ・マモーネ(スリム)
アレッサンドロ・テデスキ:マリオ・バルビエリ
サラ・セラヨッコ:マリアンジェラ
マリー=アンジュ・カスタ:アナベル

<Netflix解説>
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イタリア南部を拠点とするマフィアが台頭した80年代。一介の不良少年は、野心あふれる冷酷な男へと姿を変えていく。その両手を邪魔者たちの血で染めながら。
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主人公サント・ルッソは、父親のいるミラノへ引っ越してくる。大晦日の夜、家族は新年を祝うために集まるが、サントは悪友のマリオとともに街へ繰り出す。そこで、たまたま側に盗難車があり、サントらは警察に捕まってしまう。家族の祝いを無視した挙句の事態に激怒した父親はサントの身受けを拒否。サントは少年院に送られることになる。

サントは少年院でサルバトーレ・マモーネ、別名スリムと仲良くなる。時を経て少年院を出所したサントは、スリムとマリオとともに強盗を繰り返す。捕まらずに犯罪を繰り返せばエスカレートする。強盗から誘拐へ。さらには殺人も。サントはやがて、犯罪組織の人間から目をつけられ、宝石店への強盗の話を持ちかけられる。3人は、この話にのり、宝石店への強盗を成功させると、犯罪組織から認められるようになる。

こうして悪の道を行くサント。やがてマリアンジェラという女性と出会い、結婚する。ところが過去の宝石強盗がバレて、なんと結婚式の最中に逮捕されてしまう。波乱万丈の新婚生活。数年後に出所したサントは、マリアンジェラと入所中に生まれた子供に迎えられる。さすがに改心したサントは、車の転売や不動産業といった真っ当な仕事をはじめる。しかし、不動産業では対立する機会も多く、サントは次々と人を殺す。

そんな男だから、しばらくすれば違う女にも目がいく。アナベルという野心のある女性に出会ったサントは、アナベルとの不倫に走る。すっかり悪の道に戻ったサントは、ヘロインビジネスにも手を出す。表向きは実業家だが、その裏では次々と犯罪事業に手を染めるサント。しかし、その崩壊は友人のスリムが、自ら麻薬に手を出してしまうことにより始まるのである・・・

イタリアを舞台にした、あるいはイタリア人の犯罪映画となると、名作『ゴッド・ファーザー』を思い起こしてしまう。少年時代からの犯罪記という意味でも同じ系譜と言える。しかしながら、その「濃度」という意味では雲泥の差がある。どうも中身が薄いのである。美人と結婚したのに家庭が崩壊するというのも王道ストーリー。せめて一味なりとも違うものを示してくれないと、二番煎じ感が強く漂う。

隅々まで犯罪をやり尽くし、唸るほどの金を手にするサントだが、悪の道は続かない。やがて家族も仲間も失うことになる。犯罪礼賛の映画を創るのも問題かもしれないが、ありきたりの犯罪王の映画は、陳腐感がそこかしこにこびりつく。主人公のリッカルド・スカマルチョだが、若者時代もオヤジ顔で登場するから違和感たっぷり。Netflixオリジナル映画ということで期待したが、残念な一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年09月23日

【ブラック・ハッカー】My Cinema File 2461

ブラック・ハッカー.jpeg

原題: Open Windows
2014年 アメリカ・スペイン
監督: ナチョ・ビガロンド
出演: 
イライジャ・ウッド:ニック・チェンバーズ
サーシャ・グレイ:ジル・ゴダード
ニール・マスケル:謎の男
アダム・キンテーロ:ピエール(トリオップス1)
イバン・ゴンザレス:トニー・ヒルマン

<シネマトゥデイ>
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インターネットで人気女優のプライベートライブ映像をのぞき見た青年が、悪夢のような出来事に巻き込まれていくサスペンススリラー。ネットワークが普及し、誰もが個人情報流出の危機にさらされている現代社会の闇をあぶり出したのは、長編第1作『TIME CRIMES タイム クライムス』などのスペイン出身のナチョ・ビガロンド。主演は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどのイライジャ・ウッド、のぞかれる女優を『ガールフレンド・エクスペリエンス』などのサーシャ・グレイが演じる。
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主人公は女優ジル・ゴダードの追っかけをしているニック。ジルの追っかけブログの作者でもある。そしてそのブログのおかげでニックはジルとのディナーに参加する権利を得てホテルでその時を今や遅しと待っている。そんなニックの下に突如として正体不明の男からパソコンを通して連絡が入る。訝しがりながらもニックは男と会話をしていると、やがて男は大胆にもその場でジルのスマホにアクセスしてしまう。

そこへ突然、ジルとのディナーの中止連絡が入る。男の言うには、ジルの気まぐれが理由だと言う。男は部屋に置いてあるカメラを窓の外に向けるようにとニックに指示を出す。わけのわからないまま指示に従うニック。すると窓の外から見える部屋にジルのエージェントであるトニーを誘導する。そして、なんとジルがその男に会いに来る。ジルとトニーの会話から、どうやらジルはトニーと付き合っているらしい。男は部屋の盗聴をもこなし、トニーとジルの会話もニックに筒抜けである。

やがて言い合いからジルは部屋を出てしまう。その様子を見守るニックだが、突然部屋の明かりが付いてトニーからニックの部屋が見えてしまう。覗かれたとわかったトニーがニックの部屋へ向かう。パニックに陥るニックだが、男は冷静に指示を出し、トニーが部屋に入ってきたところでニックはスタンガンでトニーを気絶させる。そのまま手錠でトニーを拘束すると、男の指示でニックはその部屋から逃走する。

気がつけばニックは、後戻りできない状況に陥っている。男はさらにニックに指示を飛ばす。まずいと思いつつも男に従うしか選択肢のないニック。男の行動はエスカレートし、指示を出すだけにとどまらず、自らジルの自宅へと忍び込み、ジルを待ち受ける。その様子はニックも手持ちのパソコンで見ている。男は遠隔操作でニックが拘束したトニーに電気ショックを与えて痛めつける。男はトニーを助けるのと引き換えに、帰宅したジルに言いなりになるようにと恐喝する・・・

「ブラック・ハッカー」と言うタイトルにある通り、情報通信機器をハッキングし、自由自在に操る謎の男に主人公が翻弄されるドラマ。そういえば、『イーグル・アイ』も突然かかってきた謎の電話に翻弄される主人公の話であった。この映画は、電話の主は人間のハッカーという設定であるが、翻弄される主人公には違いがない。それにしてもここまでハッキングできてしまうと、もはやプライバシーも何もない。実際にどこまでできるのかはわからないが、映画のネタとしては充分であろう。

物語は、謎の男に加え、男を崇拝するフランスのハッカーも登場してややこしくなる。男の言いなりから逃れ、さらにジルを助けようとするニック。最後に意外などんでん返しもあって、なんとなく都合の良い結末になっている。まぁ、あまり構えて観る映画ではなく、気軽に観るべき映画であろう。主人公のイライジャ・ウッドだけが名前が知られているだけのいかにもという感じのB級映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年09月22日

【ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男】My Cinema File 2460

マッケンロー 氷の男と炎の男.jpeg

原題: Borg/McEnroe
2017年 スウェーデン・デンマーク・フィンランド
監督: ヤヌス・メッツ
出演: 
スベリル・グドナソン:ビヨン・ボルグ
シャイア・ラブーフ:ジョン・マッケンロー
ステラン・スカルスガルド:レナート
ツバ・ノボトニー:マリアナ
レオ・ボルグ:ビヨン・ボルグ(少年時代)

<映画.com>
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1980年、テニス界で世界的な人気を誇ったビヨン・ボルグとジョン・マッケンローが繰り広げたウィンブルドン決勝戦での世紀の対決を、実話をもとに映画化。端正なマスクと、コート上での冷静沈着なプレイから「氷の男」と呼ばれたビヨン・ボルグは、20歳でウィンブルドン選手権で初優勝し、4連覇の偉業を成し遂げた。絶対王者として君臨するボルグの前に現れたのが、宿敵ジョン・マッケンローだった。天才的な才能を持ちながらも、不利な判定には怒りをあらわにして審判に猛烈に噛み付いていくマッケンローは「悪童」と揶揄された。80年ウィンブルドン選手権決勝戦のコートで、そんな真逆の個性を持つ2人の天才が対峙する。ボルグ役を「ストックホルムでワルツを」『蜘蛛の巣を払う女』のスベリル・グドナソン、マッケンロー役を『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフがそれぞれ演じる。
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ビヨン・ボルグとジョン・マッケンローと言えば、私の若かりし頃、世界を沸かせていたテニスプレーヤーである。特にマッケンローに対しては、審判に悪口雑言を浴びせかけるのが話題となっており、「悪童」というニックネームももっともで、スポーツマンシップからは程遠く、個人的にはいい印象を持っていなかった。2人は実に対照的で、ライバル関係でもあった。テニスにそれほど興味があったわけでもないので、覚えているのはそんな程度である。この映画は、そういう2人を追った映画である。

時に1980年のウィンブルドン選手権。それまで大会4連覇中のボルグは当然ながら5連覇を狙う。それを阻むとすれば世界ランク2位のマッケンローが筆頭である。モナコ公国モンテカルロに住むボルグは、トレーニングに出かける。町中ではみなボルグを知っている。そしてボルグの傍らには、ウィンブルドン後に結婚を予定しているマリアナが寄り添う。ライバルのマッケンローは、例によって審判に抗議し暴言を吐き、ファンからブーイングを浴びる。両者の姿は大人と子供である。

ドラマはボルグの少年時代へと遡る。器用に壁打ちを繰り返すボルグ。しかし、試合になると気にくわない判定に対し、審判に食ってかかり暴言を吐く。一瞬、マッケンローの少年時代の回想シーンかと錯覚する。少年の試合でそんな態度が許されるわけはなく、半年間の出場停止処分が下されるが、ボルグ少年には反省の色は見えない。誰もが呆れるが、唯一、コーチのベルゲリンだけがその才能に目をつけ、声を掛ける。もしもそれがなければ、ウィンブルドンの歴史も変わっていたであろう。

ドラマは現在と過去を行きつ戻りつしながら進む。ボルグ少年の才能を見出したベルゲリンは、今もボルグのコーチとして行動を共にする。マッケンローは、大会期間中にも関わらず、友人たちと町に繰り出し酒を飲んで騒ぐ。ボルグはマッケンローが試合で審判に抗議し、暴言を吐く姿を見る。果たしてどんな胸中なのか興味深い。あるいは、ボルグだけがマッケンローの本当の姿に気がついているのかもしれない。回想シーンではベルゲリンと厳しいトレーニングをするボルグ少年が、史上最年少でデビスカップへの参加が決まる。

ウィンブルドン大会が始まり、マッケンローは勝ち続け、ボルグもまた順当に勝ち上がる。しかし、試合が雨で中断した時には、こんな中では試合ができないと怒りを露わにする。ボルグはホテルの部屋ではラケットを何十本と床に並べ、足で踏んでガットの感触を確かめる(一流はやはりこだわりがあるのだろう)。それに付き合うのはベルゲリン。少年時代に自分を見出してくれたベルゲリンをボルグが信頼している様子が伝わってくる。ボルグは勝ち続けるが、プレッシャーからかホテルでもイラつく。

ボルグもマッケンローも順当に試合に勝ち続け。相変わらず負けた相手と試合後に口論するマッケンローと冷静にマシーンのように試合をこなすボルグ。ともに準決勝を制し、いよいよ「ボルグ対マッケンロー」の決勝戦が決定する。そして観客から拍手とブーイングでそれぞれ迎えられ、ボルグとマッケンローはこれ以上なく盛り上がった決勝戦のコートで相対峙する・・・

『ラッシュ/プライドと友情』(My Cinema File 1420)で、ニキ・ラウダとジェームズ・ハントのライバル対決を観たが、これはテニス版。ボルグとマッケンローと言えば、我々の世代では懐かしいと思うだろう。そんな2人のライバル対決の舞台裏を観るというのは、それだけで興味深い。しかも、冷静極まりなかったボルグが、少年時代はコートでマッケンローばりの悪童ぶりだったというのも、トレビアである。

この映画で描かれるのは、ボルグが5連覇をかけてマッケンローと決勝で戦った大会。結果を覚えているほどファンではなかったから、観ていてどっちが勝つんだろうかという興味が湧いて湧いて仕方ない。何度、ググって結果を知ろうと思ったことか。手に汗握る決勝戦は、それ以前にボルグの過去を追っていったこともあって、気持ちが盛り上がる。マッケンローを演じたのが、シャイア・ラブーフというのも意外なキャスティングである気がしたが、さすがプロというべきか、観ていて違和感は感じなかった。

映画の最後の字幕で、ボルグとマッケンローのその後が紹介される。ボルグとマッケンローは結婚式に出席するほどの友人になったことが流れる。こうした結末も爽やかな余韻を残してくれる。あの時の歴史の裏側が、とても興味深い映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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