2021年11月27日

【劇場版「奥様は、取り扱い注意」】My Cinema File 2485

劇場版 「奥様は、取り扱い注意」.jpeg

2021年 日本
監督: 佐藤東弥
出演: 
綾瀬はるか:伊佐山菜美
西島秀俊:伊佐山勇輝
鈴木浩介:矢部真二
岡田健史:岩尾珠里
前田敦子:三枝礼子

<シネマトゥデイ>
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特殊工作員だった専業主婦が、トラブルを解決していくドラマ「奥様は、取り扱い注意」を映画化。ドラマ最終回のその後が描かれる。正義感の強い妻と実は公安のエリートの夫を、ドラマ版に続き綾瀬はるかと西島秀俊が演じる。ドラマ「家政婦のミタ」などの演出を担当した佐藤東弥がメガホンを取り、『オオカミ少女と黒王子』などのまなべゆきこが脚本を手掛けた。
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常々批判している「安易なドラマの劇場版」の一作であるが、綾瀬はるか主演となると、とりあえず観なければならないという思いにかられる。冒頭、某国の特殊工作員・伊佐山菜美は、中央アジアのとあるアジトに潜入、敵と激しい銃撃戦を繰り広げる。美しい格闘戦で敵を一掃する。影で糸を引いていたのは、菜美を兄の仇と付け狙うロシアの諜報員ドラグノフ。最後に相対峙したドラグノフの左目に傷を負わせると、菜美はヘリコプターで現場を離脱する。

しかし、実はこれは桜井久美が見ていた夢。久美は高校教師の夫・裕司とささやかながらも幸せに暮らす主婦だったが、唯一の問題は過去の記憶を失っているということ。久美の夢はテレビゲームの影響もあるようであり、定期的にカウンセリングに通っている精神科医・三枝礼子からはゲームを止めるよう助言されている。その頃、久美が暮らす珠海市の沖合の海底にはメタンハイドレートが大量に眠っており、街は市長の坂上洋子が主導する採掘賛成派と「珠海の自然を守る会」が主導する反対派に二分されている。近々行われる市長選の争点もこの採掘の賛否を問うものである。

この採掘を巡る動きにはきな臭いものが漂う。メタンハイドレートの研究に携わっていた北原教授は数日前から謎の失踪を遂げ、坂上市長を支援する調査会社社長の横尾義文は、裕司の勤める高校の改修費を寄付するなどして周辺に便宜を図っている。これ対し、裕司の同僚で坂上市長の元夫である矢部真二は反対派に回っているが、「珠海の自然を守る会」の事務所に何者かが侵入し、データを狙って室内が荒らされるという事件が起こっている。こうして物語は背景説明をこなしながら進んでいく。

劇場版の本作は、どうやらテレビドラマの最終回のラストシーンから続いているよう。しかしながら観ていない者にはわからない。ただし、テレビドラマを観ていなくともそれなりに違和感なく観られる。そのラストシーンでどうやら菜美は負傷し、それが元で記憶喪失になっている。安易、と言えば安易な展開であるが、もともと綾瀬はるかの出演作品はコメディ展開のものが多く、安易な展開でも普通に観られてしまう。

菜美の夫である勇輝は上司の池辺章から珠海市沖のメタンハイドレートの調査を行うグローバルマネーホールディングス社の不自然な金の流れを調査するよう命じられ、高校教師の“桜井裕司”に扮して珠海市で潜入調査をしている。それに伴い、菜美も“桜井久美”として同行している(もちろん、記憶を失った菜美は自分を高校教師を夫に持つ久美という名の主婦だと思っている)。池辺は勇輝に対し、菜美の記憶が戻っても公安の協力者にならなければ自らの手で始末するよう命じている。どういう組織なんだと劇場版しか観ていない者としては思ってしまう。

そしてグローバルマネー社の社長・浅沼信雄は、公安の読み通りロシアにメタンハイドレートの調査費を横流ししており、その陰にはロシアの諜報員ドラグノフがいる。採掘賛成派はそんな裏の意図を隠し、反対派をチンピラたちを使ってあの手この手で嫌がらせを行なっている。そんな嫌がらせの手は、久美(菜美)にも及び、トラックに轢かれそうになったりする。そして久美(菜美)は、チンピラに襲われている知人を助けようとして、殴られた際に記憶を取り戻す・・・

世界的には、女優のアクション映画が幅広く作られている。邦画でも篠原涼子が頑張ってみたりしているが(『アンフェア』My Cinema File 357)、遠く及ばない。ついに綾瀬はるかの出番となったようであるが、あまり女性アクション映画という感じではない。まぁ、それなりに格闘アクションがあって観られるレベルではあるが、綾瀬はるかも守備範囲が広いなと改めて思う。

あまり肩肘張って観る映画ではないが、リラックスして綾瀬はるかを目当てに観るならいいかもしれない。テレビドラマ版も観てみたいと改めて思う。西島秀俊もいい味を出しているし、安易なテレビドラマの劇場版ではあるが、個人的には好感を持って観られた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年11月26日

【バトル・オブ・ブリテン 史上最大の航空作戦】My Cinema File 2484

バトル・オブ・ブリテン 史上最大の航空作戦.jpeg

原題: Hurricane
2018年 イギリス・ポーランド
監督: デビッド・ブレア
出演: 
イワン・リオン:ヤン・ズムバッハ
マイロ・ギブソン:ジョン・A・ケント
ステファニー・マティーニ:フィリス・ランバート
クリストフ・ハーデク:ヨゼフ・フランチシェク
マルチン・ドロチンスキー:ヴィトルト・ウルバノヴィチ

<映画.com>
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1940年7〜10月にドイツ空軍とイギリス空軍の間で繰り広げられた史上最大の航空戦「バトル・オブ・ブリテン」を描いた戦争アクション。1940年、ダンケルクから撤退したイギリス軍は、ドイツ空軍による本土攻撃に対抗するため、総力を結集した航空作戦に乗り出す。ポーランドから亡命してきた空軍パイロットのヤンたちは、義勇兵として第303戦闘機中隊に編入される。303中隊は驚異的な撃墜数を記録するが、連合軍のヒーローとなった彼らを待ち受けていたのは、あまりにも残酷な運命だった。キャストにはテレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のイバン・リオン、メル・ギブソンの息子で『ハクソー・リッジ』にも出演したマイロ・ギブソン、「アンダー・ザ・スキン」のクリストフ・ハーデクら注目の若手俳優が集結。「のむコレ2018」(18年11月3日〜、東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品。
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1939年9月、ナチスドイツがポーランドに進攻して、第二次世界大戦が始まる。翌1940年、ドイツは電撃戦によってあっという間にフランスを降伏させる。そしてイギリス本土攻撃を狙う。そんなドイツ軍占領下のフランスで、ヤン・ズムバッハは、スイス人と称してドイツ軍の警戒網をくぐり抜けて、最後はフランス軍機を奪ってイギリスに亡命する。ヤンは実はポーランド人。たどり着いたのは、イギリス軍に参加するポーランド人パイロットが数多く居並ぶイギリス空軍第303戦闘機中隊。

実は邦題なのであるが、『バトル・オブ・ブリテン』というから、第二次世界大戦初期にイギリス空軍とドイツ空軍との間で繰り広げられた空戦を描いたものかと思っていたら、イギリス軍に義勇兵として編入されたポーランド人部隊を描いた実話ドラマだとわかる。例によって誤解を招くいい加減な邦題というわけである。誇り高き英国紳士は、このポーランド人パイロットたちを見下す。なにせポーランドはドイツ軍の侵入を受けてわずかな期間に降伏しているのである。

初めは、ポーランド人パイロットたちは爆撃機のパイロットに任命される。理由は「英語が喋れないから」。しかしながらこれにポーランド人パイロットたちは激しく反発する。「自分たちは戦闘機のパイロットである」と。それに対し、「負けた国のな」と返す英軍兵士たち。当時は人種差別も激しい時代。同じ白人でも英国紳士はポーランド人パイロットたちを野蛮人と見下す。

物語を盛り上げるためか、ロマンスを盛り込んでドラマは進む。RAF(Royal Air Force)のフィリスは作戦室勤務の女性兵士。同じ作戦室勤務のロロと恋仲にあるが、ポーランド人パイロットに好意的。面白くないロロは、パブでポーランド人パイロットたちと一悶着起こす。やがて訓練が進むが、実はポーランド人パイロットたちは優秀であり、実戦投入されるとその腕を存分に発揮する。激しい戦闘を繰り広げる中、第303戦闘機中隊は膨大な撃墜数を記録するが、その代償としての戦死者も少なくない。

原題は『HURRICANE』。ハリケーンとは、当時のRFAでスピットファイアと並ぶ戦闘機の名前。邦題は問題外だが、原題もよくわからない。次々と来襲するドイツ軍機。レーダーでこれをキャッチしたRFAが迎撃に上がる。空戦のようすは真に迫っていて、これはこれで一つの見どころである。初めは見下していたRFAの首脳部であるが、第303戦闘機中隊の戦果は著しく、やがてこれをプロパガンダに使うことにし、パーティーに呼ばれるようになる。ソ連軍も戦意高揚やイメージアップで女性スナイパーをパーティに出させたりしていた(『ロシアン・スナイパー』)が、何処も同じである。

結局、ドイツ軍はイギリス空軍の粘りに根をあげて攻撃の矛先を西に向けてしまう。守りきったという意味では、「バトル・オブ・ブリテン」はイギリスの勝利に終わったわけであるが、このポーランド人の部隊第303戦闘機中隊がRFA中の最高の撃墜記録をあげたというのは意外な事実である。それにしても身勝手なのはイギリス人。これだけの功績を挙げながら、戦争が終わったらポーランド人パイロットたちを国外追放にしたと言う。しかも世論も56%がそれを支持したとか。故国に帰っても帝国主義の協力者と言うことで、処刑されるたり強制労働に従事させられたりしたという。

邦題には余計な期待をさせられて怒り心頭なところがあるが、内容的には知られざる歴史を知ったという意味ではまずまずだったと言える。鼻持ちならない英国紳士の正体が実によく表れている映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2021年11月22日

【モリーズ・ゲーム】My Cinema File 2483

モリーズ・ゲーム.jpeg

原題: Molly's Game
2017年 アメリカ
監督: アーロン・ソーキン
出演: 
ジェシカ・チャステイン:モリー・ブルーム
イドリス・エルバ:チャーリー・ジャフィー
ケビン・コスナー:モリーの父
マイケル・セラ:プレイヤーX
ジェレミー・ストロング:ディーン・キース
クリス・オダウド:ダグラス・ダウニー
ビル・キャンプ:ハーラン
ブライアン・ダーシー・ジェームズ:ブラッド

<シネマトゥデイ>
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レオナルド・ディカプリオやベン・アフレックらが顧客リストに載っていたというポーカールームの女性経営者、モリー・ブルームを取り上げた実録劇。ギャンブルの世界に飛び込んだ元アスリートの女性が、人並み外れた才覚を発揮して世を渡り歩く姿を映す。監督は『スティーブ・ジョブズ』などの脚本を手掛けてきたアーロン・ソーキン。『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェシカ・チャステイン、『マンデラ 自由への長い道』などのイドリス・エルバらが出演する。
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2002年、冬季オリンピック予選。女子モーグル北米3位のモリー・ブルームは、オリンピック出場に後一歩のところに来ている。そしていよいよ予選の最終戦。しかし、最後のレースでコース内の突起物に引っ掛かってスキーの板が外れて大転倒。アスリート人生が一瞬にして終わりを迎える。厳格な父親のもと、幼い頃からハードな練習を重ねてきたモリーは、13歳の時にもスキー中の転倒で脊髄を損傷する大怪我をするが、大手術の末に復活していたが、今回はこれで終わりであった。

怪我が回復したモリーは、父親の反対を押し切ってロースクールを1年間先延ばしし、LAへ行く決意をする。資金を貯めるためにハリウッドのクラブでウェイトレスを始めるが、店の常連客ディーン・キースより声を掛けられ、彼が主催するポーカーゲームの手伝いをすることになる。サンセット大通りのコブラという店で毎週火曜日に開催されるポーカーゲームは、参加費1万ドル。ハリウッドスターのプレイヤーや映画監督、ラッパー、ボクサー、大物実業家など、大金持ちの有名人ばかりが集まる秘密の集いで、モリーはこれまでに想像もできなかった世界を目の当たりにする。

夢のための資金作りのアルバイトであったが、モリーは次第にポーカー・ゲームに集まるハイクラスの人々との交流に生き甲斐を見出すようになる。自信がついてきたところで、ある日モリーはディーンから突然のクビを言い渡されてしまう。いつの間にか単なるアシスタントからゲームの主催者としての意識を持ち始めていたところであり、そんな意識がディーンの癇に障ったのであろう。しかし、モリーもこのまま手を拱いて引き下がれない。一気に手筈を整えると、コブラのプレイヤーたちを自らが主催する「モリーズ・ルーム」に引き抜いてしまう。

順調に数年が過ぎるが、ある時モリーは常連客プレイヤー(匿名X)と決裂してしまう。それは負けが込んだ客に対する対応を巡るもの。本人が望むのであるから借金させろと主張するXに対し、モリーは信念を持ってこれを拒絶したのである。Xの逆鱗に触れたモリーだが、Xは一挙に客を引き上げてしまい、モリーズ・ルームはあえなく存続不能になってしまう。だが、それで諦めるモリーではなく、さらなるゲームをしかけるためにNYへ渡りる。

前半は、スポーツ選手からポーカー・ゲームの主催者へと転身したモリーの半生が描かれる。そして後半は自ら主催するポーカー・ゲームが客とのトラブルから一瞬にして失い、NYで再起する後半生となる。すでに回顧録「モリーズ・ゲーム」を出版するところまで行くが、好事魔多し、サイン会を終えベッドに入ったモリーはある日突然FBIに逮捕されてしまう。容疑は違法賭博の運営。母親の助けで保釈されたモリーは、裁判に備えて弁護士のチャーリー・ジャフィーのもとを訪ね、弁護を依頼する・・・

アメリカの法律はよくわからない部分があるが、どうやら顧客から手数料を受け取ると違法になるらしい。強制捜査により全財産が没収された上に、さらに税金として追徴金まで払うよう言われ、モリーには後が無い。さらに同時に逮捕された人物がロシアン・マフィアの関係者であり、マフィアとの関係も疑われる。たとえ金になっても黒い人物からの弁護は受けない主義のジャフィーには断られるが、粘るモリーは罪状認否に代理人として同行することだけを引き受けてもらう。

ストーリー的に裁判の部分がクライマックスとなるが、わかりにくいところがあるのは事実。モリーの行為のどこまでが違法で、果たして本当のところはどうなのかは難しい。ただ、ストーリーとしては、自らの保身よりも顧客を守ろうとするモリーの姿勢には、ジャフィーでなくても心打たれるものがある。厳格な父のもと、モーグルの世界にいたモリーが、ポーカー・ゲームの主催者になり、やがて逮捕される人生は波乱万丈。正に人間万事塞翁が馬という感じである。

トーニャ・ハーディングには母親であったが、モリーにも父親という存在が大きい。トーニャは結局、母親とは決裂したが、モリーは父親と和解する。自伝と言っても著名人というわけではない。しかしながらモリー・ブルームという女性の生きる姿は、さすがに映画化されるだけのものはある。ラストで、13歳のモリーがスキー場で転倒したシーンが描かれる。会場には「モリーはタダでは起き上がりません。彼女ならきっと復活することでしょう」と司会者のアナウンスが響く。

その後のモリーの人生を暗示するような印象的な締めくくりの映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2021年11月21日

【アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル】My Cinema File 2482

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル.jpeg

原題: I, Tonya
2017年 アメリカ
監督: クレイグ・ギレスピー
出演: 
マーゴット・ロビー:トーニャ・ハーディング
セバスチャン・スタン:ジェフ・ギルーリー
アリソン・ジャネイ:ラヴォナ・ハーディング
ジュリアンヌ・ニコルソン:ダイアン・ローリンソン
ポール・ウォルター・ハウザー:ショーン
マッケンナ・グレイス:トーニャ・ハーディング(8〜12歳)
ボビー・カナベイル:マーティン・マドックス
ケイトリン・カーバー:ナンシー・ケリガン
ボヤナ・ノバコビッチ:ドディ・ティーチマン

<シネマトゥデイ>
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第75回ゴールデン・グローブ賞作品賞(コメディー/ミュージカル)にノミネートされたほか、さまざまな映画賞で評価された伝記ドラマ。五輪代表に選ばれながら、ライバル選手への襲撃事件などのスキャンダルを起こしたフィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの軌跡を映す。監督は『ラースと、その彼女』などのクレイグ・ギレスピー。『スーサイド・スクワッド』などのマーゴット・ロビー、『キャプテン・アメリカ』シリーズのセバスチャン・スタンらが出演。
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アメリカ人女性で初めてトリプルアクセルを成功させたフィギュアスケート選手のトーニャ・ハーディングの自伝映画である(ちなみに世界初は伊藤みどり)。トーニャは4歳の頃からその才能の片鱗を発揮しており、母親のラヴォナはスケートコーチのダイアンにトーニャの指導を頼みに行くが、幼すぎるとして断られる。しかし、それで諦めるラヴォナではない。その場でトーニャを滑らせる。その滑りを見たダイアンは、すぐにその才能に気づき、コーチを引き受ける。このコーチもすごいと思う。そしてトーニャはその期待に応え4歳にして、年長者を押しのけて各賞をほしいままにする。

娘の才能を伸ばす良き母親と思いきや、ラヴォナの言動はまるで違う。粗暴な性格で、口も悪く、トーニャを叩くことは日常茶飯事。そんなトーニャの唯一の救いは優しい父親だったが、そんなラヴォナだからだろう、父もラヴォナに愛想をつかして去って行く。「行かないで」と泣く幼いトーニャを残して出ていってしまうのは、娘を持つ父親としては考えられない。自分だったら我慢するところである。

それはともかく、成長したトーニャが15歳になる頃には、すっかりラヴォナのような口ぶりの男勝りな性格になっている。そしてジェフと知り合い、惹かれ合っていく。しかし、ジェフが優しかったのは最初だけで、次第に暴力を振るうようになる。幼少期には母親の暴力、そして成長したら恋人の暴力と考えれば気の毒であるが、もはや暴力に慣れてしまっていたトーニャは、自分が悪いのだと考えて暴力に耐える。

そんなトーニャはスケートの才能だけは確実に伸ばす。1986年、フィギュア大会に出場したトーニャだが、型破りな演技のせいで高得点を逃す。詳しくはわからないが、当時は女らしい華やかな演技が受けていたのかもしれない。だからと言ってそんな演技をしたくないトーニャは、技術で勝負しようと誰も挑戦していないトリプルアクセルを飛ぶことを考え始める。

ラヴォナとの生活に嫌気がさしたトーニャは、ジェフと暮らし始める。質素だが満ち足りていたが、生活は苦しく、スケートの大会に出場するにも衣装など揃えられず、やむなく手作りする。しかし、芸術面の低さがあって審査員には認められない。それどころか審査員に悪態をつき、親身にアドバイスをくれるコーチのダイアンにも苛立ちをぶつけ、挙句にクビにしてしまう。

私生活では、トーニャはジェフと結婚する。ジェフを気に入らないラヴォナは、式には参加するも祝福はしない。新しいコーチと共に迎えた1991年の大会。20歳になったトーニャは、この大会で初めてトリプルアクセルに挑戦し、見事に成功させる。結果を出せば認められる。その偉業に世界中からの注目を集め、彼女を取り巻く環境は瞬く間に変わる。妻が評価されても、狭量な男はそれが面白くない。ジェフの家庭内暴力はエスカレートし、さすがのトーニャも我慢できなくなって家を出ていく。

リンクでの華々しい成功と、その裏での幸せとは言えない家庭生活。そのコントラストが際立つ。トリプルアクセルを武器に、各大会を制覇し1993年のアルベールビル五輪に出場する。そんなトーニャの人生を追って行くが、やがて世間を騒がす事件が起きる。当時、日本でもニュースになったのかもしれないが、興味もない世界だからだろうか、記憶にはない。才能はあったが、華やかさと気の毒さが交差する。誰のせいだろうと言えば、やはり母親の影響は大きいのかもしれない。

天国から地獄というよりは、天国と地獄と言うべきだろうか。栄光と挫折。今は幸せに暮らしているのかもしれないが、華やかに見える人にも影がある。その影が人一倍濃かったのがトーニャだったのかもしれない。彼女の幸せを祈りたくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆










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2021年11月20日

【地獄でなぜ悪い】My Cinema File 2481

地獄でなぜ悪い.jpeg

2013年 日本
監督: 園子温
出演: 
國村隼:武藤大三
堤真一:池上純
二階堂ふみ:武藤ミツコ
友近:武藤しずえ
長谷川博己:平田鈍
星野源:橋本公次

<映画.com>
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『愛のむきだし』 『ヒミズ』の鬼才・園子温監督が、自身初の娯楽作と銘打つアクション活劇。ヤクザの組長・武藤は、獄中の妻しずえの夢でもある、娘ミツコを主演にした映画の製作を決意。「映画の神様」を信じるうだつのあがらない映画青年と、通りすがりのごく普通の青年を監督に迎え、手下のヤクザたちをキャストに映画作りを始める。しかし、対立する池上組の組長でミツコに恋心を抱く池上も巻き込み、事態は思いもよらない方向へと進んでいく。園組へ初参加となる國村隼が武藤役で主演。ミツコ役の二階堂ふみ、池上役の堤真一ほか、長谷川博己、星野源、友近ら個性的かつ実力派の俳優たちが集う。
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映画好きの高校生平田は、監督志望。同級生の平行撮り担当の御木、手持ちカメラ担当の谷川とともに自主映画を作っている。そのスタイルは猪突猛進。これぞと思えば飛び込んでいく。高校生グループの喧嘩にも乱入し、フイルムを回す。そして一際動きの良かった佐々木をアクションスターにスカウトして「ファックボンバーズ」というグループを結成する。

一方、対立するヤクザの組同士が抗争のただ中にある。武藤組組長の命を狙って自宅に押し入った池上ほかヒットマン4人は、武藤大三の妻しずえの反撃にあって池上だけが生き残る。生き残った池上純は、家に帰ってきた武藤組長の娘ミツコと出会う。ミツコは10歳の子役タレントで、歯磨き粉のコマーシャルが好評を博しているが、瀕死の池上は肝の据わった凛々しく美しい少女ミツコに心を奪われる。しかし、出頭したしずえは逮捕され、これによりミツコのCMは打ち切りになってしまう。生き残った池上が、血だらけのまま事務所へ戻る途中、それを見つけた平田たちは、無謀ながらもその姿を撮影する。

そして10年の月日が経つ。大人になっても映画への情熱と愛が消えない平田たちだが、自主映画から卒業できずにいる平田に佐々木はいらだちを覚える。そして平田に愛想を尽かし、佐々木は平田たちとたもとを分かつ。一方、しずえの出所まであと10日となった日、刑務所に収監されているしずえに会いに行く武藤。武藤はしずえにミツコの主演映画が公開されると言うが、当のミツコは撮影を蹴って降りてしまっている。武藤はなんとかミツコ主演の映画を撮ろうとする。

そのミツコは、街中で偶然橋本という男に出会い、父親の武藤から逃げるために行動を共にする。しかし運悪く見つかってしまい、橋本ともども連れ戻されてしまう。武藤は橋本を殺そうとするが、機転をきかせたミツコが橋本は映画監督だと嘘を付き、橋本を救う。しかし、これで橋本は映画を作らざるを得なくなる。撮影の機材などはすべて事務所に用意されているが、橋本に映画など撮れるわけがない。逃げ出した橋本は、「映画を撮りたい」と平田が書いた紙切れを見つけ、平田に撮影を依頼する。撮影ができると聞いて平田は二つ返事でこれを引き受ける。

こうして撮影の体制を整えた平田だが、どんな映画を撮るかが問題。時に武藤組とかつて組長を襲撃した生き残りの池上が率いる池上組の抗争は続いており、平田はなんとヤクザの抗争を題材とすることを提案する。そして前代未聞、ヤクザの殴り込み抗争をリアルタイムで撮影する、しかもその主演はミツコとすることになる。ツッコミどころ満載で、あり得ない想定だが、物語はオーバーアクションに、そしてリズミカルに進む。

園子温監督と言えば、『ヒミズ』のように普通の映画もあるが、なんと言っても特徴的なのは、『愛のむき出し』(My Cinema File 2127)『愛なき森で叫べ』(My Cinema File 2332)、そして『冷たい熱帯魚』(My Cinema File 2397)のようなハチャメチャ系の作品。そしてこの映画もそのハチャメチャ系に分類される映画であり、ラストにかけての展開はもうあり得ない。

ある意味、独特で特徴的な映画と言える園子温監督作品。なんだか好き嫌いが別れそうであるが、個人的にはいいのではないかと思える。ただし、二度観るまではいかないというのが正直な感想である。あり得ない展開に文句を言うのは間違い。これはこれで「そういうもの」として観るのが正しい鑑賞方法であろう。とても理解されそうもない作品を撮りあげて歓喜する平田。なんとなく園子温監督に重なって見えてしまう映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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