
2020年 日本
監督: 波多野貴文
出演:
佐藤浩市:朝比奈仁
石田ゆり子:山口アイコ
西島秀俊:世田志乃夫
中村倫也:須永基樹
広瀬アリス:高梨真奈美
井之脇海:来栖公太
勝地涼:泉大輝
<映画.com>
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『アンフェア』シリーズなど手がけた秦建日子がジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆した小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」を映画化したクライムサスペンス。佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らの豪華キャスト陣を迎え、「SP」シリーズの波多野貴文監督がメガホンをとった。クリスマスイブの東京。恵比寿に爆弾を仕掛けたという一本の電話がテレビ局にかかって来た。半信半疑で中継に向かったテレビ局契約社員と、たまたま買い物に来ていた主婦は、騒動の中で爆破事件の犯人に仕立て上げられてしまう。そして、さらなる犯行予告が動画サイトにアップされる。犯人からの要求はテレビ生放送での首相との対談だった。要求を受け入れられない場合、18時に渋谷・ハチ公前付近で爆弾が爆発するというが……。
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12月24日、クリスマスイブの午前。東京・恵比寿のショッピングモールで主婦の山口アイコは夫へのクリスマスプレゼントを購入する。そして夫の好物のサンドイッチを買ったアイコはショッピングモール広場のベンチに座る。その様子を朝比奈仁が見つめる。
その数日前。会社員の印南綾乃と同僚の高梨真奈美は、合コンに参加する。綾乃は大ヒットアプリの開発者であるIT実業家の須永基樹のことが気になるが、感情の起伏の少ない須永はどうやら合コンには乗り気でなさそう。それでも綾乃は須永と後日二人きりで会う約束をする。その時、須永の元に私立探偵の田中一郎から「連絡が取れた」とのメールが送られてくる。
12月24日、午前11時17分。KXテレビに爆破予告の電話が入る。KXテレビの契約社員・来栖公太は先輩ADの高沢雅也と共に現場である恵比寿のショッピングモールに向かう。来栖と高沢が電話で指定された場所に着くと、そこのベンチに座っていたアイコが高沢に座るよう勧めてくる。高沢がベンチに座った瞬間、アイコは立ち上がり、このベンチの下には体重30キロ分の圧力を下回ると爆発する爆弾が仕掛けられていると告げる。
アイコは犯人から命令されていると言って来栖の手首に爆弾が仕掛けられた腕時計を取り付ける。アイコの腕にも同じ爆弾付きの腕時計がはめられており、命令を拒絶すると遠隔操作で腕の爆弾を爆破させると脅されていると告げる。そしてアイコは高沢にカメラを回し続けて中継するよう告げ、館内放送を流すために来栖を連れて警備室へと向かう。
アイコは警備員に、12時に爆破が起こるので避難指示の放送を流すよう頼むが、警備員は信用しない。その時、高沢の座っているベンチの近くのゴミ箱が爆発する。警備員は慌てて避難指示の館内アナウンスを発し、周囲はパニック状態になる。警察の爆弾処理班が到着し、ベンチの爆弾を液体窒素で冷却処理しようと試みるが、その様子を見ていた朝比奈が「いつもそうだと限らない」と呟いた瞬間、大きな爆発音が鳴り響く。
アイコと来栖を巧みに操り、姿を見せない爆弾犯は、脅迫が本物であることを示した後、ネットで政府に要求を突きつける。一方、警視庁渋谷署には爆発事件対策本部が設置される。世田志乃夫警部補とその相棒である若手警官・泉大輝もそこに招集される。犯人像としては特殊部隊の経験者などが取りざたされるが、世田は「先入観が捜査の邪魔をする」と考える。
犯人から出された犯行声明において犯人に従わされた来栖が、磯山首相に対し「テレビの生放送で、1対1で対話させよ」と要求する。通常、こうした場合は金銭を要求したり、仲間の解放を要求したりするものだが、「対話」というのも面白い。一体、「対話」で犯人は何を表明しようというのだろうか。そんな騒動をよそに真奈美と綾乃は、爆破予告がなされた渋谷駅で須永を見かける。
渋谷駅前では機動隊が到着し、ハチ公前は封鎖される。爆発物捜査班がゴミ箱やトイレなど爆発物がないか捜索して回る。しかし、渋谷駅周辺は騒動見たさの野次馬が大勢詰めかける。それはまるでハロウィンのどんちゃん騒ぎのよう。そこには爆弾が爆発したらという危機感などまるでない。誰もが本当に爆発が起きるなどとは想像もしない。ストーリーを盛り上げる展開だが、あながちフィクションとも言い切れない。実際にこんな爆破予告がなされたら、本当にこんな大騒動が起きるのではないかと思わされる。そして爆破は現実化する・・・
物語は謎の爆弾犯人とその犯行動機を描いて行く。そして現れた意外な犯人。なかなか現実的には無理筋のストーリーに思えなくもないが、あくまでもフィクションであるから気にしない。それよりも冒頭、テレビに登場した磯山首相は折からの国際情勢に触れて国防増強の必要性を訴える。犯人の目的もそういう首相の姿勢についてのもので、何やらメッセージ性の強さを感じる。犯人が犯行を思い立った動機もその線に沿って描かれていく。そのあたりは賛否のあるところだが、テロはテロ、犯罪は犯罪でしかないのは当然のことである。
個人的には、爆破予告がなされているにも関わらず、人ごとだと考えて集まって騒ぐ若者たちの姿こそが日本の問題点のように感じてしまった。「戦争のできる国にする」という磯山首相の姿勢よりも危険の中で乱痴気騒ぎをする若者たちこそなんとかしないといけないのではないだろうか。映画は架空のストーリーであるが、だからこそリスクの可能性を可視化して描けるということができる。考える材料の提供である。そういうなんらかのメッセージを届けるとしたら、この映画はそれに成功していると言える映画である・・・
評価:★★☆☆☆