
原題: Harriet
2019年 アメリカ
監督: ケイシー・レモンズ
出演:
シンシア・エリボ:ハリエット・タブマン(ミンティ)
レスリー・オドム・Jr. :ウィリアム・スティル
ジョー・アルウィン:ギデオン・ブローダス
ジャネール・モネイ:マリー・ブチャノン
ボンディ・カーティス=ホール
マイケル・マランド:エドワード・ブローダス
ザカリー・モモー:ジョン・タブマン
<映画.com>
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アフリカ系アメリカ人女性として初めて新20ドル紙幣に採用された奴隷解放運動家ハリエット・タブマンの激動の人生を映画化。「プレイヤー 死の祈り」の女性監督ケイシー・レモンズがメガホンをとり、「ホテル・エルロワイヤル」など映画でも活躍するミュージカル女優シンシア・エリボが主演を務め、主題歌も担当。第92回アカデミー賞では主演女優賞と主題歌賞にノミネートされた。1849年、メリーランド州。ブローダス家が所有する農園の奴隷として幼い頃から過酷な生活を強いられてきたミンティは、いつか自由の身となって家族と一緒に人間らしい生活を送ることを願っていた。ある日、奴隷主エドワードが急死し、借金の返済に迫られたブローダス家はミンティを売ることに。家族との永遠の別れを察知したミンティは脱走を決意し、奴隷制が廃止されたペンシルベニア州を目指して旅立つが……。共演は「女王陛下のお気に入り」のジョー・アルウィン、『ドリーム』のジャネール・モネイ。
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これまでも黒人奴隷の苦難を描いた作品は多々観てきたが、これはアフリカ系アメリカ人女性として初めて新20ドル紙幣に採用された奴隷解放運動家ハリエット・タブマンを描いた実話ということで興味深い作品である。
時に1840年代のメリーランド州のブローダス農場。黒人奴隷のミンティは、奴隷から解放された自由黒人のジョン・タブマンと結婚している。ジョンとミンティは、それぞれ別々の農場で働いている。同じ農場の黒人同士で結婚するものかと思っていたので、ちょっと意外である。冒頭で、ミンティはジョンと共に農場のオーナーで奴隷の所有者エドワード・ブローダスに自由黒人になれるという約束をした手紙を見せ、その履行をせまる。しかし、エドワードは無情にもその手紙を破り捨てる。
約束を守るどころかブローダス家の跡取りギデオンはミンティを殴った上、なんとミンティを売りに出す。かつてミンティは、実の姉を売られてしまったという過去を持ち、当時のそれは永遠の別れに等しいことでもあり、遂にブローダス農園からの逃走を決意する。ミンティはジョンと再会を約束して別れ、父ベンを訪ねる。ミンティの決意を知った父は、ミンティに教会を訪れることを勧める。そしてミンティは、そこで牧師から逃走のアドバイスを受ける。
翌朝、ギデオン達はミンティがいなくなったのに気づき捜索を開始する。犬を使った捜索で、ギデオンはたちまち森をさまようミンティを橋の上に追い詰める。逃げ場を失ったミンティは、「自由よりも死を選ぶ」とギデオンに覚悟を告げると、橋の上から流れの激しい川に飛び込む。なんとか川岸にたどり着いたミンティは、馬車に隠れて乗り込んで移動する。白人もすべてが同じではなく、黒人に同情的な白人もいる。馬車のオーナーは、ミンティに気付きながらも逃亡を見逃す。こうしてミンティは、牧師に教えられたフィラデルフィアの黒人奴隷解放組織を目指す。
なんとかフィラデルフィアにたどり着いたミンティは、黒人奴隷解放組織を探しあて、リーダーのウィリアム・スティルに会う。ウィリアムはミンティの100マイルに及ぶ逃走に驚き、ミンティに新しい生活を始めるにあたり、新しい名前を名乗ることを勧める。ミンティは母の名前と夫の姓から「ハリエット・タブマン」と決める。そしてハリエットは、自由黒人のマリー・ブキャナンを紹介され、マリーの家で暮らすことになる。1年後、生活が落ち着いたハリエットは、家族を解放することを決意する。
せっかく逃亡に成功したのに、再び戻るのは勇気のいることだと思う。見つかって捕まれば、足の腱を切られて逃げられないようにされるかもしれない。そうなれば一生奴隷生活から逃げられない。しかし、ハリエットの決意は変わらない。そしてなんとかブローダス農園に着いたハリエットは、ジョンと再会する。ところが、ジョンはすでに再婚して子供が生まれるという。危険を冒して戻ったハリエットにとっては重大な裏切り行為に思われるが、ハリエットが死んだと聞かされたジョンにしてみれば無理もないかもしれない。
やむなくハリエットは父ベンに会う。ハリエットは父ベンに逃亡を勧めるが、ハリエットが死んだと聞かされて精神を病んだ母を連れて行くのは難しいと判断し、残ることする。そして代わりにブローダス農場の5人の奴隷をフィラデルフィアに連れて行くことにする。農場から5人もの奴隷が逃亡したという知らせにパニックになったギデオンとエリザは、奴隷ハンターを雇ってハリエットら逃亡奴隷の追跡を始めるが、ハリエットたち一行は逃げ切ってフィラデルフィアのウィリアムの事務所に戻る。ウィリアムはこの快挙に驚きハリエットを賞賛する。
この実績を評価されたハリエットは、奴隷を助ける組織「地下鉄道」に紹介され、その一員として以後大勢の奴隷の逃亡を助け、「モーゼ」というニックネームで知られるようになる。こうした活躍が新20ドル札に採用されることになったのだろう。家族がある日突然、オーナーの都合で売られ、離れ離れになる。それが今生の別れになったりする理不尽。改めて奴隷制の酷さに愕然とする。奴隷制を描いた映画はどれも同じ理不尽さを描くが、現代でも残る差別意識は、白人の醜さを表す。
一方、ギデオンを代表とする奴隷の所有者たちにとっては、奴隷は家畜と同じ感覚だったのだろう。ひどいことではあるが、それが当時の価値観であればわからなくもない。農場経営も楽ではなく、奴隷の逃亡は死活問題であれば青くなるのも当然。奴隷の数がステイタスにもなっていたり、当時の白人の価値観も興味深いものがある。そしてハリエットはその後も次々と奴隷たちを逃亡させる。その活躍は胸に心地よい。
ハリエットは90歳を過ぎるまで生きたという。実話の持つ説得力も高く、改めてアメリカの暗部を知ることができ、エンターテイメントとしても歴史の記録としても面白い映画である・・・
評価:★★☆☆☆