2022年08月27日

【フューリアス 双剣の戦士】My Cinema File 2589

フューリアス 双剣の戦士.jpeg

原題: Furious
2017年 ロシア
監督: イバン・シャーコベツキー
出演: 
イリャ・マラコフ:エヴパーチー・コロヴラート
アレクセイ・セレブリャコフ:ユーリ
アレクサンドル・イリン:カルクン
ユリア・クリニーナ:ラダ
アレクサンドル・ツォイ:バトゥ

<映画.com>
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ロシア史に残る伝説の戦い「バトゥのリャザン襲撃の物語」をモチーフに、強大なモンゴル帝国軍にたった1人で立ち向かった戦士の死闘を壮大なスケールで映像化したソードアクション。13世紀半ば、暴君バトゥ率いるモンゴル軍は支配地域を次々と広げ、その勢力をヨーロッパへと拡大、複数の公国に別れていたロシアに侵攻する。ほとんどの大公がモンゴルの強大な力に屈していく中、リャザンの大公は降伏を拒否。彼の土地は、ロシア最強の戦士コロブラートに守られていた。激怒したバトゥは熟練兵たちの大軍隊を編成してリャザン公国に攻め込む。出演は「裁かれるは善人のみ」のアレクセイ・セレブリャコフほか。ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2018」上映作品。
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時に13世紀の中世ロシア。その都市リャザンに住む13歳のエヴパーチーは、2本の剣を振り回して遊んでいる(本人は訓練のつもりか)。そこへ通りかがった大公の一行。同行していた大公の娘ナスチャは、それを見て「糸車」みたいと微笑む。そしてエヴパーチーに「コロヴラート(糸車)」とあだ名をつける。その刹那、大公一行はモンゴル軍の待ち伏せにあい、大公は攫われてしまう。コロヴラートも攫われることはなかったが、襲われて気を失う。

それから時を経てコロヴラートは成長し、今はナスチャと結婚して子供もいる。しかし、モンゴル軍に襲われた後遺症なのか、毎朝起きる度に13歳の頃の記憶に戻ってしまう。襲われた時の悪夢に目覚めると、しばらくは過去を思い出せないため、ナスチャが懸命に介抱しなければならないほど。それ以外では、コロヴラートは軍の隊長を務め、リャザンで大公の信頼も厚い存在である。

そんなある日、モンゴル軍が大軍を率いてリャザンを包囲する。圧倒的な大軍勢に大公はモンゴル軍に使節を送り、交渉することによって時間を稼ぎ、周辺の都市に援軍を頼もうと試みる。使節に選ばれたのは大公の子息。コロヴラートも護衛として付き添う。使節を迎えたモンゴル軍の司令官ハン・バトゥは、特権を示す首飾りを与え服順を要求する。しかし、これを拒否したコロヴラートらは命からがら脱出する。

コロヴラートらは遠回りをしながらリャザンに帰るが、すでにモンゴル軍の攻撃によりリャザンは壊滅した後だった。都市のシンボルである鐘を直して鳴らすと、隠れて避難していた人々が集まってくる。しかし、鐘を聞いたモンゴル軍の兵士たちが戻ってくる。これを迎えたコロヴラートは、見事な二刀流でモンゴル軍の兵士を切り捨てる。そして怯える民衆達を励まし、モンゴル軍と戦うことを宣言する。

モンゴル軍によって大公は家族諸共殺され、コロヴラートも妻子を失う。失うものは何もない。わずかな手勢でモンゴル軍に立ち向かっていくストーリー。野生の熊を操る仲間に助けられるなど、マンガチックな展開もあるが、数的不利をゲリラ線でモンゴル軍を翻弄していくコロヴラートたち。結果は予想通りというわけではなかったが、荒唐無稽なストーリーでなかったところが面白さを増したところかもしれない。

13世紀と言えば、日本も元寇で苦しんでいる。バトゥはチンギス・ハンの孫らしいが、世界史は繋がっていると感じられる。コロヴラートは伝説らしいが、興味深いロシア史を描く映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2022年08月26日

【永遠の門 ゴッホの見た未来】My Cinema File 2588

永遠の門 ゴッホの見た未来.jpeg

原題: At Eternity's Gate
2018年 イギリス・フランス・アメリカ
監督: ジュリアン・シュナーベル
出演: 
ウィレム・デフォー:フィンセント・ファン・ゴッホ
ルパート・フレンド:テオ・ファン・ゴッホ
マッツ・ミケルセン:聖職者
マチュー・アマルリック:ポール・ガシェ医師
エマニュエル・セニエ:ジヌー夫人
オスカー・アイザック:ポール・ゴーギャン

<映画.com>
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「潜水服は蝶の夢を見る」「夜になるまえに」のジュリアン・シュナーベル監督が画家フィンセント・ファン・ゴッホを描き、2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、ゴッホ役を演じた主演ウィレム・デフォーが男優賞を受賞した伝記ドラマ。画家としてパリで全く評価されないゴッホは、出会ったばかりの画家ゴーギャンの助言に従い南仏のアルルにやってくるが、地元の人々との間にはトラブルが生じるなど孤独な日々が続く。やがて弟テオの手引きもあり、待ち望んでいたゴーギャンがアルルを訪れ、ゴッホはゴーギャンと共同生活をしながら創作活動にのめりこんでいく。しかし、その日々も長くは続かず……。作品が世に理解されずとも筆を握り続けた不器用な生き方を通して、多くの名画を残した天才画家が人生に何を見つめていたのかを描き出していく。ゴッホ役のデフォーのほか、ゴーギャンをオスカー・アイザック、生涯の理解者でもあった弟テオをルパート・フレンドが演じるほか、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリックら豪華キャストが共演。
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ゴッホと言えば、「ひまわり」などの名画で知られる画家。素人でも耳を切り落としたりして精神に疾患を抱えていたということは知っている。また、ゴッホの描いた絵は現代では美術館に飾られ、オークションに出されれば破格の価格がつくが、生前にはほとんど売れなかったというエピソードもよく知られている。そんな画家の生涯を描いた作品。

物語はパリで始まる。画家として絵を描いてはいるも、全く売れずに苦心するゴッホ。カフェに展示して販売を試みるも、オーナーからはこんな絵は売れないと撤去を求められる。飾られている絵の中には現在でも知られているものがあり、そんな未来を知ったらこのオーナーはどんな顔をするのだろうと思わず想像してしまう。そんな日々の中、ある時画家が集う集会で1人の画家出会う。

周りとの意見の違いから憤慨しカフェを後にしたその画家の姿に何かを感じたゴッホは、後を追って話しかける。画家はゴーギャンと名乗る。「新しい光を見つけたい」という思いを伝えるゴッホに対し、ゴーギャンはそれならば南へ行けとアドバイスする。この一言でゴッホは南仏アルルへと旅立つ。伝記とは言え、エピソードの一つ一つがどこまで真実なのかはわからないが、ゴッホとゴーギャンの関係というのは知らなかったことであり、興味深く観る。

アルルでの生活は自然と密接ではあるものの、ゴッホの生活は貧しい。強風が窓を打ち鳴らす中、寒さに凍えるも暖はない。靴を脱げば靴下には穴が空いている。穴というよりも先がないという方が正確かもしれない。アルルの自然は圧巻だ。枯れてしまったひまわり畑が広がる様はこの世の終わりのようでもあるが、咲き誇ったところを想像するとゴッホが描いたのもわかる気になる。そして黄昏時に金色に光る麦畑は見るだけで美しい。

ゴッホは毎日キャンバスを持って出かけて行くが、なぜか子供たちから石を投げられる。怒ったゴッホに子供たちの親が応戦し、小競り合いが生じる。地元住民との折り合いが合わず、とうとうゴッホは入院を強いられる。この頃から精神に異常をきたし始めていたのであろう。ゴッホの住んでいる家の世話をしていたのがジヌー夫人。その夫人から「1週間に1回は体を洗ったほうがいい」と諭される。浮浪者のように臭っていたのだろうが、子供たちから石を投げられたのはそんなところが原因だったのかもしれない。

入院の知らせを聞いてパリから弟のテオが駆けつけてくる。弟ながらテオは、毎月250フランを送ったりしてゴッホの面倒を見ていたようである。この時もゴッホに寄り添い慰める。当時パリからアルルまで丸一日かかったらしく、忙しい中駆けつけるほどの兄弟愛は何だったのだろうかと思う。そしてゴッホの精神が病んでいることを心配した弟テオは、ゴーギャンに資金的援助をする代わりにゴッホとしばらくの間アルルの地で一緒に生活をしてほしいと頼む手紙を送る。

ゴーギャンとのアルルでの生活はゴッホにとって喜びであったが、やがて2人の間にスタイルの差異が生じる。デッサンをしながら頭の中にあるイメージをゆっくりと描き出していくゴーギャンに対し、素早く荒々しいタッチでどんどん描いていくゴッホ。互いに互いのスタイルを批判しあう。もっと落ち着いてゆっくり描けとアドバイスするゴーギャンの意見は最もだが、すでにゴッホの中には抑制できない溢れる熱狂に突き動かされていたのかもしれない。

そうした日々を映画は追う。有名な左の耳を自ら切り落とすという奇行は、意見の対立からゴーギャンがゴッホの元を去った後。こうして流れで見るとよくわかる。そして37歳でこの世を去るまでを映画は描く。断片でしか知らなかった画家の生涯を(フィクションはあるかもしれないが)映画という形で観られるのは、ゴッホに対する理解という点で有意義である。ゴッホを演じるのは、ウィレム・デフォーであるが、見事になりきっている。

ウィレム・デフォーの他にマッツ・ミケルセンが聖職者役で登場する。チョイ役であり意外な気もするが、地味に大物俳優が出ているのも見どころの一つかもしれない。それにしても、ピカソよりはまだ理解できるが、ゴッホの絵も素人には難しい。生前、まったく売れなかったのも無理はないと思う。映画はゴッホの葬儀で終わるが、その後どういう経緯で売れるようになったのか、非常に興味深い。その死も自殺ではなく、2人の少年に銃で撃たれたとして描くが、その真相もまた興味深い。

静かで時折眠くなるが、味わい深い映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2022年08月21日

【ラブストーリーズ エリナーの愛情】My Cinema File 2587

ラブストーリーズ エリナーの愛情.jpeg

原題: The Disappearance of Eleanor Rigby: Her
2013年 アメリカ
監督: ネッド・ベンソン
出演: 
ジェームズ・マカヴォイ:コナー・ラドロー
ジェシカ・チャステイン:エリナー・リグビー
ニーナ・アリアンダ:アレクシス
ヴィオラ・デイヴィス:リリアン・フリードマン教授
ビル・ヘイダー:ステュアート
キアラン・ハインズ:スペンサー・ラドロー
イザベル・ユペール:メアリー・リグビー
ウィリアム・ハート:ジュリアン・リグビー
ジェス・ワイクスラー:ケイティ・リグビー

<映画.com>
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ある男女のひとつの物語を、男性側と女性側それぞれの視点から描いた「ラブストーリーズ」の女性主人公版。ジェシカ・チャステイン扮する女性エリナーと、ジェームズ・マカボイが演じる男性コナーの夫婦が、子どもを失ったことで結婚生活を解消し、新しい人生を歩み始める。どこかむなしい日々が続く2人がやがて再生していく過程や、同じものを求めながらもすれ違ってしまう男女それぞれ心の機微を、2作品を通して描き出す。監督は本作が長編初作品となるネッド・ベンソン。
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立場が変われば見方も変わる。人は誰もが自分の人生の主人公。したがって、人の数だけドラマがある。そんなことを実感させられるこの映画、『ラブストーリーズ コナーの涙』の別バージョンである。『ラブストーリーズ コナーの涙』がコナーの視点から描かれていたのに対し、この作品はエリナーの視点から描かれる。なかなか面白い試みである。

舞台はニューヨーク・マンハッタン。エリナーは自転車で橋へやってくると、なんと柵を飛び越えてハドソン川に身を投げる。幸い通行人が飛び込む瞬間を目撃しており、エリナーはすぐに救助され、病院へと運ばれる。運よく怪我は腕の骨折だけで済むが、これが『ラブストーリーズ コナーの涙』では描かれていなかったエリナーが病院に運び込まれた経緯である。そしてエリナーは、妹ケイティに付き添われて実家に戻ってくる。

家には大学教授の父と音楽家の母、シングルマザーのケイティと息子フィリップが暮らしている。父から気分転換に大学で講義を受けてみてはどうかと勧められたエリナーは、父の知人リリアン教授の講義を聴講することになる。コナーがシェフのステュアートから聞いたのは、こうして大学に通うようになったエリナーの姿である。そんなエリナーが大学で講義を受けていると、後ろの席からメモが回ってくる。書いたのはコナー。これも既に観ているシーンである。

コナーに気付いたエリナーは、動揺して教室を飛び出す。コナーも後を追い、エリナーに話をしたいと言うが、エリナーはこれを拒否して去ろうとする。追いかけようとしたコナーがタクシーに追突されるのも既に観た通りである。2人のシーンは重なり合うが、エリナーが単独で行動するシーンはこの映画でのみ描かれる。エリナーが大学で講師のリリアンと徐々に仲良くなっていくのはその一つである。

エリナーは決してコナーに対する愛情が失せたわけではない。それが証拠に、エリナーはコナーの店を訪ね、2人で嵐の中をドライブに出かける。コナーの視点から観たシーンでもエリナーの視点から観るとまた違ったシーンに見えてくる。コナーが他の女性と関係を持ったことを知ったエリナーはショックを受け、途中で車から降りる。そしてケイティとともにクラブに踊りに出かけたエリナーは、そこで知り合った男と一晩だけの関係を持ちそうになるが、我に返って思いとどまる。

映画のラストシーンは同じであるが、視点が違う。視点が違えば、同じドラマも違ったものに見える。共に暮らしている夫婦でも、その視点は異なる。エリナーにはエリナーの、コナーにはコナーの視点がある。そんなことを自然と感じさせてくれる。2人が亡くなった子供のことを語るシーンでは、同じシーンなのにセリフが違っていたように思えたが、気のせいかもしれない。

原題は“The Disappearance of Eleanor Rigby”。前作はこれに“Him”というサブタイトルがつき、本作は“Her”とつく。そう言えばエリナーのフルネームは「エリナー・リグビー」。言わずと知れたビートルズの曲名で、リリアンが歌詞の一部を語っているので、ビートルズの曲から来ているのは間違いないが、何か意味があったのかは最後までわからなかった。ただ、引用したその歌詞“All the lonely people Where do they all come from?”は、ストーリーと妙にマッチしているから、そこからインスピレーションを得たのかもしれない。

2人の視点から見た一つのストーリー。人の数だけストーリーはある。ストーリーそのものより、そんな構成が成功したと言える映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2022年08月20日

【ラブストーリーズ コナーの涙】My Cinema File 2586

ラブストーリーズ コナーの涙.jpeg

原題: The Disappearance of Eleanor Rigby: Him
2013年 アメリカ
監督: ネッド・ベンソン
出演: 
ジェームズ・マカヴォイ:コナー・ラドロー
ジェシカ・チャステイン:エリナー・リグビー
ニーナ・アリアンダ:アレクシス
ヴィオラ・デイヴィス:リリアン・フリードマン教授
ビル・ヘイダー:ステュアート
キアラン・ハインズ:スペンサー・ラドロー
イザベル・ユペール:メアリー・リグビー
ウィリアム・ハート:ジュリアン・リグビー
ジェス・ワイクスラー:ケイティ・リグビー

<映画.com>
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ある男女の別れから再生までを、男女それぞれの視点から描いた「ラブストーリーズ」の男性主人公版。子どもを失い、結婚生活を解消したコナーとエリナーは、それぞれ新たな生活をスタートさせるが、空虚な日々が続く。男性主人公コナーを演じるのは、『X-MEN:フューチャー&パスト』 『つぐない』のジェームズ・マカボイ。エリナー役は『ゼロ・ダーク・サーティ』 『インターステラー』などで知られる演技派で、本作ではプロデューサーも務めているジェシカ・チャステイン。
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コナーとエリナーは恋人同士。レストランでの食事を終えると、コナーは食い逃げを提案する。まずはエリナーがさり気なく先に店を出て、コナーがそれを追う。店員に見咎められると、2人は一目散に逃げ出す。駆け込んだ公園でホタルを見ながら2人は幸せな一時を過ごす。金がなかったわけではないだろうが、若い恋人にはちょっとしたスリルと冒険が必要だったのだろう。

それから数年後、コナーはニューヨークで小さなレストランを営み、エリナーとの結婚生活を送っている。ある日、彼が帰宅すると、エリナーがひどく落ち込みベッドから出られずにいる。エリナーはコナーが浮気をする夢を見たと言い、さらにコナーに浮気しろと言う。コナーは聞き流すが、翌日コナーはエリナーが病院に運ばれたという電話を受け取る。病院に駆け付けたコナーにエリナーは別れを告げ、そのままエリナーはコナーとの連絡を断つ。

冒頭の幸せなカップルからはひどい変わりようであるが、実はその間に2人は幼い息子を亡くすという悲劇に見舞われているとわかってくる。エリナーが去った部屋にいるのも気が滅入るのか、コナーは父親の家に戻る。父親は、自身が経営するレストランをコナーに任せようとするが、コナーはこれを拒否する。店のシェフでもある親友のステュアートには包み隠さず話をしているが、ステュアートからエリナーがニューヨーク大学に通っていると聞くと、居ても立ってもいられず、コナーは密かにニューヨーク大学へと足を向ける。

エリナーは髪を切り聴講生として講義を受けているが、コナーは講義中にエリナーにメモを回してもらう。エリナーはコナーに気づくと教室を飛び出すが、コナーは追いかけ、エリナーに話しかける。エリナーはこれを振り切ろうとするが、コナーがタクシーに轢かれてしまい、救急車の到着までしばらく2人は会話をする。未練がましいコナーに対し、エリナーは、さよならと告げて救急車を見送る。

子供が亡くなった前後の事情はわからない。しかし、何かが2人の歯車を狂わせてしまったのだろう。それぞれ親としての悲しみはあるが、それは必ずしも同じではない。エリナーの気持ちをコナーは理解できない。男とはそういうものだろう。そんな傷を引きずっているためか、コナーのレストランは経営状態が悪化していく。されどコナーにそれを覆す気力は生じない。そんな中で、コナーはレストランのバーテンダーのアレクシスに迫られ一夜を共にする・・・

ラブストーリーというタイトル(邦題)であるが、それは掛け違えたボタンのようにすれ違う物語。コナーとエリナーとそれぞれ異なる思いと、それぞれの家族と友人との交流をドラマは描いていく。どちらが悪いというわけではない。それが証拠に、エリナーはコナーのレストランを突然訪れ、コナーを誘って車を借りてドライブに繰り出す。コナーもレストランを放ってこれに応じる。それは燃えるようなデートではないが、雨の降る中、どこへとも向かうものではない静かなもの。

コナーとエリナーとは元の鞘に戻るのかどうか。観る者にもわからない。2人が亡くなった息子のことを話すシーンは切ない雰囲気が漂う。エリナーが、コナーと距離を置きたいという気持ちもわかるような気がする。それは決して愛がなくなったわけではないが、すぐに元に戻れるものでもないのだろう。ジェームズ・マカヴォイとジェシカ・チャステインという2人の大物の出演。ストーリーを補ったのは、変わった二部作という特徴と2人の大物の出演だろう。

映画はこの他の『ラブストーリーズ エリナーの愛情』と二部作になっている。二部作で一つの作品として楽しみたい一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2022年08月19日

【ランナウェイ・ブルース】My Cinema File 2585

ランナウェイ・ブルース.jpeg

原題: The Motel Life
2012年 アメリカ
監督: アラン・ポルスキー/ガブリエル・ポルスキー
出演: 
エミール・ハーシュ:フランク
スティーヴン・ドーフ:ジェリー・リー
ダコタ・ファニング:アニー
クリス・クリストファーソン:アール・ハーリー

<映画.com>
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スティーブン・ドーフとエミール・ハーシュが固い絆で結ばれた兄弟を演じたドラマ。孤児として育った兄ジェリー・リーと弟フランクのフラナガン兄弟は、フランクが語る痛快な冒険譚をジェリー・リーがイラストに描き起こし、日々のつらさを笑い飛ばしていた。ジェリー・リーは子どもの頃に負った怪我のせいで何事もうまくいかず、弟に頼り切りだったが、フランクもそんな兄を見捨てることなく生きてきた。ある時、ジェリー・リーが交通事故を起こしてしまい、フランクは父親の形見の銃を売って資金を作り、兄を連れて逃亡。かつての恋人アニーのもとに向かうが……。2012年ローマ国際映画祭で観客賞や脚本賞など4つの賞を受賞した。
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フランクとジェリー・リーは2人きりの兄弟。2人は幼い頃に母を亡くしている。おそらく病気で死期を悟っていたのであろう、母親は2人で助け合うように言い残しこの世を去る。2人は故郷を離れるが、移動途中で列車に飛び乗ろうとして兄ジェリー・リーは、片足を失う。以来、弟のフランクは兄を助けている。さらにフランクは、物語を創作して語るのが得意であり、ジェリー・リーはそれを聞くのが楽しみである。

ある夜、ジェリー・リーが夜中にフランクの元に駆け込んでくる。そして理由も語らず逃げようとフランクを急かす。訳もわからぬまま、車を走らせるフランク。ようやく落ち着いたジェリー・リーが語るには、その夜、車でどこかの少年を轢いてしまったという。降りて確かめると少年は既に死んでおり、遺体を病院の前に放置して逃げてきたのだと言う。2人は途中で休憩するが、フランクが降りた隙にジェリー・リーは車を走らせていずこかへと姿を消してしまう。

ジェリー・リーは、証拠を隠滅しようと車に火をつける。そして1人橋の下に来ると、徐に銃を取り出して引き金を弾く。フランクはその連絡を受けて病院に駆けつける。てっきり頭を撃ち抜いたのかと思っていたが、撃ち抜いたのは自分の脚。そもそも自殺するならなぜ証拠隠滅などするのか。兄なのにどうも弟の方がしっかりしている。フランクが病院に着くと、ジェリー・リーは情けなくベッドに横たわっている。そしてニュースでは、子供がひき逃げで死亡したことを報じている。

時にボクシングのヘビー級チャンピオンマイク・タイソンが東京でジェームス・ダグラスとの防衛戦を行うことになっている。フランクは友人から下馬評を覆してダグラスが勝つと聞かされ、ダグラスに250ドルを賭ける。ロンドンのが有名であるが、アメリカでも公式の賭けがあるのだろう。この試合で番狂わせが起こり、フランクの掛け金は9,000ドル以上になる。

喜びも束の間、やがて警察の捜査が病院に及び、フランクはジェリー・リーを連れて慌てて病院を逃げ出す。手にしたお金で長年親しく付き合ってきたアールから中古車を買い、2人で逃亡する。そしてエルコという街に着き、2人はモーテルに宿を取る。原題はここからきているのだろう。邦題は、2人が逃げるところからきているのだろう。逃亡生活というより、このエルコの街にこそ、フランクが目指した理由があったのである。

ある程度の雰囲気は予想できたが、この手の映画が一番観るのを迷う。なんとなくはずれそうな雰囲気が満ちているからである。それでも観てみようと振り切ったのは、やはり出演陣の顔ぶれ。と言っても、主演のスティーブン・ドーフとエミール・ハーシュではなく(2人の出演作品も結構観ているが、意識するほどメジャーではない)、ダコタ・ファニングにクリス・クリストファーソンの名前の方が大きい。まぁ、かろうじて外れなかったと言えるだろうか。

2人きりで助け合ってきた、と言うより助けてきたのは主に弟の方で、兄は子供の頃から鈍臭い。列車に飛び乗ろうとして、すんなり飛び乗った弟に対し、乗り損なって足を切断する事故に遭う兄。そんな兄を甲斐甲斐しく世話する弟。モーテルでは、怪我の影響もあってフランクが兄の体を洗ってやることまでする。はっきり言って、厄介ごとを起こし、警察に追われるハメになる兄を助ける弟は、兄がいなければもっとまともな人生が歩めたのかもしれない。

ダコタ・ファニングは、そんなフランクの薄幸な元恋人アニーとして登場する。アニーもろくでなしの母親がいたために売春をさせられ(それも母親の目の前で)、しかもその現場をフランクに見られてしまう。貧困と不運からは逃れられないのか。フランクとジェリー・リーが逃げようとしていたのは、ひょっとしたら警察ではなく、子供の頃から付き纏う不幸だったのかもしれない。

物語の結末はあっけない。それは幸か不幸か。その先の未来を見るのであれば、良かったと言えるのかもしれない映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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