2022年10月31日

【アーカイヴ】My Cinema File 2612

アーカイヴ.jpeg

原題: Archive
2020年 アメリカ
監督: ギャビン・ロザリー
出演: 
テオ・ジェームズ:ジョージ・アルモア
ステイシー・マーティン:ジュールス・アルモア/J3/J2の声
ローナ・ミトラ:シモーヌ
ピーター・フェルディナンド:ミスター・タッグ
リチャード・グローヴァー:メルヴィン
ハンス・ピーターソン:エルソン
リア・ウィリアムズ:管理システムの電子音声:(英語版)
トビー・ジョーンズ:ヴィンセント・シンクレア

<映画.com>
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『ダイバージェント』シリーズのテオ・ジェームズが主演を務めたSFスリラー。日本の山奥にある施設で人型アンドロイドの開発を進めるロボット工学者ジョージ・アルモア。会社からは成果をあげていないと不評だが、実は亡き妻ジュールをよみがえらせるための研究を続けていた。「アーカイヴ」というシステムを通じて彼女と交流するジュールは、そこから違法にデータを取り出し、J1、J2とバージョンアップしたアンドロイドを開発。そしてついに、まるで本物のジュールのようなJ3の完成が目前に迫る。そんな矢先、J2が予想外の行動をとり始め、さらに施設が外部の何者かに見つかってしまう。共演は「ニンフォマニアック」のステイシー・マーティン、『アンダーワールド ビギンズ』のローナ・ミトラ、『裏切りのサーカス』のトビー・ジョーンズ。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2021」上映作品。
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物語の舞台となるのは、ある秘境めいた山奥にあるARM社の研究施設。設定上、山梨県ということになっているが、山梨県にはとてもありそうにないところである。その研究施設で、たった1人でAI開発を行っているのが主人公のジョージ・アルモア。ロボット2台が話し相手という寂しい環境である。最初のロボットJ1は、言葉は理解できても話せない。2台目のJ2は会話ができる。そして今、ジョージは3台目の制作に取り掛かっている。

ジョージに連絡してくるのは、会社の上司シモーヌ。彼女はジョージに対し研究成果の進展がないと文句を言う。加えて、技術の盗難に遭う危険性が増したため、警備隊を送ると連絡してくる。実は、ジョージはJ2が人と同様に会話をすることができることもJ3を密かに開発していることもシモーヌに報告していないのである。J3は、ボディは上半身までしか出来上がっていない。

J2はJ1のアップロード版。知識の蓄えも進んでいるし、言葉を喋れる。そしてJ3はさらにアップロードし、ある感情を有する予定。ジョージはJ3の開発を進める一方、黒い装置アーカイヴからかかってくる電話で時折会話をしている。会話の相手は妻のジュール。時折、2人でドライブをしていたシーンが回想される。研究が認められ、日本の山梨の施設に行くことになったと語るジョージ。そこへ対向車線から弾き飛ばされた車が視界を覆う・・・

どうやら事故に遭って、妻の肉体は死んでしまったよう。妻の記憶や意識がアーカイヴに記録され、会話ができるようである。だが、近頃アーカイヴのジュールとは通信が途絶えがちで会話も満足にできない状態。そこに本社から訪問者が訪れる。アーカイヴ・システム社の担当者で、シンクレアと名乗る。シンクレアによれば、いずれアーカイヴに記録された故人もまた死に至る可能性を聞き、動揺するジョージ。故人が休眠に入った場合は、アーカイヴの装置ごと丁重に埋葬されると言う。

シンクレア達を追い返したあと、ジョージはJ3を起動させる。初めは混乱状態であったが、会話が交わせるようになる。それを見ていると、J3はジュールのよう。どうやら亡き妻ジュールをJ3に移し、アンドロイドとして復活させようとしているようである。そしてそんなジョージの様子を影からじっと見つめるJ2。J2には感情があり、J3が完成したら自分の役割が取って代わられるのではないかと思っている。人間並のジェラシーである。

ある日、安全システムの修理のためジョージは外出する。鉄塔に上りシステムの修理を行ったが、不具合が続く。どうにか再起動を行い復旧させる。その夜、会社のリスク査定人に呼び出されたジョージは、施設が何者かの組織に狙われていると告げられる。施設にはジョージしかいないはずだが、何者かに睡眠中の姿を隠し撮りした写真が届いたと言い、充分に気をつけろと忠告される・・・

山奥の秘境で密かにアンドロイドの研究を続ける主人公。それはどこか『エクス・マキナ』(My Cinema File 1675)を彷彿とさせる。造っているのはAIではなく、亡き妻の記憶を持ったアンドロイド。アーカイヴに「保管」された妻の記憶。そうやって「生き残る」ことができるのは、果たして幸せなのだろうかとふと思う。それでも妻を思うジョージはJ3の開発を続ける。しかし、一方で確実に施設で何かが起きている。

面白いのはJ2のジェラシー。自分よりも性能の良いJ3を開発するジョージを陰で見つめる。それはあるいは自分が用無しとなることに対する恐怖なのかもしれない。施設の見回りをしたジョージが帰ってくると、雨の中で立ち尽くすJ1を発見する。J1は防水ではないのでショートしたらデータが消えてしまう。窓が割れて何者かが侵入した形跡がある。ミステリアスな展開が続く。そしてすべてがひっくり返るラスト。

そう言えば、映画『アザーズ』も最後にすべての前提がひっくり返るストーリーだった。ミステリアスな展開もそれですべての説明がついてしまう。妻を愛するジョージの思い。自分はアーカイヴの中に入っても生き続けたいと思うだろうか。こんな未来がいつか実現するのだろうか。そんなことを考えてみたくなる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2022年10月29日

【12モンキーズ】My Cinema File 2611

12モンキーズ.jpeg

原題: 12 Monkeys
1995年 アメリカ
監督: テリー・ギリアム
出演: 
ブルース・ウィリス:ジェームズ・コール
ブラッド・ピット:ジェフリー・ゴインズ
マデリーン・ストウ:キャサリン・ライリー
クリストファー・プラマー:ドクター・ゴインズ
デヴィッド・モース:ドクター・ピータース

<映画.com>
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「未来世紀ブラジル」の鬼才テリー・ギリアムがブルース・ウィリス主演で描いたSFサスペンス。謎のウィルスによって人類のほとんどが死滅した近未来。生き残った人々は汚染された地上を捨て、地下での生活を余儀なくされていた。科学者たちは1996年にウイルスをばら撒いたとされる集団「12モンキーズ」について探るため、服役中の囚人ジェームズ・コールを過去の世界へと送り込む。誤って1990年にたどり着いたコールは不審な言動から逮捕され、精神科医キャサリンの立ち会いのもと精神病院に収容される。そこでジェフリーという若い患者に出会い、彼の助けを借りて脱出を図るが……。共演に、本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされたブラッド・ピット、「ラスト・オブ・モヒカン」のマデリーン・ストウ。『ブレードランナー』のデビッド・ピープルズが妻ジャネットと共に脚本を手がけた。
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過去に観たものの、内容はかなり忘れてしまったという映画がある。この映画もそんな一作。ところは1996年から1997年にかけ、全人類の99パーセントが未知のウイルスによって死滅した地球。生き残った人類は、地下に住むことを余儀なくされている。2035年。地下刑務所の囚人・ジェームズ・コールは、防護服を着て地上に出ては、昆虫を採集するという作業に従事させられている。

ジェームズは、すぐれた記憶力と強靭な肉体を持ち、それが故の作業である。無人の地上には、野生化したかつての動物園の動物が闊歩している。そんなジェームズは、少年時代に見たあるシーンが脳裏にこびりついて離れない。それは空港で見た、銃を持った男が誰かを追う途中で刑事に背中を撃たれて倒れ、そこへ女が駆け寄るという事件の記憶。その記憶の意味は最後に明らかになる。

そんなある時、ジェームズは地下世界を牛耳る科学者たちの委員会に呼ばれ、特赦と引き換えに新たな任務を与えられる。ジェームズの任務は、タイムマシンで感染症蔓延の端緒だった1996年に向かい、感染初期のウイルスの原株を回収すること。それを手に入れれば汎用ワクチンを開発できるためである。示されたのは、「12モンキーズ」のトレードマークのステンシル塗装。それはその時期に街角に描かれたもので、「我々がやった」という言葉もあり、重要な手がかりとされていた。

そして1990年。精神科医のキャサリン・ライリーは、警察署に留置中のジェームズ・コールの問診を担当する。ジェームズは「『12モンキーズ』のウイルス散布計画を止めるために1996年に来た」と警官に訴えるも理解してもらえず、挙句に暴れて逮捕されていたのである。ジェームズはキャサリンに同じことを訴えるが、その会話の中で自身が間違った時代にいることを知る。また、空港の記憶の中にある女の顔とキャサリンがあまりに似ているので驚く。

ジェームズは、精神障害と診断され、精神病院の閉鎖病棟に収容される。ジェームズはそこでジェフリー・ゴインズという若い男と知り合う。ジェフリーと親しくなったジェームズは、ジェフリーの協力で鍵をもらい、脱出を試みる。しかし、たちまち捉えられて拘束され、独居房に閉じ込められる。知らせを受けたキャサリンが駆けつけると、ジェームズの姿は消えている。

ジェームズは気づくと、2035年に戻っている。どうやら科学者たちの手によって戻されたらしい。しかし、わずかなタイムスリップによって歴史が変わり、新たに1996年にとある留守番電話に吹き込まれたという「『動物解放協会』の事務所は12モンキーズの秘密本部だ。」というメッセージが手に入っている。さらに「動物解放協会」のメンバーの写真の中にジェフリーの顔を発見し、「この男に精神病院で会った」と報告すると、科学者たちはもう一度ジェームズをタイムマシンに乗せる。

そしてジェームズが飛ばされた先は1917年の西部戦線。どういうタイムマシンなのかわからないが、これだけ誤差が生じると恐ろしい。そこでジェームズは、2035年の世界で囚人仲間だったホセが負傷兵として搬送されるところに立ち会う。激戦と混乱の中、ジェームズも足を撃たれてしまう。そして1996年11月。足を負傷したままのジェームズは、講演会を終えたキャサリンを捕まえると、フィラデルフィアへ行くように要求する。そこは「12モンキーズ」のトレードマークが最初に現れた場所であった。

ウィルスで死滅寸前に追い込まれた人類が、タイムマシンでウィルスが拡散された過去に戻って原因となるウィルスを確保しようとするストーリー。なんだか『ターミネーター』(My Cinema File 1529)の世界のようである。主人公のジェームズは、囚人であるが、記憶力とタフネスさを買われて過去に送り込まれる。それに巻き込まれるヒロインのキャサリン。「未来から来た」などと言っても当然信用などしないが、ジェームズの足から摘出した弾丸が第一次世界大戦時の骨董品であったことや、その時ニュースが盛んに報じていた子供の失踪事件が狂言だと言い当てたことで、キャサリンはジェームズの言葉を信じるようになる。

主演はブルース・ウィリス。この時、ブルース・ウィリスはまだ若くて元気である。そしてジェフリーを演じるのはブラッド・ピット。大物2人の共演はそれだけで見応えがある。タイトルの「12モンキーズ」とは、謎のテロ組織と信じられていた組織の名前。その正体は秀逸である。命じられた任務をこなそうとするジェームズ。そして彼が本当のタイムトラベラーだと確信し、協力するキャサリン。ウィルス拡散の原因が判明するが、ジェームズとキャサリンが気付いたところはあの空港。

歴史はかくして動かざるものとなる。なかなか捻りの効いたストーリー。ラストのオチもピリリと光る。大物2人の共演と相まって、2度の鑑賞にも十分耐えうる映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2022年10月28日

【タイヨウのうた】My Cinema File 2610

タイヨウのうた.jpeg
 
2006年 日本
監督: 小泉徳宏
出演: 
YUI:雨音薫
塚本高史:藤代孝治
岸谷五朗:雨音謙
麻木久仁子:雨音由紀
通山愛里:松前美咲
小柳友:大西雄太
田中聡元:加藤晴男

<映画.com>
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難病を抱える孤独な少女が、初めての恋を通して生きる喜びを見いだしていく姿をつづったラブストーリー。16歳の少女・薫は、太陽の光にあたることができないXP(色素性乾皮症)という病気に冒されている。深夜に駅前で歌うことだけを生きがいにしている薫は、サーフィンに熱中する青年・孝治と出会い、恋に落ちるが……。シンガーソングライターのYUIが、演技初挑戦ながらヒロインを好演。共演は「木更津キャッツアイ」の塚本高史。
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明け方、サーフボードを抱えた高校生がバス停の前に集合して海に向かう。その姿を部屋の窓から見下ろしているのは、主人公の薫。やがて夜が開け始めると、ブラインドをおろして床に着く。目覚ましが鳴るのは日が沈んだ後。両親との食事を終えると、ギターを抱えて家を出る。向かう先は江ノ電の駅前にある公園。そこに胡座をかいて座った薫は、ギターの弾き語りを始める。パトロールの警官がまだ若い薫に職務質問をしようとすると、年配の警官がそれを嗜める。「あの娘はいいんだ。両親から事情を聞いている」と。

その事情とは、薫の病気。それは生まれつき紫外線に当たることのできないという病気(XP=色素性乾皮症)。そういう病気があるのだということはこの映画で初めて知った。陽の光の下に出られないという事は、実に気の毒である。日中に外出するには頭からスッポリと肌を隠すフードを被らなければならず、これを嫌った薫の活動はどうしても日が沈んでからになる。そんな薫にとって、バス停付近で友達とサーフィンに向かう待ち合わせをしている孝治の姿は眩しく見えてしまう。

孤独になりがちな薫には友人の美咲がいる。薫の家族とも親しげに付き合っている。ある晩、美咲を連れていつもの広場でギターの弾き語りをしていると、そこに偶然孝治が通りかかる。気がついた薫は慌てて孝治のあとを追いかける。そして孝治を捕まえると、いきなり自分のプロフィールを伝え始める。その突然の行動に驚く孝治。そして薫は美咲に連れ戻される。抗議する薫に、美咲は「今振られるところだったよ」と伝える。薫は病気のせいなのだろうか、告白の手順というものを知らないようである。

その後、薫から孝治について話を聞くと、その制服から美咲が通う高校の生徒であることから美咲が孝治について調べてくれる事になる。美咲から話を聞いた薫は、ますます孝治への興味が増していく。そして別の晩、薫が夜中にいつも孝治が待ち合わせをしているバス停に座っていると、偶然、孝治がやってくる。そこで二人は話をし、互いに親しくなる。そして夏休みに入ったら孝治が薫の音楽を聴きにくるという約束を交わす。

やがて夏休みに入り、孝治は薫との約束を果たすためにいつもの広場へ向かうが、そこでは違う男が既に熱唱している。そこで、孝治は薫をバイクに乗せ、他の場所を探しにいく。向かうは賑やかな横浜の繁華街。普段、あまり脚を延ばすこともないのであろう、賑やかな街の様子を薫は堪能する。そして見つけた場所で薫が弾き語りを始めるとたくさんの人が集まってくる。薫は、輪の中心で孝治を見つめながら歌う。傍から見ていても実に楽しそうである。孝治も薫の歌声に聞き惚れる。

ライブも終えて海岸で話す2人だが、楽しくて時間を忘れてしまった薫は、夜が明けはじめるのに気づき慌てて家に向かって走る。ロマンチックに一緒に朝日を見て帰ろうと提案した孝治は訝しがりながらも薫を家に送る。ギターも置き去りにして家に走り込む薫。帰宅が遅れて心配して探しに出ていた家族と美咲も戻ってくる。そこで孝治は美咲から薫の病気について知らされる・・・

病気のヒロインが病の中で恋をしていくというストーリーは、よくある悲恋物語。この映画では、紫外線に当たると病気が進行してしまうという珍しい病魔に犯された少女の物語。陽の光の中に出られないなんてまるで吸血鬼のようである。孝治と楽しい一夜を過ごし、楽しすぎて時間の過ぎるのを忘れてしまい、日の出を恐れて慌てて家に逃げ帰る様はシンデレラのようでもある。

病気ゆえに孝治を諦めようとする薫だが、そんなことで諦めない孝治は薫の世界にズケズケと入っていく。そして薫の歌をCDにしないかと提案し、薫を悲しみの淵から救い出す。そんな薫を演じるのは、YUIというシンガーソングライター。実際に映画の中で歌うように胡座をかいてギターの弾き語りをするそうである。シンガーであるためか、素人目だが、あまり演技は上手くないように見える。

この手の悲恋映画にありがちな御涙頂戴モノとはちょっと違っていて、後味はすっきりしている。「タイヨウの歌」というタイトルが、実にしっくりとくる映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2022年10月24日

【アメリカン・アニマルズ】My Cinema File 2609

アメリカン・アニマルズ.jpeg

原題: American Animals
2018年 アメリカ
監督: バート・レイトン
出演: 
エヴァン・ピーターズ:ウォーレン・リプカ
バリー・キオガン:スペンサー・ラインハード
ブレイク・ジェナー:チャズ / チャールズ・T・アレン2世
ジャレッド・アブラハムソン:エリック・ボーサク
ウド・キア
アン・ダウド:ミス・グーチ

<映画.com>
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2004年に4人の大学生が時価1200万ドル(約12億円相当)のビンテージ本強奪を狙った窃盗事件を映画化。ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、くだらない日常に風穴を開け、特別な人間になりたいと焦がれていた。ある日、2人は大学図書館に保管されている時価1200万ドルを超える画集を盗み出す計画を思いつく。2人の友人で、FBIを目指す秀才エリック、すでに実業家として成功を収めていたチャズに声をかけ、4人は「レザボア・ドッグス」などの犯罪映画を参考に作戦を練る。作戦決行日、特殊メイクで老人の姿に変装した4人は図書館へと足を踏み入れ……。エバン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソンの4人が犯人の大学生役で出演。監督は、ドキュメンタリー映画「The Imposter」で英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞したバート・レイトン。
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アメリカで実際に起こった事件の映画化ということで、ちょっと興味を惹かれた映画。舞台はケンタッキー州のトランシルバニア大学。芸術系の学生のスペンサーは、ちょっと大人しいタイプ。この映画では合間合間にご本人が出演するという変わった演出。現在のご本人からしてもやはり押しに弱そうなタイプである。一方、同じく学生で友人のウォーレンは、ちょっと山っ気のあるタイプ。現在のご本人は、自分がリーダーだったと言われることを否定する。どんな物語だったのだろうと期待が膨らむ。

ある時、スペンサーは授業の一環で、大学の図書館内にある特別な展示スペースに見学に訪れる。そこに厳重に保管されているのは、歴史的にも価値の高い本の数々。目玉は本とは言い難いほど大きな画集。さらにダーウィンの原書なども貯蔵されている。その価値は1,200万ドルとも言う。そしてその話をウォーレンにする。それはただの話のネタであっただろうが、これにウォーレンが反応する。なんとその本を盗みだそうと言うのである。

スペンサーは冗談かと思うが、ウォーレンは本気。そこから計画を練り始める。初めはスペンサーも付き合い程度の感覚。図書館の見取り図を書き上げ、逃走経路も考える。盗み出した後はそれを処分しなければならないが、盗品など簡単に売り捌けるものではない。ネットで怪しげな買い手と連絡を取り、会いに行く。そして実際のバイヤーがオランダにいると聞き出すと、ウォーレンはわざわざオランダにまで出かけていって怪しげな2人組と接触する。

計画を進めるうちに、2人では難しいということになり、新たにメンバーとして秀才のエリックと、逃走用の車のドライバーにチャズをリクルートする。こうして4人となった一行は、ウォーレンの家の地下室で計画を進めて行く。そこで犯罪映画を観て研究するところが何とも言えない。『レザボア・ドッグス』に習って、お互いを色で呼び合う事にする。スペンサーはミスター・グリーン、エリックはミスター・ブラック、ウォーレン自身はミスター・イエロー、チャズはミスター・ピンクという具合である。

完全犯罪は何より事前準備がものを言う。犯行時に着る洋服を買い、逃走用の車両を購入し、逃走経路の予行練習をする。実行は警戒の厳しい夜間ではなく日中。ただそうすると図書館スタッフのミス・グーチがネックになる。さすがに誰も暴力を振いたいとは思わない。拘束するだけにすることになるが、それでも誰も直接それに携わろうとはしない。やむなくミス・グーチを拘束するのは言い出しっぺのウォーレンとなる。

そして2003年12月16日、いよいよ犯行実行の日の朝を迎える。チャズは逃走用の車両を近くの駐車場へ移動すると、そこでナンバープレートを付け替える。エリックとスペンサーは他の生徒のように大学の試験へ出席する。スペンサーとエリックは試験を終えると、事前に用意していた通り老人に紛争する。そしてウォーレンが図書館の展示スペースに向かうが、その前にはミス・グーチの他に数人のスタッフがいて、計画を断念する。

どんなに周到に計画を立てても、いざ実行となると予想外のことが起こる。この時、中止とした判断は適切だったが、翌日再チャレンジの際にはせっかくの変装もやめてそのまま決行する。前日の失敗で怖じ気ついたスペンサーは、外での見張り役になる。入念な計画が生きるのも計画通りの実行あっての話。しかし、そこが犯罪素人学生の浅はかさなのか、2回目の犯行は杜撰に行われる。

実際、犯罪を行うということは、衝動的なものを除けばよほど悪事に慣れている者でない限り精神的な動揺を克服して行わなければならず、ゆえに難しいと言える。ましてや4人全員が素人である。実行は予期せぬことの連続の中で予想外の展開となる。それでも立ち止まるチャンスは何回かあったが、結局、突き進んで逮捕されたのは必然だったのだろう。最後に全員が逮捕されるが、その顛末も実にお粗末である。

犯罪は犯罪であるが、金目的のものであり、4人とも誰かを傷つけようとまでしなかったのは幸いと言える。だからこそ、映画化され本人たちも出演しているのだろう。懲役7年の刑は軽くはないが、特にスペンサーなどは何度も立ち止まるチャンスはあり、悔やまれるのではないかと思わざるを得ない。現実の世界の犯罪は、やっぱり割に合わないのだと感じる人が多ければ、映画化された意義もあると言える映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2022年10月22日

【The Crossing ザ・クロッシング Part II】My Cinema File 2608

The Crossing ザ・クロッシング Part II.jpeg

原題: 太平輪 彼岸 The Crossing 2
2015年 中国
監督: ジョン・ウー
出演: 
チャン・ツィイー:于真(ユイ・チェン)
金城武:厳沢坤(イェン・ザークン)
ソン・ヘギョ:周蘊芬(チョウ・ユンフェン)
ホアン・シャオミン:雷義方(レイ・イーファン)
トン・ダーウェイ:佟大慶(トン・ターチン)
長澤まさみ:志村雅子

<映画.com>
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『レッドクリフ』「男たちの挽歌」シリーズのジョン・ウー監督が、金城武、チャン・ツィイー、ソン・ヘギョ、長澤まさみら日中韓のキャスト陣を迎え、1945年国共内戦下を舞台に時代や戦争に翻弄された3組の男女を描いた歴史ロマンの第2部。1947年、1000人近い乗客、乗組員を乗せ、大型客船・太平輪号が上海から出航した。台湾に向かうその船の乗客にはユイ・チェン、ザークン、トン・ターチンの姿あった。深夜、太平輪号が貨物船と衝突するという大惨事により、交じり合うことがなかったであろう男と女たちの運命が交差していく。
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『The Crossing ザ・クロッシング Part I』の続編。前半部分は、Part Iと被る部分が多い。本作でも、3組のカップルの運命が描かれる。厳家では漢方医であったザークンの父はすでに亡く、長兄の沢漢(ザーハン)は“赤狩り”で共産主義者と見なされ処刑されていた。ザークンの母は、家を守ることが大事であり、ザークンが日本人である雅子に惹かれていることを快く思わず、ザークン宛に届いた雅子の手紙を密かに処分していた。戦地から戻ったザークンは診療所を継ぐが、末弟の澤明(ザーミン)は反政府主義に傾倒しており、ついには出奔して大陸へと渡ってしまう。

共産軍に包囲され、冬季の到来とともに寒さと飢餓に悩まされていたイーファンの部隊は、共産軍の総攻撃の前に壊滅する。イーファンは部下のターチンに自らの日記を愛するユンフェンに届けるように託す。激戦の中、ターチンは大火傷を負いながら生き抜く。しかし、イーファンは敵の猛攻撃の前に帰らぬ人となる。包囲されるのがわかって、突破作戦を進言したのに聞き入れられず、予想した通りに包囲されたイーファン。軍人とはかくも悲しい。そして味方の部隊が降伏する中、イーファンは命令通り抗戦を貫く。

台湾に避難したユンフェンの元に軍からイーファンの戦死の報がもたらされる。理想を追い求めるザーミンは、心配する母を残して上海に渡る。母が処分しようとていた雅子からの手紙の燃え残りを兄嫁から渡されたザークンは、日本に引き揚げた雅子が窮乏の末、海に身を投げたことを知る。それでも母のため、弟を連れ戻しに上海に渡る。負傷兵が台湾へ運ばれていると知り、台湾へ渡航するための金をが必要なチェンは、売春婦にまで身を堕とすが、渡航費用は日々値上がりする一方で絶望的な思いに駆られる。しかし、同郷の踊り子・夏珊(シャア・シャン)に乗船券を譲ってもらう。

傷病兵としてターチンが、弟を説得したザークンが、乗船券を譲ってもらったチェンが、それぞれの想いを秘めて台湾へ向かう客船“太平輪”に乗船する。共産軍が迫り来る中、人々は我先にと太平輪に押しかける。甲板には負傷兵が溢れ、上海の商売人が鉄鋼など積み込めるだけ積み込んでいる。そして混乱の中、太平輪は出航する。時に春節を迎え、船内の乗客・乗員は饗宴に沸く。しかし、船員までもが酒宴に参加。内戦下でもあり、船は灯火管制による無灯火航行を続ける・・・

そんな状況下、太平輪は貨物船に衝突する。貨物船はあっけなく沈んでしまうが、太平輪はなんとか航行を続ける。しかし、船首の亀裂から徐々に浸水し、過積載の荷物のせいもあって、船体は急速に傾き始める。浮き輪や救命胴衣の準備も整わぬまま、乗客は次々と海へ投げ出されていく。このあたりは、名画『タイタニック』(My Cinema File 219)の沈没シーンを彷彿とさせられる。

しかし、『タイタニック』とは大きく異なり、海上で救命胴衣や板などを奪い合う乗客たちの争いがそこかしこで起き、それは醜い争いの様相を呈する。法律的には「緊急避難」となって罪には問われなくとも、必死に他人を押し除けてでも生きようとする人々の争いが描かれる。3組のカップルのそれぞれの姿が、なんとも言えない顛末を迎える。戦争なかりしかば、きっと幸せな日々を迎えたであろう人々の姿に世の無常が表される。

Part I、IIとに分かれた長編はやはり見応えがある。この物語はフィクションであるが、歴史の中で埋もれてしまった似たようなドラマがきっと数多くあったのだろう。そんな余韻にしばらく浸らされた映画である・・・


評価:★★★☆☆







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