
原題: Lansky
2021年 アメリカ
監督: エタン・ロッカウェイ
出演:
ハーヴェイ・カイテル:マイヤー・ランスキー
ジョン・マガロ:青年時代のマイヤー・ランスキー
サム・ワーシントン:デヴィッド・ストーン
アナソフィア・ロブ:アン・ランスキー
ミンカ・ケリー:モーリーン
デビッド・ケイド:ベン・バグジー・シーゲル
シェーン・マクレー:チャーリー・ラッキー・ルチアーノ
<映画.com>
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禁酒法時代から半世紀にわたりアメリカの暗黒街を支配した伝説的マフィア、マイヤー・ランスキーの人生を描いたクライムドラマ。年老いたランスキーに伝記執筆のため作家がインタビューを行い、そこで語られるランスキーの人生を、1910年代から80年代まで、時代を行き来しながらサスペンスフルに描いていく。1981年、マイアミ。作家のデビッド・ストーンは、伝説的なマフィアであるマイヤー・ランスキーの伝記を書くことになり、ランスキー本人にインタビューをする。ランスキーの口から語られる彼の人生は、半世紀以上におよぶギャングたちの抗争の記録でもあった。そしてインタビューが終わりに近づいた頃、ストーンはFBIが3億ドルとも言われるランスキーの巨額な資産を捜査していることを知る。捜査協力を強いられたストーンは、ある決断を下すが……。作家ストーンをサム・ワーシントン、年老いたランスキーをハーベイ・カイテルが演じた。監督・脚本を手がけたエタン・ロッカウェイの父親であるロバート・ロッカウェイが、実際に生前のランスキーにインタビューを行っており、ワーシントン演じる作家ストーンのモデルになっている。
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舞台は1981年のマイアミ。デヴィッド・ストーンは、とあるレストランで緊張の眼差しである人物を待っている。そしてその男がやってくる。初老のその男は、レストランでは顔馴染み。ウエイトレスも気軽に挨拶する。その男の名はマイヤー・ランスキー。デヴィッドはなんとこのマフィアのボスの伝記本を書こうと思い、取材を申し込んだのである。家に家族を残しての単身出張。その背景にはデヴィッドの苦しい生活がある。
ランスキーは自分の伝記本を書くための条件を提示する。それは肺がんを患い、余命宣告を受けたランスキーが死ぬまで原稿は誰にも見せないこと。ランスキーが許可するまで、ストーンに話したことは全てオフレコにすること。内容からすると、生きているうちに公表されるとマズイことだという事が窺える。ランスキーはなぜ自分の本を書きたいのかとストーンに尋ねる。建前の理由はすぐに見抜かれ、本音は別居中の妻子を養うための金が欲しいからだと白状すると、ランスキーに気に入られる。
ランスキーは自身の人生を赤裸々に語り始める。少年時代、ロシアに住むユダヤ人の両親の間に生まれたランスキーは、ある日おじと一緒に道を歩いていて武装したコサック隊と出会う。コサック隊は「袋からイモを出して、投げ上げろ」と命じ、おじが素直に従うと、コサック隊はイモを斬ると見せかけておじの手を斬り落とす。強者が弱者を見下していたぶる姿は、ランスキーの中に強烈な思いと決意をもたらす。その後ランスキーは、一家で渡米する。
10歳になったランスキーは、特に数字が得意な子供であった。近所の大人たちが興じるサイコロ賭博を毎日観察する。初めての賭けは見事に負けて、夕食代として預かった金を失う。金を奪われたことへの怒りからランスキーはオッズと配当金を計算し、確率の変動を見守る。その結果、ランスキーはイカサマを見抜き、金を取り返す。しかし、この経験からランスキーは、ゲームを支配する側になろうと心に誓う。
やがてランスキーは、イタリア系のストリートギャングの一員ラッキー・ルチアーノと出会う。小柄なランスキーにルチアーノは用心棒代を要求する。ところが、ランスキーはこれを敢然と拒否する。その度胸に感心したルチアーノは、ランスキーと生涯の友情を結ぶ。また、ランスキーはユダヤ人ギャング団で出会った男ベンジャミン・シーゲルを相棒とし、ギャング団を組んで酒の密売と賭博で稼いでいく。
時代は禁酒法から大恐慌へと移りゆく。ストーンの取材に応える形で、物語はランスキーの若かりし頃の姿を描いていく。結婚して3人の子供をもうけるが、長男のバーナードは脳性マヒを患っており一生自分の足で歩くことは出来ない。何でも思い通りになるとは限らないというこの事実に、ランスキーは耐え難いほどのショックを受けたとストーンに語る。
この時代のマフィアの抗争は、名画『ゴッドファーザー』(My Cinema File 36)を筆頭にさまざまに映画化され、よく知られている。登場人物たちの名前も聞き覚えのある者が多数出てくる。しかし、ニューヨークでナチズムが台頭すると、集会をしていたナチス協会を襲撃したり、戦時中は海軍に協力してドイツの諜報網を一掃したというエピソードは知られざるものであり、興味深い。
やがてランスキーは、カジノ事業に進出する。そしてそこには、当然ライバルたちを葬ることも含まれる。生前には公表できないわけである。ランスキーの人生は、アメリカのマフィア史と重なる。ラスベガスのフラミンゴ・ホテルにも携わり、キューバにも進出してキューバ最大のカジノ経営者となる。しかし、イスラエルに対する支援として武器を購入する資金や兵器を寄付するが後に帰化は認められず、逆に強制送還の憂き目に遭う。
そんな歴史に翻弄されるところもあるが、FBIはランスキーが巨額の資産を隠しているとして捜査を続ける。それはストーンにも及び、密かにランスキーから巨額資産について聞きだしてくれれば、報奨金を支払うと持ちかける。FBIはとにかくランスキーの巨額資産を追い求めていたようである。そう言えば、晩年のある・カポネを描いた『カポネ』でも同じような様子であったが、カポネの1,000万ドルに比べると、ランスキーのそれは3億ドルと桁がちがう。
映画比較で行けば、カポネの晩年の様子は脱糞したりとかなり惨めであったが、ランスキーはかくしゃくとしている。お金の有無はどちらもわからないが、健康面と疑惑の金額とで比較すると、ランスキーの方が大物だったという事が言える。犯罪者礼賛は好ましくないが、すでに故人であることを考えれば、アメリカ犯罪史と考えればいいのではないかと思う。それにしても、ランスキーの相棒であったシーゲルは、粛清されて人生を終えているわけであるし、マフィアで生き残るのも楽ではなかったのかもしれない。
最後に、ランスキーが開拓した賭博ビジネスは、年間2,500億ドルをアメリカ経済に貢献し、200万人の雇用を生んでいるとテロップが流れる。果たしてランスキーは悪人だったのか。そんなことを考えてみた映画である・・・
評価:★★☆☆☆