2023年01月28日

【空母いぶき】My Cinema File 2648

空母いぶき.jpeg
 
2019年 日本
監督: 若松節朗
原作: かわぐちかいじ
出演: 
西島秀俊:秋津竜太(いぶき艦長)
佐々木蔵之介:新波歳也(いぶき副長)
藤竜也:涌井継治(群司令)
戸次重幸:淵上晋(第92飛行群群司令)
市原隼人:迫水洋平(アルバトロス隊隊長)
玉木宏:瀬戸斉昭(はつゆき艦長)
高嶋政宏:滝隆信(はやしお艦長)
山内圭哉:浮船武彦(いそかぜ艦長)
佐藤浩市:垂水慶一郎(内閣総理大臣)
益岡徹:石渡俊通(官房長官)
本田翼:本多裕子(ネットニュース記者)
中井貴一:中野啓一(コンビニエンスストア店長)

<映画.com>
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「沈黙の艦隊」で知られるかわぐちかいじ原作のベストセラーコミック「空母いぶき」を、西島秀俊と佐々木蔵之介の共演で実写映画化。国籍不明の軍事勢力から攻撃を受ける中、それぞれの立場で国民の命と平和を守るため奔走する者たちの姿を描く。世界が再び「空母の時代」に突入した20XX年。日本の最南端沖で国籍不明の軍事勢力が領土の一部を占拠し、海上保安庁の隊員を拘束する事態が発生。未曾有の緊張感に包まれる中、政府は初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とした護衛艦群を現場に派遣するが……。西島が、航空自衛隊のパイロットとしての実績を買われていぶき艦長に抜擢された秋津竜太、佐々木が、海上自衛隊の生え抜きながら副長に甘んじる新波歳也を演じる。監督は「沈まぬ太陽」『ホワイトアウト』などの大作を手がけてきた若松節朗。脚本は「機動警察パトレイバー」の伊藤和典と『亡国のイージス』の長谷川康夫。『ローレライ』 『亡国のイージス』などで知られる作家の福井晴敏が企画に携わっている。
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日本についに空母が導入されたありうる近未来。
時は12月23日。沖ノ鳥島西方の初島付近に国籍不明の20隻の船団が現われる。巡視船くろしおが警備にあたっていたが、船団から突如銃撃を受ける。船団はくろしおの乗組員を拘束すると初島に上陸する。ただちに政府に一報が入ると、垂水総理大臣や石渡官房長官、外務大臣や防衛大臣などが招集され、対策が協議される。そして空母いぶき(と言っても世間体を憚ってか「航空機搭載型護衛艦」と称される)および護衛艦4隻、潜水艦1隻の護衛艦隊を派遣する。

ちょうど訓練航海中だったいぶきには、2名の記者が取材のために乗り込んでいる。国籍不明の船団はやがて“東亜連邦”の所属と判明する。海上警備行動に入ったいぶきだが、突然ミサイルを発射する。防空体制で応じるも、一部が被弾し、戦闘機用のリフトが故障してしまう。緊急事態に記者は部屋で待機するよう言われる。記者としては絶好のスクープであるが、事前の協定によって情報統制を受けている。

さらに敵対行動を取る東亜連邦軍は、ミグ60機を搭載した空母グルシャを現場に向かわせており、その前には潜水艦が先行している。護衛艦隊の潜水艦はやしおがこれに対峙する。東亜連邦の潜水艦はいぶきに接近し、護衛艦隊には緊張感が漂う。専守防衛を旨とする自衛隊とすれば、敵に攻撃を受けての応戦は国民に対しても国際社会に対しても言い訳が立つが、先制攻撃はそうではない。しかし、先制攻撃を許していぶきの沈没を招けば被害は甚大である。

結局、東亜連邦の潜水艦は攻撃することなく、いぶきの真下を通過する。そんな緊張下、群司令の涌井が倒れ、指揮権が艦長の秋津に委譲される。いぶきの艦橋では、「攻撃やむなし」を主張する艦長の秋津と「攻撃はするべきではない」と主張する副長の新浪の意見が対立する。そうした中、偵察行動をしていた空自機2機が、東亜連邦軍機に撃墜され、自衛隊初の戦死者が出る。政府内では垂水総理に史上初の「防衛出動」を命じるべきだとの意見が出る・・・

原作はこの手の軍事モノが特異なかわぐちかいじの漫画。原作漫画はすべて読んだわけではないが、中国が突如として侵略してくるストーリーになっていた。あえて架空の「東亜連邦」にしたのは、中国を刺激しないための配慮なのかもしれない。現実的には、尖閣諸島を巡る動きから、中国の侵略という原作漫画の方がよりリアリティがある。あえて中国との衝突があるとしたらこんな感じなのかもしれないと思ってみたりする。

空母いぶきとは名打ってはいるものの、敵の戦闘機や潜水艦などと戦火を交えるのは潜水艦と護衛艦が中心。一応、空母から艦載機が飛び立つものの、空母が中心的な活躍をするわけではない。だが、迎撃ミサイルを発射したり、戦闘機同士の空戦などの戦闘シーンはそれなりの迫力がある。こうした戦闘シーンはこうした実写映画の見どころの一つだろう。

ドラマの合間にとあるコンビニエンスストアの様子が描かれる。何もなければクリスマス商戦で湧きかえるところ。しかし、炎上する護衛艦の姿がネットニュースで流れ、総理の緊急会見が開かれると、買いだめに走る市民が殺到する。政府内では強硬派と慎重派の意見が対立し、無邪気で平和な世間との対比が浮き彫りにされる。強硬派がいいか慎重派がいいかというのではなく、こうした事態になった時にどうすべきなのかといつの間にか考えている。

護衛艦隊、政府、世間(コンビニ)という3つの現場がそれぞれ描かれ、ストーリーそのものよりもこうした事態が生じた場合はどんな事が起こるのか、そういうシミュレーションを見せてくれるという意味では、意義深い映画である。平和が一番であるし、我が国から軍事行動を起こすことはないものの、周辺国もそうだとは限らない。それに備えるべきなのか、それとも備えること事態が過剰なのか。そうしたこともこの映画は考えるヒントを与えてくれる。

季節もクリスマスという平和の象徴的な時期というのも物語の背景を彩る。豪華俳優陣のキャストでいろいろと楽しめる内容である。原作漫画は読み終えてはいないが、映画とはだいぶ雰囲気が違うようだし、それはそれで読んでみたいと思う。表面だけ観ると軽いが、考えると深い映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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2023年01月27日

【人生模様】My Cinema File 2647

人生模様.jpeg

原題: O. Henry's Full House
1953年 アメリカ
監督: ヘンリー・コスター/ヘンリー・ハサウェイ/ジーン・ネグレスコ/ハワード・ホークス/ヘンリー・キング
出演: 
チャールズ・ロートン:ソーピイ
デヴィッド・ウェイン:ホレス
マリリン・モンロー:若い娘
デイル・ロバートソン:バーニイ
リチャード・ウィドマーク:ジョニイ
アン・バクスター:ジョアンナ
ジーン・ピータース:スーザン
グレゴリー・ラトフ:バーマン
フレッド・アレン:サム
オスカー・レヴァント:ビル
リー・アーカー:少年
ジーン・クレイン:デラ
ファーリー・グレンジャー:ジム

<映画.com>
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O・ヘンリーの短篇5つを、それぞれ異ったスタッフ、キャストにより映画化したオムニバス1953年作品で、5篇を通じて製作はアンドレ・ハキム、音楽は「栄光何するものぞ」のアルフレッド・ニューマン担当。なお小説家ジョン・スタインベック(「革命児サパタ」の脚本)が解説を入れている。 <第1話 警官と聖歌> 監督は「ハーヴェイ」のヘンリー・コスター、脚色は「征服への道」のラマー・トロッティ、撮影はロイド・エイハーンの担当。主演は「パラダイン夫人の恋」のチャールズ・ロートン、「ナイアガラ」のマリリン・モンロー、「アダム氏とマダム」のデイヴィッド・ウェインで、トーマス・ブラウン・ヘンリー、リチャード・カーランらが助演する。 <第2話 クラリオン・コール新聞> 「ナイアガラ」のヘンリー・ハサウェイが監督し、脚色も「ナイアガラ」のリチャード・ブリーン、撮影はルシエン・バラードの担当。主演は「嵐を呼ぶ太鼓」のデール・ロバートソンと「死の接吻(1947)」のリチャード・ウィドマークで、ジョイス・マッケンジー、リチャード・ロバー、ウィル・ライトらが助演する。 <第3話 残った葉> 監督は「嵐を呼ぶ太鼓」のジーン・ネグレスコ、脚色は「艦長ホレーショ」のアイヴァン・ゴッフとベン・ロバーツ、撮影は「ナイアガラ」のジョー・マクドナルドの担当。主演は「イヴの総て」のアン・バクスター、「ナイアガラ」のジーン・ピータース、「イヴの総て」のグレゴリー・ラトフの3人、リチャード・ギャリック、スティーヴン・ジェレイらが助演。 <第4話 酋長の身代金> 監督は「果てしなき蒼空」のハワード・ホークス、脚色は「クーパーの花婿物語」のナナリー・ジョンソン、撮影はミルトン・クラスナー(「イヴの総て」)の担当。主演はラジオ、テレビの芸人フレッド・アレンと「巴里のアメリカ人」のオスカー・レヴァント、リー・アーカー、アーヴィング・ベーコンらが助演する。 <第5話 賢者の贈物> 「キリマンジャロの雪」のヘンリー・キングが監督し、脚色は「ロッキーの春風」のウォルター・バロック、撮影は第3話のジョー・マクドナルドの担当。主演は「一ダースなら安くなる」のジーン・クレインと「見知らぬ乗客」のファーリー・グレンジャー、フレッド・ケルシー、シグ・ルーマンらが助演する。
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一つの映画の中に、いくつかの異なるストーリーが入るオムニバスの映画は珍しくはないが、これは有名なO・ヘンリーの短編集を映画化したもの。古き良き時代の映画として鑑賞に至るもの。

第1話は「警官と聖歌」。
ベンチで寝ていたソーピイは、警官に起こされてその場を立ち去る。涼しいセントラル・パークは夏はいいが、季節は冬に向かうとなると辛い。ソーピイはホームレス仲間のホレスに、暖かい留置所で過ごそうと留置所に入るやり方を伝授しようとする。見かけた紳士の傘を奪い取ると、逃げることはせず警察に突き出せと言う。ところが相手はこんな変な申し出に戸惑い咎めることなく傘を渡すとその場を立ち去る。

ならばと、ソーピイはレストランに入り、贅沢に注文する。最後には高級葉巻を吸ったところで無銭飲食であると申し出る。これで警察に突き出されると思うも、レストランオーナーにより店を追い出されるが、咎められはしない。すっかり当てが外れたソーピイは、見かけた美しい女性に声をかけるが、ここでも女性から好意的に対応され、面喰らって逃げ出す始末。そしてある教会にやってくる・・・

第2話は「クラリオン・コール新聞」。
刑事のバーニイは、とある殺人事件の現場に残された遺留品に目を止める。それは幼な友達のジョニーが持っていたもの。バーニィは、密かにジョニーに会いに行く。バーニィはジョニーに証拠をつきつけて自白を迫るが、ジョニーはかつてバーニィが窮地に陥った際、1,000ドルを貸して助けたことをもち出す。バーニィは、そのためジョニーを逮捕せずに一旦見逃す・・・

第3話は「最後の一葉」。
ジョアンナは、恋人にすてられて絶望にうちひしがれて吹雪のニューヨークの街をフラフラと歩いて姉スーザンと一緒に住むアパートに帰ってくる。しかし、それがたたって肺炎を患い病床に伏す。医師は何より生きる希望を取り戻さなければ助かるものも助からないとスーザンに告げる。

ジョアンナは部屋の窓から見える蔦にある葉が、1枚、1枚落ちていくごとに自分の命も縮んでいくと思いこむ。途方にくれたスーザンは、上階に住む売れない画家のバーマンに悩みを訴える。バーマンは口は悪いが、折に触れ何かと姉妹を助けている。つけで薬が買えないとわかると、自分の絵を不本意な安値で売ってこれに変えたりしている。そしてジョアンナの容態が悪化する中、とうとうある朝、蔦の葉も最後の1枚になる・・・

第4話は「酋長の身代金」。
金に困ったサムと相棒のビルは、金持ちの子供を誘拐して身代金を稼ごうと思い立つ。目をつけたのはある村の少年。頭から袋を被せると、強引に少年を誘拐する。両親はなぜかおっとりしていて、この様子を見ているが気にも留めない。誘拐した少年は、2人を怖がるどころかインディアンの酋長気どりの腕白小僧で、2人はほとほと手を焼く・・・

第5話は「賢者の贈物」。
貧しい若夫婦のデラとジムは、クリマス・イヴを迎える。しかし、貧しいがゆえに、空想の贅沢を言い合って楽しんでいる。その朝、ジムを見送りながら一緒に街に出たデラは、ある宝石商のウィンドウの前に立ち止り、ある櫛に目をつける。それはデラの長い美しい金髪に似合いそうなもの。一方デラは、ジムが大事にしている祖父から伝わる懐中時計にふさわしいベルトに目をつける・・・

「最後の一葉」と「賢者の贈り物」は有名なので何度も読んだことがある。他の3話も短編集に載っていたかもしれないが、記憶にはない。「最後の一葉」と「賢者の贈り物」は他人を思う登場人物の心に胸が熱くなる物語。改めて映画化作品を観てもその根底は変わらない。「警官と聖歌」は最後の一捻りが効いている。「クラリオン・コール新聞」は、どこまでも律儀な刑事の話。「酋長の身代金」はどこまでも馬鹿らしいコメディである。

映画は1950年代のモノクロ映画。第1話では、マリリン・モンローが登場するが、この頃はまだそれほど売れていなかったのか、ほんの端役である。だが、その美人度は際立っている。それ以外はほとんど知らない俳優陣。こうした古いアメリカ映画も情緒がある。短編もエピソードをちりばめて長編映画にするケースもあるが、短編のまま集めるというのもまた一興。スートリーを知っていてもなお感動的なのは、そこに不変の人と人との思いやりがあるからかもしれない。果たして現代のアメリカにこの映画に描かれる心があるのだろうか。

古き良きアメリカを実感できる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年01月21日

【オールド】My Cinema File 2646

オールド.jpeg

原題: Old
2021年 アメリカ
監督: M・ナイト・シャマラン
出演: 
ガエル・ガルシア・ベルナル:ガイ・キャパ
ヴィッキー・クリープス:プリスカ・キャパ
アレックス・ウルフ:トレント・キャパ
トーマシン・マッケンジー:マドックス・キャパ
ルーファス・シーウェル:チャールズ
エリザ・スカンレン:カーラ
アビー・リー:クリスタル
ケン・レオン:ジャリフ
ニキ・アムカ=バード:パトリシア
アーロン・ピエール:ミッドナイト・セダン

<映画.com>
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『シックス・センス』 『スプリット』のM・ナイト・シャマラン監督が、異常なスピードで時間が流れ、急速に年老いていくという不可解な現象に見舞われた一家の恐怖とサバイバルを描いたスリラー。人里離れた美しいビーチに、バカンスを過ごすためやってきた複数の家族。それぞれが楽しいひと時を過ごしていたが、そのうちのひとりの母親が、姿が見えなくなった息子を探しはじめた。ビーチにいるほかの家族にも、息子の行方を尋ねる母親。そんな彼女の前に、「僕はここにいるよ」と息子が姿を現す。しかし、6歳の少年だった息子は、少し目を離したすきに青年へと急成長していた。やがて彼らは、それぞれが急速に年老いていくことに気づく。ビーチにいた人々はすぐにその場を離れようとするが、なぜか意識を失ってしまうなど脱出することができず……。主人公一家の父親役をガエル・ガルシア・ベルナルが演じ、「ファントム・スレッド」のビッキー・クリーブス、「ジョジョ・ラビット」のトーマシン・マッケンジー、『ジュマンジ』シリーズのアレックス・ウルフらが共演する。
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娘マドックスと息子トレントとを連れたガイとプリスカの夫婦が、とある南国のリゾート地へとやって来る。のんびりとしたリゾート地のホテルにチェックインしたトレントとマドックスは大はしゃぎ。一見、微笑ましい家族の姿であるが、実は両親は離婚することを決めており、これが最後の家族旅行である。ただし、子どもたちはこのことを知らない。ビーチでは、宿泊客の大人たちに誰彼ともなく名前と職業を聞いていくトレント。大人たちも相手が6歳の子どもであることから、警察官やダンサーなどと気軽に答える。そしてこれが後の伏線となる。

トレントは、ホテル内で同世代のイドリブと友だちになる。イドリブは、ホテルのマネージャーの甥であるが、この交流も後の伏線となる。翌日、一家はマネージャーにプライベートビーチを勧められる。人のいない自然のままのビーチで寛ぐのもまた一興。家族は誘いを受けてそのプライベートビーチに行く。着いたところは絶壁に囲まれた天然のビーチ。そして同じくマネージャーに招待された外科医チャールズとその家族、看護師ジャリンと心理学者パトリシアの夫妻、そして人気ラッパーのミッドサイズ・セダンの三組が居合わせる。

しかし、遊んでいたトレントが若い女性の死体を発見したことで事態が一変する。女性は冒頭で、セダンに謎の微笑みを残して海に入っていった女性。チャールズはセダンに殺人の疑いをかける。それを否定するセダン。その間、子どもたちの様子がおかしくなり、医者であるチャールズに診てもらおうとするが、チャールズの母アグネスが突然倒れてしまう。チャールズが蘇生を試みるが、それもむなしくアグネスは帰らぬ人となる。

かかる事態に当然、応援を呼ぶという話になり、ジャリンがもと来た道を戻ろうとするが、途中で意識を失ってしまう。さらにマドックス、トレント、チャールズの娘カーラが急速に成長していることがわかる。混乱が広がる中、今度は最初に発見された女性の死体がいつのまにか白骨化していることがわかり、なぜだかビーチ内では時間の進み方が異常だとわかる。されど脱出しようとしても、途中で意識を失ってしまう。それは時間の流れの違いに肉体が耐えられないのだろうと推測される。

子どもたちの成長は急激なのでわかりやすいが、大人たちのそれはわかりにくい。しかし、犬が死に、大人たちにもしわが目立つなどの老化現象が現れる。また、プリスカは実は腹に腫瘍ができていたのだが、それが急速に大きくなる。緊急手術を試みるも、腹を切るとすぐに傷がふさがってしまう。何とか腹部を開いて大きくなった腫瘍を取り出し、プリスカは一命を取り留める。さらに子どもたちが付近にあったスマホや手帳などの誰かの遺留品を発見する。彼らが意図的に閉じ込められたのは明らかで、誰が、何の目的で、と疑問が募る。

脱出方法は、もと来た道を戻る、海に出て泳いでいく、絶壁を登るという方法しかない。ところが、どの方法も途中で失神することが避けられない。道であれば倒れるだけだが、海では溺れ、絶壁では転落するリスクがある。携帯も通じないから助けも呼べない。さらに時間とともに体は成長して(老いて)いく。八方ふさがりの中、パニックは広がる。さらに三組はいずれも何らかの疾患を抱えているということが判明する。そんな彼らに待ち受ける運命は、観ていてなかなか想像できない。

時間が猛スピードで過ぎると、その中で体も変化する。しかし、髪の毛が伸びたり爪が伸びたりという事はない。一応、映画の中でそれについてはそれらしい説明がなされるが、どうにも弱いところはある。それには良し悪しもあって、老化は不都合であるが、ナイフで切りつけられてもすぐに傷口がふさがってしまう所は好都合と言える部分である。ただ、下手に骨を折ったりすると、きちんとくっつけないと変な形で治ってしまったりする。この例も劇中で出てくる。

八方塞がりとなった場合、「何もしない(できない)」という事はあるが、ここでは時間が猛スピードで過ぎていくわけで、何もしなくても老いて死ぬことになる。事実、過去にここに誘い込まれたであろう人たちは、(おそらく)何もできないまま老いて死亡し、死体は白骨化して風化したのだろう。そんな中、中年に成長したトレントがイドリブからもらっていた手紙の中に脱出するヒントが隠されているのに気がつく。このあたりはなかなか楽しませてくれる。

やがて事件の全容が判明するが、それはなんともインパクトがイマイチ。かなり面白い展開だっただけに、結末は少々トーンダウンしてしまった感は否めない。いきなり中年になってしまったトレントとマドックスの兄弟だが、その後どうなったのだろうか。そこがちょっと気になってしまった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年01月20日

【ステップ】My Cinema File 2645

ステップ.jpeg
 
2020年 日本
監督: 飯塚健
原作: 重松清
出演: 
山田孝之:武田健一
田中里念:武田美紀(9〜12歳)
白鳥玉季:武田美紀(6〜8歳)
中野翠咲:武田美紀(2歳)
伊藤沙莉:ケロ先生
川栄李奈:成瀬舞
岩松了:榎本営業部長
日高七海:原雪先生
角田晃広:村松良彦
片岡礼子:村松翠
広末涼子:斎藤奈々恵
余貴美子:村松美千代
國村隼:村松明

<映画.com>
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妻に先立たれて男手ひとつで娘を育てるシングルファーザーと、母親を亡くし父と2人で人生を歩む娘の10年間の足跡を描いた重松清の同名小説を、山田孝之主演で映画化。結婚3年目、30歳という若さで妻の朋子に先立たれた健一。妻の父母から1人娘の美紀を引き取ろうかと声をかけてもらったが、健一は妻と時間をともにした妻の気配が漂うこの家で、娘と天国にいる妻との新しい生活を始めることを決める。娘の美紀の保育園から小学校卒業までの10年間、さまざまな壁にぶつかりながらも、亡き妻を思いながら、健一はゆっくりと歩みを進めていく。山田が自身初のシングルファーザー役を演じるほか、國村隼、余貴美子、広末涼子、伊藤沙莉、川栄李奈らが顔をそろえる。監督は「虹色デイズ」「大人ドロップ」の飯塚健。
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2009年。主人公の武田健一は、予定がたくさん書きこまれたカレンダーを外し、新しいカレンダーに交換する。そしてそこに「再出発」と書き込む。実は、まだ2歳の娘を残し、妻朋子を亡くしたのである。健一は男手一つで娘の美紀を育てる決心をし、この日が再出発となる。美紀を連れて保育園にやってきた健一は、担任となるケロ先生に紹介され、娘を預けると仕事に向かう。

営業の最前線にいた健一は、妻の死を機に総務課へと異動させてもらっている。元の部署の上司からは落ち着いたら戻って来いと言われており、同僚も父子家庭であることを配慮してくれるが、男手での2歳児の育児は思い通りにならない。帰宅してからの食事や洗濯、入浴させて寝る前には絵本を読んであげる。ようやく美紀が寝たあと、疲れてうたた寝をしてしまうこともしばしば。妻の写真に語りかけ、明日への活力とする。

ある日、ケロ先生からせめて保育園の直前でベビーカーから降ろして通園してくれと言われる。友だちに対して「恥ずかしい」という感情を持っているのだと教えられる。やがて保育園のクリスマス会が近づくにつれ、美紀の表情は暗くなり始める。その理由がわかったのは、仕事が長引き、お迎えが遅くなったある晩のこと。ケロ先生に抱かれて美紀は寝てしまっている。抱っこは健一もしているが、「パパの抱っこは忙しい」と美紀が言っていたと聞かされ、健一は愕然とする。その日から健一は美紀の時間軸に合わせることにする。

2014年。美紀は小学生になる。学校の前までは送らなくていいという美紀の言葉に、健一は美紀の成長を感じる。健一は母の日の授業参観で母親の似顔絵を描くことになったと担任から知らせを受ける。1人だけ写真を見て書く事を認めたと言うが、担任は美紀が「ママは家にいる」と発言したことを「嘘をついた」と問題視する。担任の「嘘」という言葉に釈然としない気持ちを抱く健一は、よく行くカフェの店員を思い出し、一計を案じる。

小学3年生になった美紀は、その年のお盆は義母の実家である岡山で過ごすことになる。そこでは昔ながらの死者を迎え入れるお盆の風景がある。そして2018年。美紀は小学5年生になり、健一は営業開発部に異動になる。義父の会社ではクーデターが起こり、義父もその煽りを受けて勇退することになる。義兄夫婦も長年の不妊治療を打ち切り子どもを諦める。そして健一には美紀に会わせたい女性・奈々恵が現れる・・・

原作は重松清。『恋妻家宮本』( My Cinema File 2254)や『泣くな赤鬼』( My Cinema File 2583)、『とんび』( My Cinema File 2633)など映画化された作品も多い。この映画も小説の映画化である。映画化作品の場合、どうしてもダイジェスト版とならざるをえない。この映画も原作小説では美紀の成長にあわせて各章が構成されている。それぞれの章で健一と美紀が関わる人たちとのエピソードが心を打つものとなっている。しかし、映画化されるとどうしても省かれてしまうところが出てくる。最初の2歳の保育園でのエピソードはそのまま描かれていて、「パパの抱っこは忙しい」という言葉に胸が熱くなる。よくそんなエピソードが思い浮かぶものだと思ってしまう。

小学生の母の日のエピソードは原作小説とちょっと異なっている。映画オリジナルの展開もまたそれはそれでいいかもしれない。原作小説では、父子家庭にまつわる様々なエピソードにしばしば考えさせられるが、映画ではどうしても先を急ぐ感じになる。それはそれで仕方がないのかもしれない。最後に奈々恵として登場する広末涼子だが、演出なのか地なのか、ちょっと老けた感じがした。

原作が良かったせいか、ダイジェスト版でもそれなりに良さを感じさせられる。さすが重松清原作と思わせてくれる一冊である・・・


評価:★★☆☆☆









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2023年01月14日

【悪い奴ほどよく眠る】My Cinema File 2644

悪い奴ほどよく眠る.jpeg
 
1960年 日本
監督: 黒澤明
出演: 
三船敏郎:西幸一
森雅之:岩淵
香川京子:岩淵佳子
志村喬:守山
西村晃:白井

<映画.com>
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黒澤プロ設立第1作として監督が選んだテーマは、当時社会問題となっていた政治汚職。汚職事件の隠蔽工作により自殺に追い込まれた男の息子による復讐劇を通して、政界に根深くはびこる腐敗の構造にメスを入れた意欲作。極めて社会性の強いテーマでありながら、スリルとサスペンスを盛り込むことで十二分に娯楽映画として通用する作品。
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まだ観ていなかった黒澤明監督作品を鑑賞。やはりすべての作品を一度は観ておきたいと思う。

ドラマは結婚式から始まる。マスコミが大挙して駆けつける中、土地開発公団の副総裁、岩淵の娘・佳子と、岩淵の秘書・西の結婚式が行われる。時に昭和35年。足の不自由な花嫁は分金高島田。会場はドアが開け放たれ(そもそもないのかもしれない)、マスコミが雁首揃えて見守る中、披露宴が行われる。

披露宴の司会を務める予定であった公団の課長補佐が、なんとその場で汚職関与の疑惑で逮捕され、急遽司会が交代する。5年前には公団の課長補佐・古谷が飛び降り自殺しており、汚職に対する世間の関心も高い中、疑惑の中心人物が出席する結婚式ということで、雰囲気はものものしい。新郎新婦と対面形式の座席は当時のスタイルなのかと、ストーリーとは関係ないところで興味深い。

そして披露宴はウェディングケーキ入刀へと進む。当時、すでにケーキに入刀という儀式が行われていたようである。そしてその場にもう一つのケーキが運ばれてきて、それを見た招待客がざわめく。それは公団のビルをかたどったケーキであり、ある窓に赤いバラの花が刺さっている。それは課長補佐だった古谷が飛び降りた窓。わかる者にはわかる強烈なメッセージに、岩淵らは顔色を変える。

一方、警察に拘引されていた公団の課長補佐・和田は、黙秘を通したのち勾留期限切れで釈放される。しかし、覚悟を決め自殺しようと火山の火口に向かうが、それを阻止したのは西。西は和田を車に乗せ、和田自身の葬儀会場へと連れていく。そして葬儀の様子を眺めながら、テープレコーダーで隠し取った和田の上司の守山と白井の会話を聞かせる。守山と白井は和田の自殺に安堵し嘲笑っている。西は彼らに復讐を企んでいることを語り、和田を仲間に引き入れる。

その後、白井が厳重に秘匿された貸金庫をあけると、現金の代わりに公団のビルの写真が入っている。それはウェディングケーキと同様に7階の窓に×印が付けられており、古谷の死に恨みを持つ何者かの報復行為である疑いがあると岩淵と守山に説明するが、厳重に秘匿した貸金庫から現金を抜き取れるのは和田と白井だけであり、逆に現金を着服した疑いをかけられてしまう。そして深夜に憔悴しての帰宅する途中、白井は暗がりに和田の姿を見る。驚愕した白井は守山の自宅に駆け込み、和田が生きていると訴えるが、守山に一笑されてしまう。

追い詰められた白井を安堵させようと、岩淵と守山は白井のために宴席を設けるが、それは古谷を自殺に追いやった時と同じであり、疑心暗鬼に陥った白井はもはや岩淵の言葉も守山の言葉も聞かない。そして深夜の帰り道、白井の前に殺し屋が現れる。殺される寸前、車が通りかかり、殺し屋は去っていく。車を運転していたのは西。西は白井を深夜の公団ビルの7階に連れて行き、5年前にここから飛び降りて自殺した古谷が自分の父親だと明かし、白井にここから飛び降りろと迫る・・・

物語は汚職の陰で、トカゲのしっぽ切りのごとく自殺させられた公団課長補佐の息子である西の復讐劇。やや時代がかった大げさなストーリー感があるが、時代背景とともに楽しめるところがある。冒頭の結婚式の様子、賄賂を隠した貸金庫の鍵はトランクルームに預けてあるトランクにしまっている。文字通りトランクを預けていたからトランクルームなのかなと思ってみたりする。車もみな左ハンドルなのは、国内メーカーが成長途中だったからだろう。昭和30年代後半に免許を取った父に、当時の教習車は左ハンドルだったと聞いた記憶がある。

主演の西を演じるのは、仲代達也。時代劇のイメージが強いが、相変わらずの低い声は迫力がある。笠智衆が検事役で登場し、殺し屋として登場するのは田中邦衛。西の妻佳子には香川京子。歳をとった姿しか見たことがないが、若き日の頃は新鮮である。その他みんなさすがに若々しい。ラストの展開は、ハリウッド映画を観慣れていると虚を突かれる。改めてタイトルを意識するところである。たかだか公団の汚職で殺し屋まで雇うかというツッコミは飲み込んで、まぁ一昔前の昭和の映画として堪能できる。西が最後に隠れ家として使うのは空襲で廃墟となった工場跡。昭和35年にまだこんなところがあったのだろうかとも思ってみるが、あったのかもしれない。

ストーリー以外にも時代を堪能できる。温故知新の黒澤映画である・・・


評価:★★☆☆☆









posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | サスペンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする