2023年02月25日

【約束】My Cinema File 2658

約束.jpeg

原題: Over the Border
2006年 韓国
監督: アン・パンソク
出演: 
チャ・スンウォン:ソノ
チョ・イジン:ヨナ
シム・ヘジン

<映画.com>
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南北の国境に引き裂かれた男女の悲恋を描いた悲劇。結婚の約束をした恋人ヨナを北朝鮮に残し、韓国へと渡った青年ソノ。ヨナの脱北資金を貯めようと必死に働いていた彼の元に、彼女が北で結婚したという知らせが届く。絶望したソノは別の女性と結婚。それから数年後、新しい家族と共に食堂を経営していたソノは、ヨナが脱北して韓国にいることを知る。主演は「リベラ・メ」のチャ・スンウォンと「台風太陽」のチョ・イジン。
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主人公は、1975年の朝鮮労働党創建日に生まれたキム・ソノ。祖父は解放のための戦争で戦死しており、そのため一家は優遇されて平壌に住んでいる。ソノはマンス芸術団のホルン演奏者であり、恋人ヨンファとは結婚を約束しており、まさに幸せの絶頂にいる。ところが実は戦死したはずの祖父は韓国で生きていることがわかる。資本家として成功しているという連絡が
あり、秘かに手紙のやり取りをするようになる。

ところが、どうやらこの事実が当局に察知され、一家は国境を越えて脱北することにする。突然のことに驚くソノは、慌ててヨンファに一緒に来てほしいと伝える。しかし、 ヨンファにも 両親がいる。簡単に首を縦には縦に振れない。1人だけ脱北すれば、両親が咎められるかもしれない。両親にしてみれば平壌でのエリート生活をいきなり捨てるのも勇気がいるだろう。かくしてヨンファは残ることになる。そしてソノは必ず迎えをよこすと約束して脱北する。

脱北と言っても簡単ではない。協力者の手助けを受け(映画では描かれていないが、平壌在住のエリートなら人脈も金もあったのだろう)、深夜に首まで浸かりながら川を渡り、何とか韓国へと辿り着く。現実的にどうかという細かいところは気にしない。そしてようやく祖父の元へと辿り着くも、何と祖父は既に墓の下。突然北からやってきた「親戚」に、祖父の家族がいい顔をしないのも当然である。一家は自力で生きていかなければならなくなる。

こうなると、ヨンファを迎えに行くどころではない。自分たちの生活を維持するために必死で働く。北朝鮮に残してきたヨンファの事を考えない日はない。初めてヨンファを見かけた日、声をかけたくて後を追うがなかなか声をかけられない。何とかデートするようになるが、不器用に振舞うだけ。遊園地で遊び、観覧車の中でぎこちないキスをする。必死で働き、ようやく韓国での生活に目途がたったソノだが、ある日、ソノの姉からヨンファが結婚 したと聞かされる。希望を失ったソノは、韓国で知り合った女性キョンジュと結婚する・・・

北朝鮮での生活を封印し、韓国での新たな人生を歩き始めたソノだが、そこに青天の霹靂のような知らせが届く。韓国に入国した脱北者のグループにヨンファがいたのである。どうやらソノを待ち切れず、すべてを捨ててたった1人で国境を越えて来たという。しかも結婚したというのは間違いであったとわかる・・・

何とも言えない展開の映画である。人の思いは通じ合うわけではない。ダメだと諦めて他の女性と結婚したのに、実はそれは誤解であった。そんな経験をしたことのある我が身だからだろうか、余計に感情移入するところがある。この映画は、ストーリー自体というよりも、我が身との経験から余計に心に響いてくるものがある。それにしても、南北問題という大きな問題があるからこそ、余計に複雑になる国事情がストーリーを盛り上げる。

なぜ、諦めたのかと問うのは簡単。しかし、連れてくるとなると、ヨンファも両親を捨てることになる。脱北者が出た家族がそのままエリートとして平壌で暮らせるかどうかはわからない。であれば連れていくことこそ無謀なのかもしれない。特に結婚生活は最初の頃はともかく、時間が経てば変わっていく。結婚生活が長くなれば、連れてこなくてよかったのではと思えてならない。しかし、愛は盲目である。

ラストの結末は何とも言えない。2人の幸せを心から願うばかりである。つくづく、国同士の平和って大事だなぁと思わせてくれる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年02月24日

【死刑にいたる病】My Cinema File 2657

死刑にいたる病.jpeg

2022年 日本
監督: 白石和彌
出演: 
阿部サダヲ:榛村大和
岡田健史:筧井雅也
岩田剛典:金山
宮崎優:灯里
中山美穂:玲子

<映画.com>
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『凶悪』 『孤狼の血』の白石和彌監督が、櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」を映画化したサイコサスペンス。鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。『彼女がその名を知らない鳥たち』の阿部サダヲと『望み』の岡田健史が主演を務め、岩田剛典、中山美穂が共演。『そこのみにて光輝く』の高田亮が脚本を手がけた。
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主人公は大学生の筧井雅也。東京の三流大学に通い、1人暮らしをしているが、祖母の葬儀に参列するため、実家に帰宅する。母親は歓迎してくれるが、父親は雅也に冷たい対応をする。実家とは言え、雅也にとって居心地の良い場所ではない。そんな実家で、雅也は自分宛てに届けられた1通の手紙に気づく。手紙の主は、榛村大和。彼は雅也が中学生時代に通っていたベーカリーの店主だったが、24人もの男女高校生を殺害して死刑判決を受けた連続殺人鬼であった。

顔見知りとは言え、なぜ死刑囚が自分に手紙など出すのか。会いたいという依頼を受けた雅也は、東京拘置所に収監中の榛村に面会しに行く。面会した榛村は、既に自身の罪を認めていたが、「立件された9件の事件の内、最後の1件だけは自分はやっていない」と雅也に告げる。確かに、殺害されたのはすべて高校生であったが、最後の1件はOLであり、異質と言える。榛村以外にも殺人鬼が存在していると訴える榛村は、雅也に「真犯人を探してほしい」と依頼する。警察も弁護士も動いてくれないとは言え、大学生の雅也に依頼するのは酷な内容である。

主人公の雅也は、何か目的意識があって大学生活を送っているわけではなく、なんとなく流されて日々を送っている感がある。父親との関係が良くないのは、 教育熱心な父親により、幼い頃から勉強ばかりさせられてきて、高校は進学校に入学したものの、そこで力尽きて三流大学弐しか入れなかったことが背景にある。大学でもサークルには所属せず、1人で過ごすことが多いが、そんなある日、キャンパスで中学時代に同級生だった加納灯里と再会する。中学時代は地味な印象が強かった灯里が、明るい性格になっていることに雅也は驚く。

物語はさまざまな伏線をまき散らしながら進んでいく。母親の衿子は昔から父親に家政婦のように扱われていたためか、自分では何も決められなくなっている。拘置所から帰る途中、雅也は髪の長い男に話しかけられる。「ある人に面会に来たが、会おうかどうか決められなかった」と不気味に雅也に語りかける。加納灯里は「中学時代に唯一話しかけてくれた」という理由で雅也に好意を寄せる。そんな伏線の一つ一つが後半に驚くべきつながりを持ってくる。

榛村が起こしたとされるのは24件の殺人事件。手口は、狙いを定めた16〜17歳の高校生に対し、長い時間をかけて巧みに信頼関係を築いていき、ある日拉致して自宅敷地にある燻製小屋に連れ込んで拷問を行ったのち殺害するというもの。爪を一つ一つはがすその手口はおぞましい。そして死体はすべて焼却して庭に埋めてしまう。計画的で残忍。そして表の顔は人たらし。誰もが好意を抱く。隣人でさえ、「警察に追われているから助けてくれと言われれば助けてしまうかもしれない」と言わしめる。始めは厳しかった拘置所の担当者でさえ、いつの間にか榛村に好意的に振舞うようになっている。

榛村は死刑囚として拘置所に留置されている。それ自体、もう脅威ではない。ところがその影響はいまだに消えていない。雅也は榛村の顧問弁護士を訪ね、調査に協力してもらう。アルバイトという立場を得て、独自に名刺を作り関係者に話を聞いていく。物語はそうして進んでいくが、際立つのは榛村の恐ろしき人心掌握術。映画を観ていくうちに背筋が寒くなる。冒頭で
榛村が川に花びらを撒いているが、それが何かが後半で分かるが、それも実におぞましい。

タイトルは、キルケゴールの有名な著書から取っているのだと思うが、実に意味深である。榛村は拘置所にいてもう何も脅威はないはずであるが、ラストはまだ何かありそうな予感を持たせる。榛村を演じるのは阿部サダヲ。もともと性格俳優で変幻自在なところがあるが、こういう人物を演じさせると実に不気味である。原作は読んでいないが、映画だけでも完成度の高い不気味な映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年02月22日

【ガンズ・アキンボ】My Cinema File 2656

ガンズ・アキンボ.jpeg

原題: Guns Akimbo
2019年 アメリカ
監督: ジェイソン・レイ・ハウデン
出演: 
ダニエル・ラドグリフ:マイルズ
サマラ・ウィーヴィング:ニックス
ナターシャ・リュー・ボルディッゾ:ノヴァ
ネッド・デネヒー:リクター
リス・ダービー:グレンジャミン
グラント・バウラー:デグレイヴス
エドウィン・ライト:スタントン

<映画.com>
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「スイス・アーミー・マン」『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフが主演を務め、両手に拳銃が固定された状態でデスゲームに参加させられた男の戦いを描いたアクション。ゲーム会社でプログラマーとして働くマイルズは、ネットの掲示板やコメント欄に過激な書き込みをして鬱憤を晴らしていた。ある日、マイルズは本物の殺し合いを生配信する闇サイト「スキズム」に攻撃的な書き込みを繰り返し、サイトを運営する闇組織のボスを怒らせてしまう。組織に襲撃され気を失ったマイルズが目を覚ますと、両手にボルトで拳銃が固定されていた。さらに元恋人も人質にとられたマイルズは、「スキズム」で最強の殺し屋ニックスに24時間以内に勝てば解放すると言い渡される。殺し屋ニックス役に「レディ・オア・ノット」のサマラ・ウィービング。監督・脚本は「デビルズ・メタル」のジェイソン・レイ・ハウデン。
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冒頭、2台の車が互いに銃を乱射しながら疾走している。それはリアルタイムで闇サイト『スキズム』に配信されている。やがて1台の車が炎上して勝負にけりがつく。勝者はニックスという名の女性。敗者は命を落とすというデス・ゲーム。当然、違法であるが、ネット社会の観戦者はモラルも何もなくリアルタイムの殺し合いに熱狂している。勝者のニックスは無敗(負ければ死ぬわけであるから必然的に無敗ということになる)を誇る人気者である。

一方、主人公のマイルズは、英雄や戦士に憧れているが、ごく平凡なゲーム会社のプログラマー。仕事中にもスマホを見ていて上司に怒られるというあまり感心できない勤務態度。そんな彼は、スキズムのサイトを見つけ、批判的なコメントを書きまくる。顔の見えないネット社会では何を書いても自由である。そしてどこかの誰かとクソリプの応酬になる。書き込みだけで済めば問題はないのであるが、ストーリーはそうはならない。

クソリプの応酬の挙句、自分のIPアドレスを相手が知ったとわかりマイルズは動揺する。そうこうするうちに突然人相の悪い男たちが自宅に押しかけてくる。そのままマイルズは麻酔で眠らされ、拉致される。拉致したのは、スキズムの会長リクターとその部下たち。どこかに連れ去られてマイルズだが、自宅で意識を回復する。ところが、目を覚ましたマイルズの両手には何とボルトで銃が固定されている。弾数表示は50。そして、マイルズにはニックスと戦えという命令がスキズムから届く。

ニックスは既にデグレイヴス率いる警察にマークされているが、スキズムからデス・ゲームの最後の相手としてマイルズが指名される。そしてさっそくマイルズの部屋に向かう。両手に銃を取り付けられたマイルズは1人でズボンも履けないあり様。そこへ最凶の殺し屋がやってくるが、はっきり言って実力は天地ほどの差もある。マイルズは窓から逃げ出すのが精一杯。そしてスキズムでは、マイルズとニックスの対決が配信され始め、ファンは対決に熱狂する・・・

闇サイトで違法配信が行われるというストーリーは、『ブラック・サイト』(My Cinema File 470)もあったりしてもう珍しいものではない。違法とされればそれ自体が人の興味をかきたてアクセスが増えるという悪循環に陥る。マイルズは町中を下着にガウンを羽織っただけの姿で逃げ回りまわるが、両手に拳銃を固定されているので不自由極まりない。警官を見つけて助けを求めるも、銃を持っているので逆に銃口を向けられる。ゴミ箱に隠れ、ホームレスに助けられる姿は視聴者の失笑を買う。

違法サイトはそれ自体問題ではあるが、元を正せばマイルズにもネットの書き込みという点では褒められないところがある。匿名をいいことに誹謗中傷を繰り返す問題は、昨今わが国でも大きな問題になっている。匿名性は大事なところもあるが、利用者のモラルも大事である。とは言え、それが殺されていい理由にはならない。マイルズが必死に逃げれば逃げるほどアクセスは上昇する。

逃げるマイルズは勤務先の同僚に自分の携帯につけられたスキズムの追跡トラッカーを除去するように頼むが、こうしたテクノロジーも世の中で一般的になっていくのだろう。ストーリーは、逃げるマイルズと追うニックスとの展開から、やがてスキズムのリクターをも巻き込んだものとなっていく。リクターと彼を追う刑事のデグレイヴスとの因縁。そしてニックスの正体。単なる戦いではなく、先を読ませないストーリー展開が絶妙である。

闇サイトも誰も見なければ何も問題はない。しかし、闇だからこそ人は除きたくなる。モラルと好奇心のせめぎ合い。そこにあるのは、「他人の不幸は蜜の味」という事実。タイトルの「ガンズ・アキンボ」とは「銃を固定された男 / 二丁拳銃」という意味だそうである。ちょっと気弱な主人公を演じるのは、「ハリー・ポッター」の子役からすっかり脱却したダニエル・ラドクリフ。あとは見慣れぬ出演陣だったが、ストーリーと相まってなかなか楽しめた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年02月18日

【SEOBOK ソボク】My Cinema File 2655

SEOBOK ソボク.jpeg

原題: 서복/Seobok
2021年 韓国
監督: イ・ヨンジュ
出演: 
コン・ユ:ミン・ギホン
パク・ボゴム:ソボク
チョ・ウジン:アン部長
チャン・ヨンナム:イム・セウン
パク・ビョンウン:シン・ハクソン
キム・ジェゴン:キム・チョノ
ヨン・ジェウク:ホ課長
キム・ホンパ:ペ局長
イ・オンジョン:ユン・ヒョンス

<映画.com>
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永遠の命をもつクローンの青年と、彼を守ることになった余命わずかな元情報局員の運命を描いた韓国発のSFサスペンスドラマ。余命宣告を受けた元情報局員の男ギホンは、国家の極秘プロジェクトによって誕生した人類初のクローン、ソボクの護衛を命じられる。ところが任務開始早々、何者かの襲撃を受ける。からくも生き延びた2人だったが、人類に永遠の命をもたらす可能性を秘めたソボクの存在を狙い、その後もさまざまな勢力が襲ってくる。危機的な状況の中で逃避行を繰り広げるギホンとソボクは、衝突を繰り返しながらも徐々に心を通わせていくが……。「新感染 ファイナル・エクスプレス」のコン・ユが元情報局員ギホン、ドラマ「青春の記録」のパク・ボゴムがクローン青年ソボクを演じる。監督は『建築学概論』のイ・ヨンジュ。
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主人公は、元国家情報局員のギホン。ギホンは余命宣告を受けており、そんなギホンにある時、国家情報局員のアン部長から声が掛かる。連れていかれたのはある研究所。そこでは人類初のクローン人間の研究が進められている。「ソボク」と名づけられたクローン人間は、不老不死の存在であり、かつその骨髄液には人間のあらゆる病をも治す力があった。さらに、周囲の圧力を変える超能力のような力があることもわかっていた。しかし、1日に1回は抑制剤を打つ必要があり、抑制剤がないと生きられない体でもあった。

そんなソボクの存在は、人類普遍の夢であり、当然我が物にしようとする輩も出てくる。ギホンに依頼されたのは、ソボクの護衛。うまくやり通せばソボクの力によって不治の病から回復できるかもしれないと甘い言葉を囁かれたギホンは護衛を引き受ける。そしてさっそく研究所の移動のため、ソボクとギホンは護衛車で移動する。ところが、何者かに襲撃され2人は拉致されてしまう。

一旦は武装グループに監禁されたギホンとソボクだが、ギホンは巧みに相手の隙をついて脱出することに成功する。ところが逃走中に奪ったトラックが故障し、国家情報局の隠れ家まで徒歩での移動を余儀なくされる。街中を2人で歩くギホンとソボク。しかし、研究所育ちのソボクにとって見るものすべてが珍しいものであり、知らない世界。そんなソボクにギホンは服や靴を買い与える。

隠れ家に到着したギホンとソボク。ほっと一息ついたところで、ギホンはソボクにカップラーメンを作る。ソボクにとって食事とはサプリメントを飲むことであったため、初めて目にする食べ物に驚き、何杯も口にする。もしもクローン人間が実現しても、きちんと赤ん坊から育てるのでなければ、ソボクのようになってしまう。そんなことを考えてしまう。そのとき、突如として2人の前に2人組の男たちが現れる。2人組の狙いはソボク。射殺しようとする2人組に対し、ギホンとソボクは何とかこれを防ぐ。

しかし、ここでソボクの超能力が発揮される。周囲の圧力を変える事で、空気を盾のように使うことで銃弾をかわす。こんな事が出来たら無敵である。そして2人組が持っていた携帯から、ソボクを殺す命令はアン部長から発せられていたことがわかる。一方、抑制剤の切れたソボクは口から血を吐く・・・

不老不死を巡る争い。それは太古の昔からの人類の夢。それがクローン人間という形で実現する。そんなクローン人間ソボクをさっそく狙うグループが現れる。主人公のギホンは不治の病で余命宣告を受けている。ソボクは体は大人だが、急成長したために知識が追いついていない。ギホンに対し、なぜ自分を守るのかとソボクは問う。それは実に素朴な質問。大人はきれいごとで取り繕うが、ソボクの純粋な質問にギホンは答えに窮する。そして自分の命のためだと告白する。

ソボクの「なぜ」「なぜ」という質問にしばしギホンは戸惑う。ソボクの純粋な質問に我々はいかに自分たちが本音を偽って生きているのかを認識させられる。そしてソボクを捕えたグループは不老不死の力を持つソボクの骨髄液を抜き取ろうとする。それはソボクを人間扱いせず、その扱いは家畜と同等である。映画だから大げさに描かれてはいるものの、自分の欲求のために他人を踏みつけるのを厭わない人間は身の回りに多数いる。

一部SF的な要素を詰め込んだドラマ。これまでもたとえば、『プラチナ・データ』( My Cinema File 1060)、『パラレルワールド・ラブストーリー』( My Cinema File 2345)、『ラプラスの魔女』( My Cinema File 2579)などの東野圭吾作品によくあるパターンである。しかし、根底に流れる人間ドラマは不変である。最後にソボクがギホンに望んだことは、結局人間がエゴの塊である事を示している。残念ながら、ソボクが幸せに生きられる世の中ではないなと思わざるをえない映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年02月17日

【ペイン・アンド・グローリー】My Cinema File 2654

ペイン・アンド・グローリー.jpeg


原題: Dolor y gloria
2019年 スペイン
監督: ペドロ・アルモドバル
出演: 
アントニオ・バンデラス:サルバドール
アシエル・エチェアンディア:アルベルト
レオナルド・スバラーリャ:フェデリコ
ノラ・ラバス:メルセデス
フリエタ・セラーノ:年老いたハシンタ
セザール・ヴィセンテ:エデュアルド
アシエル・フローレス:子供時代のサルバドール
ペネロペ・クルス:若い頃のハシンタ

<映画.com>
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スペインの名匠ペドロ・アルモドバルが長年にわたってタッグを組んできたアントニオ・バンデラスを主演に迎え、自伝的要素を織り交ぜつつ描いた人間ドラマ。世界的な映画監督サルバドールは、脊椎の痛みから生きがいを見いだせなくなり、心身ともに疲れ果てていた。引退同然の生活を送る彼は、幼少時代と母親、その頃に移り住んだバレンシアの村での出来事、マドリッドでの恋と破局など、自身の過去を回想するように。そんな彼のもとに、32年前に手がけた作品の上映依頼が届く。思わぬ再会が、心を閉ざしていたサルバドールを過去へと翻らせていく。バンデラスが主人公の映画監督を繊細に演じ、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞。第92回アカデミー賞でも主演男優賞、国際長編映画賞にノミネートされた。アルモドバル作品のミューズ、ペネロペ・クルスが家族を明るく支える母親を演じる。
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主人公は、マドリードに住む映画監督のサルバドール・マヨ。昔からの友人メルセデスに何をしているのかと問われ、「ただ生きているだけ」と答える。体の具合が悪い事もあり、惰性で生きている感が強い。そんなある日、30年前に自分が監督した作品が復刻して再上映されることを告げられる。そしてその場でプレゼンターをする事を提案される。サルバドールは、映画に主演したアルベルトと一緒に行おうと考える。サルベルトとアルベルトとは、当時アルベルトの演技を巡って喧嘩別れしたままであった。

友人からアルベルトの住所を聞いたサルバドールは、アルベルトを直接訪ねる。アルベルトは突然の訪問に眉をひそめながらもサルバドールを招き入れ、お茶を振舞う。時間の経過は互いのわだかまりも消し去る。さらにサルバドールは、アルベルトがヘロインを吸うのを見て自分も試してみることにする。それは日頃から悩まされていた頭痛による苦痛を和らげるひと時。その時、ハイになったサルバドールの脳裏に幼い頃の思い出が甦る。

それは母・ジャチンタとの貧しい生活。洗濯は川で近所の主婦仲間と共に行い、シーツなどは河原にそのまま干す。サルバトールの穴の開いた靴下を母は縫う。そしてある日、町中の新しい家に引っ越すことになるが、夫が見つけてきたのは洞窟の様な地下の住居。経済的な余裕がないからであるが、その様子に思わず絶句するジャチンタ。しかし、サルバドールにしてみれば、台所部分の天井は大きく穴が開いており、青空がのぞき太陽光が注いでくる洞窟は秘密基地の様相を呈していることもあって大喜びする。

帰宅したサルバドールを今度はアルベルトが訪ねてくる。再びヘロインを吸ったサルバドールが夢うつつの間、アルベルトはサルバドールのパソコンに保存されていた「アディクション (中毒)」と題された話を読む。その内容を気に入ったアルベルトは、これを題材に演じたいと申し出る。戯曲ではないと断るサルバドールに対し、アルベルトは自分流に解釈して台本に出来ると意欲的。戸惑うサルバドールは、返事を留保する。

そして映画の上映日を迎えるが、サルバドールは、支度はしたものの、結局会場へ行くのは辞めてしまう。困り果てた主催者は、サルバドールが電話に出たことから、会場で臨時の電話インタヴューに切り替える。そして観客からの質疑応答で、かつての対立を指摘されたサルバドールは、主演を務めたアルベルトに対する今も変わらぬ批判を口にしたことから2人の口論に発展してしまう・・・

主演アントニオ・バンデラス、共演ペネロペ・クルスとあって迷わず観た作品であるが、何とも物静かな映画である。物語は主人公のサルバトールの現在と幼少時代とが対比して描かれていく形を取っている。アントニオ・バンデラスと言えば、『レジェンド・オブ・ゾロ』(My Cinema File 69)のイケメン俳優のイメージがあるが、ここでは疲れた高年の男として登場する。そこに2枚目の香りはない。また、美形女優のペネロペ・クルスもサルバトーレの母として生活感が色濃く出た主婦として登場する。ともに美男美女は封印しているが、それもまた良しではある。

淡々と進むストーリー。これはストーリーを味わうという映画ではなく、そこから何かを感じるという映画。幼少時代からの思い出。中でもレンガ職人のエドゥアルドに字を教えるシーンが出てくる。まだ識字率が高くなかった時代だったのだろう。読み書きができるということが特別だったのである。年老いた母親との関係。良くなる兆しのない自身の体調。ヘロインのみがサルバドールに安らぎを与える。そんな事が綴られていく。『ペイン・アンド・グローリー』というタイトルが内容にマッチする。

誰もが思い通りの人生を歩んでいるわけではない。サルバドールにしてもそれは同じ。後悔こそが人生といった感がある。それでもサルバドールの苦悩が少しずつ解消されて行く。バレンシアで過ごした貧しい日々が、時を経てかけがいのないものになる。それが静かに余韻として残る。しみじみとした味わいの映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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