2023年05月30日

【キーパー ある兵士の奇跡】My Cinema File 2696

キーパー ある兵士の奇跡.jpeg

原題: The Keeper
2018年 イギリス・ドイツ
監督: マルクス・H・ローゼンミュラー
出演: 
デヴィッド・クロス:バート・トラウトマン
フレイア・メーバー:マーガレット・フライアー
ジョン・ヘンショウ:ジャック・フライアー
デブラ・カーワン:クラリス・フライアー
マイケル・ソーチャ:ビル・ツイスト
ハリー・メリング:スマイス軍曹
ゲイリー・ルイス:ジョック・トンプソン
バーバラ・ヤング:サーラおばあちゃん
オリビア・ミニス:バーバラ・フライアー
トビアス・マスターソン:ジョン・トラウトマン
クロエ・ハリス:ベッツィ

<映画.com>
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イギリスの国民的英雄となった元ナチス兵のサッカー選手バート・トラウトマンの実話を基に描いたヒューマンドラマ。1945年、イギリスの捕虜となったナチス兵トラウトマンは、収容所でサッカーをしていた折に地元チームの監督にスカウトされる。その後、名門サッカークラブのマンチェスター・シティFCにゴールキーパーとして入団するが、元ナチス兵という経歴から想像を絶する誹謗中傷を浴びせられてしまう。それでもトラウトマンはゴールを守り抜き、やがてイギリスの国民的英雄として敬愛されるように。そんな彼には、誰にも打ち明けられない、秘密の過去があった。主人公トラウトマンを『愛を読むひと』のデビッド・クロス、妻マーガレットを「サンシャイン 歌声が響く街」のフレイア・メーバーがそれぞれ演じた。
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1944年、ヨーロッパ戦線。ある森の中でドイツ兵のバート・トラウトマンは連合軍の攻撃を受け、捕虜として捕らえられる。イギリスのランカスターの捕虜収容所に移送されたバートは、そこで捕虜としての生活を送る。イギリス軍のスマイス軍曹はドイツ兵に恨みを持ち、対応は厳しい。そんなある日、バートはたばこ欲しさに捕虜仲間とサッカーの賭けをする。ゴールに立ったバートがシュートをブロックすればタバコを手に入れるというもの。そこで次々にゴールを阻み、タバコを手に入れるバート。

すると、その光景を目にしていたのが、ランカスターで小売店を経営するかたわらでサッカークラブの監督をしていたジャック・フライアー。実は自分のクラブが降格の瀬戸際であり、背に腹は代えられず、スマイス軍曹と交渉してジャックは、バートを自分のクラブのキーパーとして借りる約束を取り付ける。クラブの選手たちは、ドイツ兵がチームに入ることに反発するが、降格の危機に迫られたジャックは強引に入れる。

ジャックの期待通り、バートは卓越したディフェンス能力を発揮し、クラブを勝利に導く。初めこそバートはこっそりジャックのたばこをくすねる程度であったが、回数を重ねるうちに見返りを求めるようになる。そこでジャックは、バートを店の雑用係として使うことにする。収容所の作業やスマイスに便所掃除をさせられて辟易していたバートにとって、それは大いなる開放を意味する。

ジャックの娘マーガレットは、ドイツ兵のバートに嫌悪感をあからさまにする。ジャック以外の者がバートと距離を置く中、マーガレットの妹バーバラは、まだ幼さを残しており、それほどドイツ兵に敵意を抱いていないこともあり、やがて2人は日常会話を交わすようになる。さらにその様子を見ていたマーガレットも、いつしかバートの姿を目で追うようになっていく。その間、チームはバートの活躍もあって勝利を重ねていく。

映画は実在の人物を追った伝記ドラマ。捕虜としてイギリスに移送されたドイツ兵がサッカーを通じてイギリス社会に溶け込んでいく。冒頭ではロンドン空襲が描かれ、ドイツ兵に対するイギリス人の激しい敵意も納得する。ドイツ兵もすべてが残虐なわけではなく、バートは志願兵ではあるが、もともとは穏やかな人物。東部戦線で味方がロシアの少年を射殺しようとするシーンが何度も繰り返される。それがなぜかバートの心に滓となって残っている。収容所では、“再教育”としてスマイスが虐殺されたユダヤ人の映像を見せると、ナチスのメンバーと対立するドイツ兵が出る。

チームは連勝を重ねついに決勝戦へと駒をすすめるが、そんな最中、戦争終結にともなって捕虜のドイツ兵たちも本国へ送還されることになる。メンバーとも打ち解けて、さらにはマーガレットともいつしか距離を縮めたバートは、残留することに決める。そしてそんな活躍を見ていたイングランドの名門サッカークラブ、マンチェスター・シティFCの監督がバートに声をかけてくる・・・

昨日の敵を迎え入れるイギリスの人々の反応は様々。現代の感覚で見ていると、受け入れることには何の抵抗もないように思うが、実際に家族を失っていたりすると反発する人たちの気持ちもよくわかる。この実話が感動的なのは、そんな対立が解消していく様子である。会場につけばバスを降りたとたんヤジが飛び卵が投げつけられる。スタンドはブーイングの嵐。そんな環境でよくプレーができたなと思う。

テレビで試合を見ているシーンでは、当時の映像が使われていて興味深い。それでもやがてイギリスの人々がバートを受け入れていったのは、やはりバートのサッカーの実力であるのは間違いない。スポーツに国境はないのだと改めて思わされる。映画だから脚色はあるのだろうが、実話の持つ感動がじっくりと伝わってくる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年05月27日

【ウォーク・トゥ・リメンバー】My Cinema File 2695

ウォーク・トゥ・リメンバー.jpeg

原題: A Walk to Remember
2002年 アメリカ
監督: アダム・シャンクマン
出演: 
シェーン・ウェスト:ランドン・カーター
マンディ・ムーア:ジェイミー・サリヴァン
ダリル・ハンナ:シンシア・カーター
ピーター・コヨーテ:サリヴァン牧師
ローレン・ジャーマン:ベリンダ

<映画.com>
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運命的な恋を通じて人生の可能性を見出していく少女を主人公に、人を愛することの素晴らしさを謳いあげるラブストーリー。マンディ・ムーアが映画初主演。監督は「ウェディング・プランナー」のアダム・シャンクマン。
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深夜、高校生たちがとある貯水池にやってくる。1人の男に高所から飛び込みを強要する。仲間に入る儀式のようなものらしい。かなりの高さだが、飛び込んだ子は溺れてしまい、慌ててランドンが助けに入る。運悪く警備員に警察を呼ばれてしまい、ランドンは身柄を拘束される。学校でも問題になるが、幸いにも退学までには至らず、校内清掃などのボランティアや演劇部の手伝いを命じられる。

ランドンは離婚した母親と2人暮らし。父親は医師だが、家を捨てたと恨むランドンは反抗的な態度を取っている。同じ高校にはジェイミーという女生徒がいる。父親は牧師であり、ランドンは幼稚園から一緒だが、ほとんど口を聞いたことがない。ジェイミーは真面目だが地味な子であり、ませた友人たちからはいつも同じセーターを着ていると陰口をたたかれている。本人はそんなことを気にするわけでもなく、天文学クラブに所属し慈善活動にも精を出す優等生。

退学を免れたランドンは、罰としての慈善活動をやり演劇部にも顔を出す。そこで次回の公演での出演を命じられる。さすがに真面目にやらねば退学もありうると考えたのか、ランドンはセリフの暗記に入る。同じ部であり、冒頭の騒動で足を怪我したランドンを仕方なく車で送ることになったことから、ジェイミーはランドンと話をするようになる。ジェイミーには「実現したいことのリスト」があり、「嫌いな人とも仲良く」というのはその42番に入っている。

ジェイミーのやりたいことリストには「同時に2ヵ所に行く」、「タトゥーを入れる」などがあるが、ランドンが「1位は?」と尋ねても教えてくれない。その後、ランドンは友人のエリックに台本読みの練習に付き合ってもらうが、全く練習にならない。そこでランドンはジェイミーに台本読みの練習を手伝ってほしいと頼む。ジェイミーは仕方なく手伝うことにするが、自分を好きにならないようにとランドンに約束させる。「大丈夫」と答えるランドン。その後の展開が読めるというもの。

ランドンはジェイミーの家を訪ねる。家には父親のサリヴァン牧師がいる。その様子からは、評判の良くないランドンと関わることを心良く思っていない。牧師よりも父親としての顔が色濃く出ている。こうしてランドンとジェイミーの演劇の練習が始まる。そんなある夜、ランドンが車で家に帰る途中、墓地の近くでジェイミーを見かける。気になったランドンが声をかけると、ジェイミーは大きな望遠鏡を設置する。それはジェイミーが12歳の頃に買った望遠鏡。そしてジェイミーはもっと大きい望遠鏡を組み立てて、翌春やってくる百武すい星を観測したいと語る・・・

学校では地味な女の子にやんちゃな男が惹かれていく恋愛ドラマ。そしてまさかと思っていたが、やっぱりジェイミーは不治の病に犯されている。一昔前に流行った悲恋ものの王道パターン。よく見れば制作年も20年前だし、その当時は自然だったのかもしれないが、いまとなっては、時代劇の雰囲気もある。個人的にはそう思うものの、『17歳のエンディングノート』(My Cinema File 1320)などもあるから、今でもまだまだ現役のストーリー展開なのかとも思う。ジェイミーに心惹かれたランドンは、ジェイミーのアドバイスを受け入れていく。恋愛は人間的な成長を促すきっかけともなる。

お話し的にはお涙頂戴のハイライトとなりそうなジェイミーがこの世を去るシーンは描かれない。その後のランドンの様子がさらりと描かれるのみ。そんなところはわざとらしくなくて好感が持てた。いろいろなところで「作られた」感満載のストーリーなのだが、うまく映画の世界に入り込めば、若者の純粋な恋愛ストーリーを楽しめる。深く考えずに楽しみたい映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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2023年05月26日

【光の旅人 K-PAX】My Cinema File 2694

光の旅人 K-PAX .jpeg

原題: K-Pax
2001年 アメリカ
監督: イアン・ソフトリー
出演: 
ケヴィン・スペイシー:プロート
ジェフ・ブリッジス:マーク・パウエル
メアリー・マコーマック:レイチェル・パウエル
アルフレ・ウッダード:クラウディア・ヴィラー

<映画.com>
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自分を異星人だと主張するプロートは、詳細に故郷の星を語り、また精神病院の患者たちの閉ざされた心を開いていく。彼は本当に異星人なのか。彼と出会った精神科医は悩む。監督は「バック・ビート」「サイバーネット」のイアン・ソフトリー、脚本は「マイ・フレンド・メモリー」のチャールズ・リービット、撮影は「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」のジョン・マシソンが担当。ソフト題は「光の旅人 K-PAX」。
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すべての映画に精通しているわけではないが、ケヴィン・スペイシー主演のこの映画のことはまったく知らず。よく見れば20年も前の作品である。

始まりはニューヨークのグランド・セントラル駅。1人のホームレスが、サングラスをかけた男に気づく。どこからともなく突然現れた感じに戸惑う。男はひったくりにあって倒れた女性を助け起こすが、駆け付けた警官に職務質問をされる。しかし、自らを宇宙から来たと語ったため、身柄を拘束されてしまう。そのまま病院に収容された男はブロートと名乗る。プロートは、琴座のK-PAXという惑星から来たと主張し、医師が精神薬剤を投入するも、不思議なことになんの効果もない。そこで精神医学者のマーク・パウエルにカウンセリングの依頼が入る。

マークはさっそくプロートと話をする。彼の故郷K-PAXについての説明は作り話とは思えないもの。地球には光を利用して旅してきたと語り、光より速いものはないというアインシュタインの理論にも整然と反論する。K-PAXには夫婦や家族、善悪や刑罰・司法といった概念が無く、9つの恒星の相互作用のため、常に黄昏のような暗さで生活していると言う。事実、プロートは人間には識別できない紫外線を識別できると知らされ、驚く。

多くの精神病患者と接してきたマークもプロートの異質さに興味を惹かれる。義弟に話すと、義弟もプロートが専門の天文学者しか知りえないことを語っていることに興味を持つ。そして天文学者の友人に会わせると、彼はK-PAXの正確な軌道を描いて見せる。それは学者たちでさえ、最新の観測技術でようやく知りえる内容。これには学者たちもただただ驚くばかりである。さらにプロートは「誰もが自己を治癒する力を持っている」とし、同じ精神病棟に入院している患者たちにも影響を及ぼしていく・・・

この物語でケヴィン・スペイシーは宇宙から来たと称する男として登場する。果たしてこれはSF映画なのかと不思議な雰囲気の中でストーリーは進む。グランド・セントラル駅でホームレスが一瞬の間に気が付くとプロートと名乗る男が立っている。それはまるで光の中から忽然と現れたように見える。自分は宇宙から来たなどと言えば当然、頭の中を疑われる。しかし、プロートは自らの故郷とするK-PAXについて、ほんの一部の天文学者しかしらない恒星の軌道をスラスラと説明したりする。マークもサヴァン症候群かと疑うもはっきりしない。「ひょっとして・・・」と観ている方も思ってしまう。

さらにプロートは北の方へ行くと称してふっと姿をくらましてしまう。どうやって勝手に外出できない精神病院から姿を消したのかわからないが、3日後にまた突然戻っている。入院患者たちもプロートの影響を受け、症状も改善していく。担当医のマークは、この不思議な男に惹かれていく。あくまでもプロートが「地球人」だと考えるマークは、プロートの言葉を頼りに、そして催眠術を利用したりしてその正体を探っていく。そしてある新聞記事にたどり着く・・・

SF映画なのかどうかと迷わされたストーリーはきちんとした結末に導いてくれる。それでもプロートがK-PAXに帰ると予告した7月27日に起きたことは、なかなか膝を打たせてくれるところがある。なるほど、と観終わって思わず唸る。プロートはやはりK-PAXに帰ったようである。そんな思いにさせられる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年05月20日

【ミナリ】My Cinema File 2693

ミナリ.jpeg

原題: Minari
2020年 アメリカ
監督: リー・アイザック・チョン
出演: 
スティーヴン・ユァン:ジェイコブ
ハン・イェリ:モニカ
アラン・キム:デビッド
ネイル・ケイト・チョー:アン
ユン・ヨジュン:スンジャ
ウィル・パットン:ポール

<映画.com>
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1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族映画。2020年・第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。農業での成功を目指し、家族を連れてアーカンソー州の高原に移住して来た韓国系移民ジェイコブ。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを目にした妻モニカは不安を抱くが、しっかり者の長女アンと心臓を患う好奇心旺盛な弟デビッドは、新天地に希望を見いだす。やがて毒舌で破天荒な祖母スンジャも加わり、デビッドと奇妙な絆で結ばれていく。しかし、農業が思うように上手くいかず追い詰められた一家に、思わぬ事態が降りかかり……。父ジェイコブを「バーニング 劇場版」のスティーブン・ユァン、母モニカを『海にかかる霧』のハン・イェリ、祖母スンジャを「ハウスメイド」のユン・ヨジョンが演じた。韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンが監督・脚本を手がけた。第78回ゴールデングローブ賞では、アメリカ映画だが大半が韓国語のセリフであることから外国語映画賞にノミネートされ、受賞を果たす。第93回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞など計6部門にノミネート。祖母スンジャを演じたユン・ヨジョンが助演女優賞に輝いた。
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ある韓国人の家族が車でいずこかへと向かっている。運転するのは父親のジェイコブ。助手席に座るのは母のモニカ。そして後ろの席にアンとデビッドの姉弟が座っている。一家が着いたのはアーカンソー州にある広大な土地。ここで韓国野菜を育て、韓国移民たちに売ろうという計画である。しかし、住まいはトレーラーハウス。子供たちは喜ぶが、モニカは浮かぬ顔。一家の主婦としてはやはりもっとちゃんとした家で暮らしたいと思うのであろう。そして男は得てしてそのあたり頓着しない。新しい生活に対するモニカの不安がひしひしと伝わってくる。

会話の中から、一家はもともと韓国で暮らしていたが、生活の見通しが暗い韓国よりもチャンスを求めてアメリカへ移住してきたことがわかる。2人のメインの仕事は鶏のヒヨコの雌雄鑑別。夫婦でこの仕事をして日銭を稼ぎ、ジェイコブの夢を実現すべく、アーカンソーに来たのである。息子のデビッドは、心臓に持病を抱えており、病院が遠いこともモニカが不安を抱く理由の一つである。そしてある晩、トルネードが発生し、ジェイコブのトレーラーハウスはひどい雨漏りと停電に見舞われる。この事態にモニカの我慢は限界を迎え、ジェイコブと大げんかになる。

物語はそんな一家の何気ない日常を描いていく。職場についてきたデビッドは、煙突から出ている煙を見て、あれは何かとジェイコブに尋ねる。それはオスのヒヨコを燃やす時に出る煙。オスは鑑別後すぐに殺処分されてしまうことが伺える。ジェイコブは「俺たちは役に立たなければダメだ」と、デビッドに語る。それは子供に言い聞かせるというより、自らに言い聞かせているようにも聞こえる。翌朝、デビッドはおねしょをして目覚める。怒られると思ったのであう、濡れたパンツをベッドの下に隠す。

モニカは、ジェイコブと話し合い、引っ越す代わりにモニカの母・スンジャを韓国から呼び寄せることにする。スンジャおばあちゃんがいれば、モニカが仕事に出ている間、子供たちの世話を任せられる。しかし、やってきたスンジャおばあちゃんは、なかなか豪快なおばあちゃん。得意なのは花札であり、しかも口が悪い。生まれてから初めて会うデビッドは嫌々ながらに同じ部屋で寝るが、おばあちゃんのいびきに悩まされる。

家の中が落ち着くと、ジェイコブは広大な土地を農地にする作業に入る。地下水を掘りあて風変わりな男ポールを雇い、なけなしの金をはたいてトラクターを手に入れる。翌朝、スンジャおばあちゃんは、森の奥へアンとデビッドを連れ出す。そこは、ジェイコブから蛇が出るから入ってはいけないと言われていた場所。森の中には、綺麗な小川が流れており、スンジャおばあちゃんは「ここに、韓国から持ってきたミナリ(セリ)の種を植えたらよさそうだ」と言う。これがタイトルのゆえんであり、最後に大きな意味を持ってくる・・・

韓国での生活に希望を見いだせずアメリカに移住してきた家族の物語。ヒヨコの雌雄鑑別の技術を活かして必死に稼ぎ、念願だった農場用の土地を手に入れる。しかし、耕作は楽ではない。貯めた資金にも限りがある。そんな一家の物語。一家の長男は心臓に持病を抱えており、綱渡りのような生活に女性のモニカの不安は尽きない。そして次から次へと一家には困難が湧き起こる。一つうまくいけば別の問題が生じる。それはまるで人生は苦悩に満ちていることを証明しているかのよう。

ジェイコブが懸命に畑を耕すのは家族のため。しかし、男と女の感覚は違う。安定とは程遠い生活にモニカの不安と苦悩は深まっていく。映画では描かれていないが、子供たちの学校はどうしているのだろうかと気になってしまった。コミュニティーとの付き合いは、教会に出入りし始めたことで生じるが、子供たちが学校へ行っている様子は見られない。無邪気な子供たちの姿がまだ救いのように思われる。デビッドがオネショ癖をばらされた仕返しにスンジャおばあちゃんに自分のおしっこを飲ませるシーンは微笑ましい。

最後まで苦難の連続だが、最後に希望の光がさして映画は終わる。それがタイトルになっているミナリ(セリ)。それはスンジャおばあちゃんが植えたもの。最後の希望が観る者に安堵を与える。第93回アカデミー賞の作品賞候補になったというのも頷ける、味わい深い映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年05月19日

【ショコラ〜君がいて、僕がいる〜】My Cinema File 2692

ショコラ〜君がいて、僕がいる〜.jpeg

原題: Chocolat
2015年 フランス
監督: ロシュディ・ゼム
出演: 
オマール・シー:ショコラ(ラファエル・パディーヤ)
ジェームス・ティエレ:ジョルジュ・フティット
クロチルド・エム:マリー・グリマルディ
オリビエ・グルメ:ジョゼフ・オレール
フレデリック・ピエロ:デルヴォー
ノエミ・ルボフスキー:デルヴォーの妻
アリス・ド・ランクザン:カミーユ
オリビエ・ラブルダン:ジェミエ

<映画.com>
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リュミエール兄弟の映画にも出演した伝説の芸人コンビで、フランス初の黒人芸人と、彼を支え続けた相方の白人芸人の半生を描いたドラマ。『最強のふたり』で黒人として初めてセザール賞最優秀主演男優賞を受賞したオマール・シーが主人公の黒人芸人ショコラを、チャールズ・チャップリンの実孫であるジェームス・ティエレが、相方のフティットを演じ、「チャップリンからの贈り物」「バードピープル」などで俳優としても活躍するロシュディ・ゼムがメガホンをとった。1897年、フランス北部の小さなサーカスで出会い、コンビを組み人気を博した白人芸人フティットと黒人芸人ショコラ。パリの名門サーカスの専属となった2人は名声を手にするが、人種差別の世間の偏見がショコラの前に立ちはだかる。その現実から逃れるかのように、ショコラはギャンブルに溺れていく。彼の才能を信じる相方のフティットは、ショコラを支え続けていく。
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20世紀初頭にフランスで活躍した実在の黒人コメディアン、ショコラとコンビを組んだ白人を描くヒューマン・ドラマである。

物語は19世紀末のフランス郊外の場末のサーカス団デルヴォー座で始まる。白人の落ち目のコメディアン、フティットは座長に演技を見せるがダメ出しを喰らう。古いと言われてしまうと辛いものがある。考えあぐねたフティットは、人食い土人の見せ物をしていた黒人のカナンガに目をつける。そしてコンビを組もうと持ちかける。2人でやったのがドタバタ芸だが、これが観客に大受けする。

座長からも認められ、首がつながったフティットは、以後2人のコンビを続けることになる。カナンガも改めてショコラと改名する。これが原題。2人の芸が受けて観客動員も伸びるが、座長のデヴォー夫妻はケチで2人のギャラを上げ渋る。交渉役はフティットだが、不満が募る。そこへ2人の芸を見たパリのサーカス団の座長からスカウトされ、2人は一も二もなく飛びつく。デヴォー夫妻は忌々しげにこれを見送るが、これが後に火種となる。

2人の芸はパリでも受けて好評を博す。一世を風靡する人気者となるが、堅実なフティットに対し、ショコラは刹那的。それは金銭感覚に表れていて、ショコラはギャンブルに走り、車を買うなどに散財する。デヴォー座で恋仲だった女性もあっさりと捨てる。そんな姿勢が祟ったわけではないが、ある日突然逮捕され投獄されてしまう。もともとショコラは滞在資格を持っていなかったのであるが、それを知っているデヴォー夫人が成功を妬んで通報したのである。

牢獄では過酷な扱いを受けるショコラ。この映画では、人種差別がさまざまに現れる。ショコラは少年時、父親が白人の主人から犬の真似をさせられているのを目撃する。コンビとは言え、ギャラはフティットが交渉し、ショコラの2倍せしめる。2人のドタバタ芸も殴られ蹴られるのはショコラであり、だから観客にも受ける。なぜか白人の元看護師を妻にするが、妻は「黒人の妻」と陰口を叩かれる。今だから人種差別もかなり緩和されているが、この時代のそれは酷いものである。ただ、アメリカよりもまだマシだったようにも思える。

映画はその後の2人の姿を追う。もともとシェークスピアを読んでいたショコラは、演劇に興味を持ち、後にシェークスピア劇に役者として出演する。されど幕が折れるとブーイングの嵐。酒とギャンブルに溺れた生活は借金を生み、借金取りに痛めつけられる。もしも人種差別がなかったら、ショコラの人生も変わっていたのかもしれない。シェークスピア劇には、「ショコラ」の芸名ではなく、本名のラファエル・パディーヤで出演したところにも本人の意思が表れているように思う。

ある時、2人は映画の撮影に応じる。カメラの前で後ろに張ったテントの範囲内でと指示され、お得意のドタバタ芸を披露する。当時の撮影の様子はなかなか興味深いが、映画のエンディングで実際の映像が流れる。ショコラ本人は演じたオマール・シーよりもだいぶ背が低かったようであるが、2人のドタバタ芸は現代にも通じるものがあるようにも思う。相方のフティット役は、チャップリンの孫だというのも興味深い。

世が世なら2人ももっと幸せになれたのかもしれないが、ラストはちょっとつらいものであった。昔のコメディアンにうまくスポットを当てたいい映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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