2023年06月30日

【宇宙でいちばんあかるい屋根】My Cinema File 2707

宇宙でいちばんあかるい屋根.jpeg
 
2020年 日本
監督: 藤井道人
原作: 野中ともそ
出演: 
清原果耶:大石つばめ
桃井かおり:星ばあ
伊藤健太郎:浅倉亨
吉岡秀隆:大石敏雄
坂井真紀:大石麻子
水野美紀:山上ひばり
山中崇:牛山武彦
醍醐虎汰朗:笹川誠

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
野中ともその小説を原作に映画『ちはやふる -結び-』やドラマ「透明なゆりかご」などの清原果耶が映画初主演に挑む青春ファンタジー。実父と継母の間に子供ができたことで感じる疎外感、実母への思い、大学生への片思いなどの悩みを抱える14歳の少女が、満天の星の下でキックボードに乗る派手な老婆に出会い、成長していくひと夏の体験を切り取る。監督を務めたのは、『新聞記者』『デイアンドナイト』などの藤井道人。
********************************************************************************************************

主人公は中学3年生の大石つばめ。向かいの家に住む浅倉亨に密かに憧れている。実は前の晩、思い切って手紙をポストに入れたが、既に後悔していてなんとか取り戻したいと思っている。学校に行けば普通に友達と屈託なくおしゃべりをし、なぜか笹川誠とはいがみ合っている。学校が終わると書道教室に行き、牛山の指導を受け、帰りに密かに屋上へ上がって夜空を見上げ、街の風景を見たりして過ごすのが日課となっている。

そんなある日、いつものようにつばめが屋上に上がると、見慣れないキックボードを見つける。何の気なしに乗り回していると、突然、派手な服を着た老婆に怒られる。星野とよと名乗ったこの老婆は、勝手にキックボードに乗ったことを叱りながらも、つばめに乗り方を教えろと迫る。乗り方を教わった老婆がキックボードを乗り回す。すると屋上の水たまりに老婆がまるで空を飛んでいるかのように映り、つばめは驚く。以来、つばめは老婆を“星ばあ”と呼び、2人は仲良くなる。

不思議な星ばあは、つばめに「願い事をかなえてあげる」と言う。それに対し、つばめは亨に出した手紙を取り戻したいと答える。その隣の家では、亨の姉いずみが男の車で朝帰りする。亨としては心配な相手で、姉を問い詰めると2人の仲は険悪になる。書道教室では、つばめは牛山から水墨画を勧められる。家に帰れば、妊娠中の母がいてつばめを迎えてくれる。一見、仲の良い母娘であるが、実は2人には血の繋がりがない。

別の日、いつものようにつばめが屋上に上がると、星ばあはつばめが亨に出した手紙を持ってくる。どうやって取り戻したのかはわからない。その帰り道、つばめは亨に会い、パンジョーのコンサートに誘われる。つばめは内心有頂天になって「行く!」と即答する。家に帰ったつばめは、勧められた水墨画をやりたいと母に言う。そして本屋で偶然、牛山に会ったつばめは、牛山から山上ひばりの展示会のチケットを渡される。

事前知識なしで観ていたのでどういう展開になるのかまるでわからない。中学生の主人公の何気ない日常生活を物語は追っていく。向かいの家の亨に密かに憧れているが、告白する勇気はない。それどころか、誕生日おめでとうという内容の手紙でさえ出したのを後悔する始末。そんなつばめが書道教室の屋上で出会った不思議な老婆と交流していく。家では継母と仲はいいが、心密かに生みの親を思っている。微妙な家族関係である。

唯一変わっているのが星ばあの存在。時々不思議なことをしてくれる。その正体は最後に明かされるが、中学生くらいの女の子には出会ったりする相手なのかもしれないと思えてしまう。そんな星ばあを演じるのは桃井かおり。最近、とんとお目にかかっていなかったので、何となく懐かしい感じがする。主演のつばめを演じるのは清原果耶。中学生の役でも違和感なく演じられるのは、その容姿からであろう。

大人から見ればささいな事に悩んだりする年頃。もはや少女とは言えないが、大人とも言えない。実の母を思う気持ちと継母に対する気持ちが入り混じる中で、不思議な老婆と出会い交流する。日本映画らしいと言えば、日本映画らしい物語。純粋に楽しみたい映画である・・・


評価:★★☆☆☆









posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ファンタジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月27日

【藁にもすがる獣たち】My Cinema File 2706

藁にもすがる獣たち.jpeg

原題: Beasts Clawing at Straws
2020年 韓国
監督: キム・ヨンフン
出演: 
チョン・ドヨン:ヨンヒ
チョン・ウソン:テヨン
ペ・ソンウ:ジュンマン
チョン・マンシク:ドゥマン
チン・ギョン:ヨンソン
シン・ヒョンビン:ミラン
チョン・ガラム:ジンテ
ユン・ヨジョン:スンジャ

<映画.com>
********************************************************************************************************
日本人作家・曽根圭介の同名小説を韓国で映画化し、欲望を剥き出しにした人々が大金を巡って激しくぶつかり合う姿を予測不能な展開で描いたクライムサスペンス。失踪した恋人が残していった多額の借金の取り立てに追われるテヨン、暗い過去を精算して新たな人生を始めようとするヨンヒ、事業に失敗しアルバイトで生計を立てるジュンマン、借金のため家庭が崩壊したミラン。ある日、ジュンマンは職場のロッカーに忘れ物のバッグを発見する。その中には、10億ウォンもの大金が入っていた。「シークレット・サンシャイン」のチョン・ドヨンがヨンヒ、『アシュラ』のチョン・ウソンがテヨン、「スウィンダラーズ」のペ・ソンウがジュンマンを演じる。
********************************************************************************************************

とあるサウナのロッカーに1人の客がルイ・ヴィトンのカバンを預ける。その大きなカバンをそこのサウナで働くジュンマンが忘れ物点検をしていた際に見つけ、開けてみると大金が入っている。普通、人はこういうシーンではどうするだろうか。まずは周囲を確認し、そして黙って懐に入れるか、それとも素直に届けるか、その葛藤にさらされるだろう。ジュンマンもまさにそうであり、根が善人なのだろう、すぐに懐に入れることもなく、さりとて届け出ることもなく、そのカバンを一旦倉庫に保管することにする。こうしておけば、のちに発覚してもいくらでも言い逃れができる。そして帰宅する。

家に帰ったジュンマンには認知症の母がいる。どうも粗相をしたようで、妻が黙々と後始末をしている。ところが母は当然のような顔をして悪びれない。妻に気を使うジュンマンに、妻は娘が学費を払うために休学してアルバイトすることになったと伝える。どうやらジュンマンは事業に失敗して困窮しているようである。そんなジュンマンにとって、カバンの大金は飛びつきたくなるようなものである。ジュンマンの心の中の葛藤がよく伝わってくる。

ところ変わって、人妻のミランはキャバクラで働きながら夫と借金を返す毎日。どうやら借金の原因はミランにあるらしく、夫はミランに冷たくあたり暴力も振るう。そんな中、客としてやってきた中国人のジンテと親しくなっていく。一方、出国管理局で働くテヨンは、保証人として被った借金に追われている。しかも相手は筋のよろしくないところであり、下手をすれば何をされるかわからない。追い詰められたテヨンは、たまたま同級生が詐欺で10億ウォンもの大金を手に入れたと聞き、国外逃亡を手伝うことで返済資金を手に入れようとする。

一見、なんの関わり合いも持たない登場人物たちの物語が並行して進む。ミランの体の痣を見たジンテは、ミランの夫を亡きものにしようと提案する。ミランの夫には保険金がかけられている。この申し出にミランは同意する。カバンの事が頭から離れないジュンマンだが、母の介護もあって仕事には遅れがち。しかし、オーナーからはそれを厳しく咎められる。念入りに計画をし、いよいよ実行となったテヨンの前に刑事が現れる・・・

まったく別々のストーリーが最後に絡み合うというのはよくあるパターン。それがどう絡み合うのかが一つの見どころである。キーとなるのは、冒頭に出てきた大金の詰まったヴィトンのカバン。なぜサウナのロッカーに放置されていたのか、それは一体誰の金なのか。登場人物はみな金に困っている。事業に失敗し、認知症の母を抱え、娘の学費も払えないジュンマン。自らの借金が原因で夫からDVを受けているミラン。保証人になったがために筋の悪い借金取りに追われるテヨン。

苦境を逃れるべく、悪戦苦闘する登場人物たち。しかし、貧すれば鈍するではないが、物事は必ずしも思った通りにはいかない。ジンテが夫の殺害を申し出てくれて、任せたミラン。「うまくいった」との知らせに、保険証券を見てにんまりする。ところが何とジンテが殺したはずの夫が帰ってくる。夫からいつものように暴力を受け、キャバクラに出勤する。客に絡まれた所を女社長ヨンヒに助けてもらう。そして間違えて人を殺して動揺するジンテに呆れたミランは、ジンテを車で轢き殺してしまう。

テヨンも同級生と連絡がとれなくなり、さらに刑事につきまとわれ、借金の返済期限が迫って焦る。ジュンマンは度重なる遅刻で仕事を首になり、覚悟を決めてカバンを持ち帰る。思うとおりに行かない計画は登場人物たちの思惑をことごとく打ち砕く。そして最後にストーリーは一つにつながっていく。その展開は実に見事。『藁にもすがる獣たち』という邦題も登場人物たちの行動を見ていればまさにその通り。

悪いことをしても結局良いことはないという教訓のためであれば、実にためになる内容。大金の入ったカバンが巡り巡って最後に行きつくところは実に意外。予想もできなかったラストに思わずうなってしまう。なかなかやるじゃないかと思わずにはいられない映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月24日

【島々清しゃ】My Cinema File 2705

島々清しゃ.jpeg
 
2016年 日本
監督: 新藤風
出演: 
伊東蒼:花島うみ
安藤サクラ:北川祐子
金城実:花島昌栄
山田真歩:花島さんご
渋川清彦:真栄田

<映画.com>
********************************************************************************************************
故新藤兼人監督の孫でもある映画監督の新藤風が、「転がれ!たま子」(2006)以来、約11年ぶりにメガホンをとった長編監督作。沖縄・慶良間諸島を舞台に、音楽によって結ばれる人と人の絆を、子役の伊東蒼と『百円の恋』の安藤サクラの主演で描いた。耳が良すぎるために少しの音のズレも気になり、そのせいで変わり者扱いされている少女うみは、コンサートのために東京から沖縄へやってきたバイオリニストの祐子と出会う。それをきっかけに吹奏楽部に参加することになったうみは、周囲との関係がうまくいかないがために頑なに閉ざしていた自分自身を、少しずつ解放していく。少女うみ役を、宮沢りえ主演の『湯を沸かすほどの熱い愛』にも出演した伊東が演じ、祐子役を安藤が務める。タイトルは、島々の清らかで美しい佇まいを歌い上げた普久原恒勇の沖縄民謡「島々清しゃ」からとられた。
********************************************************************************************************

安藤サクラ主演映画と言えば、それだけで観る価値はあると思っている。この映画もそういう意味で迷わず観た映画であるが、残念ながら内容は今一つ。「安藤サクラ主演」というだけで選ぶのも厳しいと実感させられる。

物語の舞台は沖縄の慶良間島。主人公の花島うみは、空を見上げ、「アメリカの飛行機、ちんだみ狂ってる!」と叫び、黄色い耳あての上から耳をふさぐ。その直後、何かの落下物が海に落ちる。どうやらうみには天賦の才の音感があるようである。そしてその頃、東京から北川祐子が島にやって来る。その足で小中学校の体育館の下見に向かった祐子は、音楽室に足を運ぶ。そこで、うみと出会う。

うみは、耳が良すぎるのか、吹奏楽部の外れた演奏に耐えきれなくなり、しばしば文句を言いに行っている。言われた方は面白くない。リーダーである幸太とうみはそれが原因でもめる。
翌日。うみに興味をもった祐子は、うみにヴァイオリンを弾いてみせる。それに対して、さすがにうみは聴き惚れる。きれいな音は波の音と同じだと言う。しかし、次に祐子が沖縄民謡の「谷茶前(タンチャメー)」を弾き始めると、うみはまた耳あてのまま耳をふさいで、「ちんだみ、狂ってる」としゃがみこむ。

うみは自宅に祐子を連れて行き、祖父である昌栄おじいに祐子に沖縄民謡の谷茶前の唄三線を聴かせる。それに聞き惚れる祐子。せっかく身近にいい手本がいるのに、うみには三線を弾く気がない。その翌日、うみとトランペット担当の幸太は、吹奏楽部の部員たちが見守るなか「ちんだみ対決」を行う。うみは自分が勝ったら吹奏楽部への入部を認めるという条件を幸太に飲ませる。そして、うみは勝負に勝つ・・・

何の物語なのかと思っていたら、沖縄の慶良間島を舞台とした音感に敏感な少女と島にやってきた祐子との交流を描いていくもの。音楽を通じたその交流。沖縄民謡がその中心にある。タイトルの『島々清しゃ(しまじまかいしゃ)』とは、沖縄民謡の一つ。その独特の音色と独特の歌いまわしは、耳に心地よい。ただ、ストーリーは残念ながらつまらない。安藤サクラ以外、観るべきものはない。時間の無駄と言っても過言ではない。

まず第一に、慶良間島にやってきた祐子の素性がわからない。最初は学校の臨時教員かと思ったが、「休暇」という言葉もあり、何なんだろうと最後までわからなかった。さらに昌栄おじいが非常に味のある演奏をしてくれるが、あまりにも見事なのでたぶん沖縄民謡の専門家だと思うが、セリフは棒読み的で素人目にも浮いている。ご本人の責任というよりも無理に演技をさせた方に責任があるのだろう。

耳が良すぎて嫌な音楽を聞きたくないうみが嫌な音を緩和するためにしている耳当ては防寒用。音は遮れるのだろうかと気になってしまう。最後にみんなで演奏をするが、そのストーリー展開は学芸会のような作られた感満載。短いのが幸いであった。さらにうみの母親のエピソードもいかがなものかと思ってしまう。大人にはなかなか辛いストーリーである。エンターテイメントとしては辛いが、沖縄民謡の紹介映画と考えるならいいかもしれない。

安藤サクラがなぜこの映画に出演したのか、大いに疑問に思う映画である・・・


評価:★☆☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月23日

【男と女】My Cinema File 2704

男と女.jpeg

原題: A Man and a Woman
2016年 韓国
監督: イ・ユンギ
出演: 
チョン・ドヨン:サンミン
コン・ユ:ギホン
イ・ミソ:ムンジョ
パク・ビョンウン:ジェソク
イ・ミソ:ムンジュ
パク・ミンジ:ハジョン
ユン・セア:セナ

<映画.com>
********************************************************************************************************
「シークレット・サンシャイン」でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞した演技派チョン・ドヨンと「トガニ 幼き瞳の告発」『サスペクト 哀しき容疑者』のコン・ユの共演で、北欧の地で出会い、激しく惹かれ合う男女の姿を描いた韓国製ラブストーリー。ヘルシンキで出会ったサンミンとギホンは、大雪の誰もいないキャンプ場の森の小屋で体を重ね合う。互いの名も知らぬまま別れた2人だったが、それから8カ月後、ソウルで日常に戻っていたサンミンの前に突然、ギホンが現れる。
********************************************************************************************************

『男と女』と言えば、言わずと知れたフランスの名画。てっきり韓国版のリメイクかと思ったが、そうではないらしい。韓国版は韓国版として独自の「男と女」である。

舞台は冬のフィンランド・ヘルシンキから始まる。サンミンは重度の自閉症を患う息子ジョンハと暮らしている。ジョンハはスクール主催の冬のキャンプに参加することになるが、サンミンは気が気ではない。同行したいと申し出るが、スクールの責任者はこれを拒否する。自立を重視する欧米の気風を感じられる。どうしても、と食い下がるサンミンに、それなら子供も参加させないとにべもない。さすがだと感じる。

やむなく見送るサンミン。すると、同じキャンプに子供を参加させるために送りに来ていた韓国人の父親ギホンと知り合う。煙草の火を借りたついでに、キャンプ場まで車に乗せてもらえないかと頼み込む。私の感覚では初対面の男の車に女性が乗るかなと思うも、同じスクールに子供を通わせているというところに安心感を持ったのかもしれない。かくして2人は、車で3〜4時間という距離のキャンプ場へ向けてドライブに行く。

リメイクではないとされながら、本家『男と女』と設定が似通っている。「お互い既婚者で子供の関係で知り合う」、「初対面ながら2人でドライブする」というところでは同じである。辿り着いたのは、キャンプが行われている宿泊施設を対岸に見る湖畔。凍った湖を歩いて渡ろうとしたギホンに驚きながらも、近くまで来たことで満足したのだろうか、サンミンは我が子に会うことなく帰ることにする。ところが、帰り道は大雪により通行止めとなってしまう。やむなくサンミンとギホンは近くのロッジにそれぞれ部屋を取り、宿泊することにする。

実は、ギホンの娘も鬱病を抱えている。互いに似たような境遇をもつ2人は少しずつ打ち解け合っていく。そして翌朝、サンミンとギホンは散歩がてら近くの森を散策することにする。あたり一面の雪景色。静寂に包まれた森の中を歩く2人。やがて無人のサウナ小屋を見つける。いかにも北欧のフィンランドらしい。ひとまず暖を取ることにするが、やがてどちらかともなく自然の流れで2人は唇を重ね合い、そのまま関係を持つ。その夜、ヘルシンキに戻った2人は、互いに名乗ることなく別れる。そしてキャンプが終わり、サンミンはジョンハを迎えに行くが、娘を迎えに来たギホンとは会話を交わすことなくやり過ごす。

8ヶ月後、ソウルに戻ったサンミンは夫のジェソクやジョンハとの普通の日々を送っている。サンミンはアパレル会社を経営している。ジョンハは学校で問題行動を起こしており、サンミンは転校させたいと考えているが、転校しても何も変わらないというジェソクとの間で意見が分かれる。そんなある日、仕事中のサンミンの前にギホンが突然現れる。サンミンはギホンをオフィスに招き入れ、2人は久しぶりの束の間のひと時を過ごす。ギホンもまた妻ムンジュと娘と暮らしているが、妻ムンジュはもともと感情の起伏が激しく、ギホンは家では心落ち着くことがないのであった。

こうして子育てに疲れ切っていたサンミンとギホンはともに惹かれあっていく。一度体を重ねているせいか、距離を縮めるのにもそれほど時間はかからない。営業終了後のオフィスにギホンが訪ねてきた時、いい雰囲気となるが、オフィスにいたジョンハが目覚めたことで我に返る。しかし、2人の関係はそれで終わるものではない。ギホンはサンミンを誘って二人きりの旅行に出かけ、やがてサンミンとギホンは密かにホテルで密会を重ねるようになっていく・・・

本家もこの映画もいわゆる不倫映画である。しかし、そこには不道徳感はない。ともに家族を捨てて相手に走るというのではなく、手のかかる子供を抱え、配偶者との関係があまりうまくいっていないという事情がある。ギホンの妻ムンジュは精神的に安定していないところがあり、酔ってベランダの欄干を歩いたりする。挙句に自殺未遂を起こしてしまい、一命は取り留めたものの、当分実家に預けられることになる。家でも心休まる時がない。家の外に安らぎを求めたくなる気持ちはよくわかる。

不倫がいいとは言わないが、悪いと決めつけるのもどうかと思う。人にはそれぞれの事情があり、男と女には互いに惹かれあうものがある。人生を半ばまで歩いてきた中年の男女が、ふと別の人生に目を向けたとしても無理からぬところがあるかもしれない。互いに家庭を持った男と女。互いに惹かれあうが、互いの生活が2人を押しとどめる。本家に負けず劣らず、韓国版も深い味わいを残す。本家も韓国版も似たようなものになるのは、それだけ男と女には似たような関係があるからかもしれない。

韓国版は韓国版でじっくりと味わいたい映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月17日

【あちらにいる鬼】My Cinema File 2703

あちらにいる鬼.jpeg
 
2022年 日本
監督: 廣木隆一
原作: 井上荒野
出演: 
寺島しのぶ:長内みはる/寂光
豊川悦司:白木篤郎
広末涼子:白木笙子
高良健吾:小桧山真二
村上淳:秦
蓮佛美沙子:坂口初子
佐野岳:矢沢祥一郎
宇野祥平:新城
丘みつ子:白木サカ

<映画.com>
********************************************************************************************************
作家・井上荒野が自身の父である作家の井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の特別な関係をつづった同名小説を、寺島しのぶと豊川悦司の主演で映画化。
人気作家の長内みはるは戦後派を代表する作家・白木篤郎と講演旅行をきっかけに知り合い、男女の仲になる。一方、白木の妻・笙子は夫の奔放な女性関係を黙認することで平穏な夫婦生活を続けていた。しかしみはるにとって白木は体だけの関係にとどまらず、「書くこと」を通してつながることで、かけがえのない存在となっていく。
瀬戸内寂聴をモデルにした長内みはるを寺島、井上光晴をモデルにした白木篤郎を豊川、白木の妻・笙子を広末涼子が演じる。「ヴァイブレータ」「やわらかい生活」の廣木隆一が監督、荒井晴彦が脚本を手がける。
********************************************************************************************************

物語は1966年から始まる。作家の長内みはるは、とある講演旅行に行き、そこで同行した作家・白木篤郎と知り合う。白木はなんの屈託もなく、みはるに占いを持ち掛け互いに親しくなる。一方、ある女性が花束を持って病院を訪れる。しかし、見舞った女性には歓迎されない。2人の会話から、入院していた女性は、見舞いの女性の夫と不倫関係にあり、しかも2度も堕胎したと告げる。敵意に満ちた言動もよくわかる。それにしても、夫の不倫相手の見舞いに行く妻というのも不思議である。しかも夫から見舞いに行くように言われたようである。そしてその夫とは、白木篤郎である。

白木と親しくなったみはるは、白木の自宅を訪問する。表向きの要件は、次回作の設定を団地にするためであり、そのため団地住まいの白木に話を聞きに来たというものである。白木の妻笙子は、動じることなくみはるとあいさつを交わす。しかも笙子から見舞いの結果を聞き、笙子も淡々と答える。一体、どういう夫婦関係なのだろうかと不思議に思う。白木は不倫については何の気にもしているようでもなく、笙子と接する。それどころか、白木はみはるとの距離を縮めていく。

白木はみはるの家を訪ねる。「酒を飲みに来た」と告げる。この白木の態度もなかなかのもの。角瓶を出したみはるに対し、「オールド・パーくらいは置いておいた方がいい」と言う。さらにソファに座ると上着どころか靴下まで脱ぐ。みはるも年下の若い男と暮らしており、20年前に幼い子供を残して家を出たと自らの事を語る。そして地方出張のみはるを追いかけて行った白木は、ホテルのみはるの部屋を訪ねると「抱きに来た」と悪びれもせず告げ、そのまま愛し合う。なかなか大胆な男である。

時代は過激化する。新宿騒乱では、2人がバーで飲んでいるとヘルメットを持ったカップルが逃げ込んでくる。しばし、ビールを飲んで過ごした2人の帰り際、みはるは2人にタクシー代を渡す。テレビでは東大闘争や浅間山荘事件が報じられる。そんな激動の時代を背景にしつつ、白木とみはるは関係を深めていく。そんな2人の関係を承知しているのか、妻の笙子は動揺する姿勢を見せるでもなく、2人目の女の子を生む。それにしても出産の時、白木はみはるのところにいる。実にとんでもない男である。

白木はとどまるところを知らない。ファンと称する女性とはすぐ仲良くなり、ベッドに入る。ある日突然、そうした女性の1人が白木の自宅を訪ねてくる。夫とは別れてきたと告げる女に白木はタジタジとなる。笙子はそれを横で平然と聞いている。普通は修羅場となるところであるが、そうならない。白木は無節操でいい加減だが、笙子は人間ができているのか寛容なのか、白木も普通ではないが、笙子も普通ではない。

そうした奇妙な関係を続けながら月日が流れる。一緒になりたくても一緒になれない。別れたくても別れられない。そんな揺れ動く心境の中、みはるはある日、白木に「出家する」と告げる。一緒になれないなら死ぬしかないが、実際に死ぬのではなく、出家することにより死ぬのだと。考えてみれば、みはるはこの時50歳を超えている。人生を達観したのかもしれないが、出家というのもなかなかの覚悟である。そしてみはるは髪を剃り、仏門に入る。

世の中は男と女。どんな男女も熱狂的恋愛の時期はあっても、やがて家庭を持って子育てに入り、次の世代へとバトンを渡す。しかし、なかには熱狂がずっと続く人もいる。このドラマの主人公である白木もみはるもそんな人物。よくできたドラマかと思いきや、実話をベースにしているところが凄い。実はこの映画を観る前に予備知識ゼロだったが、みはるが出家すると言い出したところで「瀬戸内寂聴」の名前が脳裏に浮かんだ。原作者は、白木のモデルとなった人物の娘だという。

小説になってしまうほどの両親を娘としてどう見ていたのかはわからないが、ストーリーを追う限り、そこに悪意はない。次々に女に手を出すルーズな男だが、なぜか女たちはそんな男を受け入れる。何人もの女性と関係を持ち、しかもそれを隠そうともしない堂々たる態度は尊敬に値する。真似したいところだが凡人には無理だろうし、だから凡人のままなのかもしれない。ラストでは死の床についた白木に笙子とみはる改め寂光が付き添う。それは男として見事な最後である。

寺嶋しのぶは、もともとエロティックな役柄が多いが、この映画でもトヨエツ相手に見事なベッドシーンを展開する。AV全盛の現代にあっては決して刺激的とは言えないが、それでも見事である。広末涼子の良妻賢母ぶりもまた見事。ストーリーとは別に出演陣でも十分見応えがある。濃厚な味わい深い映画である・・・


評価:★★☆☆☆









posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 実話ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする