2023年07月31日

【ジャングル・クルーズ】My Cinema File 2723

ジャングル・クルーズ.jpeg

原題: Jungle Cruise
2021年 アメリカ
監督: ジャウム・コレット=セラ
出演: 
ドウェイン・ジョンソン:フランク・ウルフ
エミリー・ブラント:リリー・ホートン
ジャック・ホワイトホール:マクレガー・ホートン
エドガー・ラミレス:ドン・ロペ・デ・アギーレ
ジェシー・プレモンス:ヨアヒム王子
ポール・ジアマッティ:ニーロ
ベロニカ・ファルコン:サム
ダニ・ロビラ:サンチョ
キム・グティエレス:メルヒオール
アンディ・ナイマン:コディントン
ダン・ダーカン・カーター:ゴンサロ
フィリップ・マクシミリアン:アクセル
ラフェアル・アレハンドロ:ザケウ

<映画.com>
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ディズニーランドでおなじみの人気アトラクション「ジャングルクルーズ」を実写映画化したアクションアドベンチャー。アマゾンのジャングルの奥深くに「“奇跡の花”を手にした者は永遠の命を手にする」という不老不死の伝説があった。行動力と研究心を兼ね備えた植物博士のリリーは、この秘密の花を求めて危険に満ちたアマゾンへ旅立つ。リリーが旅の相棒に選んだのは、現地を知り尽くしたクルーズツアーの船長フランク。ジャングルに生息する珍しい動物やスリルあふれる先住民の村、滝の裏側など名所の数々を、時にジョークを交えながら観光客相手にガイドしているフランクだったが、彼にもまた、奇跡の花を求める、ある理由があった。「伝説に近づく者は呪われる」と言われる、アマゾン奥地の「クリスタルの涙」を目指してジャングルを進むリリーたち。そこで彼らは恐るべき真実を知り、奇跡の花をめぐる争奪戦に巻き込まれる。フランク役に『ワイルド・スピード』シリーズのドウェイン・ジョンソン、リリー役に「メリー・ポピンズ リターンズ」「イントゥ・ザ・ウッズ」のエミリー・ブラント。監督は『トレイン・ミッション』 『フライト・ゲーム』のジャウム・コレット=セラ。
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1916年のロンドン。マクレガー・ホートンは「月の花」と呼ばれるアマゾンのジャングルの奥地に咲く幻の花の探索費用を王立人類学冒険協会に求めるが、相手にしてもらえない。「月の涙」は難病を治し、呪いを解く力を持つとされているが、いかにも怪しげであり無理もない。「月の涙」の探索には、協会が所持している「聖なる矢尻」が必要であるとされる。費用の拠出が断られるであろうことを予測していたのか、マクレガーの姉リリーはなんとこれを盗み出す。

その時、一足遅く聖なる矢尻を奪われたドイツ王子・ヨアヒムは、リリーたちの後を追う。そしてアマゾンの入り口の町にやってくる。ここで観光客相手にクルーズ船の船長をしているのがフランク・ウルフ。しかし、フランクは船会社のオーナー・ニーロによって、借金のカタに船の鍵とエンジンを取り上げられてしまう。そこにやってきたのはリリーとマクレガー。フランクは、リリーとマクレガーの話を聞くと、自ら案内を申し出る。そして船の鍵とエンジンを取り戻すと船を発進させる。

ディズニーランドのアトラクションである『ジャングル・クルーズ』を元ネタに映画化した作品。その名の通り、ジャングルをクルーズするが、映画にするにはそれなりに味付けが必要。そこでジャングルの奥地にある秘宝を探索するというストーリー仕立てにし、それを悪役が邪魔立てするというよくありがちな展開。『インディ・ジョーンズ』も『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』(My Cinema File 410)も皆同じパターンである。

襲いくるヨアヒムとその手下たちからは巧みに船を操って逃げる。しかし、ヨアヒムはなんと潜水艦でこれを追跡する。時代的には第一次世界大戦中であり、ここでもやっぱりドイツは悪役である。さらにヨアヒムと部下たちはとある洞窟に辿り着く。そこにはその昔呪いをかけられたアギーレと、その仲間たちが石化している。川から離れると石化してしまうという呪いをかけられていたためで、ヨアヒムは川の水をかけてアギーレたちを復活させ、味方に引き入れる。

そんなエピソードを散りばめてクルーズは進む。リリーは「月の涙」で多くの人を救いたいという思いを抱いている。途中、プカ・ミチュナ族に襲われ、フランクたちは村へ連れていかれる。実はプカ・ミチュ族はフランクとは昵懇であり、フランクがプカ・ミチュナ族を通じて「聖なる矢尻」を手に入れようとしていることがわかってしまう。リリーは激怒するが、そこへ村をアギーレたちが襲撃してくる。混乱の最中、フランクはアギーレの剣で刺され、川へと転落してしまう・・・

『ジャングル・クルーズ』というお題目が先にあり、それをなんとかストーリー仕立てにして物語化したと言える映画。主演はドウェイン・ジョンソンにエミリー・ブラント。ドウェイン・ジョンソンは元プロレスラーらしく主としてアクション系だが、この手の冒険もの(『ウィッチマウンテン/地図から消された山』(My Cinema File 694)『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(My Cinema File 2067) )にもお馴染みとなってきている感がある。エミリー・ブラントは様々な役柄を演じているが、個人的には『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(My Cinema File 1385)『ボーダーライン』(My Cinema File 1957)などのアクション系が好きである。そんな両者の共演が心地よい。

最後は当然、メデタシメデタシということになる。ディズニー映画らしい「ジャングル・クルーズ」を楽しめる一作である・・・


評価:★★☆☆☆







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2023年07月29日

【RRR】My Cinema File 2722

RRR.jpeg

原題: RRR
2022年 インド
監督: S・S・ラージャマウリ
出演: 
N・T・ラーマ・ラオ・Jr:コムラム・ビーム
ラーム・チャラン:ラーマ・ラージュ
アジャイ・デーヴガン:ヴェンカタ
アーリヤー・バット:シータ
レイ・スティーヴンソン:スコット総督
アリソン・ドゥーディ:キャサリン
ジェニファー:ジェニー
オリヴィア・モリス

<映画.com>
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日本でも大きな話題を集め、ロングランヒットとなった「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ監督が、英国植民地時代の激動のインドを舞台に、2人の男の友情と使命がぶつかり合う様を豪快に描くアクションエンタテインメント。
1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビームと、大義のため英国政府の警察となったラーマ。それぞれに熱い思いを胸に秘めた2人は敵対する立場にあったが、互いの素性を知らずに、運命に導かれるように出会い、無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、2人は友情か使命かの選択を迫られることになる。
「バードシャー テルグの皇帝」のN・T・ラーマ・ラオ・Jr.がビーム、ラージャマウリ監督の「マガディーラ 勇者転生」にも主演したラーム・チャランがラーマを演じた。タイトルの「RRR」(読み:アール・アール・アール)は、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字に由来する。日本で公開されたインド映画で史上初めて興行収入10億円を超えるヒットを記録。劇中の楽曲「ナートゥ・ナートゥ(Naatu Naatu)」も話題となり、第95回アカデミー賞でインド映画史上初となる歌曲賞受賞を果たした。
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インド映画と言えば、「歌と踊り」。やかましいくらいであったが、最近はだんだんと「普通」の映画になってきている。この映画もそんな「普通」の映画である。

舞台は、1920年のインド。当時は大英帝国の植民地。インド総督スコット・バクストンの一行は、アーディラーバードの森にあるゴーンド族の村を訪れ、そこで歓迎を受ける。歓迎の歌を歌った一族の娘マッリの才能を気に入ったキャサリン総督夫人は、強引にマッリをデリーに連れ帰る。泣いてすがる母親を警護の者が殴り倒す横暴。後日、特使アヴァダニが総督府を訪れ、マッリをゴーンド族に引き渡すように勧める。対応した総督の側近が一蹴すると、アヴァダニは「引き渡さなければ、彼らの守護者がイギリス人に災いをもたらす」と忠告する。

同じころ、妹マッリが連れ去られたことを知った部族の守護者ビームは、マッリを取り戻すため仲間とともにデリーに向かい、ムスリムの「アクタル」に扮して行方を捜す。その頃、デリー近郊の警察署では、逮捕した独立運動家の釈放を求めるデモ隊が押しかけている。警察官のラーマは単身デモ隊の中に飛び込み首謀者を逮捕する功績を上げたが、イギリス人署長は彼の功績を認めるどころか、昇進者のリストにも載せようとしない。そんな中、総督府では警告されたビームに対する対策が協議され、ラーマが担当捜査官に名乗りを挙げる。

ラーマの自己紹介的なエピソードは、デモの首謀者を逮捕するシーン。ラーマは単身群衆の中に飛び込み、これに反発する群衆を次々に薙ぎ倒し、超人的な働きを見せる。「これぞインド映画」というべき圧巻。たった1人で群衆の中に飛び込み、殴られ蹴られたりしながらも首謀者を捕まえる。インド映画でなかったらブーイングが出ているかもしれない。インド人に対する差別がある中、どんなに手柄を上げても昇進などできない。しかし、今回はキャサリン総督夫人からビームを逮捕すれば特別捜査官に昇進させるとの言質を取る。俄然、やる気を見せるラーマ。

ラーマは、独立運動家を装いビームの仲間ラッチュに近付くが、途中で正体が露見して逃げられてしまう。ラッチュを見失ったラーマは列車事故の現場に遭遇する。地元の少年が事故に巻き込まれるが、偶然居合わせたビームとともに少年を助ける。この方法がまたインド映画。生身の人間でありながら、スーパーヒーロー真っ青の活躍である。そして互いに正体を知らぬまま、その実力を認め合い、2人は交流を重ねていく。一方、イギリス人によるインド人差別は甚だしいが、スコット提督の姪ジェニーだけは、分け隔てなく地元民に接する。そんなジェニーにビームは一目惚れする・・・

物語は、総督によって強引に連れ去られたマッリを助け出すためにデーリーにやってきたビームを追う一方、ある目的を心に秘めてイギリス人の下で警察官として働くラーマの行動を追っていく。時代は20世紀初頭、まだまだ白人が世界で勢力を振るっている。インドも大英帝国の植民地としてイギリスの支配を受けている。それがどんな状況なのか。映画が背景として描く部分だけでも圧制の様子がよくわかる。それにしてもヒーローの大げさな活躍ぶりが目につく。毒蛇に噛まれたラーマだが、怪しげな薬草で処置を受けた30分後には、超人的な活躍でビームを逮捕する。さすがインド映画である。

物語は3時間におよび、二部構成になっている。ビームとラーマは親しくなるが、やがてそれぞれの立場が明らかになる。超人的な2人の激突の軍配はラーマに上がり、ラーマはビームを逮捕し、念願の特別捜査官に昇進する。ここでラーマの過去が明らかになるが、ラーマもまたイギリス軍の弾圧によって家族を失っている。成長したラーマは、独立闘争に必要な武器を手に入れるため、村を出て警察官になっていたのである。ビームもラーマによる鞭打ちで酷いダメージを負うが、いつの間にか回復している。いやはやなんともである。

やはりインド映画であるから歌と踊りは出てくる。ビームとラーマは歌と踊りでもイギリス人には負けていない。インド人的にはイギリス人を翻弄する2人の活躍に溜飲が下がるのだろうか。ふだん、日米韓の映画に慣れてしまっていると、主人公が無敵のスーパーマン的な活躍に終始する内容には違和感を禁じ得ないが、好みが分かれるところかもしれない。徹頭徹尾、コッテリとしたインド感に溢れる映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2023年07月28日

【ソウルメイト/七月と安生】My Cinema File 2721

ソウルメイト/七月と安生.jpeg

原題: 七月與安生 Soulmate
2016年 中国・香港
監督: デレク・ツァン
出演: 
チョウ・ドンユイ:李安生
マー・スーチュン:林七月
トビー・リー:蘇家明

<映画.com>
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「少年の君」が第93回アカデミー国際長編映画賞にノミネートされたデレク・ツァン監督が、同作の前に手がけた単独監督デビュー作。「少年の君」にも主演したチョウ・ドンユイが今作でも主演を務め、中国の作家アニー・ベイビーによるネット小説を脚色して描いた青春映画。上海で穏やかな生活を送っていた安生(アンシェン)のもとに、人気のネット小説「七月(チーユエ)と安生(アンシェン)」を映像化したいという映画会社から連絡が届く。小説の作者は七月(チーユエ)という名の女性で、「七月と安生」は彼女の自伝的要素が強い作品だった。しかし、チーユエの所在が不明のため、映画会社はもうひとりの主人公・安生のモデルと思われるアンシェンを捜し出し、コンタクトをとってきたのだ。そんな彼らに対し、アンシェンは「チーユエなんて人は知らない」と嘘をつく。だが本当は、アンシェンにとってチーユエは特別な存在であり、かつて2人はかけがえのない親友同士だった。やがて、小説に描かれた2人の物語に秘められた、驚きの真実が明らかになっていく。「ラヴソング」「最愛の子」などで知られるピーター・チャンがプロデューサーを務めている。
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第1章「安生との出会い」
第2章「彼女と彼女と彼」
第3章「家明によろしく」
第4章「逃げ場がない」
最終章「27歳、旅の途中」

舞台は、中国・上海。李安生は映画会社の担当者から「映画化したいので作者と連絡をとってほしい」と依頼される。映画会社の担当者が取り上げたのは、林七月が書いた『七月と安生』という連載中のネット小説。それは七月と安生という2人の女性の物語。どうにも作者と連絡が取れず、モデルと思われる安生に連絡してきたというわけである。しかし、安生は「知らない」と答え、依頼を断る。

『七月と安生』の物語は、2人が初めて出会った13歳の時から始まる。学校での軍事訓練を抜け出した2人は、イタズラをして過ごす。おとなしくて真面目な七月と自由奔放な安生。全く正反対の性格の2人は、それゆえに互いに惹かれあい、やがて親友となっていく。仲が良い両親のもと円満な家庭で育った七月。一方、安生の家には父親はおらず、母親は仕事で家にいない。そんな家庭だからか、安生はよく七月の家でご飯を食べさせてもらい、2人はいつも一緒に過ごす。

やがて中学を卒業した2人は、七月は最難関の高校に、安生は美容関係の専門学校に進む。七月は高校で蘇家明と出会い、恋に落ちる。それを知った安生は蘇家明に会いに行く。どんな人物か見極めようとしたのだろう。一方で七月には「好きなら積極的に」とアドバイスする。思い切って家明に告白した七月は、家明と付き合うようになる。その後、七月は家明に親友・安生を紹介する。初めてを装って挨拶を交わす2人。そして3人は行動を共にするようになる。

ある時、サイクリングに行った3人だが、疲れて休むと言う七月を残し、安生と家明は2人になる。2人の間に流れる微妙な空気に七月も安生も家明も気づかない振りをする。やがてそんな微妙な関係に耐えらなくなった安生は、バイト先のギタリストとともに北京へと旅立つことにする。見送りに来た七月だが、安生の胸元に家明がお守りにしているネックレスがあるのを目にする。ここに微妙な三角関係が生じる。親友だから非難できず、親友だから関係を進めるわけにはいかない。

安生は七月に手紙を綴る。その最後には決まって必ず、「家明によろしく」と書かれている。そこに込められた意味に七月は複雑な気持ちに駆られる。やがて七月と家明は一緒に大学を卒業し、就職先も決まる。そして、家明はさらに世の中を勉強したいと北京へ行きたいと七月に伝える。複雑な思いの七月だが、家明は2年後に結婚しようと約束する。一方、安生はギターリストの彼が浮気をしたことから、別れて各地を転々とする漂流生活を送る・・・

性格も正反対とも言うべき安生と七月の長い友情物語。そこには同じ男を好きになってしまうという微妙な三角関係も生じる。13歳と言えば日本では中学生。いくら仲が良くても大抵の場合、進路が違うと次第に疎遠になってしまうものだろうが、2人の関係は続いていく。安生は家明に対する想いを振り切り、別の恋人を作り七月と離れる。そんな安生の気持ちが伝わってくる。こうした三角関係が絡む友情を描くのは、日本でも韓国でもいろいろある。それだけドラマになりやすいということかもしれない。

2人のドラマは2人の14年間の軌跡を追う。27歳の安生には娘・瞳瞳(トントン)がいる。そこに至る道にも一捻りきいている。そして小説も最終章を迎える。中国発のドラマもなかなかである。観終えたあとにしみじみとした味わいを残す。書かれた小説が希望に満ちて終わることに安堵する映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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【シリアにて】My Cinema File 2720

シリアにて.jpeg

原題: Insyriated
2017年 ベルギー・フランス・レバノン
監督: フィリップ・バン・レウ
出演: 
ヒアム・アッバス:オーム
ディアマンド・アブ・アブード:ハリマ
ジョリエット・ナウィス
モーセン・アッバス
モスタファ・アルカール
アリッサル・カガデュ
ニナル・ハラビ
ムハマッド・ジハド・セレイク

<映画.com>
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シリア内戦の緊迫した状況をマンションの一室に暮らす一般市民の視点からリアルに描き、第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞を受賞したヒューマンドラマ。3児の母であるオーム。彼女は家族と隣人を市街戦の危険から守るため、自身のマンションをシェルターとしていた。広場がスナイパーに狙われ、建物が爆撃で振動する恐怖におびえる中、シェルターに強盗が押し入ろうとするが……。ベルギー人監督のフィリップ・バン・レウがシリア北部のアレッポに住む友人の父親が住居から3週間出ることができなかったエピソードに触発されメガホンをとった。2017年・第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映。
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物語の舞台はシリアの首都ダマスカスとされているが、解説を見なければわからない。ただ、周囲に銃声が響くアラブの地ということはわかる。近くに銃弾が弾け、「スナイパーだ」と言って集まっていた人たちが散り散りに散る。その様子をタバコを吸いながら眺めている老人。マンションの一室と思われる部屋の玄関には厳重にかんぬきが渡してある。そして幼子を抱えたハリマ夫婦が、レバノンへの脱出の話をしている。手筈が整ったということで、親子3人その夜には出て行こうと話がまとまる。

その日の朝、ハリマの夫は手続きのためマンションを後にする。ところが、外に出た途端、スナイパーに撃たれて倒れる。偶然、その一部始終を見ていたのは、メイドのデルハン。慌てて女主人のオームに知らせる。さらにハリマにも伝えようとするが、オームはこれを引き留める。助けに行けば二の舞であるのは明らかだし、知らせればハリマは後先を考えずに飛び出して行く。最小限の犠牲に留めるためには、オームの判断は冷酷なようだが間違ってはいない。ただ、デルハンはこの決定に激しく動揺する。

一方、ハリマはそんなことがあったことも知らず、オームにその夜出ていくことを告げる。次第にその部屋にいる人々の姿が明らかになる。ハリマは同じマンションの上階に住んでいたらしいが、爆撃で部屋にいられなくなり、階下のオームの部屋に逃げ込んだようである。オームの夫はどこかに行っており、実父と2人の娘と、帰ることができなくなった娘のボーイフレンドとで部屋にこもっている。しかし、水道を捻っても水は出ず、蓄えた水を節約して使っている。

周囲には散発的に銃声が響き、戦闘機が飛び去っていく振動が伝わる。やがて部屋のドアを叩く音がする。覗き窓から見れば男たちがいる。オームは夫がいないと告げて男たちを帰らせる。しかし、一度で諦めず、男達が戻ってきて再びドアを叩く。オームは家族を台所に集める。ところが男たちは、今度はベランダ伝いに窓から侵入する。ハリマは子供を連れて行こうとして遅れ、部屋に侵入してきた2人の男達に捕まってしまう。2人の男達はどうやらよからぬ目的の様。「奥の部屋に誰がいるのか」と問われるが、ハリムは口をつぐむ。

なかなか難しい決断。教えれば男達はドアを蹴破って押し入るかもしれないし、そうすれば全員が危機に晒される。ハリムは結局、大人しくレイプされる選択をする。やがて男達は去って行くが、ハリムは大きなショックを受ける。物語は終始部屋の中だけで進む。マンションの他の住民はすでにみんな避難しており、残っているのはこの部屋にいる者たちだけ。全員を仕切るのは、女主人のオーム。長い1日が終わり、日が暮れる。そしてオームはようやく意を決してハリマに夫が撃たれたことを話す・・・

こういう映画が創られるのはシリアならではかもしれない。始終銃声や砲撃音が響き渡る中、オームは家族に指示を与え、部屋に籠城する。市民でも無差別に狙撃される恐怖。さらにそんな中、見知らぬ男達に襲われるという事態も起こる。シリアは現在も内戦が続いているが、この映画と似たような経験をしている人たちも実際にいるであろうことは想像に難くない。観ていると「水や食料はどうしているのだろう」という疑問が湧いてくる。トイレだって大変だし、いつ爆弾が飛んでくるとも限らない。

実際に戦うことだけが戦争ではない。戦下の生活もまた戦争と言える。こういう「戦争」の描き方もあっていいと思う。賞を取るのも頷ける一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年07月26日

【45年後のアイラブユー】My Cinema File 2719

45年後のアイラブユー.jpeg

原題: Remember Me
2016年 アメリカ
監督: マルティン・ロセテ
出演: 
ブルース・ダーン:クロード
カロリーヌ・シロル:リリィ
シエンナ・ギロリー:セルマ
ベロニカ・フォルケ:ミス・マルコス
セレーナ・ケネディ:タニア
ベン・テンプル:デヴィッド
ブライアン・コックス:シェーン

<映画.com>
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「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされた名優ブルース・ダーンが主演を務め、アルツハイマーで過去の記憶が失われた元恋人に思いを伝えようと奮闘する老人の姿を描いたハートフルドラマ。妻に先立たれ、ひとり気ままな老後生活を送っていた70歳の元演劇評論家クロードは、昔の恋人で人気舞台女優のリリィがアルツハイマーのため介護施設に入ったことを知る。もう一度リリィに会いたいと考えたクロードは、自身もアルツハイマーのフリをして同じ施設に入居するという大胆な計画を実行。リリィと再会を果たすことに成功するが、リリィの記憶からクロードの存在はきれいに失われていた。そんなリリィに対し、クロードは毎日のように2人の思い出を語って聞かせる。そしてある日、かつてリリィが演じたこともあるシェイクスピアの「冬物語」を施設で観劇することなり、クロードは孫娘と一緒にある作戦を立てる。
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主人公は70歳のクロード。妻を亡くして一人暮らしをしている。友人のシェーンとはさまざまな薬の話題で毒づき合いながらも楽しく過ごしている。家族は娘と孫娘がいるが、娘婿は知事の立場にいながらも浮気がバレて家族とともに謝罪会見に臨む始末。クロードは娘と孫を呼び寄せて一緒に暮らそうと部屋を片付けている。そんなある日、元舞台女優のリリーがアルツハイマーで施設に入った事をニュースで知る。居ても立ってもいられなくなったクロードは、リリーが入所している施設に行く。

実はクロードは、かつて舞台評論家をしており、リリーとは道ならぬ恋をしていたのである。施設に潜り込んだクロードはリリーの姿を見つける。そして自分も入所しようと考える。さっそく、帰ってシェーンに協力を依頼する。アルツハイマーになった事にして、シェーンにリリーのいる施設に入る段取りをつけてもらう。家族にはスペイン旅行に行くと嘘を付き、医師には演技でアルツハイマーだと診断書を書かせ、クロードはまんまと施設に入所する。

首尾よくリリーのいるアルツハイマー病棟に入ることができたクロードは、リリーに話しかける。しかし、相手はクロードの事などまったく覚えていない。若い時の二人の写真を見せても自分の若い頃の写真だとはわからない。ならばと、クロードはリリーが好きだった花で部屋を飾り、二人の思い出の曲を流したりする。クロードはリリーに対し、本気で恋をしていたが、夫のいたリリーは最終的にクロードと別れたのである。パリの公演先まで追いかけて行ったクロードだが、無情にも振り返りもせずに立ち去ったリリーの思い出が蘇る。

恋愛物語も多々あるが、これは老人がかつての恋人に寄せる思い。しかも相手はアルツハイマーで自分のことなど覚えていない。もう若者の恋物語のように2人で手に手を取って駆け出していくというものでもない。クロードにあるのは、リリーとの切ない思い出。今さらどうするということもないが、自分も還暦近くなったせいかクロードの気持ちがわからなくもない。もしかしたら、自分も同じような行動を取るかもしれない。クロードは諦めずリリーの若い時の映像を見せたりしてリリーの記憶を促す。

この手のドラマはコメディ・タッチで進む。やがてクロードが施設に入ったことが家族の知るところとなる。家族の前でボケたフリをするクロード。老人であれば、簡単に騙せると思う。やがて父親の浮気で家族にヒビが入ったことで自暴自棄になりそうだった孫娘のタニアと秘密を分かち合う。親子間よりも少し遠い方が良いのかもしれない。いくらコメディでもアルツハイマーが治るということはない。しかし、ラストの観劇は心温まるものである。

心を痛めた切ない思い出も時が経てば浄化されて辛い思いは薄れていく。それが歳を取ることのメリットなのかもしれない。施設にはさまざまな人が入所していて、クロードも仲良くなる。考えてみれば、その一人一人にそれぞれの人生ドラマがあるはず。そんなことをふと考えてみた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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