
2022年 日本
監督: 石川慶
原作: 平野啓一郎
出演:
妻夫木聡:城戸章良
安藤サクラ:谷口里枝
窪田正孝:「谷口大祐」〈ある男X〉
清野菜名:後藤美涼
眞島秀和:谷口恭一
真木よう子:城戸香織
柄本明:小見浦憲男
きたろう:伊東
河合優実:茜
カトウシンスケ:柳沢
でんでん:小菅
<シネマトゥデイ>
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映画化もされた『マチネの終わりに』などで知られる平野啓一郎の小説を映画化。死後に別人と判明した男の身元調査を依頼された弁護士が、他人として生きた男の真実を追う。監督は『蜜蜂と遠雷』などの石川慶、脚本は『マイ・バック・ページ』などの向井康介が担当。主人公を石川監督作『愚行録』などの妻夫木聡、彼に調査を依頼する女性を『百円の恋』などの安藤サクラ、彼女の亡き夫を『初恋』などの窪田正孝が演じるほか、眞島秀和、仲野太賀、真木よう子、柄本明らが共演する。
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平野啓一郎原作の『ある男』の映画化作品。人気作家になると、原作が映画化されるケースが多い。東野圭吾などもこの傾向があるが、本も映画もそれぞれ味わいがあるから、前向きに捉えている。
物語の舞台は、宮崎県のとある町にある誠文堂文具店。店番をしているのは、離婚して息子を連れて戻ってきたこの家の娘、里枝。店番をしつつも、遠くを見つめそっと涙を流す。そのわけは後ほどわかる。そこへやってきた1人の客。雨の中、見慣れない男。スケッチブックを買っていくが、それを機にその後もしばしば画材を買いに来るようになる。別のある日、訪れたその男に店にいておしゃべりをしていた近所の人が、絵を描いているのを見たが、こんどそのスケッチブックを見せてくれと軽口をたたく。
田舎の狭い社会のこと、男は谷口大祐という伊香保温泉の老舗旅館の次男で、いまはこの地で林業の会社に勤めているということを里枝は知る。また別の雨の日にやってきた大祐は、いつものように画材を買うと里枝にスケッチブックを差し出す。そこには公園で遊ぶ息子の悠人らしき子供の姿も描かれている。そして大祐は、おもむろに里枝に向かって友だちになって欲しいと口にする。里枝は、買物しなくていいからいつでも絵を見せにくるようにと返事をする。
その後2人の仲は接近し、一緒に食事をするようになる。そこで里枝の涙の理由は、2歳のときに病気で亡くなった子供のことだとわかる。治療方針をめぐって対立したのが前夫との離婚原因であり、今でも大きな悔いとして里枝の心に残っている。やがて2人はつき合い始めるが、車の中でぎこちなくキスを交わそうとした大祐が窓ガラスに映った自分の顔に異常に反応し取り乱す。そんな彼を里枝はやさしく抱きしめるが、大祐にも何か事情がありそうである。
やがて2人は結婚し、花という女の子が生まれる。悠人も中学生になり、大祐によく懐き、その様子はどこから見ても実の親子の様。その日、大祐は里枝に内緒で学校に行こうとしていた悠人を山に連れて行く。2人はそうしてしばしば一緒に過ごしていたが、チェンソーで木に切り込みを入れたところで誤って転倒した大祐の上にその木が倒れてくる。下敷きになった大祐はそのまま帰らぬ人となってしまう。
1年が経ち、大祐が疎遠にしていた兄の恭一が一周忌の法要にやってくる。不義理を詫びる里枝に対し、恭一は「こんなところで死ぬなんて親不孝だ」と発言し列席者の怒りを買う。しかし、仏壇に遺影がないと恭一が言い出す。そして里枝が大祐の写真を指差すと、それは弟の大祐ではないと言う。おかしな空気がその場に漂う。そこで初めて、夫だった男が伊香保温泉の老舗旅館の次男であった谷口大祐という人物とは別人だということが判明する・・・
生きていればまだしも、死んでしまった後では本人に問い詰めるわけにもいかない。死んだ夫は一体誰なのか。里枝は離婚のとき世話になった弁護士の城戸に相談し、城戸が故人の身元を調査するという形で物語は進んでいく。城戸にも物語はあり、横浜のマンションで妻の香織、息子の颯太と3人で暮らしているが、城戸には在日三世という出自がある。何気なく在日の問題が織り込まれていく。
城戸は谷口大祐と名乗っていた男の身元を調べて行く。手掛かりは、本物の谷口大祐。大祐の元恋人を訪ね、「戸籍交換」という情報をつかみ、その仲介人を訪ねて大阪刑務所を訪れて小見浦憲男という男に会う。そして新たに「曾根崎義彦」という名前を知る。こうした過程は推理小説のようで、謎解きの面白さがある。やがて谷口大祐だった男の正体が判明する。そこに隠されていた真実、そして自分の顔を見ると動揺していた事情もわかる・・・
映画の面白さは、原作と変わらない。それはそもそものストーリーの面白さによる。安藤サクラや妻夫木聡が出演しているが、そうでなかったとしても面白い映画だっただろう。「わかってしまえば、本当のことを知る必要なかった」と里枝は最後に語る。真実というものはえてしてそういうものだろう。ラストで城戸は見知らぬ客に自分の話をするが、それは伊香保の温泉旅館の次男坊というもの。そこに秘められた胸中をいろいろと想像させられる。終わってもなお、いろいろと考えさせてくれる映画である・・・
評価:★★☆☆☆