2023年10月30日

【嵐を呼ぶ男】My Cinema File 2765

嵐を呼ぶ男.jpeg
 
1957年 日本
監督: 井上梅次
出演: 
石原裕次郎:国分正一
北原三枝:福島美弥子
芦川いづみ:島みどり
金子信雄:左京徹
青山恭二:国分英次

<映画.com>
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小説サロン所載の井上梅次の小説を、彼自身と西島大が脚色し、「鷲と鷹」に続いて、彼が監督した娯楽映画である。撮影は「美徳のよろめき」の岩佐一泉が担当した。主演は「俺は待ってるぜ」の石原裕次郎、北原三枝のコンビである。ほかに青山恭二、岡田眞澄、芦川いづみ、白木マリなどの若手に、小夜福子、金子信雄らベテランなどが助演している。また笈田敏夫が特別出演する。色彩はイーストマンカラー。
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石原裕次郎の代表作として有名な映画であり、観てみたいと思っていた作品。時に世の中はジャズブーム真っ只中。銀座はその中心地。その銀座で、とあるクラブの支配人である美弥子は自分の店でプレイする人気ジャズバンド「福島慎介とシックスジョーカーズ」の売れっ子ドラマーのチャーリーの扱いに悩まされている。もともとチャーリーは美弥子と付き合っていたが、ダンサーのメリーに心移りし、それどころか他の事務所への移籍を匂わされている。その夜のステージにさえ出るかどうかわからない状態。そんなところに新しいドラマーの売り込みがある。

売り込みにきたのは、音楽大学に通う国分英次。兄の正一を使えと売り込んでくる。しかし、その正一は喧嘩っ早くてあちこちでトラブルを起こしているので有名であった。その夜も正一は別の店で喧嘩をして留置場に入っている。その夜の演奏に困る美弥子は正一の身元引受人となり、彼を新ドラマーとしてスカウトする。正一は母・貞代と英次と狭いアパートで暮らしている。しかし、音楽をまともな職業とは認めない母とはことごとく対立している。アパートに居づらくなっていた正一は、ドラムの練習が思いっ切りできる美弥子の家に転がり込む。

それから正一は真面目にドラムの練習に取り組む。その甲斐あって、正一はメキメキと腕を上げ、リーダーの福島慎介らバンドとの息も合うようになる。そして初ステージを迎える。そんな正一は、ジャズ評論家の左京徹と知り合うが、左京は業界に顔がきくことから、正一は自分を売り出してもらうよう申し入れる。左京は美弥子に気があることから、仲を取り持つならとこの申し出を受ける。正一はその実力に加え、左京の後ろ楯もあり、テレビに出るようにもなってやがてチャーリーの人気にも迫るようになる・・・

この 映画が作られたのは1950年代。主人公は銀座のドラマーというところに時代背景が色濃く表れている。今なら煌びやかなステージのアイドルだろうか。さらに喧嘩っ早くてよく警察のお世話になるというところも、カッコいいと思われていたのだろうか。現代と当時の時代感覚の違いは観ていてはっきりと感じる。当時の若者たちは、この映画の主人公正一に憧れたのであろう。ドラマーを目指した者もいたかもしれない。映画は名画と名声を得たとしても、その時代背景もあるから必ずしも現代でもウケるとは限らない。

正一が人気を博してくると、当然チャーリーとどちらが上かという争いになる。チャーリーは正一にドラム合戦を申し入れ、正一も受けて立つことする。しかし、その前夜、正一はチャーリーの取り巻きのチンピラと喧嘩をして利き腕の右手を傷めてしまう。痛む右手で対戦に臨む正一。しかし、やはり片手のハンディは否めない。正一は苦し紛れにドラムを叩きながら歌を歌う。この歌うドラマーが満員の観客の大歓声を集める。まさに怪我の巧妙である。その歌は「オイラはドラマー、ヤクザなドラマー」という耳にしたこともあるものだが、この歌もレトロな感じが満載である。

そうした縦糸のストーリーに加え、正一には母の貞代の無理解という苦悩がある。音楽などまともな職業とは言えず、我が子にはまともな職業に就いてほしいと願う母にとって、正一は頭痛の種。正一は諦めるとしても兄の影響を受けて音楽の道に進む英次には、まともな職業に就いてほしいと願う。それゆえに正一には冷たく当たる。そんな母に対する密かな思いに苦しむ正一という横糸が描かれる。さらに正一はやがて美弥子にも惹かれるようになっていく。それは自分を売り出した左京との約束に背くもの。ストーリーは動いていく。

正一親子が暮らしていたのは狭いアパート。その昔はみんな狭いアパートに暮らしていたものだと思い起こす。東京とは言え、正一が袋叩きにあうのは空襲の跡かと思われそうな
廃墟であるし、戦後の復興の影がまだ随所に表れている。ストーリーも現代ではとてもウケそうもない。しかし、石原裕次郎が名前を売ったのもわかるような気もする。こういう映画は、エンターテイメントというよりも時代の記録として観るべきものなのかもしれない。

そういう記録映画として楽しめる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年10月28日

【悲しみよりもっと悲しい物語】My Cinema File 2764

悲しみより、もっと悲しい物語.jpeg

原題: 比悲傷更悲傷的故事 More than Blue
2018年 台湾
監督: ギャビン・リン
出演: 
クォン・サンウ:ケイ/ カン・チョルギュ
イ・ボムス:ジュファン
イ・ボヨン:クリーム/ ウン・ウォン
チョン・エヨン:イム・ジェナ

<映画.com>
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クォン・サンウ主演の韓国映画「悲しみよりもっと悲しい物語」をリメイクし、台湾で大ヒットを記録したラブストーリー。高校時代に運命的な出会いを果たした、音楽プロデューサーのKと作詞家のクリーム。それぞれ家族を失い、身寄りのなくなった2人は一緒に生活するようになり、互いに恋心を抱く。しかし、白血病を抱え、病状が悪化しはじめていたKは、クリームに気持ちを伝えずにいた。余命わずかのKは、自分がいなくなってもクリームが幸せに生きていけるよう、別の男性に彼女を託す。クリームの結婚を見届け、Kの目的は果たされたかのように思えたが……。
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冒頭、ある歌手がレコーディングをしている。しかし、歌詞の内容が浅はかだとプロデューサーに文句を言う。その帰りの車中、マネージャーからとある音楽を紹介される。それを聴いた歌手は、即座に歌詞が素晴らしいと褒め称える。題名は「かけがえのない人」。作詞はクリームという聞きなれない名前。その音楽を紹介したマネージャーにさっそくクリームという人物を紹介してもらおうとしたが、今は所在不明だとのことであった。

物語は時間を遡る。高校時代、何かを吹っ切るがごとく校庭を全速力で走り、ベンチで横たわるチョルギュの上から同級生のウォンがタバコを吹きかける。チョルギュは高校生ながら両親はなく、1人暮らしをしている。チョルギュの家を訪ねたウォンは、同じ境遇であり、一緒に住むと言い出す。男と女の同居というと、大人はいろいろと勘繰ってしまうが、その日からチョルギュはウォンをクリームと呼び、ウォンはチョルギュをケイと呼ぶようになる。2人は年も同じでラーメン好き、雨の日の音楽鑑賞が好きでコーヒーが好き。学校が嫌いで、そして孤独という似た者同士であった。

物語は、一緒に住むことになったケイとクリームの2人の姿を追っていく。一緒に住んではいるものの、どうやらまだ友達関係らしい。このあたりが非常にわかりにくい。普通、一緒に住めばそれなりの関係になるだろうと、スレた大人としては思うものの、この物語のケイとクリームはどこまでも純粋である。それはそれで悪くはないのだが、それならそうとわかりやすく描いてほしいと思ってしまう。クリームは音楽関係の仕事に就くが、新人歌手の歌の下手さや歌詞を変えろと提案されたことに腹が立ち、降りてしまう。ケイが家に帰ると、泣いていたクリームはケイに抱きつき、仕事で嫌だったことを話す。それでも2人は友達関係なのである。

クリームは仕事の休憩中、コーヒーを飲もうとしてその場で居合わせたジュファンと知り合う。気になったクリームは先輩にジュファンのことを聞き出し、歯科医であることが分かるとジュファンの病院へ行く。そしてクリームはジュファンを好きになる。それはそれでいいのだが、もう少し説明がないと唐突感は否めない。クリームはケイのことを何とも思っていないのだろうかと疑問が生じる。そしてクリームは積極的にジュファンにアプローチしていく。ケイはケイでそんなクリームの後押しをしていく。

一方、ケイはクリームに自分の病気のことを隠している。それは遺伝でもあるのか父親と同じ癌に侵されている。不治の病であり、それゆえにクリームには別の男と幸せになってほしいという思いがある。そんなケイとクリームの物語。何となく感涙を呼びたい恋物語という意図は感じるが、どうも「わざとらしさ」感が強く漂ってくる。個人的には自然なストーリー展開を望むのであるが、ケイとクリームは長く同居している割には恋愛関係になっていない。それはケイの病気もあるのだが、どうも説明不足に感じてしまう。

ケイはジュファンに婚約者がいると知ると、婚約者のジェナに婚約を破談にしてほしいと伝えに行く。このあたりも作られた感が強くする。互いに本当は思いながら他の相手にいくというのはよくあるパターン。しかし、これはそういうすれ違いドラマともちょっと違う。不治の病で余命が限られているという御涙頂戴路線で感動映画に仕上げようとする「わざとらしさ」が擦れた大人には厳しく感じるところである。まだ純な若者にはウケるのだろうかと思ってしまう。『悲しみよりもっと悲しい物語』という放題もそれに輪をかける。ただ原題の『比悲傷更悲傷的故事』をそのまま訳したもののように思うが、英題の『More than Blue』の方がより良いように思う。

製作者の意図は残念ながら擦れた大人である自分には通じない。その方が大きな「悲しみ」のように思う。この手の恋愛映画にはだんだん感度が鈍くなってきているのだろうか。映画か己の感性か。いずれにしてもあまり心に響かなかった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年10月27日

【流浪の月】My Cinema File 2763

流浪の月.jpeg

2022年 日本
監督: 李相日
原作: 凪良ゆう
出演: 
広瀬すず:家内更紗
松坂桃李:佐伯文
横浜流星:中瀬亮
多部未華子:谷あゆみ
趣里:安西佳菜子
三浦貴大:湯村店長
白鳥玉季:更紗(10歳)
増田光桜:安西梨花
内田也哉子:佐伯音葉
柄本明:阿方

<映画.com>
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2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を、『怒り』の李相日監督が広瀬すずと松坂桃李の主演で映画化。ある日の夕方、雨の公園でびしょ濡れになっていた10歳の少女・家内更紗に、19歳の大学生・佐伯文が傘をさしかける。伯母に引き取られて暮らす更紗は家に帰りたがらず、文は彼女を自宅に連れて帰る。更紗はそのまま2カ月を文の部屋で過ごし、やがて文は更紗を誘拐した罪で逮捕される。“被害女児”とその“加害者”という烙印を背負って生きることとなった更紗と文は、事件から15年後に再会するが……。更紗の現在の恋人・中瀬亮を横浜流星、心の傷を抱える文に寄り添う看護師・谷あゆみを多部未華子が演じる。『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョが撮影監督を担当。
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原作を読んで心に残る内容であり、映画化にあたっても観てみたいと思わされた作品。映画は原作同様、公園のシーンから始まる。ベンチに座って無心に本を読んでいる10歳の少女・家内更紗。そしてそこから少し離れたベンチにひとりの青年佐伯文がすわっている。そこへ突然の雨。更紗は身動きひとつせず本を読み続けているが、佐伯文が傘をさしかける。「帰らないの?」、「帰りたくない」という会話が交わされ、更紗は佐伯文の家について行く。ちょっと考えれば危ないシーンであるが、更紗の状況からすると理解できないことはない。

そして場面はとあるレストランへと移る。客の中の学生が、ある動画を見ている。それは少女を誘拐したとされる男が逮捕される場面。警察に保護された少女が悲痛な叫びを上げている。そのそばを通り過ぎるウエイトレス。それは成人となった更紗。今ではウエイトレスとして働く一方、一流企業に勤める恋人もいる。彼は更紗の「過去」を知った上で、更紗を受け入れている。その「過去」とは、小学生の頃、男に誘拐された事があるというもの。学生が見ていた動画の事件である。

更紗は恋人の亮から田舎の両親に会ってほしいと言われる。過去については驚くかもしれないが、理解してくれると言う。その言葉に更紗は返事を返すことができない。亮との関係には、どこか目に見えない壁があるように思える。そしてある日、ファミレスの仕事仲間の送別会に出席した更紗は、年の近い同僚の安西から誘われてとある店に入る。洒落たバーだと思って入った店だが、意に反してそこはただの喫茶店。あてが外れてコーヒーだけ飲んで出ようと言われた更紗だが、店のマスターを見て目が釘付けになる。それは佐伯文であった。

物語は過去と現在を交互に描いていく。事故で両親を亡くした更紗はおばの家に引き取られる。常に気を使う一方、夜になると、おばの中二の息子のたかひろが部屋に入ってきて、体をさわってくる。見ず知らずの文について行ったのは、リスクよりもおばの家から逃げ出したいという気持ちが勝ったためだろう。そして実際、もの静かな文との生活は、気兼ねなくのびのびとできるものであった。「帰りたい時はいつでも帰っていいんだよ」と文は言うが、更紗はそのまま文の家にとどまり続ける。そしてある日、テレビを観ていた更紗は、自分が行方不明になっているというニュースを目にする・・・

まだ原作を読んで日が浅いので、ストーリーは頭に入っている。原作を読んでいない人には映画がどのように捉えられているのか興味深い。印象としては、小説をまるまる映画化するとものすごく長くなってしまうので、ある程度カットするのはやむを得ない。冒頭のシーンでは、原作だと更紗の一緒にいる友達が文のことを変質者でないかと噂話をする。それがストーリーの理解を深めるのに役立つが、映画はそれをスルーしていく。ある程度はやむを得ない。文と思わぬ再会をした更紗は、その日からカフェを訪れるようになる。ただ珈琲を飲むだけだが、やがて亮がそれに気づく・・・

この亮という男だが、一応どこか大手企業に勤めるエリートのようである。支配欲が強いようで、更紗が文のカフェに通うようになると、やがて行動を監視するようになる。更紗の職場に電話してシフトを教えてくれと要求する様子はちょっと異常である。それが高じて更紗に暴力を振るうようになる。一方、更紗はある夜、文に声をかけようと店の前で待つことにする。文は1人の女性と一緒に出てくるが、更紗の正体には気づかない様子で去っていく。更紗は2人のあとを追い、2人がマンションに一緒に入っていくのを確認する。文の幸せを知って更紗は安堵する。

物語は、文と更紗の過去と現在を追っていく。文は更紗を誘拐したとして罪に問われるが、それは世間の話で、2人の間ではしばし親密な時間を過ごした幸せなひと時。しかし、誰もわかってはくれない。そこに大きなギャップがある。2人の間には犯罪などないが、世間から見ると犯罪が成立している。考えてみれば、構造としては面白い。更紗を養っていた伯母は、自分の息子が更紗にいたずらをしているのだとは想像もできない。だから更紗が自分から出て行ったなどとは考えないから、捜索願を出す。

一方、捜索願が出された警察は事件性を疑って捜査する。ニュースもその立場で報道するから、誘拐事件として世間も信じ込む。更紗が保護された時も、本人の言い分は、本人自身がうまく伝えられないこともあるが、子供だから説明できないと捉え、文の言い分は端から信用しない。そしてSNS全盛のこの時代、過去の事件の記録はいつまでも残る。そして、世間が忘れかけていた現在、更紗の行動を追っていた亮は、カフェで仕事をしている文を撮ってネットに上げてしまう・・・

主演の更紗を演じるのは広瀬すず。今回は大胆なベッドシーンも見せてくれる。原作の良さもあるが、深いドラマに大人の女優感が漂う。そしてドラマはさらに大きな誤解事件へと発展の兆しを見せる。タイトルの『流浪の月』の由来は最後にわかる。誤解が誤解を呼ぶ怖さ。事実を知るのは文と更紗のみ。ドラマも原作と同様、観終えて深い味わいが残る。読んで良し、観て良しの映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年10月21日

【名もなき野良犬の輪舞(ロンド)】My Cinema File 2762

名もなき野良犬の輪舞.jpeg

原題: 불한당:나쁜 놈들의 세상
2017年 韓国
監督: ビョン・ソンヒョン
出演: 
ソル・ギョング:ハン・ジェホ
イム・シワン:ヒョンス
キム・ヒウォン:ビョンガプ
チョン・ヘジン:チョン主任
イ・ギョンヨン:コ・ビョンチョル
ホ・ジュノ:キム・ソンハン

<シネマトゥデイ>
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『殺人者の記憶法』などのソル・ギョングが主演し、『戦場のメロディ』などのイム・シワンと組んだクライムドラマ。固い絆で結ばれた2人の男の関係が崩壊していくさまを描く。『テロ,ライブ』などのチョン・ヘジンや、『愛のタリオ』などのキム・ヒウォンらが共演。『マイPSパートナー』などのビョン・ソンヒョンがメガホンを取る。
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ところは刑務所。囚人のヒョンスは、囚人たちの殴り合いゲームに飛び入り参加する。なかなかの度胸を周囲に見せつける。それを冷めた目で見つめるのは裏社会のジェホ。見どころがあると思ったのか、ヒョンスに「塀の中には刺激していい奴とダメな奴がいる。だが俺は線引きをする人間だ。下らないトラブルで刑期を延ばすな」と忠告する。ジェホは刑務所の囚人仲間を仕切っており、刑務官すら買収して刑務所内では自由に振る舞っている。ヒョンスはそんなジェホに目をかけられる。

ある日、韓国の裏世界の大物キム・ソンハンが刑務所に入所してくる。所内ではジェホとソンハンとがどうなるかという緊張感に包まれる。さっそく動いたのはジェホであるが、ソンハンはこれを軽くあしらう。ジェホが刑務所内で力を維持してきたのは、受刑者にタバコを売る利権であるが、それを鼻で笑う。大物が刑務所内でタバコなど売れるかというわけである。しかし、ソンハンはあっさりこれを奪うと、刑務所内を牛耳り始める。今までジェホに冷遇されてきた者もこれに追随する。

ジェホは孤立させられたうえに命まで狙われるが、危機にあったジェホを救ったのはヒョンス。一計を案じると、刑務所職員を味方につけ、ソンハンの利権を取り戻す。さらにジェホはソンハンを捕らえて拷問にかけ、自分の命を狙う黒幕を吐かせたところ、何とジェホの命を狙っていたのはオセアン貿易のトップであるコ・ビョンチョル会長、つまり自分のボスであることが発覚する。激昂したジェホはソンハンに沸騰した油をかけて殺し、その事実を隠ぺいする。そしてジェホはヒョンスに大きな信頼を置く。

オセアン貿易は、表向きは水産物の輸入業者だが、裏の顔は麻薬密輸組織である。その動向を探っている釜山地方警察庁のチーム長・チョン主任。そしてヒョンスは、実は警察官。刑務所に服役しているオセアン貿易のナンバー2のジェホに接触すべく、チョン主任が警察学校を首席で卒業した若き刑事ヒョンスに潜入捜査を命じたのである。それまで組織に潜入した捜査官たちは全員抹殺されており、ヒョンスは尻込みするが、腎臓を病む母の移植手術までの透析費用を全額負担してもらうとの条件で引き受ける。

ヒョンスが潜入してから2年が過ぎ、ヒョンスとジェホはまるで兄弟のように、奇妙な友情を深めていく。しかし、そんな時、ドナーが見つかりようやく手術を受けられる予定だったヒョンスの母が突然交通事故に遭い亡くなってしまう。ヒョンスは唯一の肉親だった母の葬儀をあげたいと、チョン主任に出所させてほしいと頼むが断られてしまう。そんなヒョンスに助け舟を出したのがジェホ。葬儀費用を全額負担したうえに裏で手を回してヒョンスを1日だけ出所させる・・・

これまでも潜入捜査ものはいろいろと作られている。これもそんな潜入捜査ものかと思っていたが、韓国映画は一ひねりきいている。葬儀をあげたヒョンスに、ジェホは身の上話をする。かつて父の暴力に悩まされていた母が自分を父もろとも殺そうとしたと。そして「人を信じないで、状況を信じろ」と語る。ここでヒョンスは、なんとジェホに自分の正体は刑事であることを打ち明けてしまう。二重スパイのような形になるが、その先の展開に思わず興味をそそられる。

物語は、チョン主任率いる警察とオセアン貿易を率いるコ会長とが対峙していくが、そこに密かに2であるジェホを亡きものにしようとするコ会長の企みと、それを知りつつ下剋上を狙うジェホの思惑が絡む。そして潜入捜査官のヒョンスの身分を知りつつ、あくまで表面上手を組むジェホとヒョンス。オセアン貿易は近々ロシアの組織との大掛かりな取引を控え、双方に緊張感が走る。さらに組織内での裏切りがあり、先の展開を読ませない。どういう結末もありえそうである。

そしてヒョンスの母の事故にも裏があり、チョン主任とコ会長とジェホとヒョンスとの運命は交錯する。ジェホの「人を信じるな。状況を信じろ」との言葉が観る者にもストーリー展開を予想させてしまいそうなところがあるが、この映画はそんなに簡単に先を読ませない。最後の最後までどうなるかわからなかった物語は予想外の結末を迎える。この映画は果たしてハッピーエンドなのかどうかは難しい。ただ、いかにも韓国映画らしい、暗鬱とした空気は漂わせている。

なかなか観ごたえのある韓国映画である・・・


評価:★★☆☆☆










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2023年10月20日

【太陽の子】My Cinema File 2761

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2021年 日本
監督: 黒崎博
出演: 
柳楽優弥:石村修
有村架純:朝倉世津
三浦春馬:石村裕之
イッセー尾形:澤村
山本晋也:朝倉清三
三浦誠己:木戸貴一
國村隼:荒勝文策
田中裕子:石村フミ

<MOVIE WALKER>
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歴史的事実に基づき、日本の原爆開発を背景にした青春群像劇。2020年放送のドラマ版に異なる視点と結末を加えた劇場版。軍から密命を受け原子核爆弾の研究開発を進める修、幼馴染の世津、戦地から一時帰宅した修の弟・裕之は久しぶりの再会を喜ぶが……。出演は、「ターコイズの空の下で」の柳楽優弥、「花束みたいな恋をした」の有村架純、「天外者」の三浦春馬。監督・脚本は、ドラマ『青天を衝け』の黒崎博。音楽は、『愛を読むひと』のニコ・ミューリー。サウンドデザインは、『アリー/スター誕生』のマット・ヴォウレス。
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時に1944年、京都帝都大学物理学研究所の石村修は、とある陶芸家の下を訪ねる。そこである物を受け取り、大事に持ち帰る。それは硝酸ウラン。当時はかなり貴重なものだったと思うが、研究室の仲間や教授らからは喝采を浴びる。既に敗色濃厚な戦時下、研究室は海軍から新型爆弾の開発の密令を受ける。それは原爆。当時、既にもうその理論は各国で共有されていたようであるが、日本でも実際に研究が行われていたようである。この映画は、そんな日本の原爆開発を追った映画である。

研究の中心となったのは荒勝教授。研究員たちは手に入れた硝酸ウランから遠心分離法によりウラン235を取り出す実験に取り掛かる。しかし、それは簡単ではない。遠心分離には回転数10万が必要という計算データが得られたが、研究室の遠心分離機の回転数は1万にも満たない。回転数を上げていくと、遠心分離機自体がその回転に耐えられずに分解してしまう。床に散らばった硝酸ウランを這いつくばって集める修。前途は厳しい。

修が硝酸ウランを入手できたのは、五条坂にある陶器屋の主人・澤村の好意によるものであった。当時こういう形でウランを入手していたというのは(史実通りであれば)興味深い(それでも「軍用最優先」で手配できたようにも思うが・・・)。硝酸ウランは焼き物の釉薬として使用していたらしい。修は当時の人らしく、軍人になるよう教育を受けていたが、科学者の道を選んだようである。その一方で、弟の裕之は陸軍に入隊していた。

修の幼馴染の世津は、祖父との2人暮らしであったが、空襲による火災の延焼を防ぐためであろう家屋の取り壊しを余儀なくされ、修の家に身を寄せることになる。当時は「お国優先」。個人の権利など軽く見られていたのだろう。こうして修、母のフミ、世津とその祖父の4人の生活が始まる。そんな中、裕之が帰郷する。所属部隊の配置換えと、持病の肺病の療養のための帰郷であり、頃合いを見て再び戦地に戻るという裕之を修らは歓迎し、再会を喜ぶ。

物語は原爆開発を縦軸に、そして修と世津と裕之との秘めた思いが交差する関係を横軸に進んでいく。合間に原子爆弾の核分裂の仕組みがわかりやすく解説されるのが物語の理解を助ける。しかし、我々は歴史の結末を知っている。アメリカは国を挙げて原爆の開発に取り組んでいるが、京都大学の研究室の研究は大人と子供ぐらいの差がある。そして修は、硝酸ウランを分けてもらうためにいつものように陶芸家の澤村のもとを訪ねるが、いつも澤村を手伝っていた澤村の娘が、大阪へ納品に行った際に空襲に遭い亡くなったことを知る。何とも言えない後味である。

タイトルである『太陽の子』とは、原爆をイメージしてのものだろう。そしてとうとう広島に原子爆弾が落とされる。修は荒勝教授らと共に広島を訪れ、原爆被害の調査を始めるが、「先を越された」という無念は大きなものであっただろう。驚いたのは、次に原爆が落とされるのは京都だという噂を聞いた修は、家族に避難するよう伝えるとともに、自らは比叡山に登り、科学者として京都で原爆が爆発するのを観察すると言い出したこと。史実がどうかはわからないが、物語として修の思いが心に響く。

主演は、一癖のある柳楽優弥。この人の出演映画なら観てみる価値は高いと個人的には考えている。この映画はその期待に十分応えてくれる。あれこれと史実を思い浮かべながら観ることができるこの手の歴史映画は、個人的には好きなジャンルとも言える。そういう意味でも楽しめた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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