
1957年 日本
監督: 井上梅次
出演:
石原裕次郎:国分正一
北原三枝:福島美弥子
芦川いづみ:島みどり
金子信雄:左京徹
青山恭二:国分英次
<映画.com>
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小説サロン所載の井上梅次の小説を、彼自身と西島大が脚色し、「鷲と鷹」に続いて、彼が監督した娯楽映画である。撮影は「美徳のよろめき」の岩佐一泉が担当した。主演は「俺は待ってるぜ」の石原裕次郎、北原三枝のコンビである。ほかに青山恭二、岡田眞澄、芦川いづみ、白木マリなどの若手に、小夜福子、金子信雄らベテランなどが助演している。また笈田敏夫が特別出演する。色彩はイーストマンカラー。
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石原裕次郎の代表作として有名な映画であり、観てみたいと思っていた作品。時に世の中はジャズブーム真っ只中。銀座はその中心地。その銀座で、とあるクラブの支配人である美弥子は自分の店でプレイする人気ジャズバンド「福島慎介とシックスジョーカーズ」の売れっ子ドラマーのチャーリーの扱いに悩まされている。もともとチャーリーは美弥子と付き合っていたが、ダンサーのメリーに心移りし、それどころか他の事務所への移籍を匂わされている。その夜のステージにさえ出るかどうかわからない状態。そんなところに新しいドラマーの売り込みがある。
売り込みにきたのは、音楽大学に通う国分英次。兄の正一を使えと売り込んでくる。しかし、その正一は喧嘩っ早くてあちこちでトラブルを起こしているので有名であった。その夜も正一は別の店で喧嘩をして留置場に入っている。その夜の演奏に困る美弥子は正一の身元引受人となり、彼を新ドラマーとしてスカウトする。正一は母・貞代と英次と狭いアパートで暮らしている。しかし、音楽をまともな職業とは認めない母とはことごとく対立している。アパートに居づらくなっていた正一は、ドラムの練習が思いっ切りできる美弥子の家に転がり込む。
それから正一は真面目にドラムの練習に取り組む。その甲斐あって、正一はメキメキと腕を上げ、リーダーの福島慎介らバンドとの息も合うようになる。そして初ステージを迎える。そんな正一は、ジャズ評論家の左京徹と知り合うが、左京は業界に顔がきくことから、正一は自分を売り出してもらうよう申し入れる。左京は美弥子に気があることから、仲を取り持つならとこの申し出を受ける。正一はその実力に加え、左京の後ろ楯もあり、テレビに出るようにもなってやがてチャーリーの人気にも迫るようになる・・・
この 映画が作られたのは1950年代。主人公は銀座のドラマーというところに時代背景が色濃く表れている。今なら煌びやかなステージのアイドルだろうか。さらに喧嘩っ早くてよく警察のお世話になるというところも、カッコいいと思われていたのだろうか。現代と当時の時代感覚の違いは観ていてはっきりと感じる。当時の若者たちは、この映画の主人公正一に憧れたのであろう。ドラマーを目指した者もいたかもしれない。映画は名画と名声を得たとしても、その時代背景もあるから必ずしも現代でもウケるとは限らない。
正一が人気を博してくると、当然チャーリーとどちらが上かという争いになる。チャーリーは正一にドラム合戦を申し入れ、正一も受けて立つことする。しかし、その前夜、正一はチャーリーの取り巻きのチンピラと喧嘩をして利き腕の右手を傷めてしまう。痛む右手で対戦に臨む正一。しかし、やはり片手のハンディは否めない。正一は苦し紛れにドラムを叩きながら歌を歌う。この歌うドラマーが満員の観客の大歓声を集める。まさに怪我の巧妙である。その歌は「オイラはドラマー、ヤクザなドラマー」という耳にしたこともあるものだが、この歌もレトロな感じが満載である。
そうした縦糸のストーリーに加え、正一には母の貞代の無理解という苦悩がある。音楽などまともな職業とは言えず、我が子にはまともな職業に就いてほしいと願う母にとって、正一は頭痛の種。正一は諦めるとしても兄の影響を受けて音楽の道に進む英次には、まともな職業に就いてほしいと願う。それゆえに正一には冷たく当たる。そんな母に対する密かな思いに苦しむ正一という横糸が描かれる。さらに正一はやがて美弥子にも惹かれるようになっていく。それは自分を売り出した左京との約束に背くもの。ストーリーは動いていく。
正一親子が暮らしていたのは狭いアパート。その昔はみんな狭いアパートに暮らしていたものだと思い起こす。東京とは言え、正一が袋叩きにあうのは空襲の跡かと思われそうな
廃墟であるし、戦後の復興の影がまだ随所に表れている。ストーリーも現代ではとてもウケそうもない。しかし、石原裕次郎が名前を売ったのもわかるような気もする。こういう映画は、エンターテイメントというよりも時代の記録として観るべきものなのかもしれない。
そういう記録映画として楽しめる一作である・・・
評価:★★☆☆☆