2023年11月27日

【手紙と線路と小さな奇跡】My Cinema File 2775

手紙と線路と小さな奇跡.jpeg原題: Miracle: Letters to the President
2021年 韓国
監督: イ・ジャンフン
出演: 
パク・ジョンミン:ジュンギョン
イ・ソンミン:テユン
イム・ユナ:ラヒ
イ・スギョン:ボギョン

<映画.com>
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1988年に開設された韓国初の私設駅「両元(ヤンウォン)駅」の実話をもとに、小さな駅づくりに奮闘する人々を描いたヒューマンドラマ。線路は通っているのに駅がない村。数学の天才である男子高校生ジュンギョンは、毎日往復5時間かけて学校に通っている。村に駅を作ることを夢見る彼は、機関士の父テユンに反対されながらも、駅の開設を求めて大統領府に手紙を送り続けていた。同級生の女子生徒ラヒにも協力してもらい、説得力のある手紙を書くため正書法の講義を受けたり、有名になるべくテレビの「高校生クイズ」に出場したりと、様々な方法で努力を続けるジュンギョンだったが……。「ただ悪より救いたまえ」のパク・ジョンミンが天才高校生ジュンギョン、「EXIT」のイム・ユナが同級生ラヒ、『KCIA 南山の部長たち』のイ・ソンミンがジュンギョンの父テユンを演じる。監督・脚本は「Be With You いま、会いにゆきます」のイ・ジャンフン。
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主人公はへき地の村に住むジュンギョン。そこは駅がなく電車が止まらない村であり、さらに学校のある町へ行く道がないため、村人たちは線路の上を歩いて町へ行っていた。難所は川にかかる橋。途中に待避所はあるものの、電車が来れば枕木を踏みしめつつ急いで待避所まで行かねばならず、過去には亡くなった人がいる程危険をともなうものであった。ジュンギョンは村を救いたい想いで、大統領宛てに「村に駅を作ってほしい」と何通もの手紙を書き続けていた。

ジュンギョンに母は亡く、電車の運転手をしている父と姉ボギョンと暮らしている。高校生になったジュンギョンは、線路を歩いて町の高校へ通う。そこでラヒとクラスメイトになる。ジュンギョンの駅作りのことを知ったラヒは、手伝いを申し出る。ラヒの父親は議員であり、協力できるかもしれないと言う。そしてラヒはジュンギョンが手紙を書くの手伝うことから始める。ラヒが添削して手紙を出すが、それでも大統領からの反応はない。議員の娘であるラヒには、ソウルの学校に転校する話が出る。ラヒはジュンギョンにも一緒に来てほしいと頼む。だが、ジュンギョンは及び腰である。

ジュンギョンの父の帰りは遅い。それゆえか姉はジュンギョンに何くれとなく構うが、テレもあってか、ジュンギョンは素っ気ない。そしてまた大統領に手紙を書く。なぜ、そこまで駅にこだわるのか。子供の熱情かと思うがそうでもない。ジュンギョンはもともと数学が得意。それを活かし、姉の言葉にヒントを得てトンネル脇に信号を作る。電車の振動を感知して、電車が近づいていることを知らせるものである。手作りの信号だが、村人たちは大いに喜ぶ。

ほんわかした物語が続く。ジュンギョンと高校で一緒になったラヒはなぜかジュンギョンに好意的。議員の娘という恵まれた家庭で育ったラヒはジュンギョンの家庭とは対照的。それでも2人は一緒に勉強したりして、純情な付き合いを続ける。そしてある回顧シーンが出てくる。それは学校で賞を取りトロフィーを貰ったジュンギョンを姉が褒めながらの帰り道。鉄橋を渡り始めた一行に、電車が近づいてくる。急いで待避所に向かう村人たち。最後になるのは姉ボギョン。間一髪で電車をやり過ごすも、その勢いでジュンギョンのトロフィーが線路の下へ落ちてしまう。そしてそれを取ろうとしたボギョンは、バランスを崩してしまう・・・

ほんわかしたドラマが一転して様相を変える。川へ転落したボギョンは帰らぬ人となる。そこでジュンギョンが駅にこだわっていた理由、そして家を離れてソウルへ行くことに抵抗していた理由が明らかになる。それまで何気なく描かれていたシーンが意味を持ってくる。なかなかやってくれる映画である。やがて、ジュンギョンの手紙が効いたのか、駅を作る認可が下りる。しかし、許可は下りたが、予算がつかず工事に入れない。そんな状況下、ジュンギョンはある決断を下す・・・

線路のみで道路がないという異常な環境にある村。映画が終わって、実は実在の駅のことだとわかる。ジュンギョンらの物語はフィクションだろうが、うまく事実とかけ合わせて作ったものだと思う。駅づくりにかけるジュンギョンの思い。その思いに動かされていく周囲の人々。姉やラヒとのエピソード。ジュンギョンを取り巻く人々のストーリーに胸が熱くなる。思わぬ感動系の映画に得した気分になる。

ラヒを演じたイム・ユナは、最近NETFLIXで観ている『キング・ザ・ランド』の主演の美人女優。それで観てみようと思った映画だが、思いもかけぬ拾いものをした気分である。心を温めたい気分の時には観てみたい映画である・・・


評価:★★★★☆









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2023年11月25日

【国家が破産する日】My Cinema File 2774

国家が破産する日.jpeg

原題: 국가부도의 날/Default
2018年 韓国
監督: チェ・グクヒ
出演: 
キム・ヘス:ハン・シヒョン
ユ・アイン:ユン・ジョンハク
ホ・ジュノ:ガプス
チョ・ウジン:パク・デヨン
ヴァンサン・カッセル:IMF専務理事

<映画.com>
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1997年に韓国で実際におこった通貨危機の裏側を描いた社会派ドラマ。1997年、韓国経済は急成長を遂げ、いつまでも好景気が続くと多くの国民が信じて疑わなかった。そんな中、韓国銀行の通貨政策チーム長ハン・シヒョンは通貨危機を予測していた。政府は非公開の対策チームを招集するが、国家破産まで残された時間はわずか7日間しか残されていなかった。独自に危機の兆候をキャッチし、これを好機と見た金融コンサルタントのユン・ジョンハクがある大勝負に出る。その一方で、経済情勢に明るくない町工場の経営者ガプスは、大手百貨店からの大量発注を手形決済という条件で受けてしまう。シヒョン役をキム・ヘス、ジョンハク役をユ・アイン、ガプス役をホ・ジュノ、IMF専務理事役を韓国映画初出演となるバンサン・カッセルがそれぞれ演じる。
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経済が右肩上がりの成長を遂げる中、韓国は1996年にOECDに加盟し、先進国の仲間入りを果たす。国内ではそのニュースが大々的に流れ、国民の多くが自らを中間層と自覚し、今後も好景気が続くと信じて疑わない。しかし、その影では崩壊の足音が静かに近づく。翌1997年11月、アメリカの投資家たちが韓国から手を引き始める。この動きに韓国銀行の通貨政策チーム長ハン・シヒョンは、通貨危機を予測する報告を上げるが、役所仕事の流れの例外ではなく、トップにそれが届くまで10日間を要する。

ハンは国家破産まで残された期間は7日しかないと訴える。深刻な事態を受け、対策チームが急遽招集されるが、対策チームの意見は割れる。国民に知らせるべきだと主張するハンに対して、財務局次官のパク・デヨンは、混乱を招くだけだと頑なに拒否する。こういう国家的危機の際にありがちな意見の対立である。国民の立場で考えるハンは食い下がるが、責任問題を恐れてか対策チーム長である経済主席は非公開とする結論を下す。

国家がそのような危機に陥っているとは夢にも思わない町工場の経営者ガプスは、大手百貨店ミドパからの大量発注を受けて興奮する。しかし、手形決済という条件を提示され苦悩する。大きな取引はありがたいが、手形では入金が後になるため資金繰りに不安が生じる。しかし、目の前のチャンスと仲間の勧めもあってこれを受ける。一方、ノンバンク「高麗総合金融」社員のユン・ジョンハクは、ラジオで多くの庶民が生活の窮状を訴えているのを聴き、独自に調べ、考えを巡らせる。そして会社を退職し、ノンバンク時代の顧客を集め、韓国経済が陥っている金融の混乱状態を説明し、この機会に儲けることを訴える。しかし、あまりに突飛な話に、彼の話に興味を持ったのは2名だけであった。

限られた時間、ハンたち通貨政策チームは、上層部を動かせる証拠を探そうと、緊急調査を行うが、企業や銀行の実態は杜撰であり、銀行監督局が何の役にもたっていない事態を目の当たりにする。その頃、パク財務局次官は、ハーバード大出身の先輩と共に有力財閥「イルソングループ」の子息と密かに会い、国が破産の瀬戸際にあり、それに備えるべきだと内密に情報を流す。それと並行して、たった2名の投資家とともに、ユンは株とウォンが暴落すると予測してドルを買いあさる。

経済は一気に悪化し、大手企業の倒産が次々と伝えられる中、パク次官は電話対応に追われる職員たちに「一時的な混乱」として処理させる。倒産する企業の中にはミドパデパートがあり、ニュースを受けてガプスはあわてて担当者のもとを訪ねていくが、既に現場では取り付けにきた多くの人々で騒然となっている。手形は決済の見込みがなくなり、支払資金に窮したガプスは、自宅マンションを売ろうとするが、提示された売り値は想定外に下がっており、担当者に食ってかかるがどうにもならない・・・

韓国が通貨危機に陥ったニュースは覚えているが、実際に国内ではどんな様子だったのか知るよしもない。この映画はフィクションであるが、その時の国内の混乱を想像させてくれる。国の事を純粋に考えて行動するハンに感情移入してしまうが、自分たちの都合を優先するパク次官が悪役として立ちはだかる。緊急事態にマンションを売ろうとする人々が殺到し、その結果値崩れして困窮する人々をさらに苦しめる。一方、それらのマンションを買い叩く人がいる。

権力につく者、金のある者たちはどこまでも強い。その影で首をつり、飛び降りて自らの命を断つ人たちがいる。パク次官はIMF(国際通貨基金)に支援を求めるべきだと提案する。それは一見良さそうに思えるが、IMFは支援の条件としてその国の経済に介入して。その影にアメリカの影もあったりして、支援要請が必ずしもその国のためにならないという実態も描かれる。エンタメの要素も十分盛り込みながら映画は進む。

背景に描かれる経済の様子。テーマはお堅いが、緊迫感があって観ていて楽しめる。IMFも白馬に乗った騎士ではないという示唆が知らない者には新鮮である。国家の経済危機に乗じて大儲けする者がいる。知恵を働かせることは大事だが、それは果たして善なのか?深く考えさせられる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年11月22日

【ガリーボーイ】My Cinema File 2773

ガリーボーイ.jpeg

原題: Gully Boy
2018年 インド
監督: ゾーヤー・アクタル
出演: 
ランヴィール・シン:ムラド
アーリア・バット:サフィナ
シッダーント・チャトゥルヴェーディー:MCシェール/シュリカント
カルキ・ケクラン:スカイ
ヴィジャイ・ラーズ:ムラドの父/シャキール
ヴィジャイ・ヴァルマー:モイン

<映画.com>
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インドで活躍するアーティスト・Naezyの実話をもとに、スラムで生まれ育った青年がラップとの出会いによって人生を一変させる姿を描いた青春サクセスストーリー。ムンバイの貧しい家庭で生まれ育った青年ムラード。両親は彼を大学へ通わせるため一生懸命に働いているが、そんな親の思いを知る由もなく、ムラードは悪友と車上荒らしに手を染め、医者の父を持つ身分違いの彼女と内緒で付き合っている。自分の人生を半ば諦めて生きてきたムラードだったが、大学構内でフリースタイルラップのパフォーマンスをしていた学生MC Sherとの出会いをきっかけに、ラップの世界にのめり込んでいく。親からの反対や友情、恋など様々な葛藤を抱えながらも、フリースタイルラップの大会で優勝を目指すムラードだったが……。「パドマーワト 女神の誕生」などボリウッドで注目を集めるランビール・シンが主演を務め、「チャンスをつかめ!」のゾーヤー・アクタルがメガホンをとった。作家・クリエイターのいとうせいこうが日本語字幕を監修。
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外国映画としては、ハリウッド映画がダントツに多いが、次に多いのが韓国映画。そしてその次に来るのがインド映画である。インド映画と言えば「歌と踊り」。インド映画とはミュージカルと見紛うほどであるが、最近は「普通」の映画も増えている。この映画は、ミュージカルではないが、実話をベースにした「音楽映画」である。

主人公は、大学卒業を1年後に控えたムラド。両親とともにムンバイの貧民街で暮らしている。父アフターブは母ラズィアに対して高圧的であり、あろうことか妻に無断で若い女性を新しい妻として家に迎え、夫婦関係が悪化している。ムラドには付き合っている女性サフィナがいるが、サフィアは医者の娘であり、家格の違いから2人は付き合っていることを親には内緒にしている。また、サフィナは医学生でもあり、2人の未来にも何となく差がある。

ある日、ムラドの父が怪我をし、父はムラドに怪我が治るまで父の代わりに働けと要求する。父は金持ちの家の運転手として働いているが、休めば他の者に仕事を取られてしまう。その家の運転手はかなりいい条件であり、その仕事を失いたくないと考えたのである。ムラドは大学を休んで運転手の仕事をするが、そこでは露骨に彼我の貧富の差を感じてしまう。

そんなムラドはラップが好きで、密かに日々感じる諸々を歌詞として書き溜めている。いつものようにサフィナと一緒に大学に行ったムラドは、みんなの前で歌うラッパーのMCシェールと出会う。その歌が心に響いたムラドは、改めてMCシェールに会いに行き、自ら書き溜めた歌詞を提供する。ところがMCシェールは自分で歌えとムラドに告げる。そして初めてそこでムラドはラップを披露する。

こうしてムラドはMCシェールたちとともにラッパーとして活動するようになる。現代ではYouTubeに動画を投稿することですぐに世の中に認知されることになる。動画は評判となり、ムラドはラッパーとして活動することに夢中になっていく。動画投稿を通してバークリー音楽大学の学生スカイと知り合ったムラドとシェールは、スカイとコラボすることにする。そして名前も「ガリーボーイ」として本格的に活動していく。

個人的にラップを聞いても好きにはなれず、何がいいのかよくわからない。お互いに悪口合戦をするのだが、それのどこがいいのやら・・・そのあたりは今一主人公ムラドに感情移入しにくい部分はある。だが、ムラドのラッパー活動を知った父は、息子の活動に反対する。この親子の対立には考えさせられるところがある。

父は音楽活動などに現を抜かすのではなく、貧乏人は貧乏人らしく現実を見て生きろと怒るが、若者はそんな言葉に納得などしない。父も息子のためを思えばこそ叱るのだが、それが親子関係にヒビを入れる。どうせ底辺にいるのなら、何でもやってみればいいと思うから心ではムラドの活動を支持するが、父の気持ちもわからなくない。形は違えど、こういう親子の対立は世界中であるのではないかと思ってしまう。

一昔前なら、ムラドに成功の道などほとんどなかったと思う。されど現代ではインターネットによって無名の人間が一躍有名になることも可能である。やがてムラドに、世界的に活動する人気ラッパー・ナズのムンバイ公演にラッパーとして出演できる権利をかけたコンテストが開催されるというニュースが飛び込んでくる。叔父の会社で働き始めたムラドは、コンテストに参加するための休暇を認めてくれなかったことから無断欠勤し、クビになる。父から身の丈に合った人生を生きるように諭されるが、ムラドはあくまでも自分の夢にかける。

実際のガリーボーイの活動は見たこともないが、インドで最も有名なラッパーとなっているらしい。1人の若者が夢を追う姿は人に勇気を与えてくれる。自分は父親の世代であるが、息子がもしもミュージシャンになると言い出したら頭を抱えるとは思うが、頭ごなしに叱ったりするのではなく、よくよく話を聞いてみようと思う。夢があってもなくても、若者であれば観ておきたい映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年11月21日

【シャイロックの子供たち】My Cinema File 2772

シャイロックの子供たち.jpeg

2023年 日本
監督: 本木克英
原作: 池井戸潤
出演: 
阿部サダヲ:西木雅博
上戸彩:北川愛理
玉森裕太:田端洋司
柳葉敏郎:九条馨
杉本哲太:古川一夫
佐藤隆太:滝野真
渡辺いっけい:鹿島昇
忍成修吾:遠藤拓治
近藤公園:高島勲
木南晴夏:半田麻紀
酒井若菜:滝野奈緒子
西村直人:松岡建造
中井千聖:所ヒカル
森口瑤子:黒田亜希子
前川泰之:岡崎法正
安井順平:堂島俊介
徳井優:枝幸秀夫
斎藤汰鷹:滝野翔
柄本明:沢崎肇
橋爪功:石本浩一
佐々木蔵之介:黒田道春

<映画.com>
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テレビドラマ化もされた池井戸潤の同名ベストセラー小説を、阿部サダヲ主演、池井戸原作の「空飛ぶタイヤ」を手がけた本木克英監督のメガホンで映画化。小説版、ドラマ版にはない独自のキャラクターが登場し、映画版オリジナルストーリーが展開する。
東京第一銀行・長原支店で現金紛失事件が発生した。ベテランお客様係の西木雅博は、同じ支店に勤務する北川愛理、田端洋司とともに、事件の裏側を探っていく。西木たちは事件に隠されたある事実にたどりつくが、それはメガバンクを揺るがす不祥事の始まりにすぎなかった。
西木役を阿部、北川役を上戸彩、田端役を玉森裕太がそれぞれ演じるほか、柳葉敏郎、杉本哲太、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介らが顔をそろえる。
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東京第一銀行・検査部の次長黒田は、シェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』の観劇を終えた後、自身の過去を振り返る。それはかつて勤務していた支店で現金を抜き取っては、それを競馬につぎ込んでいたもの。バレれば大事である。そして銀行には定期的に抜き打ち検査があり、隠し通すのは難しい。そしてまさにその検査の直前、競馬で大勝ちした黒田は抜いた金を戻して事なきをえたのであるが、落とした競馬場の帯封を検査部の人間に拾われる。その場は何事もなく終わり、黒田は難を逃れる。そしてこれが後の伏線になる・・・

冒頭で『ヴェニスの商人』の観劇シーンがあり、タイトルの『シャイロック』とは、『ヴェニスの商人』で強欲な金貸しとして描かれるユダヤ人の事だとわかる。「金貸し」にかけた池井戸潤お得意の銀行を舞台にした物語がこの映画の内容である。そしてその舞台となる銀行は、東京第一銀行。『花咲舞が黙ってない』(読書日記916)でも主人公の勤務先であったし、『オレたちバブル入行組』(読書日記668)など一連の半沢直樹シリーズ等でお馴染みの銀行である(もっとも後に合併して東京中央銀行になっている)。

その東京第一銀行の長原支店でこの物語はスタートする。主人公は営業課の課長代理西木。その日、開店後、居酒屋で知り合った老人・沢崎が窓口に訪ねてくる。不動産の相続に関する相談の約束をしていたためであるが、沢崎が所有する不動産は、事故物件をはじめとするワケあり物件ばかり。その中には20億円で建てたものの、設計士による耐震偽装のせいで3分の1以下の価値になってしまった貸しビルもある。資産価値の低い物件ばかりで、西木も同情するばかり。

一方、その長原支店のお客様一課では別支店からの転勤後、成績を上げている滝野が、とある客から連絡を受ける。それは以前勤務していた赤坂支店の顧客・石本。後任に不満があるとのことであるが、既に転勤して担当を離れた滝野にとっては迷惑な話。それでも断り切れずに滝野は石本に会いに行く。そこは住宅メーカー会社「江島エステート」の事務所。聞けば石本は江島エステートとともに住宅販売の大規模なプロジェクトを共同で進めていたが、江島が夜逃げをしてしまい、プロジェクトが宙に浮いてしまっていたのである。

江島エステートを手に入れた石本は、単独で住宅販売プロジェクトを続けたいと語る。そしてそれに必要な資金として10億円を融資してほしいと滝野に頼む。石本が江島になりすまし印鑑証明書や宅地開発計画など融資に必要な資料は周到に用意してある。かつての取引先とはいうものの、話はうさん臭い。しかし、滝野は石本に何やら弱みを握られているようで、すぐには断れず、1人悩みを抱える。家に帰れば妻と長男が待っており、妻には新たな妊娠を告げられる。幸せな家庭に滝野は内心の苦悩を隠す。

折から業績が伸び悩む長原支店では副支店長古川より激が飛ぶ。成績の悪い行員は激しく罵倒され、支店内は暗い雰囲気に覆われる。目標を達成するには何か大口の案件が必要。重苦しい空気の中、滝野は石本に頼まれた江島エステートへの10億円融資の案件を報告する。渡りに船とばかりに、支店長の九条自ら直接石本に会いに行き、本店の審査部とも掛け合い、その甲斐あって稟議は承認される。

長原支店はこれによって業績目標を達成し、滝野自身も個人表彰を受ける。ところが、融資から3ヶ月で石本から利払いが行えないとの連絡が入る。新規先への融資で3か月も経たないうちに利払いができないというのは、重大事案。利払い額は100万円。石本からは立て替えてくれと頼まれるが、銀行員としてはそれは禁断の行為。上司に報告もできず、滝野は精神的にも追い詰められる。そんなある日、滝野は偶然営業課内に置いてあった900万円の現金を目にし、他の行員たちがわずかに目を離した隙に100万円を抜き取ってしまう・・・

元銀行員である池井戸潤得意の銀行物語。描かれるドラマは、元銀行員らしいリアルなもの。業績に対するプレッシャー。無能な上司たちが闇雲に怒鳴り散らす。程度の差はあれ、似たようなシーンはどこにでもある。銀行はその日のうちに勘定をきっちりあわせるから、滝野が抜き取った100万円の現金紛失はたちまち発覚する。その瞬間から支店内で大捜索が行われる。机の下はもちろん、その日の顧客との現金のやり取りがすべて精査され、最後には行員たちのロッカーも調べることになる。こうした状況もかつて銀行で体験したシーンである。

底抜けに明るいキャラの西木がやがて滝野の苦境を知り、事件の解決に乗り出すのであるが、冒頭で銀行の金に手を付けた黒田が検査部次長として登場し、石本の企みもやがてその全貌が明らかになる。現金紛失事件では、正直に本店に報告して処罰を受けるか(これが正しいやり方)、支店内で内々に処理するか(発覚すれば処罰もありうる)であるが、長原支店では支店長の提案で内々に処理する。すなわち、支店長、副支店長以下幹部で自腹を切って補填するのであるが、これも実際にあり得るものである。

物語は、多少の都合よさを含み、西木の部下の愛理も西木とともに事件解決に動いたりして、エンターテイメント色を濃くして進んでいく。事件の背後関係もなかなか面白く、原作は読んでいないが、原作の面白さがにじみ出ているがごとしである。実際に自分だったらどうするだろうと考えながら観るのも面白い。阿部サダヲのいつもの演技も観ていて楽しい。半沢直樹ばりの「やられたら倍返し」という展開も心地良い。

改めて、「観てよし、読んで良し」の池井戸潤作品だと実感させられる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年11月18日

【ウエスト・サイド・ストーリー】My Cinema File 2771

ウエストサイド・ストーリー.jpeg

原題: West Side Story
2021年 アメリカ
監督: スティーブン・スピルバーグ
出演: 
アンセル・エルゴート:トニー
レイチェル・セグラー:マリア
デヴィッド・アルヴァレス:ベルナルド
アリアナ・デボーズ:アニータ
リタ・モレノ:バレンティーナ
マイク・ファイスト:リフ
ジョシュ・アンドレス:チノ
コリー・ストール:シュランク警部補
ブライアン・ダーシー・ジェームズ:クラプキ巡査

<映画.com>
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スティーブン・スピルバーグ監督が、1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」を再び映画化。1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく。『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートがトニー、オーディションで約3万人の中から選ばれた新星レイチェル・ゼグラーがマリアを演じ、61年版でアニタ役を演じたリタ・モレノも出演。『リンカーン』のトニー・クシュナーが脚本、現代アメリカのダンス界を牽引するジャスティン・ペックが振付を担当。2022年・第94回アカデミー賞では作品、監督賞ほか計7部門にノミネートされ、アニータ役を演じたアリアナ・デボースが助演女優賞を受賞した。
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「ウエスト・サイド物語」のリメイク映画。名作のリメイクとなると、プレッシャーは大きいと思うが、スティーブン・スピルバーグがそれを手掛けるとなると、一段と興味をそそられる。

場所はニューヨークのウエスト・サイド。再開発の対象となっているこの地域では、2つの不良グループが対立している。リフ率いるポーランド系アメリカ人のジェット団と、ベルナルド率いるプエルトリコ系アメリカ人のシャークであり、日々小競り合いを繰り返している。リフは元ジェット団のリーダーで兄貴分のトニーに何かと頼っている。何とかジェット団に戻って欲しいと考えているが、トニーは服役後であり、今は足を洗ってドクの店でまじめに働いているため、リフの頼みは聞き流す。

一方、シャーク団のベルナルドには妹マリアがいる。マリアには許嫁のチノがいるが、マリアはチノに心惹かれず、チノの一方通行になっている。そんな折、ダンスパーティーが開催される事になる。ジェット団とシャーク団の若者双方ともこのダンスパーティーに集う事になっている。リフはこの場でシャーク団に決闘を申し込む腹積りであり、トニーを強引に誘う。マリアはマリアで純粋にダンスパーティーを楽しみに会場にやってくる。そんな2人が運命的に出会う。

妹を案じるベルナルドは、マリアとトニーの接近に激怒し、マリアを家に帰す。アメリカとは言え、この時代まだまだ封建的家長制が生きている。そしてその勢いで、ジェット団とシャーク団の決闘が決まる。そんな動きとは別に、トニーとマリアは互いに気になる存在となる。しかし、ジェット団とシャーク団との対立が2人の行く末に暗雲をもたらす。ジェット団とシャーク団は、決闘の打ち合わせをするため、深夜にドクの店で落ち合う。一方、トニーは人目を忍んでマリアに会いに行く・・・

元はブロードウェイのミュージカルだというが、ストーリーは極めてシンプル。対立する2つの組織とそれぞれの組織の関係者が恋に落ちてしまう。それは組織的には許されざることであるが、恋する2人には組織の対立は迷惑でしかない。現代の「ロミオとジュリエット」と言われる通り、構図はまさに「ロミオとジュリエット」そのものである。恋の始まりは誰にとってもウキウキとするもの。明るい人生が目の前に広がる。しかし、2人の前にジェット団とシャーク団との対立が暗雲をもたらす。

基本はミュージカルなので、歌と踊りが随所で披露される。ジェット団、シャーク団それぞれのメンバーが見事な調和で歌い踊る様はこの映画の見どころの1つだろう。そして、トニーとマリアの恋の場面でも、トニーの歌う『マリア』は良く知られた曲でもある。トニーがマリアの部屋の外の階段を上って会いに行くシーンは、まさに本家『ロミオとジュリエット』のワンシーンのようでもある。それぞれの思いが交錯する中、決闘の時間が刻一刻と迫っていく。

1961年版の『ウエスト・サイド物語』の印象は鮮烈で、リメイク版との違いはあまりよくわからない。プエルトリコ系とポーランド系の対立だったかなと唯一思った程度。ただ、リメイク版となると、何が違うというのがないと、「ただ役者を変えだけ」という印象が強くなる。名画とされる前作とどう違うのか。残念ながらスティーブン・スピルバーグの名をもってしても、そのあたりの好印象は持てなかった。

とは言っても、つまらないという事ではない。元ネタは名作の質を備えており、歌も踊りも楽しめるもの。観なければ良かったという事はない。ただ、本家と肩を並べても超えることはないという事だろうか。これはこれで、十分堪能できる映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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