
原題: A Few Good Men
1992年 アメリカ
監督: ロブ・ライナー
出演:
トム・クルーズ:ダニエル・キャフィ
ジャック・ニコルソン:ネイサン・R・ジェセップ
デミ・ムーア:ジョアン・ギャロウェイ
ケヴィン・ポラック:サム・ワインバーグ
キーファー・サザーランド:ジョナサン・ケンドリック
ケヴィン・ベーコン:ジャック・ロス
<映画.com>
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キューバ米海軍基地で起った不審な殺人事件の真相を探る若き弁護士の姿を中心に、軍隊内の組織悪を暴く過程での、登場人物たちの人間的成長を描くドラマ。監督は「ミザリー」のロブ・ライナー。映画の主要部分を成す法廷場面は、カリフォルニアのカルバー・スタジオに巨大セットを組んで撮影された。製作はライナーと、『JAWS・ジョーズ』のデイヴィッド・ブラウン、「スタンド・バイ・ミー」のアンドリュー・シェインマン。エグゼクティブ・プロデューサーはウィリアム・S・ギルモアとレイチェル・フェファー。ブロードウェイでロングラン・ヒットとなったアーロン・ソーキンの舞台劇を基に、彼自身が脚色。撮影は「JFK」のロバート・リチャードソン、音楽は「シティ・スリッカーズ」のマーク・シェイマンが担当。トム・クルーズ、ジャック・ニコルソン、デミ・ムーアなど豪華なスターが競演している。
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この映画が公開されたのは、もう30年も前になる。当時売り出し中だったトム・クルーズ主演であり、さらに個人的にファンであったデミ・ムーアとの共演という事で前のめりで観た記憶がある。そして深い余韻とともに記憶に残っている作品である。ふと、もう一度観てみたくなり、2023年最後の作品として再鑑賞に至る。
物語はキューバにあるグァンタナモ米軍基地で就寝中のサンティアゴ1等兵にドーソン上等兵とダウニー1等兵とが襲い掛かる。手足を縛り上げて暴行を加えたところ、サンティアゴ1等兵は1時間後に死亡するという事件が起きる。ワシントン法務監査本部の内務課に勤務する法務官のジョアン・ギャロウェイ少佐は、上司にこの事件の弁護をさせて欲しいと申し出る。しかし、上司はジョーの希望を受け入れず、海軍法務総監部の法務官ダニエル・キャフィ中尉にオーナー弁護士を依頼することを決定する。
実はこの事件は、「コードR(レッド)」と基地内で呼ばれる規則違反やミスをした兵士に対する制裁措置が取られた可能性があり、上層部は事件を早期解決させる必要があるとの判断から、新米だが司法取引に長け、9か月で44件の示談を成功させた法務官のキャフィに白羽の矢を立てたのである。さらにサム中尉を補佐として任命する。命令となれば、不服であっても従わなければならない。ジョアンはさっそくキャフィに会いに行く。
ところが、キャフィは2人の弁護よりも野球の試合が大事で練習に余念がない。示談で手早く済ませてしまおうと考えるキャフィと、法廷で2人の無実を証明するべきだと考えるジョーとはことごとく対立する。ドーソンらは、暴行したことは認めるが殺してはいないと主張していたが、軍医の診断は口に押し込んだ布に毒が染み込ませてあったと殺人を匂わせる。ドーソンたちはあくまでも海兵隊の規律を守るために、上司のケンドリック中尉の命令(コードR)に従っただけであると訴えている。
実は被害者のサンティアゴは訓練について行けず、転属を望んで各所に手紙で訴えていた。その中で、基地外への違法発砲の証言を匂わせており、これを知った基地の最高責任者であるジョセップ大佐は、厳しい指導を命じていた。すなわち、これが「コードR」である。部下のマーキンソン中佐はこの決定に反対し、サンティアゴを転属させるべきだと主張するが、ジェセップは国家安全保障会議のメンバーでもある実力者であり、その決定には誰も歯向かえなかった。
キャフィは、ジョアンとサムを伴い、キューバのグァンタナモ基地に行き、ジョセップたちから事情を聞く。ジェセップは、サンティアゴの転属を許可し、朝一番の便でキューバを離れる予定だったと主張する。それを覆す材料はどこにもなく、キャフィは早々に示談にすべきとの考えに従って処理しようとする。しかし、ジョアンはこれを良しとせず、キャフィの考えに反対し、法廷で戦うことを主張する。
キャフィは有能であるが、実に軽い男。トム・クルーズの演じる男にはそういう男が多い。そして有能であり、それゆえに裁判をしても勝てないと早々に判断し、被告の2人にとってもっとも罪が軽くなる方法を考え、検察側の検事であるロス大尉としばしば処分の落としどころを話し合う。有利な状況をかき集め、罪は話し合うたびに軽くなっていく。一方、真面目なジョアンはキャフィのお手軽な解決策を良しとしない。あくまで無罪での法廷闘争を主張し、キャフィを突き上げていく。この2人の対立は実に面白い。
最後は被告2名の意志が尊重される。2人はあくまでも上司の命令に従って制裁を加えたものであり、死亡したのは予想外の事故だと考える。キャフィの主張する減刑では有罪であることを認めることになり、たとえわずかな懲役で出所できたとしても海軍を不名誉除隊しなければならず、そんなことは断じて選びたくないと考える。結局、キャフィはジョアンの熱意とこの2人の意志とにより、渋々法廷闘争の方針に切り替える。
このやり取りも実に面白い。キャフィは単に面倒だからお手軽に司法取引にしようとしているのではなく、状況証拠から「勝てない」と判断している。裁判をして意志を通すのもいいが、結果として有罪となり、10年あるいは20年の懲役になるよりいいだろうと考える。そしてそれはある意味正論でもある。実際、ジェセップ大佐は、その力でもって徹底して証拠隠滅を図っており、勝てる見込みは極めて少ない。こうした状況下で、軍事裁判が開始される。
ストーリーはラストの裁判に向けて進んでいく。あの手この手で被告に有利な材料を集めるキャフィたち弁護士グループ。状況は二転三転する。最後までスリリングな展開が続く。そしてラストでいよいよラスボス、ジェセップ大佐とキャフィが対峙する。このジェセップ大佐を演じるのが、ジャック・ニコルソン。自信過大で傲慢な言動は憎々しいほど。しかし、そこには最前線であるグァンタナモ基地を預かっているという自負がある。その姿は間違いなくこの映画の成功要因である。
実際のところはよくわからないが、ジェセップのような大物を裁判に呼び出し、そこで下手にその名誉を傷つければ、逆にキャフィが軍事法定で罪を問われるとされる。それでも戦うことを選んだキャフィに胸が熱くなる。トム・クルーズもデミ・ムーアも実にいい。そして感動的なラスト。間違いなく、トム・クルーズの初期の代表作と言えるだろう。こういう映画は、何度観ても心に残るものである。1年の最後を締めくくるにふさわしい一作である・・・
評価:★★★★☆