
2022年 日本
監督: 早川千絵
出演:
倍賞千恵子:角谷ミチ
磯村勇斗:岡部ヒロム
たかお鷹:岡部幸夫
河合優実:成宮瑶子
ステファニー・アリアン:マリア
大方斐紗子:牧稲子
串田和美:藤丸釜足
<シネマトゥデイ>
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オムニバス『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN 75』を、監督の早川千絵が新たに構成したヒューマンドラマ。75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障・支援する制度「プラン75」の施行された社会が、その制度に振り回される。職を失い、「プラン75」の申請を考え始める主人公を倍賞千恵子が演じ、『ビリーバーズ』などの磯村勇斗、『燃えよ剣』などのたかお鷹、『由宇子の天秤』などの河合優実らが出演する。
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2025年。増えすぎた老人が国の財政を圧迫し、皺寄せがきていると恨む若者によって老人施設が襲撃される事件が相次いで起こる。世論を受け、政府は75歳以上の老人が死を選択することができる制度、通称〈プラン75〉を国会で可決する。こうした背景の下、物語は始まる。主人公は、ホテルの清掃員として働く角谷ミチ。夫と死別し、今は一人慎ましく暮らしている。
清掃員として働く同年代の女性らと健康診断に行くミチ。背後のテレビ画面には〈プラン75〉のCM広告が流れている。「未来を守りたいから」と画面の中で語る高齢の女性。「生まれる時は選べないが死ぬ時は自分で選べるから安心だ、何の迷いもない」と広告内で女性がインタビューに答える。どうやら政府は積極的に〈プラン75〉を後押ししているようである。すると1人の高齢の男性がおもむろに立ち上がるとテレビの電源を切る。その気持ちはよくわかる。
健康診断を終え、カラオケに向かったミチたちだが、仲間の1人がリゾートホテルのパンフレットを取り出してみんなに見せる。〈プラン75〉を申請するともらえる10万円で最期に贅沢をしたいという。孫のためになら腹を括れると話るが、夫と死別し子供もいないミチと稲子の心境は複雑である。その日、稲子の家に泊まったミチに稲子は娘からはほとんど連絡もなく、孫の顔も見たことがないと語る。同じ年代で同じところで働いていてもその境遇はバラバラである。
そんなある日、稲子とペアでホテルの清掃をしていたミチだが、突然稲子が倒れ、病院に運ばれる。その後、ミチはともに働いていた高齢女性2人とともに解雇される。高齢者を働かせてかわいそうという投書を受けてのものらしい。ありがた迷惑というやつであろう。突然職を失ったミチは、家の立ち退きを迫られる。不動産屋を何軒も回っても高齢のミチに部屋は見つからない。ようやく見つかるも、「家賃2年分先払い」との条件が付され、ミチはあきらめる。
職探しも難しく、なんとか見つけたのは夜の交通整備の仕事。寒空の中で立ちっ放しの仕事は高齢のミチにはこたえる。退院したはずの稲子に電話をかけるも、応答がない。心配になったミチは稲子の家を訪ねるが、稲子は机に突っ伏したまま既に亡くなっていた。物語はミチと並行して故郷フィリピンに夫と娘を残し、日本で介護士として働くマリアと〈プラン75〉の申請窓口で働くヒロムの姿をも併せて追っていく。
マリアには、生まれつき心臓が悪い娘がいて、手術のためのお金を必要としている。そんなマリアは日本で働くフィリピン人の仲間に相談し、給料のいい仕事として〈プラン75〉の関連施設の仕事を紹介される。そしてヒロムが働く窓口に長年音信不通であった叔父が〈プラン75〉の申請にやってくる。住む場所もできる仕事もなくなったミチは、とうとう〈プラン75〉を申請する。申請をしたミチのところにコールセンターの瑤子から連絡が来る・・・
タイトルの「プラン75」とは、要は老人の安楽死。もはや養えなくなった高齢者に安楽死してもらおうという制度である。現代の姥捨山と言える。申請すると、10万円の支度金がもらえ、コールセンターの担当者がついて相談に乗ってくれる。心変わりした場合は、やめることもできることになっている。ミチと外国人のマリアと公務員のヒロム、そしてコールセンターの瑤子。4人の姿を通じて制度が浮かび上がる。
この映画はストーリーを追うというよりも、架空の<プラン75>という制度を通じて、今の日本が抱えている問題を考えさせてくれる映画であろう。こういう制度が本当にできたらどうなるのだろうかと。おそらく、高齢者に対する風当たりは強くなりそうである。高齢者に対して、「なぜ、申請しないのか」という視線が強くなりそうに思う。それはなかなか運転免許証を返上しない高齢者に対するものと同じかもしれない。
不治の病におかされ、病院の天井を見ながら最後を待つだけだったりするなら、安楽死はむしろ歓迎であるが、この映画の登場人物たちのように孤独の中で暮らしていけなくなって選ぶのは、いかがなものかと思う。ましてやこの映画の中のように政府がCMまで流して斡旋するのは恐ろしい気がする。さらに映画の中では、65への適用年齢引き下げも検討される。この映画が現実化したらと考えると、ちょっと恐ろしく思う。
倍賞千恵子もいつの間にかいいおばあちゃんになっている。表情で語る演技がなんとも言えない味わいである。ラストで夕日を見つめるミチ。その姿が深い余韻を残す映画である・・・
評価:★★☆☆☆