2024年02月29日

【PLAN 75】My Cinema File 2822

PLAN 75.jpeg


2022年 日本
監督: 早川千絵
出演: 
倍賞千恵子:角谷ミチ
磯村勇斗:岡部ヒロム
たかお鷹:岡部幸夫
河合優実:成宮瑶子
ステファニー・アリアン:マリア
大方斐紗子:牧稲子
串田和美:藤丸釜足

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
オムニバス『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN 75』を、監督の早川千絵が新たに構成したヒューマンドラマ。75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障・支援する制度「プラン75」の施行された社会が、その制度に振り回される。職を失い、「プラン75」の申請を考え始める主人公を倍賞千恵子が演じ、『ビリーバーズ』などの磯村勇斗、『燃えよ剣』などのたかお鷹、『由宇子の天秤』などの河合優実らが出演する。
********************************************************************************************************

2025年。増えすぎた老人が国の財政を圧迫し、皺寄せがきていると恨む若者によって老人施設が襲撃される事件が相次いで起こる。世論を受け、政府は75歳以上の老人が死を選択することができる制度、通称〈プラン75〉を国会で可決する。こうした背景の下、物語は始まる。主人公は、ホテルの清掃員として働く角谷ミチ。夫と死別し、今は一人慎ましく暮らしている。

清掃員として働く同年代の女性らと健康診断に行くミチ。背後のテレビ画面には〈プラン75〉のCM広告が流れている。「未来を守りたいから」と画面の中で語る高齢の女性。「生まれる時は選べないが死ぬ時は自分で選べるから安心だ、何の迷いもない」と広告内で女性がインタビューに答える。どうやら政府は積極的に〈プラン75〉を後押ししているようである。すると1人の高齢の男性がおもむろに立ち上がるとテレビの電源を切る。その気持ちはよくわかる。

健康診断を終え、カラオケに向かったミチたちだが、仲間の1人がリゾートホテルのパンフレットを取り出してみんなに見せる。〈プラン75〉を申請するともらえる10万円で最期に贅沢をしたいという。孫のためになら腹を括れると話るが、夫と死別し子供もいないミチと稲子の心境は複雑である。その日、稲子の家に泊まったミチに稲子は娘からはほとんど連絡もなく、孫の顔も見たことがないと語る。同じ年代で同じところで働いていてもその境遇はバラバラである。

そんなある日、稲子とペアでホテルの清掃をしていたミチだが、突然稲子が倒れ、病院に運ばれる。その後、ミチはともに働いていた高齢女性2人とともに解雇される。高齢者を働かせてかわいそうという投書を受けてのものらしい。ありがた迷惑というやつであろう。突然職を失ったミチは、家の立ち退きを迫られる。不動産屋を何軒も回っても高齢のミチに部屋は見つからない。ようやく見つかるも、「家賃2年分先払い」との条件が付され、ミチはあきらめる。

職探しも難しく、なんとか見つけたのは夜の交通整備の仕事。寒空の中で立ちっ放しの仕事は高齢のミチにはこたえる。退院したはずの稲子に電話をかけるも、応答がない。心配になったミチは稲子の家を訪ねるが、稲子は机に突っ伏したまま既に亡くなっていた。物語はミチと並行して故郷フィリピンに夫と娘を残し、日本で介護士として働くマリアと〈プラン75〉の申請窓口で働くヒロムの姿をも併せて追っていく。

マリアには、生まれつき心臓が悪い娘がいて、手術のためのお金を必要としている。そんなマリアは日本で働くフィリピン人の仲間に相談し、給料のいい仕事として〈プラン75〉の関連施設の仕事を紹介される。そしてヒロムが働く窓口に長年音信不通であった叔父が〈プラン75〉の申請にやってくる。住む場所もできる仕事もなくなったミチは、とうとう〈プラン75〉を申請する。申請をしたミチのところにコールセンターの瑤子から連絡が来る・・・

タイトルの「プラン75」とは、要は老人の安楽死。もはや養えなくなった高齢者に安楽死してもらおうという制度である。現代の姥捨山と言える。申請すると、10万円の支度金がもらえ、コールセンターの担当者がついて相談に乗ってくれる。心変わりした場合は、やめることもできることになっている。ミチと外国人のマリアと公務員のヒロム、そしてコールセンターの瑤子。4人の姿を通じて制度が浮かび上がる。

この映画はストーリーを追うというよりも、架空の<プラン75>という制度を通じて、今の日本が抱えている問題を考えさせてくれる映画であろう。こういう制度が本当にできたらどうなるのだろうかと。おそらく、高齢者に対する風当たりは強くなりそうである。高齢者に対して、「なぜ、申請しないのか」という視線が強くなりそうに思う。それはなかなか運転免許証を返上しない高齢者に対するものと同じかもしれない。

不治の病におかされ、病院の天井を見ながら最後を待つだけだったりするなら、安楽死はむしろ歓迎であるが、この映画の登場人物たちのように孤独の中で暮らしていけなくなって選ぶのは、いかがなものかと思う。ましてやこの映画の中のように政府がCMまで流して斡旋するのは恐ろしい気がする。さらに映画の中では、65への適用年齢引き下げも検討される。この映画が現実化したらと考えると、ちょっと恐ろしく思う。

倍賞千恵子もいつの間にかいいおばあちゃんになっている。表情で語る演技がなんとも言えない味わいである。ラストで夕日を見つめるミチ。その姿が深い余韻を残す映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月25日

【ぼくの歌が聴こえたら】My Cinema File 2821

ぼくの歌が聴こえたら.jpeg

原題: The Box
2021年 韓国
監督: ヤン・ジョンウン
出演: 
チャンヨル:チフン
チョ・ダルファン:ミンス
キム・ジヒョン:ナナ

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
韓国のダンスボーカルグループ「EXO」のチャンヨルが映画初主演でミュージシャンを演じ、劇中でさまざまなヒットソングを披露するヒューマンドラマ。音楽の才能がありながらトラウマにより人前では歌うことができない主人公が、運に見放された音楽プロデューサーと出会う。監督は平昌オリンピック開会式の演出を担当した演出家のヤン・ジョンウン。チャンヨルふんするミュージシャンの才能にほれ込む音楽プロデューサーを、ドラマ「スパイ 愛を守るもの」などのチョ・ダルファンが演じる。
********************************************************************************************************

音楽プロデューサーのミンスは、新人発掘に定評があるものの、このところツキに見放され、借金取りに追われる日々。母親にもあきれられている。やり切れぬ思いを酒に逃げる。人生は辛いことの方が多かったりもする。そんなある夜、絶望感に打ちひしがれたミンスは、駐車場の受付でギター片手に歌うチフンの歌声に心を打たれる。ミンスはチフンに声をかけ、自分と組まないかとスカウトするが、チフンは渋る。実はチフンは幼少期に受けた心の傷が原因で、人前で歌うことができないのである。音楽界に進むには致命的な欠陥である。

しかしミンスには長年培ってきた経験から心に響くものがある。さらに現在の苦境から抜け出すにはチフンを育てるのは目の前に飛び出てきたチャンスでもある。なんとしてもチフンのトラウマを克服する必要があるが、その方法として最初は段ボールに入って歌うという方法を提案する。とりあえず10か所を回るライブツアーを計画し、チフンと契約を交わす。ライブツアーと言っても会場を借りるお金はない。各地で人の集まる場所を利用してのストリートコンサートである。

段ボール箱に入って歌うというのは何とも奇妙。観客の視線を意識しなくて済むという利点があるが、観客からすれば段ボールの中から聞こえる歌に耳を澄ませるというのもおかしなものである。映画の原題は「The Box」。文字通り段ボール箱に入って歌うチフンの姿はまさに「箱」。段ボールと言っても人が入れるくらいのものなので、大きな冷蔵庫用の段ボール箱をもらってきてその中に入って歌うのである。事情を知らない人は何事だと思うだろう。

人が集まるところに簡単なステージを作る。場所によってはお巡りさんの目を気にしないといけない。そうして歌う歌は聞き覚えのあるヒット曲。個人的にはマライア・キャリーの曲など知っている曲が出てきたのはありがたい。ご本人は本職のミュージシャンらしいが、疎い身にはわからない。ミンスはかつての知り合いナナを訪ねる。ナナは盲目のシンガー。チンスと一緒にステージに立つが、「この素晴らしき世界」はなかなかであった。ルイ・アームストロングとはまた違った雰囲気で聞き惚れた。

チンスがどこで過去のトラウマを克服し、ステージで熱唱するのだろうかと思っていたが、それは最後に訪れる。何となくそこに感動ムードを出そうとした意図は伝わってきたのだが、残念ながら肩透かし感が溢れる。それは何となく主演のチャンヨルの歌唱力に負うているように思える。AmazonPrimeでの四つ星評価に惹かれて観たのであるが、それをそのまま信じてはいけないという教訓を得られた事になる。飲み過ぎた翌朝、車の中で二日酔いにポカリスエットを飲むシーンが出てきた。韓国でもやはりそういう飲み方をするんだとわかったのは興味深いところである。

シンガーの映画は数多あるが、ちょっとインパクトの薄かった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月24日

【ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー】My Cinema File 2820

ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー.jpeg

原題: Black Panther: Wakanda Forever
2022年 アメリカ
監督: ライアン・クーグラー
出演: 
レティーシャ・ライト:シュリ
ルビタ・ニョンゴ:ナキア
ダナイ・グリラ:オコエ
ウィンストン・デューク:エムバク
ドミニク・ソーン:リリ・ウィリアムズ/アイアンハート
フローレンス・カサンバ:アヨ
ミカエラ・コール:アネカ
テノッチ・ウエルタ・メヒア:ネイモア
メイベル・カデナ:ナモーラ
マーティン・フリーマン:エヴェレット・K・ロス
アンジェラ・バセット:ラモンダ
マイケル・B・ジョーダン:エリック・“キルモンガー”・スティーヴンス

<映画.com>
********************************************************************************************************
マーベル・シネマティック・ユニバースの一作として世界的大ヒットを記録し、コミックヒーロー映画として史上初めてアカデミー作品賞を含む7部門にノミネート、3部門で受賞を果たした『ブラックパンサー』の続編。主人公ティ・チャラ/ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月に死去したが、代役を立てずに続編を製作した。
国王ティ・チャラが病により命を落とし、悲しみに包まれるワカンダ。先代の王ティ・チャカの妻であり、ティ・チャラの母でもあるラモンダが玉座に着き、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとしていた。そんな大きな岐路に立たされたワカンダに、新たな敵となる海の帝国タロカンの脅威が迫っていた。
監督・脚本は前作から引き続きライアン・クーグラーが担当。ティ・チャラの妹シュリ役のレティーシャ・ライト、母ラモンダを演じるアンジェラ・バセットをはじめ、ルピタ・ニョンゴ、マーティン・フリーマン、ダナイ・グリラ、ウィンストン・デューク、フローレンス・カスンバら前作キャストが再登場。海の帝国タロカンを率いるネイモア役で、「フォーエバー・パージ」などで知られるテノッチ・ウエルタが参加した。第95回アカデミー賞では計5部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞。アンジェラ・バセットが助演女優賞にノミネートされ、MCU作品で初めて俳優部門にノミネートを果たした。
********************************************************************************************************

主役が死亡してしまうという事態を受け、通常なら別の役者で再スタートとなりそうなものである。スパイダーマンは死亡したわけでもないのに、3人も主役が交代している。しかしながらこの映画はそうしない。なんと前回主役を務めたチャドウィック・ボーズマンの死亡を受け、それをそのままストーリーに反映させる。冒頭、ワカンダの王ティ・チャラが重体に陥り、妹シュリの懸命なる治療のかいもなく、王はこの世を去ってしまうのである。王の座は母ラモンダが引き継ぐ。それから1年。国連ではワカンダがヴィブラニウムを独占していることを取り上げ、その解放を迫る。しかしラモンダ女王は断固これを拒否する。ヴィブラニウムが軍事利用される懸念があるためである。

一方、CIAは独自にヴィブラニウムの探査機を作り、ワカンダ以外にヴィブラニウムが存在していることを突き止める。しかし発掘のため海底に向かった小隊は突如現れた青い肌の謎の集団に襲われ、皆殺しにされてしまう。青い肌の集団は、海の帝国タロカンの軍隊。ワカンダと同じくヴィブラニウムを保有し、誰からも知られることなく独自の文化を築いている。タロカン帝国の王ネイモアは、CIAの動きに懸念を抱き、ヴィブラニウムの探査機を作った科学者を抹殺しようと考える。その探査機を作ったのは、なんとまだMITの学生のリリ・ウィリアムズであった。

シュリはオコエを引き連れリリの下へ行く。そしてリリを保護するためにワカンダへ連れて帰ることにする。ところが、その途中でタロカンの軍隊が出現。シュリとリリは捕まってしまう。タロカンに連れて行かれたシュリは、ワカンダの王女として丁重に迎え入れられる。王のネイモアからタロカンの海底都市を案内されたシュリは、タロカンの過去についても教えられる。タロカンの民は海中に眠るヴィブラニウムにより、肌は青く深海でも生きることができる身体となっている。そしてネイモアは同じヴィブラニウムを所持する国同士で手を組もうとシュリに迫る。

一方、ラモンダはシュリを救出するためにティ・チャラの元恋人でもあったナキアに協力を仰ぐ。ナキアはシュリが身につけているヴィブラニウムの反応から居場所を突き止め、シュリとリリを無事救出することに成功する。これに怒ったネイモアはワカンダへ攻め入る。圧倒的な科学力を誇るワカンダであるが、同じ科学力を持つタロカンはワカンダの防御網を難なく突破する。そしてリリを護ろうとした女王ラモンダは、タロカンの攻撃の中、命を落としてしまう。復讐を誓ったシュリは、自らブラックパンサーになることを決意し、その儀式を行う・・・

マーベルの一連のヒーローものであるが、本作はブラックパンサーの単独作品。ところが、その主役の死亡で物語がスタートする。正義のワカンダと対立するのは、同等かそれ以上の力を持つタロカンという国。主役の不在でワカンダは窮地に追い込まれるが、前ブラックパンサーの妹シュリが新たなブラックパンサーとなってワカンダの先頭に立つ。さらに学生ながら優秀な頭脳でヴィブラニウムの探索装置を作ったリリがシュリと共同で作成したスーツであるアイアンハートを身にまとい、ネイモア王を向こうに回して戦う。その姿はアンアイマンそのものである。

観ていて飽きない展開。マーベルのシリーズの特徴として敵が異常に強いということ。本作でも敵の首領ネイモアの強さはブラックパンサーを上回っているとも言える。最後は勝利するとしても、アイアンハートの協力があってこそであるだろうし、今や絶対ヒーローが悪を倒すというよりも正義が連係プレーで勝利するということが重視されるようになってきているように思う。これで終わりということはないだろう。とすると、今後はブラックパンサーは女性になって続いていくということであろう。それはそれとしてこれからも楽しんでいきたいと思う一作である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | スーパーヒーロー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月23日

【バレリーナ】My Cinema File 2819

バレリーナ.jpeg

原題: Ballerina
2023年 韓国
監督: イ・チュンヒョン
出演: 
チョン・ジョンソ:オクジュ
キム・ジフン:チェプロ
パク・ユリム:チェ・ミニ
シン・セフィ:女子高生

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
『恋愛の抜けたロマンス』などのチョン・ジョンソらが出演したアクション。自らの手で守ることができず親友を亡くした元警護員の女性が、親友の無念を晴らそうと復讐に燃える。メガホンを取るのは『ザ・コール』でもチョン・ジョンソと組んだイ・チュンヒョン。『逆謀〜反乱の時代〜』などのキム・ジフン、『ドライブ・マイ・カー』などのパク・ユリムらが共演する。
********************************************************************************************************

コンビニに数人のチンピラが入っていき、店員を脅して金を取ろうとする。そこへ何食わぬ顔をして商品を差し出して支払いをしようとする女。その度胸の良さにあきれつつ、チンピラたちは女に絡む。すると次の瞬間、鮮やかにチンピラたちを叩きのめす女。掴みとしては内容に期待の持てる出だしである。女の名はオクジュ。元は警護の仕事をして格闘術を身につけたという想定のようである。元特殊部隊とかが多いので、「警護」というのはインパクトに欠けるようにも思える。

そんなオクジュに夜、バレリーナをしている親友ミニから会いたいと連絡が入る。差し入れを持ってミニの部屋を訪れるオクジュ。しかし、ミニは風呂場で変わり果てた姿となっている。ミニはオクジュにスニーカーのプレゼントとともに「復讐して」というメッセージを残している。相手はチョイという名の男。オクジュはさっそくチョイについて調べ、後をつけて家に忍び込む。チョイは、がちがちに体を鍛えまくったチンピラ。SMの趣味があり、女たちを次々とレイプしては動画を撮影して、それをネタに脅していることがわかる。

オクジュは、ドレスアップするとチョイの出入りの店に行き、ナンパされるように振る舞う。イケメンでランボルギーニを乗り回すチョイにだまされる女は多いのだろう。連れていかれたのは怪し気なホテル。部屋に連れ込んだ女には薬を入れたワインを飲ませてレイプするのがチョイの手口。しかし、警戒していたオクジュは眠ったフリをしており、事に及ぼうとしたチョイに襲い掛かる。しかし、チョイも鍛えているだけのことはある。素手でナイフを受け止めると、猛然と反撃に移る。そこは悲しいかな、女の力ゆえに押されるオクジュ。

さらにホテルは組織の専用だったようで、騒ぎを聞きつけて仲間が駆けつけてくる。体力差と数的不利の中、オクジュは身をかわすのが精一杯。そこが特殊部隊と警護の違いかもしれない。チェーンソーを持った男が廊下に立ちふさがる。絶体絶命下、オクジュを手助けしたのは見知らぬ女。隙をついて女とともにランボルギーニを奪い、オクジュは何とかその場を逃げだす。頬にナイフを突き立てられ、切り裂かれたチョイは、愛車と自慢のイケメンの顔を傷つけられ、さらに組織のボスから叱責され、逃げた2人を捕まえてくるよう命令される。

こうして物語は、互いに復讐の相手となったオクジュとチョイの戦いというストーリーになっていく。オクジュを助けたのは、オクジュたちに脅され、奴隷にされたまだ高校生の女であった。ともに復讐の準備を進める2人。チョイは、知り合いのミョンシクに声をかけ、伝手のある刑事からオクジュの情報を手に入れてもらう。オクジュは、前にいた警護会社の人間を通じて、武器商人の老夫婦から武器を手に入れる。老夫婦の扱う武器は古くなった銃も多いが、火炎放射器もあったりする。

復讐という目的がある以上、オクジュには逃げるという選択肢はない。ミニからプレゼントされたスニーカーを履き、チョイがいる場所に向かう。そこは組織が支配する麻薬工場でもあり、チョイだけではなく、組織の仲間たちがいる。ラストはオクジュ対組織の壮絶バトルとなる。タイトルの「バレリーナ」とはオクジュの親友ミニのこと。チョイも携帯にはミニの番号をバレリーナという名で登録している。バレエという華やかなイメージとはほど遠いバトル映画。

警護職の女がたった一人でヤクザの組織を相手にするというに無理もあるような気もするが、細かいことを気にせず、アクションを楽しむにはいい映画と言える。韓国映画らしいバイオレンス度はそれほど高くなかったので、気の弱い人でも安心して楽しめるだろう。それにしても火炎放射器はなかなかであった。ランボルギーニの残骸に、まさか本当におしゃかにしたのではないよなと気になってしまった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月22日

【密航者】My Cinema File 2818

密航者.jpeg

原題: Stowaway
2021年 アメリカ
監督: ジョー・ペナ
出演: 
トニ・コレット:バーネット
アナ・ケンドリック:ゾーイ
ダニエル・デイ・キム:デビット
シャミア・アンダーソン:マイケル

<映画.com>
********************************************************************************************************
「ピッチ・パーフェクト」シリーズのアナ・ケンドリック、「ヘレディタリー 継承」のトニ・コレット、テレビシリーズ「LOST」のダニエル・デイ・キムが共演したSFサスペンス。ミッションを遂行するため、宇宙船で火星へ向けて旅立った3人の宇宙飛行士。やがて船長が、二酸化炭素除去装置の中に意識を失った状態で閉じ込められていた男性を発見する。男性は離陸準備の作業を請け負っていたエンジニアで、作業中の事故で気絶したまま放置されてしまったようだ。引き返すこともできず、男性はそのまま同行することになるが、装置の故障により目的地までの酸素が足りないことが判明。彼らは思いがけず、究極の選択を迫られることになる。マッツ・ミケルセン主演作「残された者 北の極地」の監督を務めたブラジル出身のジョー・ペナがメガホンをとった。Netflixで2021年4月22日から配信。
********************************************************************************************************

ロケットの船内、発射へのカウントダウンが進む中で物語は始まる。クルーは船長のバーネット、医師のゾーイ、研究者のデビット。無事、大気圏を離脱して船内には安堵感が漂う。3人の乗った宇宙船が向かうのは火星。火星へのミッションの任期は2年間。最初の行程として宇宙ステーション「MTS-42」とのドッキングを終え、いよいよ火星への軌道に乗る。船内にはどういう仕組みか重力発生装置があり、普通に船内を歩くことができる。そしてバーネットが宇宙船の点検をしていると、二酸化炭素除去装置(CDRA)の中に負傷し気を失った男を発見する。

予想もしなかった事態が生じ、バーネットは本部であるハイペリオン社に報告すると、その男は打ち上げサポート職員のマイケルであることが分かる。ゾーイとデビットの治療によりマイケルはなんとか命を繋ぎ止める。しかし、彼を助け出す際にCDRAが一部破損してしまい、船内の二酸化炭素濃度が上昇してしまう。やがて意識を取り戻したマイケルは、自分が宇宙船内にいて火星に向けて宇宙にいることを知って動揺する。マイケルは、発射の点検途中で気を失ったと話し、地球に戻りたいと懇願する。しかし、宇宙船には地球に戻るための燃料は存在せず、2年の任期の間、マイケルは宇宙ステーションに留まらざるをえないことになる。

映画のタイトルは原題も「密航者」となっているが、「密航」という言葉のイメージとこの映画の「密航」の経緯には違和感がある。さらにマイケルには、自身が面倒を見なくてはならない妹がいて、2年間も宇宙へ行って家を留守にすることはできない。そんな事情も「密航」というイメージとは異なるものがある。幸いにしてマイケルの妹は政府が面倒を見るという事で落着。マイケルも安心する。クルーにはそれぞれ船内でのミッションがあるが、予定外のマイケルにはない。そこでデビットが自身の研究のデータ入力を手伝わせることにする。

しかし、やがてCDRAがクルーの生命維持に深刻な影響が出るほどに破損してしまっていることが判明する。修理なしでは酸素量が持たないと判断したバーネットは、宇宙空間における植物の生育を研究するデビットに、彼の持ち込んだ植物の中でより酸素を生成する藻の繁殖を指示する。それは藻以外の植物を廃棄することを意味し、それはデビッドにとって人生を賭けた研究を放棄することを意味する。しかし、それにもかかわらず、藻の繁殖は期待していたほどの効果が出るほどのものにはならず、船内の酸素は3人分しか確保出来ないことが判明する。

こうした時、人はどう行動するだろうかと常々思う。まさに「トロッコ問題」である。計画本部はマイケルを宇宙空間に放出する案を提案する。全員が酸欠で死亡するか、1人が犠牲となって3人が生き残るかとなると、選択肢は1つしかないように思える。船長のバーネットは強く反発するが、かと言って代案も浮かばない。やむなく、ゾーイとデビットにも伝えるが、医師でもあるゾーイは激しく抵抗し、デッドラインである20日後まで本人への通告を差し控えて全員が助かる代案を考えるべきと主張する。意を汲んだバーネットは期限を10日とした上で了承する。

ここに至って映画はSFを離れて哲学的な人間ドラマの様相を呈してくる。「密航」とは言え、マイケルのそれはアクシデントであり、しかもマイケル本人は善人である。合理的に思える計画本部の提案を理解しつつも、人としてその決断は難しい。しかも、人選的にも犠牲になるべきはマイケルしかいない。そんな船長の苦悩とゾーイの抵抗を見て、デビットはギリギリまで真実を隠そうとするバーネットとゾーイの方針に従わず、マイケルに真実を話した上で安楽死することのできる薬を渡す。これもまた理解できる行動。デビットを非難することは適切ではない。そして今度はその苦悩がマイケルに移る。

マイケルは善人であり、犠牲になるなら自分しかいないとわかっている。しかし、地球に残した妹のことを考えると薬を打てない。死に値する人間などいないわけであり、それゆえに苦悩は深まる。そして追い打ちをかけるようにさらなる事態が発生する。宇宙という逃げ場のない世界での深い人間ドラマ。こういう時にその人間の真価が現れてくる。映画の続きは観る者の想像に任される。ともすれば可愛い役柄で終わりがちに思われるアナ・ケンドリックが、信念の行動を見せてくれる。観終えたあとに、静かな余韻をもたらしてくれる映画である・・・


評価:★★★☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | SF/近未来ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする