2024年05月31日

【バッド ランド ハンターズ】My Cinema File 2861

バッド ランド ハンターズ.jpeg
原題: Badland Hunters
2024年 韓国
監督: ホ・ミョンヘン
出演: 
マ・ドンソク:ナムサン
イ・ヒジュン:ヤン・ギス
イ・ジュニョン:チェ・ジワン
ノ・ジョンウィ:ハン・スナ
アン・ジヘ:イ・ウノ
チャン・ヨンナム:キム教師

<映画.com>
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『犯罪都市』「新感染 ファイナル・エクスプレス」のマ・ドンソクが主演を務め、文明崩壊後の韓国を舞台に描いたアクションスリラー。
未曾有の大地震と干ばつによって荒廃し、無法地帯と化したソウル。屈強なハンターの男ナムサンは、かつて自分が命を救った少女スナの存在を気にかけていた。ある日、スナが祖母と暮らす小屋に「先生」と呼ばれる女性が訪ねてくる。先生によると、彼女が所属する団体は10代の子どもたちとその家族を安全な場所で保護しているという。移住を決めたスナは先生に連れられ、街で唯一崩壊を免れたマンションにたどり着くが、そこは狂気の医師ヤン・ギスが支配する恐ろしい場所だった。スナの身に危険が迫っていることを知ったナムサンは、彼女を救うべく立ち上がる。
医師ヤン・ギス役に『KCIA 南山の部長たち』のイ・ヒジュン。『犯罪都市』シリーズなどの武術監督を務めたホ・ミョンヘンがメガホンをとった。Netflixで2024年1月26日から配信。
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韓国発の近未来SF映画。冒頭、何やら異様に混乱した研究室。狂気の様相のヤン・ギスは、新たに開発した薬を娘のソヨンに使用しようとする。そこへ警察が乗り込んでくる。短いやり取りから、ヤン・ギスは瀕死の娘を蘇生させるために100人以上の子供を実験台にして殺していたことがわかる。完全に包囲されて逮捕されるまさにその時、巨大地震があたりを襲う。窓の外で崩落する高層ビル。そしてヤン・ギスの研究室のあるビルもまもなく崩れ落ちる。

地震後、韓国は荒廃する。『マッドマックス2』(My Cinema File 1583)『ザ・ウォーカー』(My Cinema File 687)など、戦争や災害で荒廃した世界を舞台にした映画というのは今や一定のパターンであるが、この映画もその一つ。天候も変わり、雨が降らなくなっていて、人々は濁った地下水をろ過して何とか水を確保している。

そんな中、18歳のスナは祖母と暮らしていて、定期的に街へ買い出しに行く。そこで人々は物々交換で欲しいものを手に入れている。ナムサンとジワンは、ワニを捕らえ、その肉を市場で売っている。スナもナムサンからワニの肉をもらうべく列に並ぶ。そこへサイレンを鳴らしながら男たちの集団がやってくる。警察と名乗るもどう見ても愚連隊である。そしてそこにいた人々を選別して車に乗せようとする。さらにスナを見つけると、これも連れて行こうとする。スナに好意を持つジワンが止めに入るが、袋叩きにあってしまう。

見かねたナムサンが止めに入る。そしてあっという間に全員を叩きのめすと、リーダーを問い詰める。ボスの名を問い詰めると、それはかつて自身が叩きのめしたタイガーという男だと知る。さらにリーダーが所持していた透明な水を見つけると、水のありかを問う。「マンションだ」というのがその答え。そして男たちは逃げていく。家に戻ったスナであるが、そこへスーツを着た者たちがやって来る。

その中のリーダーらしき女性キムは、10代の少年少女を助けているとスナに告げる。管理しているマンションに来れば綺麗な水と綺麗な食べ物と部屋があると誘う。親族であれば一緒に来ていいとの事で、スナは祖母と一緒に行くことにする。身なりはきちんとしているが、見るからに怪しげではある。ナムサンもジワンも別れを惜しみつつ、2人の幸せを思い見送る。スナと祖母は、同じような家族らとともに荒野を歩いていく。スナは同じ18歳のシュイエと知り合う。

やがてスナの祖母は歩き疲れてしまう。キムはスナの祖母と別の老人に後で2人の軍曹に送らせると告げて休憩するように勧める。しかし、集団がそこを離れると2人の軍曹は残ったスナの祖母と老人を射殺してしまう。そこへたまたまやって来たナムサンとジワンがこれに怒り軍曹を倒す。ところが、致命傷を与えたにも関わらず、2人の軍曹はひるむことなく襲ってくる。そこにどこからともなくやって来た女性兵士。軍曹の首を切って息の根を止めると、この男たちは首を切断しないと死なないと語る。

ウノは元軍の特殊部隊の兵士。そこでナムサンとジワンに、地震で生き残ったヤン・ギスが不死の薬で、軍人たちを取り込み、倒壊を免れたマンションを根城に一大王国を築き、薬を生産するために少年少女を集めていると語る。どちらにせよ、スナを救い出さないといけない。ナムサンとジワンはウノとともにスナを助け出すべく、マンションへと向かう・・・。

近未来の荒廃した韓国。そこには法治国家による治安維持はない。それでも、『マッドマックス』シリーズのような暴力が支配する世界というほどではないが、それでも元軍人らが、支配するマンションがクライマックスの舞台となる。主演は『犯罪都市』(My Cinema File 2757)で迫力あるアクションを披露したマ・ドンソク。ガタイがいいからとにかく迫力は満点である。

マ・ドンソクによるアクションがこの映画の間違いなく売りであろう。殴る蹴るはもちろんだが、今回は兵士たちと何やらゾンビのように変えられてしまった元兵士たちを相手に、ショットガンをぶっ放して八面六臂の活躍を見せる。ショットガンだから撃たれた方も吹っ飛ぶわけで、その迫力も期待通りである。地味に元特殊部隊の女性兵士ウノも軽やかな格闘アクションを見せてくれる。

正直言って、ストーリー的に面白いというほどではない。あくまでもガタイのいいマ・ドンソクのアクションに尽きる。そういう視点で楽しめる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年05月25日

【オットーという男】My Cinema File 2860

オットーという男.jpeg

原題: A Man Called Otto
2022年 アメリカ
監督: マーク・フォースター
出演: 
トム・ハンクス:オットー
マリアナ・トレビーニョ:マリソル
マヌエル・ガルシア=ルルフォ:トミー
レイチェル・ケラー:ソーニャ
トルーマン・ハンクス:若き日のオットー

<シネマトゥデイ>
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フレドリック・バックマンの小説を原作にしたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』を、『幸せへのまわり道』などのトム・ハンクス主演でリメイク。町で一番の嫌われ者だった男の人生が、向かいに暮らす一家との交流を通じて変化する姿を描く。監督は『プーと大人になった僕』などのマーク・フォースター。ドラマシリーズ「クラブ・デ・クエルボス」などのマリアナ・トレビーニョ、『スイートガール』などのマヌエル・ガルシア=ルルフォのほか、レイチェル・ケラーらが共演する。
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町のホームセンター。きっちり長さを計ったロープを購入しようとする男。長さに応じて値段が変わるが、表示との違いから男は店員にクレームを申し立てる。差額はほんのわずかではあるが、男はきちんとした性格なのか、曖昧さが我慢できない。後ろに並んでいた他の客が耐えきれずに差額を出すと申し出るが、「金額ではない」と男はむべもない。男の名はオットー。どこが間違っているというわけではないが、人には嫌われるタイプである。

早朝5時30分。目覚ましが鳴るまさに直前に目を覚ますと、オットーは近所の「パトロール」を開始する。ゴミの分別、車の乗り入れなど、ルールを守らない住人に説教をする。挨拶されても仏頂面で、常に眉間にシワを寄せている。そして仕事へと向かう。この日は、自身が勤めていた工場を辞める日。同僚たちはその退職を惜しんでささやかなお祝いを用意してくれるが、オットーは大して喜ぶ様子を見せるでもなく職場を去る。

帰宅したオットーは、電気などをすべて解約し身の回りの整理整頓を確認する。きっちりとスーツを着こみ、リビングの天井に買ってきたロープを設置する。ここに至りオットーは首を吊るつもりだとわかる。ロープに首を通し、台にしたイスを蹴る。首が締まって苦しむが、次の瞬間、天井に穴が開きオットーは床に落ちる。どうやら天井の強度が足りなかったようである。そんなオットーの様子など知るよしもなく窓の外から騒々しい声が聞こえてくる。

騒がしい声の主は、向かいの家に越してきたトミーとマリソルの夫妻。夫のトミーは運転の腕はイマイチのようで、縦列駐車に苦労している。見かねたオットーは代わりに車を止めてやる。2人の女の子がいる夫婦はオットーに感謝する。そして、マリソルのお腹の中にはもう1人いる。最愛の妻ソーニャに先立たれたオットーは1人暮らし。トミーとマリソルは、引っ越しの挨拶と銃列駐車のお礼も兼ねて手作り料理を持参する。人懐っこく陽気なマリソルは、オットーとは真逆の人間である。

それからというもの、マリソルは事あるごとにオットーを頼ってくる。ある思いを秘めたオットーには迷惑でしかないが、差し入れてくれる手作り料理の味は抜群。首吊りを諦めたオットーは、ガレージに止めてある車の中にゴムホースを引き込みエンジンをかける。脳裏をよぎるのは、最愛の妻ソーニャと過ごした日々。初めて出会ったのは駅のホーム。本を落としたソーニャを追って、目的地とは反対方向に向かう電車に飛び乗る。恋愛初期の幸福感がそこには漂う。

しかし、今度もガレージのシャッターを激しく叩く音で、オットーは我にかえる。出てみればまたしてもマリソルで、夫のトミーが梯子から落ちて病院へ搬送されたので、車で送ってくれと言う。マリソルのペースに断り切れず、気づけば子どもたちも乗せて病院へと向かう。病院では、子守りを任されたオットー。しかしそこへやってきたピエロに腹を立てたオットーは、ピエロと揉めて警察沙汰になってしまう。

マリソルのおかげで、すっかりペースを乱されたオットー。さらに近所に住み着いた猫の世話まで押し付けられる。そして意を決したオットーは、駅のホームの端に立ち、飛び込む覚悟を決める。しかし、その時近くにいた老人が、意識を失って線路に落ちてしまう。電車が近づく中、オットーは線路に下り立ち老人を救う。その様子はネットに投稿され話題を呼ぶ。ソーニャの墓の前に座り、亡き妻に語りかけるオットー。何か見えない力によって守られているかのようである。

毎朝、家に投げ込まれるチラシに腹を立てていたオットーだが、そのチラシを配っていたのは、妻ソーニャの教え子だとわかる。トランスジェンダーとして悩みを抱えていたマルコムは、ソーニャによって救われたと話す。ソーニャが生きていた時は付き合いがあった近所の老夫妻は、家を出ていった息子によって介護施設に入れられようとしている。マリソルのお腹は日々大きくなり、いざという時のためにマリソルは運転を教えてくれとオットーに頼む。人と関わることを避けてきたオットーだが、いつしか人々の輪の中にいる・・・

主人公のオットーは、傍から見れば付き合いたくもない偏屈な老人であるが、そんな老人も人並みの人生を送ってきている。現在のオットーの日常とあわせて振り返られる愛妻との幸福に満ちた日々。今は偏屈になってしまったが、そんなオットーの心をマリソルが溶かしていく。マリソルは元気な子を産むが、オットーはマリソルにベビーベッドをプレゼントする。それはかつて自分がソーニャとの間に産まれてくるはずだった子どものために買ったもの。オットーが偏屈になったのにも理由があったのである。

いつしか変わりゆくオットー。その姿は観る者の心を温かくする。若い頃からの愛車を自慢しあっていた近所の老夫婦とのエピソードも爽快感がある。偏屈な老人が他人との関わりでいつしか愛される人に変わっていく。考えてみれば、それはケチな老人が3人の精霊によって変わる『クリスマス・キャロル』(My Cinema File 821)と同じパターンである。誰かのために何かをする姿は、人の心を温かくするものである。主演は名優トム・ハンクス。心に残る主演映画はいくつもあるが、この映画もまたそんな代表作の一つになると思う。

心を温めたい時には、ピッタリの一作である・・・


評価:★★★★☆








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2024年05月24日

【パイラン】My Cinema File 2859

ラブレター パイラン.jpeg

原題: Failan
2001年 韓国
監督: ソン・ヘソン
原作: 浅田次郎
出演: 
チェ・ミンシク:イ・カンジェ
セシリア・チャン:康白蘭
ソン・ビョンホ:ヨンシク
コン・ヒョンジン:ギョンス
キム・ジヨン:クリーニング屋のおばさん
チ・デハン:子分
ミン・ギョンジン:カンソン所長
シン・チョルジン:調査課職員
キム・ヘゴン:カンヌン(江陵)マネージャー

<映画.com>
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浅田次郎原作の短編小説を、舞台を韓国に置き換えて映画化。偽装結婚しつつ互いを知らない男女の切ない運命を描く。出演は「シュリ」のチェ・ミンシクと、「星願 あなたにもういちど」のセシリア・チャン。
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主人公のカンジェはパチスロをしながらうたた寝をする。席を探していた若者に咎められるが、逆に脅して殴る始末。さらに店主に睨みを聞かせてコインを巻き上げる。典型的なチンピラである。そして自分の店であったレンタルビデオ店に戻ってくるが、そこには既に別の者が経営者の椅子に座っている。聞けばボスのヨンシクの指示だと言う。カンジェはビデオ屋の手入れがあって10日ほど臭い飯を食っていたが、その間に状況は変わったようである。そしてボスのヨンシクに見つかり、出所の報告がないと殴られる。

カンジェは後輩のギョンスの部屋に転がり込む。ヨンシクの指示で取り立てに行くが、世話になった近所のおばさんに対しては甘さが出てしまう。それを若手がバカにする。実はカンジェはボスのヨンシクとは同期らしいが、互いの立場が分かれたのは、カンジェが優しいからだと言う。しかし、組織は他の組織から圧力を受けており、ボスのヨンシクは始終苛立っている。そんなある日、事件が起こる。

ヨンシクが自分の店で飲んでいると、敵対する組織の男が客として来ているのを見つける。激高したヨンシクは、店を出た男を追いかけて行き、殴り殺してしまう。冷静になって死体を処理するが、翌日死体が発見されてニュースとなる。警察の捜査網が縮まる中、今自分が刑務所に行くことになると縄張りが危なくなる。そこでヨンシクはカンジェに身代わり出頭を頼む。カンジェは迷った末、いつか船を持ちたいという夢がある事から、船一艘分の報酬でこれを引き受ける。そしてカンジェの下へ警察が訪ねてくる。

一瞬慌てるカンジェだが、要件は別の事。カンジェの「妻」が死亡したとの知らせであった。独身のカンジェは戸惑うも、1年ほど前に金のために偽装結婚した事を思い出す。相手は中国から出てきたパイラン。母親を亡くし、韓国に住む叔母を頼ってきたものの、叔母は既にアメリカに行ってしまい、連絡も取れない。途方に暮れたが、外国人のままでは韓国に住むこともできない。そこで業者に借金をして偽装結婚をしたようである。

物語は、知らせを受けて「夫」としてやむなく遺体を引き取りに向かうカンジェと、韓国に来てからのパイランを交互に追っていく。身分を手に入れたものの、働く場が必要。最初に連れて行かれたのは夜の商売。ところが変な咳をしたので断られてしまう。やむなく連れて行かれたのは郊外のクリーニング店。店を切り盛りするのは女主人。何とか置いてもらえることになり、住み込みで働き始める。

同期に先を越されたカンジェは、ヤクザとしても中途半端。刑務所へ行く前に一仕事のつもりでパイランの遺体を引き取りに行く。しかし、その前にパイランからの手紙を渡される。それは覚えたばかりの韓国語を駆使してたどたどしく書かれたもの。そこには「結婚してくれてありがとう」と感謝の言葉が綴られている。その言葉がすさんだカンジェの心に少しずつ変化を起こしていく。電車の中でパイランの写真を眺めるカンジェの表情が何とも言えない。

パイランは既に死んでしまっている。そこがどうにもならないほど心を揺さぶってくる。異国の地でたった1人。仕事は熱心で、それゆえに勤務先のクリーニング店のおばさんからは気に入られる。それでも友達もだれもいない中、部屋に飾るのは偽装結婚の書類に添付されていたカンジェの写真。それを毎日見ているうちに、あったこともない「夫」にパイランの心は惹かれていく。そこでたどたどしい韓国語でカンジェに手紙を書く。

観ているうちに、パイランに何か手を差し伸べたいと思うようになるが、既に死んでしまっているのでもうどうにもならない。そんなもどかしさが物語に加わる。カンジェも次第にパイランの手紙に影響されていく。金の事しか考えない手配師を蹴り飛ばす心境はよくわかる。予想外のストーリーに涙腺も緩む。観終わって浅田次郎原作と知って納得。『ぽっぽや』に収録されている短編だとの事で、だとすれば読んでいるはずだが忘れてしまっている。

ラストの結末は、カンジェからすれば仕方ないのかもしれない。それでももうカンジェはタダのチンピラではなくなっていたはず。無情観漂うラストだが、少しだけ救いがあったようにも思う。もう一度原作を読んでみたくなった一作である・・・


評価:★★★☆☆








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2024年05月19日

【愛と哀しみの果て】My Cinema File 2588

愛と哀しみの果て.jpeg

原題: Out of Africa
1985年 アメリカ
監督: シドニー・ポラック
出演: 
メリル・ストリープ:カレン
ロバート・レッドフォード:デニス
クラウス・マリア・ブランダウアー:ブロア
マイケル・キッチン:コール
マリック・ボーウェンズ:ファラ

<MOVIE WALKER PRESS解説>
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アフリカの大地に魅せられてコーヒー園を経営する1人の女性カレン・ディネーセンの恋と仕事の波乱の半生を描く。製作・監督は「トッツィー」のシドニー・ポラック、エグゼクティヴ・プロデューサーはキム・ジョーゲンセン。アイザック・ディネーセンの回想録(「アフリカの日々」晶文社刊)、ジュディス・サーマンの伝記、そしてエロール・トルゼビンスキーの原作を基にカート・リュデュークが脚色。撮影はデイヴィッド・ワトキン、音楽はジョン・バリー、編集はフレドリック・スタインカンプ、ウィリアム・スタインカンプ、ペンブローク・J・ヘリング、シェルドン・カーン、衣裳はミレナ・カノネロが担当。出演はメリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード、クラウス・マリア・ブランダウアーなど。日本版字幕は戸田奈津子。アガファ・カラー、ビスタサイズ。1986年度アカデミー賞、作品・監督・脚色・撮影・美術・録音・作曲の7部門を獲得。1985年作品。
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メリル・ストリープとロバート・レッドフォードの共演という事は、それだけで観るべき価値があると思い、鑑賞したのはもう40年も前なのかと改めて思う。アフリカを舞台にしたドラマという記憶はあるが、詳細なストーリーについては忘れてしまっていたこともあり、再鑑賞にいたるもの。

時に1913年。デンマークに住み、莫大な財産を背景に上流階級の世界に飽き飽きしたカレンは、恋人ハンスの弟で財産を使い果たして困窮していた友人ブロアを便宜上、結婚した事にしてケニアに行こうと持ちかける。当時はまだ女が単身でそういう行動はできなかったのであろう。ブロアに断る理由はなく、2人はケニアで農園を経営するためナイロビに行くことにする。先に行ったブロアを追って列車に乗るカレン。途中、駅でもないところで列車が止まる。見れば男が象牙を積み込んでいる。男の名はデニス・ハットン。デニスは友人のコールに象牙を渡してくれと告げて去って行く。

ナイロビに到着したカレンは、先に乗り込んでいたブロアを探して英国人クラブを訪れる。ところがそこは女性禁制のクラブ。当時は普通だったのだろう。そしてブロアを見つけたカレンは、1時間後に結婚式だと告げられる。慌ただしく結婚式を終えた2人は住居に向かうが、そこでカレンは大勢の黒人使用人たちに迎えられる。ところが、ブロアは酪農をする計画を勝手にコーヒー栽培に変えており、それを知ったカレンは怒るものの、どうしようもない。

お金はすべてカレンが出すことになっており、カレンとしては許されざる行為。新婚早々の大ゲンカになり、翌日、ブロアは狩りに出かけてしまう。雨が降ったら帰ると伝言を残していくが、いつ雨が降るかはお天道様次第。取り残されたカレンは、収穫までに4年かかるというコーヒーの栽培に取り組むことにする。そんなある日、草原に出かけたカレンはライオンに遭遇したところでデニスと再会する。

帰らぬ夫の事は気にもせず、カレンはコールとデニスを食事に招待する。3人で過ごす楽しいひと時。カレンには創作の才があり、デニスに物語の出だしを考えさせると、それを引き取ってその場で見事な物語を語り聞かせる。この映画は実在の女流作家カレン・ディネーセンの実話であり、それはカレンの才能を示すシーンである。感心したデニスは美しいペンをお礼にカレンにプレゼントする。

やがて第一次世界大戦が始まる。遠く離れたケニアにもその影響は及び、ブロアも320キロ離れた地への偵察隊に加わる。そして後日300人分の缶詰を届けてほしいというブロアからの伝言が届く。聞いたカレンは、自ら缶詰を届けに向かう。カレンという女性は、当時の常識を超えて実に行動的であったようである。道中、偶然出会ったデニスにコンパスをもらって旅を続けたカレンは、再びライオンに遭遇し襲われそうになるが、自ら銃を取ってこれを射殺する。倒着したカレンを男たちは驚きの目で迎える。

こうしてアフリカでの日々が続く。互いの打算で結婚したブロアとカレンは、本物の夫婦へと向かうかに見られたが、ブロアがカレンに梅毒をうつしておかしくなる。デンマークで治療を受けて何とか治癒したカレンだが、その影響で子供が産めない身体になる。子供たちの教育に目覚めたカレンは、学校を作り黒人の子供たちの教育を始める。ブロアから気持ちが離れていく一方で、デニスへ気持ちが傾いていくカレン。2人は一緒にサファリへ出かけるなどして、仲を深めていく・・・

物語はカレンとデニスの恋物語へと移っていく。カレンは不本意ながらはじめたコーヒー農園の経営を軌道に乗せ、なかなかの才覚があったようである。アフリカの地での物語。大自然の中でのドラマには雄大感がある。この時代、女性の身で男勝りの活動をするカレンは、さぞかし奇異な存在だったのだろうと思う。演じるメリル・ストリープとロバート・レッドフォードが物語を盛り上げる。そして何とも言えない2人の結末。

カレンは帰国して自らの体験をこの映画の元となった本にしたという。アフリカで過ごした日々を振り返って書いたのであろう。観終わってみると、“Out of Africa”という原題が何とも言えない味わいを残す。改めて印象深い映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2024年05月18日

【SISU シス 不死身の男】My Cinema File 2587

シス 不死身の男.jpeg

原題: Sisu
2023年 フィンランド
監督: ヤルマリ・ヘランダー
出演: 
ヨルマ・トンミラ:アタミ・コルビ
アクセル・へニー:ブルーノ・ヘルドロフ
ジャック・ドゥーラン:ウルフ
オンニ・トンミラ:シュルツ
ミモサ・ヴィッラモ:アイノ

<映画.com>
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第2次世界大戦末期のフィンランドを舞台に、不死身の老兵とナチス戦車隊の死闘を描いた痛快バイオレンスアクション。
1944年、ソ連に侵攻されナチスドイツに国土を焼き尽くされたフィンランド。老兵アアタミ・コルピは掘り当てた金塊を隠し持ち、愛犬ウッコとともに凍てつく荒野を旅していた。やがて彼はブルーノ・ヘルドルフ中尉率いるナチスの戦車隊に遭遇し金塊と命を狙われるが、実はアアタミはかつて精鋭部隊の一員として名を馳せた伝説の兵士だった。アタミは使い古したツルハシ1本と不屈の精神を武器に、次々と敵を血祭りにあげていく。
タイトルの「SISU(シス)」とはフィンランドの言葉で、日本語への正確な翻訳は難しいが、すべての希望が失われたときに現れるという、不屈の精神のような意味合いを持つ。「レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース」のヨルマ・トンミラが主人公アアタミ、「オデッセイ」のアクセル・ヘニーがヘルドルフ中尉を演じた。監督・脚本は「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」のヤルマリ・ヘランダー。
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珍しいフィンランド映画。物語の舞台は1944年。ラップランドの荒野から物語は始まる。1人の男が何やら発掘を行っている。その様子からどうやら金を発掘しているようである。周囲からは銃声や爆発音が轟き、戦闘機が飛んでいく。男は退役軍人のアタミ・コルビ。鬼気迫る様子で作業を続け、とうとう金塊を発見する。天然の金塊なのか誰かが埋蔵したものなのかはよくわからない。そしてアタミはその金塊を馬の背に乗せ、愛犬と共に街へ向かう。

道中に行き会ったのは、ナチス親衛隊長ブルーノ・ヘルドロフと部下のウルフが率いる小隊。ナチスは連合軍の猛攻の前に焦土作戦を行いながら撤退する最中であった。通り過ぎようとするアタミをウルフが射殺しようとするが、ブルーノがこれを制してやり過ごす。しかし、後続のドイツ軍兵士がアタミを止める。そして金塊を持っていることに気づくと、アタミを殺してこれを奪おうとする。

するとアタミは相手の油断もあり、絡んできた男をナイフで刺し殺す。そしてあっという間に周りにいた兵士4人を殺害する。決して鮮やかな格闘テクニックではないが、ゴツゴツとした格闘テクニックである。後方の様子がおかしいことに気づいたブルーノ隊長が戻ってくると、そこには兵士たちの死体が転がっている。そして、死んだ兵士の一人が金塊を握りしめていたことから、ブルーノはアタミを追うために来た道を戻ることにする。

ブルーノは戦車に乗っており、アタミを見つけると攻撃を開始する。戦力では勝ち目がなく、アタミは馬に乗って逃げようとするが、すでにあたりはブルーノたちが設置した地雷が埋まっている。そして馬は見事にその地雷を踏んでしまい、アタミは馬もろとも吹き飛ばされる。ドイツ軍が迫る中、アタミは散乱した金塊を拾い集める。命の方が大事だろうと思うのだが、アタミが金塊をかき集め終えると、すでにブルーノの一隊に包囲されてしまう。

圧倒的に有利な状況でブルー ノも油断したところ、なんとアタミは石を投げて地雷を爆破させる。煙で視界が遮られる中、アタミは身を隠す。ドイツ軍は銃を乱射するが、アタミはかろうじてこれを避ける。とても現実的ではないが、「そんなバカな」というシーンはこの映画に満載であり、一々目くじらを立てていたらこの映画を観る事は出来ない。ブルーノは落ちていたアタミの軍時代のタグを見つけて照会し、アタミがロシア軍兵士300人以上を殺した伝説的な兵士だったと知る。

ここからアタミの不死身ぶりが徹底して描かれる。ガソリンで火だるまになるし、捕らえられて縛り首にもなる。戦車を向こうに回し、輸送機に飛びつく。イーサン・ハントばりであるが、アタミは老兵であり、現実的かなどと考えていると、とても観ていられない。1人、また1人とドイツ軍兵士を殺していくアタミ。その不死身ぶりは人間離れしているが、それはそれでいいかもしれない。

ブルーノも軍のためというより金塊を確保して生き残りを図る事に終始している。その運命もまた「いいね!」を押したくなるほどである。フィンランド的にはこういう映画がウケるのだろうかと思ってしまう。タイトルの「SISU(シス)」とはフィンランドの言葉で、すべての希望が失われたときに現れる不屈の精神のような意味合いを持つというが、それを体現する主人公の姿が妙に心地よい映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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