
原題: Last Night in Soho
2021年 イギリス
監督: エドガー・ライト
出演:
トーマシン・マッケンジー:エロイーズ
アニヤ・テイラー=ジョイ:サンディ
マット・スミス:ジャック
ダイアナ・リグ:ミス・コリンズ
シノーブ・カールセン:ジョカスタ
マイケル・アジャオ:ジョン
テレンス・スタンプ:銀髪の男
<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
ロンドンで別々の時代を生きる二人の女性の人生がシンクロするサイコスリラー。現代と1960年代のロンドンで暮らす女性たちが、夢を通して互いに共鳴し合う。監督と脚本を手掛けるのは『ベイビー・ドライバー』などのエドガー・ライト。『オールド』などのトーマシン・マッケンジー、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」などのアニャ・テイラー=ジョイ、ドラマシリーズ「ドクター・フー」などのマット・スミス、『コレクター』などのテレンス・スタンプらが出演する。
********************************************************************************************************
主人公のエロイーズ(エリー)は、母を亡くしてから祖母と二人暮らし。そんなエリーの夢はファッションデザイナーであり、その日、エリーの下にロンドンのデザイナー学校から合格通知が届く。祖母と喜びを分かち合うエリーには、亡き母の姿が見える。どうやらエリーには霊感があるようである。田舎町を出てロンドンに行くエリーは、荷造りをしながらも希望に溢れる。そんな孫を応援しつつも心配する祖母は、どこか寂しそうでもある。
ロンドンに着いてタクシーで学生寮に向かうも、セクハラまがいの運転手の言動に都会の洗礼を浴びる。学生寮のルームメイトのジョカスタは、田舎者のエリーをどこか見下している。勉強よりも遊びに力をいれる友達と馴染むことができないエリーは、掲示板で貸し部屋についての広告を見つける。それはソーホーにある一人暮らしの高齢女性の家の一室で、レトロなその部屋をエリーは気に入り、寮を出てこの部屋で暮らすことに決める。
引越しをして最初の夜、シラ・ブラックのレコードをかけて眠りに落ちたエリーは、不思議な夢を見る。夢の中でとある建物に入り、鏡を見ると、写っているのは自分ではなく、見覚えのないブロンドの美女。彼女はサンディといい、歌手を目指してこの店に売り込みに来たのである。オーナーに会いたいというサンディに対し、バーテンダーは「ジャックと話しをしろ」とアドバイスをする。
エリーはサンディの体験を擬似体験する。ジャックはこの界隈で、スターを目指す女性を束ねている人物で、サンディはジャックと交渉して、自らのデビューを約束させ、次の日に会う約束をする。ジャックがサンディの首筋にキスをするが、夢はそこで終わる。リアルな夢に囚われるエリーは、授業に出席した自分の首筋にキスマークがあることに気づく。
次の夜もサンディの夢を見るエリー。それはジャックと恋愛関係に入っていくサンディの体験。魅惑的なサンディと一体感を得たエリーは、髪をサンディのようにブロンドに染め、夢の中でサンディが身にまとっていたドレスを思い出してデザイン案に取り入れる。その変化の様子に周りも驚く。その夜、エリーはサンディの初舞台の夢を見るが、初舞台は大勢のバックダンサーのうちの1人。ステージ衣装も露出度の多い男性客向けのものであり、楽屋へ戻ったサンディに、ジャックは男の客の相手をしろと強要する・・・
どうやらサンディは、1960年代の実在の人物だったとわかってくる。奇しくもエリーと同じ部屋で暮らしており、霊感の強いエリーがサンディの体験を毎夜擬似体験していく。それは華やかな歌手としてのものではなく、スターになれるという甘言で売春婦として扱われるもの。それを擬似体験することでエリーの心も疲弊していく。夢だからまだしも、現実の生活ではバイト先のバーでエリーは怪しい老人に声をかけられる。老人はなぜかサンディを知っているかのような発言をする。
怪しげな展開を深めていくストーリー。同じ部屋に住んでいた過去の人の体験を擬似体験するという内容は、『双葉荘の友人』(My Cinema File 2752)と似たような展開である。そして過去である以上、サンディはその後どうなって今はどうしているのかという疑問へと繋がる。それが後半へと繋がるのであるが、その意外な展開はこの映画のストーリーの妙である。やがて現実の生活でエリーは亡霊たちに付きまとわれるようになる。そして明らかになる真実。
ホラー映画と言えばホラー映画なのであるが、ホラー映画とも言い切れない。エリーに霊感がなければ1960年代に起こったこの事件は誰にも知られる事なく、終わったのかもしれない。そう考えれば不思議な感じであるが、それをまたうまくブレンドしたストーリーの勝利かもしれない。それにしても穏やかな顔のトーマシン・マッケンジーと狐顔のアニャ・テイラー=ジョイとが実に対照的な印象であった映画である・・・
評価:★★★☆☆