2024年11月26日

【パリタクシー】My Cinema File 2938

パリタクシー.jpg

原題: Une belle course
2022年 フランス
監督: クリスチャン・カリオン
出演: 
リーヌ・ルノー:マドレーヌ
ダニー・ブーン:シャルル
アリス・イザーズ:若き日のマドレーヌ
ジェレミー・ラウールト
グウェンドリーヌ・アモン
ジュリー・デラルム

<シネマトゥデイ>
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『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』などのクリスチャン・カリオンが監督などを手掛けたヒューマンドラマ。タクシー運転手とあるマダムのパリ横断ドライブを描くとともに、彼女の驚きの人生も映し出す。シャンソン歌手のリーヌ・ルノー、『ヒューマニティ通り8番地』などに携わってきたコメディアンのダニー・ブーンらがキャストに名を連ねる。
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主人公はタクシードライバーのシャルル。とある事情を抱え、金に困っている。しかも免停までの点数もあとわずかであり、日々ギリギリの暮らしを送っている。自然にイラつく事になるが、そこへ顧客からの依頼が入りピックアップに向かう。依頼主は92歳のマドレーヌ。一人暮らしの自宅を出て介護施設に送ってくれというのがその依頼。せっかくの依頼であるが、シャルルは無愛想。にもかかわらずマドレーヌはあれこれとシャルルに話かける。

施設に向けて車を走らせるシャルルにマドレーヌは寄り道してくれと頼む。気が進まないシャルルだが、それも料金に反映される事もあって車をヴァンセンヌの街に向かわせる。記憶の中とはずいぶん変わったヴァンセンヌの街を見ながら、マドレーヌは自身の過去について話をし始める。16歳の時にマットというアメリカ人の軍人と恋に落ちたマドレーヌ。パリ解放の興奮の中での恋であろう。

しかし、マットはやがて帰国してしまう。その時マドレーヌは子供を宿していることが分かったが、マットには故国に家族があり、マドレーヌは生まれた息子マチューを一人で育てる事になる。マットにとっては異国での遊びだったのであろう。そんな話を続けるマドレーヌ。不愛想なシャルルに構わず話しかけ、シャルルも少しずつ自身の話を打ち明ける。

マドレーヌの話は続く。母の助けを得て仕事を始めたマドレーヌは、やがてレイという男と付き合い始める。そして結婚する。しかし、幸せは続かない。レイは自分の血をひかないマチューに冷たくあたる。自分の子供が欲しいという気持ちは理解できるが、やがてそれは家庭内暴力を振るうようになる。

子供の身を案じたマドレーヌは、ある日、レイの提案を受け、マチューを母に預けて夫婦2人で食事に行く。そして夫婦2人で甘いひと時を過ごすふりをして密かに酒に睡眠薬を入れて飲ませる。眠り込んだレイのズボンを脱がせると、レイの仕事道具であるバーナーで下半身を焼いてしまう。レイは死ぬには至らないが、男にとっては悪夢である。当然ながらマドレーヌは逮捕され、裁判にかけられる。

2人はマドレーヌが裁判を受けた裁判所を通り過ぎる。マドレーヌは禁固25年の刑が言い渡される。先進国フランスとはいえ、まだ世の中は男性優位の社会。それはマドレーヌの置かれた立場をまったく考慮しないもの。思いがけない話に聞き入っていたシャルルは、うっかり赤信号を見落としてしまう。運悪く警官に止められたシャルル。免停の危機に必死に警官に頼むシャルルだが、警官は甘くない。するとマドレーヌが警官に何やら話をすると、なんと注意だけで見逃してもらえる。年寄りの功徳であろう。

こうしてパリの街を走るタクシーの中で2人の話は続いていく。人にはそれぞれの人生がある。それまでまったく接点のなかった2人が出会い、互いに身の上話に興じていく。マドレーヌの過ごした人生はけっして幸せなものとは言えないが、長い年月を生きてきた悟りのようなものがマドレーヌにはある。息子がいたものの、生涯孤独となってしまったマドレーヌ。この世に神がいるとしたら、神はマドレーヌに残酷な試練を課したことになる。

長い時間をかけてシャルルはマドレーヌを施設に送り届ける。身寄りのないマドレーヌに会いにくると約束して帰るシャルル。料金はまた今度でいいと明るく帰っていく。そして訪れる物語の結末。いつしか涙腺もゆるんでしまう。空いた隙間時間に簡単に観ようと思って観たが、思いもかけぬ感動をもらう。タクシーを舞台にしたフランス映画と言えば、リュック・ベッソンのシリーズ(『タクシー』)をイメージしてしまったが、まったく正反対のものであった。

心温まる映画を観たい時にはお勧めしたい一作である・・・


評価:★★★☆☆








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2024年11月23日

【TAR ター】My Cinema File 2937

TAR ター.jpg

原題: Tar
2022年 アメリカ
監督: トッド・フィールド
出演: 
ケイト・ブランシェット:リディア・ター
ノエミ・メルラン:フランチェスカ・レンティーニ
ニーナ・ホス:シャロン・グッドナウ
ソフィー・カウアー:オルガ・メトキナ
アラン・コーデュナー:セバスチャン・ブリックス
ジュリアン・グローバー:アンドリス・デイヴィス
マーク・ストロング:エリオット・カプラン

<シネマトゥデイ>
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『リトル・チルドレン』などのトッド・フィールドが監督を務め、『エリザベス』シリーズなどのケイト・ブランシェットが女性指揮者を演じるドラマ。有名オーケストラで女性として初の首席指揮者となった主人公が、重圧や陰謀といったさまざまな要因により追い詰められていく。『キングスマン』シリーズのマーク・ストロングや『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』などのジュリアン・グローヴァーなどが共演する。
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主人公は女性指揮者のリディア・ター。いまやベルリン・フィルの首席指揮者として世界の音楽界を牽引する立場にある。そのリディアは現在、ベルリン・フィルでマーラーの交響曲第5番のライブ録音に向け準備に余念がない。有名編集者とのトークショーもこなし、投資銀行家エリオット・カプランとの会食に臨む。彼はリディアが若手女性音楽家育成のため立ち上げたアコーディオン財団を支援している人物である。

忙しい日々を送るリディアはジュリアード音楽院でも学生を指導しているが、ある日指導したマックスというアフリカ系の青年は、貧乏揺すりのクセがあり、リディアを苛立たせる。さらに彼は女性に対し差別的だったといわれるバッハに抵抗があると言うが、リディアはそんな考え方を否定する。その厳しいやり取りに耐えきれなくなった彼は、捨て台詞を吐いてその場から立ち去ってしまう。そして後にこれが火種となる。

ベルリンに戻る日、タクシーの中で秘書のフランチェスカは、リディアとトラブルになっているクリスタからメールが来たことを伝える。切迫したその内容に、フランチェスカは危機感をおぼえるが、リディアは返信せず無視するよう指示する。自宅に戻ったリディアは、薬が見つからず情緒不安定になっているパートナーのシャロンをなだめ、音楽をかけて抱きしめる。どうやらリディアはレズビアンのようである。

シャロンは娘のペトラが学校で移民いじめにあっているのではないかと心配しており、リディアはペトラを学校に送りながらそのことについて聞き出す。そしていじめている子にドイツ語で話しかけ、今度いじめたら容赦しない、誰かに話しても皆大人の私の方を信じるからムダだと脅して去っていく。その後、オーケストラに生じた欠員を補充するオーディションに臨んだリディアは、ここで一番の権力者である自分に見向きもしない若い女性がいることに驚く。そしてそのチェロの実力を知るとその女性オルガを合格させる。

こうして映画はリディアの行動を追っていく。女性ながらも名門オーケストラで首席指揮者となった主人公は実に活動的。目前にマーラーの交響曲第5番のライブ録音という大きな目標を控えている。しかし、実はレズビアンであり、何やらパートナーとのトラブルを抱えているという不安要因がある。何となく実際の人物を描いた実話映画という雰囲気があるが、どうもそうではない。となると、何を描きたかったのだろうかとふと疑問に思う。

スポーツ選手が主人公であれば、試合での活躍だし、政治家ならドロドロした政界の裏側とか、反対勢力に負けずに大衆のために何かをするとか、そうしたストーリー展開があると思うが、指揮者はと思うとコンサートでの名演奏かと思ってみたりする。しかしながらそんな想像とは異なり、主人公リディアには次々と困難が襲いかかる。それはやむを得ないものでもあり、リディア自身が招いたと言える事でもある。

よくわからなかったのは、自由奔放なオルガに振り回されつつもある日オルガを自宅に送った際、忘れ物に気づいたリディアが後を追う。迷子になって何かの気配に怯えたリディアは派手に転倒して顔面を怪我する。驚く周囲にリディアは「暴漢に襲われた」と話す。なぜ転んだと正直に言わないのか、何の説明もないのでよくわからない。心理描写を描くのであるなら、もう少し丁寧にはっきりとお願いしたいところであったと思う。

ラストに至る展開もよくわからず。わからない方が悪いのかもしれないが、傷心のリディアが
ゼロから指揮者としてやり直そうとするのはわかったものの、ラストで出てきた暗い劇場は何だったのだろうか。一流オーケストラからオタクファンに囲まれたそれへの都落ちを意味していたのであろうか。主演のケイト・ブランシェットの迫力はさすがであったが、ストーリーの理解が難しい映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年11月22日

【キネマの神様】My Cinema File 2936

キネマの神様.jpg

2021年 日本
監督: 山田洋次
原作: 原田マハ
出演: 
沢田研二:円山郷直(ゴウ)
菅田将暉:若き日のゴウ
永野芽郁:若き日の淑子
野田洋次郎:若き日のテラシン
北川景子:桂園子
寺島しのぶ:円山歩
小林稔侍:寺林新太郎(テラシン)
宮本信子:円山淑子
リリー・フランキー:出水宏監督
前田旺志郎:円山勇太
原田泰造:家族の会主催者
片桐はいり:常連の女性客

<シネマトゥデイ>
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『男はつらいよ』シリーズなどの名匠・山田洋次監督が、作家・原田マハの小説を映画化。松竹映画100周年を記念して製作された、家族から白い目で見られるダメ親父の物語を紡ぐ。主演を務めるのは沢田研二と『アルキメデスの大戦』などの菅田将暉。『君は月夜に光り輝く』などの永野芽郁、バンド「RADWIMPS」のボーカルで『泣き虫しょったんの奇跡』などの野田洋次郎のほか、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子らが共演する。
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原田マハの小説を読んでいた事もあり、映画の方もと観てみる事にした映画。ある日、出版社に勤める円山歩のもとに1本の電話がかかってくる。相手はサラ金業者。それは父・円山郷直(ゴウ)が借りたお金の取立ての電話であった。動揺する歩。正規の業者であれば保証人でもない娘の職場に督促電話をかけるなどできないが、闇金なのかもしれない。それまでにもギャンブルとアルコール依存症の父・ゴウの借金に悩まされ続けてきた歩は、実家の母・淑子と相談する。

歩は、以前にも父の借金を肩代わりしたこともあり、今度こそと父から年金とシルバー人材派遣の給料が入る通帳とカードを取り上げる。ゴウは、「俺はこれから何を楽しみに生きていけばいいんだ」と逆切れして家を飛び出すが、娘の対応としてはやむを得ない。家を出たゴウは、古くからの友人寺林新太郎(テラシン)が館主をしている名画座「テアトル銀幕」へと向かう。ゴウはテラシンに愚痴をこぼしながら、上映時間の過ぎた館内で昔の映画を観せてもらう。淑子も昼間はここでパートとして働いている。

テラシンが観せた映画は、出水監督の作品。実はかつてゴウは映画の助監督をやっており、出水監督の作品もその中に含まれている。誰もいない映画館でひとり懐かしい作品に浸るゴウは、若かりし日を思い起こす。それは、ゴウがテラシンと松竹映画撮影所で働いていた頃。物語は回想の形で過去へと戻る。映画監督を目指すゴウと映写技師として働きながらいつかは映画館を持ちたいという夢を抱くテラシンは、互いにウマが合い、いつもつるんでいる。

それは映画産業の興隆期。毎日映画の撮影があちこちで行われている撮影所は活気に溢れている。ゴウは、出水監督作品の助監督としてあちこち飛び回っている。撮影所の近くにある食堂「ふな喜」はそんな映画人たちの憩いの場。映画スター・桂園子に出水監督がその場で思いついたストーリーを芝居口調で演じていく。それを脚本に書き留めていくゴウ。昼夜もない撮影はきついけど楽しいもの。

そんなゴウに好意を持っていたのが「ふな喜」の看板娘の淑子。遊びもギャンブルも監督への肥やしと呆けるゴウは、淑子の気持ちには気付く事もない。逆にゴウの紹介で淑子に会ったテラシンは、淑子にひとめ惚れしてしまう。そんなゴウにも初映画監督のチャンスが回ってくる。映画のタイトルは『キネマの神様』。これまでの映画の常識を覆すような斬新な発想とカメラワークにこだわったものであったが、ゴウには緊張癖があり、結果として現場は混乱して終いに揉めたゴウが梯子から落ちて怪我をして撮影は中止になる・・・

物語はそんなゴウの若かりし頃と現代とを交互に描いていく。歩の両親ゴウと淑子にも若かりし日々がある。ゴウとテラシンと淑子とのそんな過去を見ていくと、現代のゴウの姿もまた違って見えてくる。映画のストーリーは、原作とはかなり異なる。映画には時間制限があるゆえの変更かもしれないが、個人的には原作のストーリーの方が、映画ラブ感にあふれていて好きである。

それでも映画には映画の良さもある。何より北川景子はきれいだし、昭和の女優を演じても違和感はない。それに映画界が活気あふれていた時代への愛もそこかしこに感じられる。映画は映画で十分に楽しめる。「読んで良し、観て良し」の一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年11月20日

【アイス・ロード】My Cinema File 2935

アイス・ロード.jpg

原題: The Ice Road
2021年 アメリカ
監督: ジョナサン・ヘンズリー
出演: 
リーアム・ニーソン:マイク・マッシャン
ローレンス・フィッシュバーン:ジム・ゴールデンロット
ベンジャミン・ウォーカー:トム・バルネイ
アンバー・ミッドサンダー:タントゥー
マーカス・トーマス:ガーティ
ホルト・マッキャラニー:ランバート
マーティン・センスマイヤー:コーディ
マット・マッコイ:シックル
マット・サリンジャー:CEO

<映画.com>
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『96時間』シリーズのリーアム・ニーソンが主演を務め、地下に閉じ込められた26人の命を救うため巨大トラックで危険な氷の道を走り抜けるドライバーの戦いを描いたレスキューアクション。カナダのダイヤモンド鉱山で爆発事故が起こり、作業員26人が地下に閉じ込められた。事故現場に充満したガスを抜くための30トンもの救出装置をトラックで運ぶため、4人の凄腕ドライバーが集められる。鉱山への最短ルートは厚さ80センチの氷の道「アイス・ロード」で、スピードが速すぎれば衝撃で、遅すぎれば重量で、氷が割れて水に沈んでしまう。地下の酸素が尽きる30時間以内に装置を届けるべく、命がけでトラックを走らせる彼らだったが、事故には危険な陰謀が隠されていた。共演に『マトリックス』シリーズのローレンス・フィッシュバーン、『リンカーン 秘密の書』のベンジャミン・ウォーカー。「アルマゲドン」などの脚本家ジョナサン・ヘンズリーが監督・脚本を手がけた。
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北アメリカの極寒地では、冬季に凍った川や湖の道を30tのトラックが往来するのだとか。この物語ではウィニペグ湖の氷の上にできた道=アイス・ロードが舞台となる。氷の厚さは80p。一見分厚そうであるが、30tのトラックについては危ういのかもしれない。そして事件は起こる。カナダ・マニトバ州にあるダイヤモンド鉱山「カトカ」で、メタンガス爆発が起こる。作業員8人が死亡し、26人が安否不明となる。

作業員を救出するには、まず坑道に充満したメタンガスを抜かなければならない。しかし、現場にはそのために必要な坑口装置(ウェルヘッド)がない。これを聞いた天然資源省の次官オトゥールは、すぐに坑口装置の輸送を手配する。しかし長さ5m、重さ25tもある坑口装置は空輸することは不可能であり、方法は陸路しかない。しかし4月半ばの時期は氷が溶け始める事もあり、アイスロードも既に閉鎖済み。トラックドライバーたちもほとんど休暇中とあって人員確保も厳しい状況であった。

白羽の矢が当たったのは、現地に詳しいジム・ゴールデンロット。ジムは自らトラックドライバーと整備士を確保する代わりに、政府にはアイスロードを開くよう許可を求める。そして集まってきたのは腕利きのトラックドライバーたち。その中にマイク・マッキャンと弟で整備士のガーティがいる。このマイクが物語の主人公である。弟のガーティは、イラク戦争の帰還兵であるが、戦争の負傷の後遺症があって仕事が長続きしない。そんな中で、報酬の良いアイスロード運転手の募集に応募してきていた。

メンバーには1人、ジムの元部下タントゥーがチームに加わる。先住民としての誇りと怒りから、何かと周りとトラブルを起こしているが、ドライブテクニックは一流。しかもタントゥーの異父兄コーデ・マントゥースィは、安否不明の作業員のうちの一人であり、それも応募理由であった。運輸会社は万が一の事態を考慮して坑口装置を3基用意し、3台の大型トラックにそれぞれ載せてトラックを送り出す。溶け始めた氷の道を超重量のトラックが爆走するというのが、この物語のメインとなる。

もちろん、ただただ爆走して終わりであれば物語は面白くない。炭鉱事故には実は裏がある。そしてそれゆえに坑口装置が無事に届けられると具合の悪い者たちがいる。ただでさえ、春先で危険なアイスロードに加えて妨害工作まで行われるのである。成功報酬は20万ドル、脱落者が出た場合は、残ったメンバーで分配されるというおまけもつく。トラックの速度が速いと圧力波で氷が割れて水没、逆に遅いとタイヤにかかる重みで水没するという厳しい条件下でトラックは発進していく。

そう言えばその昔、『恐怖の報酬』というやはり危険なトラック輸送の映画があったなと思い出す。やはり同じように事故現場に危険なニトロを運ぶという物語で、川にかかった崩れかけた橋を渡るシーンのド迫力が記憶に残っている。やはり危険なものを危険な道を通って運ぶというストーリーがトラック輸送の物語の王道になるのであろうか。そしてさっそくアイスロードの氷が溶けて1台のトラックが水没する。そして準主役級のローレンス・フィッシュバーンが早々にいなくなるのに驚かされる。

危険なアイスロードにさまざまな妨害工作。リーアム・ニーソン主演であれば面白さが一段アップする。ただ、『恐怖の報酬』の橋渡りのシーンほどのインパクトは残念ながらなかったというのが正直なところである。大型トラックの迫力は十分。スリリングな展開を楽しめる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年11月16日

【コリーニ事件】My Cinema File 2934

コリーニ事件.jpg

原題: Der Fall Collini
2019年 ドイツ
監督: マルコ・クロイツパイントナー
出演: 
エリアス・ムバレク:カスパー・ライネン
アレクサンドラ・マリア・ララ:ヨハナ・マイヤー
ハイナー・ラウターバッハ:リヒャルト・マッティンガー
マンフレート・ツァパトカ:ハンス・マイヤー
ヤニス・ニーヴーナー:若い頃のハンス・マイヤー
ライナー・ボック:ライマース
カトリン・シュトリーベック:裁判長
ピヤ・シュトゥッツェンシュタイン:ニーナ
フランコ・ネロ:ファブリツィオ・コリーニ

<映画.com>
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ドイツの現役弁護士作家フェルディナント・フォン・シーラッハの世界的ベストセラー小説を映画化した社会派サスペンス。新米弁護士カスパー・ライネンは、ある殺人事件の国選弁護人を担当することに。それは、ドイツで30年以上にわたり模範的市民として働いてきた67歳のイタリア人コリーニが、ベルリンのホテルで経済界の大物実業家を殺害した事件で、被害者はライネンの少年時代の恩人だった。調査を続ける中で、ライネンは自身の過去やドイツ史上最大の司法スキャンダル、そして驚くべき真実と向き合うことになる。主人公ライネンを「ピエロがお前を嘲笑う」のエリアス・ムバレク、被告人コリーニを「続・荒野の用心棒」の名優フランコ・ネロが演じる。監督は「クラバート 闇の魔法学校」のマルコ・クロイツパイントナー。
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物語は2001年のベルリンのとある高級ホテルで始まる。最上階スイートに入ってきた初老の男は、宿泊客の男に銃を向ける。初老の男は返り血を浴びたままフロントに降りてきて、その場は騒然とする。殺されたのは実業家のジャン・B・マイヤー、そして逮捕された容疑者は1934年生まれのイタリア人、ファブリツァーニ・コリーニであった。

コリーニの国選弁護人として選ばれたのは、弁護士になったばかりのトルコ人青年、カスパー・ライネン。実は被告人のコリーニは警察の事情聴取にも一切黙秘を通し、おそらくそんな状況で国選弁護人が選任されたのだろうと推察される。事件の概要を知ったライネンは、殺されたジャン・B・マイヤーが、著名なマイヤー機械工業の社長ハンス・マイヤーだと知って驚く。マイヤーは、ライネンにとって幼少時からの恩人であったのである。

裁判所でマイヤーの孫のヨハナと再会したライネンは、彼女から祖父を殺した人物の弁護など辞めるように言われて悩む。被害者は恩人であり、かつその孫とも家族ぐるみの付き合いがあったとなれば、憎むべき犯人の弁護を引き受けるのかは難しい。職業としての弁護士の難しさである。しかし、かつて師事を受けた弁護士マッティンガーから助言を受けて弁護を引き受ける。

審理が始まるも、コリーニが殺害の動機を全く語ろうとしないため、ライネンも困り果てる。マッティンガーがコリーニを謀殺罪で起訴して終身刑にしようと考えているとわかり、ライネンは情状酌量に持ち込めば減刑できると訴えるも、コリーニは沈黙を保つ。打つ手のないライネンは、マイヤーが幼少時に放蕩な父親に見放された自分を救ってくれたと、コリーニに身の上話を打ち明ける。

するとコリーニは初めて口を開き、生きているなら実の父親に会えと促す。それでも事件の核心については黙秘したまま。そんな中、ライネンは犯行に使用されたのが市場では出回ることのないワルサーP38であったことに注目する。その銃に見覚えのあったライネンは、マイヤーの書斎でワルサーP38を見つける。さらにライネンは、手がかりを求めてコリーニの生まれ故郷であるイタリアのモンテカティーニに向かう。

一方、コリーニの助言でフランクフルトで古書店を営む実父のベルンハルトと再会したマイヤーは、連邦文書館から取り寄せたマイヤーに関する大量の調査報告書の速読を父に依頼する。こうして被告人であるコリーニの黙秘にも関わらず、ライネンはモンテカティーニで聞き込みをし、そしてコリーニをよく知る老人を見つけ、そこで思いもかけない過去の事実を知る・・・

若者であればともかく、年老いた男が殺人を犯すというのはあまりある事ではない。人間、年を取れば執着も減っていくものである。にも関わらず、コリーニは成功者であり、周囲からも慕われている人物を白昼堂々射殺する。殺害に使われたのは、昔の銃。一体、何が動機なのか。しかも、被告は黙秘を貫き、自らの罪を軽くする力になってくれる弁護士にも話をしようとしない。それはまるで極刑でも構わないというスタンスにも見える。

それでもおざなりな弁護に終始することなく、ライネンはできる限りの調査をし、そしてついに過去におけるコリーニとマイヤーの関係を探り当てる。それは1944年6月19日に起こった出来事。なかなか面白いストーリー展開で、個人的にフレデリック・フォーサイスの『オデッサ・ファイル』を思い出してしまった。あれも主人公が追い求めていたのは、読者が当然想定する理由ではなく、まったく別の意外な理由からであった。

弁護士という職業は、悪人を弁護するという微妙な立場である。裁きの公平性を確保するための大事な役割であるが、時として理不尽な批判を浴びる。ここでも主人公のライネンは、恩人を殺した憎むべき男の弁護をする。しかも、恩人の孫であり、かつて付き合ってもいたヨハナから理不尽な批判を浴びる。「祖父がいなかったら、あなたは今頃ケバブ店の店員よ」と。そんな中で、自らの職務をライネンは全力で全うする。

そして明らかになった真実は実に複雑である。なぜ、犯人のコリーニは頑なに沈黙を守っていたのか。その予想外の殺害動機。想定外のストーリー展開は虚を突かれた感があり、意外に面白かった映画である。このあたりはドイツならではの歴史事情があるだろう。最後にコリーニが選んだ選択。そこに至らざるを得なかった事情。きちんと作られたストーリーの良さも相まって、味わい深い映画である・・・


評価:★★★☆☆








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