
原題: Une belle course
2022年 フランス
監督: クリスチャン・カリオン
出演:
リーヌ・ルノー:マドレーヌ
ダニー・ブーン:シャルル
アリス・イザーズ:若き日のマドレーヌ
ジェレミー・ラウールト
グウェンドリーヌ・アモン
ジュリー・デラルム
<シネマトゥデイ>
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『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』などのクリスチャン・カリオンが監督などを手掛けたヒューマンドラマ。タクシー運転手とあるマダムのパリ横断ドライブを描くとともに、彼女の驚きの人生も映し出す。シャンソン歌手のリーヌ・ルノー、『ヒューマニティ通り8番地』などに携わってきたコメディアンのダニー・ブーンらがキャストに名を連ねる。
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主人公はタクシードライバーのシャルル。とある事情を抱え、金に困っている。しかも免停までの点数もあとわずかであり、日々ギリギリの暮らしを送っている。自然にイラつく事になるが、そこへ顧客からの依頼が入りピックアップに向かう。依頼主は92歳のマドレーヌ。一人暮らしの自宅を出て介護施設に送ってくれというのがその依頼。せっかくの依頼であるが、シャルルは無愛想。にもかかわらずマドレーヌはあれこれとシャルルに話かける。
施設に向けて車を走らせるシャルルにマドレーヌは寄り道してくれと頼む。気が進まないシャルルだが、それも料金に反映される事もあって車をヴァンセンヌの街に向かわせる。記憶の中とはずいぶん変わったヴァンセンヌの街を見ながら、マドレーヌは自身の過去について話をし始める。16歳の時にマットというアメリカ人の軍人と恋に落ちたマドレーヌ。パリ解放の興奮の中での恋であろう。
しかし、マットはやがて帰国してしまう。その時マドレーヌは子供を宿していることが分かったが、マットには故国に家族があり、マドレーヌは生まれた息子マチューを一人で育てる事になる。マットにとっては異国での遊びだったのであろう。そんな話を続けるマドレーヌ。不愛想なシャルルに構わず話しかけ、シャルルも少しずつ自身の話を打ち明ける。
マドレーヌの話は続く。母の助けを得て仕事を始めたマドレーヌは、やがてレイという男と付き合い始める。そして結婚する。しかし、幸せは続かない。レイは自分の血をひかないマチューに冷たくあたる。自分の子供が欲しいという気持ちは理解できるが、やがてそれは家庭内暴力を振るうようになる。
子供の身を案じたマドレーヌは、ある日、レイの提案を受け、マチューを母に預けて夫婦2人で食事に行く。そして夫婦2人で甘いひと時を過ごすふりをして密かに酒に睡眠薬を入れて飲ませる。眠り込んだレイのズボンを脱がせると、レイの仕事道具であるバーナーで下半身を焼いてしまう。レイは死ぬには至らないが、男にとっては悪夢である。当然ながらマドレーヌは逮捕され、裁判にかけられる。
2人はマドレーヌが裁判を受けた裁判所を通り過ぎる。マドレーヌは禁固25年の刑が言い渡される。先進国フランスとはいえ、まだ世の中は男性優位の社会。それはマドレーヌの置かれた立場をまったく考慮しないもの。思いがけない話に聞き入っていたシャルルは、うっかり赤信号を見落としてしまう。運悪く警官に止められたシャルル。免停の危機に必死に警官に頼むシャルルだが、警官は甘くない。するとマドレーヌが警官に何やら話をすると、なんと注意だけで見逃してもらえる。年寄りの功徳であろう。
こうしてパリの街を走るタクシーの中で2人の話は続いていく。人にはそれぞれの人生がある。それまでまったく接点のなかった2人が出会い、互いに身の上話に興じていく。マドレーヌの過ごした人生はけっして幸せなものとは言えないが、長い年月を生きてきた悟りのようなものがマドレーヌにはある。息子がいたものの、生涯孤独となってしまったマドレーヌ。この世に神がいるとしたら、神はマドレーヌに残酷な試練を課したことになる。
長い時間をかけてシャルルはマドレーヌを施設に送り届ける。身寄りのないマドレーヌに会いにくると約束して帰るシャルル。料金はまた今度でいいと明るく帰っていく。そして訪れる物語の結末。いつしか涙腺もゆるんでしまう。空いた隙間時間に簡単に観ようと思って観たが、思いもかけぬ感動をもらう。タクシーを舞台にしたフランス映画と言えば、リュック・ベッソンのシリーズ(『タクシー』)をイメージしてしまったが、まったく正反対のものであった。
心温まる映画を観たい時にはお勧めしたい一作である・・・
評価:★★★☆☆