2025年03月29日

【そして僕は途方に暮れる】My Cinema File 2988

そして僕は途方に暮れる.jpg

2022年 日本
監督: 三浦大輔
出演: 
藤ヶ谷太輔:菅原裕一
前田敦子:鈴木里美
中尾明慶:今井伸二
毎熊克哉:田村修
野村周平:加藤勇
香里奈:菅原香
原田美枝子:菅原智子
豊川悦司:菅原浩二

<シネマトゥデイ>
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映画化もされた「愛の渦」などで知られる三浦大輔が作・演出、アイドルグループ「Kis-My-Ft2」の藤ヶ谷太輔主演により2018年に上演された舞台を、三浦自身が映画化。ささいなきっかけから恋人や親友、家族などあらゆる人間関係を断ち切ろうとする青年の逃避行を描く。主演の藤ヶ谷をはじめ、前田敦子と中尾明慶が舞台版から続投し、映画版新キャストとして『純平、考え直せ』などの毎熊克哉と野村周平、『深呼吸の必要』などの香里奈、『百花』などの原田美枝子、『今度は愛妻家』などの豊川悦司らが出演する。
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この物語は日付が表示されて始まる。まずは11月19日木曜日。菅原裕一はフリーター。彼女の鈴木里美と同棲中。朝、仕事に向かう里美に眠そうに目を覚ます裕一。その夜、里美が帰宅する。実は裕一は浮気をしているのだが、スマホの画面を巧みに里美に見えなくしようとしていた態度に我慢できなくなった里美は裕一を問い詰める。里美も密かに裕一のパスワードを見抜いてチェックしていたのである。慌てた裕一はそそくさと荷物をまとめるとそのままアパートから出ていく。アパートの名義は里美になっているからと。

裕一は幼馴染の今井伸二に連絡を取り、伸二の家に転がり込む。それから1週間後の11月26日木曜日。居候の立場の裕一だが、洗濯も掃除も家事はすべて伸二がやっている。さらにトイレットペーパーが切れたことを指摘し、翌朝の仕事にそなえて寝る伸二のそばで平気でテレビを見続け、朝は起こさないように静かに出て行ってくれという裕一にさしもの伸二もキレて注意をする。するとそれが気に入らなかったのか、裕一は荷物をまとめると伸二の家を出て行く。スマホの電話帳から選んだのは、バイト先の先輩田村。

それからまた1週間後の12月3日木曜日。さすがに先輩の家とあって裕一はこまめに家事をする。これを田村は重宝し、裕一との関係も良好。しかし、やっぱりいろいろと気づまりになり、裕一はここも出る事にする。次に頼ったのは後輩の加藤。これまでの経緯を説明すると加藤は感心する。助監督を務める勇に裕一の存在自体が映画だと言われ、裕一は成り行きから泊めてくれと言えなくなる。頼れる先はあまり多くない様子。裕一は姉の香に連絡を取り、香の家を訪れる。しかし、香に金を借りに来たと勘違いされ、またしてもそこを出る。もう行く先は実家しかない。

そして12月5日土曜日。裕一はお金を節約して長距離バスとフェリーを乗り継いで北海道苫小牧にある実家に帰り着く。母は裕一のことを喜んで迎える。母はクリーニング店で働いているが、リウマチを抱えて右半身が不自由である。父は女を作って何年も前に家を出ている。不自由な体で一軒家に1人暮らしの母に申し訳なさを感じた裕一は、このまま実家で暮らすことを決める。しかし、母は新興宗教にはまっており、裕一にも入るよう勧める。裕一はそれに嫌悪感を示すと実家を飛び出す・・・

こうして1週間ごとに住みついたところを飛び出す裕一。問題が生じるとそれに向き合うことなく逃げて行く姿はいかがなものかと思わざるをえない。東京に行く前の裕一のことは描かれておらずわからないが、もともとそんないいかげんな性格だったのだろうかと思ってみたりする。それでも女性にはモテるようなので、性根がしっかりしていたら仕事もできるのではないかと言う気がする。

フラフラと生きている若者にはイライラさせられるものであるが、主人公の裕一はそんな典型。先の事を考えずに流されるまま生きていく。しかし裕一には持つべき友がいる。自堕落に生きる父親は反面教師。落ちるところまで落ちた裕一は、最後にみんなに支えられて這い上がるきっかけを掴む。しかし、そこで突然思いもかけない事が起こる。タイトルはかつて流行った歌と一緒だが、最後に裕一は途方に暮れる。なかなか捻りの効いたストーリー。自分よりも酷い人間を見ると人は安心するものだろう。「俺もここまで酷くない」と。その後、裕一はどうなったのだろう。少なくとも冒頭の裕一ではないはず。そんなことを考えてみた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年03月28日

【生きてるだけで、愛。】My Cinema File 2987

生きてるだけで、愛。.jpg
 
2018年 日本
監督: 関根光才
原作: 本谷有希子
出演: 
趣里:寧子
菅田将暉:津奈木
田中哲司:村田
西田尚美:真紀
松重豊:磯山
石橋静河:美里
織田梨沙:莉奈
仲里依紗:安堂

<映画.com>
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小説家、劇作家、演出家などマルチな活動を展開する芥川賞作家・本谷有希子の同名小説を趣里の主演で映画化。過眠症で引きこもり気味、現在無職の寧子は、ゴシップ雑誌の編集者である恋人・津奈木の部屋で同棲生活を送っている。自分でうまく感情をコントロールできない自分に嫌気がさしていた寧子は、どうすることもできずに津奈木に当たり散らしていた。ある日突然、寧子の目の前に津奈木の元恋人・安堂が現れる。津奈木とヨリを戻したい安堂は、寧子を自立させて津奈木の部屋から追い出すため、寧子に無理矢理カフェバーのアルバイトを決めてしまう。趣里が主人公・寧子役を演じるほか、津奈木役を菅田将暉、安堂役を仲里依紗がそれぞれ演じる。数々のCMやAKB48、Mr.ChildrenなどのMVなどを手がけ、カンヌ国際広告祭でグランプリなどを受賞した関根光才の長編劇映画初監督作品。
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登場人物は同棲中の寧子と津奈木のカップル。寧子はメンタルに問題を抱えており、過眠症で寝てばかりいる。帰宅した津奈木が声をかけても「うるさい!」と怒鳴り、ものを投げつける有様である。津奈木は弁当を買いに出るが、寧子は煙草がない事に気付き煙草とコーラを買ってきてと津奈木にメールを送る。自動販売機でコーラを買った津奈木は、販売機が割れているのを見て、寧子と初めて出会った日のことを思い出す。

それはとある飲み会に参加した津奈木が、酔っ払った寧子を送っていくことになる。寧子の酔い方は酷いあり様で、友人たちもいつもの事なのかあきれ顔。何も知らない津奈木に寧子を預けてさっさと去ってしまう。津奈木が親切に自動販売機で水を買って寧子に渡すと、一気に飲み干し、突然頭を自動販売機に打ち付ける。額からは血が流れてるが寧子は気にもしない。さらに心配する津奈木をよそに寧子は走り出す。酔っているとしても異常である。

そんな津奈木は、物書きになりたくて出版社に入ったものの、三流週刊誌の編集部に配属され、ゴシップ記事の執筆に追われる日々を送っている。編集長はとある女優のスキャンダラスな記事を津奈木にまわすが、津奈木も他の仕事を抱えて手一杯である。同僚の女性記者が、裏取りをしていない記事を案じるが、津奈木はしばらくしたらみんな忘れると淡々と仕事をこなす。その様子はどこか諦めている感じが漂う。

一方の寧子はバイトの面接を受けようとしたが、起きられずに面接をドタキャンする。同棲していると言っても2人の寝室は別々であり、寧子は完全なヒモ状態。さらに津奈木に対する態度も悪く、普通であれば追い出されるだろう。なぜ津奈木が根気よく付き合っているのかよくわからない。そして突然夕食を作る事を思い立ち、津奈木のリクエストを聞くとスーパーに買い物に行く。ところがミンチが売り切れていたせいで調子が狂い、卵を床に落としてしまい愕然とする。帰宅して、料理にとりかかるが、ブレーカーが落ちてしまい、どうにもならなくなって大声を上げて泣き出す。

津奈木が戻ると、真っ暗な部屋で寧子がうずくまっている。肉親であればまだしも、他人の女であれば自分ならとても耐えられない。そして物語は動いていく。寧子がいつものように昼過ぎまで寝ていると、見知らぬ女が訪ねてくる。女は安堂といい、かつて津奈木とつき合っていたと言う。津奈木を見かけて尾行したという安堂は、どうやら津奈木と復縁する事を望んでいる。津奈木の性格からして寧子をいまのまま追い出すことはできないので寧子に働いて自立するように求める。

突然やってきて、彼氏を横取りすると宣言し、寧子を知り合いのカフェバーにバイトとして紹介する。寧子も寧子なら、この安堂も安堂である。しかし、このカフェバーのオーナーは心が広く、さして理由も聞かずに寧子を迎え入れる。とは言え、突然しっかり者になるわけでもなく、寧子は失敗の連続で、きちんと起きられず遅刻ばかりしてしまう。津奈木は津奈木で、たくさんの仕事を押し付けられ、夜遅くまで働くことが増えて次第に疲弊していく。寧子は調子がよくなり津奈木に話しかけるが、今度は津奈木にそれを聞くゆとりがない。そして事件が起こる・・・

社会の片隅で不器用に生きる2人。女はメンタル不調で、行動は怪しい。男の立場からすると、付き合うどころかそばにも寄って欲しくないタイプである。トイレのウォシュレットのことが心配という話を真面目にされても引くだけである。本人も苦しんでいて、「生きているだけで本当にしんどい」と寧子は語る。そしてあまりにもしんどくなって、店を飛び出した寧子は、走りながら服を脱ぎ、マンションの屋上でとうとう全裸になってしまう。タイトルの意味がこのあたりでわかってくる。

すぐにブレーカーが落ちてしまう部屋で暮らす2人。その姿は本当に「生きているだけで、愛」である。こんな女の近くには寄りたくないと心から思うも、映画だからいいとも言える。寧子には幼い頃、母親が全裸で踊っていた記憶がある。それは遺伝なのであろうか。だとすれば、2人の子もまた寧子のようになるのだろうか。そんなことを考えながら観終わった映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2025年03月24日

【きみの瞳(め)が問いかけている】My Cinema File 2986

きみの瞳(め)が問いかけている.jpg
 
2020年 日本
監督: 三木孝浩
出演: 
吉高由里子:柏木明香里
横浜流星:アントニオ篠崎塁
やべきょうすけ:原田陣
田山涼成:大内会長
野間口徹:尾崎隆文
岡田義徳:坂本晋
奥野瑛太:久慈充

<MOVIE WALKER PRESS解説>
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『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の三木孝浩監督が手がけるラブストーリー。不慮の事故で視力を失った明香里を吉高由里子が、罪を犯しキックボクサーの夢を失った塁を横浜流星が演じ、互いに惹かれ合うも残酷な運命に翻弄されていく男女の姿を描く。チャールズ・チャップリンの名作『街の灯』をモチーフにした韓国映画『ただ君だけ』のリメイクで、世界で活躍する韓国出身の人気グループBTSが主題歌を担当している。
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無口で暗い表情の若者が酒屋の配達のバイトを黙々とこなす。重い酒樽を持って階段を上り下りし、体力勝負の仕事である。それが終わればネットカフェで眠る。若者は元キックボクサーの塁。あるビルの管理の仕事の募集を見かけ、夜はそこでも働くようになる。前任者のおじいさんは、突然姿を消したとの事で、寝起きしていた管理室には生活の跡がそのまま残っている。新しい仕事場での勤務初日。管理室に見知らぬ女性がずかずか入ってきて、親しげに塁に話しかけながら、差し入れを渡す。どうやら目が不自由なようで、塁を前任者と勘違いしている。

その女性の名は明香里。前任者のおじいさんとは親しくしていて、一緒にテレビドラマを見ていたそうである。人違いと気づいた明香里は、管理室から慌てて出ていこうとするが、雨が降り始めたこともあり、塁は、管理室でドラマを見ていくよう声を掛けて引き止める。楽しそうにドラマを見終えると、管理室の入り口にある金木犀の鉢植えの水やりを忘れないように告げて明香里は帰って行く。

明香里はコールセンターで働いている。なるほど、目が見えない者でも働くことができる職場の1つである。上司は明香里に優しいが、さりげなく肩に手を置く。それは今の基準ではセクハラ認定されてもおかしくない。その頃、塁はかつて所属していたキックボクシングジムを訪れ、会長とコーチに謝罪する。どうやら突然姿を消したようである。コーチの話から塁は有望だった事がわかる。そしてコーチは復帰を促すが、塁は断る。

1週間後、明香里が再び管理人室にやって来る。お気に入りのテレビドラマがあるようである。金木犀の香りに満足する明香里。管理人室に入るとさり気なく窓を開けてもいいかと尋ねる。履き古したスニーカーが異臭を放っている事に気づく塁。テレビドラマのヒロインに夢中になる明香里。不愛想な塁も少しずつ表情に笑顔と言葉が増えていく。そして次の週、塁はスニーカーを新調し、身だしなみを気にしながら明香里が来るのを待つ。

なぜか名前を尋ねられた塁は答えられない。転んで足をくじいた明香里を塁は自宅まで送る。最後はおぶって長い階段を登り、自宅に辿りつく。ついでに排水口のつまりも直してくれた塁へのお礼に、明香里はコンサートのチケットを渡す。一緒に行く相手がいないと断ろうとする塁だが、明香里の提案で一緒にコンサートに行く約束をする。そして2人でコンサートに行く。こうして2人は少しずつ距離を縮めていく。

コンサートの後、明香里の希望で焼肉屋へ行く2人。目が見えないというのは、健常者にはわからない不便がある。食事中、明香里は肉を落として来ていたニットを汚してしまう。しかし、本人には汚れをうまくふき取れない。それを塁も指摘できない。距離が縮んだり少し離れたり。恋愛というものはそんなものかもしれない。それでも明香里は目が見えなくなった経緯が事故にあり、その事故で両親がなくなっている事を語る。塁も不器用ながら自分のことを打ち明ける。名前はアントニオ・篠崎塁。

2人の恋愛に絡んでくるのが明香里の職場の上司。コンサートのチケットも上司のプレゼントであり、その日もネックレスの入ったプレゼントを渡され、食事に誘われる。一方、塁も実は刑務所に入っており、その原因は施設で一緒に育った半グレ集団のリーダー恭介。恭介は塁に地下格闘技の試合に出場するように迫ってくる。2人の恋愛の前に漂う暗雲。そして2人は過去にそれと知らずに意外な接点があったことがわかる。

恋愛ドラマに障害はつきもの。そして半グレ集団との付き合いは大きな障害。目が見えない女性との恋愛ドラマは過去にもあったが、ヒロインの明香里を演じるのは吉高由里子。お相手は横浜流星で、ともに美男美女であることは否定しないが、何となく吉高由里子が演じるのは違和感がある。2人の年齢差もあるが、吉高由里子が若々しい恋愛ドラマの主人公というのがどうもピンとこない。原作があってその設定がそうなっているのだろうかと思ったりする。

個人的にはこの手の恋愛ドラマは少々合わなくなってきていると感じる。ラストの展開で浜辺で2人が再会するシーンも心は物語の中に入っていけない。それはストーリーの限界か自分の年齢によるものかはよくわからない。そろそろこの手の恋愛ドラマからは卒業なのかもしれない。それでもラストの展開がもう少し自然であったら、という思いはある。韓国ドラマのように無理にドラマチックにし過ぎてコケた印象がある。ラストがもう少し自然であれば、感情移入できたかもしれない映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年03月23日

【ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅】My Cinema File 2985

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅.jpg

原題: Nebraska
2013年 アメリカ
監督: アレクサンダー・ペイン
出演: 
ブルース・ダーン:ウディ・グラント
ウィル・フォーテ:デイビッド・グラント
ジューン・スキッブ:ケイト・グラント
ステイシー・キーチ:エド・ピグラム
ボブ・オデンカーク:ロス・グラント
アンジェラ・マキューアン:ペグ・ナギー

<映画.com>
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『ファミリー・ツリー』「サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン監督が、頑固者の父親と、そんな父とは距離を置いて生きてきた息子が、旅を通して心を通わせる姿をモノクロームの映像で描いたロードムービー。モンタナ州に暮らす大酒飲みで頑固な老人ウディのもとに、100万ドルを贈呈するという明らかに胡散臭い手紙が届く。すっかり信じ込んでしまったウディは、妻や周囲の声にも耳を貸さず、歩いてでも賞金をもらいにいくと言って聞かない。そんな父を見かねた息子のデイビッドは、無駄骨と分かりつつも父を車に乗せてネブラスカ州を目指すが、途中で立ち寄ったウディの故郷で両親の意外な過去を知る。ウディを演じた主演のブルース・ダーンが、2013年・第66回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。
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車が走りすぎる幹線道路を1人の老人がとぼとぼ歩いている。やがてパトカーが老人を保護する。老人はウッドロウ・グラント。その言う事には、100万ドルが当選したとの手紙を受け取り、ネブラスカ州までもらいに行くのだと言う。警察から連絡を受けた息子のデイビッドが父を迎えに来る。明らかにうさん臭い手紙に息子はやめろと諭すも父は聞かない。家に連れ帰るが、父は再び徒歩でネブラスカに行こうとする。

母親は口やかましく文句を言う。デイビッドには兄がいるが、兄もそんな父にあきれている。止めても聞かない父にデイビットは諦めて付き合う事にする。仕事を休んで父を車に乗せる。100万ドルの話は嘘だとわかりきっているが、高齢者はしばし判断力が衰え、愚かな行為を犯すものである。下手に説得を試みてもダメなら納得するまでやらせるというのはいい方法である。こうして親子2人のドライブに出る。目的地はネブラスカ。

旅の一日目の夜。モーテルの部屋でウッドロウがつまずいて頭を怪我する。病院で診てもらうと、傷が深いため入院を勧められる。しかし、ウッドロウは金曜日までにリンカーン州まで行きたいと主張する。やむなくデイビッドは、道中にある伯父宅に週末までそこに滞在しようと提案する。月曜にはネブラスカに到着できると言うと、父は渋々納得する。そうしてデイビッドと父は伯父宅にやって来る。父とともに父の知人がマスターを勤めたバーに入る。

デイビッドは思うところがあり、トイレに行く際、100万ドルの話はするなと父にくぎを刺す。しかし、デイビッドがトイレから戻ってくると、父は旧知の知人たちと100万ドルの話で盛り上がっている。デイビッドが一生懸命否定するが、周りは信じない。驚く事にその話は伯父の家族にも知れわたる。途端に手のひらを返してにこやかに振る舞う伯父一家。現金と言えば現金。金に群がる亡者のようである。

狭い田舎の町のこと、ウッドロウの100万ドルの話はあっと言う間に町中に広まる。挙句に新聞社からからも使いを任された少年がウッドロウの写真を撮りに来る。頭を抱えたデイビッドは、記事を阻止するために新聞社を訪れる。経営者のペグに当選話は父の勘違いだと伝えると、ペグはすんなり理解する。驚く事に、ペグは若い頃父と付き合っていたとわかる。ペグの話では、父は朝鮮戦争から帰還した後、酒に溺れるようになったと言う。父の若かりし頃の写真を見たデイビッドは何かを思う。

100万ドル騒動は続く。すり寄って来る者もいれば、昔の恩を盾に露骨に金を要求して来る者もいる。それなりにウッドロウが迷惑をかけたこともあるとはいうものの、デイビッドは嫌気がさす。100万ドルなど嘘だといくら言っても信用しない。それは親戚すら同様で、デイビッドが100万ドルの話を否定しても、親戚の者は誰も本気にしない。それどころか貸した金を返してくれという。人間の浅ましさだろうか。

デイビッドは父と100万ドルを受け取りに向かう。結果はわかっているが、父が納得するまで付き合うデイビッドの優しさが、ドラマの裏でゆっくり流れる。父ウッドロウが100万ドルにこだわる理由も不甲斐ない自分なりに家族の事を考えてのもの。ラストで父と子2人で家路につくが、デイビッドの行動は心温まるもの。ウッドロウが得意満面の表情でトラックを運転する姿は何よりも心に響いてくる。普通はあきれて相手にしないかもしれない父親に最後まで付き合う息子。

金に群がる人々の滑稽さと対照的な息子の姿に老親を持つ自分もかくありたいと思わされる。予想外に心に優しく響いてきたのは、ウッドロウの姿が、この頃衰えを見せている私の父親に重なるからかもしれない。全編モノクロ映像と相まって心に優しい映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年03月19日

【君たちはどう生きるか】My Cinema File 2984

君たちはどう生きるか.jpg
 
2023年 日本
監督/原作: 宮ア駿
出演: 
山時聡真:眞人
菅田将暉:青サギ/サギ男
柴咲コウ:キリコ
あいみょん:ヒミ
木村佳乃:夏子
木村拓哉:勝一
竹下景子:いずみ
風吹ジュン:うたこ
阿川佐和子:えりこ
滝沢カレン:ワラワラ
大竹しのぶ:あいこ
國村隼:インコ大王
小林薫:老ペリカン
火野正平:大伯父

<MOVIE WALKER PRESS解説>
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宮崎駿監督が少年時代に母から手渡された同名小説『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)にインスパイアされ、オリジナルの物語に自身の少年時代を重ねた自伝的ファンタジー・アニメーション。舞台は宮崎監督の記憶の中に残る、かつての日本。母を戦火で失った11歳の少年・眞人(マヒト)は、父・勝一とともに東京を離れ、新たな母・夏子とともに庭園家屋で暮らし始める。眞人はそこでサギ男や屋敷に住む7人の老婆たち、漁師の女性・キリコなど魅力的なキャラクターにいざなわれ、生と死が混然となった不思議な世界へと分け入っていく。宮崎駿監督が2013年の『風立ちぬ』公開後に行った引退宣言を撤回し、2016年から7年の歳月を経て製作、ついに2023年に劇場公開された。公開前には、音楽は久石譲であること以外は、内容もキャスト・スタッフも明かされない宣伝戦略がとられた。日本公開から間をおかず世界各国で公開、2024年1月、第81回ゴールデングローブ賞の最優秀長編アニメーション映画賞受賞。さらに2024年3月、第96回アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞。ジブリ作品のオスカー獲得は『千と千尋の神隠し』以来、21年ぶり2度目となった。
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物語の舞台は太平洋戦争が始まってから3年目の時代。主人公の眞人は軍需工場の経営者である父親の勝一と母ヒサコとの3人暮らし。その母は入院中であったが、空襲で病院が火に包まれ母を失う。父親はヒサコの実家へ工場とともに疎開し、ヒサコの妹夏子と再婚する。勝一は軍需工場の経営者であり、羽振りが良い。疎開先で眞人は転校先に車で送られて行くが、さっそく周りに眼をつけられて殴られる。手痛い洗礼である。眞人は道端の石で自分の頭を殴って出血を伴う大ケガを負い、屋敷で手当を受けて自室で寝込む。

そんな眞人は友達もできず屋敷で1人過ごす。時折青サギがやって来るのを眺めている。ある日、眞人は青サギに誘われるように敷地内にある古い塔に行く。崩れかけた塔を不思議に思った眞人は、土砂で半ば埋もれている入り口から入ろうとするが、屋敷に仕えるばあやたちに制止される。その晩、眞人は夏子から塔は、大伯父によって建てられ、その後大伯父は塔の中で忽然と姿を消したこと、大水が出たときに塔と母屋をつなぐ通路が落ちて迷路のようなトンネルが見つかり、危ないので入り口が埋め立てられたことを教えられる。

翌朝、それまで眞人の部屋にたびたびやって来ていた青サギを木刀を持って追いかける。すると青サギは言葉を話し、「死んだと言われているが、母親の遺体を見ていないでしょう。あなたの助けを待っていますよ」と話しかけられる。不思議な体験である。眞人のケガを知った勝一は、学校側に苦情を訴える。一方で夏子は妊娠し、つわりに苦しんで床に伏す。そして別の日、眞人は屋敷の窓から夏子が森の中へと歩いていく姿を見かける。特に気に留めず、落ちていた青サギの抜け羽を材料に弓矢を自作するが、ヒサコが眞人のために残した小説『君たちはどう生きるか』を見つけて読み進める。

やがて夏子が失踪したと屋敷中が大騒ぎになる。眞人は使用人のばあやキリコとともに夏子を探しに森へ入ると、塔の裏口にたどり着く。そこで青サギの声に促されるまま足を踏み入れた3人はいつの間にか閉じ込められてしまう。塔内で待ち構えていた青サギに眞人は矢を放つ。矢は青サギの嘴を穿つが、それが青サギの弱点をついたのか、青サギは半分鳥で半分人の姿になり、青サギの姿に戻れなくなってしまう。青サギは塔の最上階の人物に命令されたとし、眞人とキリコばあやは「下の世界」へいざなわれていく・・・

タイトルから『君たちはどう生きるか』の映画化かと思っていたら、内容はまったく関係ないもの。なぜそういうタイトルにしたのか疑問に思う。映画の中で主人公が『君たちはどう生きるか』を読んでいるシーンがでてくるので、意識している事は間違いがないが、なぜまったく別の内容のものにしたのかよくわからない。そして塔の中は別世界。そこはジブリならではのもの。その別世界で眞人は不思議な経験と冒険をするのである。

その塔の中の不思議な世界での体験が何かの意味をもっているならまだしも、そうではない(と自分には思えた)のでなおさらよくわからない。しかし、その不思議な世界で行方不明になっていた大伯父に会った眞人は、自らつけた傷について振り返る。それは少年が成長した証。さらに自分の母になるヒミに会う経験もする。少年の成長という大きな括りでは『君たちはどう生きるか』と通じるものがあるのかもしれない。元の世界に戻った眞人は、きっと立派な青年に成長して戦後の世界を生き抜いたに違いない。

タイトルにこだわらなければジブリ作品ならではの面白さを満載。子供が観ても大人が観ても違和感なく楽しめる一作である・・・


評価:★★☆☆☆









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