2025年04月30日

【赤い闇 スターリンの冷たい大地で】My Cinema File 3001

赤い闇 スターリンの冷たい大地で.jpg

原題: Mr. Jones
2019年 ポーランド・イギリス・ウクライナ
監督: アグニエシュカ・ホランド
出演: 
ジェームズ・ノートン:ガレス・ジョーンズ
バネッサ・カービー:エイダ・ブルックス
ピーター・サースガード:ウォルター・デュランティ
ジョゼフ・マウル:ジョージ・オーウェル
ケネス・クラナム:ロイド・ジョージ

<映画.com>
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「太陽と月に背いて」『ソハの地下水道』で知られるポーランドのアグニェシュカ・ホランド監督が、スターリン体制のソ連という大国にひとり立ち向かったジャーナリストの実話をもとにした歴史ドラマ。1933年、ヒトラーへの取材経験を持つ若き英国人記者ガレス・ジョーンズは、世界中で恐慌の嵐が吹き荒れる中、ソビエト連邦だけがなぜ繁栄を続けているのか、疑問を抱いていた。ジョーンズはその謎を解くため、単身モスクワを訪れ、外国人記者を監視する当局の目をかいくぐり、疑問の答えが隠されているウクライナ行きの汽車に乗り込む。しかし、凍てつくウクライナの地でジョーンズが目にしたのは、想像を超えた悪夢としか形容できない光景だった。ジョーンズ役をドラマ「グランチェスター 牧師探偵シドニー・チェンバース」のジェームズ・ノートンが演じるほか、『ワイルド・スピード スーパーコンボ』のバネッサ・カービー、「ニュースの天才」のピーター・サースガードが顔をそろえる。2019年・第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作品。
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時に世界大恐慌下のイギリス。ロイド・ジョージの外交顧問であり、ヒトラーに取材した経験を持つ若きジャーナリスト、ガレス・ジョーンズは、繁栄を続けるソビエト連邦に疑問を感じる。国家の支出に対し、それに見合う収入がないという疑問である。どういう手法なのかわからないが、1外交顧問に調べられる範囲であれば国家レベルでも当然調べて疑問に思うはずであろうが、当時はそういう分析はなされていなかったのかと映画を観ながら思う。

自らの疑問を追及するべく、取材の必要性を政治家たちに説くが相手にされない。それどころか予算削減のため外交顧問の職を解かれてしまう。それでも疑問の真相を知りたいジョーンズは外交官としてではなく、フリーランスの記者として単身モスクワに渡る。このエネルギーは凄い。そしてモスクワに滞在している知古の記者仲間ポールに電話をするが、ポールが何かを伝えようとした矢先、交換手に電話を切られてしまう。当時はKGBなのか組織的に盗聴を行っていて、こういう所業は常だったのだろう。

モスクワに到着したジョーンズは、ニューヨーク・タイムズモスクワ支局長であり、ピューリッツァー賞受賞記者でもあるウォルター・デュランティに会う。デュランティにモスクワに来た理由を聞かれると、ジョーンズは素直にソビエト連邦がなぜ繁栄を続けているのか、スターリンの資金源を知りたいと自分の疑問を伝える。そして、そこでジョーンズは連絡が取れない記者仲間のポールについて尋ねる。すると、驚いたことにポールは強盗に襲われて死んだと教えられる。ジョーンズは詳細を尋ねるが、デュランティにはぐらかされてしまう。自分に何かを伝えようとしていたポールの電話を思い出し、ポールは何者かに殺されたのではないかと疑う。

ホテルに向かったジョーンズだが、宿泊は2泊しかできないと告げられる。さらに他のホテルにも泊まれないと言う。あからさまな妨害工作である。それでもジョーンズはデュランティに誘われ、モスクワ滞在の記者らが集まる会合に向かう。すると、そこでは酒を飲んでアヘンを吸っての酒池肉林の有様。真面目なジョーンズはそれに参加することもなく、会合を後にする。そこでニューヨークタイムズの記者エイダ・ブルックスに出会う。エイダが何か知っていると感じたジョーンズは、エイダの家を訪ねていく。監視役が会話を聞いている事を意識し、音楽をかけてごまかしながらエイダはポールはウクライナに行こうとして殺されたことを伝える。

危険だから国に帰った方がいいというエイダの忠告を聞かず、ジョーンズは当局の目を盗んでウクライナ行きの列車に乗り込む。実はジョーンズの母親はウクライナ出身であり、その生家を訪ねたいという目的もある。列車に乗り込んでウクライナに向かうが、とある乗客に話しかけられて共に食事をする。しかし、会話に違和感を覚えたジョーンズは、トイレに行くふりをして別の車両に移って身を隠す。そこは客車というより貨車に近い車両で、貧しい身なりの庶民が身を縮めて乗っている。

空いているスペースに座ったジョーンズは、荷物からオレンジを取り出して食べるが、その様子を見つめる乗客の視線が痛い。食べ終えたジョーンズが何気なくオレンジの皮を捨てると乗客がそれに殺到して皮を食べる。いかにも飢えた庶民の姿が伺える。客室にコートを残してきたジョーンズは、隣の乗客にコートを売ってくれと頼む。すると相手は金よりもパンを要求する。そうしてウクライナに辿り着いたジョーンズは、そこで雪の上に転がる死体と、仕事を求めて殺気立つ人の列に出食わす。そこでスパイだと言われ、ジョーンズは必死に逃げる。逃げた先で目にしたのは、人気のない民家、死体を運ぶ荷車、道に倒れた死体の数々であった・・・

世界大恐慌下、混乱に苦しむ西側諸国に対し、ソ連だけは計画経済で社会主義の成功を誇っていたが、実はそれは作られたもので、外国へ輸出するために必要以上の穀物を人民から取り上げていたようで、今も昔も穀倉地帯のウクライナは収穫物をほとんど巻き上げられていたようである。農民たちは自分たちの食い分も取り上げられ、飢餓に苦しんでいたというもの。とんだ社会主義の実態である。人肉すら食べる有様にジョーンズは衝撃を受ける。さらに驚くべきことに、そうした事実にデュランティたちは気付いていたようであるが、モスクワで記者をやるために目を瞑っていたようである。

この映画は実話だというが、確かにベールに包まれた国で取材するには当局の逆鱗に触れるわけにはいかない。かと言って事実は報道しないと意味がない。これは現代でもあり得る葛藤。北朝鮮なんかは現在もそうかもしれない。デュランティたちの考えもわからなくもない。さらにジョーンズを殺すわけにもいかないソ連当局は、英国の技師者をスパイ容疑で捕らえて人質としてジョーンズの口を封じようとする。悩むジョーンズにアドバイスしたのがジョージ・オーウェルというエピソードも面白い。

身を賭しての記者魂。この報道ではその真実を報道する精神が勝利するが、後年、取材中にジョーンズは誘拐されて殺害されたというが、その陰にソ連の情報機関の関与があったとされる。その記者魂は素晴らしいが、ジョーンズの運命には何とも言えないものがある。それでもこういう人物がいたという事実を映画という形で知ることができるのが喜ばしい。映画の効能であると思う。隠しても結局は歴史の審判のなかでは隠しきれない。そんなことを感じさせる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年04月29日

【ヴォイス・オブ・ラブ】My Cinema File 3000

ヴォイス・オブ・ラブ.jpg

原題: Aline
2020年 フランス・カナダ
監督: バレリー・ルメルシエ
出演: 
バレリー・ルメルシエ:アリーヌ・デュー
シルバン・マルセル:ギィ=クロード
ダニエル・フィショウ:アリーヌ母
ロック・ラフォーチュン
アントワーヌ・ベジナ:ジャン=ボバン
ビクトリア・シオ:アリーヌ・デュー(歌)

<映画.com>
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世界的歌姫セリーヌ・ディオンの半生をモチーフに描いた音楽映画。1960年代、カナダ。ケベック州に暮らす音楽好きな一家の14人目の末っ子アリーヌは、5歳の時に人前で歌いはじめ、その並外れた歌唱力で町の話題を集める。やがてアリーヌは歌手を夢見るようになり、母は娘の夢をかなえるため地元の有名音楽プロデューサー、ギィ=クロードにデモテープを送る。彼の尽力で12歳にしてデビューを果たしたアリーヌは、すぐに天才少女としてもてはやされるように。しかしギィ=クロードは彼女を世界的な大歌手にするため数年間の活動停止を決め、英語の特訓やダンスの授業などに専念させる。そしてついに、世紀の歌姫への階段を駆けあがる旅が始まる。それはアリーヌとギィ=クロードにとって、真実の愛と出会う旅でもあった。映画監督としても活躍するフランスの女優バレリー・ルメルシエが監督・脚本・主演を務め、セリーヌ・ディオンの軌跡を忠実に再現した。
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「世界的歌姫セリーヌ・ディオンの半生をモチーフに描いた音楽映画」という事で興味を持って観た映画。そう言えば割と歌手の自伝ドラマは多いように思う。これまでにもエルトン・ジョン(『ロケットマン』(My Cinema File 2868))、エルヴィス・プレスリー(『エルヴィス』(My Cinema File 2731))、ロレッタ・リン(『歌え!ロレッタ愛のために』(My Cinema File 2681))、ジュディ・ガーランド(『ジュディ 虹の彼方に』(My Cinema File 2622))、クイーン(『ボヘミアン・ラプソディ』(My Cinema File 2019))とある。それだけ歌手はドラマチックに生きているということであろうか。

物語はカナダ・ケベック州の田舎町で始まる。父アングロマードと母シルヴェットのデュー夫妻は14人もの子宝に恵まれる。最後に生まれた末娘は、アリーヌと名付けられ5歳にして結婚式の余興で歌を披露する。音楽好きの一家の中でもずば抜けた歌唱力に恵まれるアリーヌ。その才能に気づいた家族は、地元の音楽プロデューサー、ギィ=クロードにデモテープを送る。今か今かと返事を待ち焦がれる家族だが、当のギィ=クロードからは何の連絡もない。しびれを切らした母親が電話するとなんとテープを聞いてすらいない。電話をするとようやくデモテープを聞いてくれるが、聞いてすぐに飛びついてくる様は愉快である。

時にアリーヌは12歳。その歌声を「ダイヤの原石」と絶賛したギィ=クロードはすぐさま、彼女をデビューさせる。レコードを制作し、テレビ番組にも売り込む。するとその歌唱力から話題になり、しまいにフランスのテレビ番組からも出演依頼がくる。母のシルヴェットは常に娘に付き添い娘の世話をする。もっと大きな舞台にという母の希望に、ギィ=クロードは世界で通用するアーティストに育てたいとして、英語を学ばせ、歯列矯正をし、ダンス教室にも通わせる。ケベック州の公用語はフランス語であり、本人はフランス語しか話せなかったのである。

課題を真面目にこなしたアリーヌは、ギィ=クロードの目論見どおり世界各国で人気を博していく。アリーヌのライブツアーは年々大規模となり、スタッフとして兄のジャン=ボバンも帯同するようになる。もちろん、母親も常にそばに付き添う。そんな中、アリーヌはいつしかギィ=クロードを1人の男性として意識するようになる。しかしギィ=クロードはアリーヌの26歳も年上で、しかも離婚歴があり子供もいるとなると親としてはいい顔はできない。しかし、恋心というものは反対されてしぼむものではない。やがてギィ=クロードもアリーヌの気持ちを受け入れる。

2人は恋人として付き合い始め、そして当然の流れとして結婚という事になる。ここに至り両親も2人の結婚を祝福する。その後もアリーヌが声帯を痛めてショーを中断する事態となり、3ヶ月もの休養をせざるを得なくなったり、さらになかなか子どもが出来ないことから不妊治療を受けたりというエピソードが続く。スタッフのフレッドはゲイのメイクアップアーティストであるが、アリーヌはフレッドに人に言えない悩みを打ち明けたりして親しくする。フレッドも家族とともにアリーヌを支える人物である。

映画は当然ながらアリーヌの歌唱シーンがふんだんに盛り込まれる。さすがに知っている曲も多い。面白いのは、映画『タイタニック』(My Cinema File 219)の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」を初めて聞いたアリーヌが、あまり好きな曲ではないと言った事。しかし、それは映画とともに世界中で大ヒットし、アカデミー賞授賞式で歌を披露する。その際、フレッドのアドバイスで衣装を変えて評判となり、2人はさらに親友というべき関係になっていく。

その歌唱シーンだが、実に本人によく似ていると思って聞いていたが、実は口パクだったと観ていて気付いた。無理もないので気にもならなかったが、実は流れていたのは本人の歌ではなく、別の歌手が代役をしていたと知って驚く。そちらの方が凄い。これまでのアーティストの映画は、エルトン・ジョンもプレスリーもクイーンのフレディ・マーキュリーも最後に悲劇的な部分があったが、この映画にはそんな影はない。長男と双子の女児に恵まれ、私生活も充実していく。それは本人が金と名声に溺れる事がなかったからなのだろうかと思ってみる。

有名なアーティストのこうした自伝的映画は、普段うかがい知れないアーティストの一面を観られて興味深い。サングラスをかけてヘッドフォンをしないと寝られなくなったり、ベガスのショーを続けなければならないストレスに、自宅に1人ではいられないとフレッドの家に泊まりに行ったりとそれなりに苦労はある。それでもラストで「私は音楽に人生を捧げた普通の女」という歌詞の歌を熱唱するアリーヌの姿にご本人の幸せを願ってしまう。こういう自伝的映画もいいなと思わせてくれる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年04月28日

【教誨師】My Cinema File 2999

教誨師.jpg

2018年 日本
監督: 佐向大
出演: 
大杉漣:佐伯
玉置玲央:高宮
烏丸せつこ:野口
五頭岳夫:進藤
小川登:小川
古舘寛治:鈴木
光石研:吉田

<映画.com>
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2018年2月に急逝した俳優・大杉漣の最後の主演作にして初プロデュース作で、6人の死刑囚と対話する教誨師の男を主人公に描いた人間ドラマ。受刑者の道徳心の育成や心の救済につとめ、彼らが改心できるよう導く教誨師。死刑囚専門の教誨師である牧師・佐伯は、独房で孤独に過ごす死刑囚にとって良き理解者であり、格好の話し相手だ。佐伯は彼らに寄り添いながらも、自分の言葉が本当に届いているのか、そして死刑囚が心安らかに死ねるよう導くのは正しいことなのか苦悩していた。そんな葛藤を通し、佐伯もまた自らの忘れたい過去と向き合うことになる。死刑囚役に光石研、烏丸せつこ、古舘寛治。「ランニング・オン・エンプティ」の佐向大が監督・脚本を手がけた。
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教誨師とは、死刑囚にキリスト教の教えや道徳を説く神父または牧師であるが、この映画はそんな教誨師を主人公としたドラマである。この映画の教誨師である佐伯保はプロテスタントの牧師。ボランティアで教誨師を始めて半年経っている。面会する死刑囚は様々。ほとんど話をしようとしない中年男・鈴木、気さくなヤクザ・吉田、お喋りな大阪のおばちゃん・野口、2児の父で気弱な男・小川、収監前はホームレスをしていて学のない老人・進藤、そして博識で挑発的なニヒリストの青年・高宮である。

死刑囚は普通の囚人と違い、労役もなく服装も自由だという。そんな実態を紹介しつつ、佐伯は彼らと向かい合う。基本的に佐伯は死刑囚たちの話を聞く。はじめはほとんど何を語りかけても反応がなかった鈴木は、佐伯が自分の兄も人を殺して捕まったことを話すとそれをきっかけに自分の話を始める。それによると、鈴木はかつて愛した女性を家族ともども殺してしまったようである。どうやらストーカー殺人らしい。

女性死刑囚の野口は、次から次へと一方的に話しまくる。元美容師だという野口は、刑務所を出たらまた美容室を始めると語る。野口の話す看守の話はどうやら嘘だとのちに判明する。野口は金銭トラブルによる殺人の罪を首謀したようだが、悪いのは共犯者たちだと言う。佐伯はそんな野口の話を時折相槌を打ちながらじっと聞いている。ヤクザの吉田は、佐伯に何か困ったら自分の組の連中を頼るように言う。今でも影響力があるかのようである。

小川は貧乏ながら、苦労して真面目に子供を育ててきたことを静かに話す。進藤は腰が低いというよりもどこかおどおどしている。元ホームレスで、字の読み書きができない。どこかで手に入れたグラビアアイドルの切り抜きを大事そうに持ち歩いている。高宮は身体障碍者を大量に殺害して死刑判決を受けている。半ばインテリで知識がある分、佐伯に倫理的な議論を吹っ掛け、佐伯の答えに一々粗探しをして佐伯が答えに窮する姿を楽しむ有様。

佐伯は純粋に死刑囚たちの言葉を信じる。ヤクザの吉田に裁判では言ってないけどもう1人殺していると告白される。「絶対に言うな」と念押しされる。そして素直にそれを誰にも言わないでいると、吉田に逆ギレされる。後で看守にそれは執行を先延ばしさせるための方便だと教えられる。そして合間に佐伯の過去が語られる。佐伯は少年時代、兄と川へ行った時、母の再婚相手とその息子が河原で魚を焼いているところに出くわす。母は佐伯兄妹を捨ててその男と再婚していたのである。そしてそこで事件が起こる。

映画はほとんどが教誨室での佐伯と死刑囚との会話で進む。そしてその年の年末、ある死刑囚の刑が執行されることになる。当然ながらそれが誰なのかは知らされない。意外にもヤクザの吉田はそれを執拗に知りたがる。表面とは裏腹に、誰もがやはり恐るのであろうか。そしてその時、恐怖に怯える死刑囚は教誨室でそれまで見せなかった醜態を晒す。犯した罪も人によっては同情の余地を感じることもある。さすがに佐伯も再審を助言するが、被害者側からすればどうだろうと思ってみる。

ほぼ佐伯と死刑囚との会話だけで進む物語。しかし、それだけでも十分映画は成り立つ。主演の大杉漣は映画のブロデュースも行ったというが、残念ながらその力作が遺作になってしまったとのこと。それが残念な一作である・・・


評価:★★☆☆☆










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2025年04月26日

【ハート・オブ・ストーン】My Cinema File 2998

ハート・オブ・ストーン.jpg

原題: Heart of Stone
2023年 アメリカ
監督: トム・ハーパー
出演: 
ガル・ギャドット:レイチェル・ストーン
ジェイミー・ドーナン:パーカー
ソフィー・オコネドー:ノマド
マティアス・シュバイクホファー:ハートのジャック
ポール・レディ:ベイリー
ジン・ルージ:ヤン
B・D・ウォン:クラブのK
アーリアー・バット:ケヤ・ダワン
アーチー・マデクウィ:アイヴォ
エンゾ・シレンティ:マルバニー

<映画.com>
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『ワンダーウーマン』「レッド・ノーティス」のガル・ギャドットが世界屈指の敏腕スパイを演じるアクションエンタテインメント。
高い身体能力と天才的な頭脳を持ち合わせるレイチェル・ストーンは、イギリスの諜報機関MI6と世界平和のために活動する秘密組織チャーターという2つの組織を掛け持ちする超一流のエージェント。ある時、彼女の仲間が謎の武装組織に殺されてしまう。組織の目的は、世界中のシステムを操作できる「ハート」と呼ばれるシステムを手に入れること。スマートフォンから航空機まで、あらゆる機械にアクセスできる「ハート」が悪用されれば、世界は多大な危機に陥る。レイチェルは組織の足取りを追うが、その中で予想を超える事態と黒幕の存在を知る。
レイチェルの同僚のエージェント、パーカー役で『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のジェレミー・ドーナン、敵組織の一員でレイチェルと「ハート」をめぐってバトルを繰り広げるケヤ役を『RRR』「ブラフマーストラ」のアーリアー・バットが演じる。監督は『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』「ワイルド・ローズ」のトム・ハーパー。Netflixで2023年8月11日から配信。
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冒頭、MI6が作戦を行う。メンバーはパーカー、ベイリー、ヤンに新人IT要員のストーン。場所はイタリア・アルプスのカジノ。兵器商人のマルバニーを拉致しようとする作戦であったが、ハッカーの妨害に遭う。作戦を強行し、パーカーはマルバニーを確保してケーブルカーに乗るが、下の駅ではマルバニーの手下が待ち受ける。IT要員のストーンは待機を命じられるが、状況から外に飛び出していく。

ストーンは、MI6の一員のはずであるが、どこか別の組織のメンバーと連絡を取り合い、パーカーのケーブルカーを追う。その様子はとてもIT要員ではなく、立派なエージェントである。通信相手の「ハートのジャック」に助けられてマルバニーの手下を始末する。パーカーは事なきを得るも、マルバニーは青酸カリで自殺してしまい、作戦は失敗に終わる。この手の映画では、冒頭のアクションの主人公の顔見せになる。

実はストーンは、国家を超越し平和を求める秘密諜報機関チャーターの一員である。チャーターはトランプのように4つの部門からなり、ストーンはそのうちの「ハート」部門に所属し、コードネームは「ハートの9」である。諜報機関にさらに秘密の諜報機関が潜入しているという構図が面白い。作戦を妨害したハッカーがインドの犯罪組織にかかわるケヤ・ダワンであると判明すると、ハート部門はダワンがリスボンにいるという情報をMI6にリークし、ストーンのチームが向かう。

しかし、現地に着いたところでチームは何者かの集団に強襲される。強敵とあってチームはピンチに陥る。ストーンはIT要員という事もあり、チームのメンバーは自らを犠牲にしてストーンを逃がそうとする。しかし、メンバーの絶体絶命の危機にストーンは自らの戦闘能力を発揮して仲間を助け、窮地を脱する。ただのIT要員のはずのストーンの突然の変貌ぶりに驚くメンバー。格闘術や運転テクニックは自分たちをも凌ぐとなれば驚くのも無理はない。当然、何者かと問われる事になる。ここに至り、やむなくストーンはチャーターの一員であることを明かす。

すると突然、チームのリーダーであったパーカーがヤンとベイリーを射殺する。驚く間もないストーンを麻痺させたうえで極小の発信機を体内に注入する。チャーターがストーンを助けてハート本部に連れ帰れば居所を含めてチャーターのセキュリティを突破して情報を得ようという作戦である。その作戦はまんまと成功し、ハート部門の指導者である「ハートのキング」と呼ばれるノマドは、仲間への愛情から危険を招いたストーンを停職とする・・・

謎の集団が狙うのは、チャーターの持つ量子コンピューター「ハート」。これによれば世界のどんなネットワークにも侵入し、自由自在に操れるというシロモノ。なんだかどこかで聞いたようなものである。これを巡ってパーカーを主とした謎の組織とストーンとの戦いが全編にわたって展開される。007シリーズをはじめとしたスパイアクションのこれもまた新しいモノだと言える。主人公が女性というのが新しいかもしれない。

ストーンを演じるのはワンダーウーマン、ガル・ギャドット。この手のスパイアクション映画は数多く創られているが、レベルの高いものはいくらあってもいいと思う。当初は敵のハッカーだったケヤ・ダワンを演じるのはインドの女優アーリアー・バット。『RRR』(My Cinema File 2722)のヒットでハリウッドの目に留まったのだろうか。いずれにせよ、美形だし今後楽しみかもしれない。今後、シリーズ化されるのかどうかわからないが、シリーズ化されるのであれば観続けたいと思わせてくれる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年04月25日

【ジョーカー フォリ・ア・ドゥ】My Cinema File 2997

ジョーカー フォリ・ア・ドゥ.jpg

原題: Joker: Folie a Deux
2024年 アメリカ
監督: トッド・フィリップス
出演: 
ホアキン・フェニックス:アーサー・フレック/ジョーカー
レディー・ガガ:リー・クインゼル
ブレンダン・グリーソン:ジャッキー・サリバン
キャサリン・キーナー:メリーアン・スチュワート
ザジー・ビーツ:ソフィー・デュモンド
リー・ギル:ゲイリー・パドルズ
ハリー・ローティー:ハービー・デント
スティーブ・クーガン:パディ・マイヤーズ
ジェイコブ・ロフランド:リッキー
ケン・レオン:ルー博士
シャロン・ワシントン:ケーン
ビル・スミトロビッチ:裁判長

<映画.com>
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孤独な大道芸人の男が、絶対的な悪へと変貌するさまを描いた『ジョーカー』の続編。前作から2年後を舞台に、悪のカリスマとして祭り上げられたジョーカーが謎めいた女性と出会う。トッド・フィリップス監督とホアキン・フェニックスが再び手を組む。『ハウス・オブ・グッチ』などのレディー・ガガのほか、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナーらがキャストに名を連ねる。
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バットマンの好敵手ジョーカーの誕生秘話という触れ込みで楽しみにして観た前作であったが、期待に反して違和感だけが残るものであった。ジョーカーと言えばどこまでも憎々しく、そして徹底した悪の存在。それがいかんなく発揮されたのが、『ダーク・ナイト』(My Cinema File 283)であった。ところが、前作でのジョーカーは社会の負け犬で、弱々しく、くたびれた中年男でまだ少年のブルース・ウェインとの年齢差もあって、疑問だらけであった。にも関わらず、続編を観てしまうのが映画ファンの性かもしれない。

初めにジョーカーのアニメが流れる。それは自分の影に翻弄されるジョーカー。ここにも圧倒的な悪の存在感を持ったジョーカーはいない。そしてところは医療刑務所に移る。そこは「ジョーカー」を名乗り、殺人事件を起こしたアーサーが収容されているところ。アーサーは看守にも「今日のジョークは何だ?」と半ばバカにされた扱いを受けている。やせ細り弱々しいその姿は、ジョーカーとして世間を騒がした男の姿とは程遠いもの。そしてそんなある日、アーサーは、そこで不思議な魅力をもつ女性に会う。

それは治療の一環としてセラピーに訪れていた一団の1人。彼女の名はリー。リーは手で自分の頭を打ち抜く動作をしてみせる。それ以来、リーはアーサーの面会に訪れるようになる。アーサーが殺人を犯したテレビショーを見て、自分と同類だと感じたようである。積極的なリーの行動は、アーサーの中の何かを目覚めさせる。アーサーはジョークを飛ばし、タバコをふかし、公表よりも殺した人数が多いと告白する。母親が数に入っていないのだと言う。そんな発言にリーは満足そうな表情を浮かべる。

リーの行動はエスカレートする。アーサーを脱獄させようと、映画鑑賞の時間にリーが火を放つ。所内はパニックになり、その隙をついてアーサーとリーは手を取って逃げ出す。結局、この試みは失敗する。懲罰房に入れられたアーサーの元を訪ねたリーは、「本当のあなたになって」とアーサーの顔にジョーカーのメイクを施す。やがてアーサーの裁判が始まる。裁判所の前にはジョーカーの恰好をしたジョーカー信者たちが大勢人だかりを作っている。

この物語の中心はアーサーの裁判。弁護士は幼い頃のトラウマからアーサーの中に別の人格・ジョーカーがいるという精神疾患を理由に無罪を主張する。裁判は、様々な証人が呼ばれ、その証言によって、アーサーの生い立ちや犯行の事実、ジョーカーの存在についてなどの主張を交えて進められていく。しかし、自分の存在を無視したかのような裁判の進行に苛立ったアーサーは何と弁護人を解任して自分自身で弁護する事を申し立てる・・・

リーは常に裁判を傍聴し、自己弁護をはじめたアーサーの姿に歓喜する。さらにアーサーは、ジョーカーメイクで法廷に現れる。法廷内はさながらジョーカーのショータイムと化す。リーもピエロのメイクを施して法廷に赴く。町中のジョーカー信者たちも熱狂していく。その一方、医療刑務所では、受刑者たちのヒーローとなる反面、看守からのひどいイジメに遭い、アーサーを慕っていた青年も看守に殺されてしまう。そうした事態に身も心も疲弊していくアーサー・・・

裁判ではヒーローのように振る舞うアーサーだが、所詮はカゴの中の鳥。そこにはやはり従来のイメージのジョーカーはいない。リーの正体は『スーサイド・スクワッド』(My Cinema File 1656)のハーレイ・クインでる。演じるのはレディ・ガガであるが、その狂気の様はイメージ通りである。そして裁判に熱狂を起こしたアーサーだが次第にトーンダウンしていく。どうもこの映画には疑問が残る。そして謎のラストシーン。解釈によっては本筋に戻す展開と言えなくもない。

映画は創り手の思いがこもったものであるから、自由でいいと思うが、一連のシリーズモノにするならその世界観は統一しておきたいところ。ラストの展開が本筋への揺り戻しだとすれば、アーサーとは一体何だったのだろうか。謎を謎のままにして終わらせるのであろうか。それとも第3弾があるのだろうか。疑問を疑問のままにされてしまうと何とも消化不良感だけが残されてしまう。複雑な後味の一作である・・・


評価:★★★☆☆










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