
2024年 日本
監督: 成島出
原作: 町田そのこ
出演:
杉咲花:三島貴瑚
志尊淳:岡田安吾
宮沢氷魚:新名主税
小野花梨:牧岡美晴
桑名桃李:少年
金子大地:村中真帆
西野七瀬:品城琴美
真飛聖:三島由紀
池谷のぶえ:藤江
余貴美子:岡田典子
倍賞美津子:村中サチエ
<映画.com>
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2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの同名ベストセラー小説を、杉咲花主演で映画化したヒューマンドラマ。
自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。
杉咲が演じる貴瑚を救おうとするアンさんこと岡田安吾を志尊淳、貴瑚の初めての恋人となる上司・新名主税を宮沢氷魚、貴瑚の親友・牧岡美晴を小野花梨、「ムシ」と呼ばれる少年を映画初出演の桑名桃李が演じる。「八日目の蝉」「銀河鉄道の父」の成島出監督がメガホンをとり、「四月は君の嘘」「ロストケア」の龍居由佳里が脚本を担当。タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。
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大分の海沿いの町に1人の女性が越してくる。そんな田舎に女性が1人となると、何か「訳アリ」かと思ってしまう。事実、長く使われていなかったらしいその家の修繕に来た地元の業者の若者は、「都会で風俗嬢をしていたという噂は本当ですか?」と訪ねて先輩に叩かれる。問われた女性貴瑚(キコ)も笑うしかない。貴瑚にとって、その家は祖母がかつて住んでいた家。祖母もまた芸者をしていて、地元の夫人たちに悪く言われていた過去がある。
1人でいる貴瑚は時折「アンさん」と心の中で語りかける。やはり過去に何かあったようである。そして港で1人の少年と出会う。髪が長く、まるで少女のような少年。そして貴瑚には腹に傷跡があり、ちょっとした拍子に激痛が走る。そして物語は、貴瑚の過去へと遡る。幼少期から母親からの虐待を受ける。さらに高校を卒業して以来、母親の再婚相手の介護に明け暮れる。再婚相手も介護という年齢だったのかよくわからないが、付きっきりの介護は若い貴瑚にとっては虐待の延長に等しい。
そして介護に明け暮れる日々を送るが、ある日義父は誤嚥を起こし、肺炎も加わり救急搬送される。この事態に母は貴瑚を罵倒する。身も心も疲弊した貴瑚は、ふらりと病院を出て街を彷徨い車に轢かれそうになる。そこに偶然通りかかったのが、高校時代の親友・牧岡美晴と彼女の同僚だった岡田安吾(アンさん)であった。事情を聞いたアンさんは、貴瑚を救うために奔走する。義父の介護施設の資料を集め、貴瑚の母の元に向かう。余計な口出しをなじる母に構わずアンは貴瑚を家から連れ出す。
貴瑚は、しばらくの間、美晴の友人である美音子とルームシェアする。美音子は貴瑚に「52ヘルツのクジラの声」を聴かせる。その声に心を落ち着かせた貴瑚は、それ以降52ヘルツのクジラの声を聴くようになる。そうした経緯から、いつしかアンに思いを寄せる貴瑚であるが、アンはそんな貴瑚の気持ちに気づきながらも貴瑚の気持ちに応えようとはしない。やがて貴瑚はある会社に就職するが、そこでその会社の跡取り息子であり、専務の新名主税(にいなちから)に見初められる。
物語はそんな貴瑚の過去と現在の物語とを描いていく。港で出会った少年もまた実の母親から虐待を受けている。自らの体験もあり少年に寄り添う貴瑚。それにしても、子供を持つ親として、どうして虐待なんかできるのだろうかと思ってしまう。フィクションであるのはわかっていても虐待を受ける2人の子供の様子に心が痛む。タイトルにある“52ヘルツのクジラ”とは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴くクジラのこと。世界に1頭だけしかいない52ヘルツのクジラの声は誰にも届かないとされる。虐待を受ける子供たちを52ヘルツのクジラにたとえたストーリーは胸を打つものがある。
貴瑚と少年がその後、どんな人生を歩んでいくのか。その幸せを心から願いたくなる映画である・・・
評価:★★★☆☆