2025年03月09日

【十一人の賊軍】My Cinema File 2981

十一人の賊軍.jpg
 
2024年 日本
監督: 白石和彌
出演: 
山田孝之:政
仲野太賀:鷲尾兵士郎
尾上右近:赤丹
鞘師里保:なつ
佐久本宝:ノロ
千原せいじ:引導
岡山天音:おろしや
松浦祐也:三途
一ノ瀬颯:二枚目
小柳亮太:辻斬
本山力:爺っつぁん
野村周平:入江数馬
音尾琢真:仙石善右エ門
玉木宏:山縣狂介
阿部サダヲ:溝口内匠
ゆりやんレトリィバァ:村娘

<シネマトゥデイ>
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『日本侠客伝』『仁義なき戦い』シリーズなどを手掛けた脚本家・笠原和夫のプロットを原案に描くアクション時代劇。江戸幕府から明治政府へと政権が移り変わろうとしていた戊辰戦争の最中、新発田藩(現・新潟県新発田市)で起きた抗争を映し出す。監督を手掛けるのは『碁盤斬り』などの白石和彌。『ステップ』などの山田孝之、『泣く子はいねぇが』などの仲野太賀が主演を務める。
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幕末、戊辰戦争が始まった頃の新潟、新発田藩。主人公となる政は妻・さだが藩士に手ごめにされたと知って激怒し、相手の隙をついて襲い、刺殺する。政は捕えられて死罪を宣告され磔にされる。処刑を待つ間、花火師の息子で知的障害のあるノロは、磔にされた政を見て兄だと勘違いし彼を助けようとするが失敗し、ともに牢獄へ入れられてしまう。

その頃、新発田藩の上層部では官軍につくか、奥羽越列藩同盟につくかの選択を迫られている。若殿・溝口直正はまだ若く、家老の溝口内匠はどちらにつくかの判断に迷う。その迷いは奥羽越列藩同盟側にも伝わり、同盟軍の色部長門と斉藤主計は軍を引き連れて城に居座り、藩主に目通りを求めて圧力をかけてくる。

しかし、この時点で藩主は官軍につく事を宣言しており、ギリギリまで態度を曖昧にしたい溝口は同盟軍に藩主は病気だと偽って時間稼ぎをする。斎藤たちには同盟軍のために兵を出すと言いつつ、その裏では官軍の山縣狂介に同盟軍が城から出て行ったら新発田藩は無血開城して官軍に協力すると二股外交を試みる。

溝口は忠義に厚い鷲尾兵士郎に藩境の重要な砦を官軍から守る任務を与える。同盟軍が城から出ていくまでの間、官軍を食い止めるのである。鷲尾は死刑囚を決死隊として連れていく事になる。死刑囚たちには、同盟軍が出て行ったら狼煙が上がるので、それまで持ち堪えたら無罪放免にするという餌を与える。

兵士郎と入江数馬が率いる決死隊は10人。政もその1人に選ばれる。砦には同盟の旗を掲げ、官軍には同盟が行く手を阻んでいるように見せかける。そこへ水本正虎と弟の正鷹率いる官軍先遣隊が到着する。両者の間にあるのは吊り橋のみ。まともに戦えば勝ち目はないが、吊り橋が官軍の進軍を妨げる。そして溝口の企みを知らない兵士郎は、官軍が攻めてきたと思い込んで戦いの合図を出す・・・

戊辰戦争で、官軍と奥羽越列藩同盟との間で揺れる小藩である新発田藩。どうやって生き残るか、幕僚たちは苦悩する。あらかじめ勝ち馬がわかっていれば問題ないが、下手に負け馬に加担すれば藩が崩壊する。そんなトップと最前線では死刑囚たちが命をかけて藩境の砦を死守する様子が描かれる。決死隊内も疑心暗鬼があり、一枚岩とは言えない。藩の利益よりも自分の利益が優先される。

この時期のこの地域については、奥羽列藩同盟から描いた映画『峠 最後のサムライ』(My Cinema File 2898)が記憶に新しい。勝ち馬に乗ろうとどっちつかずの態度を取り、せこい時間稼ぎをする新発田藩の様子は、『峠 最後のサムライ』(My Cinema File 2898)の長岡藩から比べると武士らしくない。されど力の弱い小藩にとっては、やむを得ない対応なのかもしれない。

映画の内容はほとんどフィクションなのだろうが、面白おかしく決死隊の様子を描いていく。大義のためよりも自分のためにやむなく戦う罪人たちだが、互いに命をかけて戦ううちに違う感情が芽生えてくる。大義も立場によって微妙に異なる。罪人たちにも家族がいて守るものがある。物語は史実はともかくとして、あつい戦いを繰り返す。この時代、理不尽を嘆いても仕方がなかったのかもしれない。

激動の時代だから、人間の熱い思いが溢れるのかもしれない。両サイドから観るという事で、『峠 最後のサムライ』(My Cinema File 2898)と併せて観るのもいいかもしれない映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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2024年05月11日

【荒野の誓い】My Cinema File 2855

荒野の誓い.jpeg

原題: Hostiles
2017年 アメリカ
監督: スコット・クーパー
出演: 
クリスチャン・ベイル:ジョー・ブロッカー大尉
ロザムンド・パイク:ロザリー・クウェイド
ウェス・ステューディ:イエロー・ホーク首長
ジェシー・プレモンス:ルディ・キダー中尉
アダム・ビーチ:ブラック・ホーク
ロリー・コクレイン:トーマス・メッツ曹長
ベン・フォスター:チャールズ・ウィルス軍曹
ティモシー・シャラメ:フィリップ・デジャルダン上等兵
ポール・アンダーソン:トミー・トーマス伍長
ジョン・ベンジャミン・ヒッキー:ロイス・トーラン大尉
スティーヴン・ラング:エイブラハム・ビッグス大佐
ビル・キャンプ:ジェレマイア・ウィルクス

<シネマトゥデイ>
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19世紀末のアメリカを舞台に、かつて戦った先住民の首長たちを護送する騎兵大尉を描いたウエスタンノワール。『バイス』などのクリスチャン・ベイルが主人公にふんし、『ゴーン・ガール』などのロザムンド・パイク、『君の名前で僕を呼んで』などのティモシー・シャラメらが共演。『ファーナス/訣別の朝』でもベイルと組んだスコット・クーパーがメガホンを取り、『スポットライト 世紀のスクープ』などのマサノブ・タカヤナギが撮影を務めた。
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時に1892年。アメリカ西部にあるニューメキシコ州。人里離れたとある一軒の家で夫婦と3人の子どもたちが暮らしている。そこへ現れた数人の男たち。夫は慌てて妻に子供を連れて逃げるようにと伝える。あらかじめ打ち合わせていたのであろう、妻ロザリーは、子供たちを連れて裏山へと逃げる。襲ってきたのはコマンチ・インディアン。夫は射殺され、子供2人も逃げる途中で撃たれる。流れ弾はロザリーが抱いていた赤ん坊にも命中する。かろうじて山奥に逃げ込んだロザリーだけが生き延びる・・・

一方その頃、同じニューメキシコ州の刑務所で、看守を務める騎兵隊大尉ジョーが上官であるビックス大佐に呼び出される。そして、囚人のシャイアン族の首長イエロー・ホークを釈放し、故郷まで護送する任務を命じられる。イエロー・ホークは末期癌に冒されており、故郷に帰る事を望んでいるのである。ところがこれにジョーは反発する。かつてインディアンと戦い仲間を大勢殺された過去があり、感情的にとてもそんな任務を遂行したくない。しかし、それは大統領令であり、命令を拒否すれば軍法会議にかけられることになり、退役後の年金受給もなくなる。ジョーはやむなく従うことにする。

こうしてジョーはわずかな部下を率いて、余命僅かなイエロー・ホークとその家族をシャイアン族の聖地モンタナにある“熊の峡谷”に送り届けるべく出発する。部下は親友でもあるトーマス曹長、忠実なウッドソン伍長、キダー中尉、そして新人上等兵デシャルダンである。出発して刑務所が見えなくなると、ジョーは改めてイエロー・ホークらに手錠と足枷をする。それは感情的なしこりがあるのと、インディアンに対する警戒心であろう。そして一行は、黒焦げとなった家を発見する。

そこは冒頭でコマンチ族に襲われたロザリーの家。夫の死体は家の前に転がり、2人の娘の遺体は焼けたベッドに寝かされている。そしてそのそばで息絶えた赤子を抱いて呆然自失しているロザリー。ジョーたちは遺体を埋葬し、彼女を近くの町まで送り届けることにする。イエロー・ホークとその息子ブラック・ホークは、コマンチ族の襲撃を予想して、手錠と足枷を外してくれるように頼むが、ジョーはこれを拒否する。

そして、イエロー・ホークの言葉通り、ロザリーの家族を殺したコマンチ族が襲ってくる。ジョーたちも応戦するが、経験の浅いデジャルダンは射殺され、ウッドソンも重傷を負う。しかし、イエロー・ホークとブラック・ホークも不自由ながらも戦ってコマンチ族を追い払う。最初こそ同じインディアンということでイエロー・ホーク一家を警戒していたロザリーだが、この出来事とブラック・ホークの妻エルク・ウーマンから服をもらうなどもあり、次第に心を開いていく・・・

西部劇では、荒野を旅するというのが1つのパターン。 犯罪者を運んだ『3時10分、決断の時』(My Cinema File 678)、狂人の女3人を運んだ『ミッション・ワイルド』(My Cinema File 1934)。そして本作ではかつて戦ったインディアンの一家。冒頭で種族が違うが、インディアンにロザリーが無残にも一家惨殺されるシーンがでてくるし、ジョーのセリフからもかつてインディアンと殺しあった事が語られる。そんな憎しみをも運ぶ道中である。

主人公のジョーを演じるのはクリスチャン・ベール。西部劇は『3時10分、決断の時』(My Cinema File 678)では印象深い役柄であったが、本作でもまた然り。インディアンと戦い、その過程では仲間も殺され、そして自らもインディアンを残酷に殺してきた。そんな経験を経て、インディアンに対しては憎しみしか持っていないジョー大尉。嫌々ながら任務に就く。そして長い旅路の道中で、イエロー・ホーク一家に接していくうちに考え方が変わっていく。特に途中の町で知り合いの保安官から囚人の護送を頼まれる。それはあるインディアンを惨殺した罪に問われた男。インディアンを連れているジョーに悪びれることなく憎しみを表す。観ている方もジョーの嫌悪感が伝わってくる。

かつて西部劇と言えば、インディアンは残酷な野蛮人として描かれていた。それは白人に取って身を守るためには銃を取って撃ち殺さなければならない存在。そのイメージをひっくり返したのは『ダンス・ウィズ・ウルブス』(My Cinema File70)だろう。そこで、インディアンこそ侵略を受けた被害者なのだという真実が浮かび上がった。この映画でもコマンチ族の残酷な振る舞いが描かれるが、一方でシャイアン族の一家との触れ合いによってジョーの心から憎しみが消えていく。そしてインディアンを激しく憎む白人たちが登場して、ジョーの心が決定的に変わる。

かつての「インディアン=悪」という図式は、もう西部劇では描かれないだろう。それもまた時代の流れであるのだろう。そしてそれは健全な流れである。ラストは無情観溢れるものであるが、しかしかつてインディアンを憎んでいたジョーと、恐れていたロザリーの変化が静かに心に響いてくる。西部劇と言えば銃撃戦であるが、この映画では銃撃戦に心躍るものはない。それは無用な殺し合いでしかない。動き出した列車を遠巻きに見ているうちに急に思い立ち、その列車に飛び乗ったジョー。その行く末を想像してみると、心が温かくなる映画である・・・


評価:★★★☆☆










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2023年05月03日

【HOKUSAI】My Cinema File 2684

HOKUSAI.jpeg
 
2020年 日本
監督: 橋本一
出演: 
柳楽優弥:葛飾北斎(青年期)
田中泯:葛飾北斎(老年期)
阿部寛:蔦屋重三郎
永山瑛太:柳亭種彦
玉木宏:喜多川歌麿
瀧本美織:コト
青木崇高:高井鴻山

<映画.com>
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「富嶽三十六景」など生涯を通して3万点以上の作品を描き残したといわれる江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の知られざる生涯を、柳楽優弥と田中泯の主演で映画化。町人文化が華やぐ江戸の町の片隅で、食うこともままならない生活を送っていた貧乏絵師の勝川春朗。後の葛飾北斎となるこの男の才能を見いだしたのが、喜多川歌麿、東洲斎写楽を世に出した希代の版元・蔦屋重三郎だった。重三郎の後押しにより、その才能を開花させた北斎は、彼独自の革新的な絵を次々と生み出し、一躍、当代随一の人気絵師となる。その奇想天外な世界観は江戸中を席巻し、町人文化を押し上げることとなるが、次第に幕府の反感を招くこととなってしまう。青年期の北斎を柳楽、老年期の北斎を田中が演じ、重三郎役を阿部寛、人気戯作者・柳亭種彦役を永山瑛太、歌麿役を玉木宏がそれぞれ演じる。監督は「探偵はBARにいる」シリーズ、「相棒」シリーズの橋本一。
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葛飾北斎と言えば、江戸時代の浮世絵画家。これまでにも映画やドラマでいろいろと取り上げられている。正直、目新しさはないものの、主演が柳楽優弥となると、個人的にそれだけで観てみたいと思わせてくれる。そんな興味から鑑賞に至った作品。

太平の世となった江戸には独自の町人文化が開花していく。美人画や歌舞伎役者を描いた浮世絵、戯作と呼ばれる通俗小説などが庶民のささやかな娯楽としてこの時期大きな発展をみせる。一方、その自由な時流によって徳川の威信が揺らぐことを恐れた幕府は、世の中を堕落させる原因として、これらの娯楽に対する弾圧を始める。そんな江戸の下町の長屋で物語は始まる。

若き北斎は、はじめは勝川春章に師事し、春朗の名で絵師をしていたが、「書きたいものを書く」という強烈な主張は師匠の逆鱗に触れ、破門されてしまう。画の腕は確かだが、己を曲げないスタンスは、どうしても人と対立してしまう。こんな役柄は柳楽優弥の当たり役と言える。そして映画は4つの章に分かれて進む。「壱の章」は、版元となる書店“蔦屋耕書堂”の主蔦屋重三郎との関わり。

その蔦屋耕書堂に与力を引連れた役人が押し入ってくる。“御用改め”としてだが、与力たちは店内の浮世絵や読物本は踏みつけ、客を外へ追い払い、抵抗する使用人を容赦なく暴行する。それを黙って座って見ているしかない重三郎。最後は売り物を店先で燃やされてしまう。落胆する使用人に重三郎は「ありがたい」と言う。なぜなら、お上が取り締まるのは、見せしめ効果を狙いトップとなる店が標的になる。それだけ耕書堂が版元として頭1つ出ているという証をもらったようなものだとする考え方は素晴らしい。

重三郎は吉原の遊郭の一室を歌麿に住居兼工房として当てがっている。歌麿は女郎をモデルに絵を描き、それを重三郎が引き取って売っているのである。さらに歌麿はほかの置屋の麻雪という花魁の噂を聞き、気になるという。「連れてこい」と暗示しているわけであるが、いいご身分である。この麻雪からかつてモデルになったことがある行儀知らずの絵師の話を聞く。この絵師が北斎であり、重三郎は使用人からその絵を見せてもらう・・・

「弐の章」は、壮年となった北斎の話。いまや弟子を取り、貧しい身なりながら絵師として身を立てている。滝沢馬琴の読物に挿絵を描いているが、たびたび内容と違う絵を描き、馬琴ともめている。年を取っても「書きたいものだけを書く」スタイルは変わらない。ことという女性と所帯を持ち、ことは北斎の勝手気ままな仕事ぶりを献身的に支えている。そして北斎は版元の山崎屋で柳亭種彦と運命的な出会いをする。相変わらず幕府の取締はきつく、歌麿も禁制の絵を描き、牢に入れられる・・・

「参の章」はさらに数十年後の老年の北斎を描く。演じるのは柳楽優弥から田中泯へと変わる。すでに妻のことは亡く、娘のお栄が家のことや北斎の世話を焼いている。柳亭種彦との交流は続いている。種彦の身分は高屋彦四郎という武士で、その身分を隠して戯作者をしている。種彦は御用改めの1人として、永井五右衛門の下で働く武士。本職は娯楽を取り締まる立場だが、その裏で娯楽を手がけているわけである。そんなある日、北斎は卒中をおこして倒れてしまう。

「四の章」では、種彦は五右衛門に呼び出され、『偐紫田舎源氏』の作者に心当たりがないかと尋問される。種彦は組織の中で生きることと、職務に反する創作との間に苦悩する。そしてある日、種彦は再び五右衛門から柳亭種彦を家に居候させているのなら追い出すよう命令される。五右衛門も既に気づいており、五右衛門ならではの配慮であるが、種彦は意を決する。そして北斎は『生首図』を描き上げる。

当時としては、異例の長生きをした北斎。柳楽優弥と2人で演じるのも無理はない。北斎そのものよりも、版元の重三郎や柳亭種彦といった人物の物語にも目が行ってしまう。当時の幕府の取締下で必死に好きなものを追及していた文化人たちの様子が興味深い。時代感覚が違うとは言え、はるかに娯楽に恵まれた現代社会を見たら、当時の人たちは何と思うだろうかと想像してみる。

葛飾北斎の映画でありながら、それにとどまらず、江戸の文化と社会の様子を興味深く見られる映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2022年09月23日

【燃えよ剣】My Cinema File 2598

燃えよ剣.jpeg
 
2021年 日本
監督: 原田眞人
原作: 司馬遼太郎
出演: 
岡田准一:土方歳三
柴咲コウ:お雪
鈴木亮平:近藤勇
山田涼介:沖田総司
尾上右近:松平容保
山田裕貴:一橋慶喜
たかお鷹:井上源三郎
坂東巳之助:孝明帝
伊藤英明:芹沢鴨

<映画.com>
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新選組副長・土方歳三の生涯を描き、過去に映画化、ドラマ化もされてきた司馬遼太郎の歴史小説を、『関ヶ原』の原田眞人監督&岡田准一主演の再タッグで新たに映画化。江戸時代末期。黒船の来航により、外国から日本を守るため幕府の権力を回復させようとする佐幕派と、天皇を中心にした新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった。武州多摩の農家に生まれた土方歳三は「武士になりたい」という思いで、近藤勇、沖田総司ら同志とともに京都へ向かう。芹沢鴨を局長に、徳川幕府の後ろ盾で新選組を結成し、土方は「鬼の副長」と恐れられながら、討幕派の制圧のため京都の町で活躍を見せるが……。土方歳三役の岡田のほか、土方と生涯愛を貫くお雪役を柴咲コウ、近藤勇役を鈴木亮平、沖田総司役を山田涼介、芹沢鴨役を伊藤英明がそれぞれ演じる。
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1860年、桜田門外で井伊直弼が暗殺されて以降、幕府の威信は失墜し京の治安は急激に悪化する。そんな中、天然理心流を掲げる道場「試衛館」に在籍する田舎百姓の土方歳三は、同郷の近藤勇や沖田総司、井上源三郎と共に武士となることを夢見て近隣の水争いなどで木刀を振り回している。やがて近藤勇が結婚によって天然理心流の正式な後継者となり、試衛館は江戸に道場を開く。そこには山南敬介や藤堂平助など実力者が集うようになる。

その頃、京の都の治安維持のため、一橋慶喜は会津藩主の松平容保を京都守護職に任命し、治安回復を命じる。藩内では反対意見が続出したものの、立場上断ることはできず、さらに不逞浪士を自身の兵を用いて殺害することも出来ず、松平容保は困り果てる。そこで全国から腕に自信のある者を身分を問わず集め京の守護に当てることにする。道場の経営難に陥っていた近藤は、多額の報酬と名を挙げるチャンスに食い付き、土方の反対を押し切り「浪士組」への参加を決定する。

浪士組は発起人の清河八郎が尊王攘夷の思想のために私物化を試みており、早々にその発想を見切った土方は近藤に浪士組に参加していた芹沢鴨へと接近させる。芹沢は会津藩との強い繋がりを持っており、土方は彼を足がかりとして「壬生浪士組」を発足すると、長州藩の浪士を筆頭とした倒幕派の浪士の殺害を決行。こうした活躍によって京の治安は回復し、新人隊士が次々と壬生浪士組へと参加し始める。

人数が増えればそれなりの統率や規律が必要となってくる。そこで土方は「局中法度」を設定し、厳格に運用する。何せ腕自慢で集まった隊士たちであり、その行動はしばし道を外れる。破った隊士に切腹を命じる土方。その姿勢には批判が集まるも、土方は隊長である近藤の代わりに恨まれ役を率先して引き受けようという意図があり、意に解さない。しかし、京の治安が戻る一方で、酒乱かつ荒々しい性格の芹沢の行動は苛烈化し、商人に対する強引な金銭の要求や女性に対する性的暴行が繰り返され、隊の評判が悪化する。

これに対し、松平容保に呼び出された土方は、隊に対する後援の約束と引き換えに芹沢の始末を命じられる。芹沢は剣客でもあり、暗殺は容易ではない。そこで土方は沖田、井上、斎藤一を連れて夜半に芹沢の家に押し入り、芸妓と同衾中の芹沢を襲撃してこれを惨殺する。その頃から、隊は新しい士道を選ぶ組織として「新選組」を名乗り始め、土方は副局長を務める。一方、夫を長州藩の藩士に殺害された未亡人の雪と知り合い、仲を深めていく・・・

原作は、司馬遼太郎の歴史小説。江戸郊外で武士の真似事をしていた土方歳三を主人公に、新選組の活動を描いていく。平和な世の中であれば、農民で終わったはずの人物が、歴史の表舞台に躍り出る。激動の時代ならではであるが、こういう時代はこうした埋もれるはずの人物の活躍が出やすいとも言える。有名な新選組であるが、その活動期間はわずか6年であったと言う。それをフィクションが混じっているとは言え、こうした映画で改めて知ることができるというのもいいものである。

映画は歴史を追って進んでいく。長州藩の浪人が集まっているらしいという情報を得て捜索にあたる新選組。二組に分かれて近藤が率いるグループが「池田屋」に向かう。30人近くいる相手に対し、近藤以下10人で果敢に侵入する。室内での斬り合いはなかなかの迫力。その結果、27人の尊王攘夷派の浪士を殺害し、企てていた計画を阻止することに成功する。

しかし、歴史の動きは止められない。池田屋事件で新選組は注目を集めるようになるが、新たなメンバーが入る一方、既存メンバーとの間で意見がすれ違い、山南が「局中法度」違反として切腹させられる。近藤の暗殺計画が起こり、土方は伊東と藤堂を含めた御陵衛士を暗殺する。そんな中、1867年になり徳川慶喜は大政奉還を行い将軍職を辞する。そして「鳥羽・伏見の戦い」が始まり、「戊辰戦争」へと繋がっていく。「鳥羽・伏見の戦い」では、慶喜が指導力を発揮して増援を送り込んでいたら戦況はどうなっていたか。歴史のifを思わずにはいられない。

そして物語は箱館の五稜郭で終わる。史実はともかくとして、純粋にエンターテイメンとして面白い。新選組はいろいろな角度から小説や映画に採り上げられている。お気に入りは、なんと言っても『壬生義士伝』であるが、この映画もなかなか面白かったと言える一作である・・・


評価:★★☆☆☆









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2022年07月18日

【隠し砦の三悪人】My Cinema File 2569

隠し砦の三悪人.jpeg
 
1958年 日本
監督: 黒澤明
出演: 
三船敏郎:真壁六郎太
千秋実:太平
藤原釜足:又七
上原美佐:雪姫
藤田進:田所兵衛
樋口年子:娘
志村喬長:倉和泉
三好栄子:老女

<映画.com>
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黒澤監督初のシネスコープ作品。戦国時代、敗軍の大将真壁六郎太が、世継ぎの雪姫と隠し置いた黄金200貫とともに敵陣を突破し、同盟軍の陣内へ逃亡するまでの脱出劇。難関につぐ難関、次々と襲い来る絶体絶命の危機を間一髪で切り抜けるアイデアの数々は、黒澤ほか三人の脚本家により練り上げられたもの。また、六郎太一行に付き添う狂言回しのごとき百姓コンビが、後に『スターウォーズ』の『C-3PO』、『R2-D2』の原案になった逸話はあまりにも有名。スリルとサスペンスとユーモアにあふれた、痛快娯楽時代劇の傑作巨編。
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以前、リメイク版である『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』( My Cinema File 440)を観た時、本家の黒澤明版を観てみたいと思っていたが、だいぶ月日を経てようやく実現に至るもの。

時は戦国時代。秋月と山名との2つの大名家の戦いは、秋月が敗れ終わりを告げる。一花咲かせようと故郷を捨てて戦に参加していた百姓の太平と又七は、当てもなく寂れた地をさまよっている。そこへ、1人の落ち武者を追って騎馬隊がやってくる。目の前で落ち武者が殺されるのを見て、太平と又七は故郷に帰ることにする。ところが、間もなく2人は山名に捕らえられ、埋蔵金掘りに従事させられる。そして捕虜の男たちによる暴動が起こり、その混乱に乗じて太平と又七は逃げ出すことに成功する。

又七は、目にしたお触れについて太平に話す。秋月の世継ぎである雪姫を見つけ出せば報奨金がもらえるというもの。金にがめつい2人にとっては魅力的な話だが、2人ではどうしようもない。故郷に帰ろうにも、国境には関所が設置されており、帰ることもできない。途方に暮れた2人が、食事のために火をおこそうとしたところ、太平が薪の中から金の延べ棒を発見する。延べ棒には秋月の紋所が刻印されている。たちまち喧嘩を始める2人だが、そのとき屈強な男がいることに気付く。

男は金の延べ棒のことを知っており、太平と又七を連れてある場所へ行く。そこは秋月領の隠し砦。男の名は真壁六郎太。秋月の侍大将で、金の延べ棒は実は秋月家の復興資金。それを薪に隠し、なんとか同盟の早川領へと持ち込もうと画策していたのである。そしてそこに姿を現した1人の女性。それこそが六郎太とともに逃げ延びた秋月家の雪姫である。そして、太平と又七は、金の延べ棒と雪姫とを連れて早川領へ落ちのびる手助けを六郎太から頼まれる。

こうして、4人は早川領を目指すが、秋月から隣国早川への国境は山名による厳重な警戒下にある。そこで警備の薄い山名へ一旦入り、そこから早川へと向かうルートを取ることにする。それは太平と又七が思いつきで言ったものであるが、理に適うものであり、六郎太に採用される。金の延べ棒は合計200貫。半端な量ではない。さらに非力な女性も連れて行かないといけない。物語は、4人による早川領への逃走劇となる。

全編を通して太平と又七の凸凹コンビが活躍(右往左往?)する。のちに『スターウォーズ』の『C-3PO』、『R2-D2』の原案になったと言われる2人のコンビが物語のスパイスであることは間違いない。常に喧嘩していて、お互いに欲深く短絡的。危機に陥ると仲良くなるが、平時では喧嘩ばかり。主役ではないはずなのに一番出番が多く、常に物語をリードしている。そういう意味では「主役」なのかもしれないが、この2人の存在感は大きい。

そして中心になるのが、秋月家の侍大将真壁六郎太。その忠臣振りは、捕まれば打ち首の雪姫の身代わりに妹を捕らえさせるところにも現れている。妹を犠牲にしても主君を守る姿は武将の鏡なのだろう。関所では策を講じて通過する。さらに途中で山名の騎馬隊に見つかると、これを斬り倒す。さらに逃げた騎馬隊を追い、山名の陣地へ入り込んでしまうと、そこにいたかつての好敵手、田所兵衛と槍で一騎打ちをする。そして田所の槍を折った真壁は、その場を去る。

次から次へと襲いくる苦難。それを臨機応変でかわしていく。逃げる4人(途中で秋月の女が加わり5人となる)とそれを追う山名。まさに息もつかせぬ展開である。こうして本家を観てみると、リメイク版である『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』( My Cinema File 440)がいかにチャチなものかがわかる。それなりに制作したのだと思うが、本家の迫力には残念ながら及ばない。改めて、黒澤作品の違いがわかるというものである。

折に触れ、まだ観ていない作品も一度観た作品も、もう一度観てみたいと思わされる黒澤映画である・・・


評価:★★★☆☆







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